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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01R
管理番号 1354112
異議申立番号 異議2019-700374  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-07 
確定日 2019-08-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6415609号発明「可動コネクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6415609号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6415609号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成29年1月11日に特許出願され、平成30年10月12日に特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行され、その後、令和1年5月7日に、その請求項1?4に係る特許に対し特許異議申立人菖蒲谷道広(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本件発明1」?「本件発明4」という。)。

「【請求項1】
第1のハウジングと、
接続対象物と嵌合接続する第2のハウジングと、
前記第1のハウジングに固定する第1の固定部と、前記第2のハウジングに固定する第2の固定部と、前記第1の固定部と前記第2の固定部とを繋ぐとともに前記第2のハウジングを前記第1のハウジングに対して変位可能に支持するばね部と、前記接続対象物と導通接触する接点部とを有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
前記ばね部は、
前記接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する上片部及び下片部と、
前記上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぎ少なくとも前記交差方向に変位する第1の伸長部と、
前記上片部の他端と前記下片部の一端とを繋ぎ前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する第2の伸長部とを有し、
前記第2のハウジングは、前記接続対象物と嵌合接続した状態で、前記ばね部の前記変位によって前記嵌合方向及び前記交差方向に変位することを特徴とする可動コネクタ。
【請求項2】
前記第2の伸長部は、前記上片部の前記他端から前記下片部の前記一端にかけて、前記第1の伸長部に対して徐々に離間するように斜めに伸長する形状である請求項1記載の可動コネクタ。
【請求項3】
前記上片部は前記下片部よりも長く形成されている請求項1又は請求項2記載の可動コネクタ。
【請求項4】
前記第1の伸長部は、
一端が前記上片部の前記一端と繋がる直線部と、
前記直線部の他端と繋がり前記第1のハウジングの外方に向けてクランク状に屈曲する屈曲部とを有する請求項1?請求項3何れか1項記載の可動コネクタ。」

第3 特許異議申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記の甲第1?7号証を提出し、本件発明1?4は、甲第1又は2号証の記載、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?4に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:特開2012-14898号公報
甲第2号証:特許第5849166号公報
甲第3号証:特開2007-324028号公報
甲第4号証:特許第5946804号公報
甲第5号証:特開2015-176861号公報
甲第6号証:特開2007-220542号公報
甲第7号証:特開2012-156090号公報

第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証の【図12】を参照すると、プラグコンタクト35の外側片37aと内側片37bとの間に、水平方向に延びる部分(以下「水平部分」という。)があることが分かる。
そして、甲第1号証(特に、段落【0008】、【0014】、【0017】、【0019】、【0021】、【0022】、【0029】?【0032】、【0034】、【図1】、【図2】、【図4】、【図8】、【図12】、【図19】及び【図20】を参照。)には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、実施形態として次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定インシュレータ20と、
リセプタクルコネクタ60と嵌合接続する可動インシュレータ42と、
前記固定インシュレータ20に固定する外側片37aに形成した微小突部と、前記可動インシュレータ42に固定する支持側端部39に形成した微小突部と、前記外側片37aに形成した微小突部と前記支持側端部39に形成した微小突部とを繋ぐとともに前記可動インシュレータ42を前記固定インシュレータ20に対して変位可能に支持する外側片37a、水平部分、内側片37b及び中間水平部38と、前記リセプタクルコネクタ60と導通接触する支持側端部39の外側片とを有するプラグコンタクト35と、を備え可動インシュレータ42が固定インシュレータ20に対して上下方向及び前後方向に移動可能であるコネクタにおいて、
前記ばね部は、
前記リセプタクルコネクタ60を前記可動インシュレータ42に嵌合接続する上下方向に対する直交方向である前後方向に伸長する直線形状であり前記上下方向及び前記前後方向に変位する中間水平部38と、
前記前後方向に伸長する直線形状である水平部分と、
前記水平部分の一端から延びる外側片37aの、外側片37aの微小突部より上側の部分と、
前記水平部分の他端と前記中間水平部38の一端とを繋ぎ前記上下方向及び前記前後方向に変位する内側片37bとを有し、
前記可動インシュレータ42は、前記リセプタクルコネクタ60と嵌合接続した状態で、前記外側片37a、水平部分、内側片37b及び中間水平部38の前記変位によって前記上下方向及び前記前後方向に変位するコネクタ。」

2 甲第2号証
甲第2号証(特に、段落【0006】、【0037】?【0039】、【0044】?【0056】、【0077】、【0080】、【0083】、【0084】、【0086】、【0095】、【0101】、【0111】、【0128】、【図1】、【図11】、【図15】、【図16】、【図23】及び【図26】を参照。)には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、第1実施形態として次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「固定ハウジング7と、
接続対象物と嵌合接続する可動ハウジング8と、
前記固定ハウジング7に固定する固定部11bと、前記可動ハウジング8に固定する基端部11dと、前記固定部11bと前記基端部11dとを繋ぐとともに前記可動ハウジング8を前記固定ハウジング7に対して変位可能に支持する可動部11cと、前記接続対象物と導通接触するプラグ接触部11eとを有するプラグ端子11と、を備えるフローティングコネクタにおいて、
前記可動部11cは、
前記接続対象物を前記可動ハウジング8に嵌合接続する高さ方向Zに対する直交方向である前後方向Yに伸長する直線形状であり前記高さ方向Z及び前記前後方向Yに変位する第3の伸張部11c5と、
前記前後方向Yに変位する略逆U状に折り返した屈曲部である第1の屈曲部11c2と、
前記第1の屈曲部11c2の一端と前記固定部11bとを繋ぎ少なくとも前記前後方向Yに変位する第1の伸張部11c1と、
前記第1の屈曲部11c2の他端と前記第3の伸張部11c5の一端とを繋ぎ前記高さ方向Z及び前記前後方向Yに変位する第2の伸張部11c3とを有し、
前記可動ハウジング8は、前記接続対象物と嵌合接続した状態で、前記可動部11cの前記変位によって前記高さ方向Z及び前記前後方向Yに変位するフローティングコネクタ。」

3 甲第3号証
甲第3号証(特に、段落【0012】、【0016】、【0024】、【0029】?【0037】、【図1】、【図4】及び【図5】を参照。)には、コネクタ構造に関して、ターミナル30は、正面視S字状に形成されて、変形手段の曲がり部としての正面視U字状の湾曲部34が一対形成されており、左側の湾曲部34より上側、一対の湾曲部34間、及び、右側の湾曲部34より下側において、上下方向へ延伸され、これにより、ターミナル30は、湾曲部34において弾性変形し易くされて、水平方向へ弾性変形し易くされていること、及び湾曲部34の他にも、折曲部62又は屈曲部72でもよいことが開示されている。

4 甲第4号証
甲第4号証(特に、段落【0022】、【0023】、【0046】、【0052】、【0080】、【0113】?【0116】、【0123】、【図6】及び【図11】を参照。)には、コネクタに関して、接続端子4に、第1弾性部42、92、幅広部43、93、及び第2弾性部44、94を設けることにより、第1弾性部42、92と幅広部43、93との間の屈曲部、及び幅広部43、93と第2弾性部44、94との間に応力が集中して弾性変形すること、及びこれにより固定ハウジング7に対して可動ハウジング8が上下左右に移動することが開示されている。

5 甲第5号証
甲第5号証(特に、段落【0023】、【0033】、【0044】、【0055】?【0059】、【図5】、【図9】及び【図16】を参照。)には、コネクタに関して、コンタクトの接触部51と接続部52とを連結する、ほぼS字形の連結部53であって、弾性変形可能で、直線部53Aと第1湾曲部53Bと第2湾曲部53Cとを有し、連結部53の形状としては、ほぼZ字形等の様々な形状が考えられることが開示されている。

6 甲第6号証
甲第6号証(特に、段落【0010】、【0013】、【0017】、【0020】、【図3】及び【図4】を参照。)には、コネクタに関して、プラグ端子30は、第1の基板100に接続される接続部31が後方に延びるように形成され、接続部31の後端から斜め上方に向かって延びる第1の真直部32と、第1の真直部32の上端から上方に向かって屈曲する屈曲部33と、屈曲部33から後方に延びる第2の真直部34と、第2の真直部34から上方に向かって延びる接触部35とが設けられており、プラグ端子30は、屈曲部33を基点として幅方向、前後方向及び上下方向に弾性変形するようになっていることが開示されている。

7 甲第7号証
甲第7号証(特に、段落【0014】、【0015】、【0021】、【0025】、【図1】、【図3】及び【図8】を参照。)には、フローティング型コネクタに関して、レセプタクル側コンタクト30は、上下に延びて形成された接触部31と、接触部31の下端部を左右にほぼ直角に折曲して形成された内側基部32と、内側基部32の端部を斜め上方に折曲して形成された内側当接部33と、内側当接部33の上端部が逆U字状に曲げられて左右方向に弾性変形可能に形成された折曲部34と、折曲部34と繋がり下方に延びて形成された外側当接部35と、外側当接部35の下端部を左右に折曲して形成された外側基部36と、外側基部36の端部を下方にほぼ直角に折曲して形成された固定側被保持部37と、固定側被保持部37の下端部を左右にほぼ直角に折曲して形成されたリード部38とを有することが開示されている。

第5 判断
1 本件発明1について
本件発明1の「前記接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する上片部及び下片部」との構成は、
「前記接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する下片部」との構成と、「前記交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する上片部」との構成に、分解して記載することが出来る。

(1)甲1発明との対比、判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「固定インシュレータ20」は、本件発明1の「第1のハウジング」に相当する。
以下同様に、「リセプタクルコネクタ60」は、「接続対象物」に、
「可動インシュレータ42」は、「第2のハウジング」に、
「外側片37aに形成した微小突部」は、「第1の固定部」に、
「支持側端部39に形成した微小突部」は、「第2の固定部」に、
「外側片37a、水平部分、内側片37b及び中間水平部38」は、「ばね部」に、
「支持側端部39の外側片」は、「接点部」に、
「プラグコンタクト35」は、「端子」に、
「上下方向」は、「嵌合方向」に、
「上下方向に対する直交方向である前後方向」は、「交差方向」に、
「可動インシュレータ42が固定インシュレータ20に対して上下方向及び前後方向に移動可能であるコネクタ」は、「可動コネクタ」に、
「水平部分」は、「上片部」に、
「中間水平部38」は、「下片部」に、
「内側片37b」は、「第2の伸長部」に、それぞれ相当する。

また、甲1発明の「水平部分の一端から延びる外側片37aの、外側片37aの微小突部より上側の部分」と、本件発明1の「上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぎ少なくとも前記交差方向に変位する第1の伸長部」とは、「上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぐ伸張部」である限りにおいて共通する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
「第1のハウジングと、
接続対象物と嵌合接続する第2のハウジングと、
前記第1のハウジングに固定する第1の固定部と、前記第2のハウジングに固定する第2の固定部と、前記第1の固定部と前記第2の固定部とを繋ぐとともに前記第2のハウジングを前記第1のハウジングに対して変位可能に支持するばね部と、前記接続対象物と導通接触する接点部とを有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
前記ばね部は、
前記接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する下片部と、
前記交差方向に伸長する直線形状である上片部と、
上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぐ伸張部と、
前記上片部の他端と前記下片部の一端とを繋ぎ前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する第2の伸長部とを有し、
前記第2のハウジングは、前記接続対象物と嵌合接続した状態で、前記ばね部の前記変位によって前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する可動コネクタ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1a]
「上片部」に関して、本件発明1においては、上片部は、「嵌合方向及び前記交差方向に変位する」のに対して、
甲1発明においては、水平部分は、嵌合方向及び交差方向に変位するか否かについては、明らかでない点。

[相違点1b]
「伸張部」に関して、本件発明1においては、第1の伸張部は、「少なくとも前記交差方向に変位する」ものであるのに対して、
甲1発明においては、外側片37aの微小突部より上側の部分は、前後方向に変位するか否か明らかでない点。

事案に鑑みて、上記相違点1bについて先に検討する。
甲第1号証には、「さらに同時に各プラグコンタクト35の固定側端部37を固定インシュレータ20の各コンタクト支持溝29に上方から嵌合する。すると各固定側端部37のテール片36に連なる部分である外側片37aが対応するコンタクト支持溝29の外側面側の部分に嵌合し(隣り合う外側隔壁30に接触する。図11参照)、かつ外側片37aに形成した微小突部(図示略)が対応するコンタクト支持溝29の内面(外側隔壁30)に食い込むので各固定側端部37が対応するコンタクト支持溝48に固定される。一方、各固定側端部37の中間水平部38に連なる部分である内側片37bは対応するコンタクト支持溝29の内側面側の部分に可動状態で嵌入し、内側片37bは隣接する内側隔壁31によって左右方向に位置規制される。」(段落【0021】)と記載されている(なお、当審において下線を付した「コンタクト支持溝48」は、「コンタクト支持溝29」の誤記である。必要であれば、甲第1号証の対応する特許公報である特許第5590991号公報の段落【0021】において、「コンタクト支持溝29」と記載されていることを参照。)。
また、甲第1号証の【図5】の、固定インシュレータ20の下方から見た図面を参照すると、コンタクト支持溝29は、前壁23の前面を開口側とすると、開口側が奥側よりも、左右方向の幅が狭いことが分かる。

上記事項によれば、外側片37aに形成した微小突部は、図示されておらず、かつ、甲第1号証の他の箇所にも、微小突部が外側片37aの、どの箇所に設けられているかも記載されていないから、外側片37aの微小突部より上側の部分が、どの程度の長さであるかは明らかでなく、したがって、外側片37aの微小突部より上側の部分が、前後方向に変位できる程度の長さを有しているか否かも明らかでない。
更に、外側片37aは、コンタクト支持溝29の外側面側の部分に嵌合し、コンタクト支持溝29に固定されるものであり、かつ、コンタクト支持溝29の左右方向の幅は、開口側が奥側よりも狭くなっているから、外側片37aは、その微小突部より上側の部分も含めて、固定インシュレータ20に対して前後方向に変位できないようになっているといえる。
そうすると、甲1発明においては、外側片37aの微小突部より上側の部分は、前後方向に変位するものではなく、また、外側片37aの微小突部より上側の部分を前後方向に変位するようにすることについては、動機付けもない。
また、甲第2号証に記載された事項、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等は、甲1発明の外側片37aの微小突部より上側の部分を、前後方向に変位するようにすることについて示唆するものではない。
以上のことから、甲1発明において、上記相違点1bに係る本件発明1の構成とすることは、甲第2号証に記載された事項、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

なお、異議申立人は、特許異議申立書において、「甲1発明において、『上片部』 ・・・(中略)・・・ 『外側片(37a)の微小突部より上側の部分』は、『前後方向』に変位するのか必ずしも明らかではないが、上述のとおり、甲1発明の目的は、『互いに直交する二軸方向の位置ずれを吸収可能でありながら、コンタクトの伝送特性を良好にすることが可能なコネクタを提供すること』にあるから、これらの部分も当然に『前後方向』に変位可能とされていると考えるのが自然であるし、また、上記課題を解決するに際し、これらの部分を弾性変形可能とすることは技術上当然のことである。」(58ページ23行?59ページ3行)と記載し、
概略、甲1発明の外側片37aの微小突部より上側の部分が、前後方向に変位可能であることは当然である旨主張している。
しかし、甲第1号証には、「この隙間S内において内側片37bは前後方向に弾性変形可能となる(内側片37bの弾性変形に伴って中間水平部38も僅かに前後方向に弾性変形する)。従って、各プラグコンタクト35を介して固定インシュレータ20に支持された可動インシュレータ42は、固定インシュレータ20の内部空間内を固定インシュレータ20に対して前後方向に微小移動可能である。」(段落【0022】)、「すると可動インシュレータ42を支持している各プラグコンタクト35の内側片37b(及び中間水平部38)が前後方向に僅かに弾性変形して、可動インシュレータ42を固定インシュレータ20に対して前方または後方に僅かに相対移動させる(フローティングさせる)ので、リセプタクルコネクタ60(可動インシュレータ93)と可動インシュレータ42の上記中心軸の前後方向位置が互いに一致する。」(段落【0030】)、及び「さらにプラグコンタクト35の可動部位である内側片37bと中間水平部38が前後方向に弾性変形するとき僅かながら上下方向にも弾性変形するので」(段落【0034】)と記載されており、
当該記載によれば、甲1発明においては、内側片37b及び中間水平部38により、前後方向の変位が行われるから、外側片37aの微小突部より上側の部分を前後方向に変位可能とする必要性があるとはいえない。
また、外側片37aが、その微小突部より上側の部分も含めて、固定インシュレータ20に対して前後方向に変位できないようになっていることは、前述したとおりである。
したがって、異議申立人の上記主張は、妥当でない。

以上のことから、相違点1aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、並びに甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)甲2発明との対比、判断
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲1発明の「固定ハウジング7」は、本件発明1の「第1のハウジング」に相当する。
以下同様に、「接続対象物」は、「接続対象物」に、
「可動ハウジング8」は、「第2のハウジング」に、
「固定部11b」は、「第1の固定部」に、
「基端部11d」は、「第2の固定部」に、
「可動部11c」は、「ばね部」に、
「プラグ接触部11e」は、「接点部」に、
「プラグ端子11」は、「端子」に、
「高さ方向Z」は、「嵌合方向」に、
「高さ方向Zに対する直交方向である前後方向Y」は、「交差方向」に、
「フローティングコネクタ」は、「可動コネクタ」に、
「第3の伸張部11c5」は、「下片部」に、
「第1の伸張部11c1」は、「第1の伸張部」に、
「第2の伸張部11c3」は、「第2の伸長部」に、それぞれ相当する。

また、甲2発明の「第1の屈曲部11c2」と、本件発明1の「上片部」とは、「上側部分」である限りにおいて共通する。

以上のことから、本件発明1と甲2発明とは次の点で一致する。
「第1のハウジングと、
接続対象物と嵌合接続する第2のハウジングと、
前記第1のハウジングに固定する第1の固定部と、前記第2のハウジングに固定する第2の固定部と、前記第1の固定部と前記第2の固定部とを繋ぐとともに前記第2のハウジングを前記第1のハウジングに対して変位可能に支持するばね部と、前記接続対象物と導通接触する接点部とを有する端子と、を備える可動コネクタにおいて、
前記ばね部は、
前記接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する下片部と、
前記交差方向に変位する上側部分と、
前記上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぎ少なくとも前記交差方向に変位する第1の伸長部と、
前記上片部の他端と前記下片部の一端とを繋ぎ前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する第2の伸長部とを有し、
前記第2のハウジングは、前記接続対象物と嵌合接続した状態で、前記ばね部の前記変位によって前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する可動コネクタ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点2]
「上側部分」に関して、本件発明1においては、「交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する」ものであるのに対して、
甲2発明においては、略逆U状に折り返した屈曲部であって、直線形状ではなく、前後方向Yには変位するものの、高さ方向Zに変位するか否かは明らかでない点。

上記相違点2について検討する。
本件特許明細書には、「従来技術で示す円弧状に湾曲する屈曲部を有するばね部を形成した端子では、接続対象物と嵌合接続する荷重を受けた際に、特に円弧状の屈曲部の長さ方向及び板厚方向に応力が分散されやすいため、ばね部が所定の変位量を得るためには大きな荷重が必要となることが分かった。つまり従来のばね部は変位荷重を小さくしにくい形状なのである。」(段落【0010】)、及び「これに対して本発明のばね部は、円弧状に湾曲する屈曲部ではなく、直線形状の上片部及び下片部を有し、上片部の一端から第1の伸長部が、他端から第2の伸長部が伸長する形状として形成したものである。このような直線形状のばね片を角部で繋げた矩形波形状のばね部では、従来技術のばね部のように円弧状の屈曲部の長さ方向及び板厚方向で均等に応力分布が生じることがない。即ち、上片部、下片部、第1の伸長部、第2の伸長部が角部を介して繋がるばね片として機能するため、ばね部の変位荷重を小さくしやすくなる。よって本発明の可動コネクタでは、ばね部の変位荷重を小さくできるため、接点部の接触圧だけでなくばね部の変位荷重も低くすることができるようになり、これにより挿抜の作業性を改善することができるようになる。」(段落【0011】)と記載されている。
上記記載によれば、円弧状に湾曲する屈曲部を有するばね部を形成した端子では、ばね部が所定の変位量を得るためには大きな荷重が必要となるところ、本件発明1は、「接続対象物を前記第2のハウジングに嵌合接続する嵌合方向に対する交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する上片部及び下片部と、前記上片部の一端と前記第1の固定部とを繋ぎ少なくとも前記交差方向に変位する第1の伸長部と、前記上片部の他端と前記下片部の一端とを繋ぎ前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する第2の伸長部」との構成を備えることにより、第1の伸長部、上片部、第2の伸長部、及び下片部が、角部を介して繋がるばね片として機能するため、ばね部の変位荷重を小さくしやすくなるものである。

甲第1号証(前記「(1)」、及び前記「第4 1」を参照。)の「水平部分」は、「交差方向に伸長する直線形状」とはいえるものの、交差方向に変位可能なものではなく、外側片37a、水平部分及び内側片37bを、角部を介して繋がるばね片として機能させるものではない。
そして、甲第1号証は、コネクタの端子において、略逆U状に折り返した屈曲部を、直線形状とすることにより、角部を介して繋がるばね片として機能させて、ばね部の変位荷重を小さくしやすくすることについて開示するものではないから、甲第1号証に記載された事項を甲2発明の「第1の屈曲部11c2」に適用する動機づけはない。

また、甲第3?7号証に記載された周知技術等は、コネクタの端子において、略逆U状に折り返した屈曲部を、直線形状とすることにより、角部を介して繋がるばね片として機能させて、ばね部の変位荷重を小さくしやすくすることについて、または、本件発明1の「上側部分」に相当する部分が「交差方向に伸長する直線形状であり前記嵌合方向及び前記交差方向に変位する」ことについて、開示するものではないから、甲第3?7号証に記載された周知技術等を甲2発明の「第1の屈曲部11c2」に適用することについては、動機付けはなく、また、たとえ適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に到達するものではない。

以上のことから、甲2発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、甲第1号証に記載された事項、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明、甲第1号証に記載された事項、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
以上のことから、本件発明1は、甲第1又は2号証の記載、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明2?4は、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1又は2号証の記載、及び甲第3?7号証に記載された周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び全証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-22 
出願番号 特願2017-2959(P2017-2959)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6415609号(P6415609)
権利者 イリソ電子工業株式会社
発明の名称 可動コネクタ  
代理人 大竹 正悟  

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