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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S |
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管理番号 | 1354489 |
審判番号 | 不服2018-10395 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-31 |
確定日 | 2019-09-03 |
事件の表示 | 特願2016- 50441「音響測定装置、音響測定方法、マルチビーム音響測定装置及び開口合成ソナー」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-166880、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月15日にされた特許出願であって、平成28年6月29日付けで手続補正がされ、平成29年4月11日付けで手続補正がされ、平成29年7月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年9月8日付けで手続補正がされ、平成29年11月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月26日付けで手続補正がされ、平成30年4月20日付けで拒絶査定(原査定)がされ(拒絶査定の謄本送達日:平成30年5月1日)、これに対し、平成30年7月31日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成31年4月24日付けで平成30年7月31日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、令和元年6月25日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、令和元年6月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-4は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 船などの移動体に設置され、水中の測定対象を探知する音響測定装置において、 送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部と、 前記送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出する送信部と、 前記送信部から送出された超音波で前記測定対象での反射によるエコーを受信する受信部と、 前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する相関器と、 前記送信信号と同期して前記エコーを表示する表示装置と を備え、 前記表示装置は、前記送信トリガパルスのタイミングを画面上の上側の発信線として表示し、前記送信トリガパルスに対する前記相関器の出力信号を検波した信号を色を付けて表示すると共に、隣接する前記送信トリガパルスにそれぞれ対応する前記検波信号を順次並べるように表示し、 前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、前記測定対象までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされた 音響測定装置。 【請求項2】 船などの移動体に設置された音響測定装置によって水中の測定対象を探知する音響測定方法において、 疑似雑音系列発生回路によって送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成し、送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成し、 送信部によって前記送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出し、 前記送信部から送出された超音波のエコーを受信部によって受信し、 前記エコーを相関器によって相関処理することによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定し、 前記送信信号と同期して前記エコーを表示装置によって表示し、 前記表示装置は、前記送信トリガパルスのタイミングを画面上の上側の発信線として表示し、前記送信トリガパルスに対する前記相関器の出力信号を検波した信号を色を付けて表示すると共に、隣接する前記送信トリガパルスにそれぞれ対応する前記検波信号を順次並べるように表示し、 前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、前記測定対象までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされた 音響測定方法。 【請求項3】 船などの移動体に設置され、水中の測定対象を探知するマルチビーム音響測定装置において、 送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部と、 前記送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出する送信部と、 前記送信部から送出された超音波で前記測定対象での反射によるエコーを受信する受信部と、 前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する相関器と、 前記送信信号と同期して前記エコーを表示する表示装置と を備え、 前記表示装置は、前記送信トリガパルスのタイミングを画面上の上側の発信線として表示し、前記送信トリガパルスに対する前記相関器の出力信号を検波した信号を色を付けて表示すると共に、隣接する前記送信トリガパルスにそれぞれ対応する前記検波信号を順次並べるように表示し、 前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、前記測定対象までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ、 前記送信部によって扇状に多数の超音波ビームを送出する マルチビーム音響測定装置。 【請求項4】 船などの移動体に設置され、水中の測定対象を探知する開口合成ソナーにおいて、 送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部と、 前記送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出する送信部と、 前記送信部から送出された超音波で前記測定対象での反射によるエコーを受信する受信部と、 前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する相関器と、 前記送信信号と同期して前記エコーを表示する表示装置と を備え、 前記表示装置は、前記送信トリガパルスのタイミングを画面上の上側の発信線として表示し、前記送信トリガパルスに対する前記相関器の出力信号を検波した信号を色を付けて表示すると共に、隣接する前記送信トリガパルスにそれぞれ対応する前記検波信号を順次並べるように表示し、 前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、前記測定対象までの深度をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ、 1組の送波器及び受波器を動かすことによって長い開口の送受波器と等価となる指向性を形成するようにした 開口合成ソナー。」 第3 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2004-117129号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。 (a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は合成開口ソーナー及びそれに用いる動揺補正方法並びにそのプログラムに関し、特に海底に沈底/埋没した目標物体等を調査/探知することを目的とした海底探査に用いるサイドスキャンソーナーに関する。」 (b) 「【0012】 【発明が解決しようとする課題】 上述した従来の合成開口ソーナーの動揺推定手法では、実海域における運用を考えた場合、プラットフォームがあくまでも進行方向とは直角方向に平行移動すると仮定しているが、実際には海上や海中を航行もしくは曳航されており、プラットフォームには平行移動だけではなく、ヨーイング等の動きも加わると予想される。しかしながら、従来の動揺推定手法では、その点について考慮されていないので、実海域における動揺の推定精度が大きく劣化するという問題がある。」 (c) 「【0028】 【発明の実施の形態】 次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例による合成開口ソーナーの構成を示すブロック図である。図1において、合成開口ソーナー1は前方受波器11と、中心送受波器12と、後方受波器13と、送信制御部14と、送信回路部15と、受信回路/AD部a16と、受信回路/AD部b17と、受信回路/AD部c18と、レンジ圧縮部a19と、レンジ圧縮部b20と、レンジ圧縮部c21と、相関演算部a22と、相関演算部c23と、動揺推定部a24と、動揺推定部c25と、動揺補正部26と、レンジ曲率補正部27と、アジマス圧縮部28と、画像記録部29と、ジャイロ30と、記録媒体31とから構成されている。 【0029】 探信波の送信については送信制御部14にて送信タイミングを制御し、送信回路部15にて送信波形を生成/増幅して中心送受波器12へ印加することによって、送信波形の電気エネルギを音響エネルギへと変換し、この音響エネルギを海中に探信波として放射する。 【0030】 放射された探信波は標的や海底によって反射し、前方受波器11と中心送受波器12と後方受波器13とによって再び音響エネルギから電気エネルギへと変換される。それぞれの受波/送受波器によって受信した信号は受信回路/AD部a16、受信回路/AD部b17、受信回路/AD部c18にて増幅、フィルタ処理、A/D(アナログ/ディジタル)変換処理され、さらにレンジ圧縮部a19、レンジ圧縮部b20、レンジ圧縮部c21にて送信波形のレプリカ信号との相関処理によるレンジ圧縮が施される。この段階までは各受波/送受波器によって受信した信号が全て同じ処理を施される。 【0031】 次に、相関演算部a22ではレンジ圧縮部a19とレンジ圧縮部b20とによってレンジ圧縮処理された信号の相関処理を行い、両者の位相差を算出する。同様に、相関演算部c23ではレンジ圧縮部c21とレンジ圧縮部b20とによってレンジ圧縮処理された信号の相関処理を行い、両者の位相差を算出する。 【0032】 これらの位相差情報及びジャイロ30によって計測されたヨーイング等の情報はそれぞれ動揺推定部a24と動揺推定部c25に入力され、両者によって推定された動揺量と、レンジ圧縮部b20によってレンジ圧縮された受信信号とが動揺補正部26に入力される。」 (d) 「【0036】 図2は本発明の一実施例によるプラットフォームへ受波/送受波器アレイを搭載した状態を示す模式図であり、図3は本発明の原理を説明するための模式図である。これら図2及び図3を参照して本発明の原理について説明する。」 (e) 【図1】 (f) 【図2】 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「海上や海中を航行もしくは曳航されるプラットフォームへ受波/送受波器アレイを搭載し、海底に沈底/埋没した目標物体等を探知する合成開口ソーナーにおいて(段落【0001】、【0012】、【0036】参照。)、 送信波形の電気エネルギを音響エネルギへと変換し、この音響エネルギを海中に探信波として放射する中心送受波器12と(段落【0029】参照。)、 標的や海底によって反射した探信波の音響エネルギを電気エネルギへと変換する前方受波器11、中心送受波器12、及び、後方受波器13と(段落【0029】-【0030】参照。)、 レンジ圧縮部a19とレンジ圧縮部b20とによってレンジ圧縮処理された信号の相関処理を行い、両者の位相差を算出する相関演算部a22と(段落【0031】参照。)、 レンジ圧縮部c21とレンジ圧縮部b20とによってレンジ圧縮処理された信号の相関処理を行い、両者の位相差を算出する相関演算部c23と(段落【0031】参照。)、 これらの位相差情報及びジャイロ30によって計測されたヨーイング等の情報によって動揺量を推定する動揺推定部a24と動揺推定部c25と(段落【0032】参照。)、 を備えた合成開口ソーナー。」 2.引用文献2について また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-104811号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (g) 「【技術分野】 【0001】 本発明は超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法に関する。」 (h) 「【0008】 そこで、本発明は、上記事情に鑑み、物体までの距離を高速かつ正確に計測することができる超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法を提供する。」 (i) 「【0020】 図1は、本発明の超音波距離計測装置を模式的に示したものである。この超音波距離計測装置は、スペクトル拡散方式で超音波信号を送信し、超音波信号が物体O(図1参照)に反射して、反射した超音波信号(以下、超音波反射信号という)に基づいて物体Oの位置を計測するものである。 【0021】 スペクトル拡散は、送信側で信号を拡散符号により変調し、受信側で同じ拡散符号を用いて相関計算を行うことにより、信号を取り出す通信方法である。このスペクトル拡散を用いることにより、信号を広い帯域に拡散することができ、遠くの反射で生じたSN比が劣化した受信信号から元の信号を取り出せることができるようになり、より長距離の測定が可能となる。 【0022】 本発明の超音波距離計測装置は、図1に示すように、符号化信号生成手段1と、超音波送信手段2と、超音波受信手段3と、演算手段4と、計測手段5とを備えている。 【0023】 符号化信号生成手段1は、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号により符号変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させるものである。符号化信号生成手段1は、図2に示すように、基本波生成回路10と、分周回路11と、第1符号生成回路12-1?第N符号生成回路12-nと、トリガ発生回路13と、第1遅延回路14-1?第(N-1)遅延回路14a-(n-1)と、ミキシング回路15とを備えている。 【0024】 基本波生成回路10にて超音波の基本波(例えば、基準周波数である40kHzの超音波)を発生し、この基本波が分周回路11にて分周(例えば8分周)され、第1符号生成回路12-1?第N符号生成回路12-nに入力される。一方、トリガ発生回路13にて発生した符号生成開始トリガが、第1符号生成回路12-1にTtrg(ms)入力されると、第1符号生成回路12-1では分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第1の拡散符号)を出力する。また、第2符号生成回路12-2には、Ttrg/N(ms)遅れて符号生成開始トリガが入り、分周回路11からの出力に同期して、記憶されている符号パターン(第2の拡散符号)を出力する。同様にして、第N符号生成回路12-nでは、第Nの拡散符号を出力する。 【0025】 そして、第1の拡散符号から第Nの拡散符号までが足し合わされて、これがミキシング回路15にて基本波とミキシングされることにより、第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を一定時間毎(この場合Ttrg/N(ms)毎)に発生させる。符号化信号生成手段1をこのような構成とすることで、簡単な回路構成とすることが できる。 【0026】 第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号は相互相関が小さいものが望ましく、具体的にはランダム符号又は擬似ランダム符号とするのが望ましい。本実施形態では、第1の拡散符号?第N拡散符号は、特に低い相互相関値をとるM系列のプリファードペアとしている。 【0027】 超音波送信手段2は、符号化信号生成手段1により生成された第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を送信するものであり、超音波送信素子にて構成されている。超音波受信手段3は、物体Oに当たって反射した超音波反射信号を受信するものであり、超音波送信手段2の近傍に配置されている。ここで近傍とは、超音波送信手段2から物体Oに超音波信号が到達する時間と、送信した超音波信号が物体Oで反射してから超音波反射信号が超音波受信手段3に到達するまでの時間がほぼ等しくなる程度に、超音波送信手段2と超音波受信手段3とが近接していることをいう。本実施形態において、超音波受信手段3は、1枚の基板上に複数(例えば32個)の超音波受信素子を配列したアレイセンサとしている。これにより、物体Oの3次元位置を計測することができる。 【0028】 計測手段5は、超音波送信手段2にて超音波信号を送信した時間から、この超音波信号が物体Oで反射した超音波反射信号を超音波受信手段3にて受信するまでの時間を計測するカウンターである。 【0029】 演算手段4は、例えばパーソナルコンピュータにて構成され、受信した超音波反射信号を解析し、物体Oまでの距離を演算するものである。演算手段4は、図3に示すように、第1?第N拡散符号演算部21-1?21-nと、第1?第N遅延加算部22-1?22-nと、第1?第N距離計算部23-1?23-nと、表示部24とを備える。拡散符号演算部21は、超音波反射信号と第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算することにより、超音波反射信号から情報を取り出すことができる。遅延加算部22は、相関が計算された後の信号の遅延加算を行う。 【0030】 距離計算部23は、超音波送信手段2(超音波受信手段3)から物体Oまでの距離を演算するものである。例えば、図4に示すように、超音波送信(受信)手段2、3から距離M1離れた位置に物体1が存在し、さらに遠くの距離M2離れた位置に物体2が存在する状況で、本発明の超音波距離測定装置を用いて物体1の距離を計測する場合について説明する。本実施形態ではN=2として、第1超音波信号と第2超音波信号とを一定時間Ttrg/N=Ttrg/2(ms)毎に送信する。すなわち、図4に示すように、t0で第1超音波信号、(Ttrg/2+t0)で第2超音波信号を繰り返し送信する。このとき、周期Ttrg/2は、超音波信号の送信時から、超音波反射信号のうち最も遅い反射信号受信時までの時間(Ttrg/2+t1-t0)よりも短くしている。」 (j) 【図1】 (k) 【図2】 (l) 【図3】 (m) 【図4】 したがって、上記引用文献2には、物体Oの位置を計測する超音波距離計測装置において(段落【0020】参照)、第1の拡散符号により符号変調した第1超音波信号、第1の拡散符号とは異なる第2の拡散符号により符号変調した第2超音波信号、・・・、及び第Nの拡散符号により符号変調した第N超音波信号を、一定時間毎に発生させる符号化信号生成手段1と(段落【0023】参照)、符号化信号生成手段1により生成された第1超音波信号、第2超音波信号、・・・、及び第N超音波信号を送信する超音波送信手段2と(段落【0027】参照)、超音波送信手段2にて送信した超音波信号が物体Oで反射した超音波反射信号を受信する超音波受信手段3と(段落【0027】-【0028】参照)、受信した超音波反射信号を解析し、物体Oまでの距離を演算するものであり、超音波反射信号と第1の拡散符号、第2の拡散符号、・・・、及び第Nの拡散符号との相関を夫々計算することにより、超音波反射信号から情報を取り出すことができる拡散符号演算部21を備える演算手段4と(段落【0029】参照)を備えるという技術的事項が記載されていると認められる。 また、引用文献2には、【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】に関して、「超音波は空気中の減衰が大きく、物体が超音波送信(受信)手段から離れるほど受波超音波の信号強度は弱くなり、信号対雑音の比すなわちSN比(もしくはSN)が小さくなる。そこで、拡散符号により符号変調した超音波信号を送受信することにより、小さなSN比(もしくはSN)の受信信号から逆拡散により、元の信号を復調できるスペクトル拡散方式の超音波反射法が知られている(特許文献1)。」という事項(段落【0002】参照)、「特許文献1に記載された超音波距離計測装置を用いて物体までの距離を計測する場合、計測対象となる物体が移動中である場合は、計測時間間隔を短くして、計測速度(フレームレート)を高速化する必要がある。超音波信号の送信から受信までの往復時間をa、距離計測装置が計算処理に要する時間(例えばAD変換等の時間)をb、フレームレートをfとすると、f=1/(a+b)で与えられる。なお、距離計測装置における計算処理は、反射信号を受信しながら同時に行われる。bの処理が高速であれば、フレームレートはf=1/aで決定され、bの処理が遅い場合は、フレームレートはf=1/bとなる。空気中を伝搬する超音波信号の速度は、固体及び液体と比較して、気温20℃で約340m/sと遅いため、超音波信号の往復時間aは、固体及び液体の場合より、小さな値となるため、空気中を伝搬する超音波の場合、bと比較すると、よりフレームレートに影響を与える。」という事項(段落【0004】参照)、及び、「そこで、本発明は、上記事情に鑑み、物体までの距離を高速かつ正確に計測することができる超音波距離計測装置及び超音波距離計測方法を提供する。」という事項(段落【0008】参照)が記載されているから、引用文献2に記載された発明は、水中ではなく空気中で超音波距離計測を行うことを前提としたものであり、空気中において物体までの距離を高速かつ正確に計測することを課題としているものといえる。 3.その他の文献について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2008-128900号公報)の段落【0021】-【0022】、【0030】-【0032】には、ソーナーにおいて、送信信号と同期してエコー画像を表示する表示装置を設けたという周知技術が記載されていると認められる。 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2002-90456号公報)の段落【0054】には、船舶に設けたマルチビ-ム測深ソナ-により海底から地上までの連続した地形を計測するマルチビーム測深装置という周知技術が記載されていると認められる。 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開2002-131427号公報)の段落【0029】-【0037】、【0048】-【0049】には、超音波探査装置において、疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を設けたという周知技術が記載されていると認められる。 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における「海上や海中を航行もしくは曳航されるプラットフォームへ受波/送受波器アレイを搭載し、海底に沈底/埋没した目標物体等を探知する合成開口ソーナー」が、本願発明1における「船などの移動体に設置され、水中の測定対象を探知する音響測定装置」に相当するといえる。 イ 合成開口ソーナーは、水中を伝搬する音波を利用して、水中・水底の物体に関する情報を得るソ-ナーの一種であり、引用発明における合成開口ソーナーはプラットフォームへ受波/送受波器を搭載したものであるから、アクティブタイプのソーナーであると認められる。アクティブタイプのソーナーは、一般的に、「送信部」と「受信部」とを備え、「送信部」により、送信信号を超音波として測定対象に向けて順次送出し、「受信部」により、送出された超音波で測定対象での反射によるエコーを受信し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定するものであることから、引用発明における「海底に沈底/埋没した目標物体等を探知する合成開口ソーナー」は、「送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出する送信部」と、「前記送信部から送出された超音波で前記測定対象での反射によるエコーを受信する受信部」とを備え、「前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する」ものであると認められる。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「船などの移動体に設置され、水中の測定対象を探知する音響測定装置において、 送信信号を超音波として移動体の下方の底に向けて順次送出する送信部と、 前記送信部から送出された超音波で前記測定対象での反射によるエコーを受信する受信部と、 前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する 音響測定装置。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は、「送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部」と、「前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する相関器」を備えるという構成を備えるのに対し、引用発明は、動揺量を推定するための処理を行う相関演算部a22と相関演算部c23を備えているものの、上記「送信信号形成部」、及び、測定対象までの距離を測定する上記「相関器」を備える構成を備えていない点。 (相違点2)本願発明1は、「前記送信信号と同期して前記エコーを表示する表示装置」を備え、「前記表示装置は、前記送信トリガパルスのタイミングを画面上の上側の発信線として表示し、前記送信トリガパルスに対する前記相関器の出力信号を検波した信号を色を付けて表示すると共に、隣接する前記送信トリガパルスにそれぞれ対応する前記検波信号を順次並べるように表示」するという構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 (相違点3)本願発明1は、「前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、前記測定対象までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされた」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 引用発明は、「海上や海中を航行もしくは曳航するプラットフォームに搭載され、海底に沈底/埋没した目標物体等を探知する合成開口ソーナー」の発明であるから、水中で測定対象までの距離を測定することを前提とした発明であると認められる。 してみると、引用発明と引用文献2に記載された発明とは、測定を行う場所が水中と空気中で異なっており、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することを試みるほどに両発明の技術分野が共通しているとはいえない。 また、引用発明において、「相関演算部a22」と「相関演算部c23」による相関処理は「動揺量」を推定するための処理であるのに対して、引用文献2に記載された発明において、「演算手段4」による相関処理は「物体Oまでの距離」を演算するための処理であるため、両発明における相関処理を利用した処理の作用・機能が共通しているともいえない。 よって、引用発明に対して、引用文献2に記載されている技術的事項を採用する動機付けが存在するとはいえない。 さらに、相違点1に係る構成は、引用文献3、6-7にも記載されていないし、示唆されてもいない。 そして、本願発明は、送信周期を短くすることができ、水平方向の分解能を高くすることができる、という引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から当業者が予測することができない効果(特に、本願の明細書における段落【0013】参照。)を奏するものである。 したがって、上記相違点2-3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2について 本願発明2は、「疑似雑音系列発生回路によって送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成し、送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成し」、「前記エコーを相関器によって相関処理することによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定」する構成を備えており、該構成は上記相違点1の構成と同等のものである。 したがって、本願発明2は、本願発明1と同等の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明3、4について 本願発明3、4は、上記相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであり、上記の相違点1で引用発明と相違する。 したがって、本願発明3、4は、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、請求項1-4について上記引用文献1-3、6-7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、令和元年6月25日付け手続補正により補正された請求項1-4は、それぞれ、「送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部」と、「前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定する相関器」という構成、または、「疑似雑音系列発生回路によって送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成し、送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成し」、「前記エコーを相関器によって相関処理することによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別し、前記送信信号及び前記エコーの時間差に基づいて前記測定対象までの距離を測定」する構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-4は、上記引用文献1に記載された発明、上記引用文献2に記載された技術的事項、並びに、引用文献3、6-7に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由通知について 1.特許法第36条第6項第2号について (1)当審では、請求項1、3の「水面付近を走行する船などの移動体」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和元年6月25日付けの補正において、「船などの移動体」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では、請求項1に記載されている2つの「送信信号形成部」が、同じ手段を意味しているのか、それとも、異なる手段を意味しているのかが不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和元年6月25日付けの補正において、「送信信号形成部」が、「送信トリガーパルスと同期して疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号形成部」のみに補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-08-19 |
出願番号 | 特願2016-50441(P2016-50441) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01S)
P 1 8・ 537- WY (G01S) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山下 雅人、▲高▼場 正光、田中 純 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
梶田 真也 小林 紀史 |
発明の名称 | 音響測定装置、音響測定方法、マルチビーム音響測定装置及び開口合成ソナー |
代理人 | 杉浦 拓真 |
代理人 | 杉浦 正知 |