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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1354485
審判番号 不服2018-7254  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-28 
確定日 2019-09-03 
事件の表示 特願2014-257880「導電性基板、および導電性基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-118917、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月19日の出願であって、平成29年11月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月11日付けで手続補正がされたが、平成30年2月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成31年3月4日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成31年4月26日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年2月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献Aに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.国際公開第2014/035197号

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1(進歩性)について
本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(拡大先願)について
本願請求項1-6に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の先願5の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-226012号公報(当審において新たに引用した文献)
2.国際公開第2014/035197号(拒絶査定時の引用文献A)
(パテントファミリ:特表2015-533682号公報)
3.特開2008-158479号公報(当審において新たに引用した文献)
4.特開2014-199920号公報(当審において新たに引用した文献)
5.特願2014-170062号(特開2015-79941号公報)(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成31年4月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層と、を備えた導電性基板。
【請求項2】
前記銅層は厚さが100nm以上であり、
前記黒化層は厚さが20nm以上である請求項1に記載の導電性基板。
【請求項3】
波長550nmの光の反射率が30%以下である請求項1または2に記載の導電性基板。
【請求項4】
メッシュ状の配線を備えた請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項5】
透明基材を準備する透明基材準備工程と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層を形成する黒化層形成工程と、を有する導電性基板の製造方法。
【請求項6】
前記黒化層形成工程は、
銅-ニッケル-モリブデン混合焼結ターゲットを用い、
チャンバー内に酸素を5体積%以上35体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で供給しながらスパッタリング法により、前記黒化層を成膜する請求項5に記載の導電性基板の製造方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1及び引用発明
(1) 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用した引用文献1(特開2010-226012号公報)には、図面と共に、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。

ア 段落【0009】-【0015】
「【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電磁波遮蔽フィルタは、透明基材上に、少なくとも、接着剤層、金属パターン層をこの順に積層してなり、該金属パターン層が、銅層の透明基材側又は透明基材と反対側のいずれか片面或いは両面に黒化層を積層した層構成からなり、該黒化層は、銅、コバルト及び亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト及びモリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成したものであって、該黒化層表面の明度がL*で20?40、色度がa*、b*で各々0?10である。
且つ、第1の発明では、該金属パターン層を構成する線條部の線幅バラツキが所定値以下であり、第2の発明では、該黒化層のL*値のバラツキが一定値以下である。
【0010】
本発明の電磁波遮蔽フィルタは、まず、少なくとも観察者側に、黒化層(以下、黒化処理層ともいう。)を設けた銅層を用意し、銅層を透明基材の一方の面へ接着剤を介して積層した後に、銅層面へレジスト層をメッシュ等の所望のパターン状に設け、レジスト層で覆われていない部分の黒化処理された銅層をエッチングにより除去した後に、レジスト層を除去する所謂フォトリソグラフイ法で製造する。
以下、本発明の電磁波遮蔽フィルタの、各層の材料及び形成について説明する。
【0011】
(銅層)
電磁波を遮蔽する銅層は、圧延銅箔、電解銅箔が使用できるが、厚さの均一性、黒化処理層との密着性、及び10μm以下の薄膜化ができる点から、電解銅箔が好ましい。
該銅層の厚さは1?100μm程度、好ましくは5?20μmである。これ以下の厚さでは、フォトリソグラフイ法によるパターン加工は容易になるが、金属の電気抵抗値が増え電磁波遮蔽効果が損なわれ、これ以上では、所望する高精細なパターンの形状が得られず、さらに電磁波遮蔽フィルタの可撓性低下と重量増加による加工適性の低下、性能上過剰な量の銅を使用することによる製造原価の高騰という不利益を生じる。
銅層の表面粗さとしては、Rz値で0.5?10μmが好ましい。これ以下では、黒化処理しても外光が鏡面反射して、画像の視認性が劣化する。これ以上では、接着剤やレジストなどを塗布する際に、表面全体へ行き渡らなかったり、気泡が発生したりする。表面粗さRzは、JIS-B0601に準拠して測定した10点の平均値である。
【0012】
(黒化処理層)
銅層の表面に黒化処理層を形成してその光反射率を低下させる。
本発明の黒化処理層は、銅、コバルト及び亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト及びモリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成したものであり、黒化処理層表面の明度がL*で20?40、色度がa*、b*で各々0?10であることを特徴とする。
【0013】
ここで表面は上面、下面をいい、透明接着剤層存在下で透明接着剤に接する面が下面である。電磁波遮蔽フィルタをその上面側を画像の観察者側にして使用するには、少なくとも上面については黒化処理層を形成するのが好ましく、更に好ましくは画像表示素子側となる下面についても黒化処理層を形成するのがよい。
【0014】
明度と色度は、色彩式差計により測定される。本発明では、明度及び色度を、国際照明委員会(CIE)規定のL*a*b*表色系(JIS Z 8729にも採用されている)で規定する。明度は値が小さいほど黒く光を反射せずに見え難いことを意味し、理論的な最小値は0である。色度は色度図上の座標を表し、色相と彩度を表す。L*a*b*表色系において、a*b*の値が共に0の座標は理論的な無彩色を表す。
明度がL*で20?40の範囲では、銅箔の表面は黒色に見える。一方、色度がa*、b*で各々0?10であると、無彩色に見える。a*が10を超えると銅メッシュが赤色に見え、0未満では緑色に見え、b*が10を超えると黄色に、0未満では青色に見える。a*の好ましい範囲は、0?5であり、b*の好ましい範囲は0?5である。
【0015】
銅、コバルト、亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト、モリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成して得られる、本発明の黒化処理層の銅、コバルト、亜鉛、ニッケル及びモリブデンの含有量の合計量は、好ましくは1?3mg/dm^(2)であり、その含有比率は、銅が好ましくは30?45%、コバルトが好ましくは15?25%、亜鉛が好ましくは10?25%、ニッケルが好ましくは5?15%、モリブデンが好ましくは10?20%である。」

イ 段落【0031】-【0033】
「【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例においては金属パターンとして、いずれもメッシュを用いる為、「(金属)パターン」のことは、専ら、「(金属)メッシュ」と呼称する。

・・・(中略)・・・

【0033】
(製造例1)
硫酸コバルト7水塩12g/L、硫酸亜鉛7水塩14g/L、硫酸銅5水塩13g/L、ホウ酸20g/Lからなる組成のめっき液を用いて、電流密度6.0A/dm^(2)、通電時間1.5秒で、電解銅箔(日本電解株式会社製、厚さ18μm、光沢面の中心線平均粗さRa=0.20μm)の光沢面に、めっき処理を行って第1着色層を形成した。第1着色層の金属含有量は、合計量が1.4mg/dm^(2)であり、その含有比率が、銅が62%、コバルトが14%、亜鉛が24%であった。第1着色層を形成した後、硫酸コバルト7水塩28g/L、硫酸ニッケル6水塩8.8g/L、モリブデン酸ナトリウム2.4g/L、クエン酸ナトリウム30g/Lからなる組成のめっき液を用いて、電流密度3.0A/dm^(2)、通電時間5.0秒で、めっき処理を行って第2着色層を形成し、電磁波遮蔽フィルタ用の黒化処理銅箔Aを作製した。第2着色層の金属含有量は、合計量が0.7mg/dm^(2)であり、その含有比率が、コバルトが26%、ニッケルが27%、モリブデンが47%であった。
着色層の金属含有量は、合計量が2.1mg/dm^(2)であり、その含有比率が、銅が41%、コバルトが18%、亜鉛が16%、ニッケルが9%、モリブデンが16%であった。
また、黒化処理銅箔の表面の明度がL*で29.5、色度がa*3.9、b*5.0であった。」

(2) 引用発明
よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

(引用発明)
「透明基材上に、少なくとも、接着剤層、金属パターン層をこの順に積層してなり、該金属パターン層が、銅層の透明基材側又は透明基材と反対側のいずれか片面或いは両面に黒化層(黒化処理層ともいう。)を積層した層構成からなり、
該銅層の厚さは1?100μm程度、好ましくは5?20μmであり、
銅層の表面に黒化処理層を形成してその光反射率を低下させ、
銅、コバルト、亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト、モリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成して得られる、黒化処理層の銅、コバルト、亜鉛、ニッケル及びモリブデンの、含有比率は、銅が好ましくは30?45%、コバルトが好ましくは15?25%、亜鉛が好ましくは10?25%、ニッケルが好ましくは5?15%、モリブデンが好ましくは10?20%であり、
金属パターンとして、メッシュを用いる、
電磁波遮蔽フィルタ。」

2 引用文献2、引用文献3
(1) 引用文献2
当審拒絶理由に引用した引用文献2(国際公開第2014/035197号。日本語訳として、引用文献2の翻訳文である特表2015-533682号公報(以下、「公表公報」という。)の記載を参照した。)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア 16頁9-20行(公表公報の段落【0112】-【0113】)
「例えば、暗色化層は、金属、その酸化物、その窒化物、その酸窒化物およびその炭化物からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含んで用いることができる。金属の酸化物、窒化物、酸窒化物または炭化物は、当業者が設定した蒸着条件などによって形成することができる。金属は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)および銅(Cu)からなる群から選択される1つまたは2つ以上であっても良い。・・・(以下略)」

イ 21頁30行-22頁13行(公表公報の段落【0154】-【0156】)
「本出願の一実現例において、パターン化された暗色化層または暗色化層を形成するステップにおいて、パターン化された暗色化層または暗色化層の形成は当技術分野で知られた方法を利用することができる。例えば、蒸着、スパッタリング、湿式コーティング、蒸発、電解メッキまたは無電解メッキ、金属箔のラミネーションなどの方法によって形成することができ、具体的にはスパッタリング法によって形成することができる。
例えば、暗色化層の形成時にAlOxNy(x、yは各々Alの1原子に対するOとNの原子数の比)のようにAl金属ターゲットを用いて反応性スパッタリング方法を利用すれば、O_(2)とN_(2)のような反応性ガスの分圧調節で工程を行うことができる。
例えば、Cuを含む伝導性層とCuOx(xはCuの1原子に対するOの原子数の比)を含む暗色化層を形成する場合、スパッタリングガスとして不活性気体、例えば、Arのような気体を用いる場合、CuOx単一物質スパッタリングターゲットを用いることによって得るという長所がある。そこで、CuOx単一物質ターゲットを用いるため、反応性ガスの分圧調節が必要ないので工程調節が比較的容易であり、最終伝導性構造体の形成においてもCuエッチャントを用いて一括エッチングが可能であるという長所を有する。」

(2) 引用文献3
当審拒絶理由に引用した引用文献3(特開2008-158479号公報)には、図面とともに、段落【0031】-【0034】に、以下の記載がある。

「【0031】
(C)酸化物膜
また、本発明の耐熱遮光フィルムは、低反射性の酸化物膜を有している。樹脂フィルム基材に形成された金属膜の反射率は高いが、金属膜の上に低反射性の酸化物膜を積層することで、耐熱遮光フィルムの反射率を減少することができる。低反射性の酸化物膜は、単層でも酸素含有量や添加元素の種類及び添加量の異なる複数層で構成されてもかまわない。また、金属膜上に積層する低反射性の酸化物膜は、透明度の高いものでも、透明度が低くて着色したものでも良い。
【0032】
本発明の低反射性の酸化物膜は、ニッケルを主成分とした酸化物膜であることが好ましい。ニッケルを主成分とした酸化物膜は、高熱環境下での耐熱性や耐食性に優れていることと、ニッケルを主成分とする下地の金属膜と金属成分が同じであることから金属膜との密着性が良いからである。
具体的には、前記酸化物膜は、金属成分がニッケルのみからなるニッケル酸化物であってもよいが、ニッケルを主成分とし、さらに、チタン、タンタル、タングステン、バナジウム、アルミニウム、及び銅からなる群から選ばれた少なくとも1種類以上の元素を1?18原子%、特に5?14原子%添加した酸化物膜であることが好ましい。
【0033】
Ni系酸化物膜の材料は、金属成分が金属膜と同じでなくともよいが、金属膜と同じ成分の酸化物膜とすることが望ましい。これにより、単一のスパッタリングターゲットを用いて、金属膜と低反射性の酸化物膜の両方を成膜することができ、単一のカソードを有するスパッタリング装置で製造することができ、製造コストを低減することができる。上記ニッケルを主成分とした酸化物膜の膜厚は、特に制限されないが、膜厚を5?240nmとすることで可視域の反射率を低減することができる。
【0034】
前記Ni系酸化物膜には、上記の金属元素の他、炭素、窒素が含まれていても構わない。Ni系酸化物膜に炭素、窒素を含ませると屈折率を調整することができて低反射性を実現しやすくなる。また、前記酸化物膜には、酸素欠損を多く含む金属酸化物膜のように可視域で透過率の低い(例えば単膜で透過率が10?60%)膜を採用すると、例えば波長380?780nmにおける反射率が2%以下の著しい低反射性を実現して黒色を呈した耐熱遮光フィルムを得ることができる。このような低反射の黒色のフィルムは、液晶プロジェクターのレンズユニット側やデジタル撮影機器の撮像素子側の部材として利用する場合に特に好ましい。レンズユニット側や撮像素子側では部材による反射光が強いと迷光となって悪影響を及ぼすからである。前記Ni系酸化物膜には、組成(酸素含有量、炭素含有量、窒素含有量、金属元素の含有量や種類)の異なった複数種類の酸化物膜の積層膜で構成されていてもかまわない。組成が異なって屈折率と消衰係数の異なった酸化物膜の積層膜を用いることで、より強い反射防止効果が発現して低反射性を実現することもできる。」

(3) 小括
上記引用文献2、引用文献3の記載から、一般に、スパッタリング法による金属化合物の製造時に、酸素や窒素を加えることで、金属化合物の反射率など各種の特性を制御することは、周知技術であると認められる。

3 引用文献4
当審拒絶理由に引用した引用文献4(特開2014-199920号公報)には、図面とともに、段落【0021】-【0023】に、以下の記載がある。

「【0021】
本発明の金属薄膜を形成するには、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が最適である。金属薄膜の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用して成膜する方法や、例えば、Mo-Ni合金スパッタリングターゲットとMo-W合金またはNi-W合金のスパッタリングターゲットを使用してコスパッタリングによって成膜する方法等が適用できる。スパッタリングの条件設定の簡易さや、所望組成の金属薄膜を得やすいという点からは、金属薄膜の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタリング成膜することが最も好ましい。
本発明の金属薄膜形成用Mo合金スパッタリングターゲット材は、原子比における組成式がMo100-x-y-Nix-Wy、10≦x≦50、10≦y≦40、x+y≦65で表され、残部が不可避的不純物からなる。また、Niを20?35原子%、Wを10?30原子%含有させることが好ましい。
【0022】
本発明の金属薄膜形成用Mo合金スパッタリングターゲット材の製造方法としては、例えば粉末焼結法が適用可能である。粉末焼結法では、例えば溶解可能な組成をガスアトマイズ法で合金粉末を製造して原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末を本発明の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【0023】
本発明の金属薄膜を形成するMo合金において、耐酸化性、耐湿性を確保するために必須元素であるNi、W以外の残部を占めるMo以外の不可避的不純物の含有量は少ないことが好ましい。本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、Cu、半金属のAl、Si等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Fe、Cuは200質量ppm以下、Al、Siは100質量ppm以下であり、ガス成分を除いた純度として99.9質量%以上であることが好ましい。」

上記記載から、酸素や窒素は、通常、製造工程等で金属化合物に不可避的に含まれ得る場合があると認められる。

4 先願5、先願発明について
(1) 先願5の先願明細書等の記載
当審拒絶理由に引用された先願5は、本件出願日前の平成26年8月25日の出願であって、本件出願日後の平成27年4月23日に出願公開(特開2015-79941号公報)がされたものであって、その願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 請求項1-2
「【請求項1】
透明基板上または透明膜を形成した透明基板上にNi合金からなる膜厚が20?100nmの中間膜が形成され、該中間膜直上に比抵抗が150μΩcm以下の導電膜が形成された積層構造を有し、前記透明基板側から測定した可視光反射率が20%以下であることを特徴とする積層配線膜。
【請求項2】
前記導電膜は、Al、Cu、Mo、Ni、Agから選択される元素を主成分とし、膜厚が10?500nmであることを特徴とする請求項1に記載の積層配線膜。」

イ 請求項4
「【請求項4】
前記中間膜は、Cuを10?40原子%、Moを3?20原子%含有し、且つCuとMoの合計量が15?50原子%、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層配線膜。」

ウ 請求項11
「【請求項11】
前記中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気で、請求項7?請求項10に記載のNi合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成することを特徴とする積層配線膜の製造方法。」

エ 実施例3の試料No.63
試料No.63として、「中間膜組成(原子%)」が「Ni-25Cu-15Mn-10Mo-3Fe」であり、中間膜形成時ガス種(体積%)が「Ar+40%酸素+10%窒素」であるものが記載されている。

オ 実施例3の試料No.64
試料No.64として、「中間膜組成(原子%)」が「Ni-25Cu-15Mn-10Mo-3Fe」であり、中間膜形成時ガス種(体積%)が「Ar+30%酸素+20%窒素」であるものが記載されている。

(2) 先願発明
上記各記載事項を関連図面と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、先願5には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。

(先願発明)
「透明基板上にNi合金からなる膜厚が20?100nmの中間膜が形成され、該中間膜直上に比抵抗が150μΩcm以下の導電膜が形成された積層構造を有し、
前記透明基板側から測定した可視光反射率が20%以下であり、
前記導電膜は、Al、Cu、Mo、Ni、Agから選択される元素を主成分とし、膜厚が10?500nmであり、
前記中間膜は、Cuを10?40原子%、Moを3?20原子%含有し、且つCuとMoの合計量が15?50原子%、残部がNiおよび不可避的不純物からなり、
前記中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気で、Ni合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成する、
積層配線膜。」


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 理由1(進歩性)について
a.対比
本願発明1と、引用発明とを対比すると以下のことがいえる。

ア 引用発明の「透明基材」は、本願発明1の「透明基材」に相当する。

イ 引用発明の「金属パターン層」における「銅層」は、本願発明1の「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層」に相当する。

ウ 引用発明の「金属パターン層」における「黒化層(黒化処理層)」は、「銅、コバルト、亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト、モリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成して得られる、黒化処理層の銅、コバルト、亜鉛、ニッケル及びモリブデンの、含有比率は、銅が好ましくは30?45%、コバルトが好ましくは15?25%、亜鉛が好ましくは10?25%、ニッケルが好ましくは5?15%、モリブデンが好ましくは10?20%であり」、上記の銅とニッケルとモリブデンの含有比率でのモリブデンの含有量は9.76原子%-27.22原子%となるから(なお、上記モリブデン含有量は、銅:コバルト:亜鉛:ニッケル:モリブデンの重量比が、45:20:10:15:10と、30:20:25:5:20の場合であり、コバルトや亜鉛を含む全金属に占めるモリブデンの含有量としては、約7-14原子%である。)、本願発明1の「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」と、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」である点で共通するといえる。

エ 引用発明の「電磁波遮蔽フィルタ」は、本願発明1の「導電性基板」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。

[一致点]
「透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層と、を備えた導電性基板。」

[相違点1]
本願発明1の黒化層は、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され」るのに対して、引用発明の「黒化層(黒化処理層)」は、「銅、コバルト及び亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト及びモリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成したもの」であって、「酸素、窒素」を含有することが特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1の黒化層は、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され」るのに対して、引用発明の「黒化層(黒化処理層)」は、「銅、コバルト及び亜鉛からなる第1着色層、ニッケル、コバルト及びモリブデンからなる第2着色層を銅層上にこの順に形成したもの」であり、「コバルト及び亜鉛」を含有している点。

b.当審の判断
事案に鑑みて、上記[相違点2]について先に検討する。

引用発明は、第1着色層と、第2着色層とを一体の黒化層と見た場合であっても、銅、コバルト、亜鉛、ニッケル、モリブデンを含有するものである。
引用発明は、「その目的は、CRT、PDPなどのディスプレイの前面に配置して、ディスプレイから発生する電磁波を遮蔽し、且つ、メッシュに代表される金属パターン面に黒と白の点状欠点、線状欠点、或いは矩形状欠点が発生しにくい、又は、黒化度のムラが目視されない、ディスプレイ画像の視認性が良好な電磁波遮蔽フィルタを提供することである。」(段落【0005】)との課題に対して、「本発明者らは、上記の課題を解決するために種々検討した結果、金属箔に施す黒化層の組成、性状がケミカルエッチングのし易さに関係し、線幅のバラツキに影響を及ぼすことを知見し、ケミカルエッチング適性の良い黒化層の組成、性状を選択して、線幅のバラツキを所定値以下にすることにより、金属パターン面に黒と白の点状欠点、線状欠点、或いは矩形状欠点が発生しにくい、画像の視認性が良好な電磁波遮蔽フィルタが提供されることを知見した。」(段落【0006】)と記載されるように、特定組成の第1着色層と、特定組成の第2着色層からなる2層構造を採用することによって、上記課題を解決するものと解される。
一方、引用文献1には、特定組成の第1着色層からコバルト及び亜鉛を省略し、特定組成の第2着色層からコバルトを省略することにより、上記[相違点2]に係る構成とすることは、記載も示唆もない。
また、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」という、上記[相違点2]に係る特定の組成の黒化層の構成は、上記引用文献2-4には記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
したがって、[相違点1]について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2) 理由2(拡大先願)について
a.対比
本願発明1と先願発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 先願発明の「透明基板」は、本願発明1の「透明基材」に相当する。

イ 先願発明の「導電膜」は、「Al、Cu、Mo、Ni、Agから選択される元素を主成分と」するから、本願発明1の「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層」と、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された金属層」である点で共通するといえる。

ウ 先願発明の「中間膜」は、「Cuを10?40原子%、Moを3?20原子%含有し、且つCuとMoの合計量が15?50原子%、残部がNiおよび不可避的不純物からな」るから、Cu、Mo、Ni及び不可避的不純物からなるといえる。
また、先願発明の「中間膜」について、「酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気で、Ni合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成」するという製造方法を採用すれば、当然に、「酸素および窒素から選択される少なくとも一方」が、製造された「中間膜」にも含まれると考えるのが自然である。
(なお、酸素については、先願5の段落【0054】に、「スパッタリングガスにAr+10体積%酸素を用いて形成した試料No.56の中間膜中の酸素量を実施例1と同様の方法で測定した結果、中間膜中の酸素量は15原子%であった。また、スパッタリングガスにAr+20体積%酸素を用いて形成した試料No.57の中間膜中の酸素量は24原子%であった。」との記載がある。)。
ただし、先願5の雰囲気中に、酸素と窒素の両方が含有されることまでは、明確には特定されていない。
また、先願5の「酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気」には、記載のない「Ar」も含まれていることを考慮すると、先願5の雰囲気中に、「酸素および窒素から選択される少なくとも一方」以外の、記載されていない元素が含有されないことも、明確には特定されていないといえる。
以上のことから、先願発明の「中間膜」が、「Cuを10?40原子%、Moを3?20原子%含有し、且つCuとMoの合計量が15?50原子%、残部がNiおよび不可避的不純物からなり」、かつ、「前記中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気で、Ni合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成」されていることは、本願発明1の「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」と、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素および窒素から選択される少なくとも一方、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」である点で共通するといえる。

エ 先願発明の「積層配線膜」は、本願発明1の「導電性基板」に相当する。

したがって、本願発明1と先願発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成された金属層と、
前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素および窒素から選択される少なくとも一方、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層と、を備えた導電性基板。」

[相違点3]
導電層が、本願発明1では、「銅層」であるのに対し、先願発明では、「Al、Cu、Mo、Ni、Agから選択される元素を主成分と」する点。

[相違点4]
黒化層が、本願発明1では、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」であるのに対し、先願発明では、「酸素および窒素から選択される少なくとも一方、銅、ニッケル及びモリブデンを含有」するものである点。

b.相違点についての判断
事案に鑑みて、上記[相違点4]について先に検討する。

先願5には、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」という特定組成の黒化層は記載されていない。
上記のとおり、先願5には、「請求項4」に、「積層配線膜」の組成を特定する「前記中間膜は、Cuを10?40原子%、Moを3?20原子%含有し、且つCuとMoの合計量が15?50原子%、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層配線膜」との記載があり、また、「請求項11」に、「製造方法」を特定する「前記中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を20?60体積%含有する雰囲気で、請求項7?請求項10に記載のNi合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成することを特徴とする積層配線膜の製造方法。」との記載はあるが、これらを組み合わせても、先願5の中間膜として、「酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」が、開示されているとまではいえない。
また、当然に、当該組成を有する中間膜と、「銅層」とを組み合わせることも開示されていない。
先願5には、実施例1-実施例3として、試料No.1-No.65の記載がある。
これらの試料のうち、酸素と、窒素の両方を含有する雰囲気下で、中間膜が形成されている実験例は、実施例3の試料No63、No.64のみである。
これら以外の実験例は、「実施例1」の雰囲気について、段落【0040】に、「尚、表1に示すスパッタガス組成[Ar+O_(2)]は、Arに50体積%の酸素を含んだ雰囲気で形成した。」と記載され、「実施例2」の雰囲気について、段落【0047】に、「そして、25mm×50mmのガラス基板(製品番号:EagleXG)上に中間膜となるNi合金膜をArに50体積%の酸素を含んだ雰囲気で形成した。」と記載されるように、中間膜を、酸素と、窒素の両方を含有する雰囲気下で形成するものではない。
なお、「実施例3」の雰囲気については、段落【0051】に、「尚、中間膜を形成する際には、ArまたはArに酸素あるいは窒素を所定のガス濃度となるように、マスフローコントローラで調整して混合したスパッタリングガスを用いて基板上に成膜した。」との、試料No63、No.64とは整合しない、択一的記載のみがある。
そして、酸素と窒素の両方を含有する雰囲気下で中間膜を形成している試料No63、No.64における、中間膜の組成は、「Ni-25Cu-15Mn-10Mo-3Fe」であり、Mn、Feを含む点で、金属成分が銅、ニッケル、モリブデンから構成される本願発明1とは異なる。
なお、上記中間膜の組成は、「Ni-25Cu-15Mn-10Mo-3Fe」であり、酸素、窒素の記載がないが、これは、金属成分のみを記載したものであると一応理解できる。
ここで、先願5の段落【0023】には、以下の記載がある。
「・・・また、中間膜に含有するMnは、Cu、Mn、MoおよびFeの中でエッチング性の改善効果が最も高い元素であるとともに、酸素や窒素と結合しやすいため、中間膜を容易に半透過着色膜とすることが可能な元素である。Mnによるエッチングの改善効果は1原子%以上で現れ、低反射特性に寄与する半透過着色膜とする効果は6原子%以上で明確となる。
一方、Mnが25原子%を越えると、例えば中間膜に窒素を含有した際に、中間膜の密着性が低下する場合がある。このため、本発明では中間膜のMnの含有量を1?25原子%にすることが好ましい。より好ましくは6?20原子%である。」
この先願5の記載からは、中間膜の組成としては、Mnが窒素と結合しやすいため、容易に半透過着色膜を形成できる点で、先願5ではMnを含むことが「好ましい」ものであって、先願5の記載に接した当業者が、酸素と、窒素の両方を含有する雰囲気下で中間膜を形成する、実施例3の試料No63、64の中間膜の組成から、MnとFeを省略することは、想定し難い。

以上のように、先願5には、本願発明1の「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」の構成は開示されていない。

また、上記で認定した引用文献1ないし4に記載されている技術的事項を参酌しても、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」の構成が、周知技術とはいえないから、先願発明において、黒化層を「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」とすることが、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものでないもの)であるともいえない。

上記認定のとおり、本願発明1と先願発明とは、上記[相違点3]、[相違点4]において相違するから、本願発明1と先願発明とは同一であるとはいえない。
また、本願発明1と先願発明とが実質同一であるとも認められない。
したがって、本願発明1は、先願発明と同一ではないので、特許法第29条の2の規定により特許をすることができないものであるとすることはできない。


2 本願発明2-4について
本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明であり、同様に、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず、また、先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。


3 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1とカテゴリ表現のみが異なる発明であり、同様に、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず、また、先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。


4 本願発明6について
本願発明6は、本願発明5を減縮した発明であって、同様に、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず、また、先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。


第7 原査定についての判断
平成31年4月26日付けの補正により補正された請求項1-6は、請求項1において、補正前には「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」とあったものが、補正により、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」と補正され、また、請求項5においても、同様に、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンを含有し、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層を形成する黒化層形成工程」とあったものが、補正により、「前記透明基材の少なくとも一方の面側に、酸素、窒素、銅、ニッケル及びモリブデンから構成され、銅とニッケルとモリブデンとの含有量を100原子%とした場合に、前記モリブデンの含有量が4原子%以上70原子%以下である黒化層」と補正されることで、いずれも、上記の特定組成の黒化層という技術事項を有するものとなり、当該技術的事項は、原査定における引用文献A(引用文献2)には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1-6は、原査定における引用文献A及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2014-257880(P2014-257880)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 16- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 大輔  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 白井 亮
稲葉 和生
発明の名称 導電性基板、および導電性基板の製造方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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