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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1354847
審判番号 不服2018-7033  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-23 
確定日 2019-09-04 
事件の表示 特願2016-201925「静電塗装用プラスチック基材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日出願公開、特開2017- 74776〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年10月13日(パリ条約による優先権主張2015年10月14日、韓国)を出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

平成29年 9月28日付け:拒絶理由通知
平成30年 1月 4日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 1月15日付け:拒絶査定
平成30年 5月23日 :審判請求


第2 本願発明

本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年1月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「(a)カーボンナノチューブ粉末を成形し、カーボンナノチューブペレットを製造する段階と;
(b)前記カーボンナノチューブペレット0.1?10重量%、カーボンブラック0.1?20重量%、及び熱可塑性高分子樹脂70?93.5重量%を混合し、伝導性樹脂組成物を製造する段階と;
(c)前記伝導性樹脂組成物を成形する段階と;
を含み、
前記段階(b)において混合される前記カーボンナノチューブペレットと前記カーボンブラックとの重量比が1.5:5?10である、静電塗装用プラスチック基材の製造方法。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1.特表2009-521535号公報
引用文献2.特表2015-509474号公報


第4 引用文献の記載

1.引用文献1の記載
引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。引用文献2についても同様。)

(1)
「【請求項1】
少なくとも1種のポリマー、およびカーボンナノチューブを含むポリマー組成物。」

(2)
「【請求項15】
物品の少なくとも一部を静電塗装によって被覆することを含む物品の静電塗装方法であって、該物品が請求項1記載のポリマー組成物を含み、該ポリマーが導電性ポリマーである方法。」

(3)
「【請求項17】
請求項1記載のポリマー組成物を含む物品。」

(4)
「【0052】
本発明の組成物中に存在するナノチューブの量は、通常、組成物全体が意図した目的に対して有用である限り如何なる量が用いられてもよい。厳密に例示としてだけではあるが、組成物中に存在することのできるカーボンナノチューブの量は、組成物全体の約0.1質量%から約60質量%の範囲またはそれ以上であることができる。組成物中に存在することのできるより好ましい量は、約0.25質量%から約25質量%の範囲である。用いることができる他の質量パーセント範囲は、組成物の質量を基準として2質量%から20質量%の範囲を含んでいる。本発明のポリマー組成物中には意図した目的の用途に効果的な如何なる量のカーボンナノチューブも用いることが可能であるが、通常、質量基準でポリマー100部に対して、約0.1部から約300部の範囲の量のカーボンナノチューブを用いることができる。しかしながら、ポリマーの100質量部に対して約0.5質量部から100質量部のカーボンナノチューブの量を用いることが好ましく、そしてポリマーの100質量部に対して約0.5質量部から80質量部のカーボンナノチューブの量の使用がより好ましい。好ましくは、カーボンナノチューブは組成物を通して均一に分布していることが好ましいが、しかしながら任意には、カーボンナノチューブの濃度は組成物中のさまざまな位置で異なっていてもよい。」

(5)
「【0069】
1つの実施態様では、組成物はエチレン含有ポリマーまたはエラストマーであり、例えば、ポリエチレンまたはエチレン共重合体、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ビニルアセテート(EVA)、および/またはエチレンエチルアクリレート(EEA)であるが、これらに限定されない。」

(6)
「【0091】
本発明は更に物品を静電塗装する方法、さらに結果として得られる塗装された物品に関する。この方法は、自動車用物品などの物品の表面に塗料を静電気的に塗工する方法を含んでおり、その物品は本発明の導電性ポリマー組成物から形成されている。上記の燃料システムおよび静電気散逸保護でのように、静電気塗装される物品の調製に用いられるのはいくつかのポリマーが好ましい。これらのポリマーの例は、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、プロピレンの共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(EPDMなど)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA6、PA66、PA11、PA12およびPA46などのPA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)およびポリフェニレンエーテル(PPE)を含んでいる。好ましいポリマー混合物は、PC/ABS、PC/PBT、PP/EPDM、PP/EPR、PP/PE、PA/PPOおよびPPO/PEを含むが、これらに限定されない。導電性ポリマー組成物は、導電性、表面平滑性、塗料接着性、強靭性、剛性および引張特性を含む所望の全体的な特性を得るように最適化することができる。」

(7)
「【0113】
例1
配合した装置は高剪断内部混合機Haake Rheocord 90であり、2つの異方向回転のブラベンダー形ブレードを備えた混合チャンバーを備えていた。それぞれのコンパウンドについて、以下の方法を用いた。最初にペレット状のポリマーを混合チャンバー中に導入した。操作温度および2つの異方法回転ブレードの作用の下に材料が溶融すると直ぐに、カーボンブラック(Vulcan XC-500(登録商標)カーボンブラック)またはThin Crude Multi-Wall Carbon Nanochu-Bu(MWNT)を混合チャンバー中に導入した。
【0114】
混合サイクル(40rpmで1分間、40rpmから200rpmへ3分間で、200rpmで2分間)が終了したら、コンパウンドを混合機から回収し、そしてMylarシートの2枚のシートの間で、水圧プレスで押圧して平らにした。次いで、充てん剤の良好な分散と均一なコンパウンドを確実にするための第二の混合サイクルを実施するために、材料を小片に切断した。
【0115】
いくつかのコンパウンドを異なる担持量(質量%)で作製した。
カーボンブラックについては:35、30、25、20、17.5、15、12.5、10%
MWNTについては:10、5、2.5、1、0.75%
カーボンブラック/MWNT混合比率は10/1;公称MFIが190℃、2.16kgで6g/10分であるBorealisのEEA LE5861中に、19.8、17.6、15.4、13.2、11.0、8.8%。」

(8)
「【0131】
導電性
導電性を測定するために、コンパウンドを用いて圧縮成形したプラークを調製した。圧縮成形したプラークは16×16cmの大きさで、1mmの厚さであった。それらは次の圧縮成形プログラムを用いて調製した。
1)180℃で、90kNの圧の下に2分間
2)180℃で、180kNの圧の下に3分間
3)180℃で、270kNの圧の下に3分間
4)2枚の水冷板の間で90kNの圧の下に2分間冷却
【0132】
次いで、表面抵抗率用のCabot Test Method E042Aによって表面抵抗率を測定するためにそれぞれのプラークを用いた。得られた複合材の導電性を、成形したプラークから101.6mm×6.35mm×1.8mmの細片を切り出して測定したが、接触抵抗を取り除くために、細片に沿って50mm離れた電極を作るためにコロイド状の銀塗料を用いた。細片の電気抵抗を測定するのに、フルーク(Fluke) 75シリーズIIデジタルマルチメータもしくはケースレー(Keithley) マルチメータおよび2点法を用いた。

(9)
「【0134】
考察
表5にデータをまとめた。
【0135】
【表5】

【0136】
内部混合機コンパウンド技術が、カーボンブラック充てんポリマーおよびMWNT充てんポリマーの両方で、導電性充てん剤含量に関して、良好な精度を可能にした。等しい担持量では、MWNT充てんコンパウンドの粘度は、VXC-500カーボンブラックを充てんしたものの粘度よりもずっと大きかった。同じ導電性でもまた、MWNTベースのコンパウンドは、より粘度が高かった。MWNT充てんコンパウンドのパーコレーション閾値は、VXC-500カーボンブラック充てんコンパウンドよりも約6倍低かった。このことは、本試験で評価したナノチューブのタイプが、純度が約80%であって最良のものではなく、そしてそれは多層であって、単層ではないので、興味深い結果である。後者は導電性においてより効率的であるといわれている。ナノチューブは、カーボンブラック集合体間に電気的経路を作り出す「橋」として作用することができる。」

2.引用文献2の記載
引用文献2には、次の事項が記載されている。

(1)
「【請求項1】
溶媒や添加剤を含んでおらず、ペレットの直径2?6mm、厚さ1?6mm、見かけ密度0.05?0.60g/mL、前記ペレットの製造に用いられたカーボンナノ素材粉末の安息角が10°?70°であるカーボンナノ素材のペレット。
【請求項2】
カーボンナノ素材は、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、グラフェン、及びグラファイトナノプレートから選択された何れか1つまたは2つ以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ素材のペレット。
【請求項3】
カーボンナノ素材粉末を、溶媒や添加剤に混合することなく、ロータリー打錠機に注入して圧力を加えてペレット直径2?6mm、厚さ1?6mm、見かけ密度0.05?0.60g/mLを有するペレットの形態に成形し、
前記カーボンナノ素材粉末は、平均粒径0.05?100μm、見かけ密度0.01?0.20g/mL、及び安息角10°?70°であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ素材のペレットの製造方法。」

(2)
「【0001】
本発明は、カーボンナノ素材のペレットとその製造方法に関するもので、より詳細には、カーボンナノ素材粉末を、溶媒や添加剤に混合することなく、ロータリー打錠機だけを用いて所定の大きさと高い見かけ密度を有するペレットを製造することで、簡単な製造工程で既存のカーボンナノ素材を粉末として高分子複合素材への適用時に生じる粉末の飛散問題を解決し、適用による物性の改善と包装費及び物流費を画期的に低減できるナノ素材のペレットと、カーボンナノ素材粉末からペレットを製造する方法に関する。」

(3)
「【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点、すなわちカーボンナノ素材粉末を固形化する過程中に添加される金属及び樹脂または分散剤の残留によって、高分子複合素材に利用する場合、所望しない添加物が入ってカーボンナノ素材の優れた物性が低下する問題と、カーボンナノ素材粉末の低い見かけ密度による飛散問題及びそれによる人体有害性問題、そして高分子ペレットと共に押出機に投入する時、カーボンナノ素材粉末と高分子ペレットの大きな密度差による層分離現象などを解決するために絶えず研究に努めた結果、カーボンナノ素材を所定の条件でペレット化すると、簡単な工程でこのような従来の深刻な問題を解決できるということを見出して本発明を完成した。
したがって、本発明は、上記問題を解決するために、溶媒や添加剤を含有することなく、包装及び物流条件に優れた所定の大きさと高い見かけ密度を有するカーボンナノ素材のペレットを提供することに目的がある。
また、本発明は、高分子複合素材に適用する場合、カーボンナノ素材粉末の固有物性がそのまま保たれるため、カーボンナノ素材の活用性を極大化できる炭素素材ペレットを提供することに目的がある。
また、本発明は、カーボンナノ素材粉末を簡単で経済的な工程でペレッと化するカーボンナノ素材のペレットの製造方法を提供することに目的がある。
また、本発明は、カーボンナノ素材粉末を、溶媒や添加剤に添加することなく、ペレッと化する方法を提供することに目的がある。」


第5 引用文献1に記載された発明の認定

(1)引用文献1の請求項1には、「少なくとも1種のポリマー、およびカーボンナノチューブを含むポリマー組成物」が記載されており、請求項17には、「請求項1記載のポリマー組成物を含む物品」が記載されている。

(2)また、段落【0113】には、ポリマー組成物を含む物品の製造例として、「ペレット状のポリマーを混合チャンバー中に導入した。操作温度および2つの異方法回転ブレードの作用の下に材料が溶融すると直ぐに、カーボンブラック(Vulcan XC-500(登録商標)カーボンブラック)またはThin Crude Multi-Wall Carbon Nanochu-Bu(MWNT)を混合チャンバー中に導入した。」と、カーボンナノチューブまたはカーボンブラック、及びポリマーを混合したことが記載され、さらに、段落【0114】には、「混合サイクル(40rpmで1分間、40rpmから200rpmへ3分間で、200rpmで2分間)が終了したら、コンパウンドを混合機から回収し、そしてMylarシートの2枚のシートの間で、水圧プレスで押圧して平らにした。」と、混合したポリマー組成物を水圧プレスを用いて成形した旨記載されている。さらに、表5には、ポリマー組成物の一例として「EEA+1.8質量%MWNT+18質量%CB」の例(段落【0069】より「EEA」はエチレンエチルアクリレート、段落【0113】より「MWNT」はカーボンナノチューブ、さらに、「CB]はカーボンブラックを意味する)が示されており、その表面抵抗率は1.6E+03(Ohm/sq)であったことが示されている。

(3)してみると、引用文献1には、
「(b)カーボンナノチューブ1.8質量%、カーボンブラック18質量%、及びエチレンエチルアクリレートを混合し、導電性ポリマー組成物を製造する段階と;
(c)前記導電性ポリマー組成物を成形する段階と;
を含み、
前記段階(b)において混合される前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの質量比が1.8:18である、導電性ポリマーを用いた物品の製造方法」
(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。


第6 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「エチレンエチルアクリレート」、「導電性ポリマー組成物」、「質量比」、「導電性ポリマーを用いた物品」は、それぞれ本願発明の「熱可塑性高分子樹脂」、「伝導性樹脂組成物」、「重量比」、「プラスチック基材」に相当するといえる。

(2)また、引用発明の導電性ポリマー組成物は、「カーボンナノチューブ1.8質量%、カーボンブラック18質量%、及びエチレンエチルアクリレートを混合」したものであるから、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、エチレンエチルアクリレートの混合割合はそれぞれ、1.8質量%、18質量%、90.2質量%となり、本願発明の伝導性樹脂組成物における、カーボンナノチューブペレットとして用いられる「カーボンナノチューブ」の割合が「0.1?10重量%」、「カーボンブラック」の割合が「0.1?20重量%」、「熱可塑性高分子樹脂」の割合が「70?93.5重量%」との条件を満たす。

(2)してみると、本願発明と引用発明は、
「(b)カーボンナノチューブ0.1?10重量%、カーボンブラック0.1?20重量%、及び熱可塑性高分子樹脂70?93.5重量%を混合し、伝導性樹脂組成物を製造する段階と;
(c)前記伝導性樹脂組成物を成形する段階と;
を含む、
プラスチック基材の製造方法。」

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
・本願発明は、「(a)カーボンナノチューブ粉末を成形し、カーボンナノチューブペレットを製造する段階」を経た「カーボンナノチューブペレット」を用いるのに対して、引用発明には、カーボンナノチューブペレットを製造する段階、及び当該製造する段階を経て得られたカーボンナノチューブペレットを用いるという特定がない点(以下、「相違点1」という。)

・本願発明は、カーボンナノチューブペレットとカーボンブラックとの重量比が「1.5:5?10」であるのに対して、引用発明では、カーボンナノチューブとカーボンブラックの質量比が「1.8:18」である点(以下、「相違点2」という。)

・本願発明は、プラスチック基材が「静電塗装用」であるのに対して、引用発明の物品には、用途についての特定がない点(以下、「相違点3」という。)

(3)上記相違点について検討する。

ア.まず、相違点1について検討する。
引用文献2の段落【0010】にも記載されているように、カーボンナノチューブは、「カーボンナノ素材粉末の低い見かけ密度による飛散問題及びそれによる人体有害性問題」を有するものであり、その取扱いには注意を要するものであることが、本願優先権主張日前において周知の課題として知られている。
そして、引用文献2の請求項3には、「カーボンナノ素材粉末を、溶媒や添加剤に混合することなく、ロータリー打錠機に注入して圧力を加えて・・・ペレットの形態に成形・・する請求項1に記載のカーボンナノ素材のペレットの製造方法。」が記載されており、請求項2には、カーボンナノ素材としてカーボンナノチューブがあげられること、段落【0010】には、ペレットとして成形することにより、「カーボンナノ素材粉末の低い見かけ密度による飛散問題及びそれによる人体有害性問題、そして高分子ペレットと共に押出機に投入する時、カーボンナノ素材粉末と高分子ペレットの大きな密度差による層分離現象などを解決する」ものであることが記載されている。
してみれば、引用発明において、カーボンナノチューブの取扱いを簡便にし、その取扱い上、人体への影響を考慮し、引用文献2に記載されているような、カーボンナノチューブ粉末をペレット状に成形する工程を採用し、得られたカーボンナノチューブペレットを用いるものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ.続いて、相違点2について検討する。
引用発明では、カーボンナノチューブとカーボンブラックの質量比は、1.8質量%:18質量%、つまり、1:10である。しかしながら、引用文献1の段落【0136】には、「ナノチューブはカーボンブラック集合体間に電気的経路を作り出す『橋』として作用することができる」と記載され、ナノチューブの添加量に関しては、段落【0052】に、「意図した目的の用途に効果的な如何なる量のカーボンナノチューブも用いることが可能である」ものであり、「組成物中に存在することのできるより好ましい量は、約0.25質量%から約25質量%の範囲である。用いることができる他の質量パーセント範囲は、組成物の質量を基準として2質量%から20質量%の範囲を含んでいる。」と、カーボンナノチューブの量を調整しうることも記載されている。してみると、電気経路を増やす、つまり、導電性を高めることを目的として、カーボンナノチューブの添加量を増やすことにより、カーボンナノチューブとカーボンブラックの質量比(重量比)として、本願発明のように、「1.5:5?10」の割合を満たすようなものとすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

ウ.次いで、相違点3について検討する。
引用文献1の請求項15や段落【0091】には、導電性ポリマー組成物を「静電塗装によって被覆することを含む物品」の材料として用いることが記載されている。してみると、引用発明の導電性ポリマー組成物を用いた物品の製造方法において、当該導電性ポリマー組成物を用いた物品を静電塗装用とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

エ.そして、本願発明について明細書全体を通じてみても、その効果は格別顕著なものとはいえない。

(4)したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の項において、次の点を主張している。

確認実験の結果を示しつつ、本願発明によれば、静電塗装用プラスチック基材の機械的物性(特に、IZOD衝撃強度)が大幅に向上するものであり、このような効果が奏されることについては、たとえ引用文献1?5の記載に接した当業者であっても合理的に予測することはできなかったものと考えられること。

上記主張点について検討する。
本願発明の「静電塗装用プラスチック基材の機械的物性(特に、IZOD衝撃強度)が大幅に向上する」との効果について、出願当初の明細書及び図面には、「静電塗装用プラスチック基材の物性が低下することを防止できる」(段落【0035】)などの記載はあるものの、IZOD衝撃強度についての言及はなく、また、全体を通じてみても、IZOD衝撃強度の向上などを具体的に示唆する記載もない。
つまり、当該主張は明細書の記載に基づくものではない。
したがって、当該主張を採用することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-29 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2016-201925(P2016-201925)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 渕野 留香
植前 充司
発明の名称 静電塗装用プラスチック基材の製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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