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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1354941
異議申立番号 異議2018-700982  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-04 
確定日 2019-08-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6343728号発明「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6343728号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6343728号の請求項1、3、5、6に係る特許を維持する。 特許第6343728号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6343728号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成30年 1月18日(優先権主張平成29年 1月20日)に特許出願され、同年 5月25日に特許権の設定登録がされ、同年 6月13日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月 4日にその特許に対し、特許異議申立人亀崎伸宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年 2月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年 4月17日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)に対して申立人から意見書が提出されなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?4のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に「前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれている」と記載されているのを、
「前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3、5、6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3に「請求項1又は2に記載の合金部材」と記載されているのを、「請求項1に記載の合金部材」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「凹部の開口でくびれている」「埋設部」について、「前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」点で、限定を新たに付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1のうち、「埋設部」が「前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さ」いとの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0064】の「基材210の厚み方向に沿った断面において、凹部210c(本実施形態では、環状凸部210bと同義)の開口S2の最小幅W1は、酸化クロム膜211の埋設部211bの最大幅W2よりも小さい。」との記載と、段落【0101】の表1において実施例1?20の「W1’/W2’」の値が1よりも小さいことに基づいているので、上記訂正事項は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当しない。

ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、4について
訂正事項2、4による訂正は、それぞれ、請求項2、4を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項2によって請求項2が削除されたことにともなって、請求項3で引用する請求項についての記載を整合させるために、本件訂正前の「請求項1又は2に記載の合金部材」を本件訂正後の「請求項1に記載の合金部材」とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的するものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正事項1による訂正によって、訂正前の請求項1を引用する請求項2?6が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?6〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(5)独立して特許を受けることができるかについて
申立人による特許異議は、本件訂正前の請求項1?6の全てに対して申し立てられているので、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の請求項1?6に係る発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、
前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている、
合金部材。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記基材の断面において、前記埋設部の平均存在率は、5個/mm以上である、
請求項1に記載の合金部材。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
2つの燃料電池セルと、
請求項1に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材である、
セルスタック。
【請求項6】
燃料電池セルと、
請求項1に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記燃料電池セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」

第4 特許異議申立ての概要
申立人は、証拠として、特許異議申立書に添付して下記甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の申立理由1?5によって、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、各申立理由について、取消理由として採用したか否かを「()」内に示している。

1 申立理由1(採用)
本件発明1?3、5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 申立理由2(採用)
本件発明1?3、5は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

3 申立理由3(不採用)
本件発明1、2、5、6は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

4 申立理由4(採用)
本件発明6は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

5 申立理由5(採用)
本件発明1?6は、特許請求の範囲の記載が明確ではなく、その特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特許第5315476号公報
甲第2号証:再公表特許第2010/087298号
甲第3号証:X. Montero,et al.,“Spinel and Perovskite Protection Layers Between Crofer22APU and La_(0.8)Sr_(0.2)FeO_(3) Cathode Materials for SOFC Interconnects”,Journal of The Electrochemical Society,2009,156(1),B188-B196
甲第4号証:再公表特許第2013/172451号

なお、甲第1号証?甲第4号証を、それぞれ、甲1?甲4ということがある。

第5 取消理由の概要
1 平成31年 2月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(甲1を主たる引用例とする新規性及び進歩性。申立理由1、4を採用。)
本件訂正前の請求項1?3、5に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものであるか、そうでなくても、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(甲3を主たる引用例とする新規性及び進歩性。申立理由2を採用。)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものであるか、そうでなくても、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(発明の明確性。申立理由5を採用。)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、明確ではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(サポート要件。職権で通知。)
本件訂正前の請求項1、3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1) 甲第1号証
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第1号証には、「集電部材及び燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与したものであり、「・・・」によって記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア 「【0009】
<固体酸化物型燃料電池100の構成>
固体酸化物型燃料電池(以下、「燃料電池」と略称する)100の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、燃料電池100の構成を示す断面図である。
【0010】
燃料電池100は、発電部10と、集電部材20と、を備える。」

1イ 「【0016】
ここで、図2は、集電部材20の拡大断面図である。図2に示すように、集電部材20は、基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備える。
【0017】
基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有する。
【0018】
合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材である。合金部材211は、例えばフェライト系ステンレス部材によって構成することができる。合金部材211の厚みは、例えば0.3mm?1mmとすることができる。
【0019】
第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成される。第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する。Cr_(2)O_(3)には、合金部材211や第2導電性セラミックス膜220を構成する元素が不純物として含有されていてもよい。第1導電性セラミックス膜212は、RF(radio-frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いてCrターゲットをArスパッタリングし、反応ガス(例えば、酸素)との反応により酸化物を成膜することによって形成することができる。第1導電性セラミックス膜212の厚みは、例えば1μm?20μmとすることができる。」

1ウ 「【0036】
<集電部材20の製造方法>
次に、集電部材20の製造方法について説明する。
【0037】
まず、フェライト系ステンレスによって構成される所定サイズの合金部材211を準備する。
【0038】
次に、合金部材211の表面にRFスパッタ装置を用いてCr_(2)O_(3)をスパッタリングし、その後大気雰囲気中で熱処理(例えば、850?1050℃、1-20時間)を行う。これによって、合金部材211の表面にCr_(2)O_(3)の柱状粒子を成長させて、第1導電性セラミックス膜212を形成する。
【0039】
次に、第1導電性セラミックス膜212の表面に、(Mn,Co)_(3)O_(4)を含むコーティング剤を複数回塗布/乾燥させる。この際、造孔剤を含むコーティング剤を複数回塗布/乾燥させた後に、造孔剤を含まないコーティング剤を複数回塗布/乾燥させる。このように造孔材の有無を調整することによって、後述する焼き付け処理において第1緻密層221と多孔質層222の二層が形成される。また、造孔材の粒径を適宜選択することによって、多孔質層222における閉気孔の平均円相当径を調整可能である。
【0040】
次に、所定条件で多層のコーティング剤を焼き付ける。以下の3ステップは、コーティング剤の焼き付け条件の一例である。
・ 900?1100℃、1?20時間、大気雰囲気での焼成処理
・ 900?1100℃、1?20時間、1?10%加湿還元雰囲気での還元処理
・ 900?1100℃、1?10時間、大気雰囲気での再酸化処理」

1エ 「【0050】
(C)上記実施形態では、集電部材の一例として、空気極13に接続される集電部材20の構成について説明したが、これに限られるものではない。本発明に係る集電部材は、2つの燃料電池セルに挟まれるセパレータであってもよい。この場合、セパレータは、一方の燃料電池セルの空気極と、他方の燃料電池セルの燃料極と、に接続される。本発明によれば、このようなセパレータの耐久性を向上させることもできる。」

1オ 「【図2】



(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1ア、1イによれば、甲1には、集電部材20を備える固体酸化物燃料電池100について記載されており(段落【0009】)、集電部材20は、基材210と第2導電性セラミックス膜220とを備え、前記基材210は、合金部材211と第1導電性セラミックス膜212とを有することが記載されている(段落【0016】、【0017】)。
また、合金部材211はFe及びCrを含む板状部材であること、及び第1導電性セラミックス膜212はCr_(2)O_(3)を主成分として含有することが記載されている(段落【0018】、【0019】)。

イ 上記1イの段落【0016】によれば、甲1の図2は「集電部材20の拡大断面図」である。以下、甲1の図2について、それに関連する特許異議申立書の第15頁に示された参考図1及び参考図2を参照して、検討する。
(ア)甲1の図2下部に示された「×5,000」の文字からみて、甲1の図2は、集電部材20を倍率5000倍で観察したときの画像であると認められる。なお、図2の右上部には「200」という符号が付されているが、これは「20」の誤記であると認められる。

(イ)そして、参考図1、2は、次に転載したとおりのものであって、参考図1は、甲1の図2に対し、特許異議申立人が、ピンク色のマーカー、丸付きの番号、各符号が示す構成の文言、点線の囲み、当該点線の囲みの部分を示すための「X1」という符号を付したものであり、参考図2は、参考図1におけるX1部分の拡大図である。
なお、特許異議申立書の第14頁第11行?第17行によれば、参考図1、2において、括弧外の文言は、同符号に対応する甲1の構成要素の名称であり、括弧内の文言は、同符号に対応する本件発明1等の構成要素の名称であるとされている。










(ウ)当審が、甲1の図2に対し、通常の定規で測定したところによれば、横幅は162.5mmであり、1μmのスケールバーは6.5mmであるから、甲1の図2に示される画像は、実際には横幅25μm(162.5÷6.5=25の計算より)の範囲を撮影したものである。

(エ)甲1の図2によれば、第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面に形成された凹部の内部に埋設されている部分を複数有していることを見て取ることができる。そして、参考図2を考慮すれば、そのような埋設されている部分のうち、参考図1の丸数字5の箇所では、埋設された第1導電性セラミックス膜212の幅に関し、凹部の開口端からみて奥側に向かう途中で最小幅(参考図2のD1)を有するとともに、さらに奥側に向かう途中で最大幅を有している(参考図2のD2)ことも把握できる。参考図1の丸数字1?4、6の箇所においても同様である。

(オ)上記(ア)?(エ)を総合すると、甲1の図2からは、集電部材20について、その断面のうち、25μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、第1導電性セラミックス膜212が合金部材211の表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、6個存在していることを読み取ることができる。

(カ)また、甲1の図2によれば、合金部材211の表面に形成された凹部の表面側端部には凸部が形成されていることを見て取ることができ、上記凹部は上記凸部の内部に形成されているということができる。

ウ 上記ア及びイより、甲1には、次の集電部材20の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。

「Fe及びCrを含む板状部材である合金部材211と、
前記合金部材211の表面上に形成される、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する第1導電性セラミックス膜212と、
前記第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成される第2導電性セラミックス膜220と、
を備える集電部材20であって、
前記集電部材20の断面のうち、25μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、前記第1導電性セラミックス膜212が、前記合金部材211の表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、6個存在していることを読み取ることができ、
前記凹部は、前記合金部材211の表面に形成された凸部の内部に形成されている、
集電部材20。」

(2) 甲第2号証
(2-1)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第2号証には、「耐熱性合金、燃料電池用合金部材、燃料電池セルスタック装置、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【請求項1】
Crを含有する合金の表面の少なくとも一部に、Znを含有する酸化物を含んでなる第1の層と、ZnOを含まず、(La,Sr)MnO_(3)系ペロブスカイト型酸化物を含んでなる第2の層とをこの順に積層してなるCr拡散抑制層を具備することを特徴とする耐熱性合金。
【請求項2】
前記第2の層は、(La,Sr)MnO_(3)系ペロブスカイト型酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性合金。
【請求項3】
前記第1の層は、ZnMn_(2)O_(4)およびMnCo_(2)O_(4)を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐熱性合金。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載の耐熱性合金からなることを特徴とする燃料電池用合金部材。
【請求項5】
複数個の燃料電池セルをそれぞれ電気的に接続するための集電部材であって、請求項4に記載の燃料電池用合金部材により形成され、前記Crを含有する合金の表面を覆うように前記Cr拡散抑制層が設けられてなることを特徴とする集電部材。
【請求項6】
燃料電池セルに反応ガスを供給するためのマニホールドであって、請求項4に記載の燃料電池用合金部材からなり、該マニホールドの外面を構成する前記Crを含有する合金の表面に前記Cr拡散抑制層が設けられてなることを特徴とするマニホールド。
【請求項7】
複数個の燃料電池セルと、複数個の該燃料電池セルをそれぞれ電気的に直列に接続するための請求項5に記載の集電部材と、前記燃料電池セルの下端部を固定するとともに前記燃料電池セルに反応ガスを供給するための請求項6に記載のマニホールドとを備えることを特徴とする燃料電池セルスタック装置。」

2イ 「【0012】
さらに、Crを含有する合金を、燃料電池セルに燃料ガス等の反応ガスを供給するためのマニホールド等の部材として用いる場合には、燃料電池セルを長時間発電させることにより、Crを含有する合金からのCr拡散により合金の表面に酸化クロムの被膜が形成され、酸化クロムの被膜中のCrが揮散するいわゆるCr揮散が生じ、それにより、燃料電池セルにCr被毒が生じ、燃料電池セルの発電性能が低下するおそれがある。」

2ウ 「【0029】
本発明の燃料電池セルスタック装置は、複数個の燃料電池セルと、複数個の該燃料電池セルをそれぞれ電気的に直列に接続するための上記の集電部材と、前記燃料電池セルの下端を固定するとともに、前記燃料電池セルに反応ガスを供給するための上記のマニホールドとを具備することから、Cr拡散を抑制することができ、燃料電池セルがCr被毒することを抑制できる。それにより、長期信頼性に優れた燃料電池セルスタック装置とすることができる。」

(3) 甲第3号証
(3-1)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に外国において頒布された甲第3号証には、「Spinel and Perovskite Protection Layers Between Crofer22APU and La_(0.8)Sr_(0.2)FeO_(3) Cathode Materials for SOFC Interconnects」(論文のタイトル)、(当審訳:SOFCインターコネクト用のCrofer22APUとLa_(0.8)Sr_(0.2)FeO_(3)カソード材料との間のスピネル及びぺロブスカイト保護層)に関して、以下の事項が記載されている。

3ア 「In this study, different conductive oxide coatings were used as protective layers to improve surface stability and electrical performance, as well as to mitigate or prevent chromium poisoning of the cells.」(要約第2行?第4行)
(当審訳:「この研究においては、表面安定性及び電気的性能を向上させるための、並びにセルのクロム被毒を緩和又は防止するための保護層として、異なる導電性酸化物コーティングが使用された。」)

3イ 「The possibility of working at such temperatures allows the use of ferritic steels as interconnect components and performing as support for the actual SOFCs.」(B188頁左欄第6行?第9行)
(当審訳:「このような温度で動作する可能性は、インターコネクト部材としてフェライト鋼の使用を可能にし、実際のSOFCのサポートとして機能する。」)

3ウ 「

」(B189頁最上部)

3エ 「For the second method, MnCo_(2)O_(4)(MC), MCF-10, and MnCo_(1.75)Fe_(0.25)O_(4) (MCF-25) coatings were densified by reactive sintering.」(B189頁右側欄下から第10行?下から第8行)
(当審訳:「第2の方法のために、MnCo_(2)O_(4)(MC)、MCF-10、及びMnCo_(1.75)Fe_(0.25)O_(4)(MCF-25)のコーティングが、反応性焼結によって緻密化された。」)

3オ 「

」(B194頁のFigure 11)

3カ 「Figure 11. SEM cross section of Crofer22APU coated with (a) MC, (b) MCF-10, (c) MCF-25, and detail of SrCrO4 inclusion of the MCF-25 coated sample (d) after 1000 h in air at 800°C.」(B194頁のFigure 11の説明)
(当審訳:「図11 空気中800℃で1000時間後における、(a)MC、(b)MCF-10、(c)MCF-25によってコーティングされたCrofer22APUのSEM断面、及び(d)MCF-25によってコーティングされたサンプルのSrCrO_(4)含有物の細部のSEM断面。」

(3-2)甲第3号証に記載された発明
ア 上記3エ?3カによれば、甲3の図11のa)は、MnCo_(2)O_(4)でコートされたCrofer22APUのSEM断面を示す図であって、上記3ア?3イも踏まえると、これは、SOFCのインターコネクトとして適用されるものであると認められる。

イ 甲3の図11のa)について、それに関連する特許異議申立書の第28頁?第29頁に示された参考図4及び参考図5を参照して、検討する。
(ア)参考図4、5は、次に転載したとおりのものであって、参考図4は、甲3の図11のa)に対し、特許異議申立人が、ピンク色のマーカー、丸付きの番号、各層の構成の文言、点線の囲み、当該点線の囲みの部分を示すための「X2」という符号を付したものであり、参考図5は、参考図4におけるX2部分の拡大図である。
なお、特許異議申立書の第27頁下から第2行?最下行によれば、参考図4において、括弧内の文言は、同符号に対応する本件発明1等の構成要素の名称であるとされている。









(イ)当審が、甲3の図11のa)に対し、通常の定規で測定したところによれば、その横幅は60mmであり、右下に示される2μmのスケールバーは3.5mmであるから、甲3の図11のa)に示される画像は、実際には横幅34μm(60÷(3.5÷2)≒34の計算より)の範囲を撮影したものである。

(ウ)甲3の図11のa)によれば、Cr_(2)O_(3)の層は、Crofer22APUの表面に形成された凹部の内部に埋設されている部分を複数有していることを見て取ることができる。そして、参考図5を考慮すれば、そのような埋設されている部分のうち、参考図4の丸数字1の箇所では、埋設されたCr_(2)O_(3)の幅に関し、凹部の開口端からみて奥側に向かう途中で最小幅(参考図5のD3)を有するとともに、さらに奥側に向かう途中で最大幅を有している(参考図5のD4)ことも把握できる。参考図4の丸数字2の箇所においても同様である。

(エ)上記(ア)?(ウ)を総合すると、甲3の図11のa)からは、MnCo_(2)O_(4)でコートされたCrofer22APUについて、その断面のうち、34μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、Cr_(2)O_(3)の層がCrofer22APUの表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、2個存在していることを読み取ることができる。

(オ)また、甲3の図11のa)によれば、Crofer22APUの表面に形成された凹部の表面側端部には凸部が形成されていることを見て取ることができ、上記凹部は上記凸部の内部に形成されているということができる。

ウ 上記ア及びイより、甲3には、以下のSOFCインターコネクトの発明が記載されていると認められる(以下、「甲3発明」という。)。

「Crofer22APUと、
前記Crofer22APUの表面上に形成されるCr_(2)O_(3)の層と、
前記Cr_(2)O_(3)の層の表面上に形成されるMnCo_(2)O_(4)の層と、
を備えるSOFCインターコネクトであって、
前記SOFCインターコネクトの断面のうち、34μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、前記Cr_(2)O_(3)の層が、前記Crofer22APUの表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、2個存在していることを読み取ることができ、
前記凹部は、前記Crofer22APUの表面に形成された凸部の内部に形成されている、
SOFCインターコネクト。」

(4) 甲第4号証
(4-1)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第4号証には、「導電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール、電気化学装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電基体の表面が被覆層で被覆された導電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール、電気化学装置に関する。」

4イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、集電基板をプレス加工する際に、集電基板に生じる剪断力で、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合がある。この凹溝の開口は大きく、かつ深いことに起因し、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であったため、集電基板の表面の被覆層に凹溝に基づく開口部が存在しており、この被覆層の開口部を起点として集電基板が酸化していき、耐熱性が低下していくおそれがあった。
【0006】
本発明は、導電基体の凹溝を被覆層で被覆できる集電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール、電気化学装置を提供することを目的とする。」

4ウ 「【0034】
集電部材4は、セルスタック装置1の作動時に高温の酸化雰囲気に曝されることから、集電基板(導電基体)41の表面全体に被覆層43を形成してなり、これにより、集電部材4の劣化を低減することができる。なお、図2、図3(a)では被覆層43を省略し、図4では、集電基板41の表面全体に被覆層43を形成した状態を示し、集電基板41の断面を示す斜線は省略している。
【0035】
集電部材4は、耐熱性および高温の酸化性雰囲気で導電性を有する必要があるため、集電基板41は、例えば合金により作製することができる。特には、集電部材4は、高温の酸化雰囲気に曝されることから、集電基板41は4?30質量%の割合でCrを含有する合金で構成されている。集電基板41は、例えば、Fe-Cr系の合金やNi-Cr系の合金等により作製できる。集電基板41は高温用(600?1000℃)の導電基体である。」

4エ 「【0038】
そして、第1集電片4aおよび第2集電片4bの第2表面4hおよび第3表面4iには複数の凹溝15が形成されており、これらの凹溝15内には酸化クロム14が埋まっている。言い換えると、プレス加工時の剪断力で切断され、厚み方向に形成された面(側面)には、亀裂状の凹溝15が形成されており、これらの凹溝15内には酸化クロム14が充填されている。この酸化クロム14は、集電基板41の熱処理時に、集電基板41内部から集電基板41の凹溝15の表面に拡散してきたCrを酸化して形成されている。
【0039】
凹溝15は、図3(b)、図4(c)に示すように、集電基板41の厚み方向(配列方向x)の内壁面が当接するほどほぼ閉じられており、開口しているとしても、厚みWが狭い面状の空間であって、内部が先細り形状に形成され、凹溝15内には、酸化クロム14がほぼ充填され凹溝15が酸化クロム14でほぼ埋設されている。
【0040】
図4(c)で説明すると、凹溝15は、集電基板41の厚み方向の断面において(集電基板41を断面視したとき)、集電基板41の側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に延び、凹部15aよりも厚みが小さい亀裂15bとを具備するとともに、凹部15a内に埋まっている酸化クロム14の表面は凹んでおり、この凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる。被覆層43は、凹部15a内の酸化クロム14表面全体を覆っている。
【0041】
また、酸化クロム14は、図4(d)に示すように、対向する凹溝15の内壁面が当接するほど閉じられた面状の空間内に埋設され、集電基板41の厚み方向の断面で、複数の酸化クロム14の塊が線状に並んで点在するように見える場合がある。一つ一つの酸化クロム14の塊は、集電基板41の厚み方向の断面で見れば、球状ではなく、楕円状または棒状に見える。」

4オ 「



(4-2)甲第4号証に記載された発明
ア 上記4ウによれば、セルスタック装置1の作動時に高温の酸化雰囲気に曝されることによる、集電部材4の劣化を低減するために、集電部材4は、集電基板41の表面全体に被覆層43を形成してなるものである(段落【0034】)。また、集電基板41は、Fe-Cr系の合金やNi-Cr系の合金等により作製される(段落【0035】)。

イ 上記4エによれば、集電部材4の側面には、プレス加工時の剪断力によって切断されることによって形成された、亀裂状の凹溝15が形成されており、当該凹溝15内には、酸化クロム14が充填されている(段落【0038】?【0039】)。

ウ 上記4エによれば、凹溝15は、集電基板41の厚み方向の側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に延び、凹部15aよりも厚みが小さい亀裂15bとを具備しており、凹部15a内に埋まっている酸化クロム14の表面は凹んでおり、この凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる(段落【0040】)。

エ 上記4オの図4(c)によれば、集電基板41の側面部の表面を覆うように、また、凹溝15内を充填するように、酸化クロム14が形成されており、また、酸化クロム14の表面を覆うように被覆層43が形成されていることを見て取ることができる。

オ 上記ア?エより、甲4には、次の集電部材4の発明が記載されていると認められる(以下、「甲4発明」という。)。

「Fe-Cr系の合金やNi-Cr系の合金等により作製された集電基板41と、
前記集電基板41の表面を覆う酸化クロム14と、
酸化クロム14の表面を覆う被覆層43と、
を備え、
前記集電基板41は、その厚み方向の側面に形成された亀裂状の凹溝15を有し、
前記凹溝15は、側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、集電基板41の内部に向けて線状に延びる、厚みが小さい亀裂15bとを含み、
前記酸化クロム14は、前記凹溝15を充填し、
前記凹部15aを充填する酸化クロム14の表面は凹んでおり、
前記酸化クロム14の凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる、
集電部材4。」

2 申立理由を採用した取消理由について
2-1 取消理由1(甲1を主たる引用例とする新規性進歩性)についての判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「Fe及びCrを含む板状部材である合金部材211」が、本件発明1の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。
そして、甲1発明の「集電部材20」は、本件発明1の「合金部材」に相当する。

イ 甲1発明の「合金部材211の表面上に形成される、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する第1導電性セラミックス膜212」が、本件発明1の「前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜」に相当する。

ウ 甲1発明の「前記第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成される第2導電性セラミックス膜220」が、本件発明1の「前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 甲1発明は、「前記集電部材20の断面のうち、25μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、前記第1導電性セラミックス膜212が、前記合金部材211の表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、6個存在していることを読み取ることができる」ものであるところ、「凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部」は、前記「最小幅」を有している箇所において「くびれて」いるといえるし、甲1の図2の断面において、凹部の開口の最小幅は、埋設部の最大幅よりも小さいといえる。
ゆえに、甲1発明は、本件発明1に特定される「前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく」との事項を備えている。

オ 甲1発明の「前記凹部は、前記合金部材211の表面に形成された凸部の内部に形成されている」ことと、本件発明1の「前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」ことは、「前記凹部は、前記基材の表面に形成された」「凸部の内部に形成されている」点で共通している。

カ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、
前記凹部は、前記基材の表面に形成された凸部の内部に形成されている、
合金部材。」

<相違点1> 「凹部」がその「内部に形成されている」「前記基材の表面に形成された凸部」が、本件発明1では「環状凸部」であるのに対して、甲1発明では「環状凸部」であるか不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 本件特許明細書と図面には、本件発明1の「環状凸部の内部に形成されている」「凹部」の製造方法に関して、次の記載がある。
「【0077】
[マニホールド200の製造方法]
マニホールド200の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、容器202の製造方法は、天板201の製造方法と同様であるため、以下においては、天板201の製造方法について説明する。
【0078】
まず、図8に示すように、基材210の表面210aに凹部210cを形成する。例えばショットピーニング、サンドブラストを用いることによって、所定形状の凹部210cを効率的に形成することができる。この際、凹部210cの幅を調整することによって、後述する埋設部211bの最大幅W2を制御できる。また、凹部210cの幅及び深さを調整することによって、埋設部211bの円相当径を制御できる。また、凹部210cの個数を調整することによって、埋設部211bの存在率を制御できる。」




上記記載を参照すれば、本件発明1の「環状凸部」は、基材210の表面210aにショットピーニングやサンドブラストによって凹部を形成する際に、噴射される粒状物の衝撃によって表面210aに形成されたクレーター状の構造であると推定される。

イ 一方、上記1(1)(1-2)イ(エ)で検討したように、甲1の図2には、合金部材211の表面に凹部が形成されていることが見て取れるが、甲1には、上記1イの段落【0018】に、合金部材211がFe及びCrを含む板状部材であることが記載され、上記1ウの段落【0038】に、合金部材211の表面にRFスパッタ装置を用いてCr_(2)O_(3)をスパッタリングし、その後大気雰囲気中で熱処理(例えば、850?1050℃、1-20時間)を行うと記載されているだけであり、上記凹部がいつどのように形成されたものであるかについての記載はなく、本件発明のように、合金部材211の表面にショットピーニングやサンドブラスト処理を行うことは記載されていないため、甲1発明の上記凸部は環状になっているとはいえないし、合金部材211の表面にショットピーニングやサンドブラスト処理を行う動機もないから、上記凸部を環状にすることが容易になし得ることであるともいえない。

ウ また、本件発明が解決しようとする課題は、基材と被覆膜との熱膨張係数が異なるため、被覆膜が剥離するおそれがあるとの状況に対して、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材を提供することであり(段落【0005】?【0006】)、開口でくびれている凹部がその内部に形成されている環状凸部を形成することによって、アンカー効果によって、基材と被覆膜の剥離を抑制するという格別な効果を奏するものである(段落【0063】)のに対して、甲1には、合金部材211と第1導電性セラミックス膜212との剥離を抑制する課題についての記載はなく、合金部材211の表面に形成された凹部が剥離を抑制する効果を奏するものであるともいえない。

エ したがって、上記相違点1は本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるし、甲1発明において上記凸部を環状凸部とすべき動機も無いから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるともいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3、5、6についても、同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2-2 取消理由2(甲3を主たる引用例とする新規性進歩性)についての判断
(1)本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「Crofer22APU」は、上記3ウの表1によれば、クロムを含有する鉄合金であるといえるから、本件発明1の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。
そして、甲3発明の「SOFCインターコネクト」は、本件発明1の「合金部材」に相当する。

イ 甲3発明の「Crofer22APUの表面上に形成されるCr_(2)O_(3)の層」が、本件発明1の「前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜」に相当する。

ウ 甲3発明の「Cr_(2)O_(3)の層の表面上に形成されるMnCo_(2)O_(4)の層」が、本件発明1の「前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 甲3発明は、「前記SOFCインターコネクトの断面のうち、34μmの幅を有するある部分を1箇所観察したとき、前記Cr_(2)O_(3)の層が、前記Crofer22APUの表面に形成された凹部の内部に埋設された埋設部を複数有しており、前記埋設部のうち、凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部が、2個存在していることを読み取ることができる」ものであるところ、「凹部の開口端からみて凹部の奥側に向かう途中で最小幅を有するとともに、さらに凹部の奥側に向かう途中で最大幅を有するように埋設された埋設部」は、前記「最小幅」を有している箇所において、くびれているといえるし、甲3の図11a)の断面において、凹部の開口の最小幅は、埋設部の最大幅よりも小さいといえる。
ゆえに、甲3発明は、本件発明1に特定される「前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく」との事項を備えている。

オ 甲3発明の「前記凹部は、前記Crofer22APUの表面に形成された凸部の内部に形成されている」ことと、本件発明1の「前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」ことは、「前記凹部は、前記基材の表面に形成された」「凸部の内部に形成されている」点で共通している。

カ そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、
前記凹部は、前記基材の表面に形成された凸部の内部に形成されている、
合金部材。」

<相違点2> 「凹部」がその「内部に形成されている」「前記基材の表面に形成された凸部」が、本件発明1では「環状凸部」であるのに対して、甲3発明では「環状凸部」であるか不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 本件特許明細書と図面には、本件発明1の「環状凸部の内部に形成されている」「凹部」の製造方法に関して、段落【0077】?【0078】の記載及び図8を参照すれば、本件発明1の「環状凸部」は、基材210の表面210aにショットピーニングやサンドブラストによって凹部を形成する際に、噴射される粒状物の衝撃によって表面210aに形成されたクレーター状の構造であると推定される。

イ 一方、甲3には、Crofer22APUの表面の凹部がいつどのように形成されたものであるかについての記載はなく、本件発明のように、Crofer22APUの表面にショットピーニングやサンドブラスト処理を行うことは記載されていないため、甲3発明の上記凸部は環状になっているとはいえないし、Crofer22APUの表面にショットピーニングやサンドブラスト処理を行う動機もないから、上記凸部を環状にすることが容易になし得ることであるともいえない。

ウ また、本件発明が解決しようとする課題は、基材と被覆膜との熱膨張係数が異なるため、被覆膜が剥離するおそれがあるとの状況に対して、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材を提供することであり(段落【0005】?【0006】)、開口でくびれている凹部がその内部に形成されている環状凸部を形成することによって、アンカー効果によって、基材と被覆膜の剥離を抑制するという格別な効果を奏するものである(段落【0063】)のに対して、甲3には、Crofer22APUとMnCo_(2)O_(4)の層との剥離を抑制する課題についての記載はなく、Crofer22APUの表面に形成された凹部が剥離を抑制する効果を奏するものであるともいえない。

エ したがって、上記相違点2は本件発明1と甲3発明との実質的な相違点であるし、甲3発明において上記凸部を環状凸部とすべき動機も無いから、甲3発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるともいえない。
よって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3、5、6についても、同様の理由により、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2-3 取消理由3(発明の明確性)についての判断
ア 本件訂正前の請求項1には「前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれている 」と記載されていた。

イ ここで、「埋設部」が「凹部の開口でくびれている」との記載について検討するに、「くびれ」とは、一般的には、「中ほどが細くせばまっていること。「ひょうたんの?」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」という意味として使用される日本語であると解されることを勘案すると、請求項1に記載されている「埋設部は」「くびれている」という事項は、「埋設部」の中ほどが細くせばまっている構造を意味するものと解される。

ウ 一方、本件特許明細書には、本件発明の実施形態として、次に示す図12のものがあると記載されているので(段落【0085】)、図12の実施形態は本件発明1に含まれるものと解されるが、当該図12において、酸化クロム膜211が細くせばまっている部分の位置に注目すると、当該細くせばまっている部分は、埋設部211bの最上面(凹部の開口端)に位置しており、埋設部211bの中ほどに位置していないから、そのような細くせばまっている部分は、上記イの検討によれば、「くびれ」に該当するものとはいえないので、図12の実施形態は本件発明1に含まれるとはいえない。
「図12



エ したがって、本件訂正前の請求項1に記載された「前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれている」なる特定事項について、上記「くびれ」がどのような態様を特定するのか明瞭とはいえないので、本件発明1は明確でなく、本件発明2?6も同じ理由で明確ではなかった。

オ しかしながら、本件訂正によって、請求項1に、「前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」との特定事項が追加されたことによって、本件発明1から、環状凸部を有さない図12の実施形態は排除されることになり、「くびれ」の意味も上記イで検討したとおりの意味で合理的に理解できるから、上記エで指摘した不明瞭は解消されることとなった。

カ なお、請求項1に記載された「前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれている」において、「凹部の開口」とは、「凹部」のうち、その開口端から「埋設部」の「くびれ」に隣接する領域までを含むものであると解される。

キ 以上のとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明は明確であり、請求項1を引用する請求項3、5、6に係る発明も明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの取消理由3は解消された。

2-4 取消理由4(サポート要件)についての判断
ア 本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「本件課題」という。)は、本件特許明細書の段落【0006】によれば、「被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供すること」であると認められる。

イ そして、本件特許明細書の段落【0063】には、
「埋設部211bは、環状凸部210bの開口S2でくびれている。すなわち、埋設部211bは、開口S2付近で局所的に細くなっている。このようなボトルネック構造によって、埋設部211bが凹部210cに係止されアンカー効果が生まれるため、酸化クロム膜211の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。」
と記載されている。
上記記載によれば、埋設部211bが凹部210cに係止されアンカー効果が生まれることによって、被覆膜の剥離を抑制し、本件課題を解決するものと認められる。

ウ 一方、本件訂正前の本件発明1は「前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれている」との事項を備えるが、「開口」の幅と「埋設部」の幅との大小関係が特定されていないため、「埋設部」の最大幅が、「凹部」の開口の最小幅よりも小さい態様を含む。この態様では、「埋設部」の最大幅の部分が「凹部」に係止されることはないから、アンカー効果が生じず、本件課題を解決することができない。

エ したがって、本件訂正前の本件発明1は、本件課題を解決することができない態様を含むため、発明の詳細な説明に記載されたものではなかった。

オ しかしながら、本件訂正によって、請求項1に、「前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく」との特定事項が追加されたことによって、上記ウの態様は排除されることになり、「埋設部」の最大幅の部分がそれより小さい最小幅の開口を備えた「凹部」に係止されて、アンカー効果が生じるので、本件課題を解決することができるものとなった。

カ 以上のとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明と、請求項1を引用する請求項3、5、6に係る発明は、本件課題を解決できるものとなり、発明の詳細な説明に記載したものとなったので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの取消理由4は解消された。

2-5 小括
以上のとおり、取消理由通知において通知された、上記取消理由1?取消理由4によっては、本件訂正後の請求項1、3、5、6に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由に採用しなかった申立理由について
3-1 申立理由3(甲4を主たる引用例とする新規性)と甲4を主たる引用例とする進歩性についての判断
(1)本件発明1と甲4発明との対比
ア 甲4発明の「Fe-Cr系の合金やNi-Cr系の合金等により作製された集電基板41」が、本件発明1の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。
そして、甲4発明の「集電部材4」は、本件発明1の「合金部材」に相当する。

イ 甲4発明の「前記集電基板41の表面を覆う酸化クロム14」が、本件発明1の「前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜」に相当する。

ウ 甲4発明の「酸化クロム14の表面を覆う被覆層43」が、本件発明1の「前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 甲4発明の「前記集電基板41」が「その厚み方向の側面に形成された」「凹溝15を有」することは、「厚み方向の側面」は「集電基板41」の表面であるといえるから、本件発明1の「前記基材は、前記表面に形成された凹部を有」することに相当する。

オ 甲4発明の「酸化クロム14は、前記凹溝15を充填」していることは、本件発明1の「前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有」することに相当する。

カ そうすると、本件発明1と甲4発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有する、
合金部材。」

<相違点3> 「酸化クロム膜」が「有」する「埋設部」の形態は、本件発明1では「前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さ」いものであるのに対して、甲4発明では「側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、集電基板41の内部に向けて線状に延びる、厚みが小さい亀裂15bとを含」む「凹溝15」に「充填」されたものである点。

<相違点4> 「基材」の「表面に形成された凹部」が、本件発明1では「前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている」のに対して、甲4発明では「集電基板41」「の厚み方向の側面側に形成された亀裂状」のものであり、「環状凸部の内部に形成されている」ものではない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、初めに相違点4について検討する。

ア 本件特許明細書と図面には、本件発明1の「環状凸部の内部に形成されている」「凹部」の製造方法に関して、段落【0077】?【0078】の記載及び図8を参照すれば、本件発明1の「環状凸部」は、基材210の表面210aにショットピーニングやサンドブラストによって凹部を形成する際に、噴射される粒状物の衝撃によって表面210aに形成されたクレーター状の構造であると推定される。

イ 一方、甲4の上記4イには、集電基板41の凹溝15は、集電基板をプレス加工する際に、集電基板に生じる剪断力によって生じた亀裂であると記載されており(段落【0005】)、本件発明の凹部のように、集電基板41の表面にショットピーニングやサンドブラスト処理を行うことによって形成されたものではないため、上記凹溝15は、その開口周囲に環状凸部が生じているものとはいえないし、集電基板41の上記亀裂が生じた箇所にショットピーニングやサンドブラスト処理を行う動機もないから、上記凹溝15を集電基板41の表面に形成された環状凸部の内部に形成されたものとすることが容易になし得ることであるともいえない。

ウ また、本件発明が解決しようとする課題は、基材と被覆膜との熱膨張係数が異なるため、被覆膜が剥離するおそれがあるとの状況に対して、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材を提供することであり(段落【0005】?【0006】)、開口でくびれている凹部がその内部に形成されている環状凸部を形成することによって、アンカー効果によって、基材と被覆膜の剥離を抑制するという格別な効果を奏するものである(段落【0063】)のに対して、甲4には、集電基板41と酸化クロム14との剥離を抑制する課題についての記載はなく、集電基板41の側面側に形成された亀裂状の凹溝15が剥離を抑制する効果を奏するものであるともいえない。

エ したがって、上記相違点4は本件発明1と甲4発明との実質的な相違点であるし、甲4発明において、凹溝15を集電基板41の表面に形成された環状凸部の内部に形成されたものとすべき動機も無いから、甲4発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるともいえない。
よって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3、5、6についても、同様の理由により、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-2 小括
したがって、上記申立理由3によっては、本件訂正後の請求項1、3、5、6に係る特許を取り消すことはできない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件訂正後の請求項1、3、5、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1、3、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2、4に係る発明は、本件訂正により削除されたから、請求項2、4に係る特許に対する特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基材は、前記表面に形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記凹部の前記開口の最小幅は、前記埋設部の最大幅よりも小さく、
前記凹部は、前記基材の表面に形成された環状凸部の内部に形成されている、合金部材。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記基材の断面において、前記埋設部の平均存在率は、5個/mm以上である、請求項1に記載の合金部材。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
2つの燃料電池セルと、
請求項1に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材である、セルスタック。
【請求項6】
燃料電池セルと、
請求項1に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記燃料電池セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-25 
出願番号 特願2018-6668(P2018-6668)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 池渕 立
平塚 政宏
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6343728号(P6343728)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 合金部材、セルスタック及びセルスタック装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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