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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1354461
審判番号 不服2018-13479  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-10 
確定日 2019-09-03 
事件の表示 特願2014- 49913「溶接機用電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-174092、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月13日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年11月29日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月10日付け:拒絶査定
平成30年10月10日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成30年7月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の技術を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開昭57-147709号公報
2.特開2004-42112号公報
3.特開2010-201499号公報

第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成30年10月10日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
設定された溶接条件に従って溶接出力を出力する溶接機用電源装置であって、
操作によって前記溶接条件を前記溶接機用電源装置に設定する操作手段と、
前記溶接機用電源装置からの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記溶接機用電源装置が動作中であるが前記電流検出手段が出力電流を検出しなくなったときに、そのときの前記溶接条件が自動的に記憶される記憶手段と、
現在の前記溶接条件が過去の前記溶接条件と異なるときに操作される読み出し用操作手段を有し、前記読み出し用操作手段が読み出し操作されたとき前記記憶手段に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接機用電源装置に設定する読み出し手段とを、
有する溶接機用電源装置。」

また、本願発明2-3は、概略、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同。)。

ア 「この発明は,任意の点と点を記憶させこの記憶させた点から点に自動的にロボットを動作させるいわゆるPTP教示,CP制御のプレーバック方式のアーク溶接ロボットの制御装置において,自動溶接運転中の任意の位置で溶接を中断し,動作範囲内の任意の位置から再開しても,一度中断点に復帰し教示通りの経路を溶接することが可能なアーク溶接ロボットの制御装置に関するものである。」(公報第1ページ右下欄第3-11行。)

イ 「この発明は,上記のような従来のものの欠点を除去するためになされたもので,溶接途中の任意の時点で溶接中断釦を押し,溶接を中断後,手動モードでトーチを動作範囲内の任意の位置に移動し,その後,溶接開始釦を押し,溶接を再開した場合,中断点の位置を記憶しておくことにより,中断点に自動的に復帰し,その点から本来の溶接経路を溶接することを可能としたアーク溶接ロボットの制御装置を提供することを目的としている。
以下,この発明の一実施例を図について説明する。第5図において,(1)は制御装置,(2)はロボット本体,(3)は溶接電源,(4)は溶接トーチ,(5)は溶接対象ワーク,(6)は溶接ワイヤー供給装置,(7)は教示用スイッチボックスで,(7a)の方向指示釦を内蔵している。
制御装置(1)は以下のものから構成されている。(10)は中央処理部,(11)は制御プログラム記憶部,(12)は教示済み位置記憶部,(13)は中断点位置記憶部,(14)は三次元直線補完係数及び現在値,未来値記憶部,(15)は溶接条件記憶部,(16)は入出力制御部,(17)は位置決め制御部,(18)は駆動部,(19)は溶接電源制御部,(8a)は溶接開始釦,(8b)は溶接中断釦である。(1a)は中央処理部(10)と上記記憶部(11)?制御部(19)との信号の送受を行なう共通母線(バス)である。」(公報第2ページ右上欄第4行-左下欄第9行。)

ウ 「次に溶接の中断方法について述べる。トーチ先端が点P_(N)と点P_(N+1)の間を直線で走行中,第10図の点P_(S)上で溶接中断釦(8b)を押し,走行及び溶接を中断を指示すると,中断釦(8b)が押されてから,次のΔT秒毎のタイミングで,位置決め制御部(17)への角変位指令ΔH(*)を零として転送し,点P_(S′)上でトーチ先端を停止する。このときの現在値ベクトルPcurrの値を中断点座標として,第7図の中断点位置記憶部(30)に転送し記憶しておく。その後,手動送りに依りトーチを第9図の点P_(R)に移動し,溶接中断点の様子を調べたのち,溶接開始釦(8a)を押して,溶接を再開したとする。
この時,点P_(R)と中断点P_(S′)と間の傾斜ベクトルA_(R)を上記式(3)によりもとめ,直線P_(R)P_(S′)上をトーチ先端が走行するよう前出と同様の制御を行ないトーチ先端を点P_(S′)上に移動させ,中断点P_(S′)上に停止させる。その後,再び直線P_(S′)P_(N+1)上を溶接走行する様に前出の制御を行ない溶接再開制御を完了する。
なお,上記実施例では,溶接条件については説明していないが中断時の溶接条件を記憶することにより再開時に溶接条件も復帰することができる。」(公報第3ページ右下欄第2行-第4ページ左上欄第5行。)(*は○の中にH)

(2)上記(1)の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が開示されていると認められる。

ア 上記(1)イ、ウの記載事項から、引用文献1には、溶接条件を記憶する「溶接条件記憶部(15)」と「溶接電源(3)」が記載されており、技術常識に鑑みて、「溶接電源(3)」は、設定された溶接条件に従って溶接出力を出力していると認められる。

イ 技術常識から、引用文献1の「溶接条件」は、何らかの「操作手段」の操作によって「溶接電源(3)」に設定されていると認められる。

ウ 上記(1)イ、ウの記載事項から、引用文献1には、「溶接中断釦(8b)」が押されたときに、そのときの溶接条件が記憶される「溶接条件記憶部(15)」が開示されているといえる。

エ 上記(1)ウの記載事項から、引用文献1には、「溶接開始釦(8a)」が押され溶接を再開したときに、記憶した溶接条件を復帰することが記載されていることから、「溶接開始釦(8a)」が押されたとき「溶接条件記憶部(15)」に記憶されている溶接条件を読み出して、「溶接電源(3)」に設定する手段を有すると認められる。

(3)上記(2)から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

引用発明
「設定された溶接条件に従って溶接出力を出力する溶接電源(3)であって、
操作によって前記溶接条件を前記溶接電源(3)に設定する操作手段と、
溶接中断釦(8b)が押されたときに、そのときの前記溶接条件が記憶される溶接条件記憶部(15)と、
溶接開始釦(8a)が押されたとき前記溶接条件記憶部(15)に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接電源(3)に設定する手段とを、
有する溶接電源(3)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の請求項2及び要約の記載からみて、当該引用文献2には、複数の溶接条件が記憶された溶接条件ファイル群記憶エリアと、該溶接条件ファイル群記憶エリアに記憶された溶接条件のうち実行される溶接条件が読み込まれ、且つ該溶接条件を修正可能な実行溶接条件ファイル記憶エリアと、該実行溶接条件ファイル記憶エリアで修正された溶接条件を溶接条件ファイル群記憶エリアへ新規ファイルとして戻すか、或いは更新して戻すか、或いは更新せずに溶接条件ファイル群記憶エリアの元の溶接条件を残すかを選択する更新選択スイッチとを備えた自動溶接装置の溶接条件制御装置という技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3の請求項1、段落【0030】の記載からみて、当該引用文献3には、アーク溶接機に関して、第3の記憶部9にある溶接条件の設定に従って、溶接電流値、ガスアフターフロー時間、パルス電流、パルス周波数、交流出力周波数等の詳細パラメータが設定され、溶接制御回路10が出力駆動回路11とシールドガス駆動回路12とスタート装置駆動回路13とワイヤ送給モータ駆動回路14等を制御して溶接を行うものにおいて、第3の記憶部9に読み出された溶接条件は、ジョグダイヤル1やスイッチ部3を備えた操作部5を操作することにより変更することが可能であり、作業者は実際の溶接施工状態を確認しながら、条件を修正することができ、上記で修正された第3の記憶部9の溶接条件は、スイッチ部3またはジョグダイヤル1の操作により、液晶表示部2で入力内容を確認しながら名称を付与した後に第1の記憶部7の任意のチャンネルに記憶することができるという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「溶接電源(3)」は、本願発明1における「溶接機用電源装置」に相当する。

イ 引用発明の「溶接中断釦(8b)が押されたときに、そのときの前記溶接条件が記憶される溶接条件記憶部(15)」と、本願発明1の「前記溶接機用電源装置が動作中であるが前記電流検出手段が出力電流を検出しなくなったときに、そのときの前記溶接条件が自動的に記憶される記憶手段」とは、「ある条件を満たしたときに、そのときの前記溶接条件が自動的に記憶される記憶手段」という点で一致する。

ウ 引用発明の「溶接開始釦(8a)が押されたとき前記溶接条件記憶部(15)に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接電源(3)に設定する手段」と、本願発明1の「現在の前記溶接条件が過去の前記溶接条件と異なるときに操作される読み出し用操作手段を有し、前記読み出し用操作手段が読み出し操作されたとき前記記憶手段に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接機用電源装置に設定する読み出し手段」とは、「被操作部が操作されたとき前記記憶手段に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接機用電源装置に設定する読み出し手段」という点で一致する。

エ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「設定された溶接条件に従って溶接出力を出力する溶接機用電源装置であって、
操作によって前記溶接条件を前記溶接機用電源装置に設定する操作手段と、
ある条件を満たしたときに、そのときの前記溶接条件が自動的に記憶される記憶手段と、
被操作部が操作されたとき前記記憶手段に記憶されている前記溶接条件を読み出して、前記溶接機用電源装置に設定する読み出し手段とを、
有する溶接機用電源装置。」

(相違点1)
「溶接条件が自動的に記憶される」タイミングに関して、本願発明1は、「溶接機用電源装置からの出力電流を検出する電流検出手段」を有し、「溶接機用電源装置が動作中であるが前記電流検出手段が出力電流を検出しなくなったとき」であるのに対し、引用発明1は、「溶接中断釦(8b)が押されたとき」である点。

(相違点2)
「記憶手段に記憶されている前記溶接条件を読み出」すタイミングに関して、本願発明1は、「現在の前記溶接条件が過去の前記溶接条件と異なるときに操作される読み出し用操作手段を有し、前記読み出し用操作手段が読み出し操作されたとき」であるのに対し、引用発明1は、「溶接開始釦(8a)が押されたとき」である点。

(2)相違点についての判断
(上記相違点1について)
引用文献2には、更新選択スイッチを操作することにより、修正された溶接条件を溶接条件ファイル群記憶エリアへ新規ファイルとして戻すか、或いは更新して戻すことが記載されている。
引用文献3には、修正された第3の記憶部9の溶接条件を、スイッチ部3またはジョグダイヤル1の操作により、第1の記憶部7の任意のチャンネルに記憶することができることが記載されている。
しかし、引用文献1?3のいずれの文献にも、溶接機用電源装置が動作中であるが電流検出手段が出力電流を検出しなくなったときに、そのときの溶接条件が自動的に記憶されることは記載も示唆もされていない。
また、引用文献1には、「溶接電源(3)」からの出力電流を検出する電流検出手段を設ける旨の記載も示唆もないから、「溶接中断釦(8b)」が押されたことを電流検出手段を設けることで検出するようにする動機はないというべきである。
したがって、上記相違点1に係る構成は、当業者であっても、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-3について
本願発明2-3は、本願発明1の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-3は、当業者が引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-16 
出願番号 特願2014-49913(P2014-49913)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 大山 健
青木 良憲
発明の名称 溶接機用電源装置  
代理人 木村 正俊  

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