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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 一部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1354084 |
異議申立番号 | 異議2018-700039 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-01-18 |
確定日 | 2019-07-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6165323号発明「アルツハイマー病の治療剤を含む、神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の治療剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6165323号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6165323号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6165323号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成27年4月21日に出願され、平成29年6月30日にその特許権の設定登録がされ、平成29年7月19日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成30年1月18日 : 特許異議申立人 冨田純一による請求項1? 12に係る特許に対する特許異議の申立て 平成30年4月5日付け : 取消理由通知書 平成30年6月7日 : 特許権者による意見書の提出 平成30年7月6日付け : 取消理由通知書(決定の予告) 平成30年9月7日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求平成30年10月24日 : 特許異議申立人による意見書の提出 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。」 と記載されているのを、 「ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、ナッツ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、及び魚油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。」 に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「少なくともジオスゲニンを含有する請求項1記載の剤。」 と記載されているのを、 「ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 少なくともジオスゲニンを含有し、 油脂が、大豆油、ゴマ油及びオリーブ油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。」 に訂正する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、 「神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防剤又は治療剤である、請求項1又は2に記載の剤。」 と記載されているのを、 「ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、クルミ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、及び乳脂から選ばれる1種以上であり、 神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防剤又は治療剤である、経口投与剤。」 に訂正する。 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-12〕に対して請求されたものである。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1において、用いる油脂の種類を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項1によって特定されることとなる油脂の種類は、本願明細書の段落【0033】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてするものである。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2において、請求項1の記載を引用しないものとし独立形式の請求項に改めるとともに、用いる油脂の種類を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 さらに、訂正事項2によって特定されることとなる油脂の種類は、本願明細書の段落【0033】に記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項3において、請求項1又は2の記載を引用しないものとし独立形式の請求項に改めるとともに、用いる油脂の種類を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 さらも、訂正事項3によって特定されることとなる油脂の種類は、本願明細書の段落【0033】に記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてするものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?12に係る発明(以下「本件訂正発明1」、・・・「本件訂正発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、これらをまとめて「本件訂正発明」ということもある。)。 「【請求項1】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、ナッツ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、及び魚油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。 【請求項2】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 少なくともジオスゲニンを含有し、 油脂が、大豆油、ゴマ油及びオリーブ油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。 【請求項3】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、クルミ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、及び乳脂から選ばれる1種以上であり、 神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防剤又は治療剤である、経口投与剤。 【請求項4】 神経細胞の軸索が機能不全となっていることが要因の疾患が、アルツハイマー病である、請求項3に記載の剤。 【請求項5】 神経細胞の軸索が機能不全となっていることが要因の疾患が、脊髄損傷である、請求項3に記載の剤。 【請求項6】 神経細胞の軸索の伸展剤である、請求項1?5のいずれか1項に記載の剤。 【請求項7】 変性した神経細胞の軸索の修復剤である、請求項1?6のいずれか1項に記載の剤。 【請求項8】 記憶増進剤又は記憶力低下の抑制剤である、請求項1?7のいずれか1項に記載の剤。 【請求項9】 軸索の機能不全が関与する疾患の治療又は予防に有用であることが知られている1以上の化合物、又はその薬学的に許容されている塩が併用される、請求項1?8のいずれか1項に記載の剤。 【請求項10】 剤形が、液剤、懸濁剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ゼリー剤、口腔内崩壊錠、及びチュワブル錠からなる群から選ばれる1種以上である請求項1?9に記載の剤。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか1項に記載の剤を含有する飲食品であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための飲食品。 【請求項12】 健康機能食品である請求項11記載の飲食品。」 4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、当審が平成30年7月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1?12に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 イ 請求項1?12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)当審の判断 ア 特許法第36条第4項第1号について 特許法36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。また、明細書の記載が実施可能要件を満たすといえるためには、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができることを要するというべきである。 (ア-1)発明の詳細な説明の記載 (a) 「【0006】 以上述べたように、現在、AD患者に臨床で使用されている薬剤では、ADの発症もしくは進行を予防もしくは遅らすことはできても、認知機能の改善には至らない。すなわち、現在のADの治療は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤に代表される症状改善剤による対症療法に限られており、病気自体を改善する根本療法剤は開発されていない。ADの根本療法剤の創出には、神経機能不全の要因を制御する方法の開発が必要である。さらにはその新しいメカニズムに適合する化合物の提供が真に求められている。 【0007】 非特許文献15及び非特許文献16には、ジオスゲニンをマウスに腹腔内投与することにより、正常マウス又はADモデルマウスにおいて記憶力の亢進が観察されたことが報告されている。また、非特許文献15及び非特許文献16には、記憶力の亢進は、軸索の進展によるものであることも報告されている。この文献から、ジオスゲニンはADの根本療法に有効であることが期待される。しかしながら、この文献においては、ジオスゲニンの効果を確認するための試験は全て腹腔内投与で行っているが、腹腔内投与は、例えばヒトを対象とした場合、臨床において実用的な投与方法ではない。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上記の状況に鑑み、本発明は、臨床において実用化可能なADの根本療法に用いる薬剤を創出することを主な課題とする。また、本発明は、AD根本治療における作用メカニズムを応用し、軸索の機能不全が関与するAD以外の神経疾患の治療剤の提供についても重要課題とする。さらに、これ以外の課題については、本明細書本文中から明らかとなる。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、予想外にも、ジオスゲニンを水系溶媒(有機溶媒と水の混合液)に溶解させた溶液を経口投与する方法では、ジオスゲニンの記憶亢進効果が得られない一方、ジオスゲニンを油脂に懸濁させた懸濁液を経口投与することで、有効に記憶亢進効果が得られる(特に、腹腔内投与に比べて、低用量で有効に記憶亢進効果が得られる)という、本発明に特有の顕著にして有用な新知見を得た。さらに検討を進め、ジオスゲニンだけでなく、ジオスゲニン誘導体化合物についても同様に、油脂に懸濁させて経口投与することで、顕著な記憶亢進効果が得られるという本願に特有の有用な新知見を得て、さらに試験を重ね、本発明を完成させるに至った。」 (b)「【0032】 本発明の経口投与剤中のジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物(以降、ジオスゲニン等とも略称する。)は、油脂に懸濁されていることが好ましい。ジオスゲニン等を油脂に懸濁させることで、予想外にも、経口投与によって投与したジオスゲニン等の顕著に高い薬効が得られることを、本発明者らは本発明の検討中に発見した。 なお、本発明において「油脂」は、経口投与される際に液体の状態である必要はなく、液体、半固体、又は固体等の状態であってよい。また、本発明における油脂は、食用油、及び医薬品において溶剤、賦形剤、乳化剤等で用いられる油脂、並びに油状の医薬品を包含する。 また、本発明において、ジオスゲニン等を油脂に溶解させた溶液を用いてもよい。 【0033】 本発明に用いることができる食用油としては、本発明の効果を失しない限り、特に限定されないが、例えば、大豆油、菜種油(ナタネ油、カノラ油)、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、太白ゴマ油、シソ油、亜麻仁油(アマニ油)、落花生油、紅花油(サフラワー油)、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、ナッツ油、クルミ油、カボチャ種子油、クルミ油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油;牛脂、豚脂(ラード)、鶏脂、乳脂、魚油(例えば、鰯油、鯖油、鱈油、鯨油、肝油等)等の動物油、脂肪酸類(ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等)、脂溶性ビタミン類(ビタミンA、ビタミンE等)等が挙げられ、医薬品において用いられる油脂としては、上記食用油に加えて、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ヨード化ケシ脂肪酸エステル等が挙げられる。これらを単独で、または2種以上を組み合わせて用いもよい。」 (c)「【0077】 <供試動物> (1)正常マウス ddYマウスは、日本SLC(浜松、日本)から得た。本実施例においては、正常マウスとして、雄性かつ6週齢のddYマウスを用いた。全てのマ ウスは、餌と水を自由に摂取させ、22±2℃、50±5%の湿度、午前7 時から始まる12時間の明暗サイクルで制御された環境で飼育した。 (2)ADモデルマウス トランスジェニックマウス(5XFAD)はADの動物モデルと考えられ ており、ジャクソン研究所(バーハーバー(Bar Harbor)、メイン州、米国)から入手した。5XFADマウスは、ニューロン特異的マウスThy-1プロモータの転写制御下、スウェーデン(Swedish)(K670NとM671L)、フロリダ(Florida)(I716V)及びロンドン(London)(V717I)に変異を持つヒトAPP695 cDNA、及びヒトPS1 cDNA(M146LとL286Vの変異)を過剰発現している(Oakley,H.ら,J Neurosci,26,10129-10140,2006.)。それらはB6/SJL F1ブリーダーとヘミ接合トランスジェニックマウスを交配することによって維持された。 本実施例においては、ADモデルマウスとして、24?27週齢である雄 性及び雌性の5XFADマウス、又は28?31週齢である雌性の5XFA Dマウスを用いた。全てのマウスは、餌と水を自由に摂取できる状態で、2 2±2℃、50±5%の湿度、午前7時から始まる12時間の明暗サイクルで制御された環境で飼育した。 【0078】 <自発運動量測定> 本参考試験1において、自発運動量測定は以下のように実施した: 試験に供する各マウスについて、オープンフィールドボックスで10分間馴化させた時のマウスの移動経路を、デジタルカメラシステムを用いて追跡した。10分間に動いた距離をEthoVision3.0(ノルダス(Noldus)社、ワゲニンゲン(Wageningen)、オランダ)で移動活動として分析した。 【0079】 <物体認知記憶試験> 本実施例において、物体認知記憶試験は以下のようにして実施した: 自発運動量測定の翌日、発明者らの文献(Joyashiki,E.ら, Int J Neurosci, 121, pp.181-190, 2011.、及びTohda,C.ら, Int J Neurosci, 121, pp.641-648, 2011.)の記載にしたがって、物体認知記憶試験を行った。試験は比較的照明をおとした部屋(約100ルクス)にて行った。トレーニング段階とテスト段階の間の適切な時間間隔(インターバル)は、別のマウスのグループで予めテストして決めた。物体認知記憶試験とは、動物が新しいものに興味を示す習性を利用した試験である。試験を行うオープンフィールドボックスの内側の壁には、一切の目印はない。トレーニング段階ではフィールド内に2つの同じ物体を置き10分間の探索行動をさせる。テストの段階では、物体の一つを新しい物体に置き換え、しかし置き場所は変えずに、10分間の探索行動をさせる。マウスが、置き換えた新しい物体に興味を示して探索行動する回数の増加を、物体記憶能力の指標とするものである。すなわち、テスト段階において、トレーニング段階で見た物体を覚えているか否かを確認する試験である。本実施例では、総探索時間に対する新たな物体への探索回数の割合(%)を探索指向指数(Preference index)として算出した。 【0080】 <物体場所記憶試験> 本実施例において、物体場所記憶試験は以下のようにして実施した: 試験は比較的照明をおとした部屋(約100ルクス)にて行った。トレー ニング段階とテスト段階の間の適切な時間間隔(インターバル)は、別のマ ウスのグループで予めテストして決めた。物体場所記憶試験とは、動物が新 しいものに興味を示す習性を利用した試験である。試験を行うオープンフィ ールドボックスの内側の4方の壁のうち、対面する2つの壁に目印となるよ うな特徴的な柄を配した壁紙を貼る。トレーニング段階ではフィールド内に マウスにとって初めて見る2つの同じ物体を置き10分間の探索行動をさせ る。テストの段階では、その物体のうち一つの置き場所を変えて、10分間 の探索行動をさせる。マウスが、物は同じでも置き場所が変わった物体に興 味を示して探索行動する回数の増加を、空間記憶能力の指標とするものであ る。すなわち、テスト段階において、トレーニング段階で見た物体を覚えて いるか否かを確認する試験である。本実施例では、総探索時間に対する場所 を変えた物体への探索回数の割合(%)を探索指向指数(Preference index)として算出した。なお、本試験は、Tohda C., Joyashiki E. Sominone enhances neurite outgrowth and spatial memory mediated by the neurotrophic factor receptor, RET. British Journal of Pharmacology (2009) 157, 1427-1440.の記載を参考にして行った。 【0081】 <実施例1> 2.07mgのジオスゲニン(和光純薬社製)に5mLのゴマ油(カネダ 株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸 濁液を得た。この懸濁液0.5mLをゴマ油49.5mLと均一に混合させ 、ゴマ油(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.00414mg/mL である懸濁液(実施品1)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位 体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品1を1日1回、 ADモデルマウス(5XFAD、雄性および雌性、24?27週齢)に経口投 与で投与した。投与期間は、20日間とした。このマウスに対し、物体認知 記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した 。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。 <実施例2> ジオスゲニンの投与量を、マウスの単位体重あたり10μmol/kg/ 日とする以外は、実施例1と同様にした。 <実施例3> 実施例1におけるゴマ油を、オリーブ油(カネダ株式会社製)に換えた実 施品3を用いる以外は、実施例1と同様にした。 <実施例4> 実施例1におけるゴマ油を、大豆油(カネダ株式会社製)に換えた実施品 4を用いる以外は、実施例1と同様にした。 <比較例1> 実施品1をゴマ油のみに換える以外は、実施例1と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(24?27週齢)を用いる以外 は、比較例1と同様にした。 【0082】 結果を図1に示した。 実施例1?4のマウスは、コントロールとして用いた野生型マウスと同等 のレベルまで記憶障害が改善された。 【0083】 <実施例5> 1.30mgの(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)- スピロスト-5-エンの塩酸塩{(3β, 25R)-3-(2-Aminoethanoyloxy)-spirost-5-ene塩酸塩}(合成品、以降、本明細書においてDios-Gと略称する。)に2.544mLのゴマ油(カネダ株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。得られた懸濁液0.5mLをとり、ゴマ油49.5mLを加えて均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するDios-Gの重量が0.005081mg/mLである懸濁液(実施品5)を得た。 Dios-Gの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg /日となるように、実施品5を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28?31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、20日間とした。 このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。 <実施例6> 実施品5に換えて、(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-エン{(3β, 25R)-3-Fluorospirost-5-ene}(合成品、以降、本明細書においてDios-Fと略称する。)に換えた実施品6を用いる以外は、実施例5と同様にした。なお、実施品6は、以下のように調製した:1.13mgのDios-Fに2.712mLのゴマ油を加えて撹拌し、均一に懸濁させ、得られた懸濁液0.5mLに、さらに49.5mLのゴマ油を加えて均一に混合させ、ゴマ油(mL)に対するDios-Fの重量が0.004166mg/mLである懸濁液(実施品6)を調製した。 <比較例2> 実施品5をゴマ油のみに換える以外は、実施例5と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比 較例2と同様にした。 【0084】 結果を図2に示した。 実施例5及び6のマウスは、コントロールとして用いた野生型マウスと同 等のレベルまで記憶障害が改善された。 【0085】 <実施例7> 実施例5と同様にして、ゴマ油にDios-Gを懸濁させた懸濁液(実施 品7)を得た。Dios-Gの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μ mol/kg/日となるように、実施品7を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28?31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、25日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは24時間とした。 <実施例8> 実施例6と同様にして、ゴマ油にDios-Fを懸濁させて調製した懸濁 液(実施品8)を用いる以外は、実施例7と同様にした。 <比較例3> 実施品7をゴマ油のみに換える以外は、実施例7と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比 較例3と同様にした。 【0086】 結果を図3に示した。 物体認知記憶試験のインターバルを24時間に延長した本試験において、 実施例7及び8のマウスは、記憶障害を改善する傾向を示した。 【0087】 <実施例9> 実施例6と同様にして、ゴマ油にDios-Fを懸濁させた懸濁液(実施 品9)を得た。Dios-Fの投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μ mol/kg/日となるように、実施品9を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雌性、28?31週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、22日間とした。このマウスに対し、物体場所記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは24時間とした。 <比較例4> 実施品9をゴマ油のみに換える以外は、実施例9と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(31週齢)を用いる以外は、比 較例4と同様にした。 【0088】 試験の結果、実施例9のマウスは、記憶障害の改善が観察された。」 (d)「【0094】 <<参考試験2>>水系溶媒に溶解したジオスゲニンは経口投与では記憶力 の亢進効果を示さない。 <参考例1> 4.9mgのジオスゲニンを1.182mLのエタノールに溶解させ、1 0mMのジオスゲニンエタノール溶液とした。この溶液とは別に、2.3g のグルコースを46mLの水に溶解させて、5%グルコース水溶液を調製し た。10mMジオスゲニンエタノール溶液1mLを、5%グルコース水溶液 9mLに加えて混和させ、ジオスゲニンの水系溶媒溶液(参考品1)を得た 。ジオスゲニンの投与量が、マウスの単位体重あたり10μmol/kg/ 日となるように、参考品1を1日1回、正常マウス(ddY、雄性、6週齢) に経口投与で投与した。投与期間は、5日間とした。このマウスに対し、物 体場所記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実 施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは48時間と した。 <参考例2> 参考例1と同様にしてジオスゲニンの水系溶媒溶液(参考品2)を調製し 、投与方法を腹腔内投与とする以外は、参考例1と同様にした。 【0095】 結果を図6に示した。水系溶媒に溶解したジオスゲニンを経口投与した参 考例1のマウスでは、記憶力の亢進効果が観察されなかった(図6A)。一 方、水系溶媒に溶解したジオスゲニンを腹腔内投与した参考例2のマウスで は、記憶力の亢進効果が有意に観察された。」 (e)「【0101】 <実施例11> 12.92mgのワイルドヤム乾燥エキス(アスク薬品株式会社製、ジオ スゲニン16.05%含有)に5mLの大豆油(カネダ株式会社製)を加え 、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸 濁液0.5mLを大豆油49.5mLと均一に混合させ、大豆油(mL)に 対するジオスゲニンの重量が0.004146mg/mLである懸濁液(実 施品11)を得た。ジオスゲニンとしての投与量が、マウスの単位体重あた り0.1μmol/kg/日となるように、実施品11を1日1回、ADモ デルマウス(5XFAD、雄性および雌性、30?47週齢)に経口投与で投 与した。投与期間は、14日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試 験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また 、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。 <比較例6> 実施品11を大豆油のみに換える以外は、実施例11と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(34?36週齢)を用いる以外 は、比較例6と同様にした。 【0102】 結果を図8に示した。なお、図8において、「preferential index」とは、前記の通り、探索指向係数、「Wild」とは野生型マウス、「5XFAD」とはADモデルマウス、「Yam」とはワイルドヤム乾燥エキスを用いたもの(すなわち、実施例11に対応)、「Veh」とはワイルドヤムエキス乾燥エキスを用いていないもの(すなわち、比較例6及びコントロールに対応)をそれぞれ示し、図の左側の3本の棒グラフがトレーニング段階、図の右側の3本の棒グラフがテスト段階の結果である(図9においても同じ)。 図8の結果から明らかなように、実施例11のマウスは、コントロールと して用いた野生型マウスと同等のレベルまで記憶障害が改善された。 【0103】 <比較例7> 12.92mgのワイルドヤム乾燥エキス(アスク薬品株式会社製、ジオ スゲニン16.05%含有)に5mLの蒸留水を加え、マイクロホモジナイ ザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸濁液を得た。この懸濁液0.5mLを蒸留 水49.5mLと混合させ、蒸留水(mL)に対するジオスゲニンの重量が 0.004146mg/mLである懸濁液(実施品12)を得た。ジオスゲ ニンとしての投与量が、マウスの単位体重あたり0.1μmol/kg/日 となるように、実施品12を1日1回、ADモデルマウス(5XFAD、雄性、30?47週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、14日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の翌日にトレーニング段階を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは1時間とした。 <比較例8> 実施品12を蒸留水のみに換える以外は、比較例7と同様にした。 <コントロール> ADモデルマウスに換えて野生型マウス(39?43週齢)を用いる以外 は、比較例8と同様にした。 【0104】 結果を図9に示した。 図9の結果から明らかなように、蒸留水を用いた比較例7では有意に記憶 障害が改善されなかった。 【0105】 <実施例12> 2.07mgのジオスゲニン(和光純薬社製)に5mLのゴマ油(カネダ 株式会社製)を加え、マイクロホモジナイザーで攪拌し、均一に懸濁させ懸 濁液を得た。この懸濁液0.5mLをゴマ油49.5mLと均一に混合させ 、ゴマ油(mL)に対するジオスゲニンの重量が0.004146mg/m Lである懸濁液(実施品13)を得た。ジオスゲニンの投与量が、マウスの 単位体重あたり0.1μmol/kg/日となるように、実施品13を1日 1回、ddYマウス(雄性および雌性、9週齢)に経口投与で投与した。投与期間は、4日間とした。このマウスに対し、物体認知記憶試験を実施した。なお、最終投与の1時間後にトレーニング試験を実施した。また、トレーニング段階とテスト段階のインターバルは48時間とした。 <比較例9> 実施品13をゴマ油のみに換える以外は、実施例12と同様にした。 【0106】 結果を図10に示した。ゴマ油に懸濁させたジオスゲニンを経口投与した 実施例12のマウスでは、物体認知記憶の有意な亢進が観察された。」 (ア-2)判断 (ア-2-1)本件訂正発明1?3について 発明の詳細な説明には、本件訂正発明について、ジオスゲニンを水系溶媒に溶解させた溶液を経口投与する方法では、ジオスゲニンの記憶亢進効果が得られない一方、油脂に懸濁させて経口投与することで、顕著な記憶亢進効果が得られるという本願に特有の有用な新知見を得たことに基づいて完成されたものである旨が記載されている(上記(アー1)(a))。 そして、発明の詳細な説明(実施例等)には、ジオスゲニンを懸濁させる油脂として、「ゴマ油」、「オリーブ油」又は「大豆油」(以下、まとめて、「ゴマ油等」という。)を選択した場合に対応する経口投与剤を投与したマウスにおいて記憶障害が改善したことなどが記載されている(上記(ア-1)(c)(e))ので、ジオスゲニンを懸濁させる油脂としてゴマ油等を選択した場合については、ゴマ油等が果たすジオスゲニンを懸濁させること以外の機能は不明であるものの、本件訂正発明1?3を実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているといえる。しかしながら、ジオスゲニンを懸濁させる油脂としてゴマ油等以外のものを選択した場合においても顕著な記憶亢進効果等が得られるといえることについては、説明や、これを確認することができる実施例の記載はない。 ところで、ゴマ油等は、いずれも、脂肪酸としてオレイン酸を含むトリグリセリドである(平成30年6月7日付け意見書に記載の構成脂肪酸に関する表及び平成30年9月7日付け意見書に添付して提出された乙1,2,4,6及び7を参照。)点で共通しており、また、脂肪酸トリグリセリドは、消化酵素によってオレイン酸等の脂肪酸とグリセリンに分解されるものであるところ、「製剤学(改訂第6版)」株式会社 南江堂、2013年12月20日、378?380頁)には、オレイン酸について、 「 」と記載されており、オレイン酸が難吸収性薬物の吸収を改善する作用を有することは、技術常識である。また、特開昭61-204136号公報(特に、特許請求の範囲及び第1表の対照例1、第2表の対照例3、第3表の対照例5、第4表の対照例7、第5表の対照例9並びに第6表の対照例11における、脳内濃度相対比率の値を参照。)には、オレイン酸が薬物の血液脳関門通過性を高める作用を有していることが記載されているから、オレイン酸が、血液脳関門通過性を高める作用を有することも、技術常識であるといえる。 したがって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載及び上記技術常識に基づき、脂肪酸としてオレイン酸を含むトリグリセリドを使用した場合も、ゴマ油等の場合と同等に、難吸収性薬物の吸収を改善する作用及び血液脳関門通過性を高める作用を奏することを理解できるといえる。 そして、本件訂正発明1?3においては、用いる油脂の種類が特定されたところ、特許権者が平成30年9月7日に提出した意見書及び乙1?12号証に記載される内容によれば、本件訂正発明1?3において列挙される油脂は、いずれも脂肪酸としてオレイン酸を含有するものである。 そうしてみると、本件訂正発明1?3については、脂肪酸としてオレイン酸を含有する特定の油脂にジオスゲニンを懸濁又は溶解させて経口投与剤としており、目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができることは明らかであるから、実施可能要件を満たすといえる。 (ア-2-2)本願訂正発明4?12について 本件訂正後の請求項4?12は、訂正後の請求項1?3を直接的又は間接的に引用して、本件訂正発明1?3の用途、他の成分の併用、剤形を特定するものである。 そして、こうした発明特定事項の限定によって、上記(ア-2-1)で述べた本件訂正発明1?3の実施可能要件の判断に何ら影響はない。 イ 特許法第36条第6項第1号について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できるとの詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (イ-1)発明の詳細な説明の記載 サポート要件についての判断に関連する発明の詳細な説明の記載は、上記(ア-1)のとおりである。 (イ-2)判断 (イ-2-1)本件訂正発明1?3について 上記(ア-1)によれば、本件訂正発明が解決しようとする課題は、本件訂正発明に係る「(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤」を提供することであり、発明の詳細な説明には、油脂として、ゴマ油等を選択した場合に対応する経口投与剤を投与したマウスにおいて記憶障害が改善したことなどが記載されている。 そして、上記(ア-2)においても述べたとおり、ゴマ油等は、いずれも、脂肪酸としてオレイン酸を含むトリグリセリドである点で共通しており、また、脂肪酸トリグリセリドは、消化酵素によってオレイン酸等の脂肪酸とグリセリンに分解されるものであるところ、オレイン酸が、難吸収性薬物の吸収を改善する作用を有すること及び血液脳関門通過性を高める作用を有することは、技術常識である。 そして、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載及び上記技術常識に基づき、脂肪酸としてオレイン酸を含むトリグリセリドを油脂として使用した場合についても、ゴマ油等を選択した場合と同様、上記の課題を解決できることは認識できるといえる。 本件訂正発明1?3においては、用いる油脂の種類が特定されたところ、特許権者が平成30年9月7日に提出した意見書及び乙1?12号証に記載される内容によれば、本件訂正発明1?3において列挙される油脂は、いずれも脂肪酸としてオレイン酸を含有するものである。 そうしてみると、本件訂正発明1?3については、脂肪酸としてオレイン酸を含有する特定の油脂にジオスゲニンを懸濁又は溶解させて経口投与剤としており、発明の詳細な説明に接した当業者であれば、技術常識を参酌することで、本件特許発明の課題を解決できると認識できることは明らかであるから、サポート要件を満たすといえる。 したがって、本願特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (イ-2-2)本件訂正発明4?12について 本件訂正後の請求項4?12は、訂正後の請求項1?3を直接的又は間接的に引用して、本件訂正発明1?3の用途、他の成分の併用、剤形を特定するものである。 そして、こうした発明特定事項の限定によって、上記(イ-2-1)で述べた本件訂正発明1?3のサポート要件の判断に何ら影響はない。 ウ 異議申立人の意見について 異議申立人は、平成30年10月24日付け意見書において、訂正請求によって、本件訂正発明における油脂がオレイン酸を含むものに限定されたとしても、実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)及びサポート要件違反(同法第36条第6項第1号)の取消理由は解消しないと考える理由を以下のとおり述べる。 (ウ-1)本件特許明細書には、オレイン酸と、(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制との関係について、何ら説明されていない。 (ウ-2)「製剤学(改訂第6版)」株式会社 南江堂、2013年12月20日、378?380頁を参照すると、吸収促進剤として例示されているのは、オレイン酸などの脂肪酸自体であって、油脂ではない。 (ウ-3)油脂を構成する脂肪酸トリグリセリドは、消化酵素によって脂肪酸とグリセリンに分解されるが、すべてが分解されるわけではなく、また油脂によってオレイン酸の含量も異なっている。したがって、オレイン酸を含むすべての油脂が難吸収性薬物に対する吸収促進効果を有することについて、技術常識があったとは認められない。 (ウ-4)また、甲4の60ページTable8を参照すると、オレイン酸を脂肪酸残基として含有するオリーブオイル、大豆油、セサミオイルのジオスゲニンの溶解度に対して、オレイン酸自体のジオスゲニンの溶解度は2倍以上となっている。したがって、オレイン酸自体と、オレイン酸を含有する油脂とは、難吸収性薬物の吸収促進効果に対する作用効果も異なると考えられ、オレイン酸について認められる吸収促進効果がオレイン酸を含有する油脂に対しても認められるということが、当業者の技術常識として確立していたとは認められない。 (ウ-5)更に、オレイン酸等の吸収促進効果は、対象となる難吸収性薬物の違いによっても効果が異なると考えられ、全ての難吸収性薬物に対して同様な吸収促進効果があることが、当業者の技術常識として確立していたとは認められない。 (ウ-6)更にまた、本件特許明細書には、ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物を油脂に懸濁又は溶解させることによってもたらされる、(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制などの向上効果が、ジオスゲニン等の化合物の吸収促進効果に起因するという説明は一切なされていない。 因みに、本件特許公報の図1に示される物体認識記憶の探索思考指数を見ると、オレイン酸含量が最も多いオリーブ油が、それよりもオレイン酸含量の少ないゴマ油や大豆油に対して、探索思考指数が高くはなっておらず、オレイン酸の含量と、本件発明の効果とは関連性がないことが示されている。 したがって、仮に、油脂に含まれるオレイン酸がジオスゲニン等の吸収促進効果を有すると推測されたとしても、本件特許明細書の記載から、それによって(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制などの向上効果も予測できたとはいえない。 (ウ-7)更に訂正請求書により訂正された請求項1,3の記載を見ると、様々な油脂が記載されているが、本件発明の効果が確認されている実施例で用いた大豆油、ゴマ油及びオリーブ油のオレイン酸の含量は、それぞれ19.5?25.0%、38.4?41.9%、76.5?80.1%となっているのに対して、ヤシ油などは6.4?7.8%であり(乙第1、2号証参照)、オレイン酸含量が非常に少なくなっている。 また、別途提出する参考資料1(エクストラヴァージンココナッツオイルの規格書の写し、作成者:株式会社FAPジャパン)に示されるように、ヤシ油の1種であるエクストラヴァージンココナッツオイルの規格書にはオレイン酸は記載されていない。 また、乙4号証に示されるように、魚油のオレイン酸含量も11?15%と少なくなっている。なお、別途提出する参考資料2(一般財団法人日本水産油脂協会のホームページに掲載された輸入魚油の主要脂肪酸平均組成、URL:http://www.suisan.or.jp/html/Page.htm、ダウンロード日:2018年10月23日)を見ると、魚油の平均オレイン酸含量は、8.9?12.5%となっている。また、別途提出する参考資料3(サメ肝油(スクワレン)の原料調査書の写し、作成者:株式会社岸本特殊肝油工業所)を見ると、魚油の1種であるサメ肝油(スクワレン)には、オレイン酸は全く入っていない。 このように、訂正請求書により訂正された請求項1,3に記載された油脂の中には、本件発明の効果が確認されている実施例で用いた大豆油、ゴマ油及びオリーブ油よりも、オレイン酸含量が著しく低いものが存在し、仮に、 「製剤学(改訂第6版)」(株式会社 南江堂、2013年12月20日、378?380頁)に記載された技術常識を考慮したとしても、これら全ての油脂について、同様な効果が期待できると推定することはできない。 しかしながら、当審は、上記の異議申立人の意見については、以下のとおり、いずれも理由がないと考える。 ・(ウ-1)?(ウ-3)、(ウ-6)について 本件特許明細書段落【0007】に記載されるように、本件特許の出願時には、ジオスゲニンをマウスに腹腔内投与することにより、正常マウス又はADモデルマウスにおいて記憶力の亢進が観察されたこと、記憶力の亢進は、軸索の進展によるものであることは、既に知られていたことであり、ジオスゲニンが(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制などの向上効果をもたらす有効成分であることは、当業者であれば認識できていたことである。 また、本件特許明細書の実施例には、「ゴマ油等」にジオスゲニンを懸濁させて、マウスに経口投与したところ記憶障害が改善したことなどが記載されている。 そして、「ゴマ油等」に懸濁させたゲオスゲニンを経口投与した場合に、上記の効果がもたらされたのであるから、ジオスゲニンが適切に吸収されたのは当然のことである。 ここで、本件訂正発明1?3において列挙される油脂は、いずれも脂肪酸としてオレイン酸を含有するものであり、また、脂肪酸トリグリセリドは、消化酵素によってオレイン酸等の脂肪酸とグリセリンに分解されるものであること、さらに、オレイン酸が難吸収性薬物の吸収を改善する作用を有すること及び血液脳関門通過性を高める作用を有するという技術常識に鑑みれば、油脂中に含まれるオレイン酸の含有量や油脂の分解の程度に起因して奏する効果の程度に若干の差異はあるとしても、実施例における「ゴマ油等」を用いた場合と同様の効果を奏すると当業者は期待できると考えられる。 よって、異議申立人の主張(ウ-1)?(ウ-3)、(ウ-6)は理由がない。 ・(ウ-4)について 発明の詳細な説明の実施例及び比較例において、ジオスゲニンをゴマ油等に懸濁させた経口投与剤を投与したマウスにおいて記憶障害の改善が認められたが、水系溶媒に溶解ないし懸濁したジオスゲニンを経口投与されたマウスにおいては記憶力の亢進効果が確認されなかったとされる。 これによれば、ジオスゲニンを経口投与する場合に所望の効果が得られるかどうかは、用いる溶媒に対するジオスゲニンの溶解度の問題ではなく、用いる溶媒の種類(水系溶媒かゴマ油等か)によることがわかるから、異議申立人の主張(ウ-4)は理由がない。 ・(ウ-5)について 本件訂正特許発明では、「ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物」が使用されている。 これらの化合物をゴマ油等に懸濁させた経口投与剤を投与したマウスにおいて記憶障害の改善が認められたのであるから、全ての難吸収性薬物に対して同様な吸収促進効果があることが当業者の技術常識として確立していたとは認められないとしても、サポート要件及び実施可能要件についての当審の判断に影響はない。 よって、異議申立人の主張(ウ-5)は、理由がない。 ・(ウ-7)について 異議申立人が主張するように、本件訂正発明における油脂の種類によって、オレイン酸の含有量が異なることは事実である。 しかしながら、本件訂正発明における油脂は、いずれも脂肪酸としてオレイン酸を含むトリグリセリドを含有するものであり、オレイン酸が難吸収性薬物の吸収を改善する作用を有すること及び血液脳関門通過性を高める作用を有するという技術常識に鑑みれば、効果の程度に若干の差異はあるとしても、同様の効果を奏すると当業者は期待できると考えられる。 したがって、異議申立人の主張(ウ-7)は理由がない。 なお、異議申立人の提出した参考資料1では、オレイン酸についての項目の記載はないが、このことをもって、この資料に記載のエクストラヴァージンココナッツオイルがオレイン酸を含まないことを立証したことにはなっていない。また、参考資料3には、サメ肝油を起源原料とする「スクワレン」について記載されているが、スクワレンがオレイン酸を含むトリグリセリドを含まないことは当然であって、この資料は、本件訂正発明における「魚油」に相当するサメ肝油がオレイン酸を含むトリグリセリドを含まないことを立証するものではない。 5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (1)採用しなかった取消理由の概要 異議申立人は、特許異議申立書において、証拠として、甲1?5号証を提示し、以下のとおり、進歩性欠如の取消理由を主張している。 ア 訂正前の請求項1?4,6?12に係る発明は、甲1?3号証に基づいて、又は甲1?4号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 イ 訂正前の請求項5に係る発明は、甲1?3号証及び甲5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲1号証:SCIENTIFIC REPORTS, vol.2, No.535, 2012.7.26, pp.1-11 甲2号証:SCIENTIFIC REPORTS, vol.3, No.3395, 2013.12.2, pp.1-8 甲3号証:日本薬剤学会年会講演要旨集,巻:28,2013.04.26,ページ:25-6-06 甲4号証:学位論文「難水溶性化合物であるジオスゲニンの生物学的利用能および組織移行性の改善を目的とした薬剤学的検討」,大川原正喜、城西大学,2014.03 甲5号証:アカデミア創薬の心・技・体、 (以下、単に、「甲1」、・・・「甲5」と表記する。) (2)甲号証の記載(甲1、2は外国語の文献であるので、合議体による翻訳で示す。) (2-1)甲1 (1a)「ジオスゲニンは、1,25D3-MARRS/Pdia3/ERp57の外因性活性因子であり、5XFADマウスのアルツハイマー病変を改善する。」(標題) (1b)「この研究の目的は、アルツハイマー病(AD)モデルマウスにおける記憶障害に対する、植物由来ステロイドサポゲニンとして有名なジオスゲニンの作用及び機構を調べることであった。ジオスゲニン処理5XFADマウスは、物体認識記憶のパフォーマンスが顕著に改善された。ジオスゲニン処理は、大脳皮質及び海馬におけるアミロイド斑及び神経原線維変化を有意に減少させた。アミロイド斑と密接に関連する領域でのみ観察された軸索及びシナプス前終末の変性は、ジオスゲニン処置によって有意に減少した。」(1ページ10?15行) (1c)「結果 5XFADマウスにおける物体認識記憶に対するジオスゲニンの効果を調べるために、ジオスゲニン(10mmol/kg54.14mg/kg)・・・を20日間マウスに腹腔内投与した。最後の投与の翌日に、物体認識試験を行った。・・・野生型マウス及びジオスゲニン処置5XFADマウスは、新規対象物の存在下で、偶然(50%)よりもかなり頻繁な探索行動を示した(図1A)。試験セッション中のジオスゲニン処置群の値は、訓練セッション中の値より有意に高かった。・・・ジオスゲニンで処置した5XFADマウスは、大脳皮質及び海馬におけるアミロイド斑の有意な減少を示した(図1C)。」(2ページ左欄24?59行) (1d)「議論 ・・・本研究は、ジオスゲニン投与が5XFADマウスにおける物体認識記憶欠損を改善したことを初めて示した。ジオスゲニン投与は、皮質及び海馬のアミロイド斑に関連するシナプス前終末の変性、皮質及び海馬のアミロイド斑に関連する軸索変性、並びに皮質及び海馬のアミロイド斑に関連するかあるいは遠位のPHF-タウ発現等、神経変性の徴候のいくつかを阻害した。さらに、アミロイド斑は、ジオスゲニン処置によって減少した。Aβ1-42を注入したADモデルラットでは、ジオスゲニン誘導体、caprospinol(diosgenin 3-caproate)がアミロイド沈着を減少させ、記憶機能障害を改善することが報告されている。したがって、ジオスゲニンのアミロイド斑減少効果は、軸索変性からの保護及びタウの高リン酸化をもたらす可能性がある。しかし、ジオスゲニンは、正常なニューロンの軸索成長を促進することができ(図5及び6)、治療後のAβ処置ニューロンの軸索の再増殖を誘導することができる(図7)。」(6ページ右欄1?21行) (1e)「方法 ・・・・ 材料.ジオスゲニン(和光、大阪、日本)・・・は、ジメチルスルフォキシドに溶解した。」(8ページ右欄50?59行) (2-2)甲2 (2a)「正常マウスにおけるジオスゲニン誘導性認知増強は、1,25D3-MARRSによって媒介される」(標題) (2b)「我々は、以前に、植物由来のステロイドサポゲニンであるジオスゲニンが、アルツハイマー病マウスモデルにおける記憶力を改善し、軸索変性を減少させることを報告した。・・・正常マウスにおけるジオスゲニン処置は、物体認識記憶、並びに内側前頭前野皮質及び海馬CA1におけるスパイク発火及び相互相関を強化した。ジオスゲニン処置マウスにおける軸索密度及びc-Fos発現は、内側前頭前野及び周縁皮質で増加し、ニューロンネットワーク活性化が増強されうることが示唆された。・・・我々のin vivoデータは、ジオスゲニンが記憶増強薬であり、ジオスゲニンによる増強が1,25D3-MARRS誘発性の軸索成長によって媒介される殊を示している。」(1ページ8?19行) (2c)結果 正常な若年マウスの認知機能に対するジオスゲニンの効果を調べるために、ジオスゲニン・・・を7日間マウスに腹腔内投与した。・・・薬剤投与5日目に物体認識試験の訓練セッションを行い、48時間後に試験セッションを行った。・・・試験日にジオスゲニンを投与しなくても、処置は正常マウスの物体認識記憶を有意に強化した。これらのデータは、訓練セッションの前に投与されたとき、ジオスゲニン処置が神経回路機能又は形態を増強し、これが物体認識記憶を強化することを示唆している。」(2ページ左欄3?24行) (2-3)甲3 (3a)「自己乳化型薬物送達システム製剤によるディオスゲニンの経口バイオアベイラビリティ向上」(標題) (3b)「【目的】ディオスゲニン(wild yamなどに含まれるステロイドサポニン)は、高脂血症の改善効果やマウスB16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制作用が報告されており、健康・美容の増進を目的としたサプリメントの有効成分として注目されている。我々はディオスゲニンの水への溶解度やラットにおけるバイオアベイラビリティ(BA)が低値を示すこと、溶解度を改善することによってBAを向上させることができることを報告してきた。本研究では、ディオスゲニンのBAをさらに改善させることを目的として、自己微小乳化型薬物送達システム(SMEDDS)製剤を調製し、物性を評価するとともにラットにおける体内動態を明らかにした。 ・・・ 【結果・考察】粒子径測定の結果より、ディオスゲニンの有無にかかわらず(Capryol90:Cremphor EL:Carbitol:水=4:3:3:10,w/w)の混合比で約30nm径のエマルションが形成された。経口投与実験より、懸濁液投与群と比較して約5倍のBA改善効果が得られた。難水溶性化合物のBA改善においてSMEDDS製剤の有用性が示された。」(5?19行) (2-4)甲4 (4a)「緒言 ・・・ジオスゲニン(Fig.1A)はトリテルペンに分類されるステロイドサポニンで、・・・経口投与により糖尿病やコレステロール血症に効果があることが報告されている。・・・欧米ではエストロゲン様作用を期待して更年期症状の改善を目的として使用されてきた。・・・また、ジオスゲニンには卵巣摘出マウスにおいて薄化した表皮を肥厚させる作用や、・・・メラニン産生を抑制することも報告されており、美容・健康食品の有効成分として近年特に注目されている。」(1ページ1?19行) (4b)「第2章 自己乳化型薬物送達システム製剤とシクロデキストリンの併用によるジオスゲニン生物学的利用能改善 自己乳化薬物送達システム製剤型は、油脂、界面活性剤、補助界面活性剤および薬物より構成される油状製剤である。・・・本章ではジオスゲニンを含有するSMEDDS製剤を調製して物理化学的性質を評価した。また、経口投与実験を行い、SMEDDS製剤とβ-CD水溶液の併用効果について検討した。」(56ページ1行?最下行) (4c)「1 実験材料 ジオスゲニン、CremophorEL(polyoxyethylene(35)castor oil)は・・・より購入した。Capryol90(propylene glycol monocaprylate)は・・・より提供された。・・・ 2 溶解度試験 SMEDDS製剤の油脂として使用実績のあるOlive oil、Soybean oil、Sesame oil、Peanut oil。Oleic acid、Ethyl oleate、Capryol90を選択し、ジオスゲニン溶解度を測定した。58-61)過剰量のジオスゲニン(20-50mg)に2mLの油脂を加えて、37℃で2時間攪拌した。15,000×g、25℃、5分間遠心し、上清中のジオスゲニン濃度をLCMSで測定した。」(57ページ2?13行) (4d)「7 静脈内、経口投与実験 試験に使用した動物は試験液の投与12時間前から4時間後まで絶食した。静脈内投与試験は、第1編第1章と同様の方法で行った。経口投与試験では5mg/mLのジオスゲニン懸濁液または同量のジオスゲニンを含むSMEDDS製剤を調製し、2mL/kgを投与した。SMEDDS製剤群は製剤投与直後に同量の水を、製剤とβ-CDの併用群は同量の24mMβ-CD水溶液を投与した。投与直後から120時間後まで尾静脈より採血を行い、遠心により血漿を分取した。血漿は測定するまで-30℃で保管した。 8 血漿からのジオスゲニン抽出 血漿中のジオスゲニンは、第1編第1章と同様の方法で抽出し、測定資料とした。 9 ジオスゲニンの定量 血漿より調製した測定資料のジオスゲニン濃度は、第1編第1章と同様にLCMS法で定量した。血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)は台形面積法によって算出した。生物学的利用能は経口および静脈内投与よりえられたAUCを使用して、AUCpo/AUCivより算出した。薬物動態学的パラメータは非線形最小二乗法を使用して算出した。」(58ページ下から6行?59ページ下から4行) (4e)「4 自己乳化型薬物送達システム製剤およびシクロデキストリンによるジオスゲニン生物学的利用能改善 SMEDDS製剤およびSMEDDS製剤とβ-CD水溶液経口投与後のジオスゲニン血漿中濃度-時間曲線をFig.21に、算出した動態パラメータをTable10に示す。ジオスゲニン懸濁液投与群と比較して、SMEDDS製剤投与群およびβ-CD併用群で血漿中濃度が増加し、AUCpo、Cmax、生物学的利用能は有意に増加した。SMEDDS製剤投与群と比較して、β-CD併用群で生物学的利用能は低下した。」(63ページ1?7行) (4f)「第2節 結果 1 溶解度試験 SMEDDS製剤の原料として使用されている油脂類へのジオスゲニン溶解度をTable8に示す。油脂類へのジオスゲニン溶解度はOleic acidとCapryol90で高い値を示した。油脂としてOleic acidとCapryol90を選択し、界面活性剤および補助界面活性剤は以前からSMEDDS製剤に使用されているCremophorEL、Carbitol、PEG400を選択した。 ・・・ 2 三成分相図 Capryol90、CremophorEL、Carbitol、水の三成分相図をFig.20に示す。SMEDDS製剤中のCapryol90を30?50%とすることで、マイクロエマルションが形成された。Capryol90を40%、CremophorELとCarbitolをそれぞれ30%とすることで、多量の水と混合してもマイクロエマルションが維持された。 Oleic acid、CremophorEL、PEG400で作成した三成分相図ではマイクロエマルション領域はえられなかった。模擬胃液(pH=1)を水の代わりに使用した三成分相図も同様のパターンを示した。以降の検討はCapryol90:CremophorEL:Carbitol=4:3:3(v/v)の混合比でSMEDDS製剤を調製した。」(60ページ1行?61ページ9行) (4g)「小括 ジオスゲニンを含有する最適なSMEDDS製剤を調製することを目的として溶解度試験、三成分相図の作成、エマルションの粒子径測定を行った。その結果、ジオスゲニンを溶解する油脂としてCapryol90が最適であり、・・・経口投与試験ではSMEDDS製剤・・・により懸濁液投与群と比較して高い生物学的利用能を示した・・・」(67ページ1?7行) (2-5)甲5 (5a)「アルツハイマー病に対する有効な治療薬がないという現状を克服するために、我々は、破綻した神経回路網を再構築できるような薬効を有する伝統薬物の研究を進めてきた。特に軸索の萎縮を再伸展させる活性に着目した。山薬の(Dioscorea Rhizome)成分でもあるDiosgeninは、初代培養大脳皮質神経細胞のamyloid βによる軸索萎縮に対し再伸展させる活性を示したことから、アルツハイマー病モデルマウス5XFADでの検討が進んだ。Diosgenin投与によりモデルマウスの記憶障害が顕著に改善され、さらに、脳内のamyloid βや神経原線維変化が減少し、軸索の変性も有意に改善された。我々はさらに、これまで未同定であったDiosgeninの受容体の検討を行い、1,25D3-MARRSであることも明らかにした。以上、Diosgeninがアルツハイマー病の記憶障害を改善すること、Diosgeninが1,25D3-MARRS受容体を介したシグナル伝達経路を活性化することを初めて実証した。すなわち、この経路が抗AD療法につながる極めて重要な標的になる可能性を示したものである。 ・・・ 参考文献 1)Tohda C, ・・・ Diosgenin is an exogenous activator of 1,25 D3-MARRS/Pdia3/ERp57 and improves Alzheimer’s disease pathologies in 5XFAD mice. Sci. Rep., 2, 535; (2012)(4?28行) (3)当審の判断 (3-1)本件訂正発明1について (3-1-1)甲1に記載された発明 上記(2-1)の(1a)?(1e)によれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。 「ジオスゲニンをジメチルスルフォキシドに溶解した組成物であって、腹腔内投与することでアルツハイマー病変を改善するための組成物。」(以下「甲1発明」という。) (3-1-2)対比・判断 本件訂正発明1と甲1発明とを対比するに、本願明細書の段落【0001】の記載(「本発明は、神経細胞の軸索(以下、単に「軸索」ともいう。)の機能不全が関与する疾患の、臨床において実用化可能な予防剤又は治療剤に関する。より具体的には、臨床において実用化可能なアルツハイマー病の予防剤又は治療剤に関する。」)も参酌すると、本件訂正発明1における「神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患」の具体例として、アルツハイマー病が想定されていると認められるので、両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「ジオスゲニンを含む組成物であって、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための組成物。」 <相違点> 「本件訂正発明1では、経口投与剤であって、ジオスゲニンは以下の油脂に懸濁又は溶解しているのに対し、甲1発明では、組成物は、腹腔内投与されるものであって、ジオスゲニンはジメチルスルフォキシドに溶解している点。 油脂:大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、ナッツ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、及び魚油から選ばれる1種以上である。」 以下、上記相違点が容易に想到しうるものであったか、検討する。 甲2には、正常マウスに対して、ジオスゲニンを腹腔内投与することで、正常マウスの物体認識記憶が増強されたことが記載されているが、ジオスゲニンを経口投与することや、ジオスゲニンを所定の油脂に懸濁又は溶解して用いることについては、記載されていない。 甲3には、ディオスゲニンは、高脂血症の改善効果やマウスB16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制作用が報告されており、健康・美容の増進を目的としたサプリメントの有効成分として注目されていること、ディオスゲニンのBAをさらに改善させることを目的として、自己微小乳化型薬物送達システム(SMEDDS)製剤を調製したこと、SMEDDS製剤を構成する油は、・・・Capryol90を選択したことが記載されている。また、甲4には、ジオスゲニンは、経口投与により糖尿病やコレステロール血症に効果があることが報告されていること、欧米では更年期症状の改善を目的として使用されてきたこと、近年は、美容・健康食品の有効成分として注目されていること、ジオスゲニンをSMEDDS製剤化することで、生物学的利用能の増加が見られたこと、SMEDDS製剤に用いる油脂としては、Capryol90(propylene glycol monocaprylate)が最適であることが記載されている。甲3及び甲4には、ジオスゲニンの生物学的利用能を向上させるために、SMEDDS製剤とすることが記載されているが、ジオスゲニンが神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防や治療に用いることができるとの記載はなく、また、SMEDDS製剤に用いられるとして最適なCapryol90(propylene glycol monocaprylate)は、本件訂正発明1において列挙される油脂とは異なるものである。 甲5の上記(5a)の記載内容は、参考文献名からみて、甲1の要約である。 そうしてみると、甲2?甲5の記載を参酌しても、甲1発明において、ジオスゲニン組成物を腹腔内投与することに代えて、ジオスゲニンを所定の油脂に懸濁又は溶解させて経口投与とすることは、当業者が容易に想到しうることとはいえない。 そして、本件訂正発明1は、上記の相違点を採用することで、明細書記載の効果を奏するものと認める。 よって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1?甲5に記載される内容に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3-2)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1との対比において、用いる油脂を「大豆油、ゴマ油及びオリーブ油から選ばれる1種以上」に限定しているものである。 したがって、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2も、甲1発明及び甲1?甲5に記載される内容に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3-3)本件訂正発明3について 本件訂正発明3は、本件訂正発明1との対比において、用途を(1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療に限定しているものである(用いる油脂の種類も完全には一致しているものではない)。 したがって、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3も、甲1発明及び甲1?甲5に記載される内容に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3-4)本件訂正発明4?12について 本件訂正発明4?12は、本件訂正発明1ないし3の発明特定事項をさらに限定するものである。 したがって、本件訂正発明1?3と同様の理由により、本件訂正発明4?12も、甲1発明及び甲1?甲5に記載される内容に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、ナッツ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、及び魚油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。 【請求項2】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群がら選ばれる1種以上であり、 少なくともジオスゲニンを含有し、 油脂が、大豆油、ゴマ油及びオリーブ油から選ばれる1種以上であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための経口投与剤。 【請求項3】 ジオスゲニン、ジオスゲニン誘導体、及びこれらの薬学的に許容される塩から選ばれる1種以上の化合物が油脂に懸濁又は溶解していることを特徴とする経口投与剤であり、 ジオスゲニン誘導体が、(3β,25R)-3-(2-アミノエタノイロキシ)-スピロスト-5-エン、及び(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-5-エンからなる群から選ばれる1種以上であり、 油脂が、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、クルミ油、カボチャ種子油、レモン油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、及び乳脂から選ばれる1種以上であり、 神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防剤又は治療剤である、経口投与剤。 【請求項4】 神経細胞の軸索が機能不全となっていることが要因の疾患が、アルツハイマー病である、請求項3に記載の剤。 【請求項5】 神経細胞の軸索が機能不全となっていることが要因の疾患が、脊髄損傷である、請求項3に記載の剤。 【請求項6】 神経細胞の軸索の伸展剤である、請求項1?5のいずれか1項に記載の剤。 【請求項7】 変性した神経細胞の軸索の修復剤である、請求項1?6のいずれか1項に記載の剤。 【請求項8】 記憶増進剤又は記憶力低下の抑制剤である、請求項1?7のいずれか1項に記載の剤。 【請求項9】 軸索の機能不全が関与する疾患の治療又は予防に有用であることが知られている1以上の化合物、又はその薬学的に許容されている塩が併用される、請求項1?8のいずれか1項に記載の剤。 【請求項10】 剤形が、液剤、懸濁剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ゼリー剤、口腔内崩壊錠、及びチュワブル錠からなる群から選ばれる1種以上である請求項1?9に記載の剤。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか1項に記載の剤を含有する飲食品であり、 (1)神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の予防及び/又は治療、(2)神経細胞の軸索の伸展、(3)変性した神経細胞の軸索の修復、及び(4)記憶の増進又は記憶力低下の抑制から選択された少なくとも1つの用途に用いるための飲食品。 【請求項12】 健康機能食品である請求項11記載の飲食品。 【請求項13】 下記式(III) 【化2】 で表される(3β,25R)-3-フルオロスピロスト-エン。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-06-28 |
出願番号 | 特願2016-514946(P2016-514946) |
審決分類 |
P
1
652・
536-
YAA
(A61K)
P 1 652・ 537- YAA (A61K) P 1 652・ 121- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 裕美子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 滝口 尚良 |
登録日 | 2017-06-30 |
登録番号 | 特許第6165323号(P6165323) |
権利者 | レジリオ株式会社 |
発明の名称 | アルツハイマー病の治療剤を含む、神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の治療剤 |
代理人 | 勝又 政徳 |
代理人 | 岩谷 龍 |
代理人 | 岩谷 龍 |
代理人 | 勝又 政徳 |