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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02P
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02P
管理番号 1354081
異議申立番号 異議2017-700636  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2019-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6048595号発明「発電装置の自立運転方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6048595号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6048595号の請求項1及び3に係る特許を維持する。 特許第6048595号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6048595号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年7月27日(優先権主張平成26年7月28日)を国際出願日とする出願であって、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許(以下、「本件特許」という。)について、平成29年6月21日に特許異議申立人青木一幸により特許異議の申立てがされ、平成29年9月29日付けで取消理由が通知され、平成29年11月30日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年2月23日に訂正拒絶理由が通知され、平成30年3月30日に意見書の提出がされ、平成30年6月29日付けで取消理由通知書(決定の予告)が通知され、平成30年9月3日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年12月27日付けで特許異議申立人に訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたが指定期間内に特許異議申立人の応答はなく、平成31年3月27日付けで取消理由が通知され、令和元年5月31日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
令和元年5月31日付け訂正請求書の請求(以下、同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第6048595号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「エネルギー源に連結された永久磁石発電機」と記載されているのを、「水車に連結された永久磁石発電機」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の6行目に「前記発電装置の自立運転時に、」と記載されているのを「前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の7行目に「第1の変換器は直流リンク部の電圧を一定に制御し、」を追加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の8行目に「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い、」を追加する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記エネルギー源の効率特性曲線による」と記載されているのを、「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「定格速度」と記載されているのを、「における軸入力が最大となる定格速度」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に「最高速度」と記載されているのを、「無拘束速度」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の訂正前の請求項2に従属していた請求項3を、訂正後の請求項1に従属させる。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項3の1行目に記載されていた「前記エネルギー源を水車とし、」を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0024】に「図5(3)で、負荷の追加投入指令が出されて遮断器CB2がオンになると、水車速度は投入された負荷量に応じて更に回転数は低下し、n_(m-2)の回転数で運転される。負荷量の投入可能範囲は、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲で行われる。」と記載されているのを、「図5(3)で、負荷の追加投入指令が出されて遮断器CB2がオンになると、水車速度は投入された負荷量に応じて更に回転数は低下し、n_(m-2)の回転数で運転される。永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲で自立運転が行われる。」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の段落の段落【0025】に「なお、自立運転時における水車1の回転速度は定格速度n_(0)以上でなければならない。理由としては定格速度n_(0)以下で運転すると、過負荷により回転速度が低下してしまい最終的に停止してしまうからである。」と記載されているのを、「なお、自立運転時における水車1の回転速度は定格速度n_(0)以上でなければならない。理由としては定格速度n_(0)未満で運転すると、過負荷により回転速度が低下してしまい最終的に停止してしまうからである。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1では、永久磁石発電機に連結された駆動源を訂正前の「エネルギー源」から「水車」としており、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、発明特定事項を「エネルギー源」から「水車」に限定して減縮するものであって、カテゴリーや対象(「発電装置の自立運転方法」)、目的(【0010】「従来必要であった自立運転のための装置を付加することなく風力や水車効率特性を利用した発電装置の自立運転方法を提供すること」)を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0002】には、「発電装置として永久磁石発電機を用い、そのエネルギー源として風車や水車を用いた」、及び「1は水車、2はフライホイール、3は永久磁石発電機で、これらは軸受け4を介して連結されている」と記載されているので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2では、「発電装置の自立運転時」を「発電装置に負荷が接続された自立運転時」に限定しており、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、発明特定事項を「前記発電装置の自立運転時に、」から「前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、」に限定して減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0023】には、「図5(2)では上位の制御部40から遮断器CB1に対し、発電所構内の負荷投入指令が出されて自立運転が開始される。」と記載されているので、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正事項3では、発電装置の制御方法の発明特定事項に「第1の変換器は直流リンク部の電圧を一定に制御し、」が含まれるものにしており、発明特定事項を直列的に付加するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項3は、訂正前の請求項1の効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転することを特徴とした発電装置の自立運転方法の発明に対して、自立運転に必要な「第1の変換器は直流リンク部の電圧を一定に制御」を発明特定事項として、直列的に追加して、自立運転方法を具体的に記載したものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0023】には、「第1の変換器(インバータ)11が直流リンク部の電圧を一定に制御(AVR)する」と記載されているので、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正事項4では、発電装置の制御方法の発明特定事項に「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い、」が含まれるものにしており、発明特定事項を直列的に付加するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項4は、訂正前の請求項1の効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転することを特徴とした発電装置の自立運転方法の発明に対して、自立運転に必要な「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い」を発明特定事項として、直列的に追加して、自立運転方法を具体的に記載したものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した特許請求の範囲の請求項2には、「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行う」と記載されているので、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項5、6
ア 訂正事項5、6は「前記エネルギー源の効率特性曲線による」を「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線」に訂正するとともに、「定格速度」を「水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度」に訂正して「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度」としたものである。
訂正事項5、6は「定格速度」を「入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる」定格速度と特定して、明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項5、6は、請求項1の「定格速度」を「入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる」定格速度と特定して明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0018】には、「図2は、水車の効率特性曲線(以下Cp特性曲線という)を示したものである。」と記載されている。また、図2には、縦軸に軸入力、横軸に回転数をとり、水車の入口弁の開度毎の効率物陛曲線A?Dが示され、段落【0006】には、「図8は縦軸に永久磁石発電機の軸入力、横軸に回転数を採ったもの」と記載され、明細書の段落【0019】には、「自立運転時には図3で示すように例えば線Aの開度100%のCp特性曲線を使用し、」と記載されているので、「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線」は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の事項である。
さらに、明細書の段落【0022】に「なお、図3で四角枠内の数字は、図4?6の図番号と対応させている。」と記載されており、図3には、図5、図6と対応する点が効率特性曲線上に示されている。また、明細書の段落【0023】に「回転数はCp特性曲線に沿って減少して最高回転数n_(m)から負荷に見合ったn_(m-1)の回転数で運転される。」と記載されている。また、明細書の段落【0026】に「回転数はCp特性曲線に沿って上昇する。」と記載されている。
このように、図3、段落【0022】、【0023】、【0026】には、回転速度はCp特性曲線に沿って変化すること、すなわち、本件特許の明細書、図面には、回転速度の変化に伴い軸入力も変化することが示されている。
図2、図3において、f_(0)から引き出された点線とn_(0)から引き出された点線の交点が線Aと交わっていることから、図2、図3のn_(0)、f_(0)は、線A(弁開度100%)における値を示しているのは明らかである。
また、図2,図3には、線Aにおいて、軸入力(縦軸)が最大となる曲線の頂点から縦軸に点線が引き出されており、その箇所にf_(0)と記載されているから、軸入力の最大値が定格容量f_(0)であることは明確である。線Aの定格容量f_(0)の箇所から横軸に点線が引き出され、その箇所にn_(0)と示されているから、定格速度n_(0)が定格容量f_(0)(軸入力最大)のときの回転速度であることは明確である。そうすると、定格容量f_(0)が軸入力最大値を表し、定格速度n_(0)が軸入力最大のときの回転速度を表していることとなる。
よって、「水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度」は願書に添付した明細書または図面から導き出せる構成である。
以上より、訂正事項5、6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(6)訂正事項7
ア 訂正事項7は「最高速度」を「無拘束速度」に訂正したものである。
「無拘束速度」は、乙第1号証「電気工学ハンドブック、電気学会、第6版、P1045、P1048」に「3.4.2無拘束速度 ある落差、あるガイドべーン開度において水車を無負荷運転させたとき、回転速度は無制限に上昇せず一定の速度に落ち着く。この速度を無拘束速度といい」と記載され、乙第5号証「水力機械、草間秀俊、株式会社コロナ社、P198?p199」、乙第7号証「JIS ハンドブック ポンプ、P25、623 無拘束速度」にも無拘束速度は無負荷状態のときの最高回転速度であることが記載されており、無負荷状態のときの最高回転速度であることが明確な用語である。
さらに、明細書の段落【0022】には、「図5(1)では、入口弁1aの開度100%で水車は無拘束速度となり、・・・運転準備完了となる。この運転準備完了時点では無負荷状態であることから、水車速度は図3で示す最高回転数n_(m)で回転している。」と記載されており、本件明細書においても、無拘束速度は無負荷状態における最高速度である趣旨で使用されており、訂正後の「無拘束速度」で特定される事項は明確である。
そうすると、訂正事項7は、不明瞭な記載であった「最高速度」を明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項7は、請求項1記載の「最高速度」を、意味の明確な「無拘束速度」に訂正し明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 上記(5)訂正事項5において、特許請求の範囲の請求項1の効率特性曲線は「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線」と特定されている。
これをふまえると、「無拘束速度」は、「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における」「無拘束速度」を意味する。
明細書の段落【0019】に「図3に示すように、例えば、線Aの開度100%のCp特性曲線を使用し、」と、【0022】の「水車速度は図3で示す最高回転数n_(0)で回転している」と記載されていることから、図2、図3のn_(m)は効率特性曲線A(入口弁1aの開度100%)の最高回転数を示していることが明らかである。
そして、明細書の段落【0022】には、「図5(1)では、入口弁1aの開度100%で水車は無拘束速度となり、・・・運転準備完了となる。この運転準備完了時点では無負荷状態であることから、水車速度は図3で示す最高回転数n_(m)で回転している。」と記載されているので、最高回転数n_(m)は、永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における無拘束速度であることも明らかである。
そうすると、図2、図3のn_(m)は永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における無拘束速度であって、明細書に無拘束速度は記載されている。
以上より、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(7)訂正事項8
ア 訂正事項8は訂正前の請求項2を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 訂正事項8は、請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項8は、訂正前の請求項2を削除したものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(8)訂正事項9
ア 訂正事項9は、訂正前の請求項2に従属していた請求項3を、訂正事項4で訂正前の請求項2の発明特定事項を請求項1に組み込んだことにともなって、請求項1に従属させたものである。
訂正後の請求項1は、訂正事項1?7の特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正がなされたものであり、かつ、訂正事項4で「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行」うという発明特定事項(訂正前の請求項2の発明特定事項)を組み込んだものであるので、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項8で訂正前の請求項2を削除したことにともなって、請求項1に従属させたものであって、訂正後の請求項1に係る訂正事項1?7がカテゴリーや対象、目的を変更するものではないのと同様に、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項9は、訂正事項8で訂正前の請求項2を削除したことにともなって、請求項1に従属させたものであって、訂正後の請求項1に係る訂正事項1?7が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(9)訂正事項10
ア 訂正事項10は、訂正事項1で訂正前の「エネルギー源」を「水車」と限定したことに対応して、請求項1を引用すると記載が重複して不明瞭になる「前記エネルギー源を水車とし、」を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項10は、訂正事項1において請求項1の「エネルギー源」を「水車」と訂正したため、請求項1に従属する請求項3において重複する記載を削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項10は、訂正事項1で訂正前の「エネルギー源」を「水車」と限定したことに対応して、請求項1を引用すると記載が重複して不明瞭になる「前記エネルギー源を水車とし、」を削除したものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条め5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(10)訂正事項11
ア 訂正事項11は、訂正前の請求項4を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 訂正事項11は、請求項4を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項11は、訂正前の請求項4を削除したものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(11)訂正事項12
ア 訂正事項12は、訂正事項2で自立運転時を「発電装置に負荷が接続された自立運転時」に限定したのにともなって、訂正前の明細書の段落【0024】に係る「負荷量の投入可能範囲は、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲内で行われる。」を「永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲内で自立運転が行われる。」に訂正したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項12は、訂正事項2で自立運転時を「発電機に負荷が接続された」状態に限定したのにともなって、明細書を訂正したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0019】には、「永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して自立運転を行うもので、・・・且つ定格速度n_(0)以上の範囲を可変速範囲として使用する。」と記載されているので、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(12)訂正事項13
ア 訂正事項13は、訂正前の明細書の段落【0025】に係る「定格速度n_(0)以下」を、段落【0019】の「且つ定格速度n_(0)以上の範囲を可変速範囲として使用する。」と整合させるために「定格速度n_(0)未満」に訂正したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項13は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書の段落【0019】には、「本発明は、系統連系できない場合、永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して自立運転を行うもので、・・・且つ定格速度n_(0)以上の範囲を可変速範囲として使用する。」と記載され、自立運転時に定格速度n_(0)以上で運転する旨が記載されているため、過負荷により回転速度が低下して停止するのは「定格速度n_(0)未満で運転」する場合となる。
以上より、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

3.独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項1?4について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1?4に係る訂正事項1?13に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4.一群の請求項
特許請求の範囲の請求項1?4は、120条の5第4項に規定する「一群の請求項」を構成している。
本件訂正請求は、一群の請求項1?4に対して請求されたものである。

5.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認める。

第3.本件特許についての当審の判断
1.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、請求項2、4は、訂正により削除された。

請求項1
「水車に連結された永久磁石発電機と、
順・逆変換機能を有する第1、第2の変換器と、
第1、第2の変換器間の直流リンク部に接続された平滑コンデンサと、
第1、第2の変換器に対して制御指令を出力する制御部と、を備えた発電装置の自立運転方法であって、
前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、
第1の変換器は直流リンク部の電圧を一定に制御し、
発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い、
永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度から無拘束速度の速度範囲で、効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転することを特徴とした発電装置の自立運転方法。」

請求項3
「自立運転時における前記制御部による運転準備指令の出力時に水車の入口弁に開度指令を出力し、前記第1の変換器をコンバータ機能として運転し、
前記直流リンク部の電圧確立時に前記第2の変換器をインバータ機能として運転し、運転準備完了時に負荷を接続することを特徴とした請求項1記載の発電装置の自立運転方法。」

2.取消理由の概要
2-1.訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が平成31年3月27日付けで通知した取消理由通知書の要旨は、次のとおりである。
「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い」とあるから、自立運転時に、負荷が離脱すると、負荷がなくなり、発電機が出力できなくなって、自立運転ができなくなるが、この場合何故自立運転できるのか不明(【0023】では、負荷投入指令が出されて自立運転が開始している。)である。

(2)請求項3に「前記エネルギー源を水車」とあるが、「前記エネルギー源」に対応する記載がないため構成が特定できず不明である。」

2-2.訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が平成30年6月29日付けで通知した取消理由通知書(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
「3.判断
(1-1)請求項1に「前記エネルギー源の効率特性曲線による定格速度から最高速度の速度範囲で、効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転する」と記載されて、定格速度から最高速度の速度範囲で速度を変えることになるが、「定格」は、例えば特開2009-132187号公報(甲第1号証)【0020】に「定格とは、各モータ・ジェネレータの使用限度であり、この定格には、電圧・回転数・通電時の周波数などが含まれる。」と、「JISハンドブック16ポンプ2002」日本規格協会(甲第4号証)第25ページに「622 定格回転速度 指定された回転速度」と記載されている様に、種々の物理的な定義があり、本件発明1の「定格速度」を、その文言自体から特定できるものでなく、さらに、特許明細書には「定格速度」が、【0006】【0011】【0015】【0018】【0019】【0021】【0024】【0025】【0028】で用いられるのみであり、いずれにも「定格速度」を定義する記載はない。
そうすると、請求項1記載の「定格速度」の定義が不明であり、「定格速度から最高速度の速度範囲」で特定される範囲が不明確である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(1-2)また、「最高速度」についても、その速度を文言自体から特定できるものではなく、さらに、特許明細書には「最高速度」が、【0011】【0022】【0023】【0024】で用いられるのみであり、いずれにも「最高速度」を定義する記載はない。
そうすると、請求項1記載の「最高速度」の定義が不明であり、「定格速度から最高速度の速度範囲」で特定される範囲が不明確である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(1-3)特許明細書によると、本件発明1は、「ダミー抵抗装置や電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置などの単独運転用の機器を別途用意することなく、自立制御が可能となる」(【0015】)ものであるが、請求項1には「前記エネルギー源の効率特性曲線による定格速度から最高速度の速度範囲で、効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転する」との記載はあるが、永久磁石発電機によって発電される電力と、それを消費する負荷との関係は記載されていない。
発電電力はどこかで消費されなければならないが、発電電力を「ダミー抵抗装置や電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置などの単独運転用の機器を別途用意することなく」どの様に処理出来るのか不明であるので、どの様にすれば自立運転ができるのか不明である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(1-4)発明の詳細な説明には、「定格速度」、「最高速度」について、定義がないので、「定格速度から最高速度の速度範囲」を特定することが出来ず、如何なる速度範囲になるように永久磁石発電機を制御して発電装置を運転すればよいのか不明であり、当業者が本件発明1の実施をすることができない。

(2)請求項1に「エネルギー源に連結された永久磁石発電機」と記載されているが、連結されるエネルギー源の種類は特定されていないので、図2の効率特性曲線を有した水車に限らず、風車や内燃機関等でもよいこととなる。
しかし、風車や内燃機関は、無負荷状態で過回転させると破損し、正常な運転ができないものであるので、どの様にすれば自立運転ができるのか不明である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(3)図2、3の記載において、x軸、y軸の交点の座標が記載されていないので、最高速度n_(m)における軸入力の値が不明であり、最高速度において、軸入力が0とならない場合、負荷が存在しない限り、回転数は最高速度n_(m)を越えて上昇するものと考えられるが、回転機器は過回転させると破損し、正常な自立運転ができないものであるので、どの様にすれば自立運転ができるのか不明である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(4)請求項1を引用する請求項2に「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行うことを特徴とする請求項1記載の発電装置の自立運転方法。」と記載されているので、本件発明1の「自立運転」は、負荷が存在しなくとも良いものとなる。
また、【0015】の記載からダミー抵抗装置や電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置もなくて良いものとなる。
そうすると、請求項1記載の「効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転」には、「エネルギー源に連結された永久磁石発電機と、順・逆変換機能を有する第1、第2の変換器と、第1、第2の変換器間の直流リンク部に接続された平滑コンデンサと、第1、第2の変換器に対して制御指令を出力する制御部」があれば、負荷、ダミー抵抗装置、電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置がなくても、実現されるものも包含されることとなる。

一方、特許明細書には、上記「エネルギー源に連結された永久磁石発電機と、順・逆変換機能を有する第1、第2の変換器と、第1、第2の変換器間の直流リンク部に接続された平滑コンデンサと、第1、第2の変換器に対して制御指令を出力する制御部」のうちの制御対象である第1、第2の変換器に対する制御指令に関して、効率特性曲線に沿って発電装置を運転する為の具体的な制御指令は記載されておらず、「効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転」が、負荷、ダミー抵抗装置、電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置がなくても、「第1、第2の変換器」に対して「制御指令を出力する」だけで行える理由も記載されていない。

そうすると、第1、第2の変換器に対して単なる制御指令を出力するだけで、負荷、ダミー抵抗装置、電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置なしに、どのように効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転出来るのかは、発明の詳細な説明を参照しても不明であるので、請求項1記載の構成だけで、「効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転する」構成が不明であり、請求項1の記載は不明確である。

(5)【0019】に「本発明は、系統連系できない場合、永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して自立運転を行うもので、自立運転時には図3で示すように例えば線Aの開度100%のCp特性曲線を使用し、且つ定格速度n_(0)以上の範囲を可変速範囲として使用する。」と記載されているが、請求項1の「自立運転」は、負荷が存在しなくとも良いものとなっており、本件発明1における「自立運転」の定義(特に、負荷に電力供給を行うことを前提とするものであるか否か。)が不明である。
また、本件発明1は、【0024】の「負荷量の投入可能範囲は、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲内で行われる。」の定格速度n_(0)の時に、さらに負荷投入した場合、回転数がさらに低下してしまい自立運転を行うことが出来ないものであるので、請求項1の記載で特定された「自立運転方法」が不明である。
したがって、請求項1の記載は不明確である。

(6)請求項1を引用する請求項2?4で特定される、本件発明2?4についても、上記(1)?(5)と同様である。」「そうすると、本件特許は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明が上記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、及び同法第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。」

3.当審の判断
3-1.平成31年3月27日付けの取消理由
(1)取消理由1
請求項1は「発電装置に負荷が接続された自立運転時」と訂正されたので、自立運転時に負荷がなくなることはなくなった。

(2)取消理由2
請求項3に「前記エネルギー源を水車」は、訂正により削除されたので、明瞭でない記載はなくなった。

3-2.平成30年6月29日付けの取消理由(決定の予告)
(1)取消理由1-1、1-2、1-4
請求項1において、「定格速度」は「入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度」に訂正されたので、「定格速度」は「入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる」定格速度と特定された。
「入口弁開度100%の効率特性曲線」は、明細書の段落【0019】には、「自立運転時には図3で示すように例えば線Aの開度100%のCp特性曲線を使用し、」と記載され、図3に図示されたものであり、その意味は明確である。
また、「軸入力が最大となる定格速度」は、図2,図3に、線Aにおいて、軸入力(縦軸)が最大となる曲線の頂点から縦軸に点線が引き出されており、その箇所にf_(0)と記載されているから、軸入力の最大値が定格容量f_(0)であることは明確である。線Aの定格容量f_(0)の箇所から横軸に点線が引き出され、その箇所にn_(0)と示されているから、定格速度n_(0)が定格容量f_(0)(軸入力最大)のときの回転速度であることから明確である。
そうすると、「入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度」で特定される事項は明確である。

「最高速度」は「無拘束速度」に訂正された。
「無拘束速度」は、乙第1号証「電気工学ハンドブック、電気学会、第6版、P1045、P1048」に「3.4.2無拘束速度 ある落差、あるガイドべーン開度において水車を無負荷運転させたとき、回転速度は無制限に上昇せず一定の速度に落ち着く。この速度を無拘束速度といい」と記載され、乙第5号証「水力機械、草間秀俊、株式会社コロナ社、P198?p199」、乙第7号証「JIS ハンドブック ポンプ、P25、623 無拘束速度」にも無拘束速度は無負荷状態のときの最高回転速度であることが記載されており、無負荷状態のときの最高回転速度であることが明確な用語である。
さらに、明細書の段落【0022】には、「図5(1)では、入口弁1aの開度100%で水車は無拘束速度となり、・・・運転準備完了となる。この運転準備完了時点では無負荷状態であることから、水車速度は図3で示す最高回転数n_(m)で回転している。」と記載されており、本件明細書においても、無拘束速度は無負荷状態における最高速度である趣旨で使用されており、「無拘束速度」で特定される事項は明確である。

そうすると、「口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度から無拘束速度の速度範囲」で特定される範囲は明確である。

(2)取消理由1-3
請求項1において「前記発電装置の自立運転時に、」は、「前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、」に訂正されたことにより、自立運転が発電装置に負荷が接続された状態で行われることが明確になり、永久磁石発電機によって発電される電力が負荷で消費されることが明確である。

(3)取消理由2
請求項1において、「エネルギー源に連結された永久磁石発電機」は「水車に連結された永久磁石発電機」に訂正された。
「水車に連結された永久磁石発電機」は、エネルギー源が水車と特定され、無負荷状態で無拘束速度となるものであるから、無負荷状態で破損しないので、自立運転ができる条件が明確になった。

(4)取消理由3
請求項1において、「エネルギー源に連結された永久磁石発電機」は「水車に連結された永久磁石発電機」に、「前記エネルギー源の効率特性曲線」は「永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する入口弁開度100%の効率特性曲線」に、「最高速度」は「無拘束速度」に訂正された。
特許明細書の段落【0022】に「図5(1)では、入口弁1aの開度100%で水車は無拘束速度となり、・・・運転準備完了となる。この運転準備完了時点では無負荷状態であることから、水車速度は図3で示す最高回転数n_(m)で回転している。」とあって、水車は、無拘束速度n_(m)を越えて回転速度が上昇しないから、正常な自立運転ができるものである。

(5)取消理由4
請求項1において、「発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い」を追加する訂正がされたので、本件発明1の自立運転時には、負荷が接続されることとなり、永久磁石発電機によって発電する電力と負荷で消費される電力が等しくなり、永久磁石発電機を運転できることが明確となった。

(6)取消理由5
請求項1の「前記発電装置の自立運転時に、」を「前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、」にする訂正がされた。
そして、「前記発電装置に負荷が接続された自立運転時」は、負荷が接続されたものであることが明確である。
また、上記訂正により、請求項1の「自立運転」は、負荷に電力供給を行うものとなり、【0019】の「本発明は、系統連系できない場合、永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して自立運転を行う」と対応したものとなった。

3-3.小括
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件訂正により、平成31年3月27日付けで通知した取消理由通知書、平成30年6月29日付けで通知した取消理由通知書(決定の予告)指摘の不備が解消した。

4.むすび
平成31年3月27日付けの取消理由、平成30年6月29日付けの取消理由(決定の予告)、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人青木一幸による特許異議の申立てについて、請求項2及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発電装置の自立運転方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置の自立運転方法に係わり、特に永久磁石発電機を用いた発電装置による自立運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中小の発電装置として永久磁石発電機を用い、そのエネルギー源として風車や水車を用いた発電装置が注目されている。図7は永久磁石発電機を用いた水車発電装置の単結線図を示したもので、この水車発電装置は連系変圧器5を介して電力系統6に連系される。図7で、1は水車、2はフライホイール、3は永久磁石発電機で、これらは軸受け4を介して連結されている。
【0003】
10はコンバータ盤を示し、このコンバータ盤には第1の変換器(インバータ)11、第2の変換器(コンバータ)12、回生制動用のブレーキ回路13、平滑コンデンサ14、フィルタ部15、電磁開閉器16,17および遮断器18などの各部品が装備されている。20は発電機盤を示し、電力系統6との連系制御を行う遮断器21を有している。30はダミー抵抗装置を示し、抵抗値の異なる複数の抵抗33がそれぞれ遮断器31、電磁開閉器32を介して接続されている。
【0004】
40は上位の制御部を示し、この制御部40はエンコーダにより検出された永久磁石発電機3の回転信号をコンバータ盤10を介して入力する。また、コンバータ盤10に対しては速度指令を出力し、水車の入口弁1aに対して開度指令を出力し、ダミー抵抗装置30に対しては投入指令を出力するなどの制御指令を発する。なお、図1に示すような永久磁石発電機を用いた発電装置は、例えば、特許文献1などによって公知となっている。
【0005】
図7に示す発電装置を電力系統6に連系する場合、発電機盤20から連系・運転指令を出力することで遮断器21が投入され、次いでコンバータ盤10において遮断器18、電磁開閉器17を投入することで電力系統6からの交流は、コンバータ12により直流に変換されて平滑コンデンサ14を充電する。平滑コンデンサ14が初期充電されて運転準備が完了した時点で電磁開閉器16に対する投入指令を出力する。また、制御部40はインバータ11に対し速度指令、力率指令を出力してインバータ11を動作させ、永久磁石発電機3を図8で示す点線を付した連系運転範囲で制御する。
【0006】
図8は縦軸に永久磁石発電機の軸入力、横軸に回転数を採ったもので、定格容量f_(0)としたとき、定格速度n_(0)を中心としたその前後n_(1),n_(2)が永久磁石発電機の運転範囲となって連系運転されている。
【0007】
連系運転中に、系統連系に異常が発生した場合、コンバータ12の運転を中止し、回生制御用のブレーキ回路13のスイッチング素子19をオンすることで回生用抵抗19’に電流を流してエネルギーを消費する。
【0008】
中小規模の発電装置を電力系統に連系運用する場合、連系先である電力系統に何等かの異常が発生したときには系統連系ができない場合が生じる。風力発電の場合には十分な風量があり、また、水力発電の場合には十分な水量があり、両者とも発電可能なエネルギーが十分あっても、自立運転機能が備わっていない場合には連系する発電装置も停止せざるを得ない。勿論、発電装置にダミー抵抗装置や、電動サーボらよる高速ガイドベーン制御装置を別途付加すれば自立運転は可能となるが、その際は、固有の運転機能を追加する必要があり、設置場所やコスト面で不利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4003414
【発明の概要】
【0010】
本発明が目的とするところは、従来必要であった自立運転のための装置を付加することなく風力や水車効率特性を利用した発電装置の自立運転方法を提供することにある。
【0011】
本発明は、エネルギー源に連結された永久磁石発電機と、順・逆変換機能を有する第1、第2の変換器と、第1、第2の変換器間の直流リンク部に接続された平滑コンデンサと、第1、第2の変換器に対して制御指令を出力する制御部と、を備えた発電装置の自立運転方法であって、前記発電装置の自立運転時に、前記エネルギー源の効率特性曲線による定格速度から最高速度の速度範囲で、効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転することを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行うことを特徴とする。
【0013】
また、その一態様として、前記エネルギー源を水車とし、自立運転時における前記制御部による運転準備指令の出力時に水車の入口弁に開度指令を出力し、前記第1の変換器をコンバータ機能として運転し、前記直流リンク部の電圧確立時に前記第2の変換器をインバータ機能として運転し、運転準備完了時に負荷を接続することを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、水車の入口弁開度に応じた前記効率特性曲線を用いることを特徴とする。
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、発電装置が電力系統から解列した場合でも、効率特性曲線の定格速度以上の速度範囲で、負荷に見合ったエネルギーバランスで発電装置を自立運転するものである。これによって、発電装置が系統連系できないときでも、ダミー抵抗装置や電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置などの単独運転用の機器を別途用意することなく、自立制御が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態を示す発電装置の電力系統への連系状態図。
【図2】説明のための発電装置の自立運転範囲図。
【図3】自立運転時の状態説明図。
【図4】自立運転時の運転手順概要図。
【図5】自立運転時の運転手順概要図。
【図6】自立運転時の運転手順概要図。
【図7】従来の発電装置の電力系統への連系状態図。
【図8】永久磁石発電機の電力系統連系時の運転範囲図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本実施形態1における発電装置を示す概略図である。従来の発電装置を示す図7とは、ダミーロード装置を省略している点が異なっている。その他の点は図7と同様であるため説明を省略する。
【0018】
図2は、水車の効率特性曲線(以下Cp特性曲線という)を示したものである。永久磁石発電機の定格容量f_(0)、定格速度n_(0)としたとき、水車1の入口弁1aの開度に応じて軸入力が線D?線Aへと上昇し、系統連系時には定格速度n_(0)付近で運転されている。
【0019】
本発明は、系統連系できない場合、永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して自立運転を行うもので、自立運転時には図3で示すように例えば線Aの開度100%のCp特性曲線を使用し、且つ定格速度n_(0)以上の範囲を可変速範囲として使用する。以下、図4?6に基づいて自立運転方法について説明する。なお、図4?6では動作状態となった部品に対し斜線を付して表示する。
【0020】
図4(1)?図6(3)が、図1の発電装置による自立運転時の運転手順を示す概要である。図4(1)において、発電装置の初期状態時にコンバータ盤10に直流の制御電源を接続する。この時点では水車1の入口弁1aは閉じられた状態となっている。図4(2)で、上位の制御部40から入口弁1aに対する開度指令と電磁開閉器16の投入、及び第1の変換器(インバータ)11の運転準備指令が出力される。これにより水車1は回転を開始して永久磁石発電機3は発電を開始し電圧を発生する。また、第1の変換器(インバータ)11により平滑コンデンサ14への初期充電が開始される。
【0021】
図4(3)では、更に入口弁1aの開度が進行することで流量が増加し、水車1は無拘束速度(定格速度n_(0)以上)へ加速される。これに伴い平滑コンデンサ14への充電も進み直流リンク部の電圧が確立した時点で電磁開閉器17、遮断器18が投入さる。
【0022】
図5(1)では、入口弁1aの開度100%で水車は無拘束速度となり、第2の変換器(コンバータ)12に対して出力電圧の設定、出力周波数の設定を行い、この第2の変換器12をインバータ動作である自動電圧・自動周波数制御機能にすることで運転準備完了となる。この運転準備完了時点では無負荷状態であることから、水車速度は図3で示す最高回転数n_(m)で回転している。なお、図3で四角枠内の数字は、図4?6の図番号と対応させている。
【0023】
図5(2)では上位の制御部40から遮断器CB1に対し、発電所構内の負荷投入指令が出されて自立運転が開始される。負荷が投入されると負荷電流が流れ、直流リンク部の電圧が低下するが、第1の変換器(インバータ)11が直流リンク部の電圧を一定に制御(AVR)することで、不足するエネルギーは回転体である水車1-フライホイール2-永久磁石発電機3の回転エネルギーで補充され、永久磁石発電機3および水車速度が減速する。これにより、回転数はCp特性曲線に沿って減少して最高回転数n_(m)から負荷に見合ったn_(m-1)の回転数で運転される。
【0024】
図5(3)で、負荷の追加投入指令が出されて遮断器CB2がオンになると、水車速度は投入された負荷量に応じて更に回転数は低下し、n_(m-2)の回転数で運転される。永久磁石発電機の定格容量よりも小さい負荷容量に対して、定格速度n_(0)から最高速度n_(m)の速度範囲内で自立運転が行われる。
【0025】
なお、自立運転時における水車1の回転速度は定格速度n_(0)以上でなければならない。理由としては定格速度n_(0)未満で運転すると、過負荷により回転速度が低下してしまい最終的に停止してしまうからである。
【0026】
次に、図6に基づいて発電装置の停止手順を説明する。回転速度n_(m-2)で負荷の一部を開放する場合には、図6(1)で示すように遮断器CB2をオフにすることで回転数はCp特性曲線に沿って上昇する。そして、n_(m-1)の回転数で負荷と発電量のエネルギーバランスが成立して回転速度の上昇がとまり、n_(m-1)の回転速度で運転が継続される。
【0027】
更に、全部の負荷を開放する図6(2)の状態では無負荷状態となってn_(m)の回転数となる。図6(3)で第2の変換器12に対し停止命令が出力されて運転を停止する。その後、発電装置の停止命令が出されて第1の変換器11も停止し、水車の入口弁1aに対して減速指令が出されて入口弁1aは全閉となり水車は停止する。
【0028】
以上本発明によれば、発電装置が電力系統から解列した場合でも、Cp特性曲線の定格速度以上の速度範囲で、負荷に見合ったエネルギーバランスが成立する速度で運転することにより発電装置を自立運転するものである。これによって、発電装置が系統連系できないとき、ダミー抵抗装置や電動サーボによる高速ガイドベーン制御装置などの単独運転用の機器を別途用意することなく、連系運転用の機器でソフト的に自立機能を持たせるだけで自立運転制御が可能となるものである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水車に連結された永久磁石発電機と、
順・逆変換機能を有する第1、第2の変換器と、
第1、第2の変換器間の直流リンク部に接続された平滑コンデンサと、
第1、第2の変換器に対して制御指令を出力する制御部と、を備えた発電装置の自立運転方法であって、
前記発電装置に負荷が接続された自立運転時に、
第1の変換器は直流リンク部の電圧を一定に制御し、
発電装置に接続された負荷の接続・離脱を行い、
永久磁石発電機の軸入力と回転速度に関する水車の入口弁開度100%の効率特性曲線における軸入力が最大となる定格速度から無拘束速度の速度範囲で、効率特性曲線に沿って前記発電装置を運転することを特徴とした発電装置の自立運転方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
自立運転時における前記制御部による運転準備指令の出力時に水車の入口弁に開度指令を出力し、前記第1の変換器をコンバータ機能として運転し、
前記直流リンク部の電圧確立時に前記第2の変換器をインバータ機能として運転し、運転準備完了時に負荷を接続することを特徴とした請求項1記載の発電装置の自立運転方法。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-28 
出願番号 特願2015-555319(P2015-555319)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H02P)
P 1 651・ 537- YAA (H02P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 柿崎 拓
中川 真一
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6048595号(P6048595)
権利者 株式会社明電舎
発明の名称 発電装置の自立運転方法  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  
代理人 太田 友幸  
代理人 太田 友幸  
代理人 鵜澤 英久  
代理人 小林 博通  
代理人 鵜澤 英久  
代理人 富岡 潔  

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