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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1354107
異議申立番号 異議2019-700233  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-26 
確定日 2019-07-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6396215号発明「塗料組成物及び塗膜形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6396215号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6396215号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年(2013年)12月20日(優先権主張平成24年(2012年)12月28日、日本国)を国際出願日として出願され、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、同月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年3月26日に特許異議申立人である日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明及び本件特許

特許第6396215号号の請求項1?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明及び特許を、項番号に合わせて「本件発明1」、「本件特許1」などという。)。
「【請求項1】
金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、又は鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料と、ビヒクルである樹脂組成物と、樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として0.5質量部以上4.5質量部以下である粘性制御剤とを含む塗料組成物であって、
硬化膜厚として膜厚30μmとなるよう前記塗料組成物を塗装して得られた塗膜の全光線透過率が40-95%の範囲内である塗料組成物。
【請求項2】
鱗片状光輝性顔料の含有量が塗料中の樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として0.05?5質量部の範囲内である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記粘性制御剤がベントナイト又はポリアマイドである請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
被塗物に請求項1?3のいずれか一項に記載された塗料組成物を、硬化塗膜として膜厚が15?40μmとなるように塗装することを含む塗膜形成方法。
【請求項5】
前記被塗物に鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、ベース塗膜の上に前記塗料組成物を塗装することを含む請求項4に記載の塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項1?3のいずれか一項に記載された塗料組成物である塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装することを含む塗膜形成方法。
【請求項7】
トップクリヤー塗料が艶調整剤及び/又は着色顔料を含むものである請求項6に記載の塗膜形成方法。
【請求項8】
鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装して形成されたベース塗膜と、
ベース塗膜上に請求項1?3のいずれか一項に記載された塗料組成物を塗装して形成された塗膜と、
前記塗料組成物を塗装して形成された塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装して形成されたトップクリヤー塗膜と
を備えた複層塗膜。」

第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、主たる証拠として下記甲第1号証を、従たる証拠として下記甲第2?7号証を、それぞれ提出し、本件特許1?8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものである旨主張する。

甲第1号証:特開2000-301057号公報
甲第2号証:特開2000-301057号公報に記載の実施例に関する 実験成績証明書
甲第3号証:特開2001-162219号公報
甲第4号証:特開2003-88801号公報
甲第5号証:特開2002-80776号公報
甲第6号証:特開2010-82598号公報
甲第7号証:大木道則ら編集、化学大辞典、第1版第1刷、1989年1 0月20日、株式会社東京化学同人発行、第1736頁の「 粘性」の項
以下、甲各号証を、単に「甲1」などと略して記載する。

第4 甲1?7の記載事項

1 甲1の記載事項
主たる証拠として提出された甲1には、次の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】下塗りおよび、硬化または未硬化の中塗り塗膜を形成した基材上に、乾燥膜厚が5?35μmになるように塗装された塗膜の塗着1分後の塗膜の不揮発分が50?75%である鱗片状アルミニウム顔料含有メタリック塗膜と、乾燥膜厚が15?50μmになるように塗装された塗膜の塗着1分後の塗膜の不揮発分が60?80%である干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜及び、トップクリヤー塗膜とを、順次形成する干渉色を有するシルバー調メタリック塗膜の形成方法。」
・「【0009】メタリックベース塗料
本発明のメタリック塗膜形成方法でメタリックベース塗膜の形成に用いられるメタリックベース塗料は、鱗片状アルミニウム顔料の他に、有機系あるいは無機系の各種着色顔料、塗膜形成性熱硬化性樹脂および硬化剤等を含有する。
・・・
【0016】また、上記メタリックベース塗料には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を添加することが好ましい。粘性制御剤は、ムラ及びたれのない塗膜を良好に形成するために用いられるのであり、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。
【0017】このようなものとしては例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメタイト粘土、モンモリナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料等、極性基の相互作用を利用する非架橋あるいは架橋型の樹脂あるいは粒子を粘性制御剤として挙げることができる。
【0018】但し、塗膜化した場合に光沢、発色性に影響を及ぼさないものが特に好ましく、特に好ましい粘性制御剤としては、極性基の相互作用を利用する非架橋あるいは架橋型の樹脂あるいは粒子を、粘性制御剤として挙げることができる。
【0019】なかでも好適な架橋性樹脂粒子としては、有機溶剤に不溶で、平均粒子径が0.02?0.5μmの架橋性樹脂粒子がよい。平均粒子径が上限を越えると安定性が低下する。上記の架橋性樹脂粒子は、両イオン性基を分子内に有する単量体を多価アルコール成分のひとつとして合成したアルキド樹脂あるいはポリエステル樹脂等の乳化能を有する樹脂と、重合開始剤との存在下に、水性媒体中でエチレン性不飽和モノマーを乳化重合させることにより得られるものが好ましい。」
・「【0028】干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料
本発明のメタリック塗膜の形成方法において、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜層を形成するために使用される干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料は、一般にトップクリヤーとして使われるクリヤー塗料を用いて製造できる。上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料は、干渉光を有する光輝性顔料の他に、一般のクリヤー塗料と同じように塗膜形成性の熱硬化性樹脂、硬化剤および粘性制御剤等を含有する。要すれば、トップクリヤーとして用いられているクリヤー塗料に干渉光を有する光輝性顔料を分散することで製造することもできる。
【0029】上記熱硬化性樹脂は、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂を利用することができ、これらはアミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用い得る。
【0030】また、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組合わせ、あるいは酸基・エポキシ基による硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0031】上記干渉光を有する光輝性顔料としては、干渉マイカ粉、アルミナフレーク、高輝度アルミニウム粉等が挙げられる。
【0032】上記干渉マイカ粉としては、光輝性顔料として、通常メタリックベース塗料に用いられるもので、例えば干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ホワイトマイカ粉等が挙げられる。形状は特に限定されないが、例えば鱗片状のものが好ましく、平均粒径(D50)が2?50μmであり、且つ厚さが0.1?3μmであるものが適している。
・・・
【0035】上記アルミナフレークとしては、酸化アルミニウム(Al2O3)を二酸化チタン等の金属酸化物で被覆したもので、平均粒径(D50)10?30μm、厚み0.3?0.4μmのものである。また、表面平滑性が高く、粒度分布がシャープであるため微粒子による光散乱が少ない。更に、高アスペクト比の薄片状アルミナ結晶の表面を金属酸化物で被覆しているため、パール感を有する。
・・・
【0038】上記の高輝度アルミニウム粉としては、平均粒径約(D50)5?50μm、厚みが0.1?10μmの鱗片状アルミニウム顔料、特に平均粒径が約15?30μmの殆ど微粉を含まない鱗片状アルミニウム顔料を使用する場合に、意匠性に優れた塗膜を形成でき、更に平均粒径約15?25μm、厚みが0.2?2.5μmの高輝度アルミニウム顔料を含有する場合には、光輝感が非常に強く、意匠性に優れた塗膜を形成できる。
【0039】例えば、鱗片状の高輝度アルミニウム顔料としては、東洋アルミニウム社製で平均粒径16μmの「アルペースト 91-0562(商品名)」(固形分72%)が挙げられる。
【0040】上記干渉光を有する光輝性顔料の含有量(PWC%)は、0.01%?10.0%であり、上限を越えると塗膜外観が低下し、下限を下回ると光輝感が低下する。好ましくは、0.05%?9.0%であり、より好ましくは、0.1%?8.0%である。
【0041】本発明のメタリック塗膜の形成方法で使用される干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料は、更に上述の粘性制御剤を含んでいる。
【0042】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料への粘性制御剤の添加量は、塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対して0.01?10重量部であり、好ましくは0.02?8重量部、より好ましくは0.03?6重量部の量で添加される。粘性制御剤の量が、10重量部を越えると、外観が低下し、0.01重量部を下回ると粘性制御効果が得られず、層間でなじみや反転をおこす原因となる。
【0043】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料の全固形分量は、20?60重量%であり、好ましくは35?55重量%である。
【0044】本発明で用いる干渉マイカ粉含有クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調製剤等を用いることができる。」
・「【0057】メタリック塗膜の形成方法
本発明のメタリック塗膜の形成方法においては、下塗りおよび硬化または未硬化の中塗り塗膜を形成した基材上に、まず鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料を塗布する。
・・・
【0062】本発明のメタリック塗膜形成方法では更に、未硬化のメタリックベース塗膜の上にウエットオンウエット塗装で、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料を塗布し、その後に塗膜を硬化させる塗膜形成方法が意匠性の点から好ましい。
・・・
【0064】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料は、メタリックベース塗膜上に、乾燥膜厚が15?50μmになるように塗装された塗膜の塗着1分後の塗膜の不揮発分が60?80%、より好ましくは乾燥膜厚が18?40μmになるように塗装された塗膜の塗着1分後の塗膜の不揮発分が65?75%である。上限を越えると、塗装時にワキ等の不具合が起こることもあり、下限を下回ると、下地のキラキラ感が認識できないように扁平顔料が均一配向してしまう。
【0065】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜層は、干渉光を有する光輝性顔料の配向が、できるだけランダムになるよう塗装し、すなわち塗膜の不揮発分が高不揮発分率になるよう塗装設定することが好ましい。
【0066】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜の下地となるメタリックベース塗膜層は、溶剤揮散による塗膜の膜厚収縮を利用して光輝材を高度に配向させ、高いフリップフロップ性を発現させる必要があるが、本干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜層は、従来の光輝材含有塗料とは違い、より高い塗膜不揮発分にすること、すなわち溶剤揮散による塗膜の膜厚収縮によって、光輝性顔料の均一配向が起きないようにする必要がある。
【0067】すなわち、下地となるメタリックベース塗膜層は、光輝性アルミニウム顔料を均一で緻密に配向させ、キラキラ感がよく認識できるように塗膜の不揮発分を調整し、且つ、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜層は、図3に示すように干渉光を有する光輝性顔料が配向しないようにランダムになるように塗着1分後の塗膜の不揮発分を調整することが好ましい。」
・「【0075】
【実施例】以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。尚、以下に於いて「部」とあるのは「重量部」を意味する。
【0076】製造例
架橋性樹脂粒子の調製
・・・
【0081】メタリックベース塗料の調整
・・・
【0082】干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料の調整
干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料として下記に示す配合(干渉マイカ粉のPWC=5%)で、塗料Bを調整した。
イリオジンウルトラ 7235 W II 3.50部
(メルクジャパン社製干渉マイカ粉)
熱硬化性アクリル樹脂 38.40部
(日本ペイント社製熱硬化性アクリル樹脂、酸価20、水酸基価95、数平均分子量4000、Tg10℃、固形分60%)
ユーバン20N60 25.30部
(三井東圧社製ブチル化メラミン樹脂、固形分60%)
チヌビン900 0.20部
(チバスペシャリテイーケミカル社製紫外線吸収剤)
サノールLS-292 0.10部
(三共有機合成社製光安定剤)
アクリル系表面調整剤 0.20部
上記製造例の架橋樹脂粒子 12.50部
(日本ペイント社製、構造粘性付与剤、固形分20%)
nブタノール 3.00部
酢酸ブチル 3.00部
キシロール 7.80部
トルエン 6.20部
合計 100.20部
【0083】トップクリヤー塗料の調整
・・・
【0085】実施例1
メタリック塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、20cm×30cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU-50(日本ペイント社製、カチオン型電着塗料)」を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。次に、得られた電着塗膜上に、グレー色の中塗り塗料「オルガP-2グレー(日本ペイント社製、ポリエステル・メラミン樹脂系塗料)」を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間焼き付け下地塗膜を作成した。
【0086】得られた中塗り塗膜上に、上記塗料Aのメタリックベース塗料を、乾燥膜厚が15μmとなるように、2分間隔の2ステージで「オートREA(ランズバーグ社製エアー静電塗装機)」により塗装した。塗着1分後の塗料固形分(塗着NV)は63%であった。4分間のインターバルの後、ウエットオンウエットで、下記塗料Bの干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料を、乾燥膜厚が25μmとなるように、μμベルにより回転霧化型静電塗装した。塗着1分後の塗料固形分は71%であった。
【0087】次に7分間のセッテイングの後、140℃で20分間焼き付けた後、塗料Cのクリヤー塗料「スーパーラック O-150クリヤー(日本ペイント社製、アクリル・メラミン樹脂系塗料)」を、乾燥膜厚が30μmとなるように、μμベルにより回転霧化型静電塗装した。塗着1分後の塗料固形分は68%であった。140℃で20分間焼き付け、評価用塗膜を作成した。
・・・
【0092】実施例2、3および比較例1
実施例2は、トップクリヤー塗料を上記の塗料Dに置換したものであり、実施例3は、実施例1のトップクリヤー塗料の塗装方法を手持ち用エアー霧化型スプレーガンによる塗装(以後「手吹き」という)に置換したものである。比較例1は、実施例1のメタリックベース塗膜層、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料およびトップクリヤー塗料の塗装を手吹きによる塗装に置換したものである。」

2 甲2?7の記載事項
従たる証拠として提出された甲2?7には、おおむね次の事項が記載されている(後記第5の当審の判断において引用した記載事項を中心に、甲2?7の記載を摘記した。)。
(1) 甲2の記載事項
甲2には、特許異議申立人である日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社の社内において、従業者が、甲1の【実施例】の記載に従って、【0082】に記載の「干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料」(塗料B)を調製し、本件特許明細書の【0060】の記載に従って、その塗膜の全光線透過率を測定した結果、その数値が64%であったという追試結果が記載されている。
(2) 甲3の記載事項
甲3には、「光輝性塗膜形成方法および塗装物」の発明に関する、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】下記(1)?(3)の塗膜形成工程を順次施す光輝性塗膜形成方法。
(1)基材に光輝性ベース塗膜を形成する工程、(2)金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料を含有する光輝性顔料含有クリヤー塗膜を少なくとも1層形成する工程、(3)クリヤートップ塗膜を形成する工程」
・「【0033】上記光輝性顔料含有クリヤー塗膜の光輝剤として用いる金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料は、干渉作用を有する立体感のあるキラキラした輝度感を付与するものである。上記金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料は、ガラスフレークの表面に酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物を被覆した光輝性顔料である。 」
(3) 甲4の記載事項
甲4には、「光輝性塗膜形成方法および塗装物」の発明に関する、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】基材に、平均粒子径が15?25μm、粒子平均厚みが0.5?1.5μm 、ロジン-ラムラー線図における勾配nが2.5以上のアルミニウムフレーク顔料を含有する光輝性ベース塗膜層を形成した後、
前記光輝性ベース塗膜層上に{アスペクト比率=平均粒子径÷粒子平均厚み}が、100?400であるアルミニウムフレーク顔料を含有し、隠蔽膜厚が20μm以上の光輝性クリヤー塗膜層を形成し、
さらに前記光輝性クリヤー塗膜層上にトップクリヤー塗膜層を形成する光輝性塗膜形成方法。
【請求項2】前記光輝性クリヤー塗膜層の光輝剤が、前記アルミニウムフレーク顔料に、さらに金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、金属酸化物被覆マイカ顔料、及び金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料を併用する請求項1記載の光輝性塗膜形成方法。」
・「【0038】上記{アスペクト比率=平均粒子径÷粒子平均厚み}が、100?400であるアルミニウムフレーク顔料の効果を損なわない範囲のその他の光輝性顔料を併用できるが、その他の光輝性顔料としては、好ましくは金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、金属酸化物被覆マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料が挙げられ、より好ましくは金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、金属酸化物被覆マイカ顔料、及び金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料が挙げられる。」
(4) 甲5の記載事項
甲5には、「1コートメタリック塗料組成物」の発明に関する、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 非水系の分散媒に重合体粒子が分散安定剤により分散された非水系重合体分散液、アクリル樹脂および光輝材を配合してなる1コートメタリック塗料組成物であって、前記アクリル樹脂の溶解性パラメーター値(SP1)と前記非水系重合体分散液の分散安定剤の溶解性パラメーター値(SP2)との差(SP1-SP2)が+0.5?+1.5であることを特徴とする1コートメタリック塗料組成物。
・・・
【請求項3】 光輝材が金属または二酸化チタンで被覆されたガラスフレーク顔料である請求項1または2記載の1コートメタリック塗料組成物。」
(5) 甲6の記載事項
甲6には、「積層塗膜形成方法および塗装物」の発明に関する、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
電着塗膜が形成された基材の上に、中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、順次ウェットオンウェットで塗装する工程、および
塗装された未硬化の3層の塗膜を同時に焼付け硬化させる工程、
を包含する積層塗膜形成方法であって、
該中塗り塗料組成物が、下記成分;
イソフタル酸を80モル%以上含有する酸成分と多価アルコールとの重縮合によって得られ、ガラス転移点(Tg)が40?80℃である水酸基含有ポリエステル樹脂と、脂肪族ジイソシアネート化合物とを反応して得られる、数平均分子量(Mn)が1200?3000のウレタン変性ポリエステル樹脂(a)40?56質量%;
メラミン樹脂(b)10?30質量%;
ヘキサメチレンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートとこれと反応する化合物と反応して得られるイソシアネート化合物を、活性メチレン基を有する化合物でブロックした、ブロックイソシアネート化合物(c)15?30質量%;
コアシェル構造を有する非水ディスパージョン樹脂(d)4?15質量%;
但し(a)?(d)の量は塗料樹脂固形分質量を基準にする;および
長径が1?10μmであり、数平均粒径が2?6μmである扁平顔料(e)0.4?2質量部、但し(e)の質量部は塗料樹脂固形分質量100質量部に対する量である;
を含有する溶剤型中塗り塗料組成物であり、および、
該ベース塗料組成物が下記成分;
数平均分子量(Mn)1000?20000、水酸基価10?200および酸価1?80mgKOH/gであるアクリル樹脂(ア)10?90質量%;
メラミン樹脂(イ)5?60質量%;
有機ベントナイト(ウ)0.1?10質量%;
マレイン酸モノアルキルエステル(エ)0.2?4質量%;
但し(ア)?(エ)の量は塗料樹脂固形分質量を基準にする;および
光輝性顔料(オ)顔料濃度(PWC)1?23.0質量%、但し塗料固形分質量を基準とする;
を含有する溶剤型ベース塗料組成物であって、および
該クリヤー塗料組成物が、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)を含有する溶剤型クリヤー塗料組成物である、
積層塗膜形成方法。」
・「【0070】
ベース塗料組成物中に有機ベントナイト(ウ)が含まれることによって、ベース塗料組成物に構造粘性がもたらされると考えられる。ベース塗料組成物に構造粘性がもたらされることによって、噴霧装置における塗料の微粒化にともなう緻密なメタリック感が付与され、塗膜外観が向上することとなる。さらに、メタリックベース塗膜とクリヤー塗膜との微少な混じりあい(混層)による色戻りが抑制されることとなる。
【0071】
有機ベントナイト(ウ)の配合量は、ベース塗料組成物のアクリル樹脂(A)、メラミン樹脂(イ)、有機ベントナイト(ウ)およびマレイン酸モノアルキルエステル(エ)などの総固形分に対して0.1?10質量%である。有機ベントナイト(ウ)の含有量が0.1質量%未満である場合は、構造粘性が発現せず、得られる積層塗膜の平滑性が劣ることとなる。一方で、有機ベントナイト(ウ)の含有量が10質量%を超える場合は、中塗り塗膜およびクリヤー塗膜との密着性が悪くなる。」
・「【実施例】
【0150】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。尚、以下に於いて「部」とあるのは「質量部」を意味する。
・・・
【0157】
製造例4 アクリル樹脂(ア)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器にキシレン50部、n-ブタノール25部を仕込んだ。次に下記組成の溶液スチレン5.0部、メタクリル酸1.5部、メタクリル酸メチル20.0部、エチルアクリレート45.0部、2-ヒドロキシエチルアクリレート6.6部、ブトキシメチルアクリルアミド5.0部、プラクセルFM-2 17.6部(ダイセル化学工業水酸基含有モノマー)、アゾビスイソブチロニトリル7.0部の内20部を加え、攪拌しながら加熱し、温度を上昇させた。還流させながら上記混合溶液の残り87.7部を3時間で滴下し、次いでアゾビスイソブチロニトリル0.2部とキシロール8部からなる溶液を30分間で滴下した。反応溶液をさらに1時間攪拌還流させて樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分55%、数平均分子量3800、酸価9.8mgKOH/g(固形分)、水酸基価59.5(固形分)のアクリル樹脂ワニスを得た。
【0158】
製造例5 有機ベントナイト分散ペースト(ウ-1)の製造
2Lのベッセルに、製造例4より得られたアクリル樹脂(ア)512.7部、ベントン38(RHEOX社製)70.5部および酢酸ブチル416.8部を仕込み、仕込み重量と同量のGB503M(粒径1.6mmガラスビーズ)を投入し、卓上サンドグラインダーミルを用いて室温で1時間分散した。グラインドゲージによる分散終了時の粒度は5μm以下であった。ガラスビーズをろ過して、有機ベントナイト分散ペースト(ウ-1)を得た。
・・・
【0162】
実施例1
ベース塗料組成物の製造
ステンレス容器に、製造例4のアクリル樹脂(ア)127.3部、メラミン樹脂(イ)であるユーバン20N60(三井化学社製、固形分60%)50.0部、有機ベントナイト(ウ)である製造例5の有機ベントナイト分散ペースト(ウ-1)14.2部、マレイン酸モノアルキルエステル(エ)であるマレイン酸モノブチル1部、光輝性顔料(オ)であるアルミペースト91-0562(東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料)21.1部、を秤量し、卓上攪拌機で攪拌してメタリックベース塗料組成物を調製した。」
(6) 甲7の記載事項
甲7には、運動している流体の内部で隣り合った部分部分が異なる速度で流れている場合、その速度を一様にしようとする向きにずれ応力が働く性質を、流体の粘性ということが記載されている。

第5 当審の判断

1 甲1発明
甲1の【0028】?【0044】には、「干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料」について記載され、同【0028】には、当該塗料は、「干渉光を有する光輝性顔料」、並びに、塗膜形成性の「熱硬化性樹脂」、「硬化剤」及び「粘性制御剤」等を含有することが記載されている。
そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「干渉光を有する光輝性顔料と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、粘性制御剤とを含む、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料」

2 本件発明1について
(1) 甲1発明との対比
甲1発明における「干渉光を有する光輝性顔料」、「熱硬化性樹脂」、「粘性制御剤」及び「干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料」は、それぞれ、本願発明1における「光輝性顔料」、「ビヒクルである樹脂組成物」、「粘性制御剤」及び「塗料組成物」に相当するものといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「光輝性顔料と、ビヒクルである樹脂組成物と、粘性制御剤とを含む塗料組成物」である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
・相違点1:光輝性顔料について、本件発明1は、「金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、又は鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料」と特定しているのに対して、甲1発明は、「干渉光を有する光輝性顔料」と特定している点。
・相違点2:粘性制御剤の含有量について、本件発明1は、「樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として0.5質量部以上4.5質量部以下である」と特定しているのに対して、甲1発明には、そのような特定はない点。
・相違点3:塗料組成物について、本件発明1は、「硬化膜厚として膜厚30μmとなるよう前記塗料組成物を塗装して得られた塗膜の全光線透過率が40-95%の範囲内である」と特定しているのに対して、甲1発明には、そのような特定はない点。
(2) 相違点についての検討
ア 相違点1について
甲1には、甲1発明の「干渉光を有する光輝性顔料」について、次のように記載されている。
「【0031】上記干渉光を有する光輝性顔料としては、干渉マイカ粉、アルミナフレーク、高輝度アルミニウム粉等が挙げられる。
・・・
【0038】上記の高輝度アルミニウム粉としては、平均粒径約(D50)5?50μm、厚みが0.1?10μmの鱗片状アルミニウム顔料、特に平均粒径が約15?30μmの殆ど微粉を含まない鱗片状アルミニウム顔料を使用する場合に、意匠性に優れた塗膜を形成でき、更に平均粒径約15?25μm、厚みが0.2?2.5μmの高輝度アルミニウム顔料を含有する場合には、光輝感が非常に強く、意匠性に優れた塗膜を形成できる。
【0039】例えば、鱗片状の高輝度アルミニウム顔料としては、東洋アルミニウム社製で平均粒径16μmの「アルペースト 91-0562(商品名)」(固形分72%)が挙げられる。
【0040】上記干渉光を有する光輝性顔料の含有量(PWC%)は、0.01%?10.0%であり、上限を越えると塗膜外観が低下し、下限を下回ると光輝感が低下する。好ましくは、0.05%?9.0%であり、より好ましくは、0.1%?8.0%である。」
そうすると、上記記載から、甲1発明の「干渉光を有する光輝性顔料」としては、干渉マイカ粉などのほかに、高輝度アルミニウム粉、なかでも、鱗片状アルミニウム顔料(本件発明1においても使用されているもの)が予定されていることが分かるから、上記相違点1は実質的なものではない。
なお、一般に、鱗片状アルミニウム顔料は、「干渉光を有する光輝性顔料」の範疇には属さないものとして認知されており(事実、本件特許明細書の【0011】においても、鱗片状アルミニウム顔料は、光干渉性顔料ではなく、光反射性顔料に分類されている。)、実際、甲1の実施例においても、当該「干渉光を有する光輝性顔料」として使用されているのは、干渉マイカ粉のみであるから、上記の甲1の記載に接した当業者は、甲1発明の「干渉光を有する光輝性顔料」の中に、「鱗片状アルミニウム顔料」が含まれているとただちに認識することはないとも考えることができ、上記相違点1は実質的な相違点であるということもできる。しかし、その場合であっても、甲3の【請求項1】、【0033】、甲4の【請求項2】、【0038】、 甲5の【請求項2】にみられるように、「干渉光を有する光輝性顔料」として、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料や金属酸化物被覆シリカフレーク顔料は、当業者においてよく知られたものと解されるから、甲1発明の「干渉光を有する光輝性顔料」として、これら周知の鱗片状光輝性顔料を採用し、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものというべきである。
イ 相違点2について
甲1及び甲6の記載を順にみながら、これらの記載に基づく容易想到性について検討をする。
(ア) 甲1の記載に基づく容易想到性の検討
a まず、甲1をみると、甲1には、干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料への粘性制御剤の添加について、次のように記載されている。
「【0041】本発明のメタリック塗膜の形成方法で使用される干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料は、更に上述の粘性制御剤を含んでいる。
【0042】上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料への粘性制御剤の添加量は、塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対して0.01?10重量部であり、好ましくは0.02?8重量部、より好ましくは0.03?6重量部の量で添加される。粘性制御剤の量が、10重量部を越えると、外観が低下し、0.01重量部を下回ると粘性制御効果が得られず、層間でなじみや反転をおこす原因となる。」
そして、当該粘性制御剤の詳細については、メタリックベース塗料において使用される粘性制御剤の説明(【0016】?【0019】など)が援用されていることから、当該説明に照らすと、上記干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料における粘性制御剤の添加目的は、メタリックベース塗料で使用する粘性制御剤と同様、塗装作業性を確保し、ムラ及びたれのない塗膜を良好に形成する点にあると解するのが相当である(特に【0016】を参酌した。)。
このように、甲1発明自体は、粘性制御剤の含有量について特定するものではないが、甲1の【0042】の記載からすると、当該含有量として、「塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対して、より好ましくは0.03?6重量部の量」が予定されていると解され、また、当該含有量の上下限値は、塗膜の外観や、粘性制御効果の有無、すなわち、塗装作業性を確保し、ムラ及びたれのない塗膜を良好に形成するという粘性制御剤本来の効果が十分に発揮されるか否かといった観点から設定されたものであるということができる。
そうすると、本件発明1における粘性制御剤の含有量の数値範囲0.5重量部以上4.5重量部以下と、甲1発明が予定する当該数値範囲0.03?6重量部との間には重複部分が存在し、前者の範囲は、後者の範囲をさらに限定したものであることが分かる。
b そこで、本件発明1が、上記のように粘性制御剤の含有量の数値範囲を0.5重量部以上4.5重量部以下と規定した理由(意義)について考えると、本件特許明細書の【0034】には、次のような記載があることから(下線は当審が付した。)、当該数値範囲は、塗装して得られる塗膜の粒子感の点から規定されたものであることが分かる。
「【0034】
本発明の塗料組成物は、粘性制御剤を更に含んでもよい。粘性制御剤とは、具体的には、ケイ酸塩、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトナイト(例えばラポナイト)、サポナイト、酸化アルミニウムなどの無機系粘性制御剤及び、セルロース誘導体、ポリアクリル酸又はその塩、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、ポリアマイド、無水マレイン酸共重合体、アルカリ増粘型エマルション、水添加ヒマシ油、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの変性ウレアのn-メチルピロリドン溶液等の有機系粘性制御剤を意味する。塗装して得られる塗膜の粒子感の点から、粘性制御剤の含有量は、樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として0質量部以上5質量部未満である。好ましくは、本発明の塗料組成物は粘性制御剤を含み、粘性制御剤の含有量は、樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として0よりも大きく5質量部未満である。一実施形態では、粘性制御剤の含有量は、樹脂組成物100固形分質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部以下である。」
また、本件特許明細書の【0059】【表1】及び【0068】【表2】には、次の表が記載されているところ、「クリヤー塗料1」(粘性制御剤の含有量は2.0)を用いた実施例1と、「クリヤー塗料13」(粘性制御剤の含有量は6.0)を用いた比較例1との比較などから、粘度制御剤の含有量の違いにより、粒子感の評価において大きな差が生じることが見て取れる(当該実施例1などでは、強い粒子感を発現する塗膜が形成されていることが分かる。)。
「【表1】





そして、当該評価結果は、本件発明1の作用効果、すなわち、本件特許明細書の【発明の効果】(【0008】)の欄に記載された、強い粒子感を発現する塗膜を形成可能な塗料組成物を得ることができる、という作用効果を裏付けるものであり、当該粒子感に係る作用効果は、粘度制御剤に期待される本来の効用(塗装作業性を確保し、ムラ及びたれのない塗膜を良好に形成すること。甲1発明における粘度制御剤が奏する作用効果)とは異なるものである。
c そうすると、本件発明1が、上記のように粘性制御剤の含有量の数値範囲を0.5重量部以上4.5重量部以下と規定すること(数値の最適化)には、技術的意義があると認められるから、甲1の記載に基づいて、本件発明1の上記相違点2に係る構成(数値の最適化)を容易想到の事項ということはできない。そして、本件発明1は、当該構成(数値の最適化)を具備することによりはじめて、上記のとおり、甲1の記載からは予測し得ない顕著な作用効果を奏するものである。
なお、甲1の実施例の記載から、当該実施例における粘度制御剤の含有量を算出することもできるが(甲1の【0082】の記載から算出される架橋樹脂粒子の割合は、樹脂組成物100固形分質量部に対して固形分として6.5重量部程度であった。)、当該実施例は、干渉マイカを用いるものであって、本件発明1の成分系とは異なるものであるから、当該算出値を根拠に、上記相違点2に係る本件発明1の構成を容易想到のものとすることはできない。
(イ) 甲6の記載に基づく容易想到性の検討
次に、甲6をみると、甲6の【0071】には、有機ベントナイトの配合量を、ベース塗料組成物の総固形分に対して0.1?10質量%とすることが記載され、また、【0162】には、実施例1として具体的なメタリックベース塗料組成物が記載されているから、そこに含まれる有機ベントナイトの配合量を算出することもできる。
しかしながら、これらの記載はメタリックベース塗料組成物を前提とするものであって、クリヤー塗料に関するものではない。
したがって、当該甲6に記載された技術的事項は、甲1でいうと、メタリックベース塗料に対応するものであって、甲1発明に係るクリヤー塗料に対して妥当するものではないから、当該技術的事項に基づいて、本件発明1の上記相違点2に係る構成を容易想到の事項ということはできない。
(ウ) 相違点2についてのまとめ
以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1の記載及び甲6の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
また、甲2?5、7の記載をみても、上記相違点2に係る本件発明1の構成を容易想到の事項というに足りる証拠は見当たらない。
ウ 相違点3について
(ア) 相違点3に係る本件発明1の構成の意義
はじめに、上記相違点3に係る本件発明1の構成の意義について整理しておく。
この点に関し、本件特許明細書の【0030】には、次のように記載されている。
「【0030】
本発明の塗料組成物において、上記鱗片状光輝性顔料や、必要に応じて配合される着色顔料の種類や量は、硬化塗膜として膜厚30μmとなるように塗装して得られた塗膜の全光線透過率が40?95%の範囲内、好ましくは50?90%とするように調整せしめるものとすることが、塗装して得られる塗膜の粒子感の点から好ましい。」
そうすると、本件発明1の当該構成、すなわち、「硬化膜厚として膜厚30μmとなるよう前記塗料組成物を塗装して得られた塗膜の全光線透過率が40-95%の範囲内である」という塗料組成物についての発明特定事項は、本件発明1の必須成分である鱗片状光輝性顔料や、必要に応じて配合される着色顔料の種類や量について、間接的に規定したものと解される。
さらに、本件特許明細書の上記した【0059】【表1】によれば、同表中の「クリヤー塗料1」と「クリヤー塗料13」の比較などから、「平行光線透過率」(塗膜の全光線透過率)の値は、粘度制御剤の含有量にも左右されることが分かる。
これらを併せ考えると、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、結局、必須成分である鱗片状光輝性顔料や任意成分である着色顔料の種類や量、さらには粘度制御剤の量などを総合的に規定したものと考えるのが合理的である。
そして、本件発明1は、当該相違点3に係る構成をはじめとする発明特定事項すべてを具備することにより、本件特許明細書の【発明の効果】(【0008】)の欄に記載された、鱗片状光輝性顔料が塗膜中で不規則に配向することにより強い粒子感を発現する塗膜を形成可能な塗料組成物を得ることができる、という顕著な作用効果を奏し得たものといえる(本件特許明細書の上記した【0068】【表2】の評価結果などを参酌した。)。
(イ) 相違点3に係る本件発明1の構成の容易想到性について
甲1及び甲2の記載を順にみながら、これらの記載に基づく容易想到性について検討をする。
a 甲1の記載に基づく容易想到性の検討
甲1を仔細にみても、上記(ア)のような意義を有する本件発明1の上記相違点3に係る構成、すなわち、塗膜の全光線透過率に関する直接的な記載は認められない。
加えて、上記(ア)のとおり、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、鱗片状光輝性顔料の種類・量や粘度制御剤の量などを総合的に規定したものと解されるところ、甲1の【0031】には、「干渉光を有する光輝性顔料としては、干渉マイカ粉、アルミナフレーク、高輝度アルミニウム粉等が挙げられる」と記載されており、特に「干渉光を有する光輝性顔料」を特定の種類に限定するものではないし、その含有量についても、同【0040】には、「干渉光を有する光輝性顔料の含有量(PWC%)は0.01%?10.0%」であることが記載され、その許容範囲は広い。さらに、粘性制御剤の添加量についても、同【0042】には、「干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料への粘性制御剤の添加量は、塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対して0.01?10重量部」であることが記載され、同様に、その許容範囲は広範囲にわたるものと解される。
そうすると、甲1には、甲1発明において、光輝性顔料の種類・量や粘度制御剤の量などを調整して、甲1発明による塗膜(膜厚30μm)の全光線透過率の数値を、本件発明1の数値範囲内(40-95%)とする技術思想は存しないというべきであり、また、当該数値を当該数値範囲内とすることを動機付ける記載も見当たらない。確かに、甲1発明は、クリヤー塗料であるから、上記数値は、甲1記載のメタリックベース塗料による塗膜のそれよりは高いことが予想できるが、当該数値が、本件発明1の数値範囲内(40-95%)となる確証はない。
そして、本件発明1は、上記相違点1、2に係る構成を具備した上で、上記相違点3に係る構成を備えたことにより、上記(ア)に記載した、甲1の記載からは予想し得ない顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3に係る本件発明1の構成を、甲1の記載に基づき、容易想到の事項ということはできない。
b 甲2の記載に基づく容易想到性の検討
上述のとおり、甲2には、甲1の【実施例】に記載された「干渉光を有する光輝性顔料含有クリヤー塗料」(塗料B)を再現し、その塗膜の全光線透過率を測定した結果、その数値が64%であったという追試結果が記載されている。
しかしながら、当該実施例において使用されている「干渉光を有する光輝性顔料」は、「干渉マイカ粉」であって、甲1記載の「鱗片状アルミニウム顔料」(上記アの「相違点1について」を参照)ではないため、当該甲2の追試結果は、甲1発明において、甲1記載の「鱗片状アルミニウム顔料」を採用した際に、塗膜(膜厚30μm)の全光線透過率の数値がどの程度になるかを教示するものとはいえない(なお、当該実施例の「干渉マイカ粉」に代えて、甲1記載の「鱗片状アルミニウム顔料」を用いる場合については、甲1に何ら具体的な記載はなく、その場合にどのような成分組成となるのかを推認することはできないから、当該実施例の記載を参酌しても、本件発明1の上記相違点3に係る構成を想起することはできない。)。
したがって、上記相違点3に係る本件発明1の構成を、甲2の記載に基づき、容易想到の事項ということはできない。
(ウ) 相違点3についてのまとめ
以上のとおり、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲1の記載及び甲2の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
また、甲3?7の記載をみても、上記相違点3に係る本件発明1の構成を容易想到の事項というに足りる証拠は見当たらない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲1?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

3 本件発明2?8について
本件発明2?8は、実質的に本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記2において説示した本件発明1の容易想到性についての理由と同様の理由により、甲1発明及び甲1?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第6 むすび

以上の検討のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る本件特許1?8を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許1?8を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-17 
出願番号 特願2014-554398(P2014-554398)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 日比野 隆治
門前 浩一
登録日 2018-09-07 
登録番号 特許第6396215号(P6396215)
権利者 関西ペイント株式会社
発明の名称 塗料組成物及び塗膜形成方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 後藤 裕子  
代理人 山尾 憲人  

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