• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1354944
異議申立番号 異議2018-700461  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-06 
確定日 2019-07-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6241162号発明「遮光性バリア積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6241162号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6241162号の請求項1、4?7に係る特許を取り消す。 特許第6241162号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6241162号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年9月17日に特許出願され、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報平成29年12月6日発行)、その後、その特許について、平成30年6月6日に特許異議申立人竹内一喜(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成30年8月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年11月2日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がなされ、前記訂正の請求に対して、平成30年12月10日に申立人から意見書の提出がなされ、平成31年1月23日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成31年3月22日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされ、本件訂正請求に対して、令和元年5月9日に申立人から意見書の提出がなされたものである。
なお、平成30年11月2日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「遮光性シーラントフィルムを積層した遮光性バリア積層体であって」及び
「該アルミニウム蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ」
と記載されているのを、それぞれ、
「遮光性シーラントフィルムを積層した、粉体包装用である遮光性バリア積層体であって」及び、
「該アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ」
に訂正する(請求項1を引用する請求項4?7についても同様に訂正する。)。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の遮光性バリア積層体」
に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体」
と記載されているのを、
「請求項1又は4に記載の遮光性バリア積層体」
に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体」
と記載されているのを、
「請求項1及び4?5のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体」
に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1により、訂正後の請求項1は、「遮光性シーラントフィルムを積層した、粉体包装用である遮光性バリア積層体であって」との記載により、遮光性バリア積層体が粉体包装用であることを特定し、また、「無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ」との記載により、無機酸化物蒸着膜を特定し、限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項4?7は、訂正後の請求項1に記載された「無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ」との記載を引用することにより、訂正後の請求項4?7に係る発明における無機酸化物蒸着膜を特定し、限定するものであるため、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、請求項1、4?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
遮光性バリア積層体について、訂正前の請求項2には「粉体包装用である、請求項1に記載の遮光性バリア積層体。」との記載があり、本件特許明細書の段落【0012】には「 さらに、本発明の積層体は、基材となる樹脂フィルム(透明樹脂フィルムおよびヒートシール性樹脂フィルム)上に積層された緻密な蒸着膜から成る層を、少なくとも2層有し、粉体を包装するための包装材としても使用できる程に高い水蒸気バリア性を示すことができる。」との記載及び段落【0013】には「また、抵抗加熱方式による真空蒸着法は、処理時間が短く、ライン速度を速く設定することが可能であるだけでなく、この蒸着方式により得られる蒸着フィルムは、帯電が少ない。したがって、本発明の積層体は、粉体用包装体として適用した際に、粉体が付着するなどによる加工時の問題、例えばシール不良を防ぐことができる。」との記載があり、また、無機酸化物蒸着膜について、訂正前の請求項3には「前記無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられることを特徴とする、請求項1または2に記載の遮光性バリア積層体。」との記載があり、本件特許明細書の段落【0059】には「・・・(1)厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムの一方の面に、マグネトロンスパッタ装置を用いてアルゴンガスによるプラズマ処理面を形成した。得られたフィルムを、抵抗加熱方式の真空蒸着装置に装着し、そのプラズマ処理面上に、下記の蒸着条件にて、厚さ20nmの酸化アルミニウム蒸着膜を形成した。・・・」との記載があり、訂正事項1は、これらの記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

イ.訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3による訂正は、請求項2及び3をそれぞれを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ.訂正事項4?6について
訂正事項4?6による訂正は、それぞれ、訂正事項2及び3により削除される請求項2及び3を引用しないものとして、請求項の記載の整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7について、請求項2?7は、直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、訂正事項1?6による訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

3.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1?7」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の面上に無機酸化物蒸着膜を設けてなる透明ガスバリア性フィルムの、該無機酸化物蒸着膜を設けた側の面に、接着層を介して、遮光性シーラントフィルムを積層した、粉体包装用である遮光性バリア積層体であって、
該遮光性シーラントフィルムは、ヒートシール性樹脂フィルムの一方の面に、アルミニウム蒸着膜を設けてなるフィルムであり、
該アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ、該アルミニウム蒸着膜を設けた側の面が、該接着層と対向するように積層することを特徴とする、上記遮光性バリア積層体。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記透明ガスバリア性フィルムが、前記無機酸化物蒸着膜上にさらに、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けてなるものであることを特徴とする、請求項1項に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項5】
前記無機酸化物が、酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1又は4に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項6】
前記ヒートシール性樹脂フィルムが、2層またはそれ以上のオレフィン系樹脂層からなることを特徴とする、請求項1及び4?5のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項7】
前記ヒートシール性樹脂フィルムが、2層またはそれ以上のオレフィン系樹脂層からなり、その内の少なくとも1層に、ポリプロピレン樹脂が含まれていることを特徴とする、請求項6に記載の遮光性バリア積層体。」

4.取消理由及び取消理由(決定の予告)の概要
本件発明1、4?7に係る特許に対して、平成30年8月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨、及び、平成31年1月23日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

1)本件発明1、4、5は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件発明1、4?7は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」等を「甲1発明」等といい、「甲第1号証に記載された事項」等を「甲1記載事項」等という。
[引用文献一覧]
甲1:特開2000-25147号公報
甲2:金持徹編、「真空技術ハンドブック」、日刊工業新聞社、1990年3月31日発行、497?504頁
甲3:特許第4574952号公報
甲4:特開2012-246016号公報
甲5:特開平9-51786号公報
甲6:特許第4357947号公報
甲7:特開2013-22918号公報

(1)本件発明1について
本件発明1は、甲1発明である。
また、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、抵抗加熱方式の真空蒸着法は、甲2、甲3に例示されているように、本件出願前に周知の技術手段にすぎない。

(2)本件発明4について
本件発明4は、甲1発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明5について
本件発明5は、甲1発明である。
また、本件発明5は、甲1発明、あるいは、甲1発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明6、7について
本件発明6、7は、甲1発明及び甲7記載事項、あるいは、甲1発明、甲6記載事項及び甲7記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.当審の判断
(1)刊行物の記載
ア.甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも、基材フィルム層、無機酸化物の蒸着膜層、アルミニウム蒸着膜層、および、ヒ-トシ-ル性樹脂層の順で順次に積層してなることを特徴とする積層材。
【請求項2】 無機酸化物の蒸着膜層とアルミニウム蒸着膜層との間に、ラミネ-ト用接着剤層を設けて積層してなることを特徴とする上記の請求項1に記載する積層材。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層材に関し、更に詳しくは、遮光性を有し、更に、酸素ガスあるいは水蒸気等に対するバリア性等に優れ、例えば、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、その他等の種々の物品、特に、菓子、スナック食品等に対する充填包装に有用な積層材に関するものである。」

「【0007】まず、本発明にかかる積層材1は、図1に示すように、少なくとも、基材フィルム層2、無機酸化物の蒸着膜層3、アルミニウム蒸着膜層4、および、ヒ-トシ-ル性樹脂層5の順で順次に積層した構成からなるものである。更に、本発明にかかる積層材1aは、図2に示すように、上記の図1に示す積層材1において、無機酸化物の蒸着膜層3とアルミニウム蒸着膜層4との間に、ラミネ-ト用接着剤層6を設けて積層した構成からなるものである。あるいは、本発明にかかる積層材1bは、図3に示すように、上記の図1および図2に示す積層材1、1aにおいて、無機酸化物の蒸着膜層3とアルミニウム蒸着膜層4との間に、印刷絵柄層7を設けて積層した構成からなるものである。上記の例示は、本発明にかかる積層材についてその二三例を例示するものであり、本発明は、これによって限定されるものではない。
【0008】次に、本発明において、本発明にかかる積層材を構成する材料、その製造法等について説明すると、まず、本発明にかかる積層材を構成する基材フィルム層を形成する基材フィルムとしては、無色透明な各種の樹脂のフィルムないしシ-トを使用することができ、具体的には、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレ-トあるいはポリエチレンナフタレ-ト等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカ-ボネ-ト系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコ-ル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル系樹脂、アセタ-ル系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムないしシ-トを使用することができる。・・・」

「【0010】ところで、本発明において、上記の無機酸化物の蒸着膜は、通常、前述の基材フィルムの上に蒸着等によって形成されるものである。而して、本発明において、基材フィルムの上に、無機酸化物の蒸着膜を形成する方法について説明すると、かかる方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(PhysicalVapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。本発明において、無機酸化物の蒸着膜を形成する方法について具体的に説明すると、上記のような金属の酸化物を原料とし、これを加熱して基材フィルムの上に蒸着する真空蒸着法、または原料に金属または金属の酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて基材フィルムの上に蒸着する酸化反応蒸着法、更に酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて蒸着膜を形成することができる。また、本発明においては、酸化ケイ素の蒸着膜を形成する場合、オルガノシロキサンを原料とするプラズマ化学気相成長法を用いて蒸着膜を形成することができる。
【0011】本発明において、上記のような無機酸化物の蒸着膜を形成する方法について、更に具体的に説明すると、図4は、無機酸化物の蒸着膜を形成する巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。・・・上記において、蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。・・・」

「【0014】次に、本発明にかかる積層材を構成するアルミニウム蒸着膜層を構成するアルミニウム蒸着膜としては、基本的には、蒸着源として、アルミニウム金属を使用し、これを蒸発させ蒸着させてなるアルミニウムの蒸着膜を使用することができる。また、本発明において、上記のアルミニウムの蒸着膜の膜厚としては、100?2000Å位、より好ましくは、100?1000Å位が望ましく、而して、上記において、2000Å、更には、1000Åより厚くなると、その膜の可撓性が低下し、膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくなく、また、100Å未満であると、そのバリア性等の効果を奏することが困難になることから好ましくないものである。而して、本発明において、上記のアルミニウムの蒸着膜は、具体的には、例えば、アルミニウム等の金属等を使用し、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(物理気相成長法、Physical Vapor Deposition法、PVD法)によって、アルミニウムの蒸着膜を形成し、これを使用することができる。上記において、真空蒸着法における蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。」

「【0029】実施例4
(1).巻き取り式の真空蒸着装置を使用し、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレ-トフィルムを基材とし、その片面に、放電プラズマ発生装置を用いて、アルミニウムを蒸着源に用いてエレクトロンビ-ム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成して、透明バリア性フィルムを製造した。
(2).次に、上記で製造した透明バリア性フィルムの酸化アルミニウムの蒸着膜層面に、グラビアインキ組成物を使用し、グラビア印刷方式を用いて所望の印刷絵柄層を形成した。
(3).他方、巻き取り式の真空蒸着装置を使用し、厚さ25μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを基材とし、その片面に、アルミニウムを蒸着源に用いてエレクトロンビ-ム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚300Åのアルミニウムの蒸着膜を形成した。
(4).次に、上記の透明バリア性フィルムの印刷絵柄層と、上記の無延伸ポリプロピレンフィルムのアルミニウムの蒸着膜層とを対向させ、その両者を、押し出し用ポリエチレン樹脂を使用し、厚さ20μmにポリエチレン樹脂を押し出しながら、押し出しラミネ-トして、本発明にかかる積層材を製造した。
(5).次に、上記で製造した積層材を使用し、その無延伸ポリプロピレンフィルム面を重ね合わせて、その三方の外周端部をヒ-トシ-ルしてシ-ル部を形成して包装用袋を製造し、次いで、該包装用袋の開口部からスナック菓子を充填し、しかる後、その開口部をヒ-トシ-ルして菓子包装製品を製造した。
上記の包装製品は、遮光性を有し、かつ、酸素ガス、水蒸気等に対するバリア性に優れ、内容物であるスナック菓子の劣化、変質等は認められなかった。」

「【図2】


甲1の【0011】の「上記のような無機酸化物の蒸着膜を形成する方法について、・・・上記において、蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。・・・」との記載、【0014】の「次に、本発明にかかる積層材を構成するアルミニウム蒸着膜層を構成するアルミニウム蒸着膜としては、基本的には、蒸着源として、アルミニウム金属を使用し、これを蒸発させ蒸着させてなるアルミニウムの蒸着膜を使用することができる。・・・本発明において、上記のアルミニウムの蒸着膜は、具体的には、例えば、アルミニウム等の金属等を使用し、例えば、真空蒸着法、・・・によって、アルミニウムの蒸着膜を形成し、これを使用することができる。上記において、真空蒸着法における蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。」との記載、及び【0029】の「実施例4・・・アルミニウムを蒸着源に用いてエレクトロンビ-ム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成して、透明バリア性フィルムを製造した。・・・厚さ25μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを基材とし、その片面に、アルミニウムを蒸着源に用いてエレクトロンビ-ム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚300Åのアルミニウムの蒸着膜を形成した。・・・」の記載から、甲1には、アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物の蒸着膜を形成する蒸着原料の加熱方式としては、「エレクトロンビ-ム(EB)方式」と「抵抗加熱方式」が同等に挙げられているから、甲1には、「アルミニウム蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成され、無機酸化物の蒸着膜として、酸化アルミニウム蒸着膜が用いられ、無機酸化物の蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成される点」が記載されているといえる。

以上の記載事項を総合すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「無色透明な基材フィルム層2の一方の面上に無機酸化物の蒸着膜層3を設けた透明バリアフィルムの、無機酸化物の蒸着膜層3を設けた面に、ラミネ-ト用接着剤層6を介して、ヒートシール性樹脂層5にアルミニウム蒸着層4を設けたフィルムのアルミニウム蒸着層4を設けた面を対向させて積層した、遮光性とバリア性を有する積層材1aであって、
アルミニウム蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成され、
無機酸化物の蒸着膜として、酸化アルミニウム蒸着膜が用いられ、
無機酸化物の蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成される、
包装材料用の遮光性とバリア性を有する積層材1a。」

イ.甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「抵抗加熱法は装置が簡単で安価であるため、現在もっとも普通に行われている方法であり、大部分の金属とカルコゲン化物薄膜がこれによって形成される。」(500頁12?15行)

ウ.甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレンフィルムは、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のエチレン系重合体から得られるフィルムに比べて、ヒートシール強度、透明性、腰の強さ、耐ブロッキング性、耐熱性等に優れるので、菓子、パン、野菜、麺等の食品、或いはシャツ、ズボン等の衣料品を始めとする日用品等あらゆる分野の製品の包装材料として広く使用されている。さらにポリプロピレンフィルムのガス遮断性、防湿性を向上させる目的で、ポリ塩化ビニリデンをポリプロピレンフィルムの表面にコートしたり、ポリプロピレンフィルムにアルミニウムあるいは酸化アルミニウム等の無機化合物を蒸着することも広く行われている。」

「【0031】
実施例1
熱融着層として、PER-1:97.6重量%及びHDPE:2.4重量%とをドライブレンドしたプロピレン系重合体組成物を、中間層として、PER-1:100重量%を、蒸着層としてPER-1:39.2重量%及びHDPE:2.0重量%、LL:19.6重量%、MAH-PP:39.2重量%、を夫々用意して別個の押出機に供給し、Tダイ法によって熱融着層/中間層/蒸着層からなる三層共押出積層フイルムを得た後、蒸着層面を直後で40dyn/cm以上になるようにコロナ処理して、蒸着用プロピレン系重合体積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムの総厚は25μmで、各層の厚みは熱融着層:中間層:蒸着層=3.2μm:19μm:2.8μmであった。
抵抗加熱方式ベルジャー型蒸着装置(真空機工社製、小型真空蒸着装置VPC-260)を用い、得られた蒸着用プロピレン系重合体積層フィルムの蒸着層上にアルミニウムの厚みが約450Åになるように蒸着し、プロピレン系重合体蒸着積層フィルムを得た。・・・」

エ.甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は粉状物包装用の積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粉状の医薬品、砂糖、塩等を1回の使用量分毎に収納する袋体(いわゆる小容量袋体)として、スティック状袋、矩形状のフィルムを折り曲げ、重なり合う三辺をシールした三方袋、矩形状の2枚のフィルムを対向させ、重なり合う四方をシールした四方袋等が用いられている。」

「【0017】
<バリア層>
バリア層14は、一般に包装材料として用いられ、酸素、水蒸気の遮断(ガスバリア性)や遮光等の機能を有するものであればよく、例えば、アルミニウム、合金、銀、ステンレス、銅等の金属箔又は金属蒸着膜、シリカ又はアルミナ等のセラミック蒸着膜を有する各種プラスチックフィルムが挙げられ、中でも金属箔が好ましく、汎用性の観点からアルミニウム箔又は合金箔が好ましい。バリア層14が金属箔であると、積層フィルム1のデッドホールド性をより高められる。」

オ.甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は乾燥食品用包材および乾燥食品の包装方法に関する。
【0002】さらに詳しくは、本発明は乾燥状態にある各種の食品を酸化による品質の劣化から長期間に亙って防止するために有用な新規な包材および該包材を使用して乾燥食品の酸化による品質の劣化を長期間に亙って防止出来る乾燥食品の包装方法に関するものである。」

「【0019】
【発明の実施の形態】本願の第1発明ないし第4発明において、使用する金属鉄粉末含有シート材料は、例えば金属鉄粉末を含有するプラスチック層若しくは不織布層の上層および/または下層に各種の機能を有するプラスチック材料、金属箔、不織布、紙などのフイルム状物、シート状物を重層し、相互の剥離が発生しないように一体化して成る複合シート材料などである。」

「【0023】表1に金属鉄粉末含有層を有するシート材料を構成する各フイルム状物、シート状物の具備すべき必要な機能および重層位置関係を示す。表1中、上下の表示は、金属鉄粉末含有層を中央部に位置せしめて構成したシート材料を包材に成形した場合、包装内容物である乾燥食品と接触する内側となる側を下層、成形した包材の外側となる側を上層と表示する。なお、同表「位置」欄中、「上、下」とあるのは上層、下層の何れか一方、または上層および下層の両方に当該層(フイルム状物、シート状物)が存在することを意味する。また、同一のフイルム状物、シート状物に複数の機能を持たせることも可能である。」

「【0024】
【表1】


「【0048】本発明の方法において、包装の対象となる食品は乾燥状態にある食品である。この場合の乾燥状態は、狭義に理解すべきではなく、通常の乾燥食品に加えて半乾燥食品をも対象とする。それらの乾燥食品、半乾燥食品を例示すれば次の通りである。
【0049】
・・・
(6)嗜好品類:粉末インスタントコーヒー、粉末インスタントテイー、コーヒー豆、紅茶(葉)、緑茶(葉)、烏竜茶(葉)
・・・
(13)調味料類:魚節粉末とグルタミン酸モノナトリウムなどからなる顆粒調味料、削り魚節、焼干し、煮干し、昆布粉末、粉末胡椒、粒胡椒」

カ.甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、遮光性積層材およびそれを使用した包装用袋に関するものである。」

「【0008】
すなわち、本発明は、基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、該無機酸化物の蒸着膜の上に、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))m(ただし、式中、R^(1)、R^(2)は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたバリア性フィルムと、ヒ-トシ-ル性を有する遮光性樹脂層とを順次に積層することを特徴とする遮光性積層材およびそれを使用した包装用袋に関するものである。」

キ.甲7
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムと、前記未延伸ポリオレフィン樹脂フィルム上に設けられたガスバリア性塗布膜と、前記ガスバリア性塗布膜上に設けられたアルミ蒸着層と、を備えたバリア性積層フィルムであって、
前記ガスバリア性塗布膜が、一般式:R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール、および/またはエチレン・ビニルアルコールを含んでなる組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得られるアルコキシドの加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物からなることを特徴とする、バリア性積層フィルム。
・・・
【請求項3】
前記未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムが3層以上からなる、請求項1または2に記載のバリア性積層フィルム。
・・・
【請求項5】
前記未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの3層以上の層の少なくとも1層が、ポリプロピレン樹脂からなる、請求項3または4に記載のバリア性積層フィルム。
・・・」

「【0007】
したがって、本発明の目的は、酸素バリア性、水蒸気バリア性、遮光性、及び光沢性についてはアルミ蒸着PET等と同等の性能を有し、基材とアルミ蒸着膜との密着性も良好で、かつ、ヒートシール性も有するバリア性積層フィルムを提供することである。」

「【0015】
また、本発明の態様においては、前記表基材が、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上の一方の面に無機酸化物からなる蒸着層とを備えた透明樹脂フィルムからなり、前記バリア性積層フィルムのアルミ蒸着層と前記表基材の無機酸化物蒸着層とが対向するように貼り合わされていることが好ましい。」

「【0022】
本発明によるバリア性積層フィルムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明によるバリア性積層フィルムの概略断面図を示したものである。バリア性積層フィルム1は、未延伸ポリオレフィン樹脂フィルム11と、未延伸ポリオレフィン樹脂フィルム11上に設けられたガスバリア性塗布膜12と、ガスバリア性塗布膜12上に設けられたアルミ蒸着層13とを備えている。・・・」

「【0055】
<積層体>
次に、上記したバリア性積層フィルムを用いた積層体について説明する。図2は、バリア性積層フィルム1を用いた積層体2の好ましい一実施形態を示した概略断面図である。本発明による積層体2は、上記したバリア性積層フィルム1と表基材22とが、バリア性積層フィルム1のアルミ蒸着層13と表基材とが対向するように、接着剤または押出樹脂23を介して、貼り合わされた層構成を有する。」
「【図2】



(2)理由1及び理由2について
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比、一致点、相違点
甲1発明の「ヒートシール性樹脂層5にアルミニウム蒸着層4を設けたフィルム」は、ヒートシール性と遮光性を有するフィルムであるから、本件発明1の「遮光性シーラントフィルム」に相当する。
また、甲1発明の「無色透明な基材フィルム層2」、「無機酸化物の蒸着膜層3」、「透明バリアフィルム」、「ラミネ-ト用接着剤層6」、「ヒートシール性樹脂層5」、「アルミニウム蒸着層4」、「包装材料用の遮光性とバリア性を有する積層材1a」は、それぞれ、本件発明1の「透明樹脂フィルム」、「無機酸化物蒸着膜」、「透明ガスバリア性フィルム」、「接着層」、「ヒートシール性樹脂フィルム」、「アルミニウム蒸着膜」、「遮光性バリア積層体」に相当する。
さらに、甲1発明の「アルミニウム蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成され」及び「無機酸化物の蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法によって形成される」は、本件発明1の「該アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ」に相当する。
そして、甲1発明の「ラミネ-ト用接着剤層6を介して、ヒートシール性樹脂層5にアルミニウム蒸着層4を設けたフィルムのアルミニウム蒸着層4を設けた面を対向させて積層した」ことは、本件発明1の「該アルミニウム蒸着膜を設けた側の面が、該接着層と対向するように積層する」ことに相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
《一致点》
透明樹脂フィルムの一方の面上に無機酸化物蒸着膜を設けてなる透明ガスバリア性フィルムの、該無機酸化物蒸着膜を設けた側の面に、接着層を介して、遮光性シーラントフィルムを積層した、遮光性バリア積層体であって、
該遮光性シーラントフィルムは、ヒートシール性樹脂フィルムの一方の面に、アルミニウム蒸着膜を設けてなるフィルムであり、
該アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ、該アルミニウム蒸着膜を設けた側の面が、該接着層と対向するように積層する、上記遮光性バリア積層体。

《相違点1》
遮光性バリア積層体が、本件発明1では、「粉体包装用である」のに対し、甲1発明では粉体包装用であることが特定されていない点。

(イ)相違点1の判断
甲1発明の「包装材料用の遮光性とバリア性を有する積層材1a」は、包装に用いられるものであり、その構造は、上記(ア)の《一致点》で示したとおり、「粉体包装用である」である点を除き、本件発明1と同じであるところ、本件発明1が「粉体包装用である」ことにより、その構造が変わるものとは解されないから、上記《相違点1》は、単なる表現上の差異であって実質的な相違点ではない。
よって、本件発明1は、甲1発明である。
また、仮に、上記《相違点1》が実質的な相違点であるとしても、粉体の包装用に遮光性及びバリア性の積層体を用いる点は、甲4、甲5に例示されているように、本件出願前に、周知の技術手段であり、包装に用いられるものである甲1発明の「包装材料用の遮光性とバリア性を有する積層材1a」を、粉体包装用であるとすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)特許権者の主張について
特許権者は、本件発明1の新規性進歩性について、平成31年3月22日付け意見書において、甲1発明は、実施例4の記載に基づき、アルミニウム蒸着層及び無機酸化物の蒸着層は、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法によって形成されるものである点(主張1:甲1発明の認定)、本件発明1は、粉体包装用である点(主張2:相違点1の判断)、及び、本件発明1は、アルミニウム蒸着層及び無機酸化物の蒸着層が、抵抗加熱方式による真空蒸着法によって形成されるのに対し、引用発明ではエレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法によって形成される点(主張3:相違点2の判断)で相違する旨を主張している。
しかし、上記主張1?3は、以下に示すように、いずれも当を得ておらず採用できない。
a.主張1:甲1発明の認定について
甲1発明については、上記5.(1)ア.で示したように、甲1には、実施例の記載(【0029】)の他に、無機酸化物の蒸着膜について、段落【0010】には「真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(PhysicalVapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。」と記載され、段落【0011】には「蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。」と記載されており、また、アルミニウム蒸着膜について、段落【0014】には「真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(物理気相成長法、Physical Vapor Deposition法、PVD法)によって、アルミニウムの蒸着膜を形成し、これを使用することができる。上記において、真空蒸着法における蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。」と記載されていることからも明らかなように、甲1には、アルミニウム蒸着層及び無機酸化物の蒸着層が、抵抗加熱方式による真空蒸着法によって形成され得ることが具体的に記載されている。
当審は、これらの具体的な記載に基づき、甲1発明を認定したのであって、特許権者が主張する「具体的な記載はないが、概念上、下位概念が上位概念に含まれる、又は上位概念の用語から下位概念の用語を列挙することができることを理由に甲1発明の認定を行った」わけではないし、甲1の実施例4の記載のみに基づき、引用発明を認定すべきその他の理由も見いだせない。
ゆえに、上記主張1は、当を得ておらず、採用できない。
b.主張2:相違点1の判断について
上記5.(2)イ.で示したとおり、相違点1は、単なる表現上の差異であって実質的な相違点ではないし、仮に、実質的な相違点であるとしても、粉体の包装用に遮光性及びバリア性の積層体を用いる点は、上記5.(1)エ.及びオ.に摘記したように、甲4、甲5に例示されるように本件出願前に周知の技術手段であるし、粉体包装用のバリア層を蒸着にて形成したものでもよいことは、甲4の段落【0017】に示唆されるほか、例えば、特許第3570250号公報(令和元年5月9日付け申立人意見書に添付された<参考資料2>)の段落【0061】の「基材1として、厚さ12μmの2軸延伸PETフィルムの片面に、透明プライマー層2として複合溶液Aをグラビアコート法により厚さ0.1μm形成した。次いで透明プライマー層2上に電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させそこに酸素ガスを導入し、厚さ20nmの酸化アルミニウムを蒸着して無機酸化物薄膜層3を形成し、実施例1の強密着ガスバリア透明積層体を得た。」との記載及び段落【0073】の「実施例及び比較例のドライラミネート2積層品について、4方シールパウチを作製し、内容物として粉末入浴剤を充填した。その後そのパウチを、40°C-90%RHの雰囲気中に1ヶ月間保存し、保存前後の酸素透過率(cc/m^(2) /day)及びラミネート強度(gr/15mm)、目視観察による保存後の剥離現象の発生状況を観察した。」との記載からも明らかである。
なお、特許権者は、甲4の段落【0007】の「本発明の粉状物包装用の積層フィルム(以下、単に積層フィルムということがある)は、基材層と、熱融着層と、前記基材層と前記熱融着層との間に設けられた中間層とを有し・・・前記基材層と前記熱融着層との間には、金属箔からなるバリア層が設けられていることが好ましく・・・」との記載及び段落【0017】の「バリア層14は・・・例えば、アルミニウム、合金、銀、ステンレス、銅等の金属箔又は金属蒸着膜、シリカ又はアルミナ等のセラミック蒸着膜を有する各種プラスチックフィルムが挙げられ、中でも金属箔が好ましく、汎用性の観点からアルミニウム箔又は合金箔が好ましい。バリア層14が金属箔であると、積層フィルム1のデッドホールド性をより高められる。」との記載を根拠に甲1発明の金属蒸着膜を使用した積層材をわざわざ粉体包装用とすることはない旨主張しているが、上記甲4の段落【0007】及び【0017】には「金属箔が好ましい」と記載されているにすぎず、同段落【0017】に「バリア層14」の例として「金属箔」とともに列挙されている「金属蒸着膜」や「セラミック蒸着膜」が積層された積層フィルムが粉体包装用には適さないと解すべき理由はない。
ゆえに、上記主張2は、当を得ておらず、採用できない。
c.主張3:相違点2の判断について
上記5.(1)ア.及び上記5.(2)ア.(ア)で示したように、特許権者の主張する上記相違点2は、そもそも相違点とはならないが、仮に、甲1に記載された発明を、特許権者の主張するとおり、実施例4に基づき引用発明を認定して、相違点として抽出したとしても(平成30年11月2日に提出した意見書5頁15行?26行を参照)、甲1の段落【0010】、【0011】、及び【0014】の記載(上記5.(1)ア.を参照)に基づいて、当該引用発明において、アルミニウム蒸着層及び無機酸化物の蒸着層を、選択的に採用し得る手段として例示されている抵抗加熱方式による真空蒸着法によって形成されるように変更することは、当業者が容易になし得た事項にすぎず、本件発明1の進歩性が否定されることに変わりはない。
なお、特許権者は、本件特許明細書の段落【0013】、【0030】及び【0051】の記載に基づき、本件発明1は、抵抗加熱方式による真空蒸着法により、アルミニウム蒸着層及び無機酸化物の蒸着層を形成したため、フィルムへの帯電を抑え、粉体包装用途に適している旨を主張しているが、こうしたフィルムの帯電現象は、エレクトロンビ-ム(EB/電子線照射)方式や抵抗加熱方式といった蒸発源の加熱方式の違いにかかわらず発生することが知られている(例示が必要であれば、「福島和宏,”連載 業界人のための静電気入門8 真空蒸着における静電気現象”,軟包装通信,日報アイ・ピー社,平成22年11月4日,2010年11月4日号,全文」(参考URL http://www.promatequ.com/image/ADA8BFBFB6F5BEF8C3E5A4CBA4AAA4B1A4EBC0C5C5C5B5A4B8BDBEDD.pdf)ところ、本件特許明細書には、抵抗加熱方式による真空蒸着法は、エレクトロンビ-ム(EB/電子線照射)方式等の他の蒸発源加熱方式のものに比して、帯電を抑えることができることについて、その機序や実験等による実証的な説明がなされているわけではない。
ゆえに、上記主張3は、当を得ておらず、採用できない。

イ.本件発明4について
本件発明4と甲1発明とは、上記5.(2)ア.(ア)で示した《一致点》で一致し、《相違点1》の他に、以下の点で相違する。
《相違点2》
透明ガスバリア性フィルムが、本件発明4では、「無機酸化物蒸着膜上にさらに、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、R1、R2は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けてなるものである」のに対し、甲1発明ではそのようなものではない点。
そして、上記《相違点1》の判断は、上記5.(2)ア.(イ)で示したとおりである。
そこで、上記《相違点2》について検討する。
上記5.(1)カ.で示したように、甲6には、甲6記載事項、すなわち、「基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、該無機酸化物の蒸着膜の上に、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))m(ただし、式中、R^(1)、R^(2)は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたバリア性フィルム」が記載されているところ、甲1発明においても、ガスバリア性をさらに向上させる課題が内在していることは明らかであるから、上記甲6記載事項を甲1発明に適用して、上記《相違点2》に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明4は、甲1発明及び甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件発明5について
甲1発明は、「無機物の蒸着膜として、酸化アルミニウム蒸着膜が用いられ」るものであるから、本件発明5と甲1発明とは、《相違点1》でのみ相違し、その余の点では一致するところ、上記《相違点1》の判断は、上記5.(2)ア.(イ)で示したとおりである。
したがって、本件発明5は、甲1発明である。
また、本件発明5は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件発明6、7について
本件発明7は、本件発明6の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明7と甲1発明とは、上記5.(2)ア.(ア)で示した《一致点》で一致し、《相違点1》の他に、以下の点で相違する。
《相違点3》

ヒートシール性樹脂フィルムが、本件発明7では、「2層またはそれ以上のオレフィン系樹脂層からなり、その内の少なくとも1層に、ポリプロピレン樹脂が含まれている」のに対し、甲1発明では、ヒートシール性樹脂フィルムについてそのような規定がない点。
そして、上記《相違点1》の判断は、上記5.(2)ア.(イ)で示したとおりである。
そこで、上記《相違点3》について検討する。
上記5.(1)キ.で示したように、甲7には、甲7記載事項、すなわち、ヒートシール性を有する、バリア性積層フィルムの未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムが3層以上からなる点及び未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの3層以上の少なくとも1層がポリプロピレン樹脂からなる点が記載されている。
甲1発明と甲7記載事項とは、包装に用いられる積層体という技術分野で共通し、バリア性とヒートシール性との両方を発揮する課題も共通するから、甲7記載事項を甲1発明に適用して、本件発明6、7のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明6、7は、甲1発明及び甲7記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)補足
なお、平成31年1月23日付けで取消理由(決定の予告)で通知した新たな取消理由については、本件訂正が認められたことにより、請求項4?7は、削除された請求項2及び3を引用しないものとなったため、解消された。

6.むすび
以上のとおり、本件発明1及び5は、甲1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として、取り消されるべきものである。
また、本件発明1及び4?7は、甲1発明、あるいは、甲1発明及び甲6記載事項、あるいは、甲1発明、甲7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び4?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
そして、本件特許の請求項2及び3は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2及び3に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項2及び3に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の面上に無機酸化物蒸着膜を設けてなる透明ガスバリア性フィルムの、該無機酸化物蒸着膜を設けた側の面に、接着層を介して、遮光性シーラントフィルムを積層した、粉体包装用である遮光性バリア積層体であって、
該遮光性シーラントフィルムは、ヒートシール性樹脂フィルムの一方の面に、アルミニウム蒸着膜を設けてなるフィルムであり、
該アルミニウム蒸着膜及び無機酸化物蒸着膜は、抵抗加熱方式の真空蒸着法により設けられ、該アルミニウム蒸着膜を設けた側の面が、該接着層と対向するように積層することを特徴とする上記遮光性バリア積層体。
【請求項2】
削除
【請求項3】
削除
【請求項4】
前記透明ガスバリア性フィルムが、前記無機酸化物蒸着膜上にさらに、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けてなるものであることを特徴とする、請求項1に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項5】
前記無機酸化物が、酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1又は4に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項6】
前記ヒートシール性樹脂フィルムが、2層またはそれ以上のオレフィン系樹脂層からなることを特徴とする、請求項1及び4?5のいずれか1項に記載の遮光性バリア積層体。
【請求項7】
前記ヒートシール性樹脂フィルムが、2層またはそれ以上のオレフィン系樹脂層からなり、その内の少なくとも1層に、ポリプロピレン樹脂が含まれていることを特徴とする、請求項6に記載の遮光性バリア積層体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-21 
出願番号 特願2013-191856(P2013-191856)
審決分類 P 1 651・ 113- ZAA (B32B)
P 1 651・ 121- ZAA (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 久保田 葵岩田 行剛近野 光知  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
横溝 顕範
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6241162号(P6241162)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 遮光性バリア積層体  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ