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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G08B
管理番号 1354119
異議申立番号 異議2019-700455  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-04 
確定日 2019-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6435437号発明「発煙筒保持具及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6435437号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6435437号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)6月13日(優先権主張 平成28年6月14日)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年6月4日に特許異議申立人 大宝工業 株式会社が、特許異議の申立てを行った。

2 本件特許発明
特許第6435437号の請求項1?8の特許に係る発明(以下、それらを「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
発炎筒を保持した状態で路面に置かれて用いられる発炎筒保持具であって、パルプと防炎性材料とを少なくとも含む圧縮素材からなる燃焼性の射出成形圧縮材で形成されている、ことを特徴とする発炎筒保持具。
【請求項2】
前記燃焼性圧縮材には、生分解性結合剤が含まれている、請求項1に記載の発炎筒保持具。
【請求項3】
前記パルプが、パルプチップ片である、請求項1又は2に記載の発煙筒保持具。
【請求項4】
前記発炎筒を装着する装着面が溝形状又樋形状を有するとともに、前記発炎筒の発炎先端部側が長く延びた形状の胴体部と、前記装着面と前記路面との間に設けられた空間構造部とを有し、前記胴体部と前記空間構造部とを併せて射出成形した一体型の圧縮構造体である、請求項1?3のいずれか1項に記載の発炎筒保持具。
【請求項5】
前記空間構造部が、前記射出成形圧縮材で形成された脚部であり、該脚部が前記胴体部と前記路面との間に形成されている、請求項4に記載の発煙筒保持具。
【請求項6】
前記空間構造部の高さが、15?30mmの範囲内である、請求項4又は5に記載の発煙筒保持具。
【請求項7】
発炎筒を保持した状態で路面に置かれて用いられる発炎筒保持具の製造方法であって、パルプと防炎性材料とを少なくとも含む原料を射出成形し、燃焼性圧縮素材からなる一体型の発煙筒保持具を製造する、ことを特徴とする発炎筒保持具の製造方法。
【請求項8】
前記発煙筒保持具は、前記発炎筒を装着する装着面が溝形状又樋形状を有するとともに、前記発炎筒の発炎先端部側が長く延びた形状の胴体部と、前記装着面と前記路面との間に設けられた空間構造部とを有し、前記胴体部と前記空間構造部とを併せて射出成形した一体型の圧縮構造体である、請求項7に記載の発炎筒保持具の製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1?6号証を提出し、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、あるいは、甲第3号証の記載事項を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨(特許法第29条第2項違反)を主張している。
また、特許異議申立人は、本件特許発明2?8は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証の記載事項並びに甲第3号証の記載事項に基づいて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証の記載事項又は甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨(特許法第29条第2項違反)を主張している。
特許異議申立人が提出した甲第1?6号証は以下のとおりである。
甲第1号証: 特開2004-164021号公報
甲第2号証: 特開2004-100103号公報
甲第3号証: 特開2013-151636号公報
甲第4号証: 特開2011-136498号公報
甲第5号証: 特開2001-319278号公報
甲第6号証: 特開2011-170497号公報

4 文献の記載、引用発明
(1)甲第1号証の記載、甲1発明
ア 甲第1号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
(ア)「【0009】
図1及び図3に示すように、信号焔管1は、一端に点火部2を備え、内部に前記点火部2に連繋した高輝度火焔を放つ発焔部(図示せず)を充填した円筒状の焔管本体3と、前記点火部2より外側に延出させた延出部4aを有し、焔管本体3にテープで固定した断熱体4とからなる。
【0010】
図1?図3に示すように、断熱体4は、焔管本体3より所定長だけ長く形成するとともに、両側縁に斜め外側上方を向いた漏れ防止縁5を形成したボール紙製の基材6底面に、アルミ箔7を貼着してなる断熱体本体8を備える。また、前記断熱体本体8底面には、この底面と路面bとの間に空隙aを形成するための脚部9を設ける。この脚部9は、断熱体本体8底面の両側に沿って、かつアルミ箔7上に二本の木製の桟材9aを貼着して構成する。
【0011】
上記断熱体4の基材6は、前述のようにボール紙で形成してあり、その残滓が、車両の通行の邪魔にならず、また車両に撥ね飛ばされたり、風で飛んで衝突しても他に危害を与えず、さらに一定時間(15分程度)は断熱効果を持続しうるものである。
【0012】
上記基材6(ボール紙)は厚み約4mmとし、また上記桟材9aの高さ(厚み)は約4mmとし、さらに上記アルミ箔7は、10?30μm程度の厚みにしてあり、発焔時に発生する熔融灰からの輻射熱を遮断する作用を発揮する。
【0013】
以上のように構成した信号焔管1は、使用に際し、作業員が点火部に点火し、断熱体4を下側にして高速道路の路面bに配置する。この焔管本体3の発焔部から流れ出る溶融灰は、発焔開始直後には断熱板4の延出部4aによって、またその後は、中央から後端側に徐々に移行しながら断熱体4に受け止められる。また、熔融灰を受け止めた断熱体4は、その熱によって、徐々に炭化するが崩壊することはなく、熔融灰が路面bに流出してこれを直接損傷することはない。さらに、該断熱体4と路面b間には脚部9の桟材9aによって空隙aが形成されるので、空気の断熱作用によって断熱効果は高い。」

(イ)図1


イ 上記アの記載について、以下のことがいえる。
断熱体4は、焔管本体3にテープで固定される。(段落【0009】)
断熱体4の断熱体本体8は、ボール紙製の基材6底面に、アルミ箔7を貼着してなり、断熱体4は、当該貼着してなる断熱体本体8底面の両側に沿って、脚部9を設けるための桟材9aを貼着して得られる。(段落【0010】)
断熱体4は、使用に際し、高速道路の路面に配置され、焔管本体3の発焔部から流れ出る溶融灰の熱によって、徐々に炭化する。(段落【0013】)

ウ 上記ア、イによれば、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「焔管本体に固定され、使用に際し路面に配置され、焔管本体の発焔部から流れ出る溶融灰の熱によって徐々に炭化する断熱体の製造方法であって、ボール紙製の基材底面にアルミ箔を貼着し、当該貼着してなる断熱体本体底面に脚部を設けるための桟材を貼着して、断熱体を製造する、断熱体の製造方法。」

(2)甲第2号証の記載、甲2発明
ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、包装紙、壁紙等の紙類、ダンボール、パルプ繊維質ボード等のパルプ繊維製品の難燃化技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
パルプ繊維製品用難燃剤には、水酸化アルミニウムが広く使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
水酸化アルミニウムは、非水溶性の固形の粉末であり、それをパルプに多量混合して使用すると、パルプ繊維製品の物性強度の低下を招く。そこで本発明者は、パルプ繊維製品用難燃剤につき鋭意研究し、硫酸アンモニウムが極めて安価でパルプ繊維製品の難燃化に極めて有効であるとの知見を得た。ところが硫酸アンモニウムによって難燃化されたパルプ繊維製品の品質が経時変化し、変色劣化する点が問題になった。この点について検討するに、硫酸アンモニウムは、肥料に使用して土壌の酸性化を招くのと同じように、大気中の湿気を受けて加水分解を起こし、そのとき生じる硫酸成分がパルプ繊維を酸性化し変色劣化させ、同時に生じるアンモニウム成分が気化して大気中に放散し、パルプ繊維の難燃性能が低下するものと思われた。
【0004】
【発明の目的】
そこで本発明は、パルプ繊維製品の難燃化に使用される硫酸アンモニウムの大気中の湿気による加水分解を抑え、その難燃機能を損なうことなく、パルプ繊維製品の変褪色や劣化を防止し、高品質の難燃パルプ繊維製品を経済的に得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る難燃剤は、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の中の何れか1種以上を、硫酸アンモニウムに混合して成ることを第1の特徴とする。
【0006】
本発明に係る難燃剤の第2の特徴は、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の中の何れか1種以上を、硫酸アンモニウム100重量部に対して0.5?5.0重量部混合して成る点にある。
【0007】
本発明に係るパルプ繊維製品は、セルロース系パルプを主材として構成され、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の中の何れか1種以上を、硫酸アンモニウムに混合して成る難燃剤が付与されていることを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係るパルプ繊維製品の第2の特徴は、上記第1の特徴に加え、古紙パルプを主材としてパルプ繊維製品を構成した点にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において「セルロース系パルプ」とは、ナイロン、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の熱可塑性合成繊維を素材とする合成樹脂系パルプから区別されるケナフや針葉樹等の草木を叩解して得られる植物繊維やその植物繊維を出発原料とするレーヨン等のセルロース系繊維を素材とするパルプを意味し、それには草木を叩解した新生パルプのほかに、新聞、雑誌、襖紙、障子紙、壁紙、包装紙、ティッシュペーパー、ウエットティッシュ、ダンボール、紙製牛乳パック、紙製セメント袋、石膏ボード表面保護紙、繊維質ボード等を叩解した古紙パルプも含まれる。従って本発明における「パルプ繊維製品」には、難燃化が必要とされる襖紙、障子紙、壁紙、石膏ボード表面保護紙等の抄造紙のほか、繊維質ボードの如く定盤や成形金型間で加圧成形される繊維質成形品も含まれる。」

(イ)「【0012】
トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物が、パルプ繊維製品の変褪色防止に寄与する理由は、必ずしも明らかではないが、これらが直接、又は、これらと硫酸アンモニウムとの化合物が、PH緩衝剤の如く機能し、硫酸アンモニウムの大気中の湿気による加水分解を抑え、パルプ繊維製品の酸性化を抑制しているものと思われる。しかし、硫酸アンモニウムを主剤とするパルプ繊維製品用難燃剤それ自体、或いは、それによって難燃化されたパルプ繊維製品それ自体は、トリエタノールアミンそれ自体、或いは、アルカリ金属の水酸化物それ自体、或いは又、アルカリ土類金属の水酸化物それ自体を含まず、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の何れかと硫酸アンモニウムとの生成物を含むものであってもよい。何故なら、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物が、如何にパルプ繊維製品に作用して変褪色防止機能を営んでいるのか、その変褪色防止機能については必ずしも明らかではないからである。
【0013】
ただ確かなことは、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、または、アルカリ土類金属の水酸化物の添加された硫酸アンモニウムを難燃剤としてパルプ繊維製品に適用するとき、それらを添加せずに硫酸アンモニウムを難燃剤として適用した場合と同等の防炎効果が得られ、且つ、パルプ繊維製品の変色劣化を伴わなず、その硫酸アンモニウム100重量部に対する添加量が1重量部以下となる微量であっても好結果が得られる、と言う事実である。」

イ 上記アの記載について、以下のことがいえる。
難燃パルプ繊維製品は、セルロース系パルプを主材として構成され、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の中の何れか1種以上を、硫酸アンモニウムに混合して成る難燃剤が付与されているものであり、防炎効果を有する。(段落【0004】、【0007】、【0013】)
難燃パルプ繊維製品は、成形金型間で加圧成形される。(段落【0004】、【0009】)

ウ 上記ア、イによれば、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「セルロース系パルプを主材として構成され、トリエタノールアミン、アルカリ金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の水酸化物の中の何れか1種以上を、硫酸アンモニウムに混合して成る難燃剤が付与されており、防炎効果を有する難燃パルプ繊維製品を、成形金型間で加圧成形すること。」

(3)甲第3号証の記載、甲3発明
ア 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0014】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂と平均繊維径が0.1?200nmの微細セルロース繊維複合体を含有するものであって、該微細セルロース繊維複合体が微細セルロース繊維の表面に炭化水素基がアミド結合を介して連結されたものであることに特徴を有する。なお、本明細書において、「炭化水素基がアミド結合を介して」とは、アミド基の炭素原子がセルロース表面に結合し、窒素原子に炭化水素基が共有結合で結合した状態を意味する。」

(イ)「【0037】
以下、前記「第1の製造形態」に基づいて、微細セルロース繊維複合体の製造方法を説明する。
【0038】
<工程(1)>
工程(1)は、天然セルロース繊維をN-オキシル化合物存在下で酸化して、カルボキシ基含有セルロース繊維を得る工程である。
【0039】
工程(1)では、まず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準:150℃にて30分間加熱乾燥させた後の天然セルロース繊維の質量)に対して約10?1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていてもよい。また、前記市販のパルプのセルロースI型結晶化度は、通常80%以上である。
【0040】
(酸化処理工程)
次に、上記天然セルロース繊維を、N-オキシル化合物の存在下で酸化処理して、カルボキシ基含有セルロース繊維を得る(以下、単に「酸化処理」と称する場合がある)。」

(ウ)「【0049】
(微細化工程)
第1の製造形態では、前記精製工程後、工程(1)で得られたカルボキシ基含有セルロース繊維を微細化する工程を行う。」

(エ)「【0054】
<工程(2)>
第1の製造形態において、工程(2)は、前記微細化工程を経て得られたカルボキシ基含有微細セルロース繊維に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて、微細セルロース繊維複合体を得る工程である。」

(オ)「【0087】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である」。

(カ)「【0093】
〔ポリエステル樹脂成形体〕
本発明のポリエステル樹脂成形体は、本発明のポリエステル樹脂組成物を押出成形、射出成形、又はプレス成形することによって調製することができる。」

イ 上記アの記載について、以下のことがいえる。
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂と、微細セルロース繊維複合体とを含有する。(段落【0014】)
微細セルロース繊維複合体は、木材パルプを酸化処理及び微細化処理した後、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて得られる。(段落【0037】?【0040】、【0049】、【0054】)
ポリエステル樹脂組成物は、他の成分として難燃剤を含有し得る。(段落【0087】)
ポリエステル樹脂成形体は、ポリエステル樹脂組成物を射出成形することによって調製したものであり得る。(段落【0093】)

ウ 上記ア、イによれば、甲第3号証には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエステル樹脂と、木材パルプを酸化処理及び微細化処理した後炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて得られた微細セルロース繊維複合体とを含有し、他の成分として難燃剤を含有するポリエステル樹脂組成物を、射出成形することによって、ポリエステル樹脂成形体を調製すること。」

5 当審の判断
(1)本件特許発明7について
ア 本件特許発明7と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「焔管本体」は、本件特許発明7の「発炎筒」に相当する。
甲1発明の「断熱体」は、「焔管本体に固定され」るから、「焔管本体」を保持した状態とされるものであって、本件特許発明1の「発炎筒保持具」に含まれる。
甲1発明の「断熱体」は「溶融灰の熱によって徐々に炭化する」から、本件特許発明7の「発煙筒保持具」と甲1発明の「断熱体」とは、燃焼性の素材を含む点で共通している。
そうすると、本件特許発明7と甲1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

(一致点)「発炎筒を保持した状態で路面に置かれて用いられる発炎筒保持具の製造方法であって、燃焼性の素材を含む発煙筒保持具を製造する、発炎筒保持具の製造方法。」
(相違点)「発煙筒保持具を製造する」ことが、本件特許発明7では、「パルプと防炎性材料とを少なくとも含む原料を射出成形し」て行われ、かつ製造される発煙筒保持具が「燃焼性圧縮素材からなる一体型の」ものであるに対し、甲1発明では、「ボール紙製の基材底面にアルミ箔を貼着し、当該貼着してなる断熱体本体底面に脚部を設けるための桟材を貼着して」行われるものであって、原料や成形工程が異なり、また、製造される「断熱体」が、燃焼性の素材を含むものではあるものの、「燃焼性圧縮素材からなる一体型の」ものではない点。

イ そこで、相違点について検討する。
甲2発明の「難燃パルプ繊維製品」は、「防炎効果を有する」ものである。
しかしながら、甲第1号証には、断熱体に防炎効果を付与することの必要性については記載も示唆もされておらず、発煙筒保持具に防炎効果を付与すべきことが当業者に周知の課題であるということもできないから、甲1発明の「断熱体」に、防炎効果を付与する目的で、甲2発明の構成を適用することにつき、動機付けが見出せない。
また、甲2発明の「難燃パルプ繊維製品」は難燃性を有するところ、燃焼性の素材を含む甲1発明の「断熱体」に、燃焼性とは逆に難燃性を付与する目的で、甲2発明の構成を適用することについても、動機付けが見出せず、燃焼性と逆である点でむしろ阻害事由があるといえる。
そして、この点は「難燃剤」を含有する甲3発明についても同様であって、甲1発明の「断熱体」に難燃性を付与する目的で甲3発明の構成を適用することにつき、動機付けが見出せない。
また、そもそも、甲2発明の「加圧成形する」ことは、射出成形することとは異なるから、甲1発明に甲2発明を適用しても本件特許発明7の構成には至らず、甲3発明の「微細セルロース繊維複合体」は「木材パルプ」を「酸化処理」等して得られた「微細セルロース繊維複合体」を含有するものの、「微細セルロース繊維複合体」はパルプであるとはいえないから、甲1発明に甲3発明を適用しても本件特許発明7の構成には至らない。
以上のことから、本件特許発明7は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易になし得るものではなく、甲1発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易になし得るものでもない。

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1は、本件特許発明7における「発煙筒保持具」が「一体型の」ものであるとの限定が省かれている他は、方法の発明である本件特許発明7のカテゴリーを物の発明に変更したものであるといえる。
そうすると、本件特許発明7が上記(1)の理由により甲1発明等に基づいて当業者が容易になし得るものではないことから、本件特許発明1も上記(1)と同様の理由により、当業者が容易になし得るものではない。

(3)本件特許発明2?6,8について
請求項2?6,8は、請求項1又は7を引用しており、それらのいずれかに対してさらに技術的事項を追加したものであるから、本件特許発明2?6,8も上記(1)と同様の理由により、当業者が容易になし得るものではない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1の課題である「燃え残りをなくしたい。」、「燃焼炎による路面損傷を防ぎたい。」との課題は、甲第5号証や甲第6号証にも記載されている発炎筒保持具の業界において周知の課題であり、本件特許発明1の別の課題である「量産性の向上。」は、文献を提示するまでもなく周知の課題である旨、主張する(特許異議申立書9頁)。
また、特許異議申立人は、本件特許発明1は、燃え易くするためパルプを採用し、路面への熱を遮断するため防炎性を付与し、更に量産性のために射出成形するものであり、してみると、甲1発明に本件特許発明1の課題、作用効果及び構成要件(の一部)が開示されている甲第2号証を適用することの動機付けは十分であり阻害事由は全くない旨、主張する(同12?13頁)。
しかしながら、上記(1)イのとおり、甲第1号証の記載や甲1発明の構成からすると、甲1発明に甲2発明を適用することの動機付けは見出せず、むしろ阻害事由があるといえ、この点は、本件特許発明1の課題等によって左右されるものではない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-01 
出願番号 特願2018-523913(P2018-523913)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山岸 登  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 富澤 哲生
丸山 高政
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6435437号(P6435437)
権利者 恵和株式会社
発明の名称 発煙筒保持具及びその製造方法  
代理人 吉村 俊一  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  

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