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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B28C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B28C
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B28C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B28C
管理番号 1354947
異議申立番号 異議2018-700636  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-01 
確定日 2019-07-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6275548号発明「硬化性組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6275548号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6275548号の請求項1?3に係る特許を取り消す。 
理由 特許第6275548号の請求項1?3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものである。
これに対して、平成31年3月13日に取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由(決定の予告)は妥当なものと認められるので、本件請求項1?3に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
硬化性組成物の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硬化性体の製造方法に関するものである。さらに詳しくは優れた強度発現性が得られる硬化性体の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメント等の水硬性セメントは、その構成成分であるクリンカーに含まれる3CaO・SiO_(2)、2CaO・SiO_(2)等の鉱物の水和反応により硬化する。クリンカーに含まれる鉱物は温度依存性が高く、硬化性組成物の製造時や硬化時の温度により硬化性体の性状が大きく異なることが一般的に知られている。
【0003】
硬化性組成物の水和反応は材齢の経過とともに徐々に進行し、強度もそれに伴い増加するが、混練温度および硬化時の養生温度を高めることにより、セメントの水和を促進させ、初期材齢から高い強度が得ることが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、硬化体の製造時の温度が高すぎる場合、注水直後のセメントの水和が著しく促進されるため、練上がり時に流動性が低下するという問題を有していた。また、硬化時における硬化体内部の最高温度が60℃以上となると、セメントの水和反応が急激に進行するために健全な水和が阻害され、強度発現に影響を及ぼすという問題を有していた。
【0005】
従って、本発明は、セメント、骨材および水を使用した硬化性組成物において、高温環境下での混練において流動性の経時的な変化を小さくしながら、60℃を超える環境で養生を行っても安定した強度発現の達成を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた。そして、ポルトランドセメントの3CaO・SiO_(2)量および2CaO・SiO_(2)量を特定範囲に調整し、さらに練り上がり温度を制御することにより、高温環境で混練温度を高くした場合でも流動性を維持することが可能となり、かつ養生温度が60℃を超える場合でも安定した強度発現性を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、セメントと水と骨材とを混練して硬化性組成物を調整し、該硬化性組成物を硬化させて硬化体を製造するに際して、硬化体の内部温度の最高値が60℃を超える場合に、セメントとしてボーグ式で算出される3CaO・SiO_(2)量が45?50質量%かつ2CaO・SiO_(2)量が20?35質量%のポルトランドセメントを用い、水セメント比は30%以下とすると共に、混練時の練り上がり温度を36?40℃とすることを特徴とする硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下において優れた流動性の保持能力を有すると共に、硬化体の内部温度を60℃以上とすることにより強度発現性にも優れるという、従来の硬化性組成物には無い優れた特性を発揮する硬化性組成物を製造することができ、その工業的価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明におけるセメントの鉱物組成は、定法により求めたセメントの化学成分の組成比からボーグ式により算出されたものを表す。
【0010】
本発明において、セメントに含まれる3CaO・SiO_(2)量(含有率)は、35?50質量%以上であることが重要である。上記3CaO・SiO_(2)量が35%より少ない場合は、初期の強度発現性が低下する。また、50質量%より多い場合は、高温時において硬化性組成物の水和反応が早く進行するため、流動性が低下する。
【0011】
本発明において、セメントに含まれる3CaO・SiO_(2)量は、35?50質量%であれば特に限定されるものではないが、好ましくは40?50質量%である。
【0012】
本発明において、セメントに含まれる2CaO・SiO_(2)量は、20?40質量%であることが重要である。上記3CaO・SiO_(2)量が20質量より少ない場合、高温時において硬化性組成物の水和反応が早く進行するため、流動性が低下する。また、40質量%より多い場合、初期の強度発現性が低下する。
【0013】
本発明において、セメントに含まれる2CaO・SiO_(2)量は、20?40質量%であれば特に限定されるものではないが、好ましくは30?40質量%である。
【0014】
本発明において、セメントの3CaO・SiO_(2)量と2CaO・SiO_(2)量の合計は、70質量%以上に調整されることが望ましい。70質量%に満たない場合、十分な強度発現性が得られない可能性がある。
【0015】
本発明におけるセメントは上記条件を満たすものであれば限定されないが、ポルトランドセメントであることが特に好ましい。
【0016】
本発明において、セメントに含まれる上記成分以外の成分としては、3CaO・Al_(2)O_(3)、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)、石こう等の他、JIS R 5210に規定されたポルトランドセメントにおける無機質混合材が挙げられる。
【0017】
本発明において、セメントのブレーン値は3000?4000cm^(2)/gに調整されることが望ましい。3000cm^(2)/gより小さいと、得られる硬化性組成物の強度発現性が低下する傾向がある。一方、4000cm^(2)/gを超えると、初期の水和反応性が高まり、初期の強度発現性は向上するが、流動性が低下するため好ましくない。
【0018】
本発明において、セメント中の石こう配合量は、ポルトランドセメントのSO_(3)含有量が1?5質量%となる量とすることが好ましい。1質量%以上とすることにより、セメント中の3CaO・Al_(2)O_(3)の水和を抑制でき、十分な施工時間を確保することが容易となる。一方、石こう配合量が5質量%以下とすることで、3CaO・Al_(2)O_(3)と石こうとの過剰な反応が抑制され、十分な流動性を確保しやすい。
【0019】
本発明においては、セメントの調整方法は特に制限されず、公知の方法に従えばよく、例えば1種類以上のセメントクリンカーおよび石こうを所定の割合に配合する方法が一般に採用される。
【0020】
また、セメントクリンカーと石こうの混合方法もそれぞれの成分を個別に粉砕したものを混合する方法、任意の2成分以上を同時に粉砕し、別途粉砕した残りの成分と混合する方法、全ての成分を同時に粉砕する方法等が使用できる。
【0021】
本発明におけるセメントには従来周知のものであり、前記のようにこのようなセメントには石こうが含まれている。この石こうは、天然石こう、排煙脱硫石こうやリン酸石こうなどの化学石こう等が特に制限なく使用できる。
【0022】
本発明において、前記組成を有するセメントの調整は、従来周知の方法で原料組成を調整し、焼成することにより単一のクリンカーを得、それを用いてセメントとしても良いし、別途調製された2種類以上のセメントを、前記組成を満足する割合で混合して行うこともできる。具体的には、普通ポルトランドセメントと低熱ポルトランドセメントの混合物、早強ポルトランドセメントと低熱ポルトランドセメントの混合物などが例示される。
【0023】
2種類以上のセメントを混合して本発明における硬化性組成物を調製する際、上記2種類以上のセメントを混合するタイミング方法は特に制限されないが、公知の混合機により予め混合したものを使用しても良いし、硬化性組成物を製造する際に、所定の混合割合になるように2種類以上のセメントを同時に使用しても良い。 本発明においては、硬化性組成物中にポリカルボン酸系セメント分散剤が含まれていることが好ましい。ポリカルボン酸系セメント分散剤とは、ポリカルボン酸塩、ポリカルボン酸エーテル、ポリエーテルカルボン酸塩、カルボン酸共重合物等が挙げられ、実用上は、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤と称される。ポリカルボン酸系セメント分散剤は、その他の高性能AE減水剤であるナフタレン系、メラミン系等のセメント分散剤と比較して、分散効果および流動性の保持能力が優れる。ポリカルボン酸系セメント分散剤を使用する場合、その使用量は0.1?3.0質量%とすることが好ましい。
【0024】
本発明において、骨材は、モルタルやコンクリートの骨材として公知のもの、例えば砂などの細骨材、砂利などの粗骨材等を特に制限なく使用できる。また、水もモルタルやコンクリートの調整用として公知の水が特に制限なく使用できる。具体的には、工水、水道水等である。
【0025】
本発明において、骨材の使用量は特に限定されるものではないが、例えばモルタルの場合は全組成物量に対して20?50質量%、コンクリートの場合は65?90質量%とするのが一般的である。前記硬化性組成物に対する上記セメント分散剤の配合量は特に制限されるものではない。好適な組成を例示すれば、セメントに対して0.1?5.0質量%、好ましくは0.1?3.0質量%である。
【0026】
本発明の硬化性組成物は、ポルトランドセメント、ポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材および水のほかに、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、モルタルやコンクリートの調製に際して混合される公知の添加剤である空気量調整剤、凝結促進剤、防錆剤、増粘剤、膨張剤、鉱物質微粉末を添加配合しても構わない。
【0027】
本発明の硬化性組成物において、水セメント比は30%以下とすることが重要である。水セメント比が30%を超えると、強度を十分に発現することができない。30%以下ならば特に限定されるものではないが、好ましくは20?30%である。
【0028】
本発明において、セメントとポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材および水の混練方法は特に制限されない。例えば、全部を同時に混合する方法、セメントを、水とポリカルボン酸系セメント分散剤との混合溶液と混合する方法などが挙げられる。また、上記の混合には、モルタルやコンクリートの混合(混練)機として公知の混合機が特に制限なく使用される。
【0029】
本発明においては、セメントの水和を促進させるために、練上がり後の硬化性組成物の温度を36?40℃に調整することが重要である。練上がり温度36℃未満では、高い初期強度を発現させるための水和反応が十分に進行しない。また、練上がり後の硬化性組成物の温度が41℃以上となった場合、注水直後のセメントの水和が急激に進行するため、流動性が低下する。好ましくは37?40℃である。
【0030】
なおここで練上がり温度とは、混合(混練)機から排出直後に温度計で測定した、硬化性組成物の温度のことをいう。
【0031】
本発明において、セメントの水和を促進させるために、養生時の硬化体内部温度を60℃以上とすることが特に好ましい。硬化体内部温度が60℃未満では、高い初期強度を発現させるための水和反応が十分に進行しない。
【0032】
本発明において、養生時の硬化体内部温度を60℃以上とする方法としては、例えばセメント自身の水和発熱による方法または乾燥機等の温度上昇装置を用いる方法等がある。養生時の硬化体内部温度は好ましくは60?110℃である。
【0033】
かかる硬化性組成物を硬化させた硬化体は、骨材として細骨材のみを用いた高流動モルタルおよび高強度モルタル、細骨材および粗骨材を用いた高流動コンクリートおよび高強度コンクリートなどを構成した場合に前記の優れた性能を発揮し、それぞれの用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の構成および効果を説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
3CaO・SiO_(2)量が45質量%、2CaO・SiO_(2)量が35質量%、ブレーン比表面積3400cm^(2)/gの中庸熱ポルトランドセメントと、水、細骨材およびポリカルボン酸系高性能AE減水剤を使用し、表1に示す割合で配合した水セメント比27%のモルタル組成物を、37±1℃の環境において、ソイルミキサーにより練り混ぜ、練上がり直後のモルタルにより練上がり直後から60分までの流動性の経時変化を、硬化後のモルタルにより材齢91日までの圧縮強度を測定した。モルタルの流動性は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に示すモルタルの0打フローを測定した。モルタルの圧縮強度は、JSCE-G 505「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に基づいて実施した。養生中のモルタルは乾燥機により温度履歴を与えた。温度履歴の詳細は、注水12時間後に昇温速度5℃/hで最高温度105℃まで上昇し、105℃で6時間保持した後、注水168時間後に20℃となるように徐冷した。注水168時間以降は20℃環境で養生した。結果を表2および表3に示す。
【0036】
実施例2
温度履歴の最高温度90℃とし、他の条件は実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。結果を表2および表3に示す。
【0037】
比較例1、2
比較例1として、練上がり温度を20±1℃とし温度履歴を与えずに20℃環境で養生した。比較例2として、練上がり温度を42±1℃とし、他の条件は実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。結果を表2および表3に示す。
【0038】
比較例3、4
比較例3として、セメントに3CaO・SiO_(2)量が55質量%、2CaO・SiO_(2)量が17質量%、ブレーン比表面積3220cm^(2)/gの普通ポルトランドセメントを使用して練上がり温度を20℃とし、比較例4として、セメントに比較例3と同じ普通ポルトランドセメントを使用して温度履歴の最高温度105℃とし、比較例5として、セメントに比較例3と同じ普通ポルトランドセメントを使用して温度履歴の最高温度を90℃とした。他の条件は実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。これら条件を表1に示す。結果を表2および表3に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水と骨材とを混練して硬化性組成物を調整し、該硬化性組成物を硬化させて硬化体を製造するに際して、養生時の硬化体の内部温度の最高値が60℃を超える場合に、セメントとしてボーグ式で算出される3CaO・SiO_(2)量が45?50質量%かつ2CaO・SiO_(2)量が20?35質量%のポルトランドセメントを用い、水セメント比は30%以下とすると共に、混練時の練り上がり温度を36?40℃とすることを特徴とする硬化体の製造方法。
【請求項2】
セメントの3CaO・SiO_(2)量が45質量%である請求項1記載の硬化体の製造方法。
【請求項3】
セメントの2CaO・SiO_(2)量が30?35質量%である請求項1又は2いずれか記載の硬化体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-19 
出願番号 特願2014-107811(P2014-107811)
審決分類 P 1 651・ 851- ZAA (B28C)
P 1 651・ 853- ZAA (B28C)
P 1 651・ 121- ZAA (B28C)
P 1 651・ 536- ZAA (B28C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 大橋 賢一
小川 進
登録日 2018-01-19 
登録番号 特許第6275548号(P6275548)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 硬化性組成物の製造方法  

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