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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1354936
異議申立番号 異議2018-700760  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-19 
確定日 2019-08-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6298175号発明「シロキサン樹脂組成物,これを用いた透明硬化物,透明画素,マイクロレンズ,固体撮像素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6298175号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4,6?29〕について訂正することを認める。 特許第6298175号の請求項1?29に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6298175号(請求項の数29。以下,「本件特許」という。)は,平成27年10月21日(優先権主張:平成26年11月4日)を国際出願日とする特許出願(特願2016-557689号)に係るものであって,平成30年3月2日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成30年3月20日である。)。
その後,平成30年9月19日に,本件特許の請求項1?29に係る特許に対して,特許異議申立人である東レ株式会社(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成30年 9月19日 特許異議申立書
12月18日付け 取消理由通知書
平成31年 2月15日 意見書,訂正請求書
2月19日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
3月20日 意見書(申立人)
4月17日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 6月24日 意見書,訂正請求書

なお,令和1年6月24日付けの訂正請求書による訂正の請求は,訂正前の請求項1に対して,訂正前の請求項15に記載された事項を追加する訂正を含むものである(後記第2参照)ところ,訂正前の請求項15に係る特許については,取消理由を通知していない(後記第4の2参照)から,訂正後の請求項1に係る特許についても,取消理由がないといえる。
すなわち,上記の訂正によって,訂正前の請求項1は相当程度減縮されており,本件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても,特許を維持すべきとの結論となると判断できる。そして,本件においては,すでに申立人に意見書の提出の機会が与えられている。
以上のとおり,令和1年6月24日付けの訂正請求書による訂正の請求については,申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえる(特許法120条の5第5項ただし書)から,申立人にさらに意見書を提出する機会を与えなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年6月24日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?4及び6?29について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
なお,平成31年2月15日付けの訂正請求書による訂正の請求は,本件訂正の請求がされたことに伴い,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「上記シロキサン樹脂が酸性基(A)を少なくとも有するシロキサン樹脂組成物」とあるのを,「上記シロキサン樹脂が酸性基(A)を少なくとも有し,上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である,シロキサン樹脂組成物」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか1項」とあるのを,「請求項5」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13に「請求項10?12のいずれか1項」とあるのを,「請求項10」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14に「請求項10?13のいずれか1項」とあるのを,「請求項10または13」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項15に「請求項10?14のいずれか1項」とあるのを,「請求項10,13または14」に訂正する。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1?4及び6?29について,請求項2?4及び6?29は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?4及び6?29に対応する訂正後の請求項1?4及び6?29は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における「複合金属の酸化物粒子」について,「同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」ものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲には,以下の記載がある。
「上記複合金属の酸化物粒子が,同一粒子中にTiとZrを含有する請求項1?9のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。」(請求項10)
「上記TiとZrの金属元素の含有比率が,Ti/Zr比で4?12である請求項10?14のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。」(請求項15)
以上の記載によれば,上記訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2?5について
訂正事項2?5に係る訂正は,いずれも,引用請求項の一部を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?29に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?29に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有し,
上記シロキサン樹脂が酸性基(A)を少なくとも有し,上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である,シロキサン樹脂組成物。
【請求項2】
さらにアルカリ可溶性樹脂を含む請求項1に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項3】
上記酸性基(A)がpKa5.5以下である請求項1または2に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項4】
上記酸性基(A)が,カルボキシル基,リン酸基,ホスホン酸基,およびスルホン酸基から選ばれる少なくとも1種である請求項1?3のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項5】
Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂とアルカリ可溶性樹脂と溶媒とを含有し,
硬化膜の屈折率が1.5以上となるシロキサン樹脂組成物であって,上記シロキサン樹脂がシラノール基を有するシロキサン樹脂であるシロキサン樹脂組成物。
【請求項6】
上記複合金属の酸化物粒子が表面処理されている請求項1?5のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項7】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が1nm以上200nm以下である請求項1?6のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項8】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が1nm以上50nm以下である請求項1?7のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項9】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が3nm以上30nm以下である請求項1?8のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項10】
上記複合金属の酸化物粒子が,同一粒子中にTiとZrを含有する請求項5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項11】
上記複合金属の酸化物粒子が,同一粒子中にTiとZrとSnを含有する請求項1?10のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項12】
上記複合金属の酸化物粒子が,同一粒子中にTiとZrとSnとSiを含有する請求項1?11のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項13】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が,Ti/Zr比で1?40である請求項10に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項14】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が,Ti/Zr比で3?20である請求項10または13に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項15】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が,Ti/Zr比で4?12である請求項10,13または14に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項16】
さらに,重合開始剤および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1?15のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項17】
上記紫外線吸収剤が,ベンゾトリアゾール化合物,ベンゾフェノン化合物,トリアジン化合物,ジエン化合物,ベンゾジチオール化合物,およびアボベンゾン化合物からなる群より選ばれる請求項16に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項18】
上記シロキサン樹脂が,下記式(S)で表されるシラン化合物を含んで調製された加水分解縮合物である請求項1?4のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。

(R^(S1))_(e)Si(R^(S2))_(f)(OR^(S3))_(g) (S)

R^(S1)は酸性基(A)を含有する基であり,
R^(S2)およびR^(S3)はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し,
eは1?3の整数であり,
fは0?2の整数であり,
gは1?3の整数であり,
e+g+fは4である。
【請求項19】
上記アルカリ可溶性樹脂がアクリル樹脂である請求項2または5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項20】
上記アルカリ可溶性樹脂が下記式(R1)で表される樹脂である請求項2または5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【化1】

L^(X1)は単結合または連結基を表し,
R^(X1),R^(Y1)は,それぞれ独立に,水素原子,メチル基,エチル基,プロピル基,またはシアノ基であり,
R^(A)は,酸性基(A)であり,
R^(Y2)は,置換基を表す。nx,nyはモル分率である。
【請求項21】
上記シロキサン樹脂組成物中に配合された樹脂の合計の酸価が50mgKOH/g以上である請求項1?20のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項22】
上記複合金属の酸化物粒子100質量部に対して上記シロキサン樹脂の含有量が1質量部以上80質量部以下である請求項1?21のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項23】
上記シロキサン樹脂組成物の固形成分中,上記複合金属の酸化物粒子の含有量が40質量%以上80質量%以下である請求項1?22のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項24】
上記シロキサン樹脂が上記複合金属の酸化物粒子の存在下で加水分解縮合反応させて得たものである請求項1?23のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項25】
硬化膜の屈折率が1.6以上2.0以下となる請求項1?24のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項26】
請求項1?25のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物を硬化させてなる透明硬化物。
【請求項27】
請求項26に記載の透明硬化物からなる透明画素。
【請求項28】
請求項26に記載の透明硬化物からなるマイクロレンズ。
【請求項29】
請求項27に記載の透明画素,及び/または,請求項28に記載のマイクロレンズを具備する固体撮像素子。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1?29に係る特許は,下記(1)?(4)のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法として,下記(5)の甲第1号証?甲第12号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1,3,4,7?14,16?20,22?24及び26に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,3?4,7?14,16?20,22?24及び26に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1,3,4,7?24及び26に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,3?4,7?24及び26に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項2,5,6,25,28及び29に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項2,5,6,25,28及び29に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由4(拡大先願)
本件訂正前の請求項1,3?5,7?14,18及び22?29に係る発明は,本件特許の優先日前の日本語特許出願であって,本件特許の優先日後に国際公開がされた甲3に係る日本語特許出願(以下,「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の優先日において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである(同法184条の13参照)から,本件特許の請求項1,3?5,7?14,18及び22?29に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)証拠方法
・甲1 国際公開第2013/146130号
・甲2 東レ株式会社諏訪充史による実験成績証明書
・甲3 国際公開第2015/002183号
・甲4 特開2012-88610号公報
・甲5 特開2010-42947号公報
・甲6 特開2007-246877号公報
・甲7 特開2008-202033号公報
・甲8 特開2010-7057号公報
・甲9 国際公開第2011/040248号
・甲10 特開2014-119643号公報
・甲11 特開2012-87316号公報
・甲12 東レ株式会社 的羽良典,pKaシミュレーション結果

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)平成30年12月18日付けの取消理由通知書
ア 取消理由1(拡大先願)
上記1の申立理由4(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項1,4,7?14,18及び23?29に係る発明に対するもの。)と同旨。
(2)平成31年4月17日付けの取消理由通知書(決定の予告)
ア 取消理由1’(拡大先願)
上記1の申立理由4(拡大先願)(ただし,平成31年2月15日付けの訂正請求書による訂正後の請求項1,4,7?9,18及び23?29に係る発明に対するもの。)と同旨。

第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?29に係る特許を取り消すことはできない。
以下,まず,取消理由1(拡大先願),取消理由1’(拡大先願),申立理由4(拡大先願)についてまとめて検討し,次に,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性),申立理由3(進歩性)についてまとめて検討する。

1 取消理由1(拡大先願),取消理由1’(拡大先願),申立理由4(拡大先願)
(1)甲3に係る日本語特許出願(先願)の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明
先願明細書等の記載(請求項1,2,[0001],[0008],[0014],[0020],[0025],[0096]?[0101],表1,表2)によれば,特に合成例3?5に着目すると,先願明細書等には,以下の発明が記載されていると認められる。
なお,以下,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを「PGMEA」,ジアセトンアルコールを「DAA」という。

「500mlの三口フラスコに,メチルトリメトキシシランを8.17g(0.06mol),フェニルトリメトキシシランを19.83g(0.10mol),下記のカルボキシル基含有シラン化合物(A)を15.37g(0.04mol),20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製,数平均粒子径は15nm)を147.03g(オルガノシランが完全縮合した場合の重量(30.29g)100重量部に対して,粒子含有量100重量部),DAAを112.50g仕込み,
室温で撹拌しながら水11.52gにリン酸0.217g(仕込みモノマーに対して0.50重量%)を溶かしたリン酸水溶液を10分間かけて添加し,
その後,フラスコを40℃のオイルバスに浸けて60分間撹拌した後,オイルバスを30分間かけて115℃まで昇温し,昇温開始1時間後に溶液の内温が100℃に到達し,そこから2時間加熱撹拌し(内温は100?110℃),
昇温及び加熱撹拌中,窒素を0.05l(リットル)/分流し,反応中に副生成物であるメタノール,水が合計127.21g留出する
ことにより得られた,固形分濃度が33重量%である,金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)。
上記のカルボキシル基含有シラン化合物(A)は,300mlのナスフラスコに,p-アミノ安息香酸を23.23g,PGMEAを209.05g仕込み,室温にて30分間撹拌してp-アミノ安息香酸を溶解させ,得られた溶液に,イソシアネートプロピルトリエトキシシランを46.53g,ジラウリン酸ジブチルスズを1.19g仕込み,70℃のオイルバスで1時間撹拌し,その後室温まで放冷し,析出した固体をガラスフィルターにて濾取,乾燥させることにより得られたものである。」(以下,「先願発明1」という。)

「500mlの三口フラスコに,メチルトリメトキシシランを8.17g(0.06mol),フェニルトリメトキシシランを19.83g(0.10mol),下記のカルボキシル基含有シラン化合物(B)を15.41g(0.04mol),20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製)を147.23g(オルガノシランが完全縮合した場合の重量(30.33g)100重量部に対して,粒子含有量100重量部),DAAを112.65g仕込み,
室温で撹拌しながら水11.52gにリン酸0.217g(仕込みモノマーに対して0.50重量%)を溶かしたリン酸水溶液を10分間かけて添加し,
その後,フラスコを40℃のオイルバスに浸けて60分間撹拌した後,オイルバスを30分間かけて115℃まで昇温し,昇温開始1時間後に溶液の内温が100℃に到達し,そこから2時間加熱撹拌し(内温は100?110℃),
昇温及び加熱撹拌中,窒素を0.05l(リットル)/分流し,反応中に副生成物であるメタノール,水が合計127.35g留出する
ことにより得られた,固形分濃度が34重量%である,金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-2)。
上記のカルボキシル基含有シラン化合物(B)は,300mlのナスフラスコに,p-ヒドロキシ安息香酸を23.39g,PGMEAを210.5g仕込み,室温にて30分間撹拌してp-ヒドロキシ安息香酸を溶解させ,得られた溶液に,イソシアネートプロピルトリエトキシシランを46.53g,ジラウリン酸ジブチルスズを1.19g仕込み,40℃のオイルバスで3時間撹拌し,その後室温まで放冷し,析出した固体をガラスフィルターにて濾取,乾燥させることにより得られたものである。」(以下,「先願発明2」という。)

「500mlの三口フラスコに,メチルトリメトキシシランを8.17g(0.06mol),フェニルトリメトキシシランを19.83g(0.10mol),4-トリメトキシシリルブタン酸を8.32g(0.04mol),20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製)を112.84g(オルガノシランが完全縮合した場合の重量(23.25g)100重量部に対して,粒子含有量100重量部),DAAを86.34g仕込み,
室温で撹拌しながら水11.52gにリン酸0.182g(仕込みモノマーに対して0.50重量%)を溶かしたリン酸水溶液を10分間かけて添加し,
その後,フラスコを40℃のオイルバスに浸けて60分間撹拌した後,オイルバスを30分間かけて115℃まで昇温し,昇温開始1時間後に溶液の内温が100℃に到達し,そこから2時間加熱撹拌し(内温は100?110℃),
昇温及び加熱撹拌中,窒素を0.05l(リットル)/分流し,反応中に副生成物であるメタノール,水が合計102.78g留出する
ことにより得られた,固形分濃度が35重量%である,金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-3)。」(以下,「先願発明3」という。)

(2)本件発明1について
ア 先願発明1との対比
(ア)対比
本件発明1と先願発明1とを対比する。
先願発明1に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)は,「ポリシロキサン」を含有するものであり,当該「ポリシロキサン」は,本件発明1における「シロキサン樹脂」に相当する。
先願発明1における「金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)」は,ポリシロキサンを含有する組成物といえるから,本件発明1における「シロキサン樹脂組成物」に相当する。
先願発明1におけるポリシロキサンは,「カルボキシル基含有シラン化合物(A)」を含む原料を用いて得られたものであるから,「カルボキシル基」を有するものと解される。そうすると,先願発明1におけるポリシロキサンが「カルボキシル基」を有することは,本件発明1におけるシロキサン樹脂が「酸性基(A)を少なくとも有」することに相当する。
先願発明1に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)は,「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製,数平均粒子径は15nm)」を含む原料を用いて得られたものであるから,上記金属化合物含有粒子として,「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」を含有するものと解される。そうすると,当該「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」は,本件発明1における「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子」に相当する。
先願発明1に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)は,「DAA」を含む原料を用いて得られた溶液であり,当該「DAA」は,本件発明1における「溶媒」に相当する。
以上によれば,本件発明1と先願発明1とは,
「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有し,
上記シロキサン樹脂が酸性基(A)を少なくとも有する,シロキサン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,「上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」のに対して,先願発明1では,「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製,数平均粒子径は15nm)」に由来する「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」が,同一粒子中にTiとZrを含有するかどうか不明であり,また,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12であるかどうか不明である点。

(イ)相違点1の検討
甲2は,東レ株式会社諏訪充史による実験成績証明書である。
甲2には,“オプトレイク”TR-550に含まれる粒子について,蛍光X線分析法により定性分析したところ,主成分元素として,Si,K,Ti,Zr,Sn,Hfが検出されたことが示されている。
また,甲2には,“オプトレイク”TR-550に含まれる粒子について,その主成分元素の含有量を蛍光X線分析法により分析したところ,Ti,Zrの含有量が,「TR-550(121102)」では,40質量%,3質量%であり,「TR-550(130716)」では,41質量%,3質量%であったことが示されている。
ここで,本件発明1における「TiとZrの金属元素の含有比率」である「Ti/Zr比」は,本件明細書の記載(【0015】,【0016】)によれば,原子%の比率(モル数の比率)と解される。Ti,Zrの原子量は,それぞれ,47.867,91.224であるから,Ti/Zr比を計算すると,「TR-550(121102)」では,25.4(=(40質量%/47.867)/(3質量%/91.224))であり,「TR-550(130716)」では,26.0(=(41質量%/47.867)/(3質量%/91.224))である。
そうすると,先願発明1における「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製,数平均粒子径は15nm)」に由来する「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」は,「同一粒子中にTiとZrを含有」するとはいえるものの,「TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」とはいえない。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
また,相違点1が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。

(ウ)小括
したがって,本件発明1は,先願発明1と同一であるとはいえない。

イ 先願発明2との対比
本件発明1と先願発明2とを対比すると,上記アで述べたのと同様に,先願発明2における「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製)」に由来する「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」は,「同一粒子中にTiとZrを含有」するとはいえるものの,「TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」とはいえないから,この点で,本件発明1と先願発明2は相違する。また,この相違点が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって,本件発明1は,先願発明2と同一であるとはいえない。

ウ 先願発明3との対比
本件発明1と先願発明3とを対比する。
先願発明3におけるポリシロキサンは,「4-トリメトキシシリルブタン酸」を含む原料を用いて得られたものであるから,「カルボキシル基」を有するものと解される。そうすると,先願発明3におけるポリシロキサンが「カルボキシル基」を有することは,本件発明1におけるシロキサン樹脂が「酸性基(A)を少なくとも有する」ことに相当する。
その余の点については,上記アで述べたのと同様である。
そうすると,先願発明3における「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製)」に由来する「酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子」は,「同一粒子中にTiとZrを含有」するとはいえるものの,「TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」とはいえないから,この点で,本件発明1と先願発明3は相違する。また,この相違点が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって,本件発明1は,先願発明3と同一であるとはいえない。

エ 申立人の主張について
申立人は,本件発明1が,先願明細書等に記載された合成例8([0104])に基づく発明と同一であると主張する。
しかしながら,上記合成例8においても,「20.6重量%の酸化チタン-酸化ケイ素複合粒子メタノール分散液である“オプトレイク”TR-550(商品名,日揮触媒化成(株)製)」を用いていることから,本件発明1が,上記合成例8に基づく発明と同一であるとはいえないことは,上記ア?ウの先願発明1?3との対比の場合と同様である。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(3)本件発明5について
ア 先願発明1との対比
(ア)対比
本件発明5と先願発明1とを対比すると,上記(2)ア(ア)と同様に,両者は,
「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有する,シロキサン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明5では,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有するのに対して,先願発明1では,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有しない点。
・相違点3
本件発明5では,シロキサン樹脂組成物が,「硬化膜の屈折率が1.5以上となる」ものであるのに対して,先願発明1では,金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)が,「硬化膜の屈折率が1.5以上となる」ものであるかどうか不明である点。
・相違点4
本件発明5では,シロキサン樹脂が,「シラノール基を有する」のに対して,先願発明1では,ポリシロキサンが,「シラノール基を有する」かどうか不明である点。

(イ)相違点2の検討
先願発明1に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)は,「ポリシロキサン」を含有するものであり,当該「ポリシロキサン」は,本件発明5における「シロキサン樹脂」に相当するものといえる。
しかしながら,先願発明1に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-1)は,上記「ポリシロキサン」を含有するほか,それとは別に,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有するものではない。
以上によれば,相違点2は実質的な相違点である。
また,相違点2が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。

(ウ)小括
したがって,相違点3及び4について検討するまでもなく,本件発明5は,先願発明1と同一であるとはいえない。

イ 先願発明2及び3との対比
本件発明5と先願発明2とを対比すると,上記アで述べたのと同様に,先願発明2に係る金属化合物含有粒子含有ポリシロキサン溶液(PS-2)は,「ポリシロキサン」を含有するほか,それとは別に,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有するものではないから,この点で,本件発明5と先願発明2は相違する。また,この相違点が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
この点,本件発明5と先願発明3との対比についても,同様である。
したがって,本件発明5は,先願発明2及び3と同一であるとはいえない。

(4)本件発明3,4,7?14,18及び22?29について
本件発明3,4,7?14,18及び22?29は,本件発明1又は5を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本件発明1及び5が先願発明1?3と同一であるとはいえない以上,本件発明3,4,7?14,18及び22?29についても同様に,先願発明1?3と同一であるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1,3?5,7?14,18及び22?29は,いずれも,先願発明1?3と同一であるとはいえない。
したがって,取消理由1(拡大先願),取消理由1’(拡大先願),申立理由4(拡大先願)によっては,本件特許の請求項1,3?5,7?14,18及び22?29に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性),申立理由3(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1?5,[0001],[0007],[0008],[0015],[0033]?[0038],[0083],[0084],[0093],[0111],[0113],[0121]?[0123],[0130],[0137],[0138],実施例21,表1,表4)によれば,特に表4の実施例21に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
なお,以下,プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを「PGMEA」,ジアセトンアルコールを「DAA」という。

「合成例3で合成したシランカップリング剤(A3) 3重量部,
合成例9で合成したポリシロキサン溶液(B2) 20重量部,
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) 20重量部,
1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](イルガキュアOXE-01;BASF製) 5重量部,
オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製) 60重量部,
ハイドロキノンメチルエーテル(HQME) 0.3重量部,
シリコーン系界面活性剤であるBYK-333(ビックケミー・ジャパン(株)製) 100ppm,
を含み,
溶剤としてDAA/PGMEA(重量比:50/50)混合溶液を固形分濃度30wt%となるように加えて調整した,ネガ型感光性樹脂組成物(I-14)。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「合成例9で合成したポリシロキサン溶液(B2)」は,「ポリシロキサン」を含有するものであり,当該「ポリシロキサン」は,本件発明1における「シロキサン樹脂」に相当する。
甲1発明における「ネガ型感光性樹脂組成物(I-14)」は,ポリシロキサンを含有する組成物といえるから,本件発明1における「シロキサン樹脂組成物」に相当する。
甲1発明における「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」は,甲1の記載([0084])によれば,酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子を含むものと解される。そうすると,当該「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」は,本件発明1における「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子」に相当する。
甲1発明における「溶剤としてDAA/PGMEA(重量比:50/50)混合溶液」は,本件発明1における「溶媒」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有する, シロキサン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1’
本件発明1では,「上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」のに対して,甲1発明では,「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」に含まれる「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」が,同一粒子中にTiとZrを含有するかどうか不明であり,また,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12であるかどうか不明である点。
・相違点5
本件発明1では,シロキサン樹脂が,「酸性基(A)を少なくとも有」するのに対して,甲1発明では,ポリシロキサンが,「酸性基(A)を少なくとも有」するかどうか不明である点。

イ 相違点1’の検討
(ア)まず,相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
相違点1’は,上記1(2)アで検討した相違点1と同様のものであるところ,上記1(2)アで述べたのと同様の理由により,甲1発明における「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」に含まれる「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」は,「同一粒子中にTiとZrを含有」するとはいえるものの,「TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である」とはいえない。
以上によれば,相違点1’は実質的な相違点である。
したがって,相違点5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点1’の容易想到性について検討する。
甲1には,ネガ型感光性樹脂組成物は,金属酸化物粒子を含有してもよいこと(請求項5,[0083]),金属酸化物粒子としては,例えば,シリコン酸化物粒子,アルミニウム酸化物粒子,スズ酸化物粒子,チタン酸化物粒子,ジルコニウム酸化物粒子又はバリウム酸化物粒子などが挙げられ,用途により適当なものを選ぶことができること([0083]),市販の金属酸化物粒子としては,例えば, オプトレイク(登録商標)TR-550などの酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子などが挙げられること([0084])が記載されている。
しかしながら,甲1には,金属酸化物粒子に関し,同一粒子中にTiとZrが含まれることや,TiとZrの金属元素の含有比率をTi/Zr比で4?12に調整することについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。そうすると,甲1発明における「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」に含まれる「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」について,TiとZrの金属元素の含有比率をTi/Zr比で4?12に調整する動機付けがあるとはいえない。
また,甲4?11には,以下のとおり記載されている。
甲4には,カルボキシル基を有するアルカリ可溶性樹脂を含有するネガ型感光性樹脂組成物について記載されている(請求項1)。
甲5には,チタニウムの酸化物微粒子等からなる核粒子の表面を,所定のアミノ基含有複合体で被覆し,さらにその表面をシリカ系酸化物又はシリカ系複合酸化物で被覆した,酸化チタン系複合粒子について記載されている(請求項1)。
甲6?8には,シロキサン系樹脂組成物を硬化させてなる硬化膜において,その屈折率を1.6以上とすることについて記載されている(甲6の表1,甲7の表1,甲8の請求項8,表1?3)。
甲9?11には,ポリシロキサンを含む樹脂組成物を硬化させてなる硬化膜を,集光用マイクロレンズや,当該集光用マイクロレンズを具備する固体撮像素子に用いることについて記載されている(甲9の請求項1,11,[0071],甲10の請求項1,【0109】,甲11の請求項1,3?5,【0001】,【0070】)。
しかしながら,甲4?11にも,ネガ型感光性樹脂組成物に含有される金属酸化物粒子に関し,同一粒子中にTiとZrが含まれることや,TiとZrの金属元素の含有比率をTi/Zr比で4?12に調整することについては,記載されていない。このような甲4?11の記載に基づいて,甲1発明における「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」に含まれる「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」について,TiとZrの金属元素の含有比率をTi/Zr比で4?12に調整することが動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有するシロキサン樹脂組成物において,シロキサン樹脂として,酸性基(A)を少なくとも有するものを用いるとともに,複合金属の酸化物粒子として,同一粒子中にTiとZrを含有し,TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12であるものを用いることにより,レンズや透明画素などの透明部材の材料として適合し,また,ポジ型に限らず,加熱硬化型の樹脂や,ネガ型の感光性樹脂としても対応することが可能であり,マイクロレンズや透明画素の微細加工にも好適に対応することができ,さらに,パターン形成時の製造適性(特に解像性)や硬化膜の特性(光透過率,屈折率,耐光性,残渣欠陥の抑制)を良化することができるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0002】,【0004】,【0007】,【0009】,【0015】,【0021】,【0113】?【0153】,表1?6)。
そうすると,甲1発明において,「オプトレイクTR-550(日揮触媒化成工業(株)製)」に含まれる「酸化ケイ素-酸化チタン複合粒子」に含有されるTiとZrについて,「TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有する,シロキサン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2’
本件発明5では,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有するのに対して,甲1発明では,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有しない点。
・相違点3’
本件発明5では,シロキサン樹脂組成物が,「硬化膜の屈折率が1.5以上となる」ものであるのに対して,甲1発明では,ネガ型感光性樹脂組成物(I-14)が,「硬化膜の屈折率が1.5以上となる」ものであるかどうか不明である点。
・相違点4’
本件発明5では,シロキサン樹脂が,「シラノール基を有する」のに対して,甲1発明では,ポリシロキサンが,「シラノール基を有する」かどうか不明である点。

イ 相違点2’の検討
(ア)事案に鑑み,まず,相違点2’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明に係るネガ型感光性樹脂組成物(I-14)は,「ポリシロキサン」を含有するものであり,当該「ポリシロキサン」は,本件発明5における「シロキサン樹脂」に相当するものといえる。
しかしながら,甲1発明に係るネガ型感光性樹脂組成物(I-14)は,上記「ポリシロキサン」を含有するほか,それとは別に,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有するものではない。
以上によれば,相違点2’は実質的な相違点である。
したがって,相違点3’及び4’について検討するまでもなく,本件発明5は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点2’の容易想到性について検討する。
甲1には,所定のシランカップリング剤,アルカリ可溶性樹脂,多官能アクリルモノマ及び光ラジカル重合開始剤又はキノンジアジド化合物を含有する感光性樹脂組成物について記載されているところ(請求項1?3),アルカリ可溶性樹脂について,透明性と汎用性の観点からポリシロキサン,アクリル樹脂又はポリエステル樹脂が好ましいことが記載されているから([0033]),甲1発明は,上記アルカリ可溶性樹脂として,ポリシロキサンを用いた発明であると理解できる。
しかしながら,甲1には,甲1発明に係るネガ型感光性樹脂組成物(I-14)において,ポリシロキサンとは別に,さらにアルカリ可溶性樹脂を含有させることについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。そうすると,甲1発明において,ポリシロキサンとは別に,さらにアルカリ可溶性樹脂を含有させる動機付けがあるとはいえない。
甲4?11には,上記(2)イ(イ)のとおり記載されている。
しかしながら,甲4?11にも,ネガ型感光性樹脂組成物において,シロキサン樹脂と,それとは別に,さらにアルカリ可溶性樹脂を含有させることについては,記載されていない。このような甲4?11の記載に基づいて,甲1発明において,ポリシロキサンとは別に,さらにアルカリ可溶性樹脂を含有させることが動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明5は,Ti,Ta,W,Y,Ba,Hf,Zr,Sn,Nb,V,およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有するシロキサン樹脂組成物において,シロキサン樹脂として,シラノール基を有するものを用いるとともに,それとは別に,さらにアルカリ可溶性樹脂を含有させることにより,本件発明1と同様(上記(2)イ(イ)参照),当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0002】,【0004】,【0007】,【0009】,【0028】,【0113】?【0153】,表1?6)。
そうすると,甲1発明において,ポリシロキサンとは別に,さらに「アルカリ可溶性樹脂」を含有させることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点3’及び4’について検討するまでもなく,本件発明5は,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明5は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明2?4,6?26,28及び29について
本件発明2?4,6?26,28及び29は,本件発明1又は5を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本件発明1及び5が甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?4,6?26,28及び29についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1,3,4,7?14,16?20,22?24及び26は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえないから,申立理由1(新規性)は,理由がない。
また,本件発明1,3,4,7?24及び26は,いずれも,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立理由2(進歩性)は,理由がない。
さらに,本件発明2,5,6,25,28及び29は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲4?11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立理由3(進歩性)は,理由がない。
したがって,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性),申立理由3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?26,28及び29に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?29に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?29に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Ta、W、Y、Ba、Hf、Zr、Sn、Nb、V、およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂と溶媒とを含有し、
上記シロキサン樹脂が酸性基(A)を少なくとも有し、
上記複合金属の酸化物粒子が同一粒子中にTiとZrを含有し、TiとZrの金属元素の含有比率がTi/Zr比で4?12である、シロキサン樹脂組成物。
【請求項2】
さらにアルカリ可溶性樹脂を含む請求項1に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項3】
上記酸性基(A)がpKa5.5以下である請求項1または2に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項4】
上記酸性基(A)が、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、およびスルホン酸基から選ばれる少なくとも1種である請求項1?3のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項5】
Ti、Ta、W、Y、Ba、Hf、Zr、Sn、Nb、V、およびSiから選ばれる金属のうちの2種以上を含む複合金属の酸化物粒子とシロキサン樹脂とアルカリ可溶性樹脂と溶媒とを含有し、
硬化膜の屈折率が1.5以上となるシロキサン樹脂組成物であって、上記シロキサン樹脂がシラノール基を有するシロキサン樹脂であるシロキサン樹脂組成物。
【請求項6】
上記複合金属の酸化物粒子が表面処理されている請求項1?5のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項7】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が1nm以上200nm以下である請求項1?6のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項8】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が1nm以上50nm以下である請求項1?7のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項9】
上記複合金属の酸化物粒子の数平均粒子径が3nm以上30nm以下である請求項1?8のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項10】
上記複合金属の酸化物粒子が、同一粒子中にTiとZrを含有する請求項5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項11】
上記複合金属の酸化物粒子が、同一粒子中にTiとZrとSnを含有する請求項1?10のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項12】
上記複合金属の酸化物粒子が、同一粒子中にTiとZrとSnとSiを含有する請求項1?11のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項13】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が、Ti/Zr比で1?40である請求項10に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項14】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が、Ti/Zr比で3?20である請求項10または13に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項15】
上記TiとZrの金属元素の含有比率が、Ti/Zr比で4?12である請求項10、13または14に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項16】
さらに、重合開始剤および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1?15のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項17】
上記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物、ジエン化合物、ベンゾジチオール化合物、およびアボベンゾン化合物からなる群より選ばれる請求項16に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項18】
上記シロキサン樹脂が、下記式(S)で表されるシラン化合物を含んで調製された加水分解縮合物である請求項1?4のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
(R^(S1))_(e)Si(R^(S2))_(f)(OR^(S3))_(g) (S)
R^(S1)は酸性基(A)を含有する基であり、
R^(S2)およびR^(S3)はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表し、
eは1?3の整数であり、
fは0?2の整数であり、
gは1?3の整数であり、
e+g+fは4である。
【請求項19】
上記アルカリ可溶性樹脂がアクリル樹脂である請求項2または5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項20】
上記アルカリ可溶性樹脂が下記式(R1)で表される樹脂である請求項2または5に記載のシロキサン樹脂組成物。
【化1】

L^(X1)は単結合または連結基を表し、
R^(X1)、R^(Y1)は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはシアノ基であり、
R^(A)は、酸性基(A)であり、
R^(Y2)は、置換基を表す。nx、nyはモル分率である。
【請求項21】
上記シロキサン樹脂組成物中に配合された樹脂の合計の酸価が50mgKOH/g以上である請求項1?20のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項22】
上記複合金属の酸化物粒子100質量部に対して上記シロキサン樹脂の含有量が1質量部以上80質量部以下である請求項1?21のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項23】
上記シロキサン樹脂組成物の固形成分中、上記複合金属の酸化物粒子の含有量が40質量%以上80質量%以下である請求項1?22のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項24】
上記シロキサン樹脂が上記複合金属の酸化物粒子の存在下で加水分解縮合反応させて得たものである請求項1?23のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項25】
硬化膜の屈折率が1.6以上2.0以下となる請求項1?24のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項26】
請求項1?25のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物を硬化させてなる透明硬化物。
【請求項27】
請求項26に記載の透明硬化物からなる透明画素。
【請求項28】
請求項26に記載の透明硬化物からなるマイクロレンズ。
【請求項29】
請求項27に記載の透明画素、及び/または、請求項28に記載のマイクロレンズを具備する固体撮像素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-24 
出願番号 特願2016-557689(P2016-557689)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
橋本 栄和
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6298175号(P6298175)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 シロキサン樹脂組成物、これを用いた透明硬化物、透明画素、マイクロレンズ、固体撮像素子  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  

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