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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1354687 |
審判番号 | 不服2018-10051 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-23 |
確定日 | 2019-09-17 |
事件の表示 | 特願2014-152320「ポリオレフィン組成物およびポリオレフィン延伸フィルム、延伸多層フィルム、並びに延伸フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年3月7日出願公開、特開2016-30767、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成26年7月25日の出願であって、平成29年12月13日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年4月5日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成30年4月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年7月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 「この出願の請求項1?13に係る発明は、下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 … <引用文献等一覧> 1.国際公開第2014/065416号 2.特開2008-202002号公報(周知技術を示す文献) 3.特開平08-269261号公報」 3 本願発明 本願請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」という。)は、平成30年4月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。 「【請求項1】 下記(a)?(c)成分を含むポリオレフィン組成物であって、オレフィン系重合体(A)の含有量が、(a)と(b)の合計量を100質量%として、0.5質量%以上、50質量%未満であるポリオレフィン組成物を、一軸又は二軸方向へ配向させて成る、延伸フィルム。 (a)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから得られる融解吸熱量(ΔH-D)が0?80J/gであり、分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満であるオレフィン系重合体(A) (b)示差走査型熱量計(DSC)により測定される融点(Tm-D)が120℃を超えるオレフィン系重合体(B) (c)微粉末シリカ及び微粉末状樹脂から選ばれるブロッキング防止剤」 4 引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。 (1)「[請求項1] (1)弾性率が5?450MPaであるオレフィン系重合体1?30質量%と、(2)弾性率が500MPa以上であるプロピレン系重合体((b)成分の含有量は、残部である。)と、(3)添加剤0.0001?2質量%とを含む樹脂組成物からなるポリオレフィン系成形体。 [請求項2] 下記物性(a)と物性(b)との比((a)/(b))が0.75?1.35である、請求項1に記載のポリオレフィン系成形体。 (a)成形直後から、温度23℃湿度50%の環境下に7日間保管した成形体の、添加剤由来の物性 (b)成形直後から、温度40℃湿度90%の環境下に7日間保管した成形体の、添加剤由来の物性 [請求項3] 前記添加剤が、帯電防止剤、離型剤、電気的性質改良剤、光安定剤、紫外線安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤及び粘着防止剤から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系成形体。 [請求項4] 前記添加剤が帯電防止剤であり、前記添加剤由来の物性が表面固有抵抗値である、請求項1?3のいずれかに記載のポリオレフィン系成形体。 [請求項5] 前記(1)オレフィン系重合体が下記(a)?(g)の特徴を満たす、請求項1?4のいずれかに記載のポリオレフィン系成形体。 (a)[mmmm]=20?60モル% (b)[rrrr]/(1-[mmmm])≦0.1 (c)[rmrm]>2.5モル% (d)[mm]×[rr]/[mr]^(2)≦2.0 (e)重量平均分子量(Mw)=10,000?500,000 (f)分子量分布(Mw/Mn)<4 (g)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm-D)が0?120℃である。 [請求項6] シート又はフィルムである、請求項1?5のいずれかに記載のポリオレフィン系成形体。」 (2)「[0048] 本発明の成形体として、フィルム又はシートを製膜する場合は、一般的な圧縮成形、押出成形、ブロー成形、キャスト成形等により行うことができる。また、フィルム又はシートは延伸してもよく、しなくともよい。延伸する場合は、2軸延伸が好ましい。2軸延伸の条件としては、例えば下記のような条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。 <フィルム又はシート成形時の成形条件> 樹脂温度:50?200℃ チルロール温度:50℃以下 (縦延伸条件) 延伸倍率:3?7倍、延伸温度:50?170℃ (横延伸条件) 延伸倍率:6?12倍、延伸温度:50?170℃」 (3)「[0051] 製造例1 (低結晶性ポリプロピレンの製造) 撹拌機付きの内容積20Lのステンレス製反応器に、n-ヘプタンを20L/h、トリイソブチルアルミニウムを15mmol/h、さらにジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートと(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)-ビス(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドとトリイソブチルアルミニウムとプロピレンとを質量比1:2:20で事前に接触させて得られた触媒成分を、ジルコニウム換算で6μmol/hで連続供給した。 重合温度を55℃に設定し、反応器の気相部の水素濃度が8モル%、反応器内の全圧が1.0MPa(ゲージ圧)に保たれるように、プロピレン及び水素を連続供給し、重合反応を行った。 得られた重合溶液に、安定剤として「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製)をその含有割合が1000質量ppmになるように添加し、次いで溶媒であるn-ヘプタンを除去することにより、低結晶性ポリプロピレンを得た。 [0052] 製造例1で得られた低結晶性ポリプロピレンについて、以下の測定を行った。測定結果を表3に示す。 … [0060] [表3] [0061] 実施例1 〔樹脂組成物の製造〕 製造例1で得られた低結晶性ポリプロピレン5質量%、高結晶性ポリプロピレン(PP、プライムポリマー(株)製、商品名:F-704NP)94質量%、ステアリン酸モノグリセリド8質量%からなる帯電防止剤マスターバッチ1質量%の配合比で溶融混練することで樹脂組成物を得た。なお、高結晶性ポリプロピレンについて上記と同様にして初期弾性率を算出したところ、1600MPaであった。 [0062] 〔シートの製膜〕 得られた樹脂組成物を用いて、50mmφTダイキャスト成形機(サーモ・プラスティックス工業(株)製)により、下記の成形条件で膜厚400μmのシートを製膜した。 Tダイ出口温度:230℃ チルロール:梨地 チルロール温度:30℃ 引き取り速度:1.2m/min [0063] 〔シートの評価〕 シートの品質は、製膜後、温度23℃湿度50%又は温度40℃湿度90%の環境下で1日又は7日間エージング処理を行った後、温度23℃湿度50%で、1時間以上の状態調節の後、同じ温度、湿度条件下にて表面固有抵抗測定を行った。表面固有抵抗は、JIS K6911に従い測定した。表面固有抵抗の値は、常用対数に換算した。表面固有抵抗の値は、小さいほど、添加剤のブリードアウト量が多いことを示す。結果を表4に示す。 [0064] 実施例2 実施例1における樹脂の配合比について、低結晶性ポリプロピレンの配合量を10質量%に変更し、高結晶性ポリプロピレンの配合量を89質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。また、得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシートを製膜し、評価を行った。 [0065] 実施例3 実施例1における樹脂の配合比について、低結晶性ポリプロピレンの配合量を3質量%に変更し、高結晶性ポリプロピレンの配合量を96質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。また、得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシートを製膜し、評価を行った。 [0066] 比較例1 低結晶性ポリプロピレンを配合せず、高結晶性ポリプロピレンの配合量を99質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。また、得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシートを製膜し、評価を行った。 [0067] [表4] [0068] 比較例1では、保管環境が異なる場合に表面固有抵抗値が大きく変動しており、このことから帯電防止剤のブリードアウト量が大きく変動していることがわかる。 これに対して、実施例1?3では、保管環境が異なる場合でも表面固有抵抗値の変動の幅が小さく、このことからブリードアウトの環境依存性が少ないことがわかる。 [0069] 実施例4 帯電防止剤マスターバッチに代えて、エルカ酸アミド10質量%を含有するスリップ剤マスターバッチを用いたこと以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物を得た。また、得られた樹脂組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にしてシートを製膜した。 [0070] 比較例2 帯電防止剤マスターバッチに代えて、エルカ酸アミド10質量%を含有するスリップ剤マスターバッチを用いたこと以外は比較例1と同様にして、樹脂組成物を得た。また、得られた樹脂組成物を用いたこと以外は比較例1と同様にしてシートを製膜した。 [0071] 〔シートの評価〕 実施例4及び比較例2で得られたシートの品質は、製膜後、温度23℃湿度50%又は温度40℃湿度90%の環境下で1日又は7日間エージング処理を行った後、温度23℃湿度50%で、1時間以上の状態調節の後、同じ温度、湿度条件下にて静摩擦係数の測定を行った。静摩擦係数は、JIS K7125に従い測定した。静摩擦係数の値は、小さいほど、添加剤のブリードアウト量が多いことを示す。結果を表5に示す。 [0072] [表5] [0073] 比較例2では、保管環境が異なる場合に静摩擦係数が大きく変動しており、このことから帯電防止剤のブリードアウト量が大きく変動していることがわかる。 これに対して、実施例4では、保管環境が異なる場合でも静摩擦係数の変動の幅が小さく、このことからブリードアウトの環境依存性が少ないことがわかる。 産業上の利用可能性 [0074] 本発明の成形体は、添加剤のブリードアウトの環境依存性が少なく、特にシート又はフィルム等に有用である。」 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「下記(a)?(c)成分を含むポリオレフィン組成物であって、オレフィン系重合体(A)の含有量が、(a)と(b)の合計量を100質量%として、3質量%、5質量%、又は10質量%であるポリオレフィン組成物から成る、延伸フィルム。 (a)分子量分布(Mw/Mn)が2.0であるオレフィン系重合体(A) (b)プライムポリマー(株)製、商品名:F-704NPのポリプロピレン (c)添加剤」 5 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 「プライムポリマー(株)製、商品名:F-704NP」は、引用文献2の下記の記載 「【0020】 成分(b)は結晶性プロピレン系樹脂であり、DSC融解曲線の最も高い温度側の融解ピークにおけるピークトップ温度(Tm)が145℃以上、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは155℃以上のものである。上記ピークトップ温度が上記下限未満では、難燃熱可塑性樹脂組成物の耐加熱変形性および耐応力亀裂性が劣る。 … 【0023】 成分(b)の市販品の例としては、サンアロマー(株)製のPB270A(商品名、プロピレンブロック共重合体)、ユニロイヤル社製のPolybond1002(商品名、アクリル酸変性ポリプロピレン)、プライムポリマー(株)製のF-704NPおよびF-724NP(商品名)、ならびに日本ポリプロ(株)製のBC3HFおよびBC08(商品名)が挙げられる。」 からみて、本願発明1の「示差走査型熱量計(DSC)により測定される融点(Tm-D)が120℃を超えるオレフィン系重合体」に相当するものといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明との間には、少なくとも以下の相違点があるといえる。 相違点a:(a)成分、すなわち本願発明1の「オレフィン系重合体(A)」に相当する成分に関し、本願発明1は「示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから得られる融解吸熱量(ΔH-D)が0?80J/g」という物性を有するのに対し、引用発明はこのような物性を有するか明らかでない点。 イ 判断 上記相違点aについて検討する。 引用発明は、上記(a)成分に相当する「低結晶性ポリプロピレン」を[0051](上記4(3))に記載されるようにして合成しているところ、この「低結晶性ポリプロピレン」が本願発明1の(a)成分の融解吸熱量の規定を満たすものであることは明らかでなく、また該規定を満たすように合成しうるのかも明らかでない。 そして、引用発明において、「低結晶性ポリプロピレン」を該規定を満たすものとすることが、当業者において容易に想到し得ることと解される根拠は引用文献1?3のいずれからも見いだせず、またそのような一般的な技術的知識も存在しない。 したがって、その他の相違点の存否に関わらず、当業者といえども、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 (2)本願発明2?10について 本願発明2?10も、(a)成分において、上記融解吸熱量を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 (3)本願発明11?13について 本願発明11?12に係る「延伸多層フィルム」は、本願発明1に係る「延伸フィルム」に用いられる「ポリオレフィン組成物」からなる層を少なくとも一層含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 また、本願発明13は本願発明11に対応する方法の発明であるから、本願発明11と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおり、本願発明1?13は、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-02 |
出願番号 | 特願2014-152320(P2014-152320) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 橋本 栄和 |
発明の名称 | ポリオレフィン組成物およびポリオレフィン延伸フィルム、延伸多層フィルム、並びに延伸フィルムの製造方法 |
代理人 | 大谷 保 |