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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C
管理番号 1354544
審判番号 不服2018-8745  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-26 
確定日 2019-09-03 
事件の表示 特願2017-207888「消火ガス噴射装置およびガス消火設備」拒絶査定不服審判事件〔平成30年2月15日出願公開、特開2018-23846、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年7月15日(優先権主張平成21年10月23日、平成22年2月4日、平成22年4月2日)の出願である特願2010-161096号の一部を、平成23年12月6日に新たな特許出願とした特願2011-267400号の一部を、平成25年10月7日に新たな特許出願とした特願2013-210605号の一部を、平成26年2月26日に新たな特許出願とした特願2014-35425号の一部を、平成26年6月18日に新たな特許出願とした特願2014-125348号の一部を、平成27年7月7日に新たな特許出願とした特願2015-136075の一部を、平成28年4月22日に新たな特許出願とした特願2016-86327の一部を、平成29年8月7日に新たな特許出願とした特願2017-152528の一部を、さらに平成29年10月27日に新たな特許出願としたものであって、平成30年1月10日付け(発送日:同年1月16日)で拒絶理由が通知され、同年2月7日に意見書及び補正書が提出されたが、同年3月22日付け(発送日:同年3月27日)で拒絶査定がされ、同年6月26日に拒絶査定不服審判が請求され、令和元年5月9日付け(発送日:同年5月14日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月26日に意見書及び補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1及び2に対して:引用文献1ないし6

引用文献等一覧
1.特開2006-307719号公報
2.欧州特許出願公開第1151800号明細書(周知技術を示す文献)
3.特表2003-530922号公報(周知技術を示す文献)
4.欧州特許出願公開第0700693号明細書(周知技術を示す文献)
5.特開2001-164921号公報(周知技術を示す文献)
6.実願平05-047218号(実開平07-014117号)のCD
-ROM(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和元年6月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付与した。)。
「 【請求項1】
火災発生時に建物の消火対象区画内に消火ガスを消火剤として放出することによって、前記消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する、消火ガス噴射装置であって、
前記消火ガス噴射装置は、前記消火対象区画内に設けられる噴射ヘッド(13)から消火ガスを噴射した際に発生する大音響を低減し、
複数の第一透孔(874)が形成されている円筒状の導通管(87)と、
前記導通管の外側に位置する第一消音室(86)と、
前記第一消音室の消火ガスを透過させる第二透孔(851)が形成されている障壁(85)と、
前記障壁の下流側に設けられた第二消音室(88)と、
前記第二消音室の下流側に設けられ、円筒形状であり、外周面の同一円周上の複数箇所から前記消火対象区画内に消火ガスを放出する周壁(81)とを備え、
複数の前記第一透孔(874)が前記導通管(87)の周壁の厚み方向に貫通して形成され、
複数の前記第二透孔(851)が前記障壁(85)の厚み方向に貫通して形成され、
前記噴射ヘッド(13)から噴射される消火ガスを、前記導通管(87)が前記第一消音室(86)に導き、
前記導通管(87)のうち前記噴射ヘッド(13)に連結される軸線方向一端部とは反対側の軸線方向他端部からは消火ガスが放出されず、
前記導通管(87)に形成される複数の前記第一透孔(874)から高速で前記第一消音室(86)に噴射された消火ガスは、前記障壁(85)に形成される複数の前記第二透孔(851)から前記第二消音室(88)に放出される、消火ガス噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の消火ガス噴射装置と、前記噴射ヘッド(13)が接続され、前記噴射ヘッド(13)に高圧の消火ガスを導く導管(14)と、前記導管(14)に高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源(15)とを備えた、ガス消火設備。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-307719号公報(以下「引用文献1」という。)には、「車両用消音器」に関して、図面(特に、図1ないし4を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用消音器に関し、特に、パンチング穴を有する排気管がシェル内壁に近接した状態で配置される車両用消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用消音器は、2枚のエンドプレートとシェルで囲まれた消音器内に、排気ガスを流入させるためのインレットパイプと、排気ガスを排出するためのアウトレットパイプが設けられている。
また、インレットパイプにパンチング穴を設けて消音器内の拡張室に連通させることにより、消音器内部に最初に流入した高温、高圧、高速であるインレットパイプ内の排気ガスのエネルギーを拡大縮小させて消音効果を図る技術が公知になっている(特許文献1参照)。」

(2)「【0011】
先ず、全体構成を説明する。
図1?3に示すように、本実施例1の車両用消音器1は、シェル2と、2枚のエンドプレート3,4と、3枚のバッフルプレート5,6,7と、インレットパイプ8と、アウトレットパイプ9が備えられ、長手方向長さW1に対して短手方向長さW2が極端に短く形成された偏平管状に形成されている。
【0012】
シェル2は、金属製板材をエンドプレート3,4、バッフルプレート5,6,7の外周に巻回した状態で設けられている。
また、シェル2とエンドプレート3,4で囲繞された消音器内には、金属製板材のバッフルプレート5,6,7が設けられると共に、これらバッフルプレート5,6,7にはそれぞれ複数の開口部10が形成されている。
従って、消音器内には、バッフルプレート5,6,7の開口部10を介してそれぞれ連通した4つの室R1,R2,R3,R4が形成されている。
【0013】
インレットパイプ8は、消音器内に排気ガスを流入させるためのものであって、シェル2の側方から略円筒状のアダプタ20を介して消音器内の室R3に貫通した状態で設けられている。
【0014】
また、インレットパイプ8の先端は、キャップ部材11によって塞がれた状態となっている。
なお、本実施例1ではインレットパイプ8の先端側をキャップ部材11で塞いだ状態にしたが、キャップ部材11に小径の小穴を設けても良い。
【0015】
さらに、図4に示すように、インレットパイプ8の外周上の側方にのみ開口されたパンチング穴12が複数形成されている。
従って、パンチング穴12は、インレットパイプ8の外周上におけるシェル2側に近接した部位を除く部位に形成されることになる。
なお、本実施例1のパンチング穴12の形成位置は、シェル1の偏平管状の円弧部分に向けて配置することが好ましい。なぜなら、円弧部分は比較的剛性が高く振動しないためである。
例えば、パンチング穴12の方向がシェルの長手方向壁と交わる角度を45度以下にすれば、壁面を振動させる分力が少なくなり好適となる。
【0016】
アウトレットパイプ9は、消音器内の排気ガスを排出させるものであって、エンドプレート3、バッフルプレート5,6,7を貫通して室R4に連通した状態で設けられている。
【0017】
次に、作用を説明する。
このように構成された車両用消音器1では、インレットパイプ8の基端側がエンジン側の排気管(図示せず)に接続され、アウトレットパイプ9の基端側がテールパイプ(図示せず)に接続された状態で車両に搭載される。
【0018】
そして、エンジン側の排気管からインレットパイプ8に流入した排気ガス(図1の波線矢印で図示)は、該インレットパイプ8のパンチング穴12を介して消音器内の室R3に流入する際に拡大される。
次に、各バッフルプレート5,6,7の開口部10を介して各室R1,R2,R3,R4間を流通する間に拡縮作用を受けながら消音された後、アウトレットパイプ9からテールパイプを介して外部へ排出される。」

上記記載事項及び技術常識並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両用消音器1であって、
前記車両用消音器1は、消音器内部に流入した高温、高圧、高速である排気ガスのエネルギーを拡大縮小させて消音効果を図り、
複数のパンチング穴12が形成されている円筒状のインレットパイプ8と、
前記インレットパイプ8の外側に位置する室R3と、
前記室R3の排気ガスを流通させる開口部10が形成されているバッフルプレート7と、
前記バッフルプレート7の下流側に設けられた室R4と、
前記室R4の下流側に設けられ、前記室R4に連通した状態で、前記バッフルプレート7を貫通して設けられ、排気ガスを排出させるアウトレットパイプ9とを備え、
複数の前記パンチング穴12が前記インレットパイプ8の周壁の厚み方向に貫通して形成され、
複数の前記開口部10が前記バッフルプレート7の厚み方向に貫通して形成され、
エンジン側の排気管から流入する排気ガスを、前記インレットパイプ8が前記室R3に導き、
前記インレットパイプ8のうち前記エンジン側の排気管に接続される軸線方向一端部とは反対側の軸線方向他端部からは排気ガスが放出されず、
前記インレットパイプ8に形成される複数の前記パンチング穴12から高速で前記室R3に流入した排気ガスは、前記バッフルプレート7に形成される複数の前記開口部10から前記室R4に放出される、車両用消音器1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第1151800号明細書(2001年11月7日公開。以下「引用文献2」という。)には、図面(特に、図1ないし4及び図6ないし8を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「A silenced nozzle (1) for discharge of extinguishing gas comprises a base body (2) and a cover (3) that contain a filter assembly (4) to attenuate noise during discharge of extinguishing gas, a hole (7) being formed in the cover (3) for entry of the extinguishing gas, a plurality of extinguishing gas outlet holes (9, 21) being provided both in the base body and in the cover, the nozzle (1) having a hole (8) for propagation of the gas with a larger diameter with respect to the diameter of the gas inlet hole (7). 」(フロントページ要約欄)
(当審仮訳)
「消火ガスの排出のための消音ノズル(1)は、基部本体(2)と、ガス入口孔(7)の直径に対して大きな直径を有するガスの伝播のための消火ガスの排出、消火ガスの進入のためのカバー(3)に形成された孔(7)と、基体の表面とカバーの両方が設けられている消火ガス出口孔(9, 21)の複数の穴(8)を有するノズル(1)の間に騒音を減衰させるためのフィルタ組立体(4)を収容するカバー(3)を含む。」

(2)「[0001] The present invention refers to a silenced nozzle for the discharge of extinguishing gases, particularly suitable for application to fire fighting systems that work with a gaseous-type extinguishing fluid.」
(当審仮訳)
「[0001] 本発明は、消火ガス放出用消音ノズルに関し、特に、ガス方式消火用流体で稼働する消火システム式に好適に適用されるためのものである。」

(3)「[0003] The dispensing nozzles of fire extinguishing systems according to the prior art have a serious drawback. These known dispensing nozzles are extremely noisy when a discharge of high-pressure extinguishing gas passes through them.」
(当審仮訳)
「[0003] 先行技術による消火システムの分配ノズルは、重大な欠点を持っている。これらの公知の分配ノズルは、高圧の消火ガスがそれらを通り抜けて放出される際に、非常に騒々しい。」

(4)「[0007] In accordance with current regulations, the time of discharge into the area protected by the fire extinguishing system must be kept within 10 seconds for chemical gases and within 60 seconds for inert gases. In order to ensure these discharge times, nozzles according to the prior art have a particular shape.」
(当審仮訳)
「[0007] 現行の規則によれば、消火システムによって保護された区域への放出時間は、化学ガスの場合は10秒以内に、不活性ガスの場合は60秒以内に保つ必要がある。これらの放出時間を保証するために、従来技術によるノズルは特定の形状を有する。」

(5)「[0013] The object of the invention is to eliminate the drawbacks of the prior art, providing a nozzle for discharge of extinguishing gases that produces low noise and in particular is able to maintain the noise level below 90 dB during discharge.」
(当審仮訳)
「[0013] 発明の目的は、雑音を低減し、特に、消火ガスの放出中の騒音レベルを90dB以下に維持することができる、消火ガス放出用消音ノズルを提供して、従来技術の欠点を除去することにある。」

(6)上記(4)から、消火システムは、不活性ガスを放出するものであることを前提の一つとしていると理解できる。この場合、消火システムは、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火するものであることは、当業者にとって自明である。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「消火対象区画内に消火ガスを消火剤として放出することによって、前記消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火するノズル200に、前記消火対象区画内に設けられるガス分配ラインから消火ガスを放出した際に発生する騒音を低減する手段を設けること。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された特表2003-530922号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面(特に、図9及び10を参照)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0091】
図10は、火災抑止モードで設置されたビルFirePASSを備える多層建築物101の概略図である。
【0092】
建築物101の屋根に設置される大型なFirePASSブロック(ハイポキシコ社から市販)は、周辺空気から酸素を抽出して低酸素濃度空気(又は消火剤)を供給する低酸素空気発生装置102を備える。低酸素空気発生装置102は、圧縮機103に連結して、貯蔵容器104に高圧で低酸素濃度空気を供給する。そこで一旦、約200バールの一定圧力で貯蔵容器104内に低酸素濃度空気が保持される。
【0093】
図10に示すように、エレベータシャフトの外部又は内部の何れかに沿って建築物の全体にわたり、各階に排出ノズル106を有する垂直火災抑止剤供給管105を設置できる。排出ノズル106は、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えている。
【0094】
火災が検知されると、中央制御盤からの信号により、放出弁107の開放が開始され、貯蔵された低酸素濃度空気(火災抑止剤)を分配管105内に圧送する。FirePASSが迅速な反応時間で対応すれば、火災を検知した階に呼吸可能な火災抑止環境を形成すれば十分のはずである。しかしながら、付加的な予防措置として、低酸素濃度薬剤を隣接階にも放出すべきである。ビル用FirePASSは、十分な量の低酸素火災抑止剤(酸素含有率10%以下で)を所望の階に放出して、約12%-15%の酸素含有率を有する呼吸可能な火災抑止大気を形成する。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「高圧火災抑止剤を放出する排出ノズル106に、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えること。」

4.引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第0700693号明細書(1996年3月13日公開。以下「引用文献4」という。)には、図面(図1及び2)とともに次の事項が記載されている。

(1)「Feeding the extinguishing gas to the protected area in the manner according to the invention has the advantage that, at a high extinguishing gas flow rate and a high feed pressure, the inflow rates remain restricted. The porous wall provides an inflow surface which is so large that it is no longer possible for high local speeds to arise. The noise production remains low. Moreover, the formation of condensation is prevented.」(第2欄第34行ないし第41行)
(当審仮訳)
「本発明による方法で保護されるべき区域に消火用ガスを供給することは、高流量および高圧であるが、流入速度は制限されたままである、という利点を有している。多孔質の壁は、非常に大きいが、局所的な高速度は発生しない流入面を提供する。騒音の発生は、低いままである。さらに、凝縮の形成が防止される。」

(2)「The area 1 shown in Figure 1, in which an object, which is not indicated in more detail, to be protected against fire is located, is provided with two feed elements 2 according to the invention for extinguishing gas. Said feed elements are connected in a known manner via piping 3 and valve 4 to a holder 5. A large amount of extinguishing gas under high pressure is stored in said holder 5.
As soon as fire is detected in the area 1, for example via detection means which are known per se and are not shown, the valve 4 is opened, likewise in a known manner which is not shown, after which the extinguishing gas flows under high pressure and at high speed to the feed elements 2.
As shown in Figure 2, said feed elements 2 comprise a chamber 6 surrounded by a porous, cylindrical wall 7. Said porous cylindrical wall can be made, for example, of sintered stainless steel. A wall 8 is located at one end of the chamber 6 and a wall 9, provided with a feed 10, is located at the other end. Upstream of said feed 10, there is a restriction 11, which is adjustable in such a way that an identical flow rate can be obtained through both feed elements 2.」(第5欄第19行ないし第41行)
(当審仮訳)
「図1に示す領域1内に、詳細には示されていないが、火災から保護すべき対象物が配置され、本発明による2個の消火ガスのフィード要素2が設けられている。前記フィード要素は、配管3及び弁4を介して公知の方法でホルダ5に接続している。前記ホルダ5には高圧の消火ガスが収容されている。
領域1内で、図示されていない公知の検出手段によって火災が検知されるとすぐに、バルブ4が開かれ、同様に図示していない公知の方法で、消火ガスは、高圧、高速で、フィード要素に流れる。
図2に示すように、フィード要素2は、多孔質円筒壁7に取り囲まれたチャンバ6を含む。その多孔質円筒形壁は、例えば、焼結ステンレス鋼から製造することができる。壁8がチャンバ6の一方の端部に位置しており、供給部10が形成された壁9が他方の端部に配置されている。前記供給部10の上流側には絞り11があり、両フィード要素2を流れる消火ガスの流量が同じになるように調整されている。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献4には次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「領域1内に消火用ガスを供給するフィード要素2は、多孔質円筒壁7に取り囲まれたチャンバ6を含み、前記多孔質円筒壁7により騒音の発生は、低いままであること。」

5.引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-164921号公報(以下「引用文献5」という。)には、図面(特に、図1及び2を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0013】図1において、第1実施形態の排気消音装置10は、両端が端板1で閉塞されたドラム状の本体2と、この本体2の軸方向に並設して第1から第3の消音室2A?2Cに仕切る隔壁としての第1および第2の仕切板3A,3Bと、第1の消音室2Aと連通する排気ガス導入管4と、第3の消音室2Cと連通するテールパイプ5と、第1の仕切板3Aと第2の仕切板3Bとに支持されている1本の連通管6とを備えて構成されている。
【0014】排気ガス導入管4は、その軸線が本体2の軸方向と直交するように本体2の外周部に溶接などで固定されており、最上流側の第1の消音室2Aに開口する端部は、ディーゼルエンジンで発生した排気ガスを接続管を介して導入する排気ガス導入口4Aとされる。テールパイプ5は、その軸線が本体2の軸方向と直交するように本体2の外周部に溶接などで固定されており、最下流側の第3の消音室2Cに開口する端部は排気ガスを外部に流出させる排気ガス流出口5Aとされる。」

(2)「【0021】次に、第1実施形態の作用を説明する。ディーゼルエンジンで発生した排気ガスは、排気管を通って排気ガス導入管4に流入する。排気ガス導入管4に流入された排気ガスは、最上流側に位置する第1の消音室2Aに急激に拡大しながら送り込まれることで、低周波成分を含んだ排気音が取り除かれる。この第1の消音室2Aに流入された排気ガスは、大部分が本流流路を通り、残りの一部分が別流路を構成する小孔31を通る。
【0022】つまり、本流流路では、大部分の排気ガスは、まず、連通管6の連通孔8A1により絞られて連通管6の内部に流入される。この連通管6の内部に流入された排気ガスは、連通孔8A1での絞り込みの工程で消音される。さらに、排気ガスは、連通管6の内部に流入した後、管内部では軸方向に方向変更して整流され、下流側では連通孔8A2で再度流通方向を直角に変更し、かつ、整流された後、第2の消音室2Bに拡大して流出する。これにより、排気ガスの圧力変動が低減される。第2の消音室2Bでは、第1の仕切板3Aの小孔31を通過した排気ガスが本流流路を通った排気ガスと合流する。小孔31を通過した排気ガスそのものの排気音の減衰は高くないが、本流流路と別流路との排気音が互いに干渉し合い、減衰する。
【0023】第2の消音室2Bに流入された排気ガスは、その大部分が下流側の連通孔8A3に絞られて管内部に流入して消音され、さらに、管内部では軸方向に方向変換して流通し、排気ガスの圧力変動が低減され、さらに、連通孔8A4で整流された後、最下流側に位置する第3の消音室2Cに拡大して流出することで、排気ガスの圧力変動が低減される。一方、残りの排気ガスは、第2の仕切板3Bの小孔31を通って第3の消音室3Cに流入し、この第3の消音室3Cで本流流路を通った排気ガスと合流することになり、排気音が互いに干渉し合い、減衰する。第3の消音室2Cに流入した排気ガスは、テールパイプ5を通って外部に放出される。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献5には次の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「排気消音装置10において、ドラム状の本体2の外周部に固定されたテールパイプ5から排気ガスを外部に放出すること。」

6.引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された実願平05-047218号(実開平07-014117号)のCD-ROM(以下「引用文献6」という。)には、図面(特に、図1及び2を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0008】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面に基づいて述べる。図1はマフラの縦断左側面図、図2は同マフラの縦断正面図、図3は同マフラの要部拡大縦断面図である。
図1に示すように、マフラ本体1内に一つの隔壁2を介して2個の膨張室3・3を区画形成し、隔壁2に多数の通気孔6を開け、マフラ1の排気入口4を膨張室3・3及び隔壁2の通気孔6を介して排気出口5に連通する。
【0009】
即ち、図1に示すように、マフラ本体1のケーシング11の前後方向の中央に隔壁2を縦向きにカシメ付け、排気導入管12の一端の排気入口4を前方の第一膨張室3に連通する。図中の符号16は、排気導入管12の他端のフランジ部で、これをエンジンの排気ポートに接続する。
また、図1及び図2に示すように、上記第一膨張室3から隔壁2を介して後方の第二膨張室3にわたって湾曲状の排気導出管15を貫設し、排気導出管15の排気出口5に防爆用のスチールネット13を内設するとともに、排気導出管15の奥端に多数の透孔14を開けて第二膨張室3に連通する。
【0010】
また、図3及び図2に示すように、円形薄板状の隔壁板7にバーリング加工を施して多数のバーリング孔8を開け、バーリング孔8の円筒状周壁10が互いに背中合わせになるように一対の隔壁板7・7をスポット溶接で接合し、重ね合わせた一対の隔壁板7・7で上記隔壁2を構成するとともに、背中合わせのバーリング孔8・8で上記通気孔6を構成する。
【0011】
このマフラでは、エンジンの排気は、図1に矢印で示すように、排気導入管12の排気入口4から第一膨張室3に入って一次膨張し、隔壁2の通気孔6を介して第二膨張室3に入って二次膨張した後、透孔14から排気導出管15を経て排気出口5から排出される。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献6には次の事項(以下「引用文献6記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「マフラにおいて、円筒形状のケーシング11の外周面に設けられた排気出口5から、エンジンの排気を排出すること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「パンチング穴12」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1における「第一透孔(874)」に相当し、以下同様に、「インレットパイプ8」は「導通管(87)」に、「室R3」は「第一消音室(86)」に、「流通させる」は「透過させる」に、「開口部10」は「第二透孔(851)」に、「バッフルプレート7」は「障壁(85)」に、「室R4」は「第二消音室(88)」に、「流入する」は「噴射される」に、「流入した」は「噴射された」に、それぞれ相当する。
引用発明における「車両用消音器1」と、本願発明1における「火災発生時に建物の消火対象区画内に消火ガスを消火剤として放出することによって、前記消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する、消火ガス噴射装置」とは、「装置」という限りにおいて一致し、同様に、「排気ガス」と「消火ガス」とは「ガス」という限りにおいて一致し、「消音器内部に流入した高温、高圧、高速である排気ガスのエネルギーを拡大縮小させて消音効果を図り」と「前記消火対象区画内に設けられる噴射ヘッド(13)から消火ガスを噴射した際に発生する大音響を低減し」とは、「ガスが流れる際の音を低減し」という限りにおいて一致し、「前記室R4に連通した状態で、前記バッフルプレート7を貫通して設けられ、排気ガスを排出させるアウトレットパイプ9」と「円筒形状であり、外周面の同一円周上の複数箇所から前記消火対象区画内に消火ガスを放出する周壁(81)」とは、「前記第二消音室からガスを外部に放出する手段」という限りにおいて一致し、「エンジン側の排気管」と「噴射ヘッド(13)」とは、「ガスを出す部材」という限りにおいて、それぞれ一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「装置であって、
前記装置は、ガスが流れる際の音を低減し、
複数の第一透孔が形成されている円筒状の導通管と、
前記導通管の外側に位置する第一消音室と、
前記第一消音室のガスを透過させる第二透孔が形成されている障壁と、
前記障壁の下流側に設けられた第二消音室と、
前記第二消音室の下流側に設けられ、前記第二消音室からガスを外部に放出する手段とを備え、
複数の前記第一透孔が前記導通管の周壁の厚み方向に貫通して形成され、
複数の前記第二透孔が前記障壁の厚み方向に貫通して形成され、
ガスを出す部材から噴射されるガスを、前記導通管が前記第一消音室に導き、
前記導通管のうち前記ガスを出す部材に連結される軸線方向一端部とは反対側の軸線方向他端部からはガスが放出されず、
前記導通管に形成される複数の前記第一透孔から高速で前記第一消音室に噴射されたガスは、前記障壁に形成される複数の前記第二透孔から前記第二消音室に放出される、装置。」

〔相違点1〕
「装置」に関して、本願発明1においては「火災発生時に建物の消火対象区画内に消火ガスを消火剤として放出することによって、前記消火対象区画内のO2濃度を低下させて消火する、消火ガス噴射装置であって、前記消火ガス噴射装置は、前記消火対象区画内に設けられる噴射ヘッド(13)から消火ガスを噴射した際に発生する大音響を低減」するものであるのに対して、引用発明においては、車両用消音器1であって、前記車両用消音器1は、消音器内部に流入した高温、高圧、高速である排気ガスのエネルギーを拡大縮小させて消音効果を図るものである点。

〔相違点2〕
「第二消音室からガスを外部に放出する手段」に関して、本願発明1においては、「円筒形状であり、外周面の同一円周上の複数箇所から前記消火対象区画内に消火ガスを放出する周壁(81)」であるのに対して、引用発明においては、前記室R4に連通した状態で、前記バッフルプレート7を貫通して設けられ、その基端側がテールパイプに接続され、前記テールパイプを介して排気ガスを外部に排出させるアウトレットパイプ9である点。

〔相違点3〕
「ガスを出す部材」に関して、本願発明1においては「噴射ヘッド(13)」であるのに対して、引用発明においては「エンジン側の排気管」である点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
上記「第4」の「2.」ないし「6.」で述べたとおり、引用文献2記載事項は「消火対象区画内に消火ガスを消火剤として放出することによって、前記消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火するノズル200に、前記消火対象区画内に設けられるガス分配ラインから消火ガスを放出した際に発生する騒音を低減する手段を設けること。」というものであり、引用文献3記載事項は「高圧火災抑止剤を放出する排出ノズル106に、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えること。」というものであり、引用文献4記載事項は「領域1内に消火用ガスを供給するフィード要素2は、多孔質円筒壁7に取り囲まれたチャンバ6を含み、前記多孔質円筒壁7により騒音の発生は、低いままであること。」というものであり、引用文献5記載事項は「排気消音装置10において、ドラム状の本体2の外周部に固定されたテールパイプ5から排気ガスを外部に放出すること。」というものであり、引用文献6記載事項は「マフラにおいて、円筒形状のケーシング11の外周面に設けられた排気出口5から、エンジンの排気を排出すること。」というものであり、いずれも、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項である「円筒形状であり、外周面の同一円周上の複数箇所から消火対象区画内に消火ガスを放出する周壁」を開示ないし示唆するものではない。
また、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、本願の優先日前において周知の技術でもない。
そうすると、引用発明に、引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項を参酌しても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2について
本願の特許請求の範囲における請求項2は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2は、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項ないし引用文献6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.小括
したがって、本願発明1及び2は、原査定の引用文献1ないし6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要

(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1に「円筒形状であり、前記円筒形状の外周面から消火ガスを放出し、」との記載があるが、何が「円筒形状」であるのかが不明確である。

よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る発明は明確でない。

2.当審拒絶理由についての判断
令和元年6月26日の手続補正により請求項1の記載が「第3」に示すとおり補正された結果、当審拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2017-207888(P2017-207888)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A62C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 貴志  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 齊藤 公志郎
鈴木 充
発明の名称 消火ガス噴射装置およびガス消火設備  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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