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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B66C
審判 一部申し立て 2項進歩性  B66C
管理番号 1354939
異議申立番号 異議2018-700703  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-30 
確定日 2019-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6286618号発明「伸縮ブームの取付構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6286618号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6286618号の請求項1、2、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6286618号の請求項1、2及び6に係る特許についての出願は、2016年6月6日(優先権主張2015年(平成27年)6月11日)に国際出願され、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年8月30日に特許異議申立人 古河ユニック株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされるとともに検証申出書が提出され、平成31年1月25日に検証物提示説明書が提出された。当審は、平成31年2月22日に証拠調べを行い、平成31年3月25日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年5月30日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。当審は、令和1年6月7日付け(発送日令和1年6月12日)で、訂正請求があった旨を異議申立人に通知(特許法第120条の5第5項)し、異議申立人は、令和元年6月28日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和元年5月30日の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
請求項1の
「前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、
前記第1所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅よりも、前記第1所定領域以外の領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅を大きく設定した」との記載を
「前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、
前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され、
前記第1所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅よりも、前記第1所定領域以外の領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅を大きく設定した」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2-6も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
請求項2の
「前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域との境界領域が傾斜形状を呈する、」との記載を
「前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域との境界領域である前記段部が、前記伸縮ブームを側方から見た場合に、前記伸縮ブームのベースブームの後端に沿う方向に傾斜している、」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項3-6も同様に訂正する。)

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1-6は、請求項2-6が、訂正の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、上記訂正事項1及び2は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「第1所定領域」及び「第1所定領域以外の領域」について、「前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され」ることを特定しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、明細書の段落【0018】並びに図面【図2A】及び【図3】に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の「境界領域が傾斜形状を呈する」を「境界領域である前記段部が、前記伸縮ブームを側方から見た場合に、前記伸縮ブームのベースブームの後端に沿う方向に傾斜している」とするものであり、訂正前の請求項2の「傾斜形状」が伸縮ブームのベースブームの後端に沿う方向に傾斜しているものであることを特定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、訂正事項2は、明細書の段落【0015】及び【0018】並びに図面【図2】、【図4】及び【図5】に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)独立特許要件について
訂正前の請求項1、2及び6に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2に関し、請求項1、2及び6については特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する、いわゆる独立特許要件は課されない。
また、後述の第5 1及び第6のとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第1号及び第2号並びに第29条第2項の規定に違反しない。
したがって、本件訂正後の請求項1に係る発明の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明である、本件訂正後の請求項3ないし5に係る発明は、後述の第5 1及び第6で示したと同様の理由により、特許法第29条第1項第1号及び第2号並びに第29条第2項の規定に違反せず、他に独立特許要件に違反する理由も発見できないので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(4)小括
したがって、本件訂正に係る訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正による訂正後の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
作業機の旋回ポストに対して、ブラケットを介して、伸縮ブームを起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部に両側から保持されると共に、前記伸縮ブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
前記一対の当接板部それぞれに、前記伸縮ブームと接合される接合領域とは異なる第1所定領域を設定し、
前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、
前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され、
前記第1所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅よりも、前記第1所定領域以外の領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅を大きく設定した、
伸縮ブームの取付構造。
【請求項2】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域との境界領域である前記段部が、前記伸縮ブームを側方から見た場合に、前記伸縮ブームのベースブームの後端に沿う方向に傾斜している、
請求項1に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項3】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記伸縮ブームの後部の下面位置から下方に突出した突出片を更に有し、
前記一対の当接板部それぞれの前記突出片には、前記伸縮ブームの起伏用の起伏シリンダを保持する第2軸部が設けられた、
請求項1又は2に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項4】
前記一対の当接板部それぞれの前記突出片に、前記第2軸部を含む第2所定領域をそれぞれ設定し、
前記第2所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅は、前記伸縮ブームの後部の幅よりも小さく設定した、
請求項3に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項5】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域から前記突出片に至る境界領域において傾斜形状を呈する、
請求項4に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項6】
前記第1所定領域は、前記一対の当接板部それぞれの後端部の下方側角部である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の伸縮ブームの取付構造。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2及び6に係る発明に対して、当審が平成31年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりのものである。

[新規性]本件特許の請求項1、2及び6に係る発明は、その優先日前に公然実施された検甲第1号証に係る発明と同一であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、本件の請求項1、2及び6に係る発明についての特許は取り消されるべきものである。

(証拠方法(検証物))
検甲第1号証:古河機械金属株式会社佐倉工場製。型式:URA296RK
(証拠方法(書証等))
甲第2号証の1:古河ユニック株式会社のトレーサビリティ・システムによる「製造番号:401555」に基づく検索結果の出力結果の印刷物
甲第2号証の2:型式URA296RRK、製番N401555の納入指導報告書
甲第3号証の5:「小型トラック(2?3.5t級車)架装用ユニッククレーン」のカタログ、1992年6月5日発行
甲第3号証の6:ラジコン、リモコンの型式変更を通知する書類、平成6年9月30日
甲第3号証の7:量産図面の正規出図の通知書、平成5年3月
甲第3号証の8:92A、92B、92C型式決定通知書、平成5年10月

2 検甲第1号証の検証結果から認識できる構成・検甲1発明
検甲第1号証については、平成31年2月22日の検証の結果、特に以下の点が明らかとなり、検証調書に記載されている。
なお、検甲第1号証の上下、前後、左右方向は、検甲第1号証のコラムから伸縮ブームを見たときに、コラム側を「後側」、フック側を「前側」とし、その前後方向に向いて右側を「右側」、左側を「左側」とした。
また、検甲第1号証は、コラムの旋回軸が鉛直方向にあるとし、伸縮ブームが水平状態にあるときを基本姿勢とする。基本姿勢における鉛直方向を「上下方向」とし、伸縮ブーム及びブーム三角板の上下は、伸縮ブームが水平状態にあるときの鉛直方向とした。

(1)コラムの右側、上端から下方62cmの位置にある銘板に、
「MODEL URA296」、
「SPEC. RK」、
「SERIAL NO. N401555」
「MFG DATE 1995.7.」
とある。(写真1、写真2)

(2)旋回可能なコラムに伸縮ブームが起伏可能状態で取り付けられている。(写真3、写真4、写真5、写真6)

(3)伸縮ブームのコラムへの取り付けは、接続部材を介している。
接続部材は、右側の側面視で概ね三角形の板(以下、「ブーム三角板」という。)、左側の側面視で概ね三角形の板(同じく、以下、「ブーム三角板」という。)と、両三角板を接続する天板、下板、ボスとからなる。(写真7、写真8、写真9)

(4)コラムの左右一対の壁の上端(以下、「コラムフート部」という。)は、右側及び左側のブーム三角板の後側(コラム側)の下端を外側から、回動軸(以下、「ブームフートピン」という。)に回動自在に支持している。(写真7、写真8、写真10、写真11)

(5)右側のブーム三角板に、伸縮ブームの後側(コラム側)の右側の側面が、その下辺、上辺及び上辺から下辺にかけてブーム三角板の前側(フック側)の形状、及び、中央に形成された円孔に沿って、溶接されている。(写真7、写真9、写真12、写真13)

(6)右側のブーム三角板の表面に、伸縮ブームを伸縮させるシリンダの後端を支持するピン(以下、「テレシリンダ取付ピン」という。)の取り付け位置で上下方向に延びる溶接痕と、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置からブームフートピンに延びる溶接痕とが観察できる。(写真14、写真15)

(7)左側のブーム三角板に、伸縮ブームの後側(コラム側)の左側の側面が、その下辺、上辺及び上辺から下辺にかけてブーム三角板の前側(フック側)の形状に沿って、溶接されている。(写真8、写真9、写真16)

(8)左側のブーム三角板の略長方形の開口部から、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置の前後で板厚が段差状に変化している。開口部の縁を測定すると、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置より前側で11.2mm、後側で8.1mmであった。

(9)左右それぞれのブーム三角板は、テレシリンダ取付ピンの後側、概ね86cm(8.6cmの誤記)の位置から、内側(伸縮ブームの中心線側)に傾斜し始め、傾斜領域を形成している。
傾斜の始まる位置は、上下方向に直線状である。傾斜の始まる位置では、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させている。(写真20、写真21)

(10)一対のブーム三角板の間の幅(両三角板の外側間を測定)は、テレシリンダ取付ピンの上方の上辺の位置で概ね18.6cmで、傾斜の始まる位置まで概ね一定の幅であり、傾斜領域のブームフートピンの上方の上辺の位置で16.0cmである。
一対のブーム三角板の間の幅は、傾斜領域で後方に向かって徐々に狭くなっている。(写真23、写真24、写真25、写真26、写真27、写真28)

(11)右側のブーム三角板の内側に、テレシリンダ取付ピンから下方に延びる溶接箇所、及び、テレシリンダ取付ピンから斜め下方に延びる溶接箇所があり、当該溶接箇所は上記(6)で確認した溶接痕(写真15の白テープを貼った位置)と一致している。

したがって、本件特許の請求項1の記載振りに則って整理すると、検甲第1号証からは、次の発明(以下、「検甲1発明」という。)が認識できる。

[検甲1発明]
「車輌搭載型クレーンの旋回可能なコラムに対して、接続部材を介して、伸縮ブームを起伏可能状態で取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記接続部材は、前記コラムの左右一対のコラムフート部に左右から回動自在に支持されると共に、前記伸縮ブームの後側(コラム側)の左右の側面に溶接される左右一対のブーム三角板を有し、
前記左右一対のブーム三角板それぞれに、前記伸縮ブームと溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前方の領域とは異なる、テレシリンダ取付ピンの位置より後方概ね8.6cmの位置より後方の傾斜領域を有し、
前記傾斜領域と前記傾斜領域より前方の領域とは、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され、
前記左右一対のブーム三角板は、前記傾斜領域において、前記旋回可能なコラムの左右一対のコラムフート部の間に、ブームフートピンに回動自在に支持される部分を有し、
傾斜領域における前記左右一対のブーム三角板の間の幅よりも、前記傾斜領域より前方の領域における前記左右一対のブーム三角板の間の幅が大きい、伸縮ブームの取付構造。」

3 書証から認識できる事項
甲第2号証の1及び甲第2号証の2から、「型式」が「URA296RRK」で「製造番号」又は「製番」が「N401555」の機体が丸善化成株式会社によりトラックに架装され、有限会社大久保工業所に平成7年7月21日に譲渡されたことが確認できる。
また、甲第2号証の1及び甲第2号証の2「URA296RRK」なる型式ないし仕様の記号は、甲第3号証の5?甲第3号証の8から、UR-290シリーズの車輌搭載型クレーンのうちの6段ブームを有する「URA296」という型式の記号の末尾に、現行ラジコン(黄色ラジコン、音声付)を意味する「RR」と、ラジコン及びユニフックを有することを意味する「RK」とを合わせた「RRK」との記号が付されたものであることが理解できる。
さらに、平成7年が西暦1995年であることを考慮すれば、甲第2号証の1の「製造月日」の欄の「07 07 06」との記載から、譲渡された機体の製造年月が1995年7月であることも理解できる。

4 検甲1発明の公然実施性について
上述の甲第2号証の1及び甲第2号証の2から認識できる事項を踏まえると、銘板に「MODEL URA296」、「SPEC.RK」、「SERIAL NO.N401555」、「MFG DATE 1995.7.」と記載された検甲第1号証は、平成7年7月21日に有限会社大久保工業所に譲渡されたと認められ、また、この譲渡先が特段守秘義務を負っていたとも認められないことから、当該譲渡をもって、検甲第1号証は公然実施されたと認められる。
よって、検甲1発明は、本件特許の優先日(2015年6月11日)前に公然実施された発明である。

第5 当審の判断
1 本件発明1について
本件発明1と検甲1発明とを対比すると、検甲1発明の「車輌搭載型クレーン」は、本件発明1の「作業機」に相当し、以下同様に、「旋回可能なコラム」は「旋回ポスト」に、「接続部材」は「ブラケット」に、「起伏可能状態で取り付ける」ことは「起伏可能に取り付ける」ことに、「コラムの左右一対のコラムフート部」は「旋回ポストの相対向した一対の保持部」に、「左右から回動自在に支持される」ことは「両側から保持される」ことに、「伸縮ブームの後側の左右の側面に溶接される」ことは「伸縮ブームの後部の両側壁部に接合される」ことに、「左右一対のブーム三角板」は「一対の当接板部」に、「伸縮ブームと溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前方の領域」は「伸縮ブームと接合される接合領域」に、「傾斜領域」は「第1所定領域」に、「左右一対のコラムフート部の間」は「旋回ポストの保持部間」に、「ブームフートピンに回動自在に支持される部分」は「回転可能に取り付けられる第1軸部」に、「左右一対のブーム三角板の間の幅」は「一対の当接板部の一方と他方の間の幅」に、「傾斜領域より前方の領域」は「第1所定領域以外の領域」に、それぞれ相当する。

したがって、本件発明1と検甲1発明とは、
「作業機の旋回ポストに対して、ブラケットを介して、伸縮ブームを起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部に両側から保持されると共に、前記伸縮ブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
前記一対の当接板部それぞれに、前記伸縮ブームと接合される接合領域とは異なる第1所定領域を設定し、
前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、
前記第1所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅よりも、前記第1所定領域以外の領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅を大きく設定した、
伸縮ブームの取付構造。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本件発明1は「前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され」るのに対し、検甲1発明は「前記傾斜領域と前記傾斜領域より前方の領域とは、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」る点。

以下、相違点について検討する。
本件発明1の「前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され」る構成は、その記載から、第1所定領域とそれ以外の領域との境界が階段状になっているこが明確に理解できる。また、本件特許の明細書の段落【0018】の記載と【図2A】及び【図3】とを参照しても、所定領域315(第1所定領域)とそれ以外の領域との境界315Kが階段状となっていると理解でき、本件発明1の記載による解釈と整合している。
これに対し、検甲1発明の、傾斜領域とそれより前方の領域とが「その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」る構成にあっては、境界が階段状とならないことは明らかである。
したがって、上記相違点は実質的な相違点であり、本件発明1は検甲1発明と同一であるとはいえず、特許法第29条第1項第2号に該当しない。

2 本件発明2及び6について
本件発明2及び6は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(1)で示したと同様の理由により、本件発明2及び6は、検甲1発明と同一であるとはいえず、特許法第29条第1項第2号に該当しない。

3 異議申立人の意見について
異議申立人は、令和元年6月28日付け意見書において、「訂正前後における特許発明の技術的範囲には何ら変更がないため、平成31年3月25日(起案日)付け取消理由通知に記載された取消理由は依然として解消されていません。」と主張し、訂正後の本件発明1の「段部」に関して縷々主張しているが(意見書の4(1)参照)、上記1で述べたとおり、本件発明1の「段部」に関する構成は理解できるので、取消理由は解消しているといえる。
また、異議申立人は、本件発明1の効果に関して縷々主張しているが(意見書の4(2)参照)、上記1で述べたとおり、本件発明1と検甲1発明とは構成が相違するので、効果について検討するまでもなく、取消理由を解消しているといえる。
さらに、異議申立人は、訂正事項2が特許請求の範囲を変更する訂正に該当し(意見書の4(4)参照)、訂正事項2の訂正が認められても取消理由を解消していない(意見書の4(5)参照)旨主張しているが、上記第2 2(2)で述べたとおり、訂正事項2は訂正前の請求項2の「傾斜形状」を特定するものであり、特許請求の範囲を変更するものでなく、また、上記2で述べたとおり、本件発明2は取消理由を解消しているといえる。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
1 特許法第29条第1項第1号について
検甲1発明が本件特許の優先日(2015年6月11日)前に公然実施された後に、公然知られ得る状態にあったとしても上記第5 1及び2で検討したとおり、本件発明1、2及び6は検甲1発明と同一であるとはいえないので、特許法第29条第1項第1号に該当しない。

2 特許法第29条第2項について
旋回ポストに伸縮ブームを取り付けるブラケットにおいて、段差を設けて幅を変更する構造が従来周知であったことを示す証拠はなく、また、検甲1発明において「滑らかに繋ぐ」部分を「段部」とする動機付けもない。
そうすると、本件発明1、2及び6は、検甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、本件発明1、2及び6は特許法第29条第2項に違反して特許されたものとはいえない。

なお、異議申立人は、令和元年6月28日付け意見書において、新たな証拠を追加し特許法第39条第2項の取消理由を主張しているので、この点について付記する。
異議申立人は、本件発明1は、特許第6531505号の請求項1ないし2に係る発明と同一の発明である旨主張している(意見書第4ページ第9行?第5ページ第4行)。
しかしながら、特許第6531505号の請求項1ないし2に係る発明は、本件発明1の「前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され」る構成を有しないので、本件発明1と同一の発明ではない。
したがって、本件発明1は、特許法第39条第2項に違反して特許されたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の旋回ポストに対して、ブラケットを介して、伸縮ブームを起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部に両側から保持されると共に、前記伸縮ブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
前記一対の当接板部それぞれに、前記伸縮ブームと接合される接合領域とは異なる第1所定領域を設定し、
前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、
前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され、
前記第1所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅よりも、前記第1所定領域以外の領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅を大きく設定した、
伸縮ブームの取付構造。
【請求項2】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域との境界領域である前記段部が、前記伸縮ブームを側方から見た場合に、前記伸縮ブームのベースブームの後端に沿う方向に傾斜している、
請求項1に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項3】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記伸縮ブームの後部の下面位置から下方に突出した突出片を更に有し、
前記一対の当接板部それぞれの前記突出片には、前記伸縮ブームの起伏用の起伏シリンダを保持する第2軸部が設けられた、
請求項1又は2に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項4】
前記一対の当接板部それぞれの前記突出片に、前記第2軸部を含む第2所定領域をそれぞれ設定し、
前記第2所定領域における前記一対の当接板部の一方と他方の間の幅は、前記伸縮ブームの後部の幅よりも小さく設定した、
請求項3に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項5】
前記一対の当接板部は、それぞれ、前記第1所定領域から前記突出片に至る境界領域において傾斜形状を呈する、
請求項4に記載の伸縮ブームの取付構造。
【請求項6】
前記第1所定領域は、前記一対の当接板部それぞれの後端部の下方側角部である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の伸縮ブームの取付構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-24 
出願番号 特願2017-523628(P2017-523628)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B66C)
P 1 652・ 121- YAA (B66C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 達  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6286618号(P6286618)
権利者 株式会社タダノ
発明の名称 伸縮ブームの取付構造  
代理人 鷲田 公一  
代理人 森 哲也  
代理人 廣瀬 一  
代理人 鷲田 公一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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