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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1354916 |
異議申立番号 | 異議2018-700928 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-20 |
確定日 | 2019-07-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6328554号発明「安定化剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6328554号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6328554号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6328554号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成24年7月6日(パリ条約による優先権主張:平成23年7月11日,フランス)を国際出願日とする特許出願(特願2014-519506号)に係るものであって,平成30年4月27日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成30年5月23日である。)。 その後,平成30年11月20日に,本件特許の請求項1?7に係る特許に対して,特許異議申立人である東レ株式会社(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。 平成30年11月20日 特許異議申立書 平成31年 1月28日付け 取消理由通知書 4月26日 意見書,訂正請求書 令和 1年 5月14日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知) 6月 7日 意見書(申立人) 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 平成31年4月26日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に,「ポリアミド鎖延長化合物が,エチレングリコール,プロパンジオール,ブタンジオール,ヘキサンジオール,又はヒドロキノンビス(ヒドロキシエチル)エーテルなどのジアルコール,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド,エポキシド官能基を有するポリマー,無水物官能基を有するポリマー,イソフタロイルビスカプロラクタム(IBC),アジポイルビスカプロラクタム(ABC)又はテレフタロイルビスカプロラクタム(TBC)などのビス-N-アシルビスカプロラクタム,ジフェニルカーボネート,ビスオキサゾリン,オキサゾリノン,ジイソシアナート,トリフェニルホスファイト又はカプロラクタムホスファイトなどの有機ホスファイト,ビスケテンイミン,及びジアンヒドリドから成る群から選択される」と記載されているのを,「ポリアミド鎖延長化合物が,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択される」に訂正する。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項1?7について,請求項2?7は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項1?7は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1におけるポリアミド鎖延長化合物について,選択肢の一部を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 3 まとめ 上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。 第3 本件発明 前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?7に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用であって, 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物が,空気中での210℃,1000時間のエージング試験後に,エージング試験前の同じ組成物と比較して,ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して,50%以上の引張り破断応力の保持率を有すること,及び ポリアミド鎖延長化合物が,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択されることを特徴とし, 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物から作られる物品が,高温,特に80℃以上の温度にさらされる用途のために作られる物品であることを特徴とする,使用。 【請求項2】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が,組成物の全重量に対して0.01重量%?5重量%のポリアミド鎖延長化合物を含むことを特徴とする,請求項1に記載の使用。 【請求項3】 ポリアミドが,ポリアミド6,ポリアミド610,ポリアミド66及びポリアミド66/6Tを含む群から選択されることを特徴とする,請求項1又は2に記載の使用。 【請求項4】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が,少なくとも1つの強化又は増量フィラーを含むことを特徴とする,請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。 【請求項5】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が,少なくとも1つの耐衝撃性改良剤を含むことを特徴とする,請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。 【請求項6】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が,組成物の熱安定化に関与する少なくとも1つの他の添加剤を含むことを特徴とする,請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。 【請求項7】 物品が,流体を収容又は輸送するために製造される物品であることを特徴とする,請求項6に記載の使用。 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 本件特許の請求項1?7に係る特許は,下記(1)?(7)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法として,下記(8)の甲第1号証?甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。 (1)申立理由1(新規性) 本件発明1?7(本件訂正前の請求項1?7に係る発明に対応する。以下,同様。)は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (2)申立理由2(進歩性) 本件発明1?7は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (3)申立理由3(進歩性) 本件発明1?7は,甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (4)申立理由4(進歩性) 本件発明1?7は,甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条2号に該当する。 (5)申立理由5(サポート要件) 本件発明1?7については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条4号に該当する。 (6)申立理由6(明確性要件) 本件発明1?7については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条4号に該当する。 (7)申立理由7(実施可能要件) 本件発明1?7については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,同法113条4号に該当する。 (8)証拠方法 ・甲1 特表2011-529991号公報 ・甲2 特開2003-238802号公報 ・甲3 特表2000-514134号公報 ・甲4 「ポリアミド樹脂ハンドブック」,日刊工業新聞社,昭和63年1月30日,p.28,168, ・甲5 東京化成工業株式会社ホームページ,ジオールモノマー/Diol Monomers[平成30年11月19日検索] 2 取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由1(サポート要件) 上記1の申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド鎖延長化合物の種類に関するもの)と同旨。 (2)取消理由2(実施可能要件) 上記1の申立理由7(実施可能要件)(うち,ポリアミド鎖延長化合物の種類に関するもの)と同旨。 (3)取消理由3(明確性要件) 上記1の申立理由6(明確性要件)(うち,無水物官能基を有するポリマーに関するもの及びジフェニルカーボネートに関するもの)と同旨。 第5 当審の判断 以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由1(サポート要件) 本件発明1は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用に関するものであり,上記のポリアミド鎖延長化合物として,「ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択される」ものを用いるものである。 本件明細書の記載(【0002】?【0004】)によれば,本件発明1の課題は,熱,光,及び/又は悪天候に対する安定化に関してさらにより有効であり,より安価であるポリアミド組成物を得ることであると認められる。 本件明細書の記載(【0005】?【0008】,【0012】,【0013】,【0020】)によれば,本件発明1の課題は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として,上記の特定のポリアミド鎖延長化合物を使用することによって解決できるとされている。 そして,本件明細書には,実施例(【0072】?【0081】,表1,表2)が記載されているところ,当該実施例は,上記の特定のポリアミド鎖延長化合物のうち,「ビスエポキシド」に相当するものと解される「Araldite(登録商標)GT7071(Huntsman)」を用いたものであり,空気中での210℃,1000時間のエージング試験後に,エージング試験前の同じ組成物と比較して,ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して,50%以上の引張り破断応力の保持率を有することが示されている。 そうすると,当業者であれば,ポリアミド鎖延長化合物として,上記実施例で用いたもの以外の「ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド」や,当該ビスエポキシドと化学構造が類似する「エポキシド官能基を有するポリマー」を用いることによっても,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化できることが理解できるといえる。 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 これに対して,申立人は,本件発明1がその課題を解決できる範囲を超えるものであることの具体的な根拠を何ら示していない。 したがって,本件発明1については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。 また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?7についても同様であり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。 したがって,取消理由1(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由2(実施可能要件) 平成31年1月28日付けの取消理由通知書では,取消理由1(サポート要件)と同様の理由により,当業者は,本件訂正前の請求項1に記載された特定のポリアミド鎖延長化合物のうち,「ビスエポキシド」を用いた場合には,本件訂正前の請求項1?7に係る発明を実施できる(すなわち,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化できる)ことが理解できるとしても,「ビスエポキシド」以外のものを用いた場合であっても,本件訂正前の請求項1?7に係る発明を実施できることが理解できるとはいえないから,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正前の請求項1?7に係る発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨,指摘した。 これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,本件発明1におけるポリアミド鎖延長化合物について,選択肢の一部が削除され,「ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択される」ものに限定された結果,上記(1)で取消理由1(サポート要件)について述べたのと同様の理由により,当業者であれば,本件発明1?7を実施できる(すなわち,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化できる)ことが理解できるものとなった。 よって,本件発明1?7について,上記の点に関する実施可能要件違反は解消した。 したがって,取消理由2(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (3)取消理由3(明確性要件) ア 無水物官能基を有するポリマーに関するもの 平成31年1月28日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1に係る発明は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用に関するものであり,上記のポリアミド鎖延長化合物として,「無水物官能基を有するポリマー」を用いる場合を含むものであるのに対して,本件訂正前の請求項5に係る発明は,さらに,「少なくとも1つの耐衝撃性改良剤を含む」ものであるところ,本件明細書には,上記の耐衝撃性改良剤として,上記無水物官能基を有するポリマーに該当するものが記載されているため,例えば,本件明細書の実施例における「耐衝撃性改良剤:Exxelor VA1801(無水マレイン酸でグラフト化されたエチレン系コポリマー)」が,その文言どおり,耐衝撃性改良剤であるのか,あるいは,ポリアミド鎖延長化合物に該当するものであるのか,明確でないから,本件訂正前の請求項1に係る発明は明確ではなく,同発明を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?7に係る発明についても同様に,明確ではない旨,指摘した。 これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,本件発明1におけるポリアミド鎖延長化合物について,「無水物官能基を有するポリマー」を含む選択肢の一部が削除された結果,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。 イ ジフェニルカーボネートに関するもの 平成31年1月28日付けの取消理由通知書では,本件発明1は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用に関するものであり,上記のポリアミド鎖延長化合物として,「ジフェニルカーボネート」を用いる場合を含むものであるところ,「ジフェニルカーボネート」の構造式を考慮すると,「ジフェニルカーボネート」が,そもそも,「ポリアミドのアミン末端基又は酸末端基と反応する」(本件明細書【0012】)のかどうか不明であるから,本件訂正前の請求項1に係る発明は明確ではなく,同発明を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?7に係る発明についても同様に,明確ではない旨,指摘した。 これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,本件発明1におけるポリアミド鎖延長化合物について,「ジフェニルカーボネート」を含む選択肢の一部が削除された結果,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。 ウ 小括 したがって,取消理由3(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由 (1)申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性) ア 甲1に記載された発明 申立人が証拠方法として提出した甲1は,特表2011-529991号公報であるが,その公表日(平成23年12月15日)は,本件特許の優先日(平成23年7月11日)後であることから,申立人が主張する申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)は,特表2011-529991号公報に基づくものではなく,当該公報に係る外国語でされた国際特許出願に対応する国際出願を国際公開した,国際公開第2010/014801号(国際公開日:平成22年2月4日)に基づくものと善解して,以下,検討する。 国際公開第2010/014801号の訳文として,特表2011-529991号公報(甲1)を用いる。以下の検討は,甲1に基づいて行う。 甲1の記載(請求項1,10,【0001】?【0003】,【0009】,【0010】,【0055】,【0058】?【0060】,【0062】,【0065】,【0070】,【0074】,【0080】?【0086】,【0097】?【0099】,【0122】?【0124】,実施例23,比較例C-12,表13)によれば,特に,比較例C-12のほか,請求項1,【0097】,【0058】,【0059】の記載に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「PA6T/DT 47.11重量%, PA66 20重量%, Fusabond(登録商標)EP1021 13重量%, ガラス繊維B 17.5重量%, 黒色顔料B 1重量%, DER732Epoxy 0.5重量%, SHP 0.04重量%, Irganox(登録商標)1010 0.25重量%, Irganox(登録商標)1098 0.2重量%, Irgafos12 0.2重量%, Acrawax 0.2重量%, を含む組成物であって, 上記組成物が,試験期間1008時間の間,大気中で試験温度220℃で暴露され,ISO527/1Aに従って試験された4mmの試験片が平均で,同一組成および形状の非暴露対照と比較して63.44%の引張り強さの保持率を有するものであり, 上記組成物から製造される物品が,高温用途で使用される,組成物。」(以下,「甲1発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「PA6T/DT」,「PA66」は,甲1の記載(【0062】,【0065】)によれば,いずれも,ポリアミドであるから,本件発明1における「ポリアミド」に相当する。 甲1発明における「DER732Epoxy」は,甲1の記載(【0086】)によれば,液体エポキシ樹脂であるから,本件発明1における「エポキシド官能基を有するポリマー」に相当する。 甲1発明における「組成物から製造される物品が,高温用途で使用される」ことは,本件発明1における「組成物から作られる物品が,高温・・・にさらされる用途のために作られる物品である」ことに相当する。 甲1発明における「引張り強さ」は,本件発明1における「引張り破断応力」に相当する。そして,甲1発明に係る組成物は,「試験期間1008時間の間,大気中で試験温度220℃で暴露され,ISO527/1Aに従って試験された4mmの試験片が平均で,同一組成および形状の非暴露対照と比較して63.44%の引張り強さの保持率を有する」ものであるが,上記「試験期間1008時間の間,大気中で試験温度220℃で暴露」との条件は,本件発明1における「空気中での210℃,1000時間のエージング試験」よりも厳しい条件であり,そのような厳しい条件においても,「同一組成および形状の非暴露対照と比較して63.44%の引張り強さの保持率を有する」のであるから,本件発明1における「空気中での210℃,1000時間のエージング試験」の条件では,「エージング試験前の同じ組成物と比較して・・・50%以上の引張り破断応力の保持率を有する」ものといえる。 そうすると,本件発明1と甲1発明とは, 「少なくともポリアミド及びエポキシド官能基を有するポリマーを含有する組成物が,空気中での210℃,1000時間のエージング試験後に,エージング試験前の同じ組成物と比較して,ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して,50%以上の引張り破断応力の保持率を有すること,及び 少なくともポリアミド及びエポキシド官能基を有するポリマーを含む組成物から作られる物品が,高温にさらされる用途のために作られる物品である」 点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明1では,エポキシド官能基を有するポリマーが,「ポリアミド鎖延長化合物」であり,その「ポリアミド鎖延長化合物」を「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」するのに対して,甲1発明では,「DER732Epoxy」が,ポリアミド鎖延長化合物であるかどうか不明であり,その「DER732Epoxy」を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用するのかどうか不明である点。 ・相違点2 本件発明1では,高温が,「特に80℃以上の温度」であるのに対して,甲1発明では,具体的な温度が不明である点。 (イ)相違点1の検討 a まず,相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲1には,DER732Epoxyについて,「DER732Epoxyは,Dow Chemical,Midland,MIから入手可能な液体エポキシ樹脂である。」(【0086】)との記載があるだけである。甲1には,DER732Epoxyをポリアミド鎖延長化合物として用いることについて,記載されていない。DER732Epoxyが,甲1発明に係る組成物(比較例C-12)において,ポリアミド鎖延長化合物として用いられているのかどうかは,不明である。 この点,申立人が主張するように(意見書4頁),仮に,甲2及び甲3の記載によれば,当業者は,DER732Epoxyがポリアミド鎖延長化合物であることを理解できるとしても,甲1には,そのDER732Epoxyを,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することについて,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。 甲1には,(a)ポリアミド樹脂,(b)2個を超えるヒドロキシル基を有し,かつ2000未満の数平均分子量(Mn)を有する1種又は複数種の多価アルコール,(c)1種又は複数種の補強剤,(d)反応性官能基及び/又はカルボン酸の金属塩を含むポリマー強化剤を含む,熱可塑性ポリアミドを含む,成形又は押出し成形熱可塑性物品について記載されているところ(請求項1,10),ポリアミド組成物に添加された上記多価アルコールが,高温での長期熱安定性を高める(長期の高温暴露後に優れた機械的性質を示す)ことが記載されているが(【0001】?【0003】,【0009】,【0010】,【0055】,【0122】?【0124】),DER732Epoxyが高温での長期熱安定性を高めることは記載されていない。 また,甲1発明に係る組成物は,試験期間1008時間の間,大気中で試験温度220℃で暴露され,ISO527/1Aに従って試験された4mmの試験片が平均で,同一組成および形状の非暴露対照と比較して63.44%の引張り強さの保持率を有するものの,当該組成物に含まれるDER732Epoxyが,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用できるかどうかは,当業者といえども理解できるとはいえない。 以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。 したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。 b 次に,相違点1の容易想到性について検討する。 上記aで述べたとおり,甲1には,DER732Epoxyをポリアミド鎖延長化合物として用いることについて,記載されていない。また,甲1には,そのDER732Epoxyを,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することについて,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。 そして,本件発明1は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択されるポリアミド鎖延長化合物を使用することによって,熱,光,及び/又は悪天候に長くさらされた後の機械的特性の優れた持続性を得ることが可能となるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0005】?【0008】,【0072】?【0081】,表1,表2)。 そうすると,甲1発明において,DER732Epoxyを「ポリアミド鎖延長化合物」とし,その「ポリアミド鎖延長化合物」を「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2?7について 本件発明2?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?7についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)は,理由がない。 したがって,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (2)申立理由3(進歩性) ア 甲2に記載された発明 甲2の記載(請求項1,4,5,9,【0004】?【0006】,【0009】,【0025】?【0032】,【0073】,実施例1,実施例2,表2)によれば,特に,実施例1,請求項9の記載に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。 「PA6 76.5wt%, ガラス繊維 15.0wt%, ジエポキシド 0.6wt%, ワックス,カーボンブラック,安定化剤 0.9wt%, を含む成形用組成物であって, 上記成形用組成物から成形品が製造される,成形用組成物。」(以下,「甲2発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明における「PA6」は,甲2の記載(【0012】)によれば,ポリアミドであるから,本件発明1における「ポリアミド」に相当する。 甲2発明における「ジエポキシド」は,甲2の記載(【0025】?【0032】)によれば,鎖延長剤であるから,本件発明1における「ポリアミド鎖延長化合物」である「ビスエポキシド」に相当する。 甲2発明における「上記成形用組成物から」「製造される」「成形品」は,本件発明1における「組成物から作られる物品」に相当する。 そうすると,本件発明1と甲2発明とは, 「少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物であること,及び ポリアミド鎖延長化合物が,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択され, 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物から作られる物品が,物品であること」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点3 本件発明1では,「ポリアミド鎖延長化合物」を「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」するのに対して,甲2発明では,「ジエポキシド」を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用するのかどうか不明である点。 ・相違点4 本件発明1では,組成物から作られる物品が,「高温,特に80℃以上の温度にさらされる用途のために作られる物品」であるのに対して,甲2発明では,そのような用途のために製造される成形品であるかどうか不明である点。 ・相違点5 本件発明1では,少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物が,「空気中での210℃,1000時間のエージング試験後に,エージング試験前の同じ組成物と比較して,ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して,50%以上の引張り破断応力の保持率を有する」のに対して,甲2発明では,成形用組成物が上記のような特性を有するものであるのかどうか不明である点。 (イ)相違点3の検討 甲2には,A)熱可塑性の部分結晶性ポリアミド,B)強化物質,C)枝分かれ作用及び/又はポリマー鎖延長作用を有する添加物,D)ゴム弾性ポリマー,E)加工添加物を含有する,成形用組成物について記載されているところ(請求項1),ゴム弾性ポリマーを高粘性ガラス繊維強化ポリアミド成形用組成物に添加することにより,押出成形後の高い加工性及び改良された表面品質を特徴とするポリアミドが提供されることが記載されている(【0004】?【0006】,【0009】)。 甲2には,「溶融物の熱安定性」との記載があり(【0011】),また,ポリマー鎖延長作用を有する添加物(鎖延長剤)として,本件発明1における「ビスエポキシド」及び「エポキシド官能基を有するポリマー」に相当するものが例示され(【0025】?【0032】),実施例1(甲2発明)において,実際にジエポキシドが用いられているものの,甲2には,鎖延長剤であるジエポキシドを,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。甲2発明において用いられているジエポキシドが,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用できるかどうかは,当業者といえども理解できるとはいえない。 甲4には,ナイロン66の太陽光線による劣化は,紫外線,熱,酸素及び水の4つの要因に影響され,現象としては,色の変化,表面光沢の消失及び脆化が起こるが,この脆化は主として光分解と光酸化による分子鎖の切断によると考えられていることが記載されている(168頁)。 しかしながら,甲4には,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択されるポリアミド鎖延長化合物を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することについては,記載されていない。このような甲4の記載に基づいて,甲2発明において,鎖延長剤であるジエポキシドを,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することが,動機付けられるとはいえない。 そして,本件発明1は,上記(1)イ(イ)bで述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 そうすると,甲2発明において,鎖延長剤であるジエポキシドを「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 したがって,相違点4及び5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2?7について 本件発明2?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?7についても同様に,甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立理由3(進歩性)は,理由がない。 したがって,申立理由3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (3)申立理由4(進歩性) ア 甲3に記載された発明 甲3の記載(請求項1,3,12,14,4頁4?5行,9?18行,22?24行,4頁最下行?5頁4行,11?13行,9頁下から5行?10頁13行,11頁1?3行,11頁7行?12頁8行,例1)によれば,特に,例1,4頁最下行?5頁4行,11頁1?3行の記載に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリアミド6(相対粘度4.8) 58.0重量%, 耐衝撃性改良剤(PRIMEFLEX(登録商標)AFG4W) 40.0重量%, 連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071) 0.80重量%, 顔料(カーボンブラック) 0.90重量%, 滑剤(ステアリン酸カルシウム) 0.30重量%, を含み, 溶融粘度指数(MFI)0.9g/10分,モジュラス1300MPa,アイゾット衝撃強さ900J/mである,熱可塑性組成物であって, エンジンが作動中に130℃に達し得る,サーマルエンジン用の空気パイプのような中空部材を製造するために適した,熱可塑性組成物。」(以下,「甲3発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明における「ポリアミド6(相対粘度4.8)」は,本件発明1における「ポリアミド」に相当する。 甲3発明における「連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)」は,甲3の記載(12頁4?6行)によれば,エポキシ基を含有する化合物であるから,本件発明1における「ポリアミド鎖延長化合物」である「エポキシド官能基を有するポリマー」に相当する。 甲3発明に係る熱可塑性組成物から「製造するために適した」「エンジンが作動中に130℃に達し得る,サーマルエンジン用の空気パイプのような中空部材」は,本件発明1における「組成物から作られる物品が,高温,特に80℃以上の温度にさらされる用途のために作られる物品である」ことに相当する。 そうすると,本件発明1と甲3発明とは, 「少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物であること,及び ポリアミド鎖延長化合物が,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択され, 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物から作られる物品が,高温,特に80℃以上の温度にさらされる用途のために作られる物品であること」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点6 本件発明1では,「ポリアミド鎖延長化合物」を「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」するのに対して,甲3発明では,「連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)」を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用するのかどうか不明である点。 ・相違点7 本件発明1では,少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物が,「空気中での210℃,1000時間のエージング試験後に,エージング試験前の同じ組成物と比較して,ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して,50%以上の引張り破断応力の保持率を有する」のに対して,甲3発明では,熱可塑性組成物が上記のような特性を有するものであるのかどうか不明である点。 (イ)相違点6の検討 甲3には,熱可塑性ポリアミドポリマーをベースにしたマトリックスと,耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性組成物について記載されているところ(請求項1),溶融状態における流動学的性質が押出吹込成形によって造形する方法に適合し,低い温度において改良された可撓性であるものを提供することが記載されている(5頁11?13行)。甲3には,上記熱可塑性組成物が,さらにポリアミドマトリックス用の連鎖延長剤を含むことが記載されている(請求項3)。 甲3には,連鎖延長剤として,本件発明1における「ビスエポキシド」及び「エポキシド官能基を有するポリマー」に相当するものが例示され(請求項12,10頁3?5行,9?12行),例1において,実際に本件発明1における「エポキシド官能基を有するポリマー」に相当する連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)が用いられている。 しかしながら,甲3には,連鎖延長剤について,生成した物品において所定の可撓性を保持しながら,押出吹込成形の方法に適合し得る組成物の溶融状態における流動学的性質を得るために,ポリアミドマトリックスの分子量を増大させることを可能にすることが記載されるだけである(9頁下から5行?10頁2行)。甲3には,連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。甲3発明において用いられている連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)が,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用できるかどうかは,当業者といえども理解できるとはいえない。 甲4については,上記(2)イ(イ)で述べたとおりであり,このような甲4の記載に基づいて,甲3発明において,連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)を,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として使用することが,動機付けられるとはいえない。 そして,本件発明1は,上記(1)イ(イ)bで述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。 そうすると,甲3発明において,連鎖延長剤(ARALDITE(登録商標)GT7071)を,「熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として」「使用」することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 したがって,相違点7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2?7について 本件発明2?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?7についても同様に,甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立理由4(進歩性)は,理由がない。 したがって,申立理由4(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (4)申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの) 本件発明1?7について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは,上記1(1)で述べたとおりである。 申立人は,本件発明1は,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量を特定しないが,本件明細書の実施例では,ポリアミド鎖延長化合物1.5重量%を含有した例が記載されているだけであり,本件明細書には,ポリアミド鎖延長化合物が0重量%に近い含有量でも,多大な含有量でも,本件発明1の効果を奏することは記載されておらず,同様に,ポリアミドが0重量%に近い含有量でも,本件発明1の効果を奏することは記載されていないから,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないと主張する。また,本件発明2?7についても同様に主張する。 しかしながら,上記1(1)で述べたとおり,本件発明1の課題は,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤として,ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択される,ポリアミド鎖延長化合物を使用することによって解決できるものである。本件発明1では,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量について特定されていないものの,これらの含有量に応じて,熱,光,及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化できることは,当業者にとって明らかである。 これに対して,申立人は,本件発明1がその課題を解決できる範囲を超えるものであることの具体的な根拠を何ら示していない。 以上によれば,申立人が主張するように,本件発明1が,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量を特定しないからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしていないなどということはできない。また,本件発明2?7についても同様である。 よって,申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)は,理由がない。 したがって,申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (5)申立理由7(実施可能要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの) 申立人は,申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)と同様の理由により,当業者は,過度の試行錯誤を経なければ,本件発明1を実施することができないと主張する。また,本件発明2?7についても同様に主張する。 しかしながら,上記(4)で申立理由5(サポート要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)について述べたのと同様の理由により,当業者であれば,過度の試行錯誤を要することなく,本件発明1を実施できることは,当業者にとって明らかである。 よって,申立理由7(実施可能要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)は,理由がない。 したがって,申立理由7(実施可能要件)(うち,ポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物の含有量に関するもの)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 (6)申立理由6(明確性要件)(うち,「など」の字句に関するもの及び官能基数に関するもの) ア 「など」の字句に関するもの 申立人は,本件発明1は,「など」の字句を含むため,発明の範囲が不明確であり,本件発明1は明確でないと主張する。また,本件発明2?7についても同様に主張する。 確かに,請求項1には,「ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド」との記載があるが,「ビスフェノールAジグリシジルエーテルなど」の記載が,「ビスエポキシド」の例示であることは,明らかである。そして,本件発明1においては,ポリアミド鎖延長化合物が,ビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択されるものであることは,明確である。 以上によれば,申立人が主張するように,本件発明1が「など」の字句を含むからといって,本件発明1が明確でないなどということはできない。また,本件発明2?7についても同様である。 イ 官能基数に関するもの 申立人は,本件明細書【0012】には,ポリアミド鎖延長化合物について,「少なくとも2つの官能基を含有する」と記載されているが,特許権者は審査段階で,「本件発明1のポリアミド鎖延長化合物は,2個のヒドロキシル基を有するジアルコールであり,3つ以上の水酸基を有するPHAとは異なる」と主張しているから,本件発明1におけるポリアミド鎖延長化合物が一体何なのか,不明確であると主張する。また,本件発明2?7についても同様に主張する。 しかしながら,前記第2のとおり,本件訂正により,本件発明1におけるポリアミド鎖延長化合物について,「ジアルコール」を含む選択肢の一部が削除されているから,上記主張は理由がないものである。 また,申立人は,上記主張に関連して,ポリアミド鎖延長化合物である,エポキシド官能基を有するポリマーにおいては,官能基数は何であってもよいのか不明であるとも主張する。 しかしながら,ポリアミド鎖延長化合物は,その文言どおり,ポリアミド鎖を延長する作用を有する化合物であるから,エポキシド官能基を有するポリマーにおける官能基数については,ポリアミド鎖を延長することが可能な数であれば良く,その具体的な数は,当業者であれば容易に理解できるものである。 ウ 小括 よって,申立理由6(明確性要件)(うち,「など」の字句に関するもの及び官能基数に関するもの)は,理由がない。 したがって,申立理由6(明確性要件)(うち,「など」の字句に関するもの及び官能基数に関するもの)によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱、光、及び/又は悪天候に対してポリアミドを安定化させるための薬剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用であって、 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含有する組成物が、空気中での210℃、1000時間のエージング試験後に、エージング試験前の同じ組成物と比較して、ISO規格527/1Aに準拠して4mm厚の試験片について測定して、50%以上の引張り破断応力の保持率を有すること、及び ポリアミド鎖延長化合物が、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスエポキシド及びエポキシド官能基を有するポリマーから成る群から選択されることを特徴とし、 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物から作られる物品が、高温、特に80℃以上の温度にさらされる用途のために作られる物品であることを特徴とする、使用。 【請求項2】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が、組成物の全重量に対して0.01重量%?5重量%のポリアミド鎖延長化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。 【請求項3】 ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド66及びポリアミド66/6Tを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。 【請求項4】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が、少なくとも1つの強化又は増量フィラーを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。 【請求項5】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が、少なくとも1つの耐衝撃性改良剤を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。 【請求項6】 少なくともポリアミド及びポリアミド鎖延長化合物を含む組成物が、組成物の熱安定化に関与する少なくとも1つの他の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。 【請求項7】 物品が、流体を収容又は輸送するために製造される物品であることを特徴とする、請求項6に記載の使用。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-07-10 |
出願番号 | 特願2014-519506(P2014-519506) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 537- YAA (C08L) P 1 651・ 121- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 渡辺 陽子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
井上 猛 海老原 えい子 |
登録日 | 2018-04-27 |
登録番号 | 特許第6328554号(P6328554) |
権利者 | ローディア オペレーションズ |
発明の名称 | 安定化剤としてのポリアミド鎖延長化合物の使用 |
代理人 | 清流国際特許業務法人 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |