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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K |
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管理番号 | 1354781 |
審判番号 | 不服2018-7196 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-28 |
確定日 | 2019-09-24 |
事件の表示 | 特願2015-534752「アポイクオリンを含有する組成物に基づく多発性硬化症の症状を軽減する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日国際公開、WO2014/052807、平成27年11月 9日国内公表、特表2015-532288、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年9月27日(パリ条約による優先権主張 2012年9月27日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月31日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年12月4日付けで手続補正がされ、平成30年1月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成31年1月15日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年4月16日付けで手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年1月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 [理由2] 本願請求項14-16に係る発明は、以下の引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 [理由3] 本願請求項1-16に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1."Quincy Bioscience Puts Hope in Walk for Multiple Sclerosis",[online], 2011,PRWeb,[平成29年5月31日検索], インターネット<URL:http://www.prweb.com/pdfdownload/8362474.pdf> 2.特表2011-513496号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成31年4月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 40mg?80mgのアポイクオリン、および担体を含む多発性硬化症治療用経口投与組成物。 【請求項2】 多発性硬化症に伴う痛みを改善する請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 対象における多発性硬化症に伴う症状を軽減させる医薬組成物の製造のためのアポイクオリンの使用であって、前記医薬組成物が40mg?80mgのアポイクオリンおよび担体を含む経口投与形態として製剤化される、使用。 【請求項4】 前記医薬品組成物が、アポイクオリンを40mg含む請求項3に記載の使用。」 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献の記載 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(引用文献1は英語のため、当審による日本語訳文にて記す。)。 ア 記載事項1-1(2段落3?4行) 「マディソンにあるバイオテクノロジー企業であるクインシー バイオサイエンス社は、MS HOPE試験と呼ばれる革新的な研究への参加者を募集し、該研究への意識を高める。」 イ 記載事項1-2(3段落) 「この研究では、MS(多発性硬化症)患者に、自宅にいながら登録して参加する機会を提供する。採血と診療所訪問を必要とする従来の試験とは異なり、MS HOPE試験は、認知、気分、睡眠、活力などの生活の質を評価する、インターネットベースの有効な患者評価調査を提供する遠隔研究である。」 ウ 記載事項1-3(4?6段落) 「この研究は6か月間続き、サプリメントの恩恵を享受している人々は、選択すれば、1年間継続することができる。この研究のサプリメントはアポイクオリンを含み、他の薬、ビタミン及びサプリメントと併用しても差し支えない。 アポイクオリンはクラゲに由来するタンパク質であり、神経細胞中で過剰カルシウムに結合する能力により神経保護作用があることが証明されている。適切な細胞機能にはカルシウムが必要であるが、カルシウム濃度は細胞の健康のために厳密に制御されなければならない。ヒトでの研究において、アポイクオリンは、40歳以上の健常人の認知機能を改善することが証明されている。 クインシー バイオサイエンス社のスタッフは、MS HOPE試験の重要な採用情報を発表し、配布する。MSの支持者は、クインシー バイオサイエンス社のブースに立ち寄って、MS Hope試験について学び、クラゲのタンパク質であるアポイクオリンがMS患者の生活の質をどのように改善するかについて知ることができる。」 エ 記載事項1-4(8段落) 「この研究に参加を希望するMS患者は、www.mshopetrials.orgにアクセスして、詳細を確認するか、参加申請することができる。」 オ 記載事項1-5(9段落) 「クインシー バイオサイエンス社について クインシー バイオサイエンス社は、ウィスコンシン州マディソンに拠点を置くバイオテクノロジー企業である。クインシー バイオサイエンス社は、老化プロセスに対抗するための新規化合物の発見、開発、商品化に注力している。同社の製品は、神経変性疾患及び他の破壊的加齢関連メカニズムに関連するカルシウムバランスの回復に焦点を当てている。クインシー バイオサイエンス社は、クラゲタンパク質アポイクオリンの健康補助食品を開発した。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。 ア 記載事項2-1 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための組成物において、 (a)有効量のアポイクオリンと、 (b)許容キャリアと、 を含むことを特徴とするカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための組成物。 ・・・ 【請求項5】 カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法において、そのような治療を必要とする対象に有効量のアポイクオリンを投与することを特徴とするカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項6】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、睡眠に関連し、そして、 前記対象にアポイクオリンを投与することにより該対象の睡眠の質を改善する ことを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項7】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、活力に関連し、そして、 前記対象にアポイクオリンを投与することにより該対象の活力の質を改善する ことを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項8】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、心的状態に関連し、そして、 前記対象にアポイクオリンを投与することにより該対象の心的状態の質を改善する ことを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項9】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、痛みに関連し、そして、 前記対象にアポイクオリンを投与することにより該対象の痛みを和らげる ことを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項10】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、記憶力に関連し、そして、 前記対象にアポイクオリンを投与することにより該対象の記憶力の質を改善する ことを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 【請求項11】 前記カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患が、神経細胞の興奮性、筋肉収縮、膜透過性、細胞分裂、ホルモン分泌、骨石灰化、又は虚血による細胞死に関連することを特徴とする請求項5に記載のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための方法。 ・・・ 【請求項16】 対象内のカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患の治療に使用されるアポイクオリン。 【請求項17】 対象の、睡眠、活力、心的状態、痛み、又は記憶力に関連する症状又は疾患の治療に使用されるアポイクオリン。」 イ 記載事項2-2 「【0005】 体が必要とされる生理的過程を実行するためにはカルシウムイオンが特定の濃度であることが要求されることから、カルシウムの恒常性を維持することは体の健康にとって非常に重要である。医学界では、神経細胞の興奮性、筋肉収縮、膜透過性、細胞分裂、ホルモンの分泌、及び骨石灰化、しかしこれらに限定されない、を含む身体機能において、血漿及び体液中の適切なカルシウムイオン濃度が非常に重要であると考えられている。カルシウムの恒常性の崩壊、即ちカルシウムの不均衡は、癌、心臓病、及び神経変性病、しかしこれらに限定されない、を含む様々な病気、症状及び状態に関連する。」 ウ 記載事項2-3 「【0022】 アポイクオリンは、分子量約22kDaを有する。アポイクオリンは、アポイクオリン中のジスルフィド結合を減少させることによってイクオリンを再生させるために使用される。カルシウム担持アポイクオリンは、結合基質を含有する未反応蛍光タンパク質と同様のコンパクトな骨組み及び全体にわたる折りたたみパターンを保有する。」 エ 記載事項2-4 「【0024】 本発明は、対象内のカルシウムの均衡を補正又は維持するために該対象にアポイクオリン含有組成物を投与することを目的とする。血漿及び体液中のカルシウムイオン濃度は、神経細胞の興奮性、筋肉収縮、膜透過性、細胞分裂、ホルモンの分泌、骨石灰化、しかしこれらに限定されない、を含む様々な身体機能、又は虚血による細胞死の予防において、非常に重要であると考えられている。カルシウムの恒常性の崩壊、即ちカルシウムの不均衡が、様々な病気、症状、及び状態の原因となる及び/又はそれらと相互関係を示すと考えられる。そのような病気、症状、及び状態は、睡眠の質、活力の質、心的状態の質、記憶力の質、及び痛覚に関連するものを含む。CaBPsの研究により、これらが適切なカルシウムイオンのレベルの維持に作用する保護因子として認識された。 【0025】 特定の実施形態においては、本発明の方法は、カルシウムの不均衡を治療するため、カルシウムの不均衡の進行を遅らせるため、カルシウムの不均衡の発症を予防するため、並びにカルシウムの不均衡の再発を防止及び/又は治療するために、唯一の有効成分としてのアポイクオリンを投与することを含む。別の実施形態においては、本発明は、アポイクオリンを、周知の治療的又は栄養学的価値を有する一又は複数の付加的な作用物質と併用して投与することを含む方法を提供する。アポイクオリンの特に好ましい応用は、睡眠、活力、心的状態、記憶力の質、及び痛覚に関連する一又は複数の症状及び疾患の治療における応用である。」 オ 記載事項2-5 「【0027】 ・・・本明細書で等価なものとして用いられる「患者」又は「対象」は、(1)アポイクオリンの投与により治癒もしくは治療可能な、カルシウムの不均衡に関連する疾患を有するもの、又は、(2)アポイクオリンの投与により予防可能な、カルシウムの不均衡に関連する疾患の影響を受けやすいとされるもの、うちの、何れかに該当する哺乳類、好ましくは人間をさす。」 カ 記載事項2-6 「【0029】 対象への経口投与のための特定の好ましい組成物においては、アポイクオリンが少なくとも一つの許容キャリアと共に、約10mg/回の用量で、好ましくはカプセルの形で、対象への推奨用量約10mg/日で(即ち一日一カプセル)、処方される。」 キ 記載事項2-7 「【0058】 例 例1. 九十(90)日間にわたりアポイクオリンを投与した結果、テスト対象の生活の質に改善がみられた。 【0059】 32人の患者に対する90日間にわたる非盲検法による本分析によって、睡眠、活力、心的状態、痛み、及び全体的な健康の総合的な質が改善したことがわかった。能力の変化は、標準化された一連の質問を用いて評価された。これらの、定性的認識力試験の評価には、睡眠指標、頭痛指標、及び生活の質に関するアンケートが含まれる。調査の結果から能力の改善が示された。有害事象が原因で調査を中断した患者はいなかった。 【0060】 図1に示された結果は、表記の領域におけるスコアの、基準値からの変化率を示す。別のグラフに示される記憶力に関するスコアは除外した。この分析は、0日目から90日目に対して1、2、3、4、5とグラフに記されて、示されている。このグラフは、睡眠、活力、心的状態、痛み、及び全体的な健康の総合的な質が改善したことを示す。基準値は事前調査段階からわかっている。 【0061】 例2. 三十(30)日間にわたりアポイクオリンを投与した結果、テスト対象の生活の質に改善がみられた。 【0062】 本調査は、56人の患者に対する30日間にわたる非盲検法である。能力の変化は、記憶力スクリーニング手段を用いて評価された。図2に示されるとおり、早くも8日で記憶能力の改善が示され、30日目で統計学的により顕著な改善が示された。有害事象が原因で調査を中断した患者はいなかった。 【0063】 例3. 九十(90)日間にわたりアポイクオリンを投与した結果、テスト対象の認識力に改善がみられた。 【0064】 32人の患者に対する90日間にわたる非盲検法による本分析によって、認識力が改善したことがわかった。能力の変化は、標準化された認識力に関する一連の試験(battery)を用いて評価された。調査により、早くも8日で認識力の改善が示され、30日目、そして60?90日で、統計学的により顕著な改善が示された。有害事象が原因で調査を中断した患者はいなかった。図3に示される結果は、認識力において、スコアの基準値からの顕著な増加率を明示している。注意:患者の51%越において認識力が増加した。」 2.引用文献1に記載された発明 引用文献1の記載事項1-1?1-5、特に記載事項1-2?1-3からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。 「アポイクオリンを含むサプリメントであって、多発性硬化症患者に及ぼす認知、気分、睡眠、活力などの生活の質を評価する試験に供するためのサプリメント。」(以下、「引用発明」という。) 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 引用文献1には、「クインシー バイオサイエンス社は、クラゲタンパク質アポイクオリンの健康補助食品を開発した。」と記載されていることから(記載事項1-5)、引用発明の「サプリメント」は多発性硬化症患者に経口投与されるものであると認められる。また、引用発明は「サプリメント」であるから、アポイクオリンに加えて何らかの「担体」を含んでいるものといえる。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「アポイクオリン、および担体を含む経口投与組成物。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は「40mg?80mg」のアポイクオリンを含むのに対し、引用発明はアポイクオリンの含有量が特定されていない点。 (相違点2)本願発明1は「多発性硬化症治療用」であるのに対し、引用発明は「多発性硬化症患者に及ぼす認知、気分、睡眠、活力などの生活の質を評価する試験に供するための」ものである点。 (2) 判断 ア 相違点について 相違点1及び2について検討する。 引用文献1には、アポイクオリンを含むサプリメントを用いて、多発性硬化症の患者を対象に、認知、気分、睡眠、活力などの生活の質を評価するための試験をこれから行う予定であることは確かに記載されている(記載事項1-1?1-4)。 しかしながら、引用文献1には、実際に、アポイクオリンを多発性硬化症患者に経口投与した際の治療効果、すなわち、認知、気分、睡眠、活力などの生活の質が改善したことを示す具体的な試験結果については何ら記載されておらず、このような記載から、特定量のアポイクオリンを多発性硬化症の治療に用いることを当業者は容易に想到し得ないと解される。また、引用文献1には、「アポイクオリンはクラゲに由来するタンパク質であり、神経細胞中で過剰カルシウムに結合する能力により神経保護作用があることが証明されている。」との記載があるが(記載事項1-3)、神経細胞中で過剰カルシウムに結合する能力がある物質であれば、多発性硬化症患者に対する治療効果を奏するものである、との技術常識が本願優先日前に存在したものとも認められない。 加えて、引用文献2には、アポイクオリンを含むカルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患を治療するための組成物が記載されており(記載事項2-1の請求項1、5、16)、当該カルシウムの不均衡に関連する症状又は疾患は、睡眠、活力、心的状態、痛み、又は記憶力に、あるいは、神経細胞の興奮性、筋肉収縮、膜透過性、細胞分裂、ホルモン分泌、骨石灰化、又は虚血による細胞死に関連するものであることが記載され(記載事項2-1の請求項6?11、17、記載事項2-4)、「カルシウムの恒常性の崩壊、即ちカルシウムの不均衡は、癌、心臓病、及び神経変性病、しかしこれらに限定されない、を含む様々な病気、症状及び状態に関連する。」と記載されている(記載事項2-2)。しかしながら、引用文献2には、カルシウムの不均衡と多発性硬化症との関係性は記載されていないし、アポイクオリンが多発性硬化症の治療に有効であることも何ら記載されていない。また、引用文献2には、患者に約10mg/日用量でアポイクオリンを投与した結果、生活の質、記憶能力及び認識力に改善がみられたことが記載されているが(記載事項2-6?2-7)、当該患者がいかなる患者であるかについての具体的な記載はなく、記載事項2-5を参照しても、当該患者が多発性硬化症の患者であるとは認められない。 したがって、引用文献1?2の記載事項を考慮しても、引用発明において、特定量のアポイクオリンを多発性硬化症治療に用いることができると、当業者が容易に想到し得なかったと解される。 イ 効果について 本願明細書及び図面には、再発寛解型多発性硬化症や二次進行型多発性硬化症患者に対し、1日40mgのアポイクオリン、あるいはプラセボを経口投与し、その影響を「多発性硬化症インパクトスケール(MSIS)」、「改変疲労インパクトスケール(MFIS)」あるいは「多発性硬化症における生活の質(MSQOL)」により評価したところ、実際に、アポイクオリン投与群は多発性硬化症に統計的に有意な効果を示したことが記載されている(【0024】?【0035】、図1?23)。 一方、引用文献1及び2には、アポイクオリンを含む経口投与組成物を多発性硬化症患者に投与することによって、当該患者に対して効果を発揮することについて具体的な記載はない。 したがって、本願発明1は、引用文献1?2の記載からは当業者が予測し得ない効果を奏するものである。 (3)小括 よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献1?2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2について 本願発明2は、本願発明1において「多発性硬化症に伴う痛みを改善する」ことを更に特定するものであって、本願発明1の発明特定事項の全てを具備するものである。 したがって、本願発明1について説示したのと同様の理由から、本願発明2は、引用発明及び引用文献1?2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 3.本願発明3、4について 本願発明3、4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「多発性硬化症治療用」に対応する構成である「対象における多発性硬化症に伴う症状を軽減させる医薬組成物の製造のための」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 1 [理由2]特許法第29条第1項第3号について 原査定時の請求項14-16は削除された。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。 2 [理由3]特許法第29条第2項について 上記第5で説示したとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明及び引用文献1?2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由3を維持することはできない。 第7 当審拒絶理由について 当審では、本願の発明の詳細な説明の記載からは、アポイクオリンが多発性硬化症に伴う症状の中でも特に「睡眠」、「気力の質」、「気分の質」及び「記憶の質」に関連する症状に対して改善効果を示したことまでは理解できないから、平成31年4月16日付け手続補正前の請求項2?4、6?10及び13に係る発明は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定される要件を満たさないとの拒絶理由を通知しているが、同手続補正により当該請求項は削除されたので、これらの拒絶理由は解消した。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審が通知した理由によって本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-10 |
出願番号 | 特願2015-534752(P2015-534752) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(A61K)
P 1 8・ 121- WY (A61K) P 1 8・ 536- WY (A61K) P 1 8・ 113- WY (A61K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 茅根 文子 |
特許庁審判長 |
田村 聖子 |
特許庁審判官 |
吉田 知美 岡崎 美穂 |
発明の名称 | アポイクオリンを含有する組成物に基づく多発性硬化症の症状を軽減する方法 |
代理人 | 福田 康弘 |
代理人 | 津田 俊明 |
代理人 | 瀧野 文雄 |