• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1354932
異議申立番号 異議2018-700904  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-08-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6320239号発明「半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート及び半導体パッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6320239号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6320239号の請求項2-5、7-12に係る特許を維持する。 特許第6320239号の請求項1及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6320239号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年8月20日(優先権主張 平成25年9月24日)に特許出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許公報が発行されたものである。
その後、平成30年11月9日に、本件特許の請求項1?12に係る特許に対して、特許異議申立人である益川教親(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
平成31年 2月 1日 :取消理由通知書
同年 4月 2日 :意見書、訂正請求書(特許権者)
令和 1年 5月15日 :意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成31年4月2日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、以下のとおりに訂正する。
「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含み、
活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ
150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、
前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)」

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか」とあるのを、「請求項2?5のいずれか」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか」とあるのを、「請求項2?5及び7のいずれか」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか」とあるのを、「請求項2?5、7及び8のいずれか」に訂正する。

そして、訂正前の請求項2?12は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正は一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3に係る訂正は、請求項1又は6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する(特許法第120条の5第2項ただし書1号)。また、上記訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2を独立形式にするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する(特許法第120条の5第2項ただし書4号)。また、上記訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4?6について
訂正事項4?6に係る訂正は、請求項1及び6が削除されたことに伴い、引用する請求項から削除された請求項を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、上記訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 まとめ
上記2のとおり、訂正事項1?6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項2?5、7?12に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項2?5、7?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明2」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】
エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含み、
活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ
150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、
前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)
【請求項3】
前記無機充填材が平均粒子径0.5μm?50μmのシリカである請求項2に記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項4】
前記硬化促進剤がイミダゾール系硬化促進剤である請求項2又は3に記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項5】
前記無機充填材の含有量が20体積%?90体積%である請求項2?4のいずれかに記載
の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’が3GPa?30GPaである請求項2?5のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項8】
前記熱膨張係数αが3ppm/K?50ppm/Kである請求項2?5及び7のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項9】
請求項2?5、7及び8のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート及び前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込まれた1又は複数の半導体チップを備える封止体を形成する工程(A)と、
前記封止体の樹脂シートを熱硬化する工程(B)とを含む半導体パッケージの製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)において、半導体ウェハにフリップチップ接続された前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成する請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)において、仮固定材に固定された前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成する請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項12】
前記工程(A)において、前記半導体ウェハにフリップチップ接続された複数の前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成し、
前記工程(B)の後、前記封止体を目的の半導体チップ単位でダイシングする工程(C)をさらに含む請求項9又は10に記載の半導体パッケージの製造方法。」

第4 取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由
訂正前の本件発明1?12は、下記のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?12に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記の甲第1号証?甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出する。

(1)申立理由1-1(新規性):訂正前の本件発明1?9は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)申立理由1-2(新規性):訂正前の本件発明1?9は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)申立理由2-1(進歩性):訂正前の本件発明1?9は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)申立理由2-2(進歩性):訂正前の本件発明10?12は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5)申立理由3(実施可能要件):本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

甲1:特開2013-136821号公報
甲2:「イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤 キュアゾール」のカタログ(四国化成工業株式会社、平成9年3月発行)のコピー
甲3:特開2013-6406号公報
甲4:特開2005-60584号公報
甲5:特開2006-19714号公報
甲6:特開2011-82287号公報
甲7:特開2012-129260号公報
甲8:「球状シリカ/球状アルミナ 製品カタログ Ver.9」(電気化学工業株式会社、2010年5月12日)のコピー

2 取消理由通知書に記載した取消理由
取消理由1.(新規性)訂正前の請求項1?9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
・引用文献等
(1)甲1、甲2、甲8(申立理由1-1に該当)
(2)甲3(申立理由1-2に該当)
(3)甲4、及び、特開2006-241449号公報(当審が職権調査により発見した文献。以下、「引用文献1」という。)

取消理由2.(進歩性)訂正前の請求項1?12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項 1?9
・引用文献等
(1)甲1、甲2、甲8(申立理由2-1に該当)
(2)甲3(申立理由2-1に該当)
(3)甲4、引用文献1

・請求項 10?12
・引用文献等
(1)甲1、甲2、甲8、及び、特開2013-162042号公報(当審が職権調査により発見した文献。以下、「引用文献2」という。)(申立理由2-2に該当)
(2)甲3、引用文献2(申立理由2-2に該当)
(3)甲4、引用文献1及び2

取消理由3.(実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (申立理由3に一部該当)

取消理由4.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由1?4、及び、特許異議申立書に記載した申立理由1-1?申立理由3によっては、本件特許の請求項2?5、7?12に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)甲1を主引用文献とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化型樹脂フィルムと剥離フィルムとを有し、
前記熱硬化型樹脂フィルムと前記剥離フィルムとの間に、無電解めっき法に用いられる触媒層が設けられていることを特徴とする電子部品用樹脂シート。
・・・
【請求項7】
請求項1?3のいずれか1に記載の電子部品用樹脂シートを準備する工程と、
前記電子部品用樹脂シートを成型する工程と、
成型後の前記電子部品用樹脂シートを加熱し、前記熱硬化型樹脂フィルムを熱硬化させる工程と、
前記熱硬化型樹脂フィルムを熱硬化させた後、前記剥離フィルムを剥離する工程と、
無電解めっき法により前記触媒層に無電解めっき層を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(イ)「【0041】
・・・
熱硬化型樹脂フィルム12の厚さ(複層の場合は、総厚)は特に限定されないものの、電子部品の埋め込み性等を考慮すると100μm以上1000μm以下が好ましい。なお、熱硬化型樹脂フィルム12の厚さは、電子部品の厚さを考慮して適宜設定することができる。」

(ウ)【0051】
(半導体装置の製造方法)
次に、電子部品用樹脂シートを用いた半導体装置の一製造方法について説明する。図5?図8は、電子部品用樹脂シートを用いた半導体装置の製造方法の一例を説明するための断面模式図である。本実施形態に係る電子部品用樹脂シートの製造方法は、前記に記載の電子部品用樹脂シートを準備する工程と、前記電子部品用樹脂シートを成型する工程と、成型後の前記電子部品用樹脂シートを加熱し、前記熱硬化型樹脂フィルムを熱硬化させる工程と、前記熱硬化型樹脂フィルムを熱硬化させた後、前記剥離フィルムを剥離する工程と、無電解めっき法により前記触媒層に無電解めっき層を形成する工程とを少なくとも具備する。
【0052】
まず、前記に記載の電子部品用樹脂シート10を準備する。
【0053】
次に、電子部品用樹脂シート10を成型する。具体的には、半導体チップ42が設けられている基板40に、電子部品用樹脂シート10を、熱硬化型樹脂フィルム12を対向させるようにして押しつけ、半導体チップ42を熱硬化型樹脂フィルム12に埋め込むように成型する(図5参照)。これにより、半導体チップ42を熱硬化型樹脂フィルム12により封止する(図6参照)。埋め込みは、プレス成型機や、ロール成型機を用い、電子部品用樹脂シート10の両側から圧力を加えることにより行なうことができる。これにより、半導体チップ42が熱硬化型樹脂フィルム12により封止された状態とすることができる(図6参照)。埋め込み温度は60?150℃が好ましく、より好ましくは80?120℃である。また、埋め込み圧力は0.02?3MPaが好ましく、より好ましくは0.05?1MPaである。
【0054】
次に、成型後の電子部品用樹脂シート10を加熱し、熱硬化型樹脂フィルム12を熱硬化させる。熱硬化工程における加熱温度は、90?200℃で行なうことが好ましく、120?175℃で行なうことがより好ましい。また、加熱時間は、30?240分であることが好ましく、60?180分であることがより好ましい。
【0055】
熱硬化型樹脂フィルム12を熱硬化させた後、次に、剥離フィルム16を剥離する(図7参照)。剥離は、従来公知の剥離装置を用いて行なうことができる。」

(エ)「【0058】
(実施例1)
<熱硬化型樹脂フィルムの作製>
下記(a)?(f)を2軸混練機で120℃、5分間混練、押出しすることにより、厚み0.7μmの熱硬化型樹脂フィルムAを得た。
(a)エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY) 286部
(b)フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS) 303部
(c)硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ) 6部
(d)シリカフィラー(電気化学工業社製、FB-9454-FC)3695部
(e)シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM-403) 5部(f)充填剤としてのカーボン(三菱化学社製、#20) 5部
【0059】
<Pd核付き剥離フィルムの作製>
剥離フィルムとして、PETフィルム(三菱化学製MRF-50、厚み50μm、片面のみシリコーン処理品)を準備した。次に、このPETフィルムを、スズ-パラジウムコロイド液(純水、ローム・アンド・ハース社製CATAPREP404、CATAPOSIT44の混合液、混合比率は、86:10:4)に45℃の条件下、4分間浸漬させた。その後、常温(23℃)にて水洗を行った。これにより、PETフィルムの非シリコーン処理面側にPd(パラジウム)核を形成させたPd核付き剥離フィルムAを得た。
【0060】
<電子部品用樹脂シートの作製>
Pd核付きPETフィルムの非シリコーン処理面を、前記にて作製した熱硬化型樹脂フィルムAと貼り合わせた。また、カバーフィルムAとして、触媒核を付与していないPETフィルム(三菱化学製MRF-50、厚み50μm、片面のみシリコーン処理品)を準備し、熱硬化型樹脂フィルムAのPd核付きPETフィルムを貼り合わせなかった面に、カバーフィルムAを貼り合わせた。これにより、本実施例1に係る電子部品用樹脂シートAを得た。」

(オ) 「
【図5】

【図6】

【図7】



上記ア(エ)によると、甲1には、(a)エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)286部、(b)フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS)303部、(c)硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ)6部、(d)シリカフィラー(電気化学工業社製、FB-9454-FC)3695部、(e)シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM-403)5部、及び(f)充填剤としてのカーボン(三菱化学社製、#20)5部を2軸混練機で120℃、5分間混練、押出しすることにより得た厚み0.7μmの熱硬化型樹脂フィルムAが記載されている。
ここで、上記熱硬化型樹脂フィルムの厚さは100?1000μmが好ましいこと(甲1の摘記ア(イ))、及び、シリカフィラーであるFB-9454-FCのd50が17.6μmであること(後述する甲8の摘記ウ(イ))から、熱硬化型樹脂フィルムAの厚み0.7μmは、0.7mmの誤記であると解される。
上記熱硬化型樹脂フィルムAは、上記ア(ア)によると、熱硬化型樹脂フィルムと剥離フィルムとを有する電子部品用樹脂シートに用いられるものであり、この電子部品用樹脂シートは、上記ア(ウ)の段落【0053】によると、半導体チップが設けられている基板に、熱硬化型樹脂フィルムを対向させるようにして押しつけ、半導体チップを上記熱硬化型樹脂フィルムに埋め込むように成型することにより、上記半導体チップを熱硬化型樹脂フィルムにより封止するものである。

そうすると、甲1には、次の発明が記載されている。

「(a)エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)286部、(b)フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS)303部、(c)硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ)6部、(d)シリカフィラー(電気化学工業社製、FB-9454-FC)3695部、(e)シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM-403)5部、及び(f)充填剤としてのカーボン(三菱化学社製、#20)5部を2軸混練機で120℃、5分間混練、押出しすることにより得た厚み0.7mmの熱硬化型樹脂フィルムであって、半導体チップが設けられている基板に、熱硬化型樹脂フィルムを対向させるようにして押しつけ、半導体チップを上記熱硬化型樹脂フィルムに埋め込むように成型することにより、上記半導体チップを熱硬化型樹脂フィルムにより封止するものである、上記熱硬化型樹脂フィルム。」(以下、「甲1発明」という。)

また、甲1の上記ア(ウ)には、「半導体チップ42が設けられている基板40に、電子部品用樹脂シート10を、熱硬化型樹脂フィルム12を対向させるようにして押しつけ、半導体チップ42を熱硬化型樹脂フィルム12に埋め込むように成型する(図5参照)。・・・次に、成型後の電子部品用樹脂シート10を加熱し、熱硬化型樹脂フィルム12を熱硬化させる。」と記載されている。

そうすると、甲1には、次の発明が記載されている。
「甲1発明の熱硬化型樹脂フィルムを、半導体チップが設けられている基板に対向させるようにして押しつけ、半導体チップを上記熱硬化型樹脂フィルムに埋め込むように成型して封止し、成型後の電子部品用樹脂シートを加熱して熱硬化させる方法。」(以下、「甲1発明b」という。)

イ 甲2に記載された事項
甲2には、次の記載がある。


」(第5?6頁)

ウ 甲8に記載された事項
甲8には、次の記載がある。
(ア)「

」(第5頁)

(イ)「

」(第6頁)

エ 引用文献2に記載された事項
当審が職権調査により発見した引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
半導体素子を搭載したウエハの半導体素子搭載面又は半導体素子を形成したウエハの半導体素子形成面を一括封止するための封止材積層複合体であって、
支持ウエハと、該支持ウエハの片面上に形成された未硬化の熱硬化性樹脂からなる未硬化樹脂層とからなるものであることを特徴とする封止材積層複合体。
・・・
【請求項8】
半導体装置を製造する方法であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の封止材積層複合体の未硬化樹脂層により半導体素子を搭載したウエハの半導体素子搭載面、又は半導体素子を形成したウエハの半導体素子形成面を被覆する被覆工程、
該未硬化樹脂層を加熱、硬化することで、前記半導体素子搭載面又は前記半導体素子形成面を一括封止し、封止後半導体素子搭載ウエハ又は封止後半導体素子形成ウエハとする封止工程、及び
該封止後半導体素子搭載ウエハ又は該封止後半導体素子形成ウエハをダイシングし、個片化することで、半導体装置を製造する個片化工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(イ)「【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、大径や薄型のウエハを封止した場合であっても、ウエハの反り、半導体素子の剥離を抑制でき、半導体素子を搭載或いは形成したウエハの半導体素子搭載面或いは形成面をウエハーレベルで一括封止でき、かつ封止後には耐熱性や耐湿性等の封止性能に優れ、非常に汎用性が高い封止材積層複合体を提供することを目的とする。
【0009】
また、該封止材積層複合体により封止された封止後半導体素子搭載ウエハ及び封止後半導体素子形成ウエハ、該封止後半導体素子搭載ウエハ及び該封止後半導体素子形成ウエハを個片化した半導体装置、及び前記封止材積層複合体を用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0035】
前記未硬化樹脂層は、特に制限はされないが、通常半導体素子の封止に使用される液状エポキシ樹脂や固形のエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、又はエポキシ樹脂とシリコーン樹脂からなる混成樹脂からなる未硬化樹脂層であることが好ましい。特に、前記未硬化樹脂層は、50℃未満で固形化し、かつ50℃以上150℃以下で溶融するエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシシリコーン混成樹脂のいずれかを含むものであることが好ましい。このようなものであれば、ハンドリングが容易であり、製造するのにも封止材として使用するのにも都合がよい。
【0036】
[エポキシ樹脂]
前記エポキシ樹脂としては、特に制限はされないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂又は4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂のようなビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、及びフェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂など室温で液状や固体の公知のエポキシ樹脂が挙げられる。また、必要に応じて、上記以外のエポキシ樹脂を一定量併用することができる。
【0037】
前記エポキシ樹脂からなる未硬化樹脂層は、半導体素子を封止する樹脂層となることから塩素等のハロゲンイオン、またナトリウム等のアルカリイオンは極力減らしたものであることが好ましい。イオン交換水50mlに試料10gを添加し、密封して120℃のオーブン中に20時間静置した後、加熱抽出する120℃での抽出でいずれのイオンも10ppm以下であることが望ましい。
【0038】
エポキシ樹脂からなる未硬化樹脂層にはエポキシ樹脂の硬化剤を含めることができる。該硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、各種アミン誘導体、酸無水物や酸無水物基を一部開環させカルボン酸を生成させたものなどを使用することができる。なかでも本発明の封止材積層複合体を用いて製造される半導体装置の信頼性を確保するためにフェノールノボラック樹脂が望ましい。特に、前記エポキシ樹脂と該フェノールノボラック樹脂の混合比をエポキシ基とフェノール性水酸基の比率が1:0.8?1.3となるように混合することが好ましい。
【0039】
更に、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤の反応を促進するため、反応促進剤としてイミダゾール誘導体、フォスフィン誘導体、アミン誘導体、有機アルミニウム化合物などの金属化合物等を使用しても良い。
【0040】
エポキシ樹脂からなる未硬化樹脂層には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、樹脂の性質を改善する目的で種々の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤、ワックス類、ハロゲントラップ剤等の添加剤を添加配合することができる。」

(エ)「【0076】
<半導体装置の製造方法>
本発明の半導体装置の製造方法は、前記封止材積層複合体の未硬化樹脂層により半導体素子を搭載したウエハの半導体素子搭載面、又は半導体素子を形成したウエハの半導体素子形成面を被覆する被覆工程、該未硬化樹脂層を加熱、硬化することで、前記半導体素子搭載面又は前記半導体素子形成面を一括封止し、封止後半導体素子搭載ウエハ又は封止後半導体素子形成ウエハとする封止工程、及び該封止後半導体素子搭載ウエハ又は該封止後半導体素子形成ウエハをダイシングし、個片化することで、半導体装置を製造する個片化工程を有する。以下、図4を用いて本発明の半導体装置の製造方法について説明する。
【0077】
[被覆工程]
本発明の半導体装置の製造方法に係る被覆工程は、支持ウエハ1と未硬化樹脂層2を有する封止材積層複合体10の未硬化樹脂層2により、接着剤4を介して半導体素子3を搭載したウエハ5の半導体素子搭載面、又は半導体素子(不図示)を形成したウエハ(不図示)の半導体素子形成面を被覆する工程である(図4(A))。
【0078】
[封止工程]
本発明の半導体装置の製造方法に係る封止工程は、前記封止材積層複合体10の未硬化樹脂層2を加熱、硬化して硬化後の樹脂層2’とすることで、前記半導体素子3を搭載したウエハ5の半導体素子搭載面又は前記半導体素子(不図示)を形成したウエハ(不図示)の半導体素子形成面を一括封止し、封止後半導体素子搭載ウエハ11又は封止後半導体素子形成ウエハ(不図示)とする工程である(図4(B))。
【0079】
[個片化工程]
本発明の半導体装置の製造方法に係る個片化工程は、前記封止後半導体素子搭載ウエハ11又は前記封止後半導体素子形成ウエハ(不図示)をダイシングし、個片化することで、半導体装置13、14(図3(b)参照)を製造する工程である(図4(C)、(D))。」

(オ)「【0092】
[実施例2]
[半導体素子が搭載されたウエハ]
直径300mm(12インチ)で厚みが200ミクロンのシリコンウエハ上に、高温で接着力が低下する接着剤を介して、個片化した半導体素子である400個のシリコンチップ(形状:5mm×7mm 厚み125ミクロン)を整列し搭載した。
【0093】
[未硬化の熱硬化性樹脂からなる未硬化樹脂層を形成するための組成物の作製]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN1020 日本化薬製)60質量部、フェノールノボラック樹脂(H-4 群栄化学製)30質量部、球状シリカ(龍森製平均粒径7ミクロン)400質量部、触媒TPP(トリフェニルホスフィン 北興化学工業製)0.2質量部、シランカップリング材(KBM403 信越化学工業製)0.5質量部を高速混合装置で十分混合した後、連続混練装置で加熱混練してシート化し冷却した。シートを粉砕し顆粒状の粉末としてエポキシ樹脂組成物(II-a)を得た。
【0094】
[封止材積層複合体の作製]
直径300mm(12インチ)のシリコンウエハ(支持ウエハ)を減圧下で加熱圧縮できる圧縮成形装置の下金型上にセットし、その上にエポキシ樹脂組成物(II-a)の顆粒粉末を均一に分散させた。上下の金型温度を80℃にし、上金型にはフッ素樹脂コートしたPETフィルム(剥離フィルム)をセットして金型内を真空レベルまで減圧し、シリコンウエハ(支持ウエハ)に樹脂厚みが300ミクロンになるように3分間圧縮成形して封止材積層複合体(II-b)を作製した。
【0095】
[半導体素子が搭載されたウエハの被覆及び封止]
次に、ニチゴーモートン社製のプレート温度を170℃に設定した真空ラミネーション装置を用いて被覆、封止した。まず、下側プレートに上記半導体素子が搭載されたウエハをセットし、その上に剥離フィルムを除去した封止材積層複合体(II-b)の未硬化樹脂層であるエポキシ樹脂組成物(II-a)面を半導体素子搭載シリコンウエハ上の半導体素子搭載面に合わせて被覆した。その後、プレートを閉じ5分間真空圧縮成形することで硬化封止した。硬化封止後、170℃で4時間ポストキュアして、封止後半導体素子搭載ウエハ(II-c)を得た。」

(カ) 「



オ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明の「フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS)」は、本件発明2の「フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS)」と型番が同じであるし、本件明細書(段落【0105】)によると、フェノールノボラック樹脂の一種であることが分かるから、両者は同じものである。また、本件発明2の「熱硬化性樹脂シート」はその厚みが特定されていないが、本件明細書(段落【0070】)には、「樹脂シート11の厚みは特に限定されないが、好ましくは100μm以上・・・より好ましくは1000μm以下である。」と記載されているから、甲1発明の0.7mm(700μm)と重複するから、甲1発明の「フィルム」は、本件発明2の「シート」に相当する。
そして、甲1発明の「エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)」、「シリカフィラー(電気化学工業社製、FB-9454-FC)」、「硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ)」及び「熱硬化型樹脂フィルム」は、本件発明2の「エポキシ樹脂」、「無機充填材」、「硬化促進剤」及び「熱硬化性樹脂シート」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「半導体チップが設けられている基板に、熱硬化型樹脂フィルムを対向させるようにして押しつけ、半導体チップを上記熱硬化型樹脂フィルムに埋め込むように成型することにより、上記半導体チップを熱硬化型樹脂フィルムにより封止する」という用途は、本件発明2の「半導体チップ封止用」に相当する。

そうすると、本件発明2と甲1発明とは、「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」む「半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件発明2は、「活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす」
「30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)」であるのに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。

まず、「活性化エネルギー」とは、本件出願時の技術常識を見ると、化学反応において、ポテンシャルエネルギーの高い臨界状態を超えるに必要な最小のエネルギーをいい、活性錯合体と原系の最小のエネルギー準位の差として定義される(必要があれば、化学大辞典2縮刷版(共立出版株式会社、1997年9月20日発行)433頁の「活性化エネルギー」の項を参照)。
そして、本件発明2では、本件明細書の段落【0109】に示された計算式で算出される値である。
上記相違点1のうち、活性化エネルギーについて、本件明細書には、次の記載がある。
「【0025】
樹脂シート11の活性化エネルギー(Ea)は、30kJ/mol以上である。30kJ/mol以上であるので、加熱により熱硬化性樹脂シートを凹凸(半導体チップなどにより形成された凹凸)に追従させた後に、熱硬化できる。その結果、ボイドの発生を低減できる。また、保存性が良好である。樹脂シート11の活性化エネルギーは、好ましくは40kJ/mol以上、より好ましくは50kJ/mol以上、さらに好ましくは60kJ/mol以上である。
【0026】
また、樹脂シート11の活性化エネルギーは、120kJ/mol以下である。120kJ/mol以下であり、比較的低温で熱硬化できるため、反りを小さくできる。また、熱硬化させるために長時間加熱する必要がないため、生産性に優れる。樹脂シート11の活性化エネルギーは、好ましくは100kJ/mol以下である。
なお、活性化エネルギーは実施例に記載の方法で測定できる。
【0027】
樹脂シート11の活性化エネルギーは、硬化促進剤の種類、硬化促進剤の量などによりコントロールできる。」
そして、本件発明2の具体例である実施例1(以下、「本件実施例1」という。)には、エポキシ樹脂A:新日鐵化学((株))製のYSLV-80XY(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量200g/eq.軟化点80℃)286部、フェノール樹脂A:明和化成社製のMEH-7851-SS(ビフェニルアラルキル)骨格を有するフェノールノボラック樹脂、水酸基当量203g/eq.軟化点67℃)303部、硬化促進剤A:四国化成工業社製の2PHZ-PW(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール)6部、無機充填剤A:電気化学工業社製のFB-9454(球状溶融シリカ粉末、平均粒子径20μm)3805部、シランカップリング剤:信越化学社製のKBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5部、及びカーボンブラック:三菱化学社製の#20 5部を、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより作製した厚さ500μmの樹脂シートが記載され、活性化エネルギーが73kJ/molであることが記載されている(表1及び段落【0107】を参照)。
また、例えば、実施例1と比較例3との対比から、硬化促進剤が少ないと活性化エネルギーが高くなることが理解できる(表1を参照)。

そこで、本件実施例1と甲1発明を対比すると、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シランカップリング剤、及びカーボンブラックの種類も含有量も一致する。また、本件実施例1の硬化促進剤A(2PHZ-PW)及び甲1発明の硬化促進剤(2PHZ)は、いずれも2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールであり、種類も含有量も一致する(甲2参照)。そして、本件実施例1の無機充填剤A(FB-9454)は球状溶融シリカ粉末であり、甲8の摘記ウ(ア)及び(イ)も参酌すると、本件実施例1の無機充填剤A(FB-9454)と甲1発明のシリカフィラー(FB-9454-FC)は、粒度分布やd50が異なるものの、球状シリカである点で共通し、含有量も概ね一致する。これらのことから、本件実施例1と甲1発明とは、配合時の成分組成が概ね一致しているということができ、上記本件明細書の段落【0027】の記載によれば、活性化エネルギーの値も同程度であると解することができるかも知れない。
しかしながら、本件発明2の具体例である熱硬化性樹脂シートは、2軸混練機を用いて120℃、2分間で混練することで得られているのに対し、甲1発明の熱硬化型樹脂フィルムは、120℃、5分間である。
ここで、甲1には、樹脂シートを熱硬化させる温度は90?200℃が好ましく、120?175℃がより好ましく、時間は30?240分間であることが好ましいことが記載されている(摘記ア(イ))ことからすれば、甲1発明の混練温度である120℃において、硬化促進剤の反応を伴う硬化反応が一部始まっており、甲1発明の熱硬化型樹脂フィルムに含まれる未反応の硬化促進剤の量は配合時よりも減少しているものと解される。

これらのことから、本件実施例1と甲1発明とは、配合時の成分組成が概ね同じであっても、120℃での混練時間は甲1発明の方が長いことによって、甲1発明は本件実施例1よりも混練後の活性化エネルギーが高いことが推測され、甲1発明の活性化エネルギーが、本件実施例1と同じ73kJ/mol前後であって本件発明2の式(1)を満たすとはいえない。
そうすると、上記硬化物のガラス転移温度や式(2)の要件を検討するまでもなく、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1、甲2及び甲8には、本件発明2の式(1)を満たすことが動機付けられる記載は見当たらず、本件発明2が、甲1発明、並びに、甲1、甲2及び甲8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件発明2は、「比較的低温で熱硬化できるため、反りを小さくでき」る(本件明細書の段落【0008】)、「ボイドの発生を低減できる。また、保存性が良好である。」(同【0009】)、「熱膨張係数の違いにより生じる熱応力を緩和でき、信頼性に優れた半導体パッケージを得ることができる」(同【0010】)という効果を奏するものであり、一方、甲1には、熱硬化性フィルムへのめっき形成性という効果を示すことが記載されているにとどまり、本件発明2の上記効果を示唆するものではない。

カ 本件発明3?5、7及び8について
請求項3?5、7及び8は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2について上記オで述べたのと同じ理由により、本件発明3?5、7及び8は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1発明、並びに、甲1、甲2及び甲8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

キ 本件発明9?12について
本件発明9?12と甲1発明bを対比する。
請求項9?12は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、甲1発明bは甲1発明を含むものであるから、本件発明2について上記オで述べたのと同じ理由により、本件発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、本件発明9?12は、甲1発明b、並びに、甲1、甲2、甲8及び引用文献2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ク 申立人の意見書における主張の検討
申立人は、甲1発明の硬化促進剤である2PHZの融点は213?225℃であり(甲2の摘記イ)、その混練温度は120℃であるから、5分間の混練で活性化エネルギーEaに本件発明2と実質的な差が生じる程度に硬化促進剤の反応が進行する蓋然性は低い旨を主張する。
しかしながら、上記オで述べたように、甲1には、硬化温度が90?200℃が好ましいことが記載されており(摘記ア(ウ))、混練温度である120℃に保持することで硬化促進剤の反応を伴う硬化反応が始まり、甲1発明の熱硬化性樹脂シート中に含まれる未反応の硬化促進剤の量は配合時よりも減少しているものと解される。
一方、申立人は、2PHZの融点が213?225℃であることを理由に、120℃の混練温度だと反応が進行する蓋然性が低いということを、技術常識を引用するなどして述べている訳でもない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)甲3を主引用文献とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
ア 甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
甲3には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
表面積4.00mm^(2)当たりにおける、気孔径20μm以上の気孔数が30個以下であることを特徴とする、樹脂混練物。」

(イ)「【0022】
次いで、大きさが調整された樹脂混練物を、加熱して硬化させた後、必要により冷却する。
【0023】
硬化条件としては、温度が、例えば、100?300℃、好ましくは、150?200℃であり、時間が、例えば、0.1?10時間、好ましくは、0.5?5時間である。」

(ウ)「【0046】
このような樹脂混練物は、例えば、原料となる混練対象物を、混練機により混練されることにより調製される。
【0047】
混練対象物としては、例えば、樹脂や、樹脂と添加剤との混合物などが挙げられる。
【0048】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂などの熱硬化性樹脂、例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0049】
このような樹脂のなかでは、好ましくは、熱硬化性樹脂が挙げられる。」

(エ)「【0114】
混練機1において、樹脂混練物を調製するには、まず、混練機1の導入口4から、混練対象物Aをバレル2の内部に導入する。
【0115】
そして、駆動軸8に駆動源(図示せず)からの駆動力が伝達されると、混練軸3が回転駆動し、混練対象物Aが第1フィード部23により攪拌されながら、第1パドル部27に向けて搬送される。
【0116】
このとき、第1フィード部23の外方に位置するバレル2(溶融混練部6)は、ヒータ(図示せず)により、例えば、20?25℃に調整されている。また、混練対象物Aの導入とともに、バレル2の内部に侵入した空気などは、導入口4側のベント部7を開放することにより、バレル2の外部に放出される。
【0117】
次いで、搬送された混練対象物Aは、第1パドル部27において混練される。
【0118】
このとき、第1パドル部27の外方に位置する溶融混練部6は、ヒータ(図示せず)により、例えば、40?80℃に調整されている。
【0119】
そして、混練された混練対象物Aは、第1フィード部23の回転駆動により搬送される混練対象物Aの押し出し力により、第1リバース部30に向けて押し出される。
【0120】
第1リバース部30に向けて押し出された混練対象物Aのうち、大部分は第1リバース部30を通過し、第2フィード部24に到達する。一方、押し出された混練対象物Aのうち、一部は第1リバース部30の回転駆動により、第1パドル部27に戻され、再度混練される。
【0121】
これによって、混練対象物Aの混練の促進を図るとともに、混練対象物Aの搬送速度が調整される。
【0122】
次いで、第1リバース部30を通過した混練対象物Aは、第2フィード部24により、第2パドル部28および第2リバース部31に向けて搬送される。
【0123】
これによって、混練対象物Aは、第1パドル部27および第1リバース部30と同様に、第2パドル部28および第2リバース部31を、混練されながら通過する。
【0124】
このとき、第2パドル部28の外方に位置する溶融混練部6は、ヒータ(図示せず)により、例えば、60?120℃に調整されている。
【0125】
次いで、第2リバース部31を通過した混練対象物Aは、続く第3フィード部25により、第3パドル部29に搬送されて、第3パドル部29おいてさらに混練される。これにより、混練対象物Aは、樹脂混練物(以下、樹脂混練物Bとする。)として調製される。
【0126】
このとき、第3パドル部29の外方に位置する溶融混練部6は、ヒータ(図示せず)により、例えば、80?140℃に調整されている。
【0127】
そして、樹脂混練物Bは、混練軸3の回転駆動により押し出されて、第4フィード部26に到達する。
【0128】
このとき、吐出口5側のベント部7に連結されたポンプ(図示せず)を駆動させることにより、樹脂混練物B中の水分や揮発成分などが溶融混練部6の外部に排出される。
【0129】
これによって、樹脂混練物B中における気孔の低減を図ることができる。
【0130】
次いで、樹脂混練物Bは、第4フィード部26によりパイプ部12に搬送される。
【0131】
パイプ部12では、上記したように、全周面にわたって凹凸がないように形成されている。そのため、パイプ部12において、樹脂混練物Bは、混練軸3の軸線方向と交差する方向のせん断が抑制され、パイプ部12の軸線方向に沿って円滑に移動される。
【0132】
そして、樹脂混練物Bの大部分は、吐出口5から樹脂混練物Bが吐出される。
【0133】
一方、吐出されることなく吐出口5を通過して、第3リバース部32に至った樹脂混練物Bも、第3リバース部32により押し戻され、吐出口5から樹脂混練物Bが吐出される。
【0134】
以上によって、樹脂混練物Bが調製される。
【0135】
このような樹脂混練物Bは、パドル部11により混練された後、混練軸3の軸線方向と交差する方向のせん断が抑制されたパイプ部12を通過し、吐出口5から吐出されるため、気孔の発生、すなわち、気孔の気孔径および気孔数を低減することができる。」

(オ)「【0146】
そして、上記のように調製された樹脂混練物Bは、必要により、例えば、ミキシングロール、カレンダーロール、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、シートとして成形される。
【0147】
このような成形方法のなかでは、好ましくは、押出成形が挙げられる。
【0148】
また、このように成形されるシートは、詳しくは、樹脂シートであって、その厚みは、例えば、100?1500μm、好ましくは、300?1000μmである。
【0149】
また、このようなシートは、樹脂混練物Bのみから単層として形成することもでき、また、例えば、ガラスクロスなどの基材に積層された複数層として形成することもできる。
【0150】
本発明の樹脂混練物は、表面積4.00mm^(2)当たりにおける、気孔径20μm以上の気孔数が30個以下である。」

(カ)「【0151】
そのため、各種産業製品、具体的には、実装基板上の半導体素子、コンデンサ、抵抗素子などの電子部品の封止などにおいて、好適に使用することができる。
【0152】
また、本発明のシートは、上記の樹脂混練物から形成されるために、上記した電子部品の封止などに好適に使用することができ、かつ、シート状であるために取扱性の向上を図ることができる。」

(キ)「【実施例】
【0153】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。
【0154】
実施例1および2
表1に示す処方(単位:質量部)において各成分(混練対象物)を、図1に示す混練機1の導入口4からそれぞれ導入し、樹脂混練物を得た。なお、処方例1により調製された樹脂混練物を実施例1とし、処方例2により調製された樹脂混練物を実施例2とした。
【0155】
また、実施例2における樹脂混練物は、樹脂密度が98.9%、水分量が188ppmであった。
【0156】
実施例3
表1に示す処方2(単位:質量部)において各成分(混練対象物)を、図3に示す混練機40の導入口4からそれぞれ導入し、樹脂混練物(実施例3)を得た。
【0157】
また、実施例3における樹脂混練物は、樹脂密度が99.7%、水分量が232ppmであった。
【0158】
比較例1および2
図1に示す混練機1のパイプ部12を、フィードスクリュー部9に変更した混練機を用意した。
【0159】
その混練機の導入口4から、表1に示す処方において各成分(混練対象物)をそれぞれ導入し、樹脂混練物を得た。なお、処方例1により調製された樹脂混練物を比較例1とし、処方例2により調製された樹脂混練物を比較例2とした。
【0160】
また、比較例2における樹脂混練物は、樹脂密度が95.8%、水分量が180ppmであった。
【0161】
【表1】

【0162】
なお、表1の略号などを以下に示す。
YSLV-80XY:エポキシ樹脂(新日鐵化学社製)
MEH7851SS:フェノール樹脂(明和化成社製)
2PHZ-PW:イミダゾール(四国化成工業社製)
SIBSTAR:エラストマー(ポリスチレン-ポリイソブチレン共重合体)(カネカ社製)
充填剤:無機充填剤(溶融シリカ)(FB-9454、電気化学工業社製)100質量部に対して、シランカップリング剤(KBM403、信越化学工業社製)0.1質量部を添加して、表面処理したもの。
#20:カーボンブラック(三菱化学社製)」

(ク)「【0176】
【表2】


(ケ)「



イ 甲3に記載された発明
甲3の摘記ア(ア)に基づき、請求項1を引用する請求項3に係る発明を独立形式で表現すると、次のようになる。
「表面積4.00mm^(2)当たりにおける、気孔径20μm以上の気孔数が30個以下であることを特徴とする、樹脂混練物から形成されるシート。」

甲3の上記ア(キ)には、実施例2として、処方例2の各成分(混練対象物)を、図1に示す混練機の導入口からそれぞれ導入して得た樹脂混練物が記載されており、これは、摘記ア(ク)の表2によると、全ての評価箇所における気孔数がそれぞれ20個以下であるから、実施例2は上記シートの具体例であるといえる。
そして、実施例2の処方例2は、エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)399.06質量部、フェノール樹脂(明和化成社製、MEH7851SS)422.04質量部、硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ-PW)11.9質量部、可撓性付与剤(カネカ社製、SIBSTAR、エラストマー(ポリスチレン-ポリイソブチレン共重合体))357質量部、充填剤8800質量部、カーボンブラック(三菱化学社製、#20)10質量部であり、上記充填剤は、無機充填剤(電気化学工業社製、FB-9454、溶融シリカ)100質量部に対して、シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM403)0.1質量部を添加したものが記載されている。ここで、上記処方例2における無機充填剤とシランカップリング剤の質量部は、それぞれ8791.2質量部及び8.8質量部であると解される。そして、上記樹脂混練物は熱硬化性である(上記ア(ウ)の段落【0048】を参照)。
一方、上記シートは、実装基板上の半導体素子、コンデンサ、抵抗素子などの電子部品の封止に使用されるものである(上記ア(カ))。

そうすると、甲3には、次の発明が記載されている。
「エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)399.06質量部、フェノール樹脂(明和化成社製、MEH7851SS)422.04質量部、硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ-PW)11.9質量部、可撓性付与剤(カネカ社製、SIBSTAR、エラストマー(ポリスチレン-ポリイソブチレン共重合体))357質量部、無機充填剤(電気化学工業社製、FB-9454、溶融シリカ)8791.2質量部、シランカップリング剤(信越化学工業社製、KBM403)8.8質量部、及び、カーボンブラック(三菱化学社製、#20)10質量部からなる樹脂混練物から形成されたシートであって、実装基板上の半導体素子の封止に使用される上記シート」(以下、「甲3発明」という。)

「甲3発明のシートを用いて、実装基板上の半導体素子などの電子部品を封止する方法」(以下、「甲3発明b」という。)

ウ 本件発明2について
本件発明2と甲3発明を対比する。
甲2発明の「フェノール樹脂(明和化成社製、MEH7851SS)」は、本件発明2の「フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS)」と型番が同じであるし、本件明細書(段落【0105】)によると、フェノールノボラック樹脂の一種であることが分かるから、両者は同じものである。
また、甲3発明の「エポキシ樹脂(新日鐵化学社製、YSLV-80XY)」、「無機充填剤(電気化学工業社製、FB-9454、溶融シリカ)」、「硬化促進剤(四国化成工業社製、2PHZ-PW)」及び「実装基板上の半導体素子の封止に使用される」は、本件発明2の「エポキシ樹脂」、「無機充填材」、「硬化促進剤」及び「半導体チップ封止用」に、それぞれ相当する。
更に、甲3発明の樹脂混練物は熱硬化性であることは明らかであるから、上記「樹脂混練物から形成されたシート」は、本件発明2の「熱硬化性樹脂シート」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲3発明とは、「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」む「半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2:本件発明2は、上記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートが
「活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす」
「30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)」
であるのに対して、甲3発明は、そのような特定がない点。

上記相違点2のうち、活性化エネルギーについて、本件明細書の段落【0025】?【0027】には、上記(1)オで述べたとおりの記載がある。
そして、本件明細書には、本件発明2の具体例である実施例2(以下、「本件実施例2」という。)として、エポキシ樹脂A:新日鐵化学((株))製のYSLV-80XY(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量200g/eq.軟化点80℃)169部、フェノール樹脂A:明和化成社製のMEH-7851-SS(ビフェニルアラルキル)骨格を有するフェノールノボラック樹脂、水酸基当量203g/eq.軟化点67℃)179部、硬化促進剤A:四国化成工業社製の2PHZ-PW(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール)6部、エラストマーA:カネカ社製のSIBSTAR 072T(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体)152部、無機充填剤A:電気化学工業社製のFB-9454(球状溶融シリカ粉末、平均粒子径20μm)4400部、シランカップリング剤:信越化学社製のKBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5部、及びカーボンブラック:三菱化学社製の#20 5部を、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより作製した厚さ500μmの樹脂シートが記載され、活性化エネルギーは84kJ/molであることが記載されている(表1及び段落【0107】を参照)。
また、例えば、実施例1と比較例3との対比から、硬化促進剤の量が少ないと活性化エネルギーが高いことが理解できる(表1を参照)。

そこで、本件実施例2と甲3発明を対比すると、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機充填剤、シランカップリング剤、カーボンブラックの種類が同じであり、その配合量も概ね同じであるといえる。また、エラストマーに関して、本件実施例2では、カネカ社製のSIBSTAR 072T(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体)であるのに対して、甲3発明ではSIBSTAR(カネカ社製、ポリスチレン-ポリイソブチレン共重合体)であって、これがSIBSTAR 072Tと同じものであるかは不明であるが、共にスチレン-イソブチレン共重合体からなり、可撓性を付与するために添加するものである(本件明細書の段落【0050】)。これらのことから、本件実施例2と甲3発明とは、配合時の成分組成が概ね一致しているということができ、上記本件明細書の段落【0027】の記載によれば、活性化エネルギーの値も同程度であると解することができるかも知れない。
しかしながら、本件発明2の具体例である熱硬化性樹脂シートでは、2軸混練機を用いて120℃、2分間で混練することで得られているのに対し、甲3発明は、混練温度及び時間が不明である。
ここで、甲3には、溶融混練部が80?140℃に調整されることが記載されているが(摘記ア(エ)の段落【0126】)、混練時間は記載されておらず、甲3発明の樹脂混練物は上記範囲内のどの温度で、どのくらいの時間をかけて混練されたのかは記載されていない。そして、樹脂混練物の硬化条件は100?300℃、0.1?10時間であることから(摘記ア(イ))、上記80?140℃に含まれる具体的な混練温度によっては硬化促進剤の反応を伴う硬化反応が始まることが予想されるが、混練時間が不明であるから、甲3発明における硬化促進剤の反応を伴う硬化反応の程度も不明であり、甲3発明のシートに含まれる未反応の硬化促進剤の量も不明である。
これらのことから、甲3発明は、配合時の成分組成が本件実施例2と概ね同じであっても、混練後の活性化エネルギーも本件実施例2と同じ84kJ/mol前後になるということはできず、甲3発明が本件発明2の式(1)を満たすとはいえない。
そうすると、上記硬化物のガラス転移温度や式(2)の要件を検討するまでもなく、相違点2は実質的な相違点であり、本件発明2は甲3発明ではない。
また、甲3には、甲3発明において、本件発明2の式(1)を満たすことを動機付ける記載は見当たらず、本件発明2が、甲3発明、並びに甲3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件発明2は、「比較的低温で熱硬化できるため、反りを小さくでき」る(本件明細書の段落【0008】)、「ボイドの発生を低減できる。また、保存性が良好である。」(同【0009】)、「熱膨張係数の違いにより生じる熱応力を緩和でき、信頼性に優れた半導体パッケージを得ることができる」(同【0010】)という効果を奏するものであり、一方、甲3には、樹脂混練物中における気孔(ボイド)の気孔径及び気孔数が低減されており、電子部品の封止に好適に使用することができるという効果を示すことが記載されているにとどまり、本件発明2の上記効果を示唆するものではない。

エ 本件発明3?5、7及び8について
請求項3?5、7及び8は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2について上記ウで述べたのと同じ理由により、本件発明3?5、7及び8は、甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲3に記載された発明及び事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 本件発明9?12について
本件発明9?12と甲3発明bとを対比する。
請求項9?12は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、甲3発明bは甲3発明を含むものであるから、本件発明2について上記ウで述べたのと同じ理由により、本件発明9は、甲3発明bであるとはいえないし、本件発明10?12は、甲3発明b、並びに、甲3及び引用文献2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

カ 申立人の意見書における主張の検討
申立人は、甲3発明の混練温度を、甲3に記載された80?140℃の中心値である110℃前後と推定することは妥当であるし、そうでなくとも、110℃前後又は甲1発明と同じ120℃に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである旨を主張する。
しかしながら、混練温度は樹脂混練物の組成に応じてそれぞれ設定されるものであるから、甲3発明の混練温度を80?140℃の中心値とすることに合理性はないし、110℃で混練することが直ちに動機付けられるともいえない。更に、上記ウで述べたように、甲3発明における樹脂混練物の混練温度及びその時間によって、硬化促進剤の反応を伴う硬化反応が進む程度が異なるものと解され、甲3発明の配合時の成分組成が本件実施例2と概ね同じであっても、活性化エネルギーの値も同じとなって式(1)を満たすとはいえない。

また、申立人は、甲3発明の混練時間を、甲1発明と同じ5分間(120℃)や本件実施例1(合議体注:正しくは「本件実施例2」であると解釈した。)と同じ2分間とすることは、当業者が容易に想到したことである旨を主張する。
しかしながら、甲3発明はエラストマーを含んでおり、甲1発明と成分組成が異なるから、甲3発明の混練時間を甲1発明と同じにすることは動機付けられないし、本件実施例2は本件出願時に公知ではないから、これに基いて混練時間を2分間にすることが動機付けられるものではない。そして、他に、甲3発明の混練時間を、甲1発明や本件実施例2と同じに設定することが動機付けられる記載は見当たらない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(3)甲4を主引用文献とする取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
ア 甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が-40℃?30℃の熱硬化性成分、硬化前は熱硬化性成分と溶解しており硬化後に島状に相分離する分子量10万以上の高分子量成分、及び無機フィラーを含む封止用フィルムであって、無機フィラーが全体の60?80体積%であり、かつ前記熱硬化性成分100重量部に対し、前記高分子量成分が5?30重量部含有されていることを特徴とする封止用フィルム。
【請求項2】
熱硬化性成分が、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む熱硬化性成分である請求項1に記載の封止用フィルム。
【請求項3】
着色剤が、0.1以上、10重量%以下含有されている請求項1または2に記載の封止用フィルム。
【請求項4】
封止用フィルムのBステージ状態での溶融粘度が、100℃以上、200℃以下の範囲で、10Pa・s以上、10000Pa・s以下であり、少なくとも一方の面のタック強度が25℃以上、120℃以下の範囲で50gf以上であり、かつ、硬化後の線膨張係数が1以上、20ppm/℃以下である請求項1?3いずれかに記載の封止用フィルム。」

(イ)「【0032】
なお本発明の封止フィルムは、Bステージ状態での溶融粘度が、100℃以上、200℃以下の範囲で、10Pa・s以上、10000Pa・s以下であることが、フリップチップやウエハレベルCSPなどの突起状電極の突起部の保護及び突起間の充てんのため好ましく、かつ、硬化後の線膨張係数が1以上、20ppm以下であることが、パッケージやウエハに使用した場合でも封止フィルムのそりが小さくなる点で好ましい。なお、溶融粘度は、平行平板プラストメータ法により測定した。溶融粘度が10000Pa・sを超すと、ボイドの残存やキヤビテイ充填不良等が発生し,接続信頼性が低下する。また溶融粘度が10Pa・s未満では、流動性が大きすぎ、成型品の封止樹脂の厚みにバラツキが発生し、接続信頼性が低下するなど好ましくない。
・・・
【0034】
封止用フィルムの使用方法としては、従来の固形状または液状封止材が使用されていた用途と同様の方法が考えられる。例えば、半導体チップや部品を実装した基板上に基材層(基材フィルム)つきの封止用フィルムを熱板プレスやラミネータなどを使用して積層した後、加熱硬化した後、基材層(基材フィルム)をはく離するか、基材層(基材フィルム)をはく離した後、加熱硬化するなどの方法を取る。この際、半導体チップ周辺に空隙が残らないように積層することが可能である。しかし、高周波用途のフリップチップ実装の場合などは、半導体チップや部品の下部に、あえて空隙が残るように積層することも可能である。図1に示したのは、本発明の封止用フィルムを用いて、前記の方法により作製した半導体装置の断面である。」

(ウ)「【実施例1】
【0039】
熱硬化性成分(エポキシ樹脂)としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、東都化成株式会社製のYD-8170を使用)60重量部、熱硬化性成分(硬化剤)としてビスフェノールAノボラック樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製のLF-2882を使用)35重量部、無機フィラーとしてシリカフィラー(株式会社龍森製のTSS-6を使用)500重量部、着色剤としてカーボンブラック2重量部、高分子量成分として、エポキシ基含有アクリルゴム(分子量70万、帝国化学産業株式会社製のHTR-860P-3)10重量部、硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる成分に溶剤としてシクロヘキサノンを1700重量部加えて攪拌混合し、樹脂ワニスを得た。
【0040】
得られた樹脂ワニスを基材層である離型剤付きのベースフィルム(帝人株式会社製ピューレックスA31)上に塗工し、90℃、10分、120℃、20分乾燥して、厚み130μmの封止用フィルムを得た。この場合の無機フィラーの体積分率は69%であった。なお、硬化物の断面をSEMで観察し、海島構造を調査し、島成分がゴム相であることを確認した。
・・・
【0043】
(半導体装置の作製)
バンプを形成した半導体チップに、実施例1、比較例1及び比較例2で作製した基材層(基材フィルム)つきの封止用フィルムを、温度130℃、圧力0.7MPa、5sの条件で熱板プレスを使用して積層した後、基材層(基材フィルム)をはく離した後、170℃、1時間加熱硬化し、半導体装置を作製した。
【0044】
この封止用フィルムのBステージ状態、Cステージ状態での各種特性及び前記半導体装置の特性を測定した。測定にあたっては、下記の方法を用いた。評価結果を表1に示した。
(測定方法)
(1)弾性率(貯蔵弾性率)
170℃、1時間加熱硬化した封止用フィルムの貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ社製、DVE-V4)を用いて測定した(サンプルサイズ:長さ20mm、幅4mm、膜厚80μm、昇温速度5℃/min、引張りモード、10Hz、自動静荷重)。
(2)タック強度
Bステージ状態の封止用フィルムのタック強度を、レスカ株式会社製タッキング試験機を用いて、JISZ0237-1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm^(2)、接触時間1s)により、80℃で測定した。
(3)対チップピール強度(接着特性)
120℃のホットプレート上で、封止用フィルムにチップ(5mm角)及び金めっき基板(銅箔付フレキ基板電解金めっき(Ni:5μm、Au:0.3μm))を積層し、130℃、30min+170℃、1hキュアした。この試料のついて260℃でのピール強度を測定した。
(4)線膨張係数
線膨張係数は、170℃1時間加熱硬化した封止用フィルムについて、熱機械分析装置を用いて、毎分5℃の昇温速度で試料の伸びを測定し、25℃から150℃の伸びから、平均線膨張係数を求めた。
(5)はんだ耐熱性
作製した半導体装置を85℃、湿度85%で48時間処理した後、265℃のはんだ漕に1分間フロートし、ふくれ、剥離の有無を調べた。
(6)溶融粘度
封止用フィルムの溶融粘度は、下記の平行平板プラストメータ法により測定、算出した値を用いた。すなわち、接着シートを8枚ラミネートし、厚さ約400μmのフィルムを作製する。これを直径11.3mmの円形に打ち抜いたものを試料とし、160℃において、荷重2.5kgfで5秒間加圧し、加圧前後の試料の厚みから、式1を用いて溶融粘度を算出した。
【0045】
【数1】
(合議体注:式1は省略)
(式中、Z0は荷重を加える前の接着シートの厚さ、Zは荷重を加えた後の接着シートの厚さ、Vは接着シートの体積、Fは加えた荷重、tは荷重を加えた時間を表す。)
【0046】
【表1】


【0047】
表1に示したように、無機フィラーの体積分率が54%である比較例1の線膨張係数は、半導体チップの線膨張係数(4ppm)との差が大きい。そのため、そりが生じやすく、チップと基板(半導体装置)のふくれ剥離が発生するなど、はんだ耐熱性が低下した。また、熱硬化性成分に対して高分子量成分が過剰な比較例2(エポキシ樹脂100重量部に対して高分子量成分40重量部)の線膨張係数は大きく、チップと基板(半導体装置)のふくれ剥離が発生するなど、半導体装置のはんだ耐熱性など信頼性が低下した。それに対し、実施例1の線膨張係数は小さく、また半導体装置の信頼性も良好であった。」

イ 甲4に記載された発明について
甲4には、実施例1として、熱硬化性成分(エポキシ樹脂)としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、東都化成株式会社製のYD-8170を使用)60重量部、熱硬化性成分(硬化剤)としてビスフェノールAノボラック樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製のLF-2882を使用)35重量部、無機フィラーとしてシリカフィラー(株式会社龍森製のTSS-6を使用)500重量部、着色剤としてカーボンブラック2重量部、高分子量成分として、エポキシ基含有アクリルゴム(分子量70万、帝国化学産業株式会社製のHTR-860P-3)10重量部、硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる成分に溶剤としてシクロヘキサノンを1700重量部加えて攪拌混合した樹脂ワニスを、基材層である離型剤付きのベースフィルム上に塗工し乾燥して得た、厚み130μmの封止用フィルムであって、Cステージ、すなわち、170℃、1時間で熱硬化した後の特性として、Tgが150℃であり、貯蔵弾性率(25℃)が13000MPaであり、線膨張係数(-50?140℃)が13ppm/℃である封止用フィルムが記載されている(上記ア(ウ))。
そして、実施例1には、上記封止用フィルムを、バンプを形成した半導体チップに温度130℃、圧力0.7MPa、5sの条件で熱板プレスを使用して積層した後、170℃、1時間加熱硬化して、半導体装置を作製したことも記載されており(上記ア(ウ))、上記封止用フィルムが半導体チップ封止用であるといえる。

そうすると、甲4には、次の発明が記載されている。
「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、東都化成株式会社製のYD-8170を使用)60重量部、ビスフェノールAノボラック樹脂(硬化剤、大日本インキ化学工業株式会社製のLF-2882を使用)35重量部、シリカフィラー(無機フィラー、株式会社龍森製のTSS-6を使用)500重量部、カーボンブラック(着色剤)2重量部、エポキシ基含有アクリルゴム(高分子量成分、分子量70万、帝国化学産業株式会社製のHTR-860P-3)10重量部、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(硬化促進剤、キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる成分に溶剤を加えて攪拌混合し、塗工し乾燥して得た、厚み130μmの半導体チップ封止用熱硬化性フィルムであって、170℃、1時間で熱硬化した後の特性として、Tgが150℃であり、貯蔵弾性率(25℃)が13000MPaであり、線膨張係数(-50?140℃)が13ppm/℃である封止用フィルム。」(以下、「甲4発明」という。)

「甲4発明の封止用フィルムを、半導体チップを実装した基板上に積層した後、加熱硬化する半導体装置の製造方法。」(以下、「甲4発明b」という。)

ウ 引用文献1に記載された事項
当審が職権調査により発見した文献である引用文献1には、以下のとおりの記載がある。
「【0043】
・・・
C2-4 :シリカ(球状シリカ、体積平均粒子径6μm){商品名「TSS-6」(株式会社龍森製)}」

エ 本件発明2について
本件発明2と甲4発明を対比する。
甲4発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、東都化成株式会社製のYD-8170を使用)」、「ビスフェノールAノボラック樹脂(硬化剤、大日本インキ化学工業株式会社製のLF-2882を使用)」、「シリカフィラー(無機フィラー、株式会社龍森製のTSS-6を使用)」、及び「1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(硬化促進剤、キュアゾール2PZ-CNを使用)」は、本件発明2の「エポキシ樹脂」、「フェノールノボラック系硬化剤」、「無機充填材」及び「硬化促進剤」に、それぞれ相当する。また、本件明細書には、「樹脂シート11の厚みは特に限定されないが、好ましくは100μm以上」(段落【0069】)であることが記載されており、本件発明2の「樹脂シート」と甲4発明の「フィルム」は、その厚みが共通するから、甲4発明の「フィルム」は、本件発明2の「樹脂シート」に相当する。

そうすると、両者は、
「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」む「半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。 」 の点で一致し、次の点で相違する。

相違点3:本件発明2は、上記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートが、
「活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ
150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす」
「30≦Ea≦120[kJ/mol]・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)」
であるのに対して、甲4発明は、式(1)及び(2)を満たすか否かが不明であり、170℃、1時間加熱硬化した封止用フィルムの貯蔵弾性率(25℃)が13000MPa、線膨張係数(-50?140℃)が13ppm/℃であり、Tgが150℃である点。

相違点3のうち、上記ガラス転移温度及び式(2)について検討する。
甲4発明における熱硬化後のガラス転移温度は150℃であり、線膨張係数13ppm/℃と貯蔵弾性率13000MPaの積は169000[Pa/℃]([Pa/K])であり、本件発明2のガラス転移温度及び式(2)を満たすように見える。
しかしながら、熱硬化処理の温度に関して、本件発明2では150℃であるのに対して、甲4発明では170℃であって、両者の熱硬化処理の温度が異なる。そして、当該技術分野では、樹脂組成物の熱硬化温度によって、ガラス転移温度、貯蔵弾性率及び熱膨張係数などの諸特性も異なる値になることは、本件出願時の技術常識であると解されるから、甲4発明であるフィルムを、170℃より低い150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物も、ガラス転移温度が150℃であり、熱膨張係数が13ppm/Kであり、貯蔵弾性率が13000MPaであるとはいえない。
そうすると、甲4発明において、上記熱硬化物のガラス転移温度、及び、上記熱硬化物の上記ガラス転移温度以下における熱膨張係数と前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率の積の値が明らかであるとはいえず、甲4発明は、本件発明2のガラス転移温度及び式(2)を満たすとはいえない。
以上のとおりであるから、式(1)について検討するまでもなく、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲4に記載された発明であるとはいえない。
また、甲4及び引用文献1には、甲4発明において、本件発明2のガラス転移温度の要件、式(1)及び(2)を満たすことを動機付ける記載は見当たらず、本件発明2が甲4及び引用文献1に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件発明2は、「比較的低温で熱硬化できるため、反りを小さくでき」る(本件明細書の段落【0008】)、「ボイドの発生を低減できる。また、保存性が良好である。」(同【0009】)、「熱膨張係数の違いにより生じる熱応力を緩和でき、信頼性に優れた半導体パッケージを得ることができる」(同【0010】)という効果を奏するものである。一方、甲4には、170℃で熱硬化することが示されているにとどまり、本件発明2の上記効果を示唆するものではない。

オ 本件発明3?5、7及び8について
請求項3?5、7及び8は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2について上記エで述べたのと同じ理由により、本件発明3?5、7及び8は、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明、並びに甲4及び引用文献1に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

カ 本件発明9?12について
本件発明9?12と甲4発明bとを対比する。
請求項9?12は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、甲4発明bは甲4発明を含むものであるから、本件発明2について上記エで述べたのと同じ理由により、本件発明9は、甲4発明bであるとはいえないし、本件発明10?12は、甲4発明b、並びに、甲4及び引用文献1に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

キ 申立人の意見書における主張の検討
申立人は、甲4発明の活性化エネルギーEaが30?120kJ/molの範囲に必ずなることがないとしても、その範囲になる蓋然性が高い旨、及び、混練温度及び時間は技術常識に従えばよく、潜在性硬化剤の多くが反応してしまう混練温度及び時間にしたと考えるべき理由はない旨を主張する。
しかしながら、上記主張を裏付ける技術常識などの技術的な根拠が具体的に示されておらず、甲4発明の活性化エネルギーが30?120kJ/molの範囲になる蓋然性が高いとはいえない。また、上記(1)オ及び(2)ウで述べたように、設定される混練温度及び時間によっては、硬化促進剤の反応を伴う硬化反応が始まることが想定され、これにより甲4発明の活性化エネルギーが変化すると解されるから、混練温度及び時間が明らかでない甲4発明の活性化エネルギーが30?120kJ/molの範囲になるとはいえない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明2?5、7?12に係る特許は、取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)によっては取り消すことはできない。

(5)取消理由3(実施可能要件)について
ア 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は、
「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(合議体注:以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。

この点について以下に検討する。
まず、本件訂正により、本件発明2?5、7?12において、上記熱硬化性樹脂シートが「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」むことが特定された。
そして、本件明細書には、熱硬化物のガラス転移温度、活性化エネルギー(Ea)、貯蔵弾性率(E’)及び熱膨張係数(α)を調整する方法、並びに、これらを測定する方法が記載されており(段落【0026】、【0027】、【0031】?【0036】)、これらを測定したり、本件発明2で特定された範囲に調整したりすることができると解される。また、実施例1?5(段落【0109】?【0112】)の記載から、熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、活性化エネルギー(Ea)が式(1)を満たし、貯蔵弾性率(E’)及び熱膨張係数(α)が式(2)を満たす本件発明2を製造できることを具体的に理解することができる。
そうすると、本件明細書は、当業者が本件発明2?5、7?12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

イ 申立人の意見書における主張の検討
申立人は、本件発明2において、エポキシ樹脂及びフェノールノボラック系硬化剤を用いることが特定されても、硬化促進剤には、本件実施例で用いられるイミダゾール系の他にも様々な種類があり、それぞれの挙動も様々であるから、硬化促進剤を特定しなければ当業者は過度の試行錯誤が必要になる旨を主張する。
しかしながら、硬化促進剤は硬化剤と併用して硬化速度を速める添加剤であり、各々の硬化促進剤の性能は本件出願時の技術常識といえるものである。そして、本件明細書には、硬化促進剤の種類や量により活性化エネルギーをコントロールできることが記載されている(段落【0027】)。
そうすると、本件発明2において、本件明細書の記載および本件出願時の技術常識を参酌することにより、当業者が、本件発明2のガラス転移温度、式(1)及び(2)を満たす樹脂シートを、過度の試行錯誤を必要とせずに製造することができると解される。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると解され、申立人の上記主張を採用することはできない。

(6)取消理由4(サポート要件)について
ア 特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。
この点について以下に検討する。
本件発明2?5、7?12が解決しようとする課題は、「熱硬化性樹脂シートの体積収縮による反り変形を低減できるとともに、信頼性と保存性に優れた半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート及び半導体パッケージの製造方法を提供すること」(段落【0006】)であると解される。
そして、本件訂正により、本件発明2?5、7?12において、上記熱硬化性樹脂シートが「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」むことが特定された。
本件明細書には、上記ガラス転移温度の要件を満たすことにより、半導体パッケージの通常の使用温度における急激な物性変化を抑制できること(段落【0035】)、式(1)を満たすことにより、ボイドの発生を低減でき、保存性が良好になること、反りを小さくでき、生産性にも優れること(段落【0025】【0026】)、式(2)を満たすことにより、樹脂シートと半導体チップや基板との熱膨張係数の違いにより生じる熱応力を緩和できること(段落【0027】)が記載されており、また、実施例1?6の記載から、本件発明2における上記ガラス転移温度の要件、式(1)及び(2)を満たすことにより、上記課題を解決することが具体的に理解できる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2?5、7?12が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。
よって、本件発明2?5、7?12は、発明の詳細な説明に記載したものである。

イ 申立人の意見書における主張の検討
申立人は、本件明細書には、硬化促進剤がイミダゾール以外である場合にも、本件発明が反り変形を低減でき、保存性に優れることが示されているとはいえない旨を主張する。
しかしながら、上記(5)イで述べたように、硬化促進剤は硬化剤と併用され、硬化速度を速めることができる添加剤であって、エポキシ樹脂の各々の硬化促進剤及びその特長は本件出願時の技術常識である。
そして、本件明細書の段落【0032】及び【0034】には、無機充填剤や熱可塑性樹脂の含有量を増加させることにより、貯蔵弾性率(E’)を高めることができ、無機充填剤の含有量を増加させることにより、熱膨張係数(α)を小さくすることができることが記載されている。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載及び上記技術常識を参酌することにより、いずれの硬化促進剤を用いる場合であっても、上記課題を解決することを認識できるものと解される。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)申立理由2-1(進歩性)について
ア 甲5に記載された事項
甲5には、以下の記載がある。
(ア)「【0002】
・・・
一方、このような電子部品は小型化が進み、その製造も、基板上に多数の小さな機能素子チップ、例えば、弾性表面波チップ、をフリップチップ接合して配列した所謂MAP(モールドアレイパッケージ)形状において、基板上の多数の機能素子チップを一度に一括樹脂封止する方式が主流となりつつある。」

(イ)「【0006】
・・・
すなわち、本発明は、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有する電子部品の製造方法である:
(a)配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、
(d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」

(ウ)「【0008】
・・・
一方、これら電子部品の小型化に伴い、例えば、弾性表面波デバイスでは、2ミリ角やそれ以下のサイズのチップが用いられており、製造方法としては、表面に微細な配線パターンを形成した基板上に、多数のチップをフリップチップ接合で配列し、多数のチップを一度に一括して樹脂封止し、その後に個別デバイスにダイシングする方法が用いられている。」

(エ)「【0009】
工程(a)
本工程では配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する。機能素子と配線基板との間の上記空隙は、例えば、粒子状、平面状等のスペーサーを挿入したり、フリップチップ接合のためのフリップチップバンプの高さで確保する等の方法を採用することができる。」

(オ)「【0019】
上記潜在性硬化促進剤の具体例としては、たとえば変性イミダゾール系硬化促進剤、変性脂肪族ポリアミン系促進剤、変性ポリアミン系促進剤などがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは変性イミダゾール系硬化促進剤が、活性温度が高く、反応性がよく、純度の高いものが得られやすいなどの点から好ましい。」

(カ)「【0056】
なお、表1中の略号は以下のとおりである。
・・・
HX3088:旭化成エポキシ(株)製、変性イミダゾール、活性温度約80℃
・・・
2P4MHZ:四国化成工業(株)、変性イミダゾール」

イ 本件発明2について
上記1(1)オで述べたように、本件発明2と甲1発明とは相違点1で相違する。そして、甲1?甲5のいずれにも、甲1発明において、本件発明2の「活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす」
「30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
そして、本件発明2は、「比較的低温で熱硬化できるため、反りを小さくでき」る(本件明細書の段落【0008】)、「ボイドの発生を低減できる。また、保存性が良好である。」(同【0009】)、「熱膨張係数の違いにより生じる熱応力を緩和でき、信頼性に優れた半導体パッケージを得ることができる」(同【0010】)という効果を奏するものであり、一方、甲1には、熱硬化性フィルムへのめっき形成性という効果を示すことが記載されているにとどまり、本件発明2の上記効果を示唆するものではない。
したがって、本件発明2は、甲1?甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3?5、7?9について
請求項3?5、7?9は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2について上記イで述べたのと同じ理由により、本件発明3?5、7?9は、甲1に記載された発明、並びに、甲1?甲5に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。


(2)申立理由2-2(進歩性)について
ア 甲6に記載された事項
甲6には、以下の記載がある。
(ア)「【0005】
後述する関連技術で説明するように、関連技術の半導体装置では、支持体の上に粘着シートを介して半導体チップがその接続電極を下側に向けて仮固定された後に、半導体チップの周囲及び背面側が樹脂で封止される。さらに、支持体及び粘着シートが除去された後に、半導体チップの接続電極に接続されるビルドアップ配線が形成される。」

(イ)「【0021】
関連技術の半導体装置の製造方法では、図1に示すように、まず、支持体100の上に粘着シート120を介して複数の半導体チップ200を位置合わせした状態で横方向に並べて配置する。半導体チップ200はその接続電極200aが下側を向いた状態で支持体100上の粘着シート120に仮固定される。
・・・
【0023】
続いて、図2(a)に示すように、半導体チップ200が仮固定された支持体100を下型400の上に配置する。続いて、支持体100及び半導体チップ200の上に粉末樹脂を配置する。さらに、上型420によって粉末樹脂を下側に加圧した状態で加熱することにより溶融/硬化させる。これにより、半導体チップ200の周囲及び背面側が樹脂基板500で封止される。
・・・
【0025】
図2(a)及び(b)の工程では、半導体チップ200は粘着シート120に仮固定されているだけであり、半導体チップ200の接続電極200aが設けられた素子面Aと粘着シート120とは強固には接着されていない。このため、粉末樹脂を加圧/加熱して溶融/硬化させる際に、半導体チップ200の素子面Aと粘着シート120との界面から半導体チップ200の素子面Aに液状樹脂が染み込みやすい。
・・・
【0028】
続いて、図2(c)に示すように、樹脂基板500及び半導体チップ200から支持体100及び粘着シート120を除去することにより、半導体チップ200の接続電極200aを露出させる。」

(ウ)「【0036】
そして、支持体10の上に粘着シート12を介して複数の半導体チップ20を横方向に並べて配置する。このとき、半導体チップ20の接続電極20aが設けられた素子面Aが支持体10側(下側)を向いた状態で、半導体チップ20の素子面Aが支持体10上の粘着シート12に接着されて仮固定される。半導体チップ20の素子面Aでは、接続電極20a以外の領域には保護絶縁層(パッシベーション膜など)が設けられている。
【0037】
また、複数の半導体チップ20は、支持体10上の各チップ搭載領域にそれぞれ位置合わせされて配置される。図3の部分拡大断面図には、図3の平面図の2つの半導体チップ20の様子が示されている。
【0038】
なお、支持体10に半導体チップ20を仮固定(粘着)させればよく、粘着シート12の代わりに、粘着剤をスピンコート法などによって支持体10上の全体に薄く塗布してもよい。あるいは、半導体チップ20の素子面Aに粘着剤を塗布してもよい。」

(エ)「【0040】
次いで、図4(a)に示すように、半硬化状態(Bステージ)の厚みが25?50μmの樹脂シート30aを用意する。樹脂シート30aはエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂からなる。樹脂シート30aには、シリカなどのフィラーが含まれていてもよく、その含有率は例えば30?50%である。
【0041】
そして、図4(b)に示すように、樹脂シート30aを真空雰囲気で支持体10及び半導体チップ20の上に貼付する(真空ラミネート)。さらに、170℃程度の温度雰囲気で半硬化の樹脂シート30aを加熱処理することにより硬化させる。」

(オ)「【0076】
さらに、各半導体チップ20の境界部(中間部)のビルドアップ配線BWから樹脂基板50まで切断することにより、図7(b)に示すように個々の半導体装置1が得られる。」

イ 甲7に記載された事項
甲7には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電極パッドを有する複数の半導体素子と、導電性を有する複数の導体柱と、前記半導体素子および前記導体柱を封止する封止部とを有する半導体素子封止体の製造方法であって、
平板状をなすダミー基板を用意し、該ダミー基板上に、前記電極パッドが前記ダミー基板側となるように前記半導体素子を配置するとともに、前記導体柱を配置する配置工程と、
前記半導体素子と前記導体柱とが配置されている側の面に、前記ダミー基板と前記半導体素子と前記導体柱とを覆うように封止して封止部を形成することにより、前記ダミー基板上に前記半導体素子封止体を得る封止部形成工程と、
前記半導体素子封止体から前記ダミー基板を剥離させる剥離工程とを有することを特徴とする半導体素子封止体の製造方法。」

ウ 本件発明10?12について
請求項10?12は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2について上記1(1)キで述べたのと同じ理由により、本件発明10?12は、甲1に記載された発明、及び、甲1?8に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)申立理由3(実施可能要件)について
申立人は、明細書に列記されていないイミダゾール系硬化促進剤、または、その他の硬化促進剤を用いる場合に、式(1)及び(2)を同時に満たすためには、硬化促進剤の含有量及び種類の選択において、過度の試行錯誤が必要であり、本件明細書は、当業者が訂正前の本件発明1?12を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張する。
しかしながら、訂正後の本件発明2?5、7?12における熱硬化性樹脂シートが「エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含」むことを特定されたことにより、上記「硬化促進剤」は、本件出願時の技術常識を参酌すれば、エポキシ樹脂の硬化促進剤として機能する化合物に自ずと限定されるし、また、本件明細書には、ガラス転移温度、活性化エネルギー(Ea)、貯蔵弾性率(E’)及び熱膨張係数(α)をそれぞれ調整する方法が記載されており(段落【0026】、【0027】、【0031】?【0036】)、これにより、当業者が本件発明2?5、7及び8に係る樹脂シートを製造することができ、又は、本件発明9?12に係る半導体パッケージの製造方法により半導体パッケージを製造することができることは、実施例(段落【0107】?【0118】)の記載から具体的に理解することができる。
そうすると、本件明細書は、本件発明2?5、7?12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項2?5、7?12に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件特許の請求項2?5、7?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1及び6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1及び6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
エポキシ樹脂、フェノールノボラック系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を含み、
活性化エネルギー(Ea)が下記式(1)を満たし、かつ
150℃で1時間熱硬化処理した後の熱硬化物のガラス転移温度が125℃以上であり、前記熱硬化物の前記ガラス転移温度以下における熱膨張係数α[ppm/K]及び前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’[GPa]が下記式(2)を満たす半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
30≦Ea≦120[kJ/mol] ・・・(1)
10000≦α×E’≦300000[Pa/K] ・・・(2)
【請求項3】
前記無機充填材が平均粒子径0.5μm?50μmのシリカである請求項2に記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項4】
前記硬化促進剤がイミダゾール系硬化促進剤である請求項2又は3に記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項5】
前記無機充填材の含有量が20体積%?90体積%である請求項2?4のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記熱硬化物の25℃における貯蔵弾性率E’が3GPa?30GPaである請求項2?5のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項8】
前記熱膨張係数αが3ppm/K?50ppm/Kである請求項2?5及び7のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項9】
請求項2?5、7及び8のいずれかに記載の半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート及び前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込まれた1又は複数の半導体チップを備える封止体を形成する工程(A)と、
前記封止体の樹脂シートを熱硬化する工程(B)とを含む半導体パッケージの製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)において、半導体ウェハにフリップチップ接続された前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成する請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)において、仮固定材に固定された前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成する請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項12】
前記工程(A)において、前記半導体ウェハにフリップチップ接続された複数の前記半導体チップを前記半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シートに埋め込んで前記封止体を形成し、
前記工程(B)の後、前記封止体を目的の半導体チップ単位でダイシングする工程(C)をさらに含む請求項9又は10に記載の半導体パッケージの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-25 
出願番号 特願2014-167223(P2014-167223)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木下 直哉  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 武貞 亜弓
近野 光知
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6320239号(P6320239)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 半導体チップ封止用熱硬化性樹脂シート及び半導体パッケージの製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ