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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
異議2018701011 審決 特許
異議2021700592 審決 特許
異議2019700557 審決 特許
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1354964
異議申立番号 異議2019-700276  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-10 
確定日 2019-09-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6401879号発明「ティリロサイドを含有する飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6401879号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6401879号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年8月10に出願した特願2017-155898の一部を平成30年2月20日に新たな出願としたものであって、平成30年9月14日に特許権の設定登録がされ、同年10月10日にその特許公報が発行され、その後平成31年4月10日に、特許異議申立人 田中 亜実により、特許異議の申立てがされ、令和1年5月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年8月1日に意見書の提出があったものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は、特許請求の範囲1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?4に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。

「 【請求項1】
ティリロサイドを0.015?0.1mg/100mL、及びプロピレングリコールを0.05?1v/v%含有し、可溶性固形分濃度が2.0以下である、飲料。
【請求項2】
可溶性固形分濃度が0.5以下である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
pHが2.3?5である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
容器詰め飲料である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。」


第3 取消理由の概要
令和1年5月30日付けで通知した取消理由は、本件特許は、その特許請求の範囲が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないから、取り消されるべきものであるというものであり、具体的な理由は、以下のとおりである。

1.各成分の含有量と可溶性固形分濃度について
本件特許発明1?4においては、ティリロサイド、プロピレングリコールの含有量と可溶性固形分濃度が特定されている。
この点本件特許明細書の【0022】の記載からすると、低Brixの飲料は、それよりもBrixが高い飲料と比較して、ティリロサイドの苦味や収斂味が感知されやすいものと認められるところ、Brixが0?0.1程度と非常に低い飲料に関する実施例では、ティリロサイドとプロピレングリコールを共に上限量で処方した場合には、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されることが示されているものの、ティリサロイドを上限量で用い、かつプロピレングリコールを下限量で用いた場合、すなわち、“Brixが非常に低くてティリロサイドの苦味や収斂味が感知されやすい飲料において、苦味や収斂味を呈する成分の量が最も多く、かつ苦味や収斂味を抑える成分の量が最も少ない場合”にも同様にティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるのかが不明である。
したがって、本件特許発明1?4に規定される範囲全てにおいて、本件特許発明の課題が解決できるのかが不明である。
よって、本件特許発明1?4の記載は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているとはいえない。

2.pHについて
本件特許発明1?4においては、pHは特定されていない、あるいは特定されていても一定の幅のある範囲として特定されているが、具体的裏付けをもった例としては、実施例において調製されたpH3.2の飲料についてのみ、香味の官能評価により、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されることが示されているだけである。
この点本件特許明細書の【0023】の記載からすると、pHがティロリサイドのが苦味や収斂味に影響する要素であることは明らかであるから、実施例で裏付けられたpH以外の場合にも、それと同等の効果が得られるのかは不明である。
したがって、本件特許発明1?4に規定される範囲全てにおいて、本件特許発明の課題が解決できるのかが不明である。
よって、本件特許発明1?4の記載は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているとはいえない。


第4 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 本件特許発明の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0006】の「そこで、本発明は、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料を提供することを目的とする。」との記載のとおり、本件特許発明1?4の課題はいずれも、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料を提供することであると認める。

(2)各成分の含有量と可溶性固形分濃度について
ア.本件特許明細書の記載
(ア)本件特許発明の各成分の含有量と可溶性固形分濃度について発明の詳細な説明には、ティリロサイドについては、
【0015】に、「本発明の飲料は、0.005?1.5mg/100mLのティリロサイドを含有する。飲料中のティリロサイドの含有量が上記の範囲内であれば、ティリロサイドの有益な作用効果を発揮しつつ、且つティリロサイドに由来する苦味や収斂味をエタノール又はプロピレングリコールによって効果的に改善することができる。本発明の飲料におけるティリロサイドの含有量は、好ましくは0.008mg/100mL以上、0.01mg/100mL以上、又は0.02mg/100mL以上、より好ましくは0.05mg/100mL以上である。また、本発明の飲料におけるティリロサイドの含有量は、好ましくは、1mg/100mL以下、0.5mg/100mL以下、又は0.3mg/100mL以下、より好ましくは0.1mg/100mL以下である。」と記載され、プロピレングリコールについては、
【0017】に、「(エタノール又はプロピレングリコール)
本発明の飲料は、0.001?1.5v/v%のエタノール又はプロピレングリコールを含有する。エタノール又はプロピレングリコールの飲料中の含有量が上記の範囲内であれば、ティリロサイドに由来する苦味や収斂味を効果的に改善することができる。・・・本発明の飲料におけるプロピレングリコールの含有量は、好ましくは0.01v/v%以上、より好ましくは0.05v/v%以上である。また、本発明の飲料におけるプロピレングリコールの含有量は、好ましくは1.2v/v%以下、又は1v/v%以下、より好ましくは0.5v/v%以下である。・・・」と記載され、可溶性固形分濃度については、
【0021】に、「(可溶性固形分濃度)
本発明の飲料は、飲料中の可溶性固形分濃度が2.0以下である。本発明において、可溶性固形分濃度は、糖度計や屈折計などを用いて得られるBrix(ブリックス)値に相当する。ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である(単位:「°Bx」、「%」または「度」)。」と、
【0022】に、「飲料中の可溶性固形分濃度が2.0以下のような低Brixの飲料は、それよりもBrixが高い飲料と比較して、ティリロサイドの苦味や収斂味が感知されやすい。このようなティリロサイドの苦味や収斂味が感じられやすい飲料に対して、その苦味や収斂味を改善することのできる本発明の意義は大きい。したがって、低Brixの飲料、すなわち飲料の可溶性固形分濃度が2.0以下の飲料は、本発明の好適な一態様である。本発明の飲料は、好ましくは飲料中の可溶性固形分濃度が0?1.5であり、より好ましくは0?1.0であり、さらに好ましくは0?0.5である。」とそれぞれ記載されている。

(イ)そして実施例として、
【0043】に、「(3)プロピレングリコール添加の検討
下表に示した量(濃度)となるように、ティリロサイド(フナコシ製、純度99%)及びプロピレングリコール(和光純薬工業)を水に溶解し、容器に充填して容器詰め飲料を得た(いずれの飲料もBrix値は0?0.1程度)。得られた飲料はいずれも無色透明な外観であり、分光光度計(UV-1600(島津製作所))による波長660nmにおける吸光度は0.06以下、測色色差計(ZE2000(日本電色工業))による純水に対する透過光のΔEは3.5以下であった。なお、飲料のpHは、クエン酸(ナカライテスク)及びクエン酸三ナトリウム(ナカライテスク)を用いてpH3.2に調整した。」と、
【0044】に、「得られた飲料について、香味の官能評価を行った。香味については、ティリロサイド特有の苦味及び収斂味、またはプロピレングリコール特有の風味の観点から主に評価した。具体的には、十分に訓練を受けた3名の専門パネリストにより、下記の通り評価した。なお、評価用の飲料は、室温にて調製された容器詰め飲料をそのまま使用した。
5点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が大きく緩和されている。
4点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が緩和されている。
3点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味がやや緩和されている。
2点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味、またはプロピレングリコール特有の風味があり、後味に残る。
1点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味、またはプロピレングリコール特有の風味が強く、後味に大きく残る。
各種飲料の評価結果を下表に示す。」と、
【0045】に、「【表4】


」と記載され、ティリロサイドとプロピレングリコールを変化させた際の香味の官能評価結果が示されている。

イ.平成30年7月19日付けの意見書に記載された追加実験及び令和1年8月1日付けで提出された意見書に添付された実験成績証明書の内容
本件特許の審査段階における平成30年7月19日付けの意見書に記載された追加実験において、Brix値が本件特許発明1の上限値であり、かつティリロサイドの量が最も多い(0.1mg/100mL)場合に、プロピレングリコールの量が、本件特許発明1の上限値及び下限値の両方において、ティリロサイド由来の苦味や収斂味を抑制することが示されている。
さらに令和1年8月1日付けで提出された意見書に添付された実験成績証明書の評価実験1の結果では、Brixが非常に低くてティリロサイドの苦味や収斂味が感知されやすい飲料において、ティリロサイドの量が最も多く(0.1mg/100mL)、かつプロピレングリコールの量が最も少ない(0.05v/v%)場合においても、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されることが示されている。

ウ.判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明を対比する。
上記「ア」の、「(ア)」及び「(イ)」の記載や、上記「イ」の実験結果を参酌すると、各成分の含有量と可溶性固形分濃度については、実施例で裏付けられている範囲だけでなく、本件特許発明1に規定される範囲全てにおいて、本件特許発明の課題が解決できないものとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(イ)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4に関しても、それぞれ、請求項1の飲料について、可溶性固形分濃度(請求項2)やpH(請求項3)を一定程度技術的に限定したもの、または容器詰めの飲料に限定(請求項4)したものにすぎず、本件特許発明1に関して上記で検討した点が同様に当てはまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(3)pHについて
ア.本件特許明細書の記載
(ア)本件特許発明の飲料に関するpHについて発明の詳細な説明には、
【0023】に、「(酸性飲料)
本発明の飲料は、酸性飲料であることが好ましい。所定量のエタノールまたはプロピレングリコールに加えて酸性成分を含有させることにより、飲料に含まれるティリロサイドの苦味や収斂味をより効果的に抑制又は低減することができる。本発明の飲料のpHは好ましくは2.3?5であり、より好ましくは2.5?4.5であり、さらに好ましくは3?4である。飲料のpH調整は、酸味料やpH調整剤を用いて適宜行うことができる。・・・」と記載されている。

(イ)そして実施例として、上記「(2)」の「ア」の「(イ)」にて摘記した【0043】?【0045】の記載がある。

イ.令和1年8月1日付けで提出された意見書に添付された実験成績証明書の内容
令和1年8月1日付けで提出された意見書に添付された実験成績証明書の評価実験2の結果を見るに、pHが変化してもティリロサイド由来の苦味や収斂味を、プロピレングリコールの添加により緩和することができることが示されている。

ウ.判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明を対比する。
ティリロサイド由来の苦味や収斂味の抑制又は低減効果を具体的に確認した例である【0043】?【0045】の実施例に記載されているのは、pHが3.2の飲料のみであるものの、【0023】の記載は、所定量のプロピレングリコールに酸性成分を併用させることによって、より効果的にティリロサイド由来の苦味や収斂味を抑制又は低減することができることを示しているのであって、pHが変化することによってティリロサイド由来の苦味や収斂味を低減又は抑制する効果が消失し得ることを示すものではない。
加えて、上記「イ」の実験施結果を参酌すると、pHについての特定がなくとも、本件特許発明1に規定される範囲全てにおいて、本件特許発明の課題が解決できないものとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(イ)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4に関しても、それぞれ、請求項1の飲料について、可溶性固形分濃度(請求項2)やpH(請求項3)を一定程度技術的に限定したもの、または容器詰めの飲料に限定(請求項4)したものにすぎず、本件特許発明1に関して上記で検討した点が同様に当てはまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。


2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)理由の概要
特許異議申立人 田中 亜実が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由は、本件特許は、その明細書の発明の詳細な説明、特許請求の範囲が不備のため、特許法第36条第4項第1号又は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないから、取り消されるべきものであるというものであり、具体的な理由は、以下のとおりである。

ア.飲料に含まれ得る成分には、ティリロサイド以外にも苦味や収斂味を呈する成分が数多く存在し、味覚としての苦味や収斂味が、ティリロサイドに起因するのか、他の成分に起因するのかを判別することは技術常識として不可能である。本件発明は、ティリロサイドとプロピレングリコールの含有量と可溶性固形分濃度を規定するだけで、不特定の成分を含むことを許容しており(濃度も不明)、ティリロサイド以外の苦味や収斂味を呈する成分を含む場合に、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されたかを確認することは不可能であるから、当業者は本件特許発明の課題が達成されたことを確認することができない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができるように記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ア))。

イ.市販のティリロサイド含有飲料(甲1号証:ティリロサイド含有量0.02mg/100mLの緑茶飲料)を飲んでみても、緑茶を飲んだときに通常感じる程度の苦味や渋味と区別できるような味を知覚できず、それゆえティリロサイド由来の苦味や収斂味を知覚することはなく、その苦味や収斂味がどのようなものであるかを理解できなかった。
ティリロサイド含有量が本件特許発明の範囲内である緑茶飲料において、ティリロサイド由来の苦味や収斂味を知覚することができないのであるから、本件特許発明が包含する全ての飲料において、本件特許発明の課題が存在するとは認められない。
よって、本件特許発明は、明細書に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(イ))。

ウ.本件特許発明は、ティリロサイドとプロピレングリコールが特定の範囲の含有量で、可溶性固形分濃度が特定の濃度範囲であることを規定するのみで、その他の成分を任意の濃度で含むことを許容するものであるが、詳細な作用機序は明らかではないのであるから(本件特許明細書【0009】)、苦味や収斂味を呈する他の成分が存在する場合にも、ティリロサイドにより生じる独特の苦味や収斂味と、プロピレングリコールが有する特有の苦味とが互いに打ち消し合うことができるかは明らかでない。
プロピレングリコール以外のマスキング成分を含む場合、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味を改善する効果が、本件特許発明の構成要件を満たすことによるものであるのか否かは明らかでない。
よって、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するようには記載されていないから、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ウ))。

エ.本件特許発明は、そもそも発明の課題が存在することについて十分に実証されておらず、特に、本件特許発明に規定されたティリロサイドの濃度範囲の全てに亘って苦味や収斂味が生ずることは実証されていない。本件特許明細書の実施例の記載では、ティリロサイドの濃度範囲の下限値やその近傍においてもティリロサイドの苦味及び収斂味が知覚されるかはまったく不明である。
よって、本件特許発明の全ての範囲にわたって発明の課題が存在することを理解することができず、ゆえに、課題を解決することを理解することができないから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本件特許発明の発明の詳細な説明は、本件特許発明をそのすべての範囲にわたって当業者が実施できるようには記載されておらず、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(エ))

オ.本件特許発明は、ティリロサイドとプロピレングリコール以外の不特定の成分を不特定の濃度で含むことを許容しているが、飲料の風味(苦味や収斂味をはじめとする呈味)は配合する全ての成分、その量に影響されるものであるところ、このような本件特許発明が包含する飲料の範囲について、可溶性固形分濃度が0.1より高く2.0以下である飲料は実施例には記載されておらず、発明の効果を奏するかは不明である。
よって、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された実施例の範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(オ))。

カ.本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明の効果を実証するため、3名の専門パネルにより評価したことが記載され、官能評価の評価点5?3について「緩和されている」と記載されているが、対照と比較した評価はされておらず、どのように「緩和」を評価するのか理解することができない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施例の記載をみても当業者が官能評価を行うことができないから、本件特許発明を実施することができず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(カ))。

キ.前記官能評価について、苦味や収斂味がどの程度違って感じられた場合に、いずれの評価にすべきであるか明らかでなく、各パネル間で評価基準を統一させるなどの手順が踏まれたことは記載されていない。
5?3点の評価基準にはプロピレングリコール特有の風味に関する記載がなく、表3に記載された評価点が、3名のパネリストの平均点であるのか、最高点又は最低点であるのか、評価基準を用いてどのように付けたものであるのか記載されていない。
以上のことから、発明の効果を確認するための評価方法が合理的であったと推認することができず、本件特許発明の手段によって、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料が裏付けられていることを当業者は理解することができない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(キ))。

ク.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されたとの風味を得るために、ティリロサイド含有量、プロピレングリコール含有量及び可溶性固形分濃度の範囲を特定すれば足り、他の成分及び物性や、飲料の特定は要しないことを、当業者が理解することができるとはいえず、実施例の結果から、直ちに、ティリロサイド含有量、プロピレングリコール含有量及び可溶性固形分濃度について規定される範囲と、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味との関係の技術的な意味を、当業者が理解することができるとはいえない。
したがって、出願時の技術常識を考慮しても、ティリロサイド含有量、プロピレングリコール含有量及び可溶性固形分濃度の範囲が本件特許発明の数値範囲内にあることにより、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味が得られることが裏付けられていることを理解することができるとはいえない。
よって、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ク))。

ケ.実施例の飲料No.2と飲料No.5とでは、ティリロサイド含有量が一桁異なるのに、プロピレングリコールの含有量が同じで評価点が同じである。また実施例の飲料No.2と飲料No.3とを比較すると、No.3はティリロサイド含有量が一桁以上多く、かつプロピレングリコール含有量が一桁以上少ないにもかかわらずよりよい結果が得られている。
このように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例に関する評価結果は、技術常識からみて理解することができない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができるようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ケ))。

(2)判断
ア.主張アについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ティリロサイド由来の苦味や収斂味に関して、(i)ティリロサイドを含む飲料には、ティリロサイド独特の苦味や収斂味が感じられ、特に可溶性固形分濃度が低い飲料では、顕著であること(【0005】、【0022】)、(ii)十分に訓練された専門パネリストによる官能評価によれば、Brixの低い無糖飲料(試料1-2、1-3)では、ティリロサイドの苦味及び収斂味がより知覚されやすいこと(【0035】?【0037】)、(iii)プロピレングリコールによるティリロサイド由来の苦味及び収斂味の緩和効果についての評価試験も、十分に訓練を受けた3名の専門家パネリストによって行われたこと(【0043】?【0045】)、が記載されている。
これらの記載からは、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が、具体的にどの様な味であるかという点については必ずしも明らかではないが、十分に訓練された専門パネリストであれば、ティリロサイドの独特の苦味や収斂味を、プロピレングリコール特有の風味と区別し、かつ苦味や収斂味がティリロサイド由来のものであるか、他の成分によるものであるかを識別することが可能であると認められる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明欄は、当業者が本件特許発明の実施をできるように記載されていないとはいえない。

イ.主張イについて
異議申立人の主張する、市販のティロリサイド含有緑茶飲料を飲んでも“ティリロサイド由来の苦味及び収斂味を知覚できなかった”という評価は、どのような者によってどのように評価されたものであるかが不明であり、客観性に欠けるものである。その一方で、本件特許発明については、本件特許明細書の【0035】?【0037】及び【0043】?【0045】の記載からすると、十分に訓練を受け、ティリロサイド由来の苦味及び収斂味を識別できる3名の専門パネリストによる評価が行われ、その結果、水のような低Brixの飲料において、ティリロサイドとプロピレングリコールを特定量で含有させることによって、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が改善された飲料が得られることが示されている。
よって、本件特許発明は、明細書に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるとはいえないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するようには記載されていないとはいえない。

ウ.主張ウについて
本件特許明細書の【0005】、【0022】、【0035】?【0037】から、特に、可溶性固形分濃度が低い飲料では、ティリロサイドの苦味や収斂味が顕著であるところ、【0043】?【0045】の記載から、十分に訓練を受け、ティリロサイド由来の苦味及び収斂味を識別できる3名の専門パネリストによる評価を通じて、水のような低Brixの飲料において、ティリロサイドとプロピレングリコールを特定量で含有させることによって、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が改善された飲料が得られることが示されている。
そして、プロピレングリコールによるティリロサイド由来の苦味及び収斂味の緩和効果を減ずるような成分が存在することについて何ら立証されていない。
また、プロピレングリコール以外のマスキング成分が、ティリロサイド由来の苦味及び収斂味の緩和効果に何らの影響を与える場合があるとしても、プロピレングリコールによる効果が発揮されているという点については変わりがないから、本件特許発明の構成要件を満たすものであるといえる。
よって、本件特許発明は、明細書に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるとはいえないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するように記載されていないとはいえない。

エ.主張エについて
既に述べた通り、本件特許明細書においては、可溶性固形分濃度が低い飲料では、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が顕著であるところ、十分に訓練を受け、ティリロサイド由来の苦味及び収斂味を識別できる3名の専門パネリストによる評価を通じて、水のような低Brixの飲料において、ティリロサイドとプロピレングリコールを特定量で含有させることによって、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が改善された飲料が得られることが示されている。
また本件特許明細書の【0044】の評価の「5点:ティリロサイド特有の苦味又は収斂味が大きく緩和されている。」「4点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が緩和されている。」はいずれも、ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が知覚されるが、その程度が弱くなっていると解するのが通常であって、ティリロサイド由来の苦味や収斂味が知覚されないことを意味するとはいえない。
さらに、程度の差違はあったとしても、Brixの低い飲料中にティリロサイドが含有されていれば、当該飲料にティリロサイド由来の苦味や収斂味があると推測されるから、ティリロサイドの濃度範囲の下限値やその近傍においても、ティリロサイドの苦味及び収斂味が知覚されるかが不明であるとはいえない。
よって、本件特許発明は、全ての範囲にわたって発明の課題を解決できることを理解することができないとはいえないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明をその全ての範囲にわたって当業者が実施できるように記載されていないとはいえない。

オ.主張オについて
既に述べたとおり、特にティリロサイド由来の苦味や収斂味が顕著である水のような飲料において、本件特許発明の効果が確認されている。このように、Brix値が0?0.1程度といった、特に厳しい条件で、より感知されやすい水のような飲料において効果が確認されているのであるから、効果を減ずる成分が存在するとは認められない以上、その他の飲料においても効果を奏するものと認められる。
そして、Brix値が0?0.1程度の条件で効果を奏することが確認されているのであるから、より条件が緩和されている飲料においても、本件特許発明は効果を奏するものと認められるし、本件特許の審査過程で平成30年7月19日に提出された意見書中の実験データもそのことを裏付けている。
よって、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、発明の効果を奏するように記載された実施例の範囲を超えるものであるとはいえない。

カ.主張カについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例に係る飲料について、十分に訓練を受けた3名の専門パネリストにより、ティリロサイドに由来する苦味及び収斂味の強さを以下の基準に基づいて評価したことが記載されている(【0039】?【0042】)。
「5点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が大きく緩和されている。
4点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が緩和されている。
3点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味がやや緩和されている。
2点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味、またはプロピレングリコール特有の風味があり、後味に残る。
1点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味、またはプロピレングリコール特有の風味が強く、後味に大きく残る。」
これらの記載を通常の意味で解せば、プロピレングリコールを含有しない場合をコントロールとして、それとの対比で、緩和されているか否か、緩和されているとすればどの程度のものであるかを評価しているものであるといえる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施例の記載をみても当業者が官能評価を行うことができないとはいえない。

キ.主張キについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、3名の専門パネリストによる評価をもとに最終的にどのように評価点を決定したかについて明らかにされていないことは必ずしも適切とはいえないが、一般的な手法(例えば、3名の専門パネリストの平均点とする、最高点又は最低点とする、協議をして決定するなど。)によって点数が決められていると解され、評価結果に基づく判断が困難であるとは認められない。そして、実施例の結果をみても、その評価結果について特に不合理な点は認められず、本件特許発明が課題を解決することができるものとはいえないというほどの事情も認められない。
また、本件特許発明の課題は、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料の提供にあり、風味の評価にあたっては程度の差はあれ、少なくともティリロサイド由来の苦味や収斂味が緩和されていればよいものと認められる。
よって、出願時の技術常識に照らして、本件特許発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することはできないとはいえず、本件特許発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

ク.主張クについて
既に述べたとおり、本件特許発明はBrix値が0?0.1程度の水のような飲料といった、特に厳しい条件で効果が確認されているとともに、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されることに関し、他に要因が存在するものとは認められないから、ティリロサイド含有量、プロピレングリコール含有量及び可溶性固形分濃度と、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味との関係の技術的な意味を、当業者は理解することができるものと認められる。
よって、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

ケ.主張ケについて
既に述べたとおり、実施例に係る評価方法は妥当であると認められるから、実施例の結果は信用できるものと認められる。
上記「カ.理由カについて」で述べたとおり、評価点は、プロピレングリコールを含有しない場合をコントロールとして、それとの対比で、緩和されているか否か、緩和されているとすればどの程度のものであるかを評価しているものと解するのが通常であるところ、No.2、No.3及びNo.5はそもそもティリロサイドの含有量が違っており、前提となるティリロサイド由来の苦味や収斂味の程度が違うため、これらを単純に比較することができるものとは認められない。よって、No.3が、No.2やNo.5より点数が高いことが必ずしも不合理であるとはいえない。
また一般的に、段階的な評価点を付けるにあたっては、同じ点数であったとしても、実際には評価対象となる物性や効果の範囲に一定程度の幅があり、全く同じ物性や効果ではないことが許容されるのが通常であるから、プロピレングリコールの含有量が同じで、ティリロサイドの含有量が異なるものが、同じ評価点になっていることが当然に不合理であるともいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載の実施例に関する評価結果は、技術常識からみて、当業者が理解することができないものであるとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができるようには記載されていないとはいえないし、本件特許発明、発明の詳細な説明に記載されたものではないともいえない。

コ.小括
以上のとおり、上記特許異議申立人の主張には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法36条4項1号又は同法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められないから、前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-04 
出願番号 特願2018-27762(P2018-27762)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 中島 芳人
冨永 みどり
登録日 2018-09-14 
登録番号 特許第6401879号(P6401879)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ティリロサイドを含有する飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 中西 基晴  
代理人 宮前 徹  
代理人 武田 健志  
代理人 中村 充利  

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