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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16J
管理番号 1354620
審判番号 不服2017-18589  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-14 
確定日 2019-08-22 
事件の表示 特願2013-178537「シール部材」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 48855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月29日に出願された特願2013-178537号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成29年 2月28日付け:拒絶理由通知
同 年 4月10日提出:意見書
同 年 4月10日提出:手続補正書
同 年 9月25日付け:拒絶査定
同 年12月14日提出:審判請求書
同 年12月14日提出:手続補正書
平成31年 3月12日付け:拒絶理由通知
令和 元年 5月13日提出:意見書
同 年 5月13日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ハウジング内の密封流体が大気側に漏洩するのを抑制するために、軸の外周面に摺接する主リップ部と、
大気側の異物が前記ハウジング内に侵入するのを抑制するために、前記主リップ部よりも大気側において前記軸の外周面に摺接する補助リップ部と、を備えたシール部材であって、
前記主リップ部における前記軸の外周面との摺接部分と、前記補助リップ部における前記軸の外周面との摺接部分との間に設けられ、前記軸の外周面との間にラビリンス隙間を形成する断面形状がほぼV字形で先端部が丸みを帯び基端部が幅広に形成された副リップ部を備えており、前記副リップ部は、最小径部がリップ先端部とされ、当該副リップ部のリップ先端部よりも外部側の面は、前記軸の中心線に対して垂直に延伸する垂直面とされ、前記副リップ部の前記リップ先端部よりも内部側の面は、前記軸の中心線に対して所定角度だけ傾斜している傾斜面とされ、
前記主リップ部には、軸の回転により漏洩しようとする密封流体を内部側へ戻すための螺旋部が形成されていることを特徴とするシール部材。」

第3 拒絶の理由
平成31年3月12日付けで当審が通知した拒絶理由は、概要、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2001-27326号
引用例2:米国特許第5895052号明細書

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例1及び引用発明
引用例1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(1)「【0006】
【発明の実施の形態】図1は、断面L字状の金属補強環4のまわりにゴムを加硫接着して形成した、本発明の実施形態のオイルシールを示している。このオイルシールは、外周部1と、環状のリップ5が形成されている内周部2と、外周部1と内周部2と連結しリップ5を径方向へ弾性的に移動可能に支持する支持部3とを有し、リップ5の先端5aを回転軸7に摺接させて回転軸7のまわりに相対回転可能に装着されるようになっている。外周部1はハウジング6に嵌合固定される。
【0007】図1において、リップ5の左側はオイル空間8、右側は大気が作用する大気側の空間9であり、リップ5がオイル空間8から大気側の空間9へのオイルの漏洩を防止するようになっている。内周部2の大気側端部には径方向内方へ突出して回転軸7に摺接し、大気側の空間9からオイル空間8への塵埃等の進入を防止するダストリップ10が設けられている。内周部2には、リップ5の先端5aから大気側へ向けて拡径する大気側の傾斜内周面12と、リップ5の先端5aからオイル空間8側へ向けて拡径するオイル空間側の傾斜内周面13とが形成され、リップ5の先端5aには、回転軸と密封接触可能な尖鋭なエッジ部が形成されている。なお、図中11は、リップ5を回転軸7に圧接させるためのガータスプリングを示している。」

(2)「【0009】大気側の傾斜内周面12には、回転軸7の軸線方向へ第1および第2の環状突起14,15と交差するように延びるリブ16が、傾斜内周面12の円周方向に互いに隔てられた関係で複数本設けられている。これらリブ16は、既述の特開平8-226547号公報および特開平10-169785号公報に記載のリブと同様に、回転軸7とオイルシールとが相対回転したときにオイルをポンプ作用によりオイル空間8側へ戻すように回転軸7に対して傾斜して延びている。」

上記記載事項を総合し、本願の請求項1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「オイル空間8内のオイルが大気側の空間9に漏洩するのを防止するために、回転軸7に摺接するリップ5と、
大気側の空間9の塵埃等がオイル空間8内に進入するのを防止するために、内周部2の大気側端部において前記回転軸7に摺接するダストリップ10と、を備えたオイルシールであって、
前記リップ5には、回転軸7とオイルシールとが相対回転したときにオイルをポンプ作用によりオイル空間8側へ戻すための回転軸7に対して傾斜して延びているリブ16が形成されているオイルシール。」

2 引用例2
引用例2には、次の事項が記載されている。
(1)「Gaps 14 and 15 are provided between the ends 12, 13 of sealing lips 10, 11 and the sections of inner ring 1 opposite them, so that in this region a relative movement is possible without making contact. The second and third sealing lips 10, 11 may each have a conical shape. In the illustrated embodiment, the second sealing lip 10 has a conical shape tapering toward the axially outer end of the inner ring, and the third sealing lip 11 has a conical shape widening toward the axially outer end of the inner ring.」(第2欄第52?60行)(当審仮訳:「間隙14及び15を、それぞれシールリップ10、11の端部12、13、及び内側リング1の対向部分との間に設けているため、この領域では、相対的な運動が非接触で可能である。第2及び第3のシールリップ10、11は、それぞれ円錐形状を有していてもよい。図示の実施形態では、第2のシールリップ10は、内側リングの軸方向外側の端部に向かって先細りとなる円錐形状を有し、第3のシールリップ11が内側リングの軸方向外側の端部に向かって広がる円錐形状を有する。」)

(2)「In accordance with the above descriptions, a sealing device for the sealing gap between a housing and a shaft supported in the housing is provided, in which a second and third sealing lip form a dust seal acting without contact and free from wear and tear. A system of gaps, for example gaps 19, 15, and 14 in the illustrated embodiment, form a labyrinth system whose individual seals are separated from one another by buffer zones. The labyrinth system is at least as effective as the two sealing lips of the known prior art system which abut against the inner ring but which cannot be permanently protected by lubrication against wear and tear.」(第3欄第48?59行)(当審仮訳:「上記の説明のとおり、ハウジングと当該ハウジングに支持される軸との間の間隙を封止するシール装置が提供され、当該装置では、第2及び第3のシールリップが非接触で摩耗なしに作用するダストシールを形成する。一連の間隙(例えば、図示の実施形態では、間隙19、15、及び14)は、個々のシールがバッファゾーンにより互いに離隔される、1つのラビリンス系を形成している。このラビリンス系は、内側リングに当接するが潤滑によって摩耗から永続的には保護され得ない、既知の先行技術の系における2つのシールリップと比し、少なくとも同様に有効である。」)

(3)FIG.1の図示内容から、第2のシールリップ10の先端12は、第2のシールリップ10の最小径部を構成し、丸みを帯びていることが見て取れる。

(4)上記(1)の「第2のシールリップ10は・・・先細りとなる円錐形状」との記載事項及びFIG.1の図示内容から、第2のシールリップ10は、断面形状において基端部が幅広であるとともに、その第2のシールリップ10のFIG.1で右側の面(内側リング1の軸方向内側の面)は、内側リング1の軸方向に対して傾斜した面になっていると認められる。

(5)上記(1)の「間隙14及び15を、それぞれシールリップ10、11の端部12、13、及び内側リング1の対向部分との間に設けている。」及び「第2及び第3のシールリップ10、11は、それぞれ円錐形状を有していてもよい。」並びに上記(2)の「一連の間隙(例えば、図示の実施形態では、間隙19、15、及び14)は、個々のシールがバッファゾーンにより互いに離隔される、1つのラビリンス系を形成している。」との記載及びFIG.1の図示内容から、第2のシールリップ10は、端部12と内側リング1との間の、ラビリンス系を成す間隙14により、非接触で作用するダストシールを形成していると認められる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の事項(以下、「引用例2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。

[引用例2に記載された事項]
「シール装置が、内側リング1の外周面との間にラビリンス系を成す間隙14を形成する、端部12が丸みを帯び基端部が幅広に形成された第2のシールリップ10を備えており、端部12が最小径部とされた当該第2のシールリップ10により、非接触で作用するダストシールが形成されており、その第2のシールリップ10の、内側リング1の軸方向内側の面は、内側リング1の軸方向に対して傾斜した面となっていること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「オイル空間8内」は本願発明の「ハウジング内」に相当し、以下同様に、「オイル」は「密封流体」に、「大気側の空間9」は「大気側」に、「漏洩するのを防止する」ことは「漏洩することを抑制する」ことに、「回転軸7に摺接する」ことは「軸の外周面に摺接する」ことに、「リップ5」は「主リップ部」に、「塵埃等」は「異物」に、「進入するのを防止する」ことは「侵入するのを抑制する」ことに、「内周部2の大気側端部」は「主リップ部よりも大気側」に、「ダストリップ10」は「補助リップ部」に、「オイルシール」は「シール部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「回転軸7とオイルシールとが相対回転したときにオイルをポンプ作用によりオイル空間8側へ戻す」ことは、本願発明の「軸の回転により漏洩しようとする密封流体を内部側へ戻す」ことに相当し、引用発明の「回転軸7に対して傾斜して延びているリブ16」は本願発明の「螺旋部」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「ハウジング内の密封流体が大気側に漏洩するのを抑制するために、軸の外周面に摺接する主リップ部と、
大気側の異物が前記ハウジング内に侵入するのを抑制するために、前記主リップ部よりも大気側において前記軸の外周面に摺接する補助リップ部と、を備えたシール部材であって、
前記主リップ部には、軸の回転により漏洩しようとする密封流体を内部側へ戻すための螺旋部が形成されているシール部材。」の点で一致し、次の相違点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「前記主リップ部における前記軸の外周面との摺接部分と、前記補助リップ部における前記軸の外周面との摺接部分との間に設けられ、前記軸の外周面との間にラビリンス隙間を形成する断面形状がほぼV字形で先端部が丸みを帯び基端部が幅広に形成された副リップ部を備えており、前記副リップ部は、最小径部がリップ先端部とされ、当該副リップ部のリップ先端部よりも外部側の面は、前記軸の中心線に対して垂直に延伸する垂直面とされ、前記副リップ部の前記リップ先端部よりも内部側の面は、前記軸の中心線に対して所定角度だけ傾斜している傾斜面とされ」ているのに対し、引用発明はこのような構成を有しない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
引用発明のダストリップ10は、「大気側の空間9からオイル空間8への塵埃等の進入を防止する」(段落【0007】参照。)ものであるから、同様の塵埃等の進入を防止する機能を有する「引用例2に記載された事項」の第2のシールリップ10と、機能において共通する。そして、ダストリップ10を備えた引用発明において、引用例2に記載された事項の当該第2のシールリップ10を付加することで、塵埃等の進入を防止する機能が向上することは、当業者が容易に予測し得る。
してみれば、引用発明のリップ5と回転軸7とが摺接する部分と、ダストリップ10と回転軸7とが摺接する部分との間にある、ラビリンスを形成する余地がある空間に、引用例2に記載された事項の第2のシールリップ10を付加し、引用発明の回転軸7とラビリンス系を成す間隙を形成する構成とする動機付けは、十分有るといえる。

ここで、当該引用例2には、前記「引用例2に記載された事項」に記載したとおり、断面形状において先端部が丸みを帯び基端部が幅広に形成された第2のシールリップ10が記載されている以上、かかる第2のシールリップ10に関し、引用例2のFIG.1において第2のシールリップ10の左側の面(内側リング1の軸方向外側の面)を、内側リング1の軸方向に垂直な面とし、その第2のシールリップ10の断面形状をほぼV字形とする程度のことは、第2のシールリップ10の端部12と基端部の厚さの比をどのように設定するかに応じて、引用例2の前記記載に照らし当業者が適宜なし得た設計的事項というほかない。

また、本願発明による効果は、引用発明及び引用例2に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 請求人の主張について
請求人は、令和元年5月13日提出の意見書(以下、「意見書」という。)、において、引用例2に記載された第2のシールリップ10について「請求項1発明独特の効果である『副リップ部自体の剛性が高まり変形しにくくまた破損し難い』ということは全く期待できません。」と主張する。

しかしながら、単に副リップ部の剛性を大きくしたいのであれば、副リップ部のリップ先端部よりも外部側の面は、軸の中心線に対して垂直に延伸する垂直面とするよりも、軸の中心線に対して所定角度だけ傾斜している傾斜面とする周知の構造(例えば、特開2006-83955号公報の「補助リップ3e」(【図1】)、特開2002-22028号公報の「副リップ3」(【図4】)参照。)の方が、より剛性が高まり変形しにくいことを考慮すると、本願発明の副リップ部のリップ先端部よりも外部側の面が軸の中心線に対して垂直に延伸する垂直面とされていることによる、剛性に係る効果は、引用例2に記載された事項の「第2のシールリップ10」の端部12と基端部の厚さの比の適切な設定により十分期待できる効果であり、格別顕著な効果ではない。
さらに付言するならば、軸の高速回転に伴うしなり等の影響で、軸と副リップ部の先端部との隙間が維持されない場合も想定され、当該隙間が維持されない場合は副リップ部の剛性が高ければ、破損のリスクが大きくなることは普通であるといえる。
以上より、請求人の上記主張に基づいて本願発明1の進歩性を認めることはできない。

また、請求人は意見書において、「引用2発明では、主リップ部には、軸の回転により漏洩しようとする密封流体を内部側へ戻すための螺旋部が形成されていません。従いまして、引用1発明に引用2発明を適用しても請求項1発明には決して想到しないものであります。」とも主張する。

しかしながら、引用発明の「回転軸7に対して傾斜して延びているリブ16」は、その機能からみて本願発明1の「軸の回転により漏洩しようとする密封流体を内部側へ戻すための螺旋部」に相当するから、当該主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-19 
結審通知日 2019-06-25 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2013-178537(P2013-178537)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 シール部材  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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