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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1354110
異議申立番号 異議2019-700354  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2019-07-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6415297号発明「銅張セラミックス回路基板、これを搭載した電子機器、及び銅張セラミックス回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6415297号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6415297号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成26年12月16日に出願され、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし7に係る特許に対して、平成31年4月26日に特許異議申立人 廣瀬 妙子により、特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第6415297号の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている銅張セラミックス回路基板において、
前記銅回路を備えている前記銅板は、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下の配向銅板であることを特徴とする銅張セラミックス回路基板。
【請求項2】
前記銅回路の少なくとも1のコーナー部において、前記コーナー部を形成する2つの辺の二等分線方向に対して、前記配向銅板の前記面内特定方向が、5°以上45°以下であることを特徴とする請求項1記載の銅張セラミックス回路基板。
【請求項3】
前記配向銅板を板面法線方向から面積0.32mm^(2)の視野で、かつ重複しない16視野以上観察した時、前記<100>優先配向領域に囲まれた、面積平均径が前記配向銅板の板厚以下の島状結晶粒の結晶粒界と、双相境界を除く、方位差15°以上の傾角を有する結晶粒界が存在する視野が0%以上50%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅張セラミックス回路基板。
【請求項4】
セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている銅張セラミックス回路基板において、
前記銅回路を備えている前記銅板は、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下の配向銅板であり、
前記銅張セラミックス回路基板の接合界面は、前記配向銅板の(100)が、直接又は厚さ1μm以下のCu_(2)O相を介して、前記セラミックス板を構成する酸化物に接合されている部分を有していることを特徴とする銅張セラミックス回路基板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の銅張セラミックス回路基板を搭載してなる電子機器。
【請求項6】
結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下である配向銅板を、セラミックス板の片面又は両面に接合した後に、前記配向銅板にエッチング処理により銅回路を形成することを特徴とする銅張セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項7】
酸素を含有しているガス中において、かつセラミックス板の片面又は両面に銅板の銅板面を対向させて接触させた状態で、かつ1065℃から1083℃の範囲内にまで温度を上昇させることで、前記銅板を配向銅板に変換するとともに、前記銅板と前記セラミックス板との界面にCu-Cu_(2)O共晶体を生成させる熱処理工程と、
熱処理済の前記セラミックス板と前記配向銅板とを冷却してこれらを接合させる接合工程と、
前記配向銅板にエッチング処理により銅回路を形成する銅回路形成工程と、を備え、
前記セラミックス板は、ケイ素、マグネシウム、希土類元素から選択される少なくとも1の成分を5質量%以下含有している窒化ケイ素又は窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス、又は、酸化物セラミックスであり、
前記配向銅板は、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であることを特徴とする銅張セラミックス回路基板の製造方法。」


第3 申立理由の概要
1.申立理由1(サポート要件)
特許異議申立人は、技術常識を示すための甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、本件の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから取り消すべきものである旨主張している。

2.申立理由2(進歩性)
特許異議申立人は、証拠として甲第4号証ないし甲第8号証を提出し、本件発明1ないし7は、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された発明及び技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

[証拠]
甲第1号証:特許第3449458号公報
甲第2号証:特許第5226511号公報
甲第3号証:特許第2677748号公報
甲第4号証:特許第5129189号公報
甲第5号証:特許第5446188号公報
甲第6号証:特許第5261579号公報
甲第7号証:特許第3539634号公報
甲第8号証:特開2014-90048号公報

第4 甲第1号証ないし甲第8号証の記載
1.甲第1号証(特許第3449458号公報)
甲第1号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品のパワーモジュール等に使用される回路基板に関する。」

(2)「【0010】本発明の回路基板の形状の一例を示す部分概略断面図を図1、図2に示す。図1は、接合層が金属回路の下端部から外側にはみ出た例であり、図2は接合層が外側と内側にはみ出た例である。図において、1は金属回路、2は接合層、3はセラミックス基板であり、またtは金属回路の厚み、aははみ出し接合層の長さ(+が外側、-が内側にはみ出ていることを示す)、bは金属回路の下端部と上端部との寸法差、cは金属回路同士間、接合層同士間及び金属回路と接合層との間の間隔のうちの最短間隔である。
【0011】本発明の回路基板の前提条件は、金属回路とセラミックス基板とが活性金属を含む接合層により接合されていることであり、これは活性金属ろう付け法によって製造することができる。この場合、セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板を形成する方法としては、セラミックス基板と金属板との接合体をエッチングする方法、金属板から打ち抜かれた金属回路、放熱金属板のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことがでる。
【0012】金属とセラミックスの接合方法としては、活性金属ろう付け法以外に、Mo-Mn法、硫化銅法、DBC法、銅メタライズ法等があるが、本発明で活性金属ろう付け法を採用している理由は、この方法はヒートサイクルに対する耐久性と生産性に優れるからである。
【0013】活性金属ろう付け法については、例えば特開昭60-177634号公報に記載されている。活性金属ろう付け法におけるろう材の金属成分は、銀と銅を主成分とし、溶融時のセラミックス基板との濡れ性を確保するために活性金属を副成分とする。活性金属成分は、セラミックス基板と反応して酸化物や窒化物を生成し、ろう材とセラミックス基板との結合を強固なものにする。活性金属の具体例をあげれば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムやこれらの化合物である。これらの比率としては、銀80?95重量部と銅20?5重量部の合計量100重量部あたり活性金属1?7重量部である。接合温度は800?840℃が望ましい。また、このろう材で形成される接合層の厚みは、10?20μm程度であることが好ましい。
【0014】次に、本発明の回路基板においては、金属回路の厚みtが0.3mm以上、特に0.3?0.5mmが好ましい。0.3mmよりも薄いと高電流密度の要求に対応することができない。金属放熱板を形成させる場合は、その厚みは0.2mm以上であることが好ましい。金属回路及び金属放熱板の材質としては、銅又は銅合金が一般的であるが、これに限定されることはない。」


2.甲第2号証(特許第5226511号公報)
甲第2号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0001】
本発明は、パワーモジュールに供されるセラミックス-金属接合体、その製造方法およびそれを用いた半導体装置に係り、特にセラミックス回路基板として使用した場合にセラミックス基板と金属回路板との接合部おいて高い接合性と、優れた耐熱サイクル特性を発揮し得るセラミックス-金属接合体、その製造方法およびそれを用いた半導体装置に関する。」

(2)「【0012】
発明の開示
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、パワーモジュールに供した場合においても、高い接合強度および優れた耐熱サイクル特性を共に備え、耐久性および信頼性に優れたセラミックス-金属接合体、その製造方法およびそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。」

(3)「【0015】
上記セラミックス-金属接合体に使用されるセラミックス基板としては、特に限定されるものではなく、窒化けい素(Si_(3)N_(4))、窒化アルミニウム(AlN)などの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))などの酸化物系セラミックス、炭化けい素(SiC)等の炭化物系セラミックス、またはほう化ランタン等のほう化物等の非酸化物系セラミックスが好適に使用できる。但し、金属板を活性金属法でセラミックス基板に接合するため、窒化アルミニウム,窒化けい素のような非酸化物系セラミックス基板が、特に好適である。これらのセラミックス基板には酸化イットリウムなどの焼結助剤等が含有されていてもよい。」

(4)「【0017】
また、金属回路板,裏金属板等の金属板を構成する金属としては、銅,アルミニウム,鉄,ニッケル,クロム,銀,モリブデン,コバルトの単体またはその合金など、活性金属法を適用できる金属であれば特に限定されないが、特に導電性および価格の観点から銅,アルミニウムまたはその合金、特にコバール合金等が好ましい。」

(5)「【0026】
また、本発明に係るセラミックス-金属接合体の製造方法は、セラミックス基板と金属板としての銅板とを活性金属ろう材層を介して接合したセラミックス-金属接合体の製造方法において、8族元素から選択される少なくとも1種の遷移金属としてのコバルトまたはパラジウムを0.05質量%以上0.5質量%と、Agと,Cuと,活性金属としてのTiおよびZrの少なくとも1種とを含有した活性金属ろう材をセラミックス基板および金属板としての銅板の少なくとも一方に塗布した後、セラミックス基板および金属板を重ね合わせて一体に加熱接合することにより上記銅板中にコバルトまたはパラジウムを分散させることを特徴とする。
【0027】
上記接合時の加熱温度は700?900℃の範囲に設定することが好ましい。加熱温度が700℃未満では、ろう材の溶融が不十分であり、均一な活性金属ろう材層が形成しにくい。一方、加熱温度が900℃を超えるように過大になると、接合体に対する熱影響が大きくなり好ましくない。」


3.甲第3号証(特許第2677748号公報)
甲第3号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セラミックス基板に銅回路板等を一体に接合したセラミックス銅回路基板に係り、特に高い信頼性、放熱性および接合強度を要する半導体パワーモジュール用に好適なセラミックス銅回路基板に関する。」

(2)「【0013】すなわち本発明に係るセラミックス銅回路基板は、粒界相の20%以上が結晶相で占められ、熱伝導率が60?180W/m・Kである窒化けい素基板の表面に、活性金属を含有する接合材を介して、銅回路板を一体に接合したことを特徴とする三点曲げ強度が高いセラミックス銅回路基板である。」

(3)「【0040】次に各接合材ペーストを、前記製法で調製した高熱伝導性窒化けい素基板表面にスクリーン印刷し、さらに印刷パターンに沿って、厚さ0.3mmのリン脱酸銅で形成した銅回路板を配置するとともに、この銅回路板上に重錘を載置して銅回路板を窒化けい素基板上に圧着した。この圧着状態のまま基板全体を加熱炉に収容し、10^(-4)Torr以下の真空中で温度850℃で10分間加熱処理することにより、窒化けい素基板上に上記接合材を介して銅回路板を一体に接合して実施例1?5に係る窒化けい素銅回路基板をそれぞれ製造した。
【0041】比較例1?3
一方、セラミックス基板として、実施例1?5と同一寸法のAl_(2) O_(3) 焼結体基板(比較例1用)、AlN焼結体基板(比較例2用)およびBeO焼結体基板(比較例3用)をそれぞれ使用し、各焼結体基板表面に表1に示す組成を有する接合材ペーストを印刷するとともに、その上部に実施例1?5と同一寸法の銅回路板をそれぞれ圧着後、実施例1?5と同様な条件で銅回路板を加熱接合してそれぞれ比較例1?3に係る各種セラミックス銅回路基板を多数調製した。
【0042】こうして調製した実施例1?5および比較例1?3に係る各セラミックス銅回路基板について、室温(25℃)における熱伝導率、3点曲げ強度、銅回路板の接合強度、撓み量等の特性値を計測した。なお、接合強度は、各セラミックス銅回路基板について下記条件のヒートサイクルを100回繰り返す熱衝撃試験(TCT)を実施した後における銅回路板のピール強度として測定した。ヒートサイクルは-50℃で30分間冷却し、室温で10分間保持し、+150℃で30分間加熱し、室温で10分間保持する加熱冷却操作を1サイクルとした。
【0043】また実施例1?5および比較例1?3に係るセラミックス銅回路基板について上記熱衝撃試験を500回(サイクル)繰り返し、各100回終了毎に銅回路板のピール強度の経時変化を測定し、基板の耐熱サイクル性を評価した。また500回の熱衝撃試験終了後において、エッチングにより各セラミックス基板より銅回路板および接合材層を除去し、各セラミックス基板について蛍光探傷検査を実施し、セラミックス基板に微小クラックが発生した割合を計測した。
【0044】以上の測定結果を下記表1および図1に示す。」

(4)表1には、基板の割れ発生率(%)が、基板材料がSi_(3)N_(4)である実施例1?5において0%、Al_(2) O_(3) である比較例1において65%、AlNである比較例2において70%、BeOである比較例3において90%であることが示されている。


4.甲第4号証(特許第5129189号公報)
甲第4号証には、「金属セラミックス接合基板」及び「金属セラミックス接合基板の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【0001】
本発明は、金属セラミックス接合基板及びその製造方法等に関し、より詳細には、銅板表面にムラが発生することを防止できる金属セラミックス接合基板及びその製造方法等に関し、またメッキ表面に白濁が生じる外観不良の発生を防止できる金属セラミックス接合基板等に関する。」

(2)「【0020】
以下、本発明の実施形態について図1?図3を参照しつつ説明する。
まず、図1(a)に示すように、セラミックス基板10を用意する。このセラミックス基板10は、例えばAlN基板やAl_(2)O_(3)基板、Si_(3)N_(4)基板などを用いることができる。
【0021】
次いで、図1(b)に示すように、セラミックス基板10の両面にペースト状のろう材12をスクリーン印刷により塗布する。このろう材12の作製方法の一例は次のとおりである。金属成分が5?30mass%Cu-1?5mass%Ti-残部Agになるように金属粉を秤量し、この金属粉に約10%のアクリル系のバインダと溶剤を含むビヒクルを加え、自動乳鉢や3本ロールミルなどにより混錬して、ペースト状のろう材12を作製する。
【0022】
次に、図1(c)に示すように、セラミックス基板10の両面のろう材12上に無酸素銅板14を配置する。この無酸素銅板14の表面をX線回折装置で分析したときのX線回折積分強度比はI(220)/I(200)≦0.5である。この無酸素銅板14の表面の平均結晶粒径は100μm以下であることが好ましい。」

(3)「【0027】
このようにして製造された無酸素銅板14を前述したようにセラミックス基板1の両面のろう材2上に配置した後、セラミックス基板1を真空炉(図示せず)に挿入し、この真空炉によって例えば780℃?900℃(好ましくは830?870℃)の温度で5分から1時間程度加熱することにより、セラミックス基板10の両面には無酸素銅板14が接合される。この接合後の無酸素銅板14は、その表面のX線回折積分強度比がI(220)/I(200)≦2となり、その表面の平均結晶粒径が200μm以下となる。ただし、前記真空炉によって加熱する温度が高すぎたり、加熱する時間が長すぎると、前記平均結晶粒径が200μmを超えることがあり好ましくない。また、X線回折積分強度比がI(220)/I(200)≦1であることがより好ましい。
【0028】
その後、セラミックス基板10を真空炉中から取り出し、図2(a)に示すように、無酸素銅板14の両面に所望の回路パターン等の形状のUV硬化アルカリ剥離型レジストを約10?15μmの厚さに塗布し、UVによって露光することにより所望の回路パターン等の形状のレジスト16を形成する。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、このレジスト16をマスクとして例えば塩化銅と塩酸と過酸化水素水からなるエッチング液により無酸素銅板14の不要部分を除去することにより、セラミックス基板10の両面には無酸素銅板からなる回路パターン14が形成される。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第4号証には、次の発明が記載されている。

「無酸素銅板からなる回路パターン14がセラミックス基板10の両面に接合された金属接合セラミックス基板。」(以下、「甲4発明1」という。)

「金属セラミックス接合基板の製造方法であって、セラミックス基板10の両面に無酸素銅板14を接合し、その後、所望の回路パターン等の形状のレジスト16を形成し、次に、このレジスト16をマスクとしてエッチング液により無酸素銅板14の不要部分を除去することにより、セラミックス基板10の両面に無酸素銅板からなる回路パターン13を形成する製造方法。」(以下、「甲4発明2」という。)

また、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術事項が記載されている。

「無酸素銅板からなる回路パターン14がセラミックス基板10の両面に接合された金属接合セラミックス基板において、無酸素銅板の表面をX線回折装置で分析したときのX線回折積分強度比をI(220)/I(200)≦0.5としたこと。」


5.甲第5号証(特許第5446188号公報)
甲第5号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【請求項1】
芯材が面心立方構造を有する長尺金属からなり、前記芯材の任意の断面において、面心立方金属の<100>方位が、前記芯材の長さ方向に対して±10°以内の角度を有する領域が面積比で75%以上を占め、前記芯材の周面の少なくとも一部において、リフロー時の融点が250℃以下の金属で被覆されており、前記芯材の長手方向のヤング率が85GPa以下であり、0.2%耐力が85MPa以下であることを特徴とする半導体線実装用のインターコネクター。」

(2)「【請求項3】
前記芯材が純度99mass%以上の銅であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体線実装用のインターコネクター。」

(3)「【0005】
多結晶型シリコン基板を用いた構造の場合、集電ケーブルを構成する主たる構造体である銅の熱膨張係数が、セルの主たる構造体であるシリコンの熱膨張係数の約5倍である。このことから、昇温して液相接合してから室温に冷却する時に熱応力が生じ、セルを変形、破損させる原因となっている。近年のシリコン材料の逼迫もあり、セルに使用される基板の厚さの低減が図られ、現在は厚さ180μmのシリコン基板も使用されるようになってきている。このように、熱応力によるセルの破損問題は、大きな課題になっている。」

(4)「【0013】
本発明によれば、同じ物質で構成された電気導体に比較して、長さ方向のヤング率と降伏応力との両方を著しく小さくすることが可能である。これにより、対向してはんだ接続される半導体にかかる応力を小さくすることが可能になり、半導体の反りや接続界面、半導体の破壊を抑制する。」

(5)「【0015】
線実装用の電気導体に必要な物性としては、高い電気導電率が必要である。電気抵抗が高いと電気導体の断面積を大きく取る必要があり、その結果、半田接続を行った後に半導体に大きな熱歪が加わるためである。したがって、芯材の材料としては、銅、銀、アルミニウム、金等の面心立方金属が適する。面心立方金属であることは、本発明の必須の集合組織を形成させる上でも必要である。」

(6)「【0017】
半田による線実装時の半導体との熱膨張差による熱歪を緩和するためには、電気導体の長さ方向のヤング率、0.2%耐力(降伏応力)を下げることが極めて有効である。半田が溶融凝固した後、半導体と電気導体との熱収縮量が異なることによって熱歪が発生するが、電気導体の長さ方向のヤング率、降伏応力が小さいほど、半導体にかかる応力は小さくなり、反り大きさや割れが発生する頻度が小さくて済む。」

(7)「【0019】
本発明の電気導体は、組織制御により、線材、あるいはテープ材の長さ方向に対して、<100>方位から±10°以内の角度を有する方位をなす領域が面積比で75%以上を占める強い集合組織を形成させることを要件とする。これにより線実装時のRD方位のヤング率を大きく低減できる。また、<100>方位は、この方向の降伏応力も同時に低減される。したがって、線材、あるいはテープ材の長さ方向が<100>方位になるように強く配向させることにより、ヤング率と降伏応力とを低下させることができ、その結果、半導体に加わる引張応力を低く抑えられ、反りや割れを防止することができる。」

(8)「【0031】
一般的に、熱処理後の最終冷間加工前に加工と中間焼鈍とを繰り返したり、ECAP(Equal-Channel Angular Pressing)加工やECAE(Equal-Channel Angular Extrusion)加工で、屈曲した貫通孔に材料を1回以上通過させる加工工程を経た後に、再結晶焼鈍を施したりすることで、加工性のある細粒組織を形成することが可能である。この後、冷間加工を施すことにより、最終的に本発明に最も適した<100>再結晶集合組織を形成するための前駆の加工集合組織とすることができる。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第5号証には、次の技術事項が記載されている。

「半導体線実装用のインターコネクターにおいて、銅などの面心立方金属からなる芯材と対向してはんだ接続される半導体にかかる熱応力を小さくして、接続界面、半導体の破壊を抑制するために、芯材の任意の断面において、面心立方金属の<100>方位が芯材の長手方向に対して±10°以内の角度を有する領域が面積比で75%以上を占める強い集合組織を形成すること。」


6.甲第6号証(特許第5261579号公報)
甲第6号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【0006】
更に、インターコネクタ材が低耐力となり、この低耐力のインターコネクタ材を使用してセル間を接続し太陽電池として使用すると、使用中にインターコネクタ材は熱サイクルによる繰り返し応力を受け、破断しやすくなるといった問題が生じる。
上記理由により、インターコネクタ材の強度を下げずにシリコン系セルの熱膨張係数に近似する熱膨張係数を有するインターコネクタ材が求められている。そして、かかるインターコネクタ材を使用してセル間を接続し、太陽電池としての使用中に熱サイクルを繰り返し受けても、破断するおそれがないインターコネクタが求められている。」

(2)「【0008】
熱応力は、一般的に次の式で表される。
σ=A×E×α×ΔT
ただし、σは熱応力であり、
Aは面積であり、
Eはヤング率であり、
αは熱膨張係数であり、
ΔTは温度差である。
上式によれば、ヤング率Eを低下させることができれば、熱応力σが比例して減少することが分かる。
【0009】
これまでに導体として純銅を用いた太陽電池用インターコネクタ材料において、ヤング率を制御し、熱応力を低減させる、との発想はなされていない。これは従来、ヤング率を低減させることが困難とされてきたためである。本発明者(等)はヤング率を低減させるために種々の検討を行った結果、集合組織の制御により、ヤング率の値を制御することに成功し、本発明に到達した。
なお、塑性加工された多結晶金属はその内部で結晶学的な変化が起きており、それを集合組織の形成という。集合組織とは、金属が圧延や線引きなどの塑性加工を受けると、個々の結晶粒が加工方向に進んで、特定の結晶面だけが規則的に配列することをいう。
太陽電池用インターコネクタ材において集合組織を制御し、材料強度のばらつきを低減した例としては特許文献2が知られている。この特許文献2では圧延方向に対して直交する面における(211)面を制御することで強度のばらつきを低減している。
また、太陽電池用インターコネクタ材において集合組織を制御し、耐力を低減させた例として特許文献3が知られている。特許文献3では、圧延方向に対して直交する面における(114)面、(112)面を制御することで耐力を低減させている。」

(3)「【0025】
本発明は、銅合金材料の結晶方位とヤング率の関係に着目し、開発されたものである。
本発明者(等)は先ず、純銅の単結晶を用いて、さまざまな結晶方位のヤング率を測定した。その結果、圧延方向に対して直交する面における(111)面はヤング率が高く、(100)面と(102)面はヤング率が低いことを確認した。次いで、太陽電池用インターコネクタ材の圧延方向に対して直交する面における(100)面と(102)面および(111)面の面積率を制御する手法を見出した。
【0026】
好ましくは、本発明の太陽電池モジュール用インターコネクタ材は、圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率が20?90%の銅導体からなる。
圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率が20?90%の銅導体に規定するのは、圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率が20%以下ではヤング率が所望の値まで減少せず、90%を超えると結晶粒径が粗大になり疲労特性が低下するためである。特に圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率はヤング率と疲労特性の両立の点から40?90%とすることが好ましく、さらに60?90%とすることが特に好ましい。
【0027】
また、好ましくは、本発明の太陽電池モジュール用インターコネクタ材は、0.2%耐力が150MPa以下、ヤング率が110GPa以下である銅平角線である。
0.2%耐力が150MPa以上では材料強度が高すぎるため半田接続時に反りが発生する不具合があり、特に半田接続時の反りを減少する、との理由から130MPa以下とすることが好ましい。
ヤング率が110GPa以上では半田接続時の熱応力が高くセルに反りが発生する不具合が生じる。なお、熱応力減少の観点からヤング率は100GPa以下、特には90GPa以下であることが好ましい。」

(4)「【0041】
本明細書における結晶方位の表示方法は、材料の圧延方向に向いている領域の割合を、その面積率で規定したものである。測定領域内の結晶粒の(100)面、(102)面などの面の法線と圧延方向の二つのベクトルのなす角の角度を計算し、この角度が10°未満の原子面を有するものとについて面積を合計し、これを全測定面積で除して得た値を(100)面、(102)面と圧延方向のなす角の角度が10°未満である原子面を有する領域の面積率(%)とした。
すなわち、本発明において、平角線の圧延方向に向く原子面の集積に関し、(100)面、(102)面などの法線と圧延と圧延方向のなす角の角度が10°未満である原子面を有する領域とは、平角線の圧延方向に向く、理想方位である平角線の圧延方向を法線とする(100)面、(102)面などの面自体と、(100)面、(102)面などの面の法線と圧延方向のなす角度の角度が10°未満である原子面のそれぞれとを合わせた領域の合計をいう。」

・上記(3)には、「圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率」について記載されているが、その意味するところは、上記(4)によれば、(100)面の法線と圧延方向とのなす角度が10°未満の原子面の面積率であると認められる。ここで、(100)面の法線の方向は結晶軸<100>の方位であることから、上記(3)における「圧延方向に対して直交する面における(100)面の面積率」とは、結局、「結晶軸<100>方位が圧延方向に10°以内の原子面の面積率」と認められる。

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第6号証には、次の技術事項が記載されている。
「銅平角線からなる太陽電池用インターコネクタ材において、使用中に熱サイクルによる繰り返し応力を受けて破断されないようにするため、結晶軸<100>方位が圧延方向に10°以内の原子面の面積率を20?90%とすること。」


7.甲第7号証(特許第3539634号公報)
甲第7号証には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高耐圧・高電流のパワ-モジュ-ル等の実装に適した回路基板およびそれに用いる回路搭載用窒化ケイ素質基板(以下、窒化ケイ素基板と称する)に関する。」

(2)「【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の回路搭載用窒化ケイ素基板は、実質的に窒化ケイ素粒子と粒界相とからなる窒化ケイ素焼結体基板において、当該焼結体基板表面における窒化ケイ素粒子と粒界相の合計面積率を100%としたとき、前記窒化ケイ素粒子の面積率が70?100%であり、表面に露出した窒化ケイ素粒子の最大高さの山頂部と、窒化ケイ素粒子あるいは粒界相の最低高さの谷底部との高低差(L)が1.5?15μmであり、中心線平均粗さ(Ra)が0.2?5μmの表面性状を有することを特徴とする。
【0012】
本発明において、中心線平均粗さ(Ra)が20μm超では、窒化ケイ素基板に金属回路板を接合したとき接合界面に局所的にボイドが生成し、未接着面積が多くなり接合強度の著しい低下を招く。一方、中心線平均粗さ(Ra)が0.2μm未満では、ボイドの生成を抑制できるが、アンカ-リングによる複合効果が得られないため、やはり充分な接合強度が得られない。従って、窒化ケイ素基板の表面性状に関し、中心線平均粗さ(Ra)は0.2?20μmが望ましい。特に実施例に示すように0.2?5μmが望ましい。
また、本発明の窒化ケイ素基板は、実質的に窒化ケイ素粒子と粒界相とからなる窒化ケイ素焼結体からなり、基板表面における前記窒化ケイ素粒子及び前記粒界相の合計面積率を100%として、前記窒化ケイ素粒子の面積率が70?100%であるのが好ましい。この条件を満たす窒化ケイ素基板は、優れた耐熱衝撃性及び耐熱疲労信頼性を有する。
【0013】
また、基板表面に露出した窒化ケイ素粒子の最大高さの山頂部と、窒化ケイ素粒子又は粒界相の最低高さの谷底部との高低差(L)が1?40μmであるのが好ましい。高低差(L)が40μm超では窒化ケイ素基板と金属回路板との接合界面に局所的にボイドが生成し、未接着面積が多くなり接合強度の低下を生じる。また1μm未満ではボイドの生成を抑制できるが、アンカ-リングによる複合効果が得られないため、やはり充分な接合強度が得られない。特に実施例に示すように1.5?15μmが望ましい。
【0014】
本発明の回路基板は、高強度・高熱伝導性窒化珪素焼結体からなる基板の少なくとも一面に金属回路板を接合してなる。金属回路板としてはAlあるいはCuを接合してなるものが好ましく、従来に比べて格段に優れた接合強度および耐冷熱サイクル特性が得られる。」

(3)「【0016】
銅又はアルミニウム等の金属板を窒化ケイ素基板に接合するには、ろう付け法が好ましい。前述のように、銅板に対してはTi、ZrまたはHf等の活性金属を含有するAg-Cu合金を、またアルミニウム板に対してはAl-Si合金をろう材として用いるのが好ましい。さらに銅板およびアルミニウム板にそれぞれCu-O及びAl-O共晶化合物液相を接着層として用い、これらの金属回路板を直接窒化ケイ素基板に接合しても良い。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第7号証には、次の技術事項が記載されている。

「窒化ケイ素基板の少なくとも一面に、銅からなる金属回路板をろう付け法で接合した回路基板において、窒化ケイ素基板は、実質的に窒化ケイ素粒子と粒界相とからなる窒化ケイ素焼結体基板において、当該焼結体基板表面における窒化ケイ素粒子と粒界相の合計面積率を100%としたとき、前記窒化ケイ素粒子の面積率が70?100%であり、表面に露出した窒化ケイ素粒子の最大高さの山頂部と、窒化ケイ素粒子あるいは粒界相の最低高さの谷底部との高低差(L)が1.5?15μmであり、中心線平均粗さ(Ra)が0.2?5μmの表面性状を有すること、優れた耐熱衝撃性、耐疲労信頼性を得るとともに、接合界面にボイドが生成するのを抑制しつつアンカーリングによる複合効果を得ること。」


8.甲第8号証(特開2014-90048号公報)
甲第8号証には、「パワーモジュール用基板」及び「パワーモジュール用基板の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(1)「【0001】
本発明は、セラミック基板の両主面の内の一方の主面に島状のパターンからなる表銅板、他方の主面にベタ状のパターンからなる裏銅板を直接接合法や、活性金属ろう材接合法で接合して設けるパワーモジュール用基板に関する。」

(2)「【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係るパワーモジュール用基板10は、焼成済の所定寸法からなる平板状のセラミック基板11の一方の主面である上面側にそれぞれパターンが形成された表銅板12と、セラミック基板11の他方の主面である下面側にベタ状態のパターンからなる裏銅板13を有している。この表銅板12や、裏銅板13は、アルミナ(Al_(2)O_(3))、ジルコニア系アルミナ、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックからなる焼成済のセラミック基板11に直接接合、又は活性金属ろう材接合で加熱接合されるようになっている。
【0014】
なお、上記の直接接合での接合方法とは、予め表面を酸化させた表銅板12や、裏銅板13用の銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合する方法である。なお、セラミック基板11がAlNからなる場合には、AlN基板の表面にAl_(2)O_(3)からなる酸化膜を形成しておく必要がある。」

(3)「【0026】
上記のパワーモジュール用基板10、10a用のセラミック基板11、11aには、通常、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、窒化アルミニウム(AlN)、又はジルコニア入り酸化アルミニウム等のセラミックが用いられ、これらのセラミックからなるセラミック基板11、11aが、絶縁性、耐熱性、熱伝導性、基板強度等に優れ、半導体素子15にかかる高電圧、及び半導体素子15からの高熱に対して十分な耐熱性と、高熱伝導性をもって問題なく使用することができる。ここで、セラミックの一例であるAl_(2)O_(3)からなるセラミック基板11、11aの製造方法を簡単に説明する。セラミック基板11、11aは、アルミナ粉末にマグネシア、シリカ、カルシア等の焼結助剤を適当量加えた粉末に、ジオクチルフタレート等の可塑剤と、アクリル樹脂等のバインダー、及び、トルエン、キシレン、アルコール類等の溶剤が加えられ、十分に混練した後、脱泡して粘度2000?40000cpsのスラリーをドクターブレード法等によって、例えば、厚さ0.64mm程度のロール状のシートに形成され、適当なサイズにカットしてセラミックグリーンシートを作製し、大気中約1550℃程度で焼成して作製している。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第8号証には、以下の発明が記載されている。

「セラミックス基板11の両主面のうちの一方の主面に島状のパターンが形成された表銅板12と、他方の主面にベタ状のパターンからなる裏銅板13を接合して設けたパワーモジュール用基板において、表銅板12及び裏銅板13用の予め表面を酸化させた銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合したパワーモジュール用基板。」(以下、「甲8発明1」という。)

「セラミック基板11の両主面の内の一方の主面である上面側にそれぞれパターンが形成された表銅板12、他方の主面である下面側にベタ状態のパターンからなる裏銅板13を接合して設けるパワーモジュール用基板の製造方法において、
セラミック基板11には、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又はジルコニア入り酸化アルミニウム等のセラミックが用いられ、
表銅板12や、裏銅板13用の銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合する方法。」(以下、「甲8発明2」という。)

また、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第8号証には、以下の技術事項が記載されている。

「セラミックス基板11の両主面のうちの一方の主面に島状のパターンが形成された表銅板12と、他方の主面にベタ状のパターンからなる裏銅板13を接合して設けたパワーモジュール用基板において、表銅板12及び裏銅板13用の予め表面を酸化させた銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合したこと。」


第5 当審の判断
1.申立理由1(サポート要件)について
特許異議申立人は、本件発明1ないし7に関して、次のような記載不備(1)(2)を主張している。
(1)セラミック板と銅板との接合方法について、本件特許明細書の段落【0059】には「活性金属法」及び「直接接合法」を用いることが記載されてはいるが、「直接接合法」では1000℃以上の温度を要するのに対し、「活性金属法」では甲第1号証及び甲第2号証に記載されているように1000℃未満で足り、かつ、「銅張セラミックス回路基板の昇降温によるセラミックスと銅の熱膨張係数の差に起因する熱歪みに対して、銅とセラミックスの接合界面やセラミックスに加わる熱応力を小さくすることが出来、銅張セラミックス回路基板の銅とセラミックスの接合界面の剥離、セラミックス板の破壊を防ぐことが可能になる」という本件発明1ないし6の効果は接合温度に大きく左右されるから、実施例として「直接接合法」によって接合されたものしか記載されていない以上、本件特許明細書には「直接接合法」を用いた銅張セラミックス回路基板およびその製造方法において上記効果を奏することしか記載されているとはいえない。
しかるところ、本件発明1ないし6は、「直接接合法」を用いて接合された点が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)セラミック板の材料について、本件特許明細書には「ジルコニア入りアルミナセラミックス板」および「アルミナ板」を使用した実施例しか記載されていないところ、甲第3号証の[表1]において、基板の割れの発生率が比較例1(Al_(2) O_(3) )、比較例2(AlN)、比較例3(BeO)よりも実施例1?5(Si_(3)N_(4))の方が低いことからも明らかなように、本件発明1ないし7における「銅張セラミックス回路基板の昇降温によるセラミックスと銅の熱膨張係数の差に起因する熱歪みに対して、銅とセラミックスの接合界面やセラミックスに加わる熱応力を小さくすることが出来、銅張セラミックス回路基板の銅とセラミックスの接合界面の剥離、セラミックス板の破壊を防ぐことが可能になる」という効果は、セラミックス板の材料によって大きく異なるから、本件特許明細書にはジルコニア入りアルミナセラミックス板およびアルミナ板を用いた銅張セラミックス回路基板およびその製造方法において上記効果を奏することしか記載されているとはいえない。
しかるところ、本件発明1ないし7は、セラミック板が「ジルコニア入りアルミナセラミックス板」又は「アルミナ板」である点が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載したものでない。

しかしながら、本件特許明細書の段落【0036】-【0040】から把握できるように、本件発明1ないし7は、銅板における銅の結晶軸の方向を制御することによって、一般的な多結晶銅板に比較して結晶粒径を大きくできるため、金属学で良く知られている金属の降伏強度は結晶粒の大きさと負の相関にあるとしたホールペッチ則にしたがって、銅板が軟質にふるまうこと、及び、結晶学的な方位関係で、降伏応力が高い方位が少なくなるので、銅板板面内のあらゆる方向に軟質にふるまうことを課題解決原理として利用するものである。
このため、「銅張セラミックス回路基板の昇降温によるセラミックスと銅の熱膨張係数の差に起因する熱歪みに対して、銅とセラミックスの接合界面やセラミックスに加わる熱応力を小さくすることが出来、銅張セラミックス回路基板の銅とセラミックスの接合界面の剥離、セラミックス板の破壊を防ぐことが可能になる」という効果を奏するのは、昇降温を生じる原因がセラミックスと銅の接合時の温度を原因とする場合に限られないことは明らかであり、例えば、使用温度によるものであっても上記効果を奏すると認められる。さらに、活性金属法によってセラミックスと銅の接合を行うとしても、接合時の温度は甲第1号証又は甲第2号証によれば700℃以上なのであるから、接合による昇降温は発生するのであり、活性金属法を利用するとしても上記効果を奏すると認められる。また、本件明細書の段落【0013】に記載されているように、活性金属法による金属ろう接合層が熱応力の緩衝層として機能する場合においても、本件の課題解決手段が有用であることは、上記課題解決原理に照らして明らかである。
そして、発明の効果の大小が具体的な実施態様に依存して変化するのは当然のことであり、発明の範囲に、発明の効果が実施例に比べて相対的に小さい実施態様が含まれるとしても、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することにならないのはいうまでもない。
したがって、たとえ本件特許明細書において、セラミックスと銅の接合について直接接合法による実施例しか記載されておらず、本件発明1ないし7が、直接接合法以外の方法で接合されたものを含んでいたとしても、発明の詳細な説明の範囲に記載した範囲を超えて特許を請求することにはならない。
よって、上記(1)の主張については採用できない。

また、上記課題解決原理は、銅板の軟化を利用するものであるから、セラミックス基板が何であっても、程度の差こそあれ、上記効果を奏するのは明らかである。
したがって、たとえ本件特許明細書において、セラミックス板として、ジルコニア入りアルミナセラミックス板及びアルミナ板を用いる実施例しか記載されておらず、本件発明1ないし7が、それ以外のセラミックス板による発明を含んでいたとしても、発明の詳細な説明の範囲に記載した範囲を超えて特許を請求することにはならない。
よって、上記(2)の主張についても採用できない。

以上の通りであるから、特許異議申立人の上記申立に係る主張は採用することができない。

よって、本件発明1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。


2.申立理由2(進歩性)について
2-1.本件発明1について
(1)対比判断
本件発明1と甲4発明1とを対比すると、
(ア)甲4発明1の「セラミックス基板10」は、本件発明1の「セラミックス板」に相当する。
(イ)甲4発明1のセラミックス基板10の両面には「無酸素銅板」が接合されており、甲4発明1の「回路パターン」は無酸素銅板からなるものであるから、甲4発明1の「金属接合セラミックス基板」と本件発明1の「銅張セラミックス回路基板」とは、「セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている」点で共通する。
(ウ)甲4発明1の「金属接合セラミックス基板」は、回路パターンが14が形成されているから「回路基板」ということができ、また、セラミックス基板10に無酸素銅板が接合、すなわち銅張されてなるものであることから、本件発明1の「銅張セラミックス回路基板」に相当する。

したがって、本件発明1と甲4発明1とは、
「セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている銅張セラミックス回路基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明1では、前記銅回路を備えている前記銅板は、「結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下の配向銅板である」旨特定するのに対し、甲4発明1では、そのような特定がされていない点。

そこで、相違点1について検討する。

(a)甲第5号証には、半導体線実装用のインターコネクターにおいて、銅などの面心立方金属からなる芯材と対向してはんだ接続される半導体にかかる熱応力を小さくして、接続界面、半導体の破壊を抑制するために、芯材の長手方向に対して<100>方位から±10°以内の角度を有する方位をなす領域が面積比で75%以上を占める強い集合組織を形成する技術事項が記載されている。
しかし、甲第5号証に記載された技術事項は、芯材の長手方向という1つの方向に対して<100>方位から±10°以内の角度を有する方位をなす領域を面積比で75%以上を占めるだけであって、上記相違点1に係る構成のように、銅板の法線方向及び銅板の面内特定方向の2つの方向に対して結晶軸<100>の方位を揃えるようにするものではない。
したがって、甲4発明1に対して甲第5号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

(b)甲第6号証には、銅平角線からなる太陽電池用インターコネクタ材において、使用中に熱サイクルによる繰り返し応力を受けて破断されないようにするため、結晶軸<100>方位が圧延方向に10°以内の原子面の面積率を20?90%とする技術事項が記載されている。
しかし、甲第6号証に記載された技術事項は、圧延方向という1つの方向に対して<100>配向した原子面の面積率を20?90%とするだけであって、上記相違点1に係る構成のように、銅板の法線方向及び銅板の面内特定方向の2つの方向に対して結晶軸<100>の方位を揃えるようにするものではない。
したがって、甲4発明1に対して甲第6号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

(c)甲第7号証には、窒化ケイ素基板の少なくとも一面に、銅からなる金属回路板をろう付け法で接合した回路基板において、窒化ケイ素基板は、実質的に窒化ケイ素粒子と粒界相とからなる窒化ケイ素焼結体基板において、当該焼結体基板表面における窒化ケイ素粒子と粒界相の合計面積率を100%としたとき、前記窒化ケイ素粒子の面積率が70?100%であり、表面に露出した窒化ケイ素粒子の最大高さの山頂部と、窒化ケイ素粒子あるいは粒界相の最低高さの谷底部との高低差(L)が1.5?15μmであり、中心線平均粗さ(Ra)が0.2?5μmの表面性状を有すること、優れた耐熱衝撃性、耐疲労信頼性を得るとともに、接合界面にボイドが生成するのを抑制しつつアンカーリングによる複合効果を得る技術事項が記載されている。
しかし、甲第7号証に記載された技術事項は、銅板において、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるようにするものではない。
したがって、甲4発明1に、甲第7号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

(d)甲第8号証には、セラミックス基板11の両主面のうちの一方の主面に島状のパターンが形成された表銅板12と、他方の主面にベタ状のパターンからなる裏銅板13を接合して設けたパワーモジュール用基板において、表銅板12及び裏銅板13用の予め表面を酸化させた銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合した技術事項が記載されている。
しかし、甲第8号証に記載された技術事項は、銅板において、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるようにするものではない。
したがって、甲4発明1に、甲第8号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

以上のことから、本件発明1における上記相違点1に係る構成は、甲第4号証ないし甲第8号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、本件発明1は、甲4発明1及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記相違点1に関し、本件特許明細書の段落【0058】、【0067】を参酌すれば、本件発明1の「銅板」は「銅板を圧延し、焼鈍を行い、その後冷間圧延を行う」ことで製造されるものであり、この点、甲第4号証に記載された発明と共通することから、上記相違点1に係る構成を具備することが当業者であれば容易に想到し得たと主張する。
しかしながら、「銅板を圧延し、焼鈍を行い、その後冷間圧延を行う」にしても、その具体的条件には極めて多くの組合せが存在する。そして、本件特許明細書の段落【0058】にも説明されているように、上記相違点1に係る構成を有する配向銅板を得るには条件制御した特殊な圧延加工と熱処理が必要である。すなわち、上記相違点1に係る構成を有する銅張セラミックス回路基板を得ることを意図しなければ、相違点1に係る構成を有する銅張セラミックス回路基板を得ることはできない。
したがって、甲第4号証に記載された発明は、上記相違点1に係る構成を具備しているとは認められないし、上記相違点1に係る構成は、甲第4号証に記載された発明に基づいて容易になし得たものということはできない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

また、特許異議申立人は、甲第4号証における銅回路を備えている銅板が上記相違点1に係る構成を具備していると認められない場合であっても、上記相違点1に係る構成は甲第5号証または甲第6号証に記載されている周知技術であり、甲第4号証に記載された発明に甲第5号証や甲第6号証に記載された周知の技術事項を適用することで、上記相違点1に係る構成は容易に想到し得たと主張している。
具体的には、甲第5号証の段落【0019】には「<100>方位から±10°以内の角度を有する方位をなす領域が面積比で75%以上を占める強い集合組織」が記載され、また、甲第6号証の段落【0028】には「本発明の太陽電池用インターコネクタ材は、圧延方向に対して直交する面における(100)面と(102)面の合計の面積率が15?95%、である」構成が記載され、これらが本件発明1と同様の組織であること、甲第5号証の段落【0031】には「銅板を加工し、焼鈍を行い、その後冷間圧延を行う」製造方法が記載され、また、甲第6号証の段落【0034】-【0036】には「銅板を圧延し、焼鈍を行い、その後冷間圧延を行う」製造方法が記載され、これらは本件特許明細書の段落【0058】、【0067】の記載された銅板の製造方法と同様であること、さらに、甲第5号証の段落【0005】、【0008】、【0013】、【0017】及び甲第6号証の段落【0008】-【0009】には、「基板と銅板との接合界面に加わる熱応力を小さくして破壊を防ぐ」という、本件発明1と同一の課題が記載されていることから、甲第4号証に甲第5号証や甲第6号証を適用して本件発明1を構成することは当業者が容易に想到し得たと主張している。
しかしながら、甲第5号証又は甲第6号証に記載のものは、上記2-1(1)(a)及び(b)でも説明した通り、二つの方向に対して結晶軸<100>の方位を揃えるものではないから、相違点1に係る構成とは異なる。また、製造方法が類似しているからといって同じ物が製造されるとは限らないことは上述した通りである。
そうすると、上記相違点1に係る構成は甲第5号証にも甲第6号証にも記載されていないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

2-2.本件発明4について
(1)対比判断
本件発明4と甲8発明1とを対比すると、
(ア)甲8発明1の「セラミックス基板11」は、本件発明4の「セラミックス板」に相当する。
(イ)甲8発明1の「パワーモジュール用基板」は、セラミックス基板11の両主面のうち一方の主面にパターンが形成された表銅板12を、他方の主面に裏銅板13を接合しているから、本件発明4の「セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている銅張回路基板」に相当する。
(ウ)甲8発明1の表銅板12及び裏銅板13は、表面を酸化させた銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合材として直接セラミック基板11に接合したものであるから、表銅板12及び裏銅板13とセラミック基板11との接合界面には、Cu相とCu_(2)O相との共晶体が形成され、Cu相が直接セラミックス基板11に接合されている部分と、Cu_(2)O相を介してセラミック基板11に接合される部分とを有するものと解され、本件発明4と同様に「接合界面は、銅板が、直接又はCu_(2)O相を介して、セラミクス板を構成する酸化物に接合されている部分を有している」と認められる。

したがって、本件発明4と甲8発明1とは、
「セラミックス板の片面又は両面に銅板が接合されており、かつ前記銅板の少なくとも一部が銅回路を備えている銅張セラミックス回路基板において、
銅張セラミックス回路基板の接合界面は、銅板が、直接又はCu_(2)O相を介して、セラミクス板を構成する酸化物に接合されている部分を有している銅張セラミックス回路基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2]
本件発明4では、前記銅回路を備えている前記銅板は、「結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下の配向銅板である」旨特定するのに対し、甲8発明1では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
直接又はCu_(2)O相を介してセラミクス板を構成する酸化物に接合されている部分について、本件発明4では配向銅板の(100)である旨特定するが、甲8発明1では、そのような特定がされていない点。
[相違点4]
本件発明4では、Cu_(2)O相の厚さが1μm以下である旨特定しているが、甲8発明1にはその旨特定されていない点。

そこで、相違点2について検討する。

相違点2に係る構成は、「銅板の任意の断面において」<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるとは限らない点で上記相違点1に係る構成と異なるが、その余の点で上記相違点1に係る構成と共通するものである。
そして、上記2-1(1)(a)ないし(c)で相違点1に対して示した判断は、相違点2に対しても当てはまるものである。
また、甲第4号証には、セラミックス基板10の両面に接合された無酸素銅板からなる回路パターン14が形成された金属接合セラミックス基板において、無酸素銅板の表面をX線回折装置で分析したときのX線回折積分強度比をI(220)/I(200)≦0.5とした技術事項が記載されているが、当該技術事項は、銅板において、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるようにするものではないから、甲8発明1に、甲第4号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点2に係る構成を導き出すことはできない。

以上のことから、本件発明4における上記相違点2に係る構成は、甲第4号証ないし甲第8号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、相違点3,4については検討するまでもなく、本件発明4は、甲8発明1及び甲第4号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された銅板の製造方法が甲第4号証ないし甲第6号証に実質的に記載されていることから、甲第8号証に記載された発明において、上記相違点2に係る構成を具備することは容易に想到し得た旨主張している。
しかしながら、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された製造方法は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された製造方法と全く同じという訳ではないから、甲第4号証ないし甲第6号証に記載した製造方法によって銅板を製造したとしても上記相違点2に係る構成が得られるとは認められない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

2-3.本件発明2、3及び5について
請求項2、3及び5は、請求項1又は4に従属する請求項であり、本件発明2、3及び5は、本件発明1又は4の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、本件発明1又は4が、上記2-1及び2-2の通り、当業者にとって容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2、3及び5についても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2-4.本件発明6について
(1)対比判断
本件発明6と甲4発明2とを対比すると、
(ア)甲4発明2の「無酸素銅板」は、本件発明6の「銅板」に相当する。
(イ)甲4発明2の「セラミックス基板」は、本件発明6の「セラミックス板」に相当する。
(ウ)甲4発明2において「セラミックス基板10の両面に無酸素銅板14を接合する」ことは、本件発明6において「銅板を、セラミックス板の片面又は両面に接合」することに相当する。
(エ)甲4発明2の「無酸素銅板からなる回路パターン13」は、本件発明6の「銅回路」に相当し、甲4発明2において「エッチング液により無酸素銅板14の不要部分を除去することにより、セラミックス基板10の両面には無酸素銅板からなる回路パターン13を形成する」ことは、本件発明6において「銅板にエッチング処理により銅回路を形成する」ことに相当する。
(オ)甲4発明2において、「エッチング液により無酸素銅板14の不要部分を除去することにより、セラミックス基板10の両面には無酸素銅板からなる回路パターン13を形成する」ことは、「セラミックス基板10の両面に無酸素銅板14を接合する」ことよりも後に行われている。

したがって、本件発明6と甲4発明2とは、
「銅板を、セラミックス板の片面又は両面に接合した後に、銅板にエッチング処理により銅回路を形成する銅張セラミックス回路基板の製造方法」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点5]
本件発明6では、銅板が「結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域を備え、かつ前記銅板の任意の断面における前記<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下である配向銅板」である旨特定されているのに対し、甲4発明2ではその旨特定されていない点。

そこで、相違点5について検討する。

相違点5に係る構成は、相違点1に係る構成と実質的に同じものであり。上記2-1(1)(a)ないし(d)で相違点1に対して示した判断は、相違点5に対しても当てはまるものである。

以上のことから、本件発明6における上記相違点5に係る構成は、甲第4号証ないし甲第8号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、本件発明6は、甲4発明2及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された銅板の製造方法が甲第4号証ないし甲第6号証に実質的に記載されていることから、上記相違点5に係る構成を具備することは容易に想到し得た旨主張している。
しかしながら、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された製造方法は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された製造方法と全く同じという訳ではないから、甲第4号証ないし甲第6号証に記載した製造方法によって銅板を製造したとしても上記相違点5に係る構成が得られるとは認められない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。


2-6.本件発明7について
(1)対比判断
本件発明7と甲8発明2とを対比すると、
(ア)甲8発明2の「セラミック基板」は、本件発明7の「セラミックス板」に相当する。
(イ)甲8発明2の「表銅板12」及び「裏銅板13」は、本件発明7の「銅板」に相当する。
(ウ)甲8発明2において「表銅板12や、裏銅板13用の銅板をセラミック基板11の表面に当接させ、窒素雰囲気中で酸化銅の融点(1083℃)以下、銅と酸化銅の共晶温度(1065℃)以上の温度で加熱して銅と微量の酸素との反応により生成するCu-O共晶液相を結合剤として直接セラミック基板11に接合する」ことは、接合するにあたり、冷却して共晶体を生成させることは自明であるから、本件発明7において「セラミックス板の片面又は両面に銅板の銅板面を対向させて接触させた状態で、かつ1065℃から1083℃の範囲内にまで温度を上昇させることで、前記銅板と前記セラミックス板との界面にCu-Cu_(2)O共晶体を生成させる熱処理工程」と、「熱処理済の前記セラミックス板と前記銅板とを冷却してこれらを接合させる接合工程」とを備えることに相当する。
ただし、熱処理工程について、本件発明7においては酸素を含有しているガス中においてなされる旨、及び、銅板を配向銅板に変換する旨特定されているのに対し、甲8発明2ではその旨特定されていない点で相違する。
(エ)甲8発明2の「無酸素銅板からなる回路パターン13」は、本件発明6の「銅回路」に相当し、甲8発明2において「エッチング液により無酸素銅板14の不要部分を除去することにより、セラミックス基板10の両面には無酸素銅板からなる回路パターン13を形成する」ことは、本件発明6において「銅板にエッチング処理により銅回路を形成する銅回路形成工程」を備えることに相当する。
(オ)甲8発明2の「窒化アルミニウム」、「酸化アルミニウム」は、それぞれ、本件発明7の「窒化ケイ素又は窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス」、「酸化物セラミックス」に相当する。
ただし、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス、又は、酸化物セラミックスについて、本件発明7は、ケイ素、マグネシウム、希土類元素から選択される少なくとも1の成分を5質量%以下含有している旨特定するのに対し、甲8発明2ではその旨特定されていない点で相違する。

したがって、本件発明7と甲8発明2とは、
「セラミックス板の片面又は両面に銅板の銅板面を対向させて接触させた状態で、かつ1065℃から1083℃の範囲内にまで温度を上昇させることで、前記銅板と前記セラミックス板との界面にCu-Cu2O共晶体を生成させる熱処理工程と、
熱処理済の前記セラミックス板と前記銅板とを冷却してこれらを接合させる接合工程と、
前記銅板に銅回路を形成する銅回路形成工程と、を備え、
前記セラミックス板は、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス、又は、酸化物セラミックスである、
銅張セラミックス回路基板の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点6]
本件発明7では、銅板が「配向銅板」であり、かつ、「結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下である」である旨特定されているのに対し、甲8発明2ではその旨特定されていない点。
[相違点7]
銅回路形成工程における銅回路の形成について、本件発明7ではエッチング処理により行われる旨特定されているのに対し、甲8発明2においてはその旨特定されていない点。
[相違点8]
熱処理工程について、本件発明7においては酸素を含有しているガス中においてなされる旨、及び、銅板を配向銅板に変換する旨特定されているのに対し、甲8発明2ではその旨特定されていない点。、
[相違点9]
窒化ケイ素又は窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス、又は、酸化物セラミックスについて、本件発明7は、ケイ素、マグネシウム、希土類元素から選択される少なくとも1の成分を5質量%以下含有している旨特定するのに対し、甲8発明2ではその旨特定されていない点。

そこで、相違点6について検討する。

相違点6に係る構成は、「銅板の任意の断面において」<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるとは限らない点で上記相違点1に係る構成と異なるが、その余の点で上記相違点1に係る構成と共通するものである。
そして、上記2-1(1)(a)ないし(c)で相違点1に対して示した判断は、相違点6に対しても当てはまるものである。
また、甲第4号証には、セラミックス基板10の両面に接合された無酸素銅板からなる回路パターン14が形成された金属接合セラミックス基板において、無酸素銅板の表面をX線回折装置で分析したときのX線回折積分強度比をI(220)/I(200)≦0.5とした技術事項が記載されているが、当該技術事項は、銅板において、結晶軸<100>を主方位とし、かつ銅の結晶軸<100>が前記銅板の法線方向に方位差15°以内でありかつ前記銅板の面内特定方向に15°以内である<100>優先配向領域の面積率が80%以上100%以下であるようにするものではないから、甲8発明2に、甲第4号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点6に係る構成を導き出すことはできない。

以上のことから、本件発明7における上記相違点6に係る構成は、甲第4号証ないし甲第8号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、相違点7ないし9については検討するまでもなく、本件発明7は、甲8発明2及び甲第4号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された銅板の製造方法が甲第4号証ないし甲第6号証に実質的に記載されていることから、上記相違点6に係る構成を具備することは容易に想到し得た旨主張している。
しかしながら、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された製造方法は、本件特許明細書の段落【0058】及び【0067】に記載された製造方法と全く同じという訳ではないから、甲第4号証ないし甲第6号証に記載した製造方法によって銅板を製造したとしても上記相違点2に係る構成が得られるとは認められない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

3.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし7は、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された発明又は技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、したがって、本件の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-10 
出願番号 特願2014-253611(P2014-253611)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木下 直哉平林 雅行多賀 和宏  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 石坂 博明
山澤 宏
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6415297号(P6415297)
権利者 NGKエレクトロデバイス株式会社
発明の名称 銅張セラミックス回路基板、これを搭載した電子機器、及び銅張セラミックス回路基板の製造方法  
代理人 井上 浩  

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