ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
---|---|
管理番号 | 1354850 |
審判番号 | 不服2018-11481 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-08-24 |
確定日 | 2019-09-04 |
事件の表示 | 特願2015-513229「プリントヘッドの制御」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日国際公開、WO2013/175024、平成27年 9月17日国内公表、特表2015-527213〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、2013年6月27日の国際出願であって、平成28年6月20日付けで手続補正書が提出され、平成29年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年11月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年4月16日付けで拒絶査定がなされ(同査定の謄本の送達日 同月24日)、これに対し同年8月24日付けで拒絶査定に対する審判請求及びこれと同時にする手続補正がなされ、さらに、当審において同年11月20日付けで拒絶理由が通知され、平成31年2月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本件出願の発明 本件出願の請求項1ないし19に係る発明は、上記の平成31年2月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 複数の重なり合うプリントヘッド(300A、300B)、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドを用いて印刷するための、1列に多くのピクセルを有する二次元ビットマップ化された画像を印刷する方法であって、そのプリントヘッドまたはそれぞれのプリントヘッドは、放出チャンネル(301)の列を有し、 それぞれの放出チャンネルは、関連する放出電極(7)を有し、複数の重なり合うプリントヘッド、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドの選択された放出チャンネルから印刷液滴として放出されるいくつかの所定容積のうちの1つの容積である帯電した粒状物の濃縮部が生じるように、この電極に対し、使用時に、印刷流体の本体内に作られる粒状物の濃縮部を生じるのに十分な電圧が加えられ、 それぞれの画像ピクセルのビット値によって決定されるようなそれぞれの所定の振幅および持続時間の電圧パルスが、選択された放出チャンネルの電極に加えられ、 それぞれの画像の列について、重なり合う放出チャンネル(301)によって印刷されるピクセルを作成するために、複数の重なり合うプリントヘッド、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドに加えられる電圧パルスの値が、プリントヘッド(300A、300B)の重なり合う領域内のピクセルの位置に依存して、また、ピクセルの所定の容積の大きさに依存して、それぞれのピクセルのための放出体積を可変的に調整可能となるように、可変的に調整され、 それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定の非線形フェーディング関数に基づいて、1回の放出で印刷する、 方法。」 第3 当審で通知した拒絶理由の概要 当審において平成30年11月20日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。 1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない 2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(サポート要件)について ・請求項 1ないし19 (1)(略) (2)請求項1及び11の「それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を1回の放出で印刷し、」との記載は、「重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッド」の場合にも、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を1回の放出で印刷する、すなわち、重なり合う領域においてプリントヘッドが印刷液滴を1回のみ放出することにより印刷することを意味すると解される。 一方、明細書の発明の詳細な説明には、段落【0020】に「プリントヘッドを1回通過させて印刷を行うか、互いに近くに配置された複数の(交互に配置された)プリントヘッドから必要なピクセルの印刷を行うかによらず、または、同じプリントヘッドまたは異なるプリントヘッドの複数回の通過からピクセルを印刷する場合に、同様の課題が生じ、同じ解決策を使用することができる。プリントヘッドは、複数回割り送られてもよい。」と記載されるとともに、段落【0040】に「変形例(図示せず)において、図5のようなたった1個のモジュールは、印刷物の必要な全体的な幅を生成するために、必要な数の帯状部分の印刷を与えるように、印刷物の移動方向を横切る方向に基材を複数回通過させるように割り送られる。この場合に、隣接する割り送られた位置の重なり合いは、ある帯状部分と別の帯状部分とのステッチングを可能にするために、図5のモジュール間の重なり合いと同様に与えられる。」と記載されている。そして、これらの記載によると、前者の「同じプリントヘッドまたは異なるプリントヘッドの複数回の通過からピクセルを印刷する場合」や後者の「1個のモジュールは……、印刷物の移動方向を横切る方向に基材を複数回通過させるように割り送られる」場合において、重なり合う領域が存在する場合には、プリントヘッド(モジュール)は重なり合う領域を複数回通過するから、通常の印刷の態様を踏まえると、明細書に記載のプリントヘッド(モジュール)は重なり合う領域を通過するごとに印刷液滴を放出するもの、すなわち、重なり合う領域を複数回通過すれば印刷液滴を複数回放出するものと認められる。 そうすると、明細書には、「重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッド」が「プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を1回の放出で印刷」することは記載されていない。 よって、請求項1及び11に係る発明、並びに、請求項1又は11を引用する請求項2ないし10及び12ないし19に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (3)(略) ●理由2(明確性)について (略) ●理由3(進歩性)について (略) ア.請求項1 (略) そうすると、本願発明1(審決注:本願発明)は、引用発明1及び2(審決注:引用文献1及び2に記載された発明)から当業者が容易に想到することができたものである。 (略) <引用文献等一覧> 1.特表2013-504462号公報 2.特開平4-361052号公報 第4 当審拒絶理由についての検討 1.サポート要件について 当審拒絶理由の「理由1(サポート要件)」の「(2)」について検討する。 上記「理由1(サポート要件)」の「(2)」で指摘した請求項1及び11の「それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を1回の放出で印刷し、」を含む部分の記載は、平成31年2月27日付けの手続補正書による手続補正によって「それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定の非線形フェーディング関数に基づいて、1回の放出で印刷する」(以下「補正後の記載」という。)と補正された。 当該補正後の記載は、依然として、「重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッド」の場合にも、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を1回の放出で印刷する、すなわち、重なり合う領域においてプリントヘッドが印刷液滴を1回のみ放出することにより印刷することを意味すると解される。 一方、明細書の発明の詳細な説明には、段落【0020】に「プリントヘッドを1回通過させて印刷を行うか、互いに近くに配置された複数の(交互に配置された)プリントヘッドから必要なピクセルの印刷を行うかによらず、または、同じプリントヘッドまたは異なるプリントヘッドの複数回の通過からピクセルを印刷する場合に、同様の課題が生じ、同じ解決策を使用することができる。プリントヘッドは、複数回割り送られてもよい。」と記載されるとともに、段落【0040】に「変形例(図示せず)において、図5のようなたった1個のモジュールは、印刷物の必要な全体的な幅を生成するために、必要な数の帯状部分の印刷を与えるように、印刷物の移動方向を横切る方向に基材を複数回通過させるように割り送られる。この場合に、隣接する割り送られた位置の重なり合いは、ある帯状部分と別の帯状部分とのステッチングを可能にするために、図5のモジュール間の重なり合いと同様に与えられる。」と記載されている。 そして、これらの記載によると、前者の記載の「同じプリントヘッドまたは異なるプリントヘッドの複数回の通過からピクセルを印刷する場合」や、後者の記載の「1個のモジュールは……、印刷物の移動方向を横切る方向に基材を複数回通過させるように割り送られる」場合には、プリントヘッド(モジュール)は重なり合う領域を複数回通過しており、重なり合う領域を通過するごとに印刷が行われる、すなわち印刷液滴を複数回放出するものと認められる。 そうすると、明細書に記載されたプリントヘッド(モジュール)は重なり合う領域において印刷液滴を複数回放出するものであって、明細書には「重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッド」が「プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与」を「1回の放出で印刷」することは記載されていない。 また、技術常識に鑑みても、上記明細書の記載に、これらの事項が可能であることを根拠づけるものはない。 よって、請求項1及び11に係る発明、並びに、請求項1又は11を引用する請求項2ないし10及び12ないし19に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 2.進歩性について 当審拒絶理由の「理由3(進歩性)」について検討する。 (1)引用例 ア.引用例1 当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特表2013-504462号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。 (ア)「【請求項1】 画像を形成するために、少なくとも2色のインク組成物を基材上に堆積させる工程、および、 前記基材に対して前記画像を固定する工程 を含み、 前記インクは、静電印刷ヘッドを用いて堆積され、 前記静電印刷ヘッドは、分散媒流体中に分散させた帯電可能なマーキング粒子を、印加電界を用いて、最初に濃縮し、その後に噴出させ、 前記画像の固定を行う前に、すべてのインク組成物を前記基材上に堆積させる、 基材上に画像を形成する方法。」 (イ)「【0031】 図1は、この従来技術中に記載されている型の静電印刷ヘッド1の先端部領域の図面であり、それぞれが先端部21を有するいくつかの噴出垂直部2を示す。それぞれの噴出垂直部の間には、チークとも呼ばれる壁3が存在し、これはそれぞれの噴出セルの境界を定義する。それぞれのセル中で、インクは噴出垂直部2の両側に1つずつある2つのチャネル4中を流れ、使用中は、インクメニスカスがチークの上部と噴出垂直部の上部との間にピンで留められている。この幾何学において、z軸の正方向は基材から印刷ヘッドに向かって指すと定義され、x軸は噴出垂直部の先端部のラインに沿って指し、y軸はこれらに垂直である。」 (ウ)「【0035】 稼動中、基材を接地(0V)に保ち、中間電極10と基材との間に電圧VIEをかけることが通例である。噴出垂直部2およびチーク3上の中間電極10と電極7との間にさらなる電圧差V_(B)をかけて、これらの電極の電位差がV_(IE)+V_(B)となるようにする。V_(B)の大きさは、粒子を濃縮する噴出位置6で電界が生じるが粒子を噴出させないように選択する。噴出は、粒子に対する電気泳動力がインクの表面張力とちょうど釣り合う電界強度に対応する特定の電圧閾値V_(S)を超える印加バイアスV_(B)で自発的に起こる。したがって、V_(B)は必ずV_(S)未満であるように選択される。V_(B)をかけた際、インクメニスカスは前に移動して、噴出垂直部2のより多くを覆う。濃縮された粒子を噴出させるためには、噴出垂直部2と中間電極10との間の電圧差がV_(B)+V_(P)であるように、振幅V_(P)のさらなる電圧パルスを噴出垂直部2にかける。噴出は、電圧パルスが持続している間中続く。これらのバイアスの典型的な値は、V_(IE)=500ボルト、V_(B)=1000VおよびV_(P)=300ボルトである。 【0036】 この型の静電プリンタの利点の1つは、電圧パルスの持続期間または振幅のどちらかを変調させることによってグレースケール印刷を達成できることである。電圧パルスは、個々のパルスの振幅がビットマップデータから誘導されるように、もしくはパルスの持続期間がビットマップデータから誘導されるように、または両技法の組合せを使用して、発生させ得る。」 (エ)「【0039】 図1?3に示した型の多数のセル5をx軸に沿って並べて製作することによって、任意の数のイジェクタを含む印刷ヘッドを本発明における使用のために構築することができる。制御コンピュータが、そのメモリ中に記憶された画像データ(ビットマップ化されたピクセル値)を、それぞれのチャネルに個別に供給される電圧波形(一般的にはデジタル方形波)へと変換する。印刷ヘッド1を基材に対して制御可能な様式で動かすことによって、広い面積の画像を基材上に印刷することができる。」 (オ)「【0059】 それぞれの印刷ヘッドは、100mmの幅であり、168ミクロンのイジェクタ間隔であり、基材を所定の印刷ヘッドの下に4回通すことでインチあたり600ドット数の印刷された画像の単一の色分解が作成され、それぞれの通しが以前の通しから42ミクロンのオフセットとなるようにした。これを達成するために、プラテンのそれぞれの正方向の動作中に印刷するように印刷ヘッドを1つずつ制御し、プラテンのそれぞれの戻りの通しの際は、42ミクロンの距離で基材の動作に垂直に動くように印刷ヘッドを制御した。」 (カ)図2からは、「チャネル4に電極7が設けられる」点を看取することができる。 そうすると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「インクは、画像を形成するために、静電印刷ヘッドを用いて基材上に堆積され、 前記静電印刷ヘッドは、分散媒流体中に分散させた帯電可能なマーキング粒子を、印加電界を用いて、最初に濃縮し、その後に噴出させ、 静電印刷ヘッドの先端部領域の噴出垂直部の間には、チークとも呼ばれる壁が存在し、これはそれぞれの噴出セルの境界を定義し、それぞれのセル中で、インクは噴出垂直部の両側に1つずつある2つのチャネル中を流れ、 チャネルに電極が設けられ、 噴出垂直部およびチーク上の中間電極と電極との間にさらなる電圧差V_(B)をかけて、これらの電極の電位差がV_(IE)+V_(B)となるようにし、V_(B)の大きさは、粒子を濃縮する噴出位置で電界が生じるが粒子を噴出させないように選択し、 濃縮された粒子を噴出させるためには、噴出垂直部と中間電極との間の電圧差がV_(B)+V_(P)であるように、振幅V_(P)のさらなる電圧パルスを噴出垂直部にかけ、噴出は、電圧パルスが持続している間中続き、 電圧パルスの持続期間または振幅のどちらかを変調させることによってグレースケール印刷を達成でき、電圧パルスは、個々のパルスの振幅がビットマップデータから誘導されるように、もしくはパルスの持続期間がビットマップデータから誘導されるように、または両技法の組合せを使用して、発生させ得、 多数のセルを並べて製作することによって、任意の数のイジェクタを含む印刷ヘッドを構築することができ、制御コンピュータが、そのメモリ中に記憶された画像データ(ビットマップ化されたピクセル値)を、それぞれのチャネルに個別に供給される電圧波形(一般的にはデジタル方形波)へと変換し、印刷ヘッドを基材に対して制御可能な様式で動かすことによって、広い面積の画像を基材上に印刷することができ、 基材を所定の印刷ヘッドの下に4回通すことで印刷された画像の単一の色分解が作成され、それぞれの通しが以前の通しからオフセットとなるようにした 基材上に画像を形成する方法。」 イ.引用例2 当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開平4-361052号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 被記録媒体にインク滴を重ねて着弾させ、その個数によって各画素の面積を制御して被記録画像の階調を表現するインクジェット記録方法において、複数の吐出口が列状に配設された記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録し、副走査後の前記記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録するときに(審決注:「第2の画像領域をするときに」は「第2の画像領域を記録するときに」の誤記と認める)、前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳するように前記記録ヘッドを副走査し、当該重畳する画像領域を形成する前記各画素の面積は、前記第1の画像領域の記録時に着弾する前記インク滴の個数と前記第2の画像領域の記録時に着弾する前記インク滴の個数との和によって制御することを特徴とするインクジェット記録方法。」 (イ)「【0013】[実施例1]図17は、本発明の一実施例に係るインクジェット記録装置の概略斜視図である。図17において、1は128個のインク吐出口を16個/mmの密度で配設した記録ヘッドであり、各吐出口にはこれに連通する液路に吐出エネルギーを発生するための電気熱変換体を具える。電気変換体は印加される電気パルスに応じて熱を発生し、これによりインク中に膜沸騰を生じさせ、この膜沸騰による気泡の成長に伴なって上記吐出口からインクが吐出される。なお、本例では各吐出口において吐出周波数、すなわち電気熱変換体の駆動周波数は、2kHzである。」 (ウ)「【0017】図18は、図17に示した装置における制御系回路の概略構成を示す。ここで、201は吐出タイミング等の装置全体の制御を司るメインコントローラであり、例えばCPU(中央演算処理ユニット),プログラム用ROM(リードオンリメモリ)および作業用RAM(ランダムアクセスメモリ)等を内蔵する1チップマイクロプロセッサ等が通常用いられる。メインコントローラ201は各画素の濃度を示す画像データ信号をホストコンピュータ203から受け取り、1フレーム単位でバッファ用のフレームメモリ205に格納する。そして画像記録時(インク吐出時)には、メインコントローラ201は第1のモータドライバ207を通じてキャリッジ送りモータ209の駆動を制御し、かつ第2のモータドライバ211を通じて紙送りモータ213の駆動を制御する。これと共に、フレームメモリ205から読み出した画像データを基に、本システム(記録装置)に応じた階調データに変換し、ドライバコントローラ215およびヘッドドライバ217を介して記録ヘッド1の吐出制御(以下に詳述する)を行ない、これにより記録紙172に階調性画像記録を行なう。 (エ)「【0020】記録紙に記録を行なう際には、まず第1主走査時においてNo.1?No.128の吐出口を用いて記録するが、このとき吐出口No.126,NO.127,No.128から吐出させるインク滴の個数を図2に示すようにそれぞれ×6/8,×4/8,×2/8個として第1の画像領域を記録する。 【0021】次に、図1に示すように吐出口No.126の位置に吐出口No.1がきて3つの吐出口No.1,No.2,No.3が第1の画像領域と重複するように記録紙を125画素分上方へ送る(本図では便宜上記録ヘッド1が下方へ相対的に移動したことになっている)。 【0022】このような副走査が終了した状態で、第2主走査を行ない第2の画像領域を記録するに際して、吐出口No.1?No.3から吐出させるインク滴の個数を図2に示すようにそれぞれ×2/8、×4/8、×6/8個とし、吐出口No.126?No.128から吐出させるインク滴の個数を×6/8,×4/8,×2/8個として画像の記録を行なう。このようにして記録した画像の重畳部分の状態を図3に示す。 【0023】以下、同様にして画像領域記録を繰り返し、全画面にわたって画像を形成する。画像の最下端においては、吐出口No.126,No.127,No.128から吐出させるインク滴の個数は吐出口No.4?No.125から吐出させるインク滴の個数と同数として記録することにより画像端を形成する。 【0024】なお、以上の説明においては、記録画像の画素は全て同一数のインク滴により形成されるものとして説明したが、実際の画像の記録に際しては、画像データに従って各画素を形成するインク滴の数は各画素毎に異なっており、その画素を形成するインク滴の個数(濃度データ)に対して×2/8,×4/8,×6/8等の処理がなされる。」 (オ)上記「(イ)」の「1は128個のインク吐出口を16個/mmの密度で配設した記録ヘッドであり」との記載から、「インク吐出口」は「複数」あるといえる。 (カ)上記「(エ)」では「第1主走査時において……第1の画像領域を記録」し、「吐出口No.126の位置に吐出口No.1がきて3つの吐出口No.1,No.2,No.3が第1の画像領域と重複するように記録紙を125画素分上方へ送」り、「このような副走査が終了した状態で、第2主走査を行ない第2の画像領域を記録する」ところ、上記「(エ)」において記録される「第1の画像領域」及び「第2の画像領域」は上記「(ア)」における「重畳する画像領域」であるといえる。 また、上記「(エ)」では「第1主走査時」において「吐出口No.126,NO.127,No.128から吐出させるインク滴の個数を図2に示すようにそれぞれ×6/8,×4/8,×2/8個とし」、「第2主走査を行ない第2の画像領域を記録するに際して、吐出口No.1?No.3から吐出させるインク滴の個数を図2に示すようにそれぞれ×2/8、×4/8、×6/8個とし」ているところ、「×6/8,×4/8,×2/8個」や「×2/8、×4/8、×6/8個」というインク滴の個数の変化は一定の割合であるといえ、「各吐出口から吐出されるインク滴の数を示した図」(【図面の簡単な説明】)である図2からも各吐出口から吐出されるインク滴の数を結んだ線は直線で表され一定の割合ですることが読み取れるから、「各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録する」といえる。 そうすると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「被記録媒体にインク滴を重ねて着弾させ、その個数によって各画素の面積を制御して被記録画像の階調を表現するインクジェット記録方法において、複数の吐出口が列状に配設された記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録し、副走査後の前記記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録するときに、前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳するように前記記録ヘッドを副走査し、当該重畳する画像領域を形成する前記各画素の面積は、前記第1の画像領域の記録時に着弾する前記インク滴の個数と前記第2の画像領域の記録時に着弾する前記インク滴の個数との和によって制御するインクジェット記録方法であって、 複数のインク吐出口を配設した記録ヘッドであり、各吐出口にはこれに連通する液路に吐出エネルギーを発生するための電気熱変換体を具え、電気変換体は印加される電気パルスに応じて熱を発生し、これによりインク中に膜沸騰を生じさせ、この膜沸騰による気泡の成長に伴なって上記吐出口からインクが吐出され、 フレームメモリから読み出した画像データを基に、記録装置に応じた階調データに変換し、記録ヘッドの吐出制御を行ない、これにより記録紙に階調性画像記録を行ない、 重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録し、 画像データに従って各画素を形成するインク滴の数は各画素毎に異なっている インクジェット記録方法。」 ウ.引用例3 本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-176112号公報(以下「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「【0030】 次に、図1に基づき、この第1の実施形態に用いられるラインヘッド10およびこのラインヘッド10から吐出されるインク滴の着弾位置を説明する。ラインヘッド10は、インクを吐出する複数のノズルを一定の間隔(基準ノズル間隔)で高密度に配列したノズル列N1,N2を有するヘッドチップh1,h2をノズルの配列方向(X方向)に沿ってつなぐことにより長尺化した構成となっている。但し、ヘッドチップh2は、ヘッドチヘッドチップh1よりY方向にずれ、かつその端部がヘッドチップh1の端部にX方向において重なるよう配置されている。各ヘッドチップh1,h2のX方向における相対位置は、ヘッドチップh1の最端部ノズルからX方向へと前記基準ノズル間隔だけ離間した位置を基準位置としたとき、ヘッドチップh2の最端部ノズルが次のような位置になるよう設定される。」 (イ)「【0060】 また、この実施形態では、図8の実線および破線にて示される曲線のように、記録デューティの低下開始位置からヘッドチップh1,h2の各ノズル列N1,N2の端部に亘って、徐々に記録デューティを低下させるようにしている。これにより、各ヘッドチップh1,h2によって形成される画像のつなぎ目をより目立ちにくくすることが可能となる。 上記のように各ヘッドチップh1,h2のつなぎ部OP2における各ノズルの記録デューティを減少させるために、この第3の実施形態では、図5に示す画像処理部J1000によって、元画像の濃度を表す多値の信号を変更する。すなわち、8bitの信号で表される256階調の元画像データを図8に示す曲線に応じて減少させる処理を施す。その結果、ハーフトーニング処理J1005、ドット配置パターン化処理J1007などを経て、ドットを形成するか否かを表す1ビット(2値)の信号に変換された記録データの記録デューティは、図8に示すような曲線で減少する。」 そうすると、引用例3には、次の事項(以下「引用例3記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 「インクを吐出する複数のノズルを一定の間隔(基準ノズル間隔)で高密度に配列したノズル列N1,N2を有するヘッドチップh1,h2をノズルの配列方向に沿ってつなぐことにより長尺化したラインヘッドにおいて、 記録デューティの低下開始位置からヘッドチップh1,h2の各ノズル列N1,N2の端部に亘って、徐々に記録デューティを低下させるようにしており、これにより、各ヘッドチップh1,h2によって形成される画像のつなぎ目をより目立ちにくくすることが可能となり、 記録デューティは曲線で減少する点。」 エ.引用例4 本件出願の出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/150945号(以下「引用例4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「[0047] 制御部101は画像形成の各種制御を行う制御部であり、本実施形態では特に、複数の記録素子が一方向(実施例では主走査方向)に配列されている短尺記録素子列が、互いに隣接する端部において記録素子が重なり領域を有する状態で前記一方向に複数配置されて長尺記録素子列として構成されたラインヘッドを用いて画像記録する際に、多値の画像データを所定のハーフトーン処理規則(第1のハーフトーン処理規則)に応じてハーフトーン処理し、記録素子から記録材を出力して記録すべきドットのパターンを記録パターンとして作成するハーフトーン処理ステップと、前記ハーフトーン処理により作成された前記記録パターンに従って、前記重なり領域において隣接するいずれの短尺記録素子列で記録するか振り分ける分解パターンを作成する振り分け処理ステップと、前記振り分け処理ステップで振り分けられたドットを、前記ラインヘッドに含まれるそれぞれの短尺素子列の記録素子により記録するように該記録素子を駆動する記録ステップと、を実行する際の各種制御を行う。」 (イ)「[0087] 振り分け処理部130では、まず、重なり領域における各短尺記録素子列に対して、位置に応じて割り振られた割り当て比率を決定する(図6中のステップS601)。なお、この処理の段階で割り当て比率を決定してもよいが、割り当て比率を予め決定して記憶部105などに格納しておき、振り分け処理部130が必要に応じて制御部101経由で割り当て比率を読み出せばよい。 [0088] この割り当て比率としては、たとえば、図7に示すように、短尺ヘッド150Aと短尺ヘッド150Bとの重なり領域(図2の領域ab)で、重なり領域でない領域(短尺ヘッド150Aでは領域aa、短尺ヘッド150Bでは領域bb)に接している側を割り当て比率1.0(100%)、接していない側(端部)を割り当て比率0.0(0%)となるように、その間の重なり領域で値を徐々に変更し、それぞれの側の比率を足して1.0(100%)となるように定めたものである。すなわち、この割り当て比率とは、重なり領域において端部でない側から端部に向かって1から0に徐々に変化する特性である。このような比率を用いることで、重なり領域における2つの短尺ヘッドの境目がわかりにくくなる。なお、この特性として、図6では直線特性になっているが、これに限定されず、以上の条件を満たす範囲内で、曲線とすることも可能である。」 そうすると、引用例4には、次の事項(以下「引用例4記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 「複数の記録素子が一方向に配列されている短尺記録素子列が、互いに隣接する端部において記録素子が重なり領域を有する状態で前記一方向に複数配置されて長尺記録素子列として構成されたラインヘッドを用いて画像記録する際に、 重なり領域における各短尺記録素子列に対して、位置に応じて割り振られた割り当て比率を決定し、 この割り当て比率としては、短尺ヘッド150Aと短尺ヘッド150Bとの重なり領域で、重なり領域でない領域に接している側を割り当て比率1.0(100%)、接していない側(端部)を割り当て比率0.0(0%)となるように、その間の重なり領域で値を徐々に変更し、それぞれの側の比率を足して1.0(100%)となるように定めたものであって、この割り当て比率とは、重なり領域において端部でない側から端部に向かって1から0に徐々に変化する特性であり、この特性として、以上の条件を満たす範囲内で、曲線とすることも可能である点。」 オ.引用例5 本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-274485号公報(以下「引用例5」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 (A)階調値に基づく補正用パターンを形成することであって、 媒体に対してノズル列に沿う方向に交差する第1方向に相対移動して流体を噴射する第1噴射動作と、 前記媒体を前記ノズル列に沿う第2方向に相対移動させる搬送動作と、 前記第1方向に相対移動して前記流体を噴射する第2噴射動作と、 を有し、 前記第1噴射動作と前記第2噴射動作において前記第2方向に沿う方向に一部重複するノズル列のノズル同士が分担して共通のドットラインを形成して前記補正用パターンを形成することにおいて、前記一部重複しない範囲において単位面積あたりに噴射された前記流体の量よりも前記一部重複する範囲において単位面積あたりに噴射された前記流体の量を多くして前記補正用パターンを形成することと、 (B)前記補正用パターンの濃度を前記第1方向に複数並ぶ画素からなる画素列毎に測定することと、 (C)測定した前記画素列毎の濃度に基づいて、前記階調値を補正するための補正値を前記画素列毎に求めることと、 (D)前記ノズル列が設けられた流体噴射装置の記憶部に前記補正値を記憶することと、 を含む補正値設定方法。」 (イ)「【0106】 図22は、ノズル列の重複領域について合計のノズル使用比率が100%を超えるときのドットの形成の一例について説明する図である。ここでも、図において、各斜線で示した正方形が形成されるドットである。そして、各ドットについて、どちらのパスのノズルが形成したドットであるかが分かるように、各パスのノズルに付された斜線の方向と、正方形に付された斜線の方向とが一致するように示されている。 そして、図に示すようにドットを形成することにより、各画素領域には必ずいずれかのパスのノズルによってドットが形成され、かつ、いくつかの画素領域には両方のパスにおけるノズルによってドットが形成されるようになっている。 (ウ)「【0109】 図24は、重複領域について合計のノズル使用比率が100%を超えるときのパス1とパス2のノズル使用比率を説明する図である。図に示すようなノズル使用比率にすることで、重複領域について合計のノズル使用比率が100%を超えるようにすることができる。そして、重複領域における合計のノズル使用比率が100%を超えるようにするために、2つのパスによってほぼ同じ箇所に重複してドットが形成されるようにすることで、ドットの位置変動に対して明度変化を少なくすることができる。このようにして、重複領域における合計のノズル使用比率が100%を超えるようにするために、2つのパスによってほぼ同じ箇所に重複してドットが形成されるようなオーバーラップマスクを使用する必要がある。」 (エ)上記「(イ)及び(ウ)」を踏まえると、図24からは「パス1とパス2のノズル使用比率が曲線である」点を看取することができる。 そうすると、引用例5には、次の事項(以下「引用例5記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 「第1噴射動作と前記第2噴射動作において一部重複するノズル列のノズル同士が分担して共通のドットラインを形成し、ノズル列の重複領域について合計のノズル使用比率が100%を超えるときのドットの形成において、パス1とパス2のノズル使用比率が曲線である点。」 (2)対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 ア.後者の「インク」は前者の「印刷液滴」に相当し、以下同様に、「静電印刷ヘッド」は「プリントヘッド」に、「チャネル」は「放出チャンネル」に、「分散媒流体」は「印刷流体」に、「マーキング粒子」は「粒状物」に、「噴出」は「放出」に、「電圧パルス」及び「パルス」は「電圧パルス」に、それぞれ相当する。 イ.後者の「制御コンピュータが、そのメモリ中に記憶された画像データ(ビットマップ化されたピクセル値)を、それぞれのチャネルに個別に供給される電圧波形(一般的にはデジタル方形波)へと変換し、印刷ヘッドを基材に対して制御可能な様式で動かすことによって、広い面積の画像を基材上に印刷することができる基材上に画像を形成する方法」において、「画像データ(ビットマップ化されたピクセル値)」に基づいて「広い面積の画像」が形成されることは明らかであるところ、後者の当該「広い面積の画像」は、前者の「1列に多くのピクセルを有する二次元ビットマップ化された画像」に相当するといえ、これを踏まえると、後者の「制御コンピュータが、そのメモリ中に記憶された画像データ(ビットマップ化されたピクセル値)を、それぞれのチャネルに個別に供給される電圧波形(一般的にはデジタル方形波)へと変換し、印刷ヘッドを基材に対して制御可能な様式で動かすことによって、広い面積の画像を基材上に印刷することができる基材上に画像を形成する方法」と、前者の「複数の重なり合うプリントヘッド(300A、300B)、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドを用いて印刷するための、1列に多くのピクセルを有する二次元ビットマップ化された画像を印刷する方法」とは、「プリントヘッドを用いて印刷するための、1列に多くのピクセルを有する二次元ビットマップ化された画像を印刷する方法」との概念で共通する。 ウ.後者においては「静電印刷ヘッドの先端部領域の噴出垂直部の間には、チークとも呼ばれる壁が存在し、これはそれぞれの噴出セルの境界を定義し、それぞれのセル中で、インクは噴出垂直部の両側に1つずつある2つのチャネル中を流れ」るから、「セル」中にはそれぞれ「2つのチャネル」が存している。そして、「多数のセルを並べて製作することによって、任意の数のイジェクタを含む印刷ヘッドを構築することができ」るのだから、構築された「印刷ヘッド」においては「多数のセル」が並んでおり、同様に「セル」中の「チャネル」も並んでいることは明らかであって、後者の「静電印刷ヘッド」はチャネルの列を有するといえる。そして、後者の「静電印刷ヘッド」がチャネルの列を有する点は、前者の「プリントヘッドは、放出チャンネル(301)の列を有し」の点に相当する。 エ.上記「ウ.」を踏まえると後者において「チャネル」が複数存在することは明らかであるから、後者の「チャネルに電極が設けられ」は、前者の「それぞれの放出チャンネルは、関連する放出電極(7)を有し」に相当する。 後者においては「電圧パルスの持続期間または振幅のどちらかを変調させることによってグレースケール印刷を達成でき、電圧パルスは、個々のパルスの振幅がビットマップデータから誘導されるように、もしくはパルスの持続期間がビットマップデータから誘導されるように、または両技法の組合せを使用して、発生させ得」るから、後者は「電圧パルスの持続期間」及び「電圧パルスの振幅」の「組合せ」を使用して「電圧パルス」を発生させることにより、「グレースケール印刷」を行うものである。 ここで、「グレースケール」とは「白黒写真のように、白から黒までの階調で画像を表示すること。階調数を多くするほど、明暗の変化がなめらかに表現される。たとえば、16階調よりも256階調の方がなめらか。黒インクのみを使って印刷するプリンターでは、画像などをグレースケールで出力する。」(ASCII.jpデジタル用語事典、URL,http://yougo.ascii.jp/caltar/グレースケール)との意味であるから、「グレースケール印刷」は白から黒までの複数の階調による印刷であるといえる。 また、後者においては、「粒子を濃縮する噴出位置で電界が生じるが粒子を噴出させないように選択し」た「電圧差V」をかけて、「電圧パルスの持続期間」及び「電圧パルスの振幅」の「組合せ」を使用して「電圧パルス」を発生させるところ、液滴の大きさを電圧波形によって制御することが周知技術である(例えば、引用文献1の段落【0009】参照)ことを踏まえると、引用発明1においても「粒子を濃縮する噴出位置で電界が生じるが粒子を噴出させない」状態とされた「粒子」は階調に応じた液滴の大きさに制御されると解される。 してみると、後者の「チャネルに電極が設けられ、噴出垂直部およびチーク上の中間電極と電極との間にさらなる電圧差V_(B)をかけて、これらの電極の電位差がV_(IE)+V_(B)となるようにし、V_(B)の大きさは、粒子を濃縮する噴出位置で電界が生じるが粒子を噴出させないように選択し」、「電圧パルスの持続期間または振幅のどちらかを変調させることによってグレースケール印刷を達成でき、電圧パルスは、個々のパルスの振幅がビットマップデータから誘導されるように、もしくはパルスの持続期間がビットマップデータから誘導されるように、または両技法の組合せを使用して、発生させ得」と、前者の「それぞれの放出チャンネルは、関連する放出電極(7)を有し、複数の重なり合うプリントヘッド、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドの選択された放出チャンネルから印刷液滴として放出されるいくつかの所定容積のうちの1つの容積である帯電した粒状物の濃縮部が生じるように、この電極に対し、使用時に、印刷流体の本体内に作られる粒状物の濃縮部を生じるのに十分な電圧が加えられ」とは、「それぞれの放出チャンネルは、関連する放出電極を有し、プリントヘッドの選択された放出チャンネルから印刷液滴として放出されるいくつかの所定容積のうちの1つの容積である帯電した粒状物の濃縮部が生じるように、この電極に対し、使用時に、印刷流体の本体内に作られる粒状物の濃縮部を生じるのに十分な電圧が加えられ」との概念で共通する。 オ.後者が「チャネルに電極が設けられ、噴出垂直部およびチーク上の中間電極と電極との間にさらなる電圧差V_(B)をかけ」るものであることを踏まえると、後者の「電圧パルスの持続期間または振幅のどちらかを変調させることによってグレースケール印刷を達成でき、電圧パルスは、個々のパルスの振幅がビットマップデータから誘導されるように、もしくはパルスの持続期間がビットマップデータから誘導されるように、または両技法の組合せを使用して、発生させ得」は、前者の「それぞれの画像ピクセルのビット値によって決定されるようなそれぞれの所定の振幅および持続時間の電圧パルスが、選択された放出チャンネルの電極に加えられ」に相当する。 そうすると、両者は 「プリントヘッドを用いて印刷するための、1列に多くのピクセルを有する二次元ビットマップ化された画像を印刷する方法であって、そのプリントヘッドまたはそれぞれのプリントヘッドは、放出チャンネルの列を有し、 それぞれの放出チャンネルは、関連する放出電極を有し、プリントヘッドの選択された放出チャンネルから印刷液滴として放出されるいくつかの所定容積のうちの1つの容積である帯電した粒状物の濃縮部が生じるように、この電極に対し、使用時に、印刷流体の本体内に作られる粒状物の濃縮部を生じるのに十分な電圧が加えられ、 それぞれの画像ピクセルのビット値によって決定されるようなそれぞれの所定の振幅および持続時間の電圧パルスが、選択された放出チャンネルの電極に加えられる、 方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 前者の「プリントヘッド」が「複数の重なり合うプリントヘッド(300A、300B)、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッド」であるのに対して、後者の静電印刷ヘッドはどのようなものか明らかでない点。 [相違点2] 前者が「それぞれの画像の列について、重なり合う放出チャンネル(301)によって印刷されるピクセルを作成するために、複数の重なり合うプリントヘッド、重なり合う位置に割り送りされる1つのプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる複数のプリントヘッドに加えられる電圧パルスの値が、プリントヘッド(300A、300B)の重なり合う領域内のピクセルの位置に依存して、また、ピクセルの所定の容積の大きさに依存して、それぞれのピクセルのための放出体積を可変的に調整可能となるように、可変的に調整され、 それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定の非線形フェーディング関数に基づいて、1回の放出で印刷する」のに対して、後者はそのようなものでない点。 (3)検討 上記相違点について検討する。 ア.相違点1について 引用発明2の「記録ヘッド」は本願発明の「プリントヘッド」に相当し、引用発明2の「前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳するように前記記録ヘッドを副走査」することは、本願発明の「プリントヘッド」が「重なり合う位置に割り送りされる」ことに相当する。 引用発明1及び2はともに画像形成方法の分野に属する技術である。また、引用発明2は「従来のインクジェット記録方法においては、1主走査で記録される画像領域と次の主走査で記録される画像領域の境の部分すなわち「つなぎ目」付近の画像品質が諸々の原因により劣化してしまう」(段落【0006】)点を解決することを課題とする発明であるところ、当該課題は所定範囲の画像を印刷し、当該所定の範囲に一部重畳して次の範囲の画像を印刷するような画像形成における周知の課題である。そして、引用発明1は「基材を所定の印刷ヘッドの下に複数回通すことで印刷された画像の単一の色分解が作成され、それぞれの通しが以前の通しからオフセットとなるようにした」もの、すなわち、所定範囲の画像を印刷し、当該所定の範囲に一部重畳して次の範囲の画像を印刷するものであるから、当該周知の課題は引用発明1にも内在する課題である。 そうすると、引用発明1に引用発明2を適用して、本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 イ.相違点2について 引用発明2の「画素」は本願発明の「ピクセル」に相当し、同様に、「吐出口」は「放出チャンネル」に、「重畳する画像領域」は「重なり合う領域」にそれぞれ相当する。 引用発明2は「複数の吐出口が列状に配設された記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録し、副走査後の前記記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録するときに、前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳するように前記記録ヘッドを副走査」するものであって、「前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳する」のだから、「記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録」する際と「記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録する」際とで「記録ヘッド」及びその「吐出口」が「1部重畳する」ことは明らかである。 そうすると、引用発明2の「複数の吐出口が列状に配設された記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録し、副走査後の前記記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録する」は、本願発明の「それぞれの画像の列について、重なり合う放出チャンネルによって印刷されるピクセルを作成する」に相当する。 引用発明2は「電気パルスに応じて熱を発生し、これによりインク中に膜沸騰を生じさせ、この膜沸騰による気泡の成長に伴なって上記吐出口からインクが吐出され」るものであるから、インク滴は電気パルスの値に応じて吐出されるといえる。 また、引用発明2は、「重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録」するところ、「吐出口の位置」が画素の位置に対応していることは明らかであるから、インク滴の個数を「吐出口の位置に応じて」変化させることは、インク滴の個数を「画素の位置に応じて」変化させることでもある。また、「各吐出口から吐出させるインク滴の個数」が変化すれば、「各吐出口から吐出させるインク滴」の体積も変化することは明らかである。 また、引用発明2は、「フレームメモリから読み出した画像データを基に、記録装置に応じた階調データに変換し、記録ヘッドの吐出制御を行ない、これにより記録紙に階調性画像記録を行な」うものであって、「画像データに従って各画素を形成するインク滴の数は各画素毎に異なっている」から、「インク滴の数」は「階調データ」の「階調」に応じたものであると解することができ、引用発明2においては「階調データ」の「階調」に応じた体積のインク滴が吐出されるものと認められる。 これらの点を踏まえると、引用発明2の「重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録し」は、本願発明の「プリントヘッドに加えられる電圧パルスの値が、プリントヘッド(300A、300B)の重なり合う領域内のピクセルの位置に依存して、……それぞれのピクセルのための放出体積を可変的に調整可能となるように、可変的に調整され」に相当し、引用発明2の「画像データに従って各画素を形成するインク滴の数は各画素毎に異なっている」は、本願発明の「プリントヘッドに加えられる電圧パルスの値が、……ピクセルの所定の容積の大きさに依存して、それぞれのピクセルのための放出体積を可変的に調整可能となるように、可変的に調整され」に相当する。 そして、これらを総合すると、引用発明2は「プリントヘッドに加えられる電圧パルスの値が、プリントヘッドの重なり合う領域内のピクセルの位置に依存して、また、ピクセルの所定の容積の大きさに依存して、それぞれのピクセルのための放出体積を可変的に調整可能となるように、可変的に調整され」との事項を備えるものである。 本願発明は「それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、……1回の放出で印刷する」ことを発明特定事項とするものであるが、上記「1.」で検討したとおり、「重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッド」の場合には、「プリントヘッド」は「プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与」を重なり合う領域を通過するごとに「1回の放出で印刷する」ものと解される。 一方、引用発明2は「複数の吐出口が列状に配設された記録ヘッドを主走査しながら第1の画像領域を記録し、副走査後の前記記録ヘッドが再度主走査しながら第2の画像領域を記録する」ものであって、かつ、「前記第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳するように前記記録ヘッドを副走査」するものであるから、「第1の画像領域と前記第2の画像領域とが1部重畳する」領域においては、最初の主走査で1部重畳する領域のうち第1の画像領域を記録し、次に副走査が行われ、再度の主走査で1部重畳する領域のうちで第2の画像領域を記録するものである。 また、引用発明2は「重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録」するから、「各吐出口から吐出させるインク滴の個数」すなわちインク滴の容積の総量は、「インク滴の個数」を単位として「吐出口の位置」(上述のとおり「画素の位置」に対応する。)から決定され、一定の割合で変化するものである。そうすると、引用発明2において「重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録」する際の「各吐出口から吐出させるインク滴の個数」は、「インク滴の個数」を単位として「吐出口の位置」(すなわち「画素の位置」)から決定される関数であると解することができ、その関数は「インク滴の個数」が「一定の割合で変化する」するものであって、徐々に変化するすなわち「フェーディング」するものであるといえる。そうすると、引用発明2の当該関数と本願発明の「1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定の非線形フェーディング関数」とは「1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定のフェーディング関数」との概念で共通する。 以上を総合すると、引用発明2の「重畳する画像領域において、各吐出口から吐出させるインク滴の個数を吐出口の位置に応じて一定の割合で変化させて記録し」及び「画像データに従って各画素を形成するインク滴の数は各画素毎に異なっている」と、本願発明の「それぞれの重なり合うプリントヘッドまたは重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定の非線形フェーディング関数に基づいて、1回の放出で印刷する」とは、重なり合う位置に割り送りされる1または複数のプリントヘッドは、プリントヘッドの重なり合う領域におけるそれぞれの非ブランクピクセルへの寄与を、1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域に印刷されるピクセルの所定の容積の大きさおよび1または複数のプリントヘッドの重なり合う領域内のそれぞれの非ブランクピクセルの位置の両方に依存している所定のフェーディング関数に基づいて、(重なり合う領域を通過するごとに)1回の放出で印刷する」との概念で共通する。 上記ア.のとおり、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易になし得たことである。 また、重畳する画像領域において、プリントヘッドの重なり合う領域において吐出されるインク滴の量(本願発明における「非ブランクピクセルへの寄与」)を曲線で(即ち非線形に)変化させることは、例えば、引用例3記載事項ないし引用例5記載事項に示されるように本件出願の出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であって、引用発明1に引用発明2を適用してプリントヘッドの重なり合う領域をインク滴の量を変化させて印刷する際に、その変化を当該周知技術のように非線形とすることは当業者が適宜なし得た設計的事項である。 してみると、引用発明1に引用発明2及び周知技術を適用して、本願発明の相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ.小括 相違点1及び2については上記「ア.及びイ.」のとおりであって、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1及び2並びに周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 そうすると、本願発明は、引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本件出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし19の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 また、本願発明は、引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、その余の理由について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-03-29 |
結審通知日 | 2019-04-02 |
審決日 | 2019-04-15 |
出願番号 | 特願2015-513229(P2015-513229) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 121- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村田 顕一郎、馬渕 貴洋、関根 裕、道祖土 新吾 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
森次 顕 後藤 昌夫 |
発明の名称 | プリントヘッドの制御 |
代理人 | 加藤 秀忠 |
代理人 | 合路 裕介 |