• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1354085
異議申立番号 異議2018-700377  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-07 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6229197号発明「成型品およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6229197号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6229197号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6229197号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年6月24日を出願日とする出願であって、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報平成29年11月15日発行)、その後、平成30年5月7日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により請求項1?4に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成30年9月4日付けで取消理由が通知され、平成30年10月22日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年11月26日に申立人から意見書が提出された。その後、平成30年12月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成31年2月21日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、平成31年3月26日に申立人から意見書が提出されたものである。
なお、本件訂正請求がされたことにより、上記平成30年10月22日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6229197号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に
「前記突起部が前記繊維強化熱可塑性樹脂層を貫通して突き出ている、」とあるのを、
「前記突起部が前記繊維強化熱可塑性樹脂層(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)を貫通して突き出ている、」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2?4についても同様に訂正する。)

2.訂正の適否
(1)訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1の前記繊維強化熱可塑性樹脂層について、「(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、本件訂正前の明細書の段落【0023】の「繊維強化熱可塑性樹脂層16を形成する強化繊維は、長繊維が好ましい。特に、強化繊維は、繊維強化熱可塑性樹脂層16内において途切れのない連続した長繊維であることが好ましい。強化繊維が長繊維であれば、より高強度な成型品が得られやすい。
強化繊維が長繊維である繊維強化熱可塑性樹脂層16としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維に熱可塑性樹脂が含浸されたシート、該シートを2枚以上積層した積層体が挙げられる。前記シートを2枚以上積層する場合、それぞれのシートの長繊維の方向が交差するようにしてもよく、平行するようにしてもよい。」という記載及び同段落【0024】の「なお、繊維強化熱可塑性樹脂層16は、長繊維を一方向に引き揃えて熱可塑性樹脂を含浸したテープ状材料を製織してなるクロス材、強化繊維の織物に熱可塑性樹脂を含浸させたクロス材等により形成してもよい。
前記クロス材の織り方としては、例えば、平織、綾織、朱子織、三軸織等が挙げられる。」という記載に基づき、「一方向に引き揃えられた長繊維に熱可塑性樹脂が含浸されたシート」から、任意であった「平行するように」したもの、すなわち「連続繊維強化熱可塑性樹脂層」に含まれる全ての繊維が平行である「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層」を除くものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4は、本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。また、本件発明1?4をまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求に係る訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
基体部および該基体部から突出する突起部を有する熱可塑性樹脂成型体と、前記基体部における少なくとも一部の表面に配置された繊維強化熱可塑性樹脂層と、を有し、
前記繊維強化熱可塑性樹脂層を形成する強化繊維が炭素繊維からなる長繊維であり、
前記突起部が前記繊維強化熱可塑性樹脂層(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)を貫通して突き出ている、成型品。
【請求項2】
前記基体部がシート状であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂層が前記基体部の両面にそれぞれ配置されている、請求項1に記載の成型品。
【請求項3】
請求項1に記載された成型品の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂成型体の形成に用いる熱可塑性樹脂体の少なくとも一部の表面に前記繊維強化熱可塑性樹脂層が配置された成型材料を、型によって成型し、前記熱可塑性樹脂体の一部を前記繊維強化熱可塑性樹脂層の表面側へ流動させて前記突起部を形成する成型工程を有する、成型品の製造方法。
【請求項4】
前記成型材料が、シート状の前記熱可塑性樹脂体の両面に繊維強化熱可塑性樹脂層が配置された成型材料である、請求項3に記載の成型品の製造方法。」

2.取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開公報の発行がされた下記甲2の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。



以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」を「甲1発明」という。甲2に記載された発明を、そのカテゴリーに応じて、「先願発明(物)」及び「先願発明(方法)」という。

< 刊 行 物 等 一 覧>
甲1:特開2009-196146号公報
甲2(先願):特願2012-32715号(特開2013-169647号公報)
甲3:特開2013-116630号公報
甲4:特開2013-23184号公報
甲5:特開2012-76464号公報

【理由】 本件発明1及び3は、先願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された、先願発明(物)又は先願発明(方法)と同一であるから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3.取消理由(決定の予告)についての判断
(1)先願発明(物)及び先願発明(方法)
先願である甲2には、以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板とリブ付熱可塑性樹脂組成物とからなる複合成形体において、熱可塑性樹脂組成物のリブ形成面に前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板が配設されるとともに、前記リブの立設面の少なくとも一部に、前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の一部が該リブの立設面に沿って延設された屈曲部を有することを特徴とする複合成形体。
・・・
【請求項8】
前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の連続繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の複合成形体。
・・・
【請求項10】
一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板とリブ付熱可塑性樹脂組成物からなる複合成形体の製造方法において、成形型内にセットした一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板に熱可塑性樹脂組成物を射出成形するものであり、前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の端部の少なくとも一部を射出圧で折り曲げてリブを形成することを特徴とする複合成形体の製造方法。
・・・
【請求項12】
前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の屈曲部が、前記リブを形成する射出圧により、前記一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板を繊維方向に沿って切断させて形成することを特徴とする請求項11に記載の複合成形体の製造方法。
・・・」
イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板と熱可塑性樹脂組成物からなる、軽量で高強度、高剛性で且つ反りの少ない複合成形体およびその射出製造方法に関するものである。
【0002】
更に詳しくは、リブ構造を有する成形体のリブ付け根部分に一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板を積層することにより、射出成形品全体が一様に高強度化され、かつ反りの少ない射出複合成形体とその製造する方法に関するものである。」
ウ.「【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板がリブの付け根部分に配置された構造を有する複合成形体の模式図(1-A)と成形体の断面図(a-a断面)である。
・・・
【図3】一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板がリブの付け根部分に配置され、かつ一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の端部が外周リブの内側に折り曲げられた構造の模式図(3-A?3-C)、およびその断面図(c-c断面)である。
・・・
【図6】一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板を金型にセットした状態を示した模式図である。」
エ.「【0014】
本発明の第1の態様としては、図1に示すように、一方向に引き揃えた連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10と熱可塑性樹脂組成物20とからなる複合成形体1において、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10が、射出成形により形成されるリブ付の熱可塑性樹脂組成物20におけるリブ25の付け根部分に配置された構造を有する複合成形体1である。
【0015】
一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10を、熱可塑性樹脂組成物20のリブ形成面21に積層させると、複合成形体1の剛性重心位置に近い部分が一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10によって補強され、複合成形体1全体の反りを低減させることができる。・・・
【0016】
また、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10の一部または端部がリブ立設面26に接着する屈曲部11として成形されることが好ましい(a-a断面)。一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10は、熱可塑性樹脂組成物20のリブ形成面21のほぼ全面にわたるように1枚配置してもよいし、複数枚をリブ25が形成される位置に端部が配置されるようにリブ形成面21に積層させることもできる。熱可塑性樹脂組成物20を射出成形すると、樹脂組成物の流動圧で曲がり、屈曲部11が形成される。・・・」
オ.「【0018】
さらに、本発明の第3の態様として、図3に示すように、複合成形体1の外周に立ち壁28がある場合、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10の端部を、リブ形成面21からリブ立設面26または立ち壁28に連続的に挿入された形状(c-c断面)を有する複合成形体とすることができる。このような形状にすると、複合成形体1の剛性アップとともに、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10の端末処理が容易となり生産性が向上し好ましい。・・・」
カ.「【0020】
本発明による複合成形体1の製造方法は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10をリブ形成面21と同じ面に積層するため、キャビティのリブ形成側に、リブ25が形成される長手方向と平行になる方向に一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10をセットし、熱可塑性樹脂組成物20を射出成形して得る方法である。この際、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10を、リブ25が形成される位置を外してセットすることも可能であるが、生産性の面から一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10を加工することなく、リブ25が形成されるキャビティの上にセットする形態が好ましい。熱可塑性樹脂組成物20を射出した際の樹脂の流動圧で、リブ25が形成されるキャビティ上の一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10は強化繊維の配向に沿って破断し、破断した部分からリブ25に熱可塑性樹脂組成物20が充填される。このとき、破断した部分の一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10は、熱可塑性樹脂組成物20の射出圧によって、リブ25が形成されるキャビティに沿って折り曲げられた屈曲部11が形成される。
【0021】
十字リブやT字リブなど交差したリブ構造27を持つ複合体を成形する際は、上述したようにリブ25を形成した後、金型にあらかじめ設けられたキャビティに沿って熱可塑性樹脂組成物20が十字状やT字状に形成することができる。図2のように、リブ25に直交する十字状やT字状に限定されず、斜行させたり、放射状に配置させたリブ構造とすることも可能である。
【0022】
いずれの場合においても、リブ構造27は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10上に、強化繊維を切断することなく配置されていることから、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10自身の長手方向の繊維長による補強効果を発揮できることに加え、リブ構造27による補強効果も相乗的に発揮できるものである。なお、強化繊維による補強効果が十分発揮されることが期待できる場合や、リブ構造27を複雑形状とする必要がある場合等は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板10の一部に切断部(スリット)を意図的に設け、この切断部から射出圧によってリブ構造27を形成することも可能である。・・・」
キ.「【0040】
また、実施例および比較例に用いる熱可塑性樹脂、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板を以下のように準備した。
ナイロン6樹脂:東レ社製“アミラン”(登録商標)CM1011G30
・・・
ポリプロピレン樹脂:プライムポリマー社製“モストロン”(登録商標)L4070
PPS樹脂:東レ社製“トレリナ”(登録商標)A604
【0041】
また、上記樹脂に適用する繊維状充填材は以下の通りである。
炭素繊維 :東レ社製“トレカ”(登録商標)T700S(直径7μm、PAN系炭素繊維)。
【0042】
[一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板:A-1]
東レ株式会社製炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S(12K)を引き揃え、PPS樹脂で充満された含浸ダイに投入した後、引き抜き成形によって、幅50mm、厚み0.28mm、連続繊維含有量50重量%の一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を得た。」
ク.「【0045】
[一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板:A-4]
一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を、連続繊維の配向が同じ方向になるように4枚積層し、熱プレスして、幅50mm、厚み1.1mm、連続繊維含有量50重量%の一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4を得た。」
ケ.「【0047】
[実施例1]
図3-Bに示す幅50mm、長さ150mm、高さ10mm、肉厚2mmの箱形状の中央部に高さ10mm、厚み2mmのリブが付いた金型を130℃に温調し、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を幅149.5mm長にカットして金型のリブ面にセットし、東レ株式会社製PPS樹脂“トレリナ”(登録商標)A604を320℃で射出成形して複合成形体を得た。得られた特性は表1に示す通りであった。
【0048】
[実施例2]
一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4を用いた以外は実施例1と同様とした。得られた特性は表1に示す通りであった。」
コ.「【符号の説明】
【0058】
1 複合成形体
10 一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板
11 屈曲部
20 熱可塑性樹脂組成物
21 リブ形成面
25 リブ
26 リブ立設面
27 リブ構造
28 立ち壁
・・・
60 可動側の金型
70 固定側の金型
80 金型内にセットされた一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板
90 スプル」
サ.「【図1】



シ.「【図3】



ス.「【図6】



セ.甲2についての認定事項
a.上記記載事項オ.の「さらに、本発明の第3の態様として、図3に示すように、複合成形体1の外周に立ち壁28がある場合、・・・複合成形体とすることができる。・・・」、上記記載事項ウ.の「・・・【図3】一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板がリブの付け根部分に配置され、かつ一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の端部が外周リブの内側に折り曲げられた構造の模式図(3-A?3-C)、およびその断面図(c-c断面)である。・・・」、及び、図3の図示より、図3-Bに示されるのは、(金型ではなく)複合成形体であるから、上記記載事項ケに示した「【0047】」は、
「[実施例1]
図3-Bに示す幅50mm、長さ150mm、高さ10mm、肉厚2mmの箱形状の中央部に高さ10mm、厚み2mmのリブが付いた複合成形体を製造するために金型を130℃に温調し、」と記載されていると解するのが相当である。(下線部分は当審が補った箇所である。)
b.上記記載事項ク.及びケ.並びに図3(3-B)の図示より、[実施例2]において、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板は、「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を4枚積層した、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4」であって、かつ、リブは、熱可塑性樹脂組成物から、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の反対側に向かって突き出しているといえる。
c.上記記載事項カ.及びケ.より、[実施例2]において、複合成形体の製造方法は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板をリブ形成面と同じ面に積層するため、金型のリブ形成側に、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板をセットし、熱可塑性樹脂組成物を射出成形してリブを形成する方法であるといえる。

よって、甲2には、上記記載事項ア.?ス.及び上記認定事項セ.a.?c.より、以下の先願発明(物)が記載されている。
「連続繊維が炭素繊維である一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板とリブ付熱可塑性樹脂組成物とからなる複合成形体であって、熱可塑性樹脂組成物のリブ形成面には、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板が配設され、得られる複合成形体において、リブは、熱可塑性樹脂組成物から、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を4枚積層した、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4)の反対側に向かって突き出している、複合成形体。」

また、甲2には、上記記載事項ア.?ス.及び上記認定事項セ.a.?c.より、以下の先願発明(方法)が記載されている。
「先願発明(物)の複合成形体の製造方法において、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板をリブ形成面と同じ面に積層するため、金型のリブ形成側に、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板をセットし、熱可塑性樹脂組成物を射出成形してリブを形成する、複合成形体の製造方法。」

(2)本件発明1について
ア.本件発明1と先願発明(物)との対比
本件発明1と先願発明(物)を対比すると、先願発明(物)の「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板」、「リブ付熱可塑性樹脂組成物」、「リブ」、「複合成形体」は、それぞれ、本件発明1の「繊維強化熱可塑性樹脂層」、「基体部および該基体部から突起部を有する熱可塑性樹脂成型体」、「突起部」、「成型品」に相当する。
また、先願発明(物)の「(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板の)連続繊維が炭素繊維である」は、本件発明1の「繊維強化熱可塑性樹脂層を形成する強化繊維が炭素繊維からなる長繊維であり」に相当する。
さらに、先願発明(物)の「熱可塑性樹脂組成物のリブ形成面には、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板が配設され」は、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板が配設された「熱可塑性樹脂組成物のリブ形成面」は、「熱可塑性樹脂組成物のリブ形成面」のうちリブを除く面といえるから、本件発明1の「(繊維強化熱可塑性樹脂層が)前記基体部における少なくとも一部の表面に配置された」に相当する。
さらに、先願発明(物)の「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を4枚積層した、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4)」は、本件発明1の「繊維強化熱可塑性樹脂層(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)」と、「繊維強化熱可塑性樹脂による平らなもの」である限度で、一致する。
以上のとおりであるから、本件発明1と先願発明(物)とは、次の<相違点1>において、少なくとも相違する。

<相違点1>
「繊維強化熱可塑性樹脂による平らなもの」について、本件発明1の「繊維強化熱可塑性樹脂層」は、「(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)」ものであるのに対し、先願発明(物)の「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板」は、「(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-1を4枚積層した、一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板A-4)」である点。

イ.相違点1についての検討
上記<相違点1>について検討する。
<相違点1>は、「熱可塑性樹脂による平らなもの」を強化するための「繊維」の「熱可塑性樹脂」における配向方向についての相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点であって、かつ、甲2発明(物)は、「一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂板」を用いることを前提とした発明であることが明らかであるから、上記<相違点1>は、設計的な事項でもなく、単なる周知技術の付加でもない。
そうすると、本件発明1は、先願発明(物)と同一であるとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3と先願発明(方法)との対比
本件発明1と先願発明(方法)を対比すると、先願発明(方法)の「先願発明(物)の複合成形体」は、上記(2)ア.で述べたように、本件発明3の「請求項1に記載された成型品」に相当し、先願発明(方法)の「先願発明(物)の複合成形体の製造方法」は、本件発明3の「請求項1に記載された成型品の製造方法」に相当する。そうすると、 本件発明3と先願発明(方法)とは、上記(2)ア.に示した<相違点1>において相違する。
そして、上記(2)イ.に示したように、<相違点1>は実質的な相違点であって、設計的事項もなく、単なる周知技術の付加ではないから、本件発明3と先願発明(方法)は、同一であるとはいえない。
よって、本件発明3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではい。

(4)平成31年3月26日に申立人が提出した意見書について
申立人は、本件発明1?4について、「織物構造は、・・・甲第7号証や甲第8号証に図示されるとおり、繊維束が緻密に交差した構造であり、繊維束が容易に”割ける”状態にはない。
そうすると、本件訂正発明において、どのようにしたら繊維強化熱可塑性樹脂層を貫通可能としたのかが不明である。」(5ページ1?5行)から、「本件訂正発明1?4は、発明の詳細な説明に基いて実施可能ではないから(特許法第36条第4項第1号)、取り消されるべきものである(同法第113条第4号)。」(2ページ8?10行)と主張する。
そこで、この主張について検討する。
本件特許明細書の段落【0045】及び【0046】には、
「【0045】
[実施例1]
図3に例示した成型材料1Aの熱可塑性樹脂体10Aとして、ポリプロピレン(商品名「ノバテックPP FY4」、日本ポリプロ社製)からなる170mm×120mm×2.0mmのシート状の熱可塑性樹脂体を作成した。また、繊維強化熱可塑性樹脂層16,18として、炭素繊維(商品名「パイロフィル TR50S」、三菱レイヨン社製)からなる長繊維を一方向に引き揃えた強化繊維に酸変性ポリプロピレン(商品名「モディック P958V」、三菱化学社製)を含浸させ、これを直交積層することで、強化繊維の体積含有率が33%、170mm×120mm×0.25mmのシート状の繊維強化熱可塑性樹脂層を作成した。
【0046】
次いで、得られた繊維強化熱可塑性樹脂層18、熱可塑性樹脂体10Aおよび繊維強化熱可塑性樹脂層16をこの順に積層して成型材料1Aとし、該成型材料1Aを赤外線加熱炉によって240℃に予熱した。その後、予熱した成型材料1Aを図4に例示した金型100の下型110上に移し、上型112を降下させて金型100を閉じてプレス成型し、成型品1を得た。該プレス成型における金型100の温度は130℃、成型圧力は22MPa、成型時間は2分とした。基体部12の厚みは1.0mm、突起部14の高さは5mmであった。
得られた成形品1は、突起部14の強度が高かった。」との記載がある。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「繊維強化熱可塑性樹脂層16,18」として、炭素繊維からなる長繊維を一方向に引き揃えた強化繊維に酸変性ポリプロピレンを含浸させ、これを直交積層したものを用いる[実施例1]記載され、当該[実施例1]における「突起部14」は、「強度が高」いものであって、「繊維強化熱可塑性樹脂層16,18」を貫通してできたものであることが明らかであるから、上記主張は当を得たものではない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないとはいえず、本件発明1?4のそれぞれに係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。

4.平成30年12月15日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立て理由について
(1)甲1発明を主引用発明とする特許法第29条第1項第3号、及び、特許法第29条第2項
ア.本件発明1及び2について
甲1には、次の甲1発明(物)が記載されている(【請求項1】、【0025】、【0032】?【0033】、【0036】、【0041】?【0043】、図7、及び図8-a?図8-cを参照されたい)。
「炭素繊維等の強化繊維束である、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料(A)層および少なくとも突起部形成用の溝部の投影面積以上の投影面積を有する形状である成形材料(B)層を積層してプレス成形して得られる成形体であって、成形体のリブ、ボス以外の表面部分は、成形材料(A)からなる、成形体。」

そこで、本件発明1と上記取消理由に示した甲1発明(物)とを対比すると、少なくとも以下の<相違点2>において相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「前記突起部が前記繊維強化熱可塑性樹脂層を貫通して突き出ている」ものであるのに対し、甲1発明(物)がそのようなものであるか不明である点。

そこで検討する。甲1には、「突起部」が、「成形材料(A)」及び「成形材料(B)」のうち、一方が、他方を貫通して、突き出たものであることの記載はないし、示唆する記載もない。また、この点については甲3?甲5にも記載されていないし、示唆する記載もない。
むしろ、「成形材料(A)」及び「成形材料(B)」はいずれも「強化繊維」と「熱可塑性樹脂」とから構成された同じ材料(甲1の段落【0067】参照。)であるから、「成形材料(B)」から「熱可塑性樹脂」が押し出されて、「成形材料(A)」を貫いて突出することは、「成形材料(B)」に含まれている強化繊維によって、「成形材料(B)」の「熱可塑性樹脂」の動きが妨げらるので、困難であると解されるから、甲1発明(物)には、「成形材料(B)」が「成形材料(A)」を貫通して、突き出たものとすることの、阻害事由が存在するといえる。
よって、上記<相違点2>は、実質的な相違点である。また、甲1発明(物)について、上記<相違点2>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものではない。
そして、本件発明1は、上記<相違点2>に係る構成を備えることで、(突起部の)「製造が簡便で、かつ突起部の強度が高い。」(本件特許明細書段落【0010】)との格別な作用効果を奏する。
以上のとおりであるから、本件発明1と本件発明1を引用する本件発明2は、甲1発明(物)ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本件発明1及び2は、甲1発明(物)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

申立人は、甲1の段落【0032】の「これにより、プレス成形において、成形材料(A)が図4に示される得られた成形体(6)のリブ、ボス以外の表面部分が形成されることで、成形体のエッジ部分への未充填を防止することが出来るため、」という記載を根拠に、「成形材料(A)がリブ等以外であるから、リブ等そのものは、成形材料(B)からなることが開示されているに等しい。」(本件特許異議申立書23ページ17?18行)と主張している。しかし、「リブ、ボス以外の表面部分」が「成形材料(A)」により形成されるからといって、直ちに、「リブ、ボス」における表面部分が(成形材料(A)ではなく)「成形材料(B)」からなるとまではいえない。また、上記の阻害事由に鑑みれば、プレス成形によって「成形材料B」が「成形材料(A)」を貫くのではなく、「成形材料(B)」により、「成形材料(A)」が、金型のリブやボスを形成する凹所へ押し出されると解することが適当である。

イ.本件発明3及び4について
甲1には、次の甲1発明(方法)が記載されている(【請求項1】、【0025】、【0032】?【0033】、【0036】、【0041】?【0043】、図7、及び図8-a?図8-cを参照されたい)。
「炭素繊維等の強化繊維束である、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料(A)および少なくとも突起部形成用の溝部の投影面積以上の投影面積を有する形状である成形材料(B)を積層してプレス成形する、成形体のプレス成形方法。」

本件発明3及び4は、本件発明1を引用する方法発明であるから、上記<相違点2>に係る構成を備えたものの製造方法についての発明である。そうすると本件発明3及び4のいずれかと甲1発明(方法)との間でも、上記<相違点2>において相違するから、上記ア.に示したように、本件発明3と本件発明3を引用する本件発明4は、甲1発明(方法)ではないし、甲1発明(方法)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2及び4について
上記先願発明(物)あるいは先願発明(方法)に基づく特許法第29条の2
上記3.(2)及び(3)に示したように、本件発明1は先願発明(物)と同一ではなく、本件発明3は、先願発明(方法)と同一ではない。
そうすると、本件発明1を引用し、さらに技術的に限定された本件発明2も先願発明(物)と同一ではない。また、本件発明3を引用し、さらに技術的に限定された本件発明4も、先願発明(方法)と同一であるとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?4に係る特許については、平成30年12月25日付けの取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び本件特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体部および該基体部から突出する突起部を有する熱可塑性樹脂成型体と、前記基体部における少なくとも一部の表面に配置された繊維強化熱可塑性樹脂層と、を有し、
前記繊維強化熱可塑性樹脂層を形成する強化繊維が炭素繊維からなる長繊維であり、
前記突起部が前記繊維強化熱可塑性樹脂層(一方向連続繊維強化熱可塑性樹脂層であることを除く。)を貫通して突き出ている、成型品。
【請求項2】
前記基体部がシート状であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂層が前記基体部の両面にそれぞれ配置されている、請求項1に記載の成型品。
【請求項3】
請求項1に記載された成型品の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂成型体の形成に用いる熱可塑性樹脂体の少なくとも一部の表面に前記繊維強化熱可塑性樹脂層が配置された成型材料を、型によって成型し、前記熱可塑性樹脂体の一部を前記繊維強化熱可塑性樹脂層の表面側へ流動させて前記突起部を形成する成型工程を有する、成型品の製造方法。
【請求項4】
前記成型材料が、シート状の前記熱可塑性樹脂体の両面に繊維強化熱可塑性樹脂層が配置された成型材料である、請求項3に記載の成型品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-27 
出願番号 特願2013-131709(P2013-131709)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 久保 克彦
渡邊 豊英
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6229197号(P6229197)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 成型品およびその製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 大浪 一徳  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 鈴木 三義  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 高橋 詔男  
代理人 伏見 俊介  
代理人 高橋 詔男  
代理人 大浪 一徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ