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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1354779
審判番号 不服2019-1533  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-04 
確定日 2019-09-24 
事件の表示 特願2014- 91449「易引裂性気泡緩衝材」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-208912、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 4月25日を出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成29年 8月29日付け:拒絶理由の通知
同年10月30日 :意見書の提出、手続補正
平成30年 3月 8日付け:拒絶理由の通知
同年 5月 7日 :意見書の提出、手続補正
同年10月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年 2月 4日 :審判請求書の提出、及び同時に手続補正

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明11」という。)は、平成31年 2月 4日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
複数の突起が形成されたセル層フィルム(II)と、セル層フィルム(II)の底面側に積層されたバックフィルム(I)と、任意に、バックフィルム(I)の下側に積層された下フィルム(III)及びセル層フィルム(II)の頂側に積層されたトップフィルム(IV)の少なくとも一つと、を有してなる易引裂性気泡緩衝材であって、
バックフィルム(I)及び/又は下フィルム(III)が、下記の層(A)、層(B)、層(C)をこの順に積層してなる積層体(X)を含むフィルムであり、
バックフィルム(I)、セル層フィルム(II)、下フィルム(III)及びトップフィルム(IV)のうち少なくとも一つが、積層体(X)を含まず、かつ、積層体(X)を含まない前記フィルムが、ポリエチレン樹脂フィルムであり、
該積層体(X)を含むフィルムが、該ポリエチレン樹脂フィルムと融着されてなることを特徴とする易引裂性気泡緩衝材。
層(A):エチレン・α-オレフィン共重合体(a1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(a2)0?100重量%[ただし、(a1)及び(a2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層
層(B):環状オレフィン系樹脂(b1)10?90重量%、エチレン・α-オレフィン共重合体(b2)10?90重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(b3)0?30重量%[ただし、(b1)、(b2)及び(b3)の合計量を100重量%とする。]を含有する混合樹脂層
層(C):エチレン・α-オレフィン共重合体(c1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(c2)0?100重量%[ただし、(c1)及び(c2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の理由は、平成30年 3月 8日付けの拒絶理由通知書に示したものであって、概略以下のとおりである。
1 引用文献一覧
引用文献1 特開2004-074725号公報
引用文献2 特開2003-311857号公報
引用文献3 特開2012-000885号公報
引用文献4 特開2005-059890号公報
2 拒絶理由の概要
本願発明1?11は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3、4に記載された事項に基いて、あるいは、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 引用文献
1 引用文献1
原査定で引用された引用文献1(特開2004-074725号公報(平成16年 3月11日出願公開))には、次の記載がある。(下線は特に着目した箇所を示すために当審で付与した。引用文献の摘記について以下同じ。)
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、引き裂きやすく、人の手でも容易に切ることのできるプラスチック気泡シート(以下「気泡シート」と略称する)に関する。」
(2)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、手で引き裂くことが容易にできる気泡シートを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成する本発明の引き裂きやすい気泡シートには、前記したように、三層構成のものと二層構成のものとがある。前者の態様は、プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせてなる長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくとも1種に、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用したものである。
【0008】
後者の態様は、プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせてなる長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルムおよびバックフィルムの少なくとも1種に、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用したものである。」
(3)「【0014】
気泡シートは、三層構成のものであれ、二層構成のものであれ、それを構成するフィルム、すなわちキャップフィルムおよびバックフィルム、さらにはライナーフィルムの、1種、2種または3種を、2層以上の多層フィルムとすることが可能である。この場合、多層フィルムの少なくとも1層を、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムとすることによって、その多層フィルムを裂けやすいものとすることができ、結果として、気泡フィルム全体を裂けやすいものとすることができる。」
(4)「【0016】
【実施例1】
アイオノマー樹脂「ハイミラン」(三井デュポンポリケミカル製)を材料として使用し、T-ダイから溶融押し出し、押し出し方向に100%、幅方向には10%の延伸を施して、長手方向に直角の線に沿って裂けやすいバックフィルムを用意した。キャップフィルムは、T-ダイから溶融押し出しした同じプラスチックを、延伸なしで使用した。常用されている、熱成形ロールを使用したキャップフィルム成形に対して、溶融状態のバックフィルムを押圧する方法により、下記の仕様の二層構成の気泡シートを製造した。
キャップフィルム:厚さ50μm
バックフィルム:厚さ35μm
キャップ:直径10.0mm、高さ4.0mm、ピッチ11.5.0mm、千鳥配置
【0017】
この気泡シートは、幅方向に手で引き裂くことが容易にできた。気泡の強度を測定したところ、耐荷重12kg/気泡であって、この値は同じ仕様のポリエチレンを材料とする気泡シートの耐荷重の120%に達していたから、この気泡シートが包装材料としてもつべき緩衝機能は、特殊な材料の選択により実質上悪影響を受けないどころか、むしろ向上していることが確認された。」
(5)前記(1)?(4)の記載を総合し、本願請求項1の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「多数のキャップが成形されたキャップフィルムと、キャップフィルムの底面に貼り合わせられたバックフィルムとを有してなる引き裂きやすいプラスチック気泡シートであって、
バックフィルムが、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムである、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」

2 引用文献2
原査定で引用された引用文献2(特開2003-311857号公報(平成15年11月 6日出願公開))には、図面とともに次の記載がある。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エァセルラー緩衝シート(air cellular cushioning sheet)の改良に関し、更に詳しくは、道具を用いなくとも、長尺のエァセルラー緩衝シートを手裂き動作だけで簡単に、真っ直ぐに横裂きできる実用性に優れた横裂き容易なエァセルラー緩衝シートに関するものである。」
(2)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来エァセルラー緩衝シートに採用されていた横裂き性改善の技術に前述のごとき欠点があったことに鑑みて為されたものであり、任意の側縁箇所から手裂き動作によって簡単に、ほゞ真っ直ぐに横裂きすることができる実用的なエァセルラー緩衝シートを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するために採用した手段】しかして、本発明者が上記目的を達成するエァセルラー緩衝シートの構成として採用した手段は、次に掲げるとおりである(符号・構造は添附図面を参照)。
1) ベース側のフィルム1の片面に多数のエァセルラー21・21・・・を形成した状態のキャップフィルム2を熱融着して成るシート部材であって、前記ベース側のフィルム1自体を、幅方向に横裂き容易な熱可塑性フィルムで形成するという構成手段を採用すること。
2) ベース側のフィルム1の片面に多数のエァセルラー・21・・・を形成した状態のキャップフィルム2を熱融着して成るシート部材であって、前記ベース側のフィルム1に、幅方向に横裂き容易な熱可塑性フィルム11を積層するという構成手段を採用することにより前記フィルム1に横裂き性を付与すること。」
(3)「【0012】〔第1の実施形態〕図1および図4は、本発明エァセルラー緩衝シートの第1実施形態を表わしており、符号1はエァセルラー緩衝シートのベースを構成するフィルム、符号2は前記ベースフィルム1の片面に多数のエァセルラー21・21・・・を形成した状態にて熱融着されているキャップフィルムである。このような構造のエァセルラー緩衝シートは、加熱ロールによって溶融状態で流送されてくるフィルムを、真空吸引ロールで引き取ってエァセルラーとなるべきキャップ形の凹凸を作出せしめたところで、この凹凸フィルムのベース側にシールロールによりフィルムを圧着することにより製造することができるのであり、このような方法は従来周知である。そしてまた、これら各々のフィルムには、添加剤として帯電防止剤・紫外線吸収剤・耐候剤・難燃剤などが添加されることもある。」
(4)前記(1)?(3)の記載を総合し、本願請求項1の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「多数のエァセルラー21が形成されたキャップフィルム2と、片面にキャップフィルムを熱融着されたベース側のフィルム1とを有してなる横裂き容易なエァセルラー緩衝シートであって、
ベース側のフィルム1を幅方向に横裂き容易な熱可塑性フィルムで形成した横裂き容易なエァセルラー緩衝シート。」

3 引用文献3
原査定で引用された引用文献3(特開2012-000885号公報(平成24年 1月 5日出願公開))には、図面とともに次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、易引裂性多層フィルム及び包装材に関し、さらに詳しくは、縦方向及び横方向の引裂性に優れる上に、衝撃強度も兼ね備えた易引裂性多層フィルム及びこれを用いた包装材に関するものである。」
(2)「【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、縦方向及び横方向の引裂性に優れる上に、衝撃強度も兼ね備えた易引裂性多層フィルム及びこれを用いた包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の密度のポリエチレンからなる外層、環状オレフィン系樹脂60?90重量%と特定の密度の直鎖状低密度ポリエチレン10?40重量%とからなる中間層及び特定のポリエチレンからなる内層が、順に積層されてなる多層フィルムにより、上記課題を解決することができることを見出した。それらの知見に、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、密度が0.870?0.935g/cm^(3)のポリエチレン(a)からなる外層(A)、環状オレフィン系樹脂(b1)60?90重量%と、密度が0.870?0.935g/cm^(3)の直鎖状低密度ポリエチレン(b2)10?40重量%とからなる中間層(B)及び密度が0.870?0.935g/cm^(3)のポリエチレン(c)からなる内層(C)が、順に積層されてなることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。」
(3)「【0049】
2.易引裂性多層フィルム
本発明の易引裂性多層フィルムは、前述したように、特定の外層(A)/特定の中間層(B)/特定の内層(C)との構成からなるものである。・・・
【0050】
また、本発明の易引裂性多層フィルム中の中間層(B)の厚さは、易引裂性多層フィルム全体を基準として、20?70%であることが好ましい。より好ましくは20?50%である。すなわち、外層(A)/中間層(B)/内層(C)が1:0.5:1の厚さ?1:4:1程度の厚さをとることができる。中間層(B)が20%より薄いと、十分な易引裂性が得られないので好ましくない。一方、70%より厚いと、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。中間層(B)がこの範囲であれば、易引裂性に優れる上に、コスト的に有利であり、易引裂性多層フィルムの透明性、引き裂き性、耐ピンホール性が向上するため、好ましい。」
(4)「【0051】
・・・
さらに、通常用いられる方法により、本発明の易引裂性フィルムをシーラントフィルムとして用い、外層(A)上に接着性樹脂や接着剤を介して基材をラミネートしてラミネートフィルムとすることもできる。」
(5)「【0063】
[使用原料]
実施例で使用した原料は、下記の通りである。なお、密度の単位はg/cm^(3)、MFRの単位はg/10分である。
(1)エチレン・α-オレフィン共重合体(A):
LL-1: 密度0.926、MFR1.0のエチレン・ブテン-1共重合体
LL-2: 密度0.910、MFR2.0のエチレン・ヘキセン-1共重合体
(2)COC
商品名TOPAS「8007」を使用。
【0064】
[実施例及び比較例]
(実施例1?4)
表1の通り、外層をLL-1、内層をLL-2、中間層をLL-1にCOCを60?85%とし、層比1:1:1の30μmインフレーションフィルムを得た。
評価結果を表1に示す。」
(6)前記(1)?(5)の記載を総合し、特に(5)に記載された原料に着目すると、引用文献3には次の技術事項が記載されている。
「外層(A):エチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ブテン-1共重合体)からなる層
中間層(B):環状オレフィン系樹脂(COC)60?85重量%及び残部がエチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ブテン-1共重合体)からなる層
内層(C):エチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ヘキセン-1
共重合体)からなる層
をこの順に積層してなる易引裂性多層フィルム。」

4 引用文献4
原査定で引用された引用文献4(特開2005-059890号公報(平成17年 3月10日出願公開))には、梱包用緩衝材の具体的な構成について記載されている。

第5 対比及び判断
1 本願発明1
(1)引用発明1を主引用発明とする拒絶理由
ア 本願発明1と、引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「多数のキャップが成形されたキャップフィルム」は、その機能及び構成からみて、本願発明1の「複数の突起が形成されたセル層フィルム(II)」に相当し、以下同様に、「キャップフィルムの底面に貼り合わせられたバックフィルム」は「セル層フィルム(II)の底面側に積層されたバックフィルム(I)」に、「引き裂きやすいプラスチック気泡シート」は「易引裂性気泡緩衝材」にそれぞれ相当する。
(イ)本願発明1の「易引裂性気泡緩衝材」が、「任意に、バックフィルム(I)の下側に積層された下フィルム(III)及びセル層フィルム(II)の頂側に積層されたトップフィルム(IV)の少なくとも一つと、を有してなる」ことについて、当該事項を備えるかどうかを「任意に」としていることから、本願発明1と引用発明1とは、セル層フィルム(II)(キャップフィルム)及びバックフィルム(I)(バックフィルム)を備えるという限りにおいて一致する。
(ウ)技術常識や製造方法を考慮すれば、引用発明1の「キャップフィルム」と「バックフィルム」とは融着されてなるものと認められるところ、この点を本願発明1の「該積層体(X)を含むフィルムが、該ポリエチレン樹脂フィルムと融着されてなる」点と対比すると、易引裂性気泡緩衝材を構成するフィルム同士が融着されてなるという限りにおいて一致する。
(エ)以上のことから、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致するとともに、相違点1及び2で相違する。
【一致点】
「複数の突起が形成されたセル層フィルム(II)と、セル層フィルム(II)の底面側に積層されたバックフィルム(I)とを有してなる易引裂性気泡緩衝材であって、
易引裂性気泡緩衝材を構成するフィルム同士が融着されてなる易引裂性気泡緩衝材」である点。
【相違点1】
本願発明1は「バックフィルム(I)及び/又は下フィルム(III)が、層(A)、層(B)、層(C)をこの順に積層してなる積層体(X)を含むフィルム」であって、「層(A):エチレン・α-オレフィン共重合体(a1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(a2)0?100重量%[ただし、(a1)及び(a2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層
層(B):環状オレフィン系樹脂(b1)10?90重量%、エチレン・α-オレフィン共重合体(b2)10?90重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(b3)0?30重量%[ただし、(b1)、(b2)及び(b3)の合計量を100重量%とする。]を含有する混合樹脂層
層(C):エチレン・α-オレフィン共重合体(c1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(c2)0?100重量%[ただし、(c1)及び(c2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層」であるのに対し、引用発明1は構成要素のフィルムがそのような積層体を含まない点。
【相違点2】
本願発明1は「バックフィルム(I)、セル層フィルム(II)、下フィルム(III)及びトップフィルム(IV)のうち少なくとも一つが、積層体(X)を含まず、かつ、積層体(X)を含まない前記フィルムが、ポリエチレン樹脂フィルム」であるのに対し、引用発明1は構成要素のフィルムがポリエチレン樹脂フィルムと特定されていない点。

イ 各相違点について検討する。
まず、前記相違点1について検討する。引用文献3には、前記第4の3(6)で示したとおり、次の技術事項が記載されている。
「外層(A):エチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ブテン-1共重合体)からなる層
中間層(B):環状オレフィン系樹脂(COC)60?85重量%及び残部がエチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ブテン-1共重合体)からなる層
内層(C):エチレン・α-オレフィン共重合体(エチレン・ヘキセン-1
共重合体)からなる層
をこの順に積層してなる易引裂性多層フィルム。」
ここで、引用文献3に記載された前記技術事項の「外層(A)」、「中間層(B)」、「内層(C)」の構成は、前記相違点1に係る本願発明1の「層(A)」、「層(B)」、「層(C)」の構成にそれぞれ相当する。そこで、引用発明1において、バックフィルムとして引用文献3に記載された易引裂性多層フィルムを適用し、前記相違点1に係る本願発明1の構成とすることが容易かどうか検討する。
引用文献3に記載された前記易引裂性多層フィルムは、当該多層フィルムがそのまま包装材のフィルムとして用いられるものであって、【0050】の「中間層(B)が20%より薄いと、十分な易引裂性が得られないので好ましくない。一方、70%より厚いと、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。」等の記載からみて、中間層(B)が易引裂性の向上に寄与する層であり、これにより多層フィルム全体の易引裂性を向上させている。そして、引用発明1も、積層される層(フィルム)の一つであるバックフィルムを裂けやすいフィルムとすることで、プラスチック気泡シート全体を引き裂き易くするものであるから、この点で両者は共通の作用を有する。
してみると、当業者が引用発明1において引用文献3に記載された技術事項を組み合わせようとした場合には、前記の作用の共通性に着目すると、引用文献3の中間層(B)を引用発明1のバックフィルムとして適用し、これによりプラスチック気泡シート全体を引き裂き易いものとすることは想到し得るとしても、引用文献3の外層(A)や内層(C)と積層した多層フィルム全体をバックフィルムとする動機づけはない。
また、引用文献4にも、前記相違点1に係る本願発明1の構成について記載も示唆もない。
これに対し、本願発明1では、前記相違点1に係る構成のとおり、バックフィルム(I)及び/又は下フィルム(III)を層(A)、層(B)、層(C)をこの順に積層してなる積層体(X)を含むフィルムとし、これをセル層フィルム(II)等と積層することにより、易引裂性気泡緩衝材を構成するフィルム間で十分な融着が得られ、容易に手で引き裂くことができるという格別の効果を奏する。
そうすると、引用発明1及び引用文献3、4の記載事項から前記相違点1に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献3、4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)引用発明2を主引用発明とする拒絶理由
ア 本願発明1と、引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「多数のエァセルラー21が形成されたキャップフィルム2」は、その機能及び構成からみて、本願発明1の「複数の突起が形成されたセル層フィルム(II)」に相当し、以下同様に、「片面にキャップフィルムを熱融着されたベース側のフィルム1」は「セル層フィルム(II)の底面側に積層されたバックフィルム(I)」に、「横裂き容易なエァセルラー緩衝シート」は「易引裂性気泡緩衝材」にそれぞれ相当する。
(イ)本願発明1の「易引裂性気泡緩衝材」が、「任意に、バックフィルム(I)の下側に積層された下フィルム(III)及びセル層フィルム(II)の頂側に積層されたトップフィルム(IV)の少なくとも一つと、を有してなる」ことについて、当該事項を備えるかどうかを「任意に」としていることから、本願発明1と引用発明2とは、セル層フィルム(II)(キャップフィルム2)及びバックフィルム(I)(ベース側のフィルム1)を備えるという限りにおいて一致する。
(ウ)技術常識や製造方法を考慮すれば、引用発明2の「キャップフィルム2」と「ベース側のフィルム1」とは融着されてなるものと認められるところ、この点を本願発明1の「該積層体(X)を含むフィルムが、該ポリエチレン樹脂フィルムと融着されてなる」点と対比すると、易引裂性気泡緩衝材を構成するフィルム同士が融着されてなるという限りにおいて一致する。
(エ)以上のことから、本願発明1と引用発明2とは、以下の点で一致するとともに、相違点3及び4で相違する。
【一致点】
「複数の突起が形成されたセル層フィルム(II)と、セル層フィルム(II)の底面側に積層されたバックフィルム(I)とを有してなる易引裂性気泡緩衝材であって、
易引裂性気泡緩衝材を構成するフィルム同士が融着されてなる易引裂性気泡緩衝材」である点。
【相違点3】
本願発明1は「バックフィルム(I)及び/又は下フィルム(III)が、層(A)、層(B)、層(C)をこの順に積層してなる積層体(X)を含むフィルム」であって、「層(A):エチレン・α-オレフィン共重合体(a1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(a2)0?100重量%[ただし、(a1)及び(a2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層
層(B):環状オレフィン系樹脂(b1)10?90重量%、エチレン・α-オレフィン共重合体(b2)10?90重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(b3)0?30重量%[ただし、(b1)、(b2)及び(b3)の合計量を100重量%とする。]を含有する混合樹脂層
層(C):エチレン・α-オレフィン共重合体(c1)0?100重量%及び高圧法低密度ポリエチレン(c2)0?100重量%[ただし、(c1)及び(c2)の合計量を100重量%とする。]を含有するポリオレフィン系樹脂層」であるのに対し、引用発明2は構成要素のフィルムがそのような積層体を含まない点。
【相違点4】
本願発明1は「バックフィルム(I)、セル層フィルム(II)、下フィルム(III)及びトップフィルム(IV)のうち少なくとも一つが、積層体(X)を含まず、かつ、積層体(X)を含まない前記フィルムが、ポリエチレン樹脂フィルム」であるのに対し、引用発明2は構成要素のフィルムがポリエチレン樹脂フィルムと特定されていない点。

イ 各相違点について検討する。
本願発明1と引用発明2との前記一致点及び相違点3、4は、実質的に本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点1、2に等しい。したがって、前記(1)イに示したものと同様の理由により、本願発明1は、引用発明2及び引用文献3、4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?11
本願発明2?11は、直接又は間接の引用により本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定事項を付加したものである。したがって、本願発明1が前記1に記載のとおり引用発明1又は2、及び引用文献3、4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本願発明2?11も、引用発明1又は2、及び引用文献3、4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
前記第5のとおり、本願発明1?11は、引用発明1又は2、及び引用文献3、4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-11 
出願番号 特願2014-91449(P2014-91449)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 西尾 元宏
石井 孝明
発明の名称 易引裂性気泡緩衝材  
代理人 今藤 敏和  
代理人 金山 賢教  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 坪倉 道明  
代理人 青木 孝博  
代理人 安藤 健司  
代理人 安藤 健司  
代理人 市川 英彦  
代理人 重森 一輝  
代理人 城山 康文  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 青木 孝博  
代理人 重森 一輝  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 城山 康文  
代理人 坪倉 道明  
代理人 今藤 敏和  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 市川 英彦  
代理人 小野 誠  

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