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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1354968 |
異議申立番号 | 異議2019-700506 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-25 |
確定日 | 2019-09-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6446011号発明「放熱部品用銅合金板及び放熱部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6446011号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6446011号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年10月3日に出願され、平成30年12月7日に特許権の設定登録がされ、同年12月26日に特許掲載公報が発行され、その後、令和元年6月25日付けで、請求項1?8(全請求項)に対し、特許異議申立人である三菱マテリアル株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 Mg:0.05?0.5質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、100MPa以上の0.2%耐力、5%以上の伸び及び優れた曲げ加工性と、優れた拡散接合性及びろう付け性を有し、850℃で30分加熱後冷却した場合の0.2%耐力が50MPa以上、かつ導電率が70%IACS以上であり、放熱部品を製造するプロセスの一部に拡散接合による接合が含まれることを特徴とする放熱部品用銅合金板。 【請求項2】 さらにZn:0.6質量%以下を含むことを特徴とする請求項1に記載された放熱部品用銅合金板。 【請求項3】 さらにP:0.05質量%以下を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された放熱部品用銅合金板。 【請求項4】 さらにSn、Al、Mn、Fe、Ni、Co、Si、Ag、Ti、Cr、Zrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.3質量%以下含むことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載された放熱部品用銅合金板。 【請求項5】 Mg:0.05?0.5質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有し、拡散接合により互いに接合された複数の銅合金板からなり、前記銅合金板の0.2%耐力が50MPa以上、かつ導電率が70%IACS以上であることを特徴とする放熱部品。 【請求項6】 前記銅合金板が、さらにZn:0.6質量%以下を含むことを特徴とする請求項5に記載された放熱部品。 【請求項7】 前記銅合金板が、さらにP:0.05質量%以下を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載された放熱部品。 【請求項8】 前記銅合金板が、さらにSn、Al、Mn、Fe、Ni、Co、Si、Ag、Ti、Cr、Zrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.3質量%以下含むことを特徴とする請求項5?7のいずれかに記載された放熱部品。」 第3 申立理由の概要 申立人の主張する申立理由の概要は以下のとおりである。 1 申立理由1(進歩性欠如) 本件発明1?8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 2 申立理由2(明確性要件違反) 請求項1?4に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2016-56414号公報 甲第2号証:特開2001-50682号公報 (以下、甲第1号証及び甲第2号証を、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。) 第4 当審の判断 1 申立理由1(進歩性欠如)について (1)甲1の記載事項 ア 甲1には、以下の記載がある。なお「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。 「【0001】 本発明は、リードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品に用いられる銅圧延板・・・に関するものである。」 「【0007】 この発明は・・・導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れるとともに、欠陥の発生を抑制することが可能な電子・電気機器用部品に適した銅圧延板・・・を提供することを目的とする。 【0008】 この課題を解決するために、本発明の銅圧延板は、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、Hの含有量が2massppm未満、Pの含有量が20massppm未満、Oの含有量が10massppm未満、Sの含有量が20massppm未満とされ、PとOとSの総量(P+O+S)とMg量との質量比(P+O+S)/Mgが0.6以下とされるとともに、導電率が88%IACS以上とされていることを特徴としている。 【0009】 上述の構成の銅圧延板によれば・・・Mgを銅の母相中に固溶させることができ、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。 ・・・ さらに、導電率が88%IACS以上とされているので、従来、純銅を用いていた用途に適用することが可能となる。」 「【0026】 ・・・導電率が88%IACS以上である場合には、通電時の発熱が抑えられるため、純銅の代替としてコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム等の電子機器用部品に特に適している。 ・・・」 「【0034】 ・・・粗加工工程・・・における温度条件は特に限定はないが・・・冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。・・・」 「【0036】 ・・・仕上圧延工程・・・における温度条件は特に限定はないが・・・冷間、または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。・・・」 「【実施例】 【0046】 以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。 ・・・ 【0047】 ・・・銅原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、Mgを添加して表1に示す成分組成に調製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。 ・・・ 【0048】 得られた鋳塊から・・・ブロックを切り出した。 このブロックを、Arガス雰囲気中において、表2に記載の温度条件で4時間の加熱を行い、均質化/溶体化処理を行った。 【0049】 その後、表2に記載の条件で粗圧延を実施した後、ソルトバスを用いて表2に記載された温度条件で熱処理を行った。 熱処理を行った銅素材を・・・切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。その後、常温で、表2に記載された圧延率で仕上圧延を実施し・・・薄板を製出した。 【0050】 そして、仕上圧延後に、表2に示す条件で、Ar雰囲気中で仕上熱処理を実施し、その後、水焼入れを行い、特性評価用薄板を作成した。 ・・・」 「【0055】 (曲げ加工性) 日本伸銅協会技術標準JCBA-T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向に対して曲げの軸が直交方向になるように、特性評価用薄板から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.25mm(R/t=1)のW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。 曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」、大きなしわが観察された場合は△、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を○として判定を行った。なお、○、△は許容できる曲げ加工性と判断した。」 「【0060】 成分組成を表1、製造条件を表2、評価結果を表3に示す。 【0061】 【表1】 ![]() 【0062】 【表2】 ![]() 【0063】 【表3】 ![]() 」 イ 前記アによれば、甲1には、以下の事項が記載されている。 (ア)甲1に記載された発明は、リードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品に用いられる銅圧延板に関するもので(【0001】)、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れるとともに、欠陥の発生を抑制することが可能な電子・電気機器用部品に適した銅圧延板を提供することを目的とする(【0007】)。 (イ)甲1に記載された銅圧延板の発明は、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、Hの含有量が2massppm未満、Pの含有量が20massppm未満、Oの含有量が10massppm未満、Sの含有量が20massppm未満とされ、PとOとSの総量(P+O+S)とMg量との質量比(P+O+S)/Mgが0.6以下とされるとともに、導電率が88%IACS以上とされている(【0008】)。 (ウ)前記(イ)の銅圧延板によれば、Mgを銅の母相中に固溶させることによって、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる(【0009】)。 さらに、導電率が88%IACS以上とされているので、通電時の発熱が抑えられ、純銅の代替としてコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム等の電子機器用部品に特に適している(【0009】、【0026】)。 (エ)実施例においては(【0046】)、表1に示す成分組成に調製した銅溶湯をカーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出し(【0047】)、 この鋳塊から切り出したブロックを、Arガス雰囲気中、表2に記載の温度条件で4時間加熱して、均質化/溶体化処理を行い(【0048】)、 その後、表2に記載の条件で粗圧延を実施し、ソルトバスを用いて表2に記載された温度条件で熱処理を行い(【0049】)、 上記熱処理後の銅素材を切断し、酸化被膜除去のために表面研削を実施した後、常温で、表2に記載された圧延率で仕上圧延を実施し薄板を製出し(【0049】)、 表2に示す条件で、Arガス雰囲気中で仕上熱処理を実施した後、水焼入れを行い、特性評価用薄板を作成した(0050)。 なお、表2には、上記粗圧延及び仕上圧延の温度について記載がないものの、いずれも、冷間又は温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましいとされる(【0034】、【0036】)。 (オ)実施例のうち、「本発明例6」に着目すると、銅溶湯の成分組成については、Mg:0.068mass%、H:0.6massppm、P:7massppm、O:5massppm、S:6massppm、Cu:残部となっており(【表1】)、 製造方法については、 a 上記銅溶湯から鋳塊を製出し、 b 鋳塊から切り出したブロックに対し、Arガス雰囲気中で700℃・4時間の均質化/溶体化処理を行い、 c 圧延率60%の粗圧延を行い、 d ソルトバスによる中間熱処理を500℃で60secで行い、 e 常温で圧延率70%の仕上圧延を行い、 f Ar雰囲気中で250℃・60secの仕上熱処理を行っており(【表2】)、 評価結果については、0.2%耐力:496MPa、導電率:91.3%IACS、曲げ加工性:○となっている(【表3】)。 ここで、上記曲げ加工性の評価については、日本伸銅協会技術標準JCBA-T307:2007の4試験方法に準拠して行ったものであり、曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」、大きなしわが観察された場合は△、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を○として判定し、○、△は許容できる曲げ加工性とした(【0055】)。 ウ 前記イによれば、甲1には、「本発明例6」に基づいて認定した以下の「甲1発明」が記載されているものと認められる。 (甲1発明) Mgを0.068mass%含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、Hの含有量が0.6massppm、Pの含有量が7massppm、Oの含有量が5massppm、Sの含有量が6massppmであり、0.2%耐力が496MPa、導電率が91.3%IACS、曲げ加工性の評価が「○」であるリードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品に用いられる銅圧延板。 (2)甲2の記載事項 ア 甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 外側に張り出す凸状通路(12)が形成された金属製成形板(11)を含む2枚の金属板(11)(13)が加熱および加圧により接合されて、作動流体を流通させる回路(14)が形成されていることを特徴とするパネル型熱交換器。 【請求項2】 前記金属板(11)(13)は、銅または銅合金により形成されている請求項1に記載のパネル型熱交換器。」 「【0018】・・・接合は・・・重ね合わせた金属板(11)(13)を金型(41)(42)で挟み付け、加熱しながら加圧することにより行う・・・ことにより・・・拡散接合または圧縮接合により行われることとなる。・・・」 イ 前記アによれば、甲2には、以下の事項が記載されている。 (ア)外側に張り出す凸状通路が形成された金属製成形板を含む2枚の銅又は銅合金により形成された金属板が加熱及び加圧により接合されて、作動流体を流通させる回路が形成されているパネル型熱交換器(【請求項1】、【請求項2】)。 (イ)前記(ア)の2枚の金属板の接合は、重ね合わせた金属板を金型で挟み付け、加熱しながら加圧することにより行われるので、拡散接合又は圧縮接合となる(【0018】)。 (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「Mgを0.068mass%含」む「銅圧延板」と、本件発明1の「Mg:0.05?0.5質量%を含有」する「放熱部品用銅合金板」とは、「mass%」が「質量%」を意味することを踏まえれば、「Mg:0.068質量%を含有」する「銅合金板」である点で一致する。 (イ)本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の「不可避不純物」に関し、「不可避不純物であるH、O、S、Pb、Bi、Sb、Se、Asの含有量は低減することが好ましい。 このうちHは・・・好ましくは1.5ppm(質量ppm、以下同じ)未満とし・・・Oは、好ましくは20ppm未満・・・とする。S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは、好ましくは合計で30ppm未満・・・とする。」(【0019】)と記載されている。 他方、甲1発明では、「Hの含有量が0.6massppm」であり、「Oの含有量が5massppm、Sの含有量が6massppm」であるところ、Hについては、その含有量(0.6massppm)は、上記記載の「1.5ppm(質量ppm、以下同じ)未満」を満たし、Oについては、その含有量(5massppm)は、上記記載の「好ましくは20ppm未満」を満たしている。 また、甲1発明では、Pb、Bi、Sb、Se、Asは意図的に添加されていないから、Sについては、その含有量(6massppm)は、上記記載の「S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは、好ましくは合計で30ppm未満」を満たしている。 さらに、本件特許の発明の詳細な説明には、Pに関し、「Pは少量の添加でも強度を向上させる効果を有し、その含有量は好ましくは0.001質量%以上・・・である。」(【0017】)と記載されるとおり、Pは、強度向上に寄与する元素であり、0.001質量%(10質量ppm)以上添加するのが好ましいとされるところ、本件発明1のように、Pが意図的に添加されない場合には、その含有量が0.001質量%(10質量ppm)未満であれば、Pは、本件発明1の「不可避不純物」に該当するものと認められ、他方、甲1発明では「Pの含有量が7massppm」となっている。 したがって、甲1発明の「含有量が0.6massppm」の「H」、「含有量が7massppm」の「P」、「含有量が5massppm」の「O」及び「含有量が6massppm」の「S」は、いずれも、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。 (ウ)甲1発明の「0.2%耐力が496MPa」である点と、本件発明1が「100MPa以上の0.2%耐力」を有する点は、両者が「496MPaの0.2%耐力」を有する点で一致する。 (エ)本件発明1の「優れた曲げ加工性」に関し、本件特許の発明の詳細な説明には、「曲げ加工性の測定は、伸銅協会標準JBMA-T307に規定されるW曲げ試験方法に従い実施した。・・・曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、割れの発生がないものを○(合格)と評価した。」(【0035】)と記載されているから、上記記載の方法において「○」の評価が得られれば、上記の「優れた曲げ加工性」を有するものと認められる。 他方、甲1発明の「曲げ加工性の評価が『○』」である点に関し、甲1には、日本伸銅協会技術標準JCBA-T307:2007の4試験方法に準拠して行ったもので、曲げ部の外周部を目視で観察して、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を○として判定している(前記(1)イ(オ))。 ここで、本件発明1と甲1発明の曲げ加工性の評価は、いずれも日本伸銅協会技術標準JCBA-T307に基づくものであり、本件発明1では、曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、割れの発生がないものを○とする一方で、甲1発明では、曲げ部の外周部を目視で観察して、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を○としているところ、甲1発明では、目視であっても、「破断や微細な割れ」に加えて「大きなしわ」が確認できないことも含めて観察を行っているから、両者の曲げ加工性の評価は実質的に同一のものであると認められる。 したがって、甲1発明の「曲げ加工性の評価が『○』である」点は、本件発明1が「優れた曲げ加工性」「を有」する点に相当する。 (オ)以上によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点1、2は以下のとおりである。 (一致点) Mg:0.068質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、496MPa以上の0.2%耐力と優れた曲げ加工性を有する銅合金板である点。 (相違点1) 本件発明1は、5%以上の伸びと、優れた拡散接合性及びろう付け性を有し、850℃で30分加熱後冷却した場合の0.2%耐力が50MPa以上、かつ導電率が70%IACS以上であるのに対して、 甲1発明は、伸び、拡散接合性、ろう付け性、及び、850℃で30分加熱後冷却した場合の0.2%耐力と導電率が不明である点。 (相違点2) 本件発明1は、放熱部品を製造するプロセスの一部に拡散接合による接合が含まれる放熱部品用銅合金板であるのに対して、 甲1発明は、リードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品に用いられる銅圧延板である点。 イ 相違点1について (ア)甲1発明は、甲1の「本発明例6」に基づいて認定したものであるところ、甲1には、上記「本発明例6」の伸び、拡散接合性、ろう付け性、及び、850℃で30分加熱後冷却した場合の0.2%耐力と導電率については、記載がない。 (イ)そこで、製造方法の異同に基づいて、甲1発明が、本件発明1の相違点1に係る事項を備えているといえるか否かを検討すると、甲1には、「本発明例6」の製造方法として、 a Mg:0.068mass%、H:0.6massppm、P:7massppm、O:5massppm、S:6massppm、Cu:残部の成分組成の銅溶湯から鋳塊を製出し、 b 鋳塊から切り出したブロックに対し、Arガス雰囲気中で700℃・4時間の均質化/溶体化処理を行い、 c 圧延率:60%の粗圧延を行い、 d ソルトバスによる中間熱処理を500℃で60secで行い、 e 常温で圧延率:70%の仕上圧延を行い、 f Ar雰囲気中で250℃・60secの仕上熱処理を行うことが記載されている(前記(1)イ(オ))。 なお、上記「本発明例6」における「粗圧延」及び「仕上圧延」の温度は甲1の表2に記載がないため不明であるが、いずれも、冷間又は温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましいとされる(前記(1)イ(エ))から、上記「粗圧延」及び「仕上圧延」は、冷間又は温間圧延によって行われていると認められる。 (ウ)他方、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の製造方法に関して、「本発明に係る銅合金板は、通常の固溶強化型銅合金板と同様、溶解、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、熱処理の工程により、製造することができる。熱処理は、バッチ炉又は連続熱処理炉により行うことができる。・・・。 冷間圧延-熱処理の後、必要に応じて冷間圧延を行い、さらに必要に応じてひずみ取り焼鈍を行なうことができる。」(【0025】)とあるとおり、均質化処理と冷間圧延との間に「熱間圧延」を行うことが記載されている。 また、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例は、いずれも、均熱化処理後(900℃・1時間)の板厚60mmの鋳塊に対して、650℃以上の温度で板厚20mmになるように熱間圧延を行っている(【0028】、【0029】)。 (エ)そうすると、甲1に記載された「本発明例6」の製造方法は、少なくとも、Arガス雰囲気中における均質化/溶体化処理の条件が700℃・4時間である点、及び、均質化/溶体化処理と粗圧延との間に「熱間圧延」を行っていない点で、前記(ウ)の本件発明1の製造方法と相違している。 したがって、甲1発明は、本件発明1の相違点1に係る事項を備えているとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。 (オ)そして、甲2の記載事項(前記(2)イ)を参照しても、本件発明1の相違点1に係る事項は記載されておらず、当該事項が当業者の技術常識であるともいえないから、甲1発明において、本件発明1の相違点1に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。 ウ 相違点2について (ア)甲1には、甲1発明の銅圧延板の用途が「リードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品」であることは記載されているが(前記(1)イ(ア))、放熱部品用であることは、記載も示唆もされておらず、また、甲1には、銅圧延板の導電率が88%IACS以上であるため、通電時の発熱が抑えられ、純銅の代替としてコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム等の電子機器用部品に特に適している旨の記載がされていることを踏まえれば(前記(1)イ(ウ))、甲1発明の銅圧延板は「通電」の必要な部品を用途としており、放熱部品はその用途として予定されていないものと認められる。 (イ)他方、甲2には、外側に張り出す凸状通路が形成された金属製成形板を含む2枚の銅合金により形成された金属板が拡散接合されて作動流体を流通させる回路が形成されたパネル型熱交換器が記載されているものの(前記(2)イ)、上記金属板として「通電」の必要な部品用の銅合金板を用い得ることは記載も示唆もされておらず、このことを動機付ける技術常識の存在も認められないから、甲1発明において、本件発明1の相違点2に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。 エ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明2?4について 本件発明2?4は、引用により本件発明1の発明特定事項を全て有するから、本件発明1と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明5について ア 本件発明5と甲1発明との対比 (ア)本件発明5と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「Mgを0.068mass%含」む「銅圧延板」と、本件発明5の「Mg:0.05?0.5質量%を含有」する「銅合金板」とは、「mass%」が「質量%」を意味することを踏まえれば、「Mg:0.068質量%を含有」する「銅合金板」である点で一致する。 (イ)前記(3)ア(イ)で検討したとおり、甲1発明の「含有量が0.6massppm」の「H」、「含有量が7massppm」の「P」、「含有量が5massppm」の「O」及び「含有量が6massppm」の「S」は、いずれも、本件発明5の「不可避不純物」に相当する。 (ウ)甲1発明の「0.2%耐力が496MPa」である点と、本件発明5が「0.2%耐力が50MPa以上」である点は、「0.2%耐力が496MPa」である点で一致する。 (エ)甲1発明の「導電率が91.3%IACS」である点と、本件発明5の「導電率が70%IACS以上であること」は、「導電率が91.3%IACSであること」で一致する。 (オ)以上によれば、本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点3は以下のとおりである。 (一致点) 銅合金板が、Mg:0.068質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有し、0.2%耐力が496MPa、かつ導電率が91.3%IACSである点。 (相違点3) 本件発明5は、拡散接合により互いに接合された複数の銅合金板からなる放熱部品であるのに対して、 甲1発明は、リードフレーム、端子、コネクタ等の電気・電子部品に用いられる銅圧延板である点。 イ 相違点3について (ア)相違点2について検討したとおり(前記(3)ウ)、甲1発明の銅圧延板は「通電」の必要な部品を用途としており、放熱部品はその用途として予定されていないものと認められ、他方、甲2には、外側に張り出す凸状通路が形成された金属製成形板を含む2枚の銅合金により形成された金属板が拡散接合されて作動流体を流通させる回路が形成されたパネル型熱交換器が記載されているものの、上記金属板として「通電」の必要な部品用の銅合金板を用い得ることは記載も示唆もされておらず、このことを動機付ける技術常識の存在も認められないから、甲1発明において、本件発明5の相違点3に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。 (イ)仮に、甲1発明において、本件発明5の相違点3に係る事項を採用することが、当業者にとって容易になし得たことであるとしても、その場合には、甲1発明の銅圧延板に対して、拡散接合のために850℃・30分程度の熱処理を施す必要があるところ、上記熱処理を経た後においても、甲1発明の銅圧延板が、本件発明5で特定される「0.2%耐力が50MPa以上、かつ導電率が70%IACS以上」の性質を有しているか否かは、相違点1について検討したとおり(前記(3)イ(ア)?(エ))、当業者であっても不明であるから、前記ア(オ)の一致点のうち「0.2%耐力が496MPa、かつ導電率が91.3%IACSである点」は、もはや一致点とはならず、新たな相違点となる。 そして、甲1発明において、本件発明5の上記新たな相違点に係る事項を採用することは、相違点1について検討したとおり(前記(3)イ(オ))、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。 ウ 以上のとおりであるから、本件発明5は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明6?8について 本件発明6?8は、引用により本件発明5の発明特定事項を全て有するから、本件発明5と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (7)小括 以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2(明確性要件違反)について (1)申立人の主張 申立理由2について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第18頁第12行?第19頁第13行)。 ア 請求項1には、「優れた曲げ加工性と、優れた拡散接合性及びろう付け性」という記載があるが、「曲げ加工性」、「拡散接合性」及び「ろう付け性」という記載では、それぞれの特性の評価方法が明らかではなく、さらに、それぞれの特性が「優れた」と判断する評価基準も明らかではない。 イ この点に関し、特許権者は、審査段階における平成30年4月20付け意見書において、材料関係の出願では、同様の記載を含む請求項が記載された出願が明確性要件違反で拒絶されることなく特許査定されていると主張するが、拒絶理由は出願の内容に応じて通知されるべきものであり、特許権者は、上記意見書において、本件発明1における「拡散接合性」は死活的に重要な特性であると主張しているのであるから、「拡散接合性」の評価方法及び評価基準は明確に特定されなければならない。 ウ したがって、本件発明1及び引用に本件発明1の特定事項を全て有する請求項2?4は、明確であるとはいえない。 (2)当審の判断 ア 請求項1には、「優れた曲げ加工性と、優れた拡散接合性及びろう付け性」という記載があるが、「曲げ加工性」、「拡散接合性」及び「ろう付け性」の評価方法や、それぞの特性が「優れた」と判断する評価基準は記載されていない。 イ そこで、請求項1に記載された「優れた曲げ加工性」及び「優れた拡散接合性及びろう付け性」という用語の意義を解釈するために、明細書の記載を参酌すると(特許法第70条第2項)、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。 「【0031】 [拡散接合性] 拡散接合性の指標として、拡散接合強度の素材強度比(拡散接合強度を素材強度で除したもの)を求めた。拡散接合強度、素材強度、及び拡散接合強度の素材強度比は以下の手順で求めた。 (拡散接合強度) ・・・ 【0032】 (素材強度) ・・・ 【0033】 (拡散接合強度の素材強度比) 両試験結果から、拡散接合強度の素材強度比(拡散接合強度を素材強度で除したもの)を求めた。この値を放熱部品用銅板及び銅合金板の拡散接合強度の素材強度比とみなし、この値が0.95以上を合格とした。・・・ 【0034】 [ろう付け性] ろう付け性は、ろうの濡れ広がり試験で測定した。 ・・・試験片上のろうをCCDカメラVHX-600(株式会社キーエンス製)により観察し、同カメラに内蔵されている画像解析装置により、ろうの広がった部分とそれ以外の部分を2値化して識別し、ろうの濡れ広がり面積を求めた。濡れ広がり面積が5cm^(2)以上のものを合格とした。 [曲げ加工性] 曲げ加工性の測定は、伸銅協会標準JBMA-T307に規定されるW曲げ試験方法に従い実施した。・・・曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、割れの発生がないものを○(合格)と評価した。」 ウ 前記イの記載によれば、請求項1に記載された「曲げ加工性」、「拡散接合性」及び「ろう付け性」の評価方法や、「優れた」(合格した)と判断する評価基準は、いずれも明確に理解することができるから、申立人の前記(1)の主張を採用することはできない。 エ したがって、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?4は、いずれも明確である。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-09-06 |
出願番号 | 特願2016-195431(P2016-195431) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田口 裕健、静野 朋季 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 長谷山 健 |
登録日 | 2018-12-07 |
登録番号 | 特許第6446011号(P6446011) |
権利者 | 株式会社神戸製鋼所 |
発明の名称 | 放熱部品用銅合金板及び放熱部品 |
代理人 | 香本 薫 |