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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61F |
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管理番号 | 1354130 |
判定請求番号 | 判定2018-600034 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-12-18 |
確定日 | 2019-08-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第6312915号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号及びその説明書に示す製品「ニチバン カテリープラス_(TM)ロール 100mm×10m CPSR1010」は、特許第6312915号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号及びその説明書に示す、製品「ニチバン カテリープラス_(TM)ロール 100mm×10m CPSR1010」(以下「イ号物件」という。)が、特許第6312915号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 (1)手続の経緯 本件特許発明に係る特許出願は、平成29年11月1日に請求人によって出願され、平成30年3月30日にその特許権の設定登録がされ、同年4月18日に特許公報が発行されたものである。そして、平成30年12月18日(判定請求書差出日)に本件判定請求がされ、平成31年2月14日に被請求人より答弁書が提出され、当審において平成31年4月25日付けで請求人及び被請求人に対して審尋を通知したところ、令和1年5月29日に請求人より回答書が提出されたが、被請求人からは回答がなかったものである。 (2)本件特許発明について 本件特許発明は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。(なお、構成要件に分説し、符号A?Gを付加した。) 「A 伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための医療用テープであって、 B 伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、 C 前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、 D 該医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、前記伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を前記伸縮性基材部の上層に備え、 E 製造工程において、前記伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ、 F 該医療用テープの伸張を防止した状態で粘着部で皮膚に貼付した後に、前記伸張防止部を取り除くことを特徴とする G 医療用テープ。」 3.イ号物件について 請求人は、イ号物件を説明するものとして、判定請求書とともに、甲第2号証?甲第6号証を提出している。 (1)甲第2号証?甲第4号証の記載から、イ号物件について、以下の事項が把握できる。 ア.甲第4号証より、イ号物件は、フィルムドレッシングである。 イ.甲第2号証から、イ号物件の用途は、ガーゼ・ドレッシング材の被覆固定、チューブ・カテーテル固定、皮膚被覆保護、ストーマ・CAPD患者のシャワー浴時の装具補強・保護等である。 ウ.イ号物件を示す甲第2号証及び甲第4号証の図面からみて、イ号物件はテープを巻いたロールであり、甲第3号証によれば、そのテープは、下から、「はく離紙」、「粘着剤(ウレタンジェル粘着剤)」、「基材(ポリウレタンフィルム)」、「離型フィルム」の順に積層したものである。また、甲第3号証の図面には、最上層の「離型フィルム」の幅方向の中央部分に、上面から下層の「基材(ポリウレタンフィルム)」まで線が引かれており、その線は「はがし口(プレリフト加工)」とされている。 エ.甲第2号証から、イ号物件の使用方法は、はがし口(切れ目)から中央の「はく離紙」をはがし、残った「はく離紙」の端を持って離型フィルムを上にして皮膚の所定の位置に貼り付け、残った「はく離紙」をはがした上で、「離型フィルム」の中央から一方の「離型フィルム」をはがし、さらに、残った「離型フィルム」をはがすことにより行うものである。 (2)上記事項から、イ号物件について以下のように理解できる。 ア.上記記載(1)ア.及びイ.より、イ号物件は「医療用」の「フィルムドレッシング」に係るものである。 イ.上記記載(1)ウ.より、イ号物件は、ポリウレタンフィルムからなる「基材」を備えるものである。 ウ.上記記載(1)ウ.より、イ号物件の「はく離紙」の上には「粘着剤(ウレタンジェル粘着剤)」が積層されており、上記記載(1)エ.より、この「はく離紙」をはがして「離型フィルム」を上にして皮膚の所定の位置に貼り付けることから、皮膚には「ウレタンジェル粘着剤」が貼り付けられることになる。 エ.上記記載(1)ウ.及びエ.より、最上層の「離型フィルム」の幅方向の中央部分の「はがし口(プレリフト加工)」から、「離型フィルム」をはがすことができ、その「はがし口(プレリフト加工)」は、「離型フィルム」の上面から下面、すなわち、下層側にあるポリウレタンフィルムからなる「基材」と接する面まで設けられた切れ目であるといえる。 オ.上記記載(1)エ.より、イ号物件は、「ウレタンジェル粘着剤」を皮膚に貼り付けた後、離型フィルムをはがすものである。 (3)上記(2)から、イ号物件は、以下の構成a?gを備えるものといえる。 「a 医療用のフィルムドレッシングは、 b ポリウレタンフィルムからなる基材と、 c ポリウレタンフィルムからなる基材を、皮膚に貼り付ける、ウレタンジェル粘着剤と、 d ポリウレタンフィルムからなる基材の上には、幅方向の中央部分に、その上面から下面まで設けられた切れ目を有する離型フィルムとを備え、 e ポリウレタンフィルムからなる基材と上記切れ目を有する離型フィルムとは積層され、 f ウレタンジェル粘着剤を皮膚に貼り付けた後、離型フィルムをはがすことにより貼り付ける、 g 医療用のフィルムドレッシング。」 4.対比・判断 (1)構成要件Bについて まず、構成要件Bを構成bが充足するか否か検討する。 イ号物件の構成bは、「ポリウレタンフィルムからなる基材」であるが、一般に、ポリウレタンは伸縮性を有する材料であり、そのフィルム材料からなる基材も、伸縮性を有するものと理解できる。 この理解は、甲第2号証の「・・・伸びの良いフィルムにより、貼付中の皮膚へのストレスも緩和。・・・」(2頁1?2行)、「・『伸びの良いフィルム』 自然な貼り心地で、皮膚へのストレスを軽減します。」(2頁5行)との記載とも整合する。 そうすると、構成bは、構成要件Bの「伸縮性機能を有する伸縮性基材部」を充足する。 (2)構成要件Cについて イ号物件の構成cは、「ポリウレタンフィルムからなる基材を、皮膚に貼り付ける、ウレタンジェル粘着剤」であることから、ウレタンジェル粘着剤は、基材を皮膚に貼り付ける機能を有するものであり、イ号物件のフィルムドレッシングが、医療用としてカテーテル固定や留置針固定などに用いられること(甲第5号証の1頁及び3頁)からすると、皮膚に貼り付けた基材を保持する機能も有することは明らかである。 この理解は、甲第2号証の「ウレタンジェル粘着剤をフィルム全面にムラなくコーティングしているため、ジェル状粘着剤が皮膚の凹凸にしっかりと密着。しなやかなフィルムが皮膚の動きに追従し、長期間の安定した固定力を実現します。」(1頁下から4行?同2行)との記載とも整合する。 そうすると、構成cは、構成要件Cの「前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部」を充足する。 (3)構成要件Gについて イ号物件の構成gは、「医療用のフィルムドレッシング」であるが、上記3.(1)ウ.に示すように、イ号物件がテープを巻いたロールであることからすると、構成gの「医療用のフィルムドレッシング」は、テープの形態をとるものといえる。 よって、構成gは、構成要件Gの「医療用テープ」を充足する。 (4)構成要件Dについて ア.構成要件Dの「復元収縮力」は、本件特許明細書の記載によれば、「伸縮性基材が引き伸ばされて使用されることで、伸縮性基材が元に戻ろうとする力」(段落【0003】)を意味するものであり、貼付の際に伸縮性基材部が引き伸ばされることにより発生するものであると解されるから、「医療用テープの復元収縮力を防止する目的」のためには、貼付の際に伸縮性基材部が引き伸ばされること(すなわち、伸縮性基材部の伸張)を防止する必要があることは明らかである。また、本件特許明細書には、粘着性伸縮包帯を「貼付の際に、意図せずとも伸縮性基材が伸びることが少なくな」い旨(段落【0003】)記載されていることからすれば、本件特許発明の「伸張防止部」が、貼付の際に伸縮性基材部が引き伸ばされることを防止するためには、使用者が意図しない伸縮性基材部の伸張をも防止するものでなければならないことも明らかである。 イ.一方、イ号物件の構成dは、「ポリウレタンフィルムからなる基材の上には、幅方向の中央部分に、その上面から下面まで設けられた切れ目を有する離型フィルムとを備え」とするものであるが、甲第2号証(2頁)の記載によれば、イ号物件のフィルムドレッシングの通常の使用方法においては、ロールから必要な長さを引き出し、はさみで切り出したフィルムドレッシングは、中央のはく離紙を剥がした上で皮膚に貼り付けるため、離型フィルムの幅方向中央部分の切れ目を中間にして、左右の手でフィルムドレッシングの両端を持って貼り付けられることとなる。この通常の貼付方法からすると、離型フィルムの「上面から下面まで設けられた切れ目」を中間にして、左右の手でフィルムドレッシングを持って、皮膚に貼り付けることとなるから、貼付の際、フィルムドレッシングに左右へ離れる方向に力が加えられた場合には、フィルムドレッシングの上層の離型フィルムは、「上面から下面まで設けられた切れ目」を境に左右に分かれ、フィルムドレッシングのポリウレタンフィルムからなる基材は、伸びて皮膚に貼り付けられ得ることは明らかである。 そうすると、イ号物件の構成dの「離型フィルム」は、イ号物件のフィルムドレッシングの通常の使用方法において、ポリウレタンフィルムからなる基材の伸張を防止する機能を有さず、ポリウレタンフィルムからなる基材の元に戻ろうとする力を防止するものではないから、構成dは、構成要件Dの「該医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、前記伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を前記伸縮性基材部の上層に備え」を充足しない。 ウ.請求人は、当審の構成dに係る審尋に対し、回答書において、 本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明の「伸張防止部」は、用途に応じ離型フィルムに「幅方向の中央部分に、長手方向に向けて、その上面から下面まで設けられた切れ目」を有してもよく、伸縮性基材部の全方向の伸張を防止する機能を備えることが必須ではないと解すべき旨(3頁下から3行?4頁1行)、 甲第5号証及び甲第6号証の記載によれば、医療従事者が医療用のフィルムドレッシングを引っ張って伸ばした状態で貼付することはありえず、イ号物件の「幅方向の中央部分に、その上面から下面まで設けられた切れ目」は、イ号物件の貼付を容易にするという用途に特化させるために加えられた機能と判断することができ、そのような切れ目が設けられた離型フィルムは、伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部の一態様である旨(4頁2行?6頁15行)、 イ号物件の離型フィルムの中央部分にその上面から下面まで設けられた切れ目があるとしても、基材の上には離型フィルムが設けられている以上、この離型フィルムの存在によって、フィルムドレッシングの伸縮が防止されていることは明らかである旨(6頁16?21行)、主張している。 しかし、上記イ.で述べたように、イ号物件の「離型フィルム」は、イ号物件のフィルムドレッシングの通常の使用方法において、ポリウレタンフィルムからなる基材の伸張する方向に対して、その伸張を防止する機能を有するとはいえないものである。 また、本件特許明細書には、粘着性伸縮包帯を「貼付の際に、意図せずとも伸縮性基材が伸びることが少なくな」い旨(段落【0003】)記載されていることからすれば、医療従事者が医療用のフィルムドレッシングを伸ばした状態で貼付することは有り得ないとはいえない。上記イ.で述べたように、イ号物件の通常の使用方法からすると、離型フィルムの切れ目を間にして、左右の手でフィルムドレッシングの左右の端を持つことになり、フィルムドレッシングに左右へ離れる方向に、「意図せず」に力が加えられれば、離型フィルムは切れ目を境に左右に分かれてしまい、ポリウレタンフィルムからなる基材の伸張を防止するものではない。そのため、離型フィルムの素材自体はフィルムドレッシングの伸縮を防止し得るものであるとしても、そのような切れ目を有する離型フィルムは、伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部の一態様とすることはできず、構成要件Dの「医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部」に相当するものとはいえない。 よって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (5)構成要件Eについて 構成要件Eは、「製造工程において、前記伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ」るとするものである。 一方、イ号物件の構成eは、「ポリウレタンフィルムからなる基材と上記切れ目を有する離型フィルムとは積層され」るとするものであるが、上記(3)で述べたように、イ号物件の離型フィルムは、「幅方向の中央部分に、長手方向に向けて、その上面から下面まで設けられた切れ目を有する」ものであるため、ポリウレタンフィルムからなる基材の伸張を防止する機能を有するものではなく、本件特許発明の「医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部」に相当せず、構成eは、そのような「伸張防止部」を備えるものではない。 そうすると、構成要件Eは、「伸張防止部」に、「伸縮性基材部」を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で積層することを要件とするものであるから、「伸張防止部」を備えない構成eは、構成要件Eを充足するものとはいえない。 (6)構成要件Fについて イ号物件の構成fは「ウレタンジェル粘着剤を皮膚に貼り付けた後、離型フィルムをはがすことにより貼り付ける」とするものであるが、上記(3)で述べたように、イ号物件の「離型フィルム」は、本件特許発明の「伸張防止部」に相当するものではないから、その「伸張防止部」を要件に含む構成要件Fを、イ号物件の構成fが充足するとはいえない。 (7)構成要件Aについて 構成要件Aは「伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための医療用テープ」とするものであり、このうち「貼付期間収縮力」については、本件特許明細書に「伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力および残留収縮力を貼付期間収縮力と称する。」(段落【0009】)と記載されている。 一方、構成aの「医療用のフィルムドレッシング」は、上記(1)、(2)に示したように、伸縮性を持つポリウレタンフィルムからなる基材を備えるものであり、ウレタンジェル粘着剤により皮膚に貼り付けることができる医療用のテープである。しかし、上記(4)イ.に示したように、イ号物件のフィルムドレッシングは、復元収縮力を防止する機能を果たす構成を備えるものではないから、その復元収縮力を含む「貼付期間収縮力」に起因する貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するものとはいえず、構成aは構成要件Aを充足しない。 5.むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A、D?Fを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2019-08-08 |
出願番号 | 特願2017-211857(P2017-211857) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(A61F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 龍平 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
白川 敬寛 井上 茂夫 |
登録日 | 2018-03-30 |
登録番号 | 特許第6312915号(P6312915) |
発明の名称 | 医療用テープ |
代理人 | 伊藤 温 |
代理人 | 嶋崎 英一郎 |