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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1355164
審判番号 不服2018-14816  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2019-10-01 
事件の表示 特願2016-101068「樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月24日出願公開、特開2017-206635,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年5月20日の出願であって,平成30年5月25日付けで拒絶理由通知がされ,同年7月13日付けで意見書が提出され,同年8月9日付けで拒絶理由通知がされ,同年9月10日付けで意見書が提出され,同年9月28日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本願発明1」等という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「本願明細書」という。)。

【請求項1】
塩化ビニル樹脂と,フタル酸ジノニルとを含有する樹脂組成物であって,
断面積が0.3mm^(2)の導体に前記樹脂組成物を0.30mmの厚さで被覆した絶縁電線に対して,JASO D618に規定のスクレープ摩耗試験を行った場合の往復回数が100以上であり,
前記絶縁電線を,-65℃環境下で,前記絶縁電線と同径のマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がなく,
85℃で3000時間加熱した前記絶縁電線を,23±5℃環境下で,前記絶縁電線の1.5倍の径を有するマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がないことを特徴とする
樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩化ビニル樹脂100質量部に対する前記フタル酸ジノニルの含有量が35?60質量部であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂の重合度が1000?2500であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる被覆層と,
前記被覆層により被覆される導体と,
を備えることを特徴とする絶縁電線。

第3 原査定の概要
1 理由1(進歩性)
本願発明1?4は,下記2の引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2 引用文献等
(1)特開2012-7184号公報(引用文献2)
(2)特開昭59-226049号公報(引用文献3)

第4 当審の判断
以下に述べるように,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

1 理由1(進歩性)
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載(請求項1,【0001】?【0005】,【0008】,【0010】?【0026】,【0043】?【0052】,製造例1,実施例1,比較例1,2,表1)によれば,特に製造例1及び実施例1(【0043】,【0048】,【0049】)に着目すると,引用文献2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「温度計,デカンター,攪拌羽,還流冷却管を備えた2L四ツ口フラスコに,フタル酸二無水物493g(3.3モル),脂肪族飽和アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)1112g(7.7モル),キシレン140g,及びエステル化触媒としてp-トルエンスルホン酸3.7gを加え,反応温度を130℃としてエステル化反応を実施し,減圧下キシレン,アルコールを還流させて生成水を系外へ除去しながら,反応溶液の酸価が0.5mgKOH/gになるまで反応を行い,反応終了後,未反応アルコールを減圧下で系外へ留去した後,常法に従って中和,水洗,脱水することにより,エステル価:267mgKOH/g,酸価:0.01mgKOH/g,色相:10であるフタル酸ジエステル1223gが得られ,
塩化ビニル樹脂(ストレート,重合度1050,商品名「Zest1000Z」,新第一塩ビ社製)100重量部に,安定剤としてカルシウムステアレート(ナカライテスク社製)及びジンクステアレート(ナカライテスク社製)を各々0.3及び0.2重量部を配合し,モルタルミキサーで攪拌混合した後,可塑剤として上記で得られたフタル酸ジエステル50重量部を加え,均一になるまでハンドリング混合して得られた,塩化ビニル樹脂組成物。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「塩化ビニル樹脂(ストレート,重合度1050,商品名「Zest1000Z」,新第一塩ビ社製)」,「塩化ビニル樹脂組成物」は,それぞれ,本願発明1における「塩化ビニル樹脂」,「樹脂組成物」に相当する。
以上によれば,本願発明1と引用発明とは,
「塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本願発明1では,さらに,「フタル酸ジノニル」を含有するのに対して,引用発明では,さらに,「フタル酸二無水物」と「脂肪族飽和アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)」とを「エステル化反応」して得られた「フタル酸ジエステル」を含有する点。
・相違点2
本願発明1では,樹脂組成物が,「断面積が0.3mm^(2)の導体に前記樹脂組成物を0.30mmの厚さで被覆した絶縁電線に対して,JASO D618に規定のスクレープ摩耗試験を行った場合の往復回数が100以上であり」,「前記絶縁電線を,-65℃環境下で,前記絶縁電線と同径のマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がなく」,「85℃で3000時間加熱した前記絶縁電線を,23±5℃環境下で,前記絶縁電線の1.5倍の径を有するマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がない」との各特性を有するのに対して,引用発明では,塩化ビニル樹脂組成物が,これらの各特性を有するかどうか不明である点。

イ 相違点1の検討
引用発明は,「フタル酸ジエステル」を含有するものであるところ,当該「フタル酸ジエステル」は,「フタル酸二無水物」と「脂肪族飽和アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)」とを「エステル化反応」して得られたものである。
上記の脂肪族飽和アルコールは,シェルケミカルズ社製のリネボール9であるが,引用文献2の記載(【0014】)によれば,リネボール9は,約70%以上のn-ノナノールと約30%以下の2-メチルオクタノールの混合物であると認められる。
そうすると,フタル酸二無水物とリネボール9とをエステル化反応させると,フタル酸二無水物とリネボール9に約70%以上含まれるn-ノナノールとがエステル化反応し,その結果,フタル酸ジノニルを含む混合物であるフタル酸ジエステルが得られることは,当業者にとって明らかである。
以上によれば,引用発明は,フタル酸ジノニルを含有すると認められるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。

ウ 相違点2の検討
(ア)本願明細書の記載(【0024】?【0026】)によれば,本願発明1における「断面積が0.3mm^(2)の導体に前記樹脂組成物を0.30mmの厚さで被覆した絶縁電線に対して,JASO D618に規定のスクレープ摩耗試験を行った場合の往復回数が100以上であり」,「前記絶縁電線を,-65℃環境下で,前記絶縁電線と同径のマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がなく」,「85℃で3000時間加熱した前記絶縁電線を,23±5℃環境下で,前記絶縁電線の1.5倍の径を有するマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がない」との各特性は,それぞれ,耐摩耗性,低温屈曲性,耐熱性に関する特性と解される
(イ)一方,引用発明は,塩化ビニル樹脂組成物に関するものであるところ,引用文献2の記載(請求項1,【0001】?【0005】,【0008】,【0010】?【0026】,【0043】?【0052】,製造例1,実施例1,比較例1,2,表1)によれば,塩化ビニル樹脂組成物において,可塑剤として,フタル酸二無水物と脂肪族飽和アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)とをエステル化反応して得られたフタル酸ジエステルを含有させることにより,当該組成物を原料として成型加工品とした場合に,耐寒性及び耐熱性が優れ,かつ柔軟性が良好な成型加工品とすることができるというものである。
引用文献2には,上記の柔軟性,耐寒性,耐熱性について,引用発明に係る塩化ビニル樹脂組成物から作製したプレスシート(【0043】)を用いて,以下に示す引張試験,耐寒性試験,耐熱性試験を行うことにより評価したことが記載され,その結果が表1に示されている。
「(3)引張試験:JIS K-6723(1995)に準拠し,プレスシートの100%モジュラス,破断強度,破断伸びを測定する。100%モジュラスの値が小さいほど柔軟性が良好であることを示す。」(【0045】)
「(4)耐寒性試験:クラッシュベルグ試験機を用いて,JIS K-6773(1999)に準拠して測定する。絶対値の大きいほど耐寒性が高い。」(【0046】)
(注:材料の低温下でのねじり剛性を評価する柔軟温度試験。所定の剛性率を示す温度を柔軟温度とする。)
「(5)耐熱性試験:揮発減量及びシート着色の評価による。
a)揮発減量:ギヤーオーブン中,プレスシートを170℃で60分,120分加熱した後の重量変化を測定する。数値が少ないほど,耐熱性が高い。
b)シート着色 :ギヤーオーブン中,プレスシートを170℃で30分,60分間加熱した後の着色度の強弱を目視により4段階で評価する。
◎:着色なし,○:若干着色する,△:着色する,×:着色が強い。」(【0047】)

以上のとおり,引用文献2には,柔軟性,耐寒性,耐熱性の評価について記載されているものの,本願発明1における上記の各特性については,何ら記載されていない。また,当業者といえども,引用文献2における柔軟性,耐寒性,耐熱性の評価についての記載から,本願発明1における上記の各特性を推認することができるとはいえない。
また,引用文献3には,車輌用塩ビレザーの製造に用いられる可塑剤として,炭素数9?12の直鎖アルコールフタル酸エステルは,低揮発性で,耐寒性が良好であることが記載されているものの(1頁右下欄13?15行),本願発明1における上記の各特性については,何ら記載されていない。
以上によれば,引用発明において,塩化ビニル樹脂組成物を,本願発明1における上記の各特性を有するものとすることが動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,耐摩耗性,低温屈曲性,耐熱性に優れる樹脂組成物を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,引用発明において,塩化ビニル樹脂組成物を,「断面積が0.3mm^(2)の導体に前記樹脂組成物を0.30mmの厚さで被覆した絶縁電線に対して,JASO D618に規定のスクレープ摩耗試験を行った場合の往復回数が100以上であり」,「前記絶縁電線を,-65℃環境下で,前記絶縁電線と同径のマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がなく」,「85℃で3000時間加熱した前記絶縁電線を,23±5℃環境下で,前記絶縁電線の1.5倍の径を有するマンドレルに巻き付けた場合に,導体露出がない」との各特性を有するものとすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(ウ)なお,本願明細書の記載(【0019】,【0021】,【0036】?【0046】,実施例1?5,比較例1?9,表1)によれば,塩化ビニル樹脂とフタル酸ジノニルとを含有する樹脂組成物において,塩化ビニル樹脂の重合度を「1000?2500」とし,塩化ビニル樹脂100質量部に対するフタル酸ジノニルの含有量を「35?60質量部」とすることにより,本願発明1における上記の各特性が満たされると解する余地があるので,このような観点から,以下,検討する。
引用発明に係る塩化ビニル樹脂組成物は,重合度1050の塩化ビニル樹脂を含有するとともに,上記イのとおり,フタル酸ジノニルを含有するものである。
上記イで述べたとおり,リネボール9は,約70%以上のn-ノナノールと約30%以下の2-メチルオクタノールの混合物であるから,フタル酸二無水物とリネボール9とをエステル化反応させると,フタル酸二無水物とn-ノナノールとのエステル化反応により得られるフタル酸ジノニルのほか,各種のフタル酸ジエステルが得られると解される。
しかしながら,フタル酸二無水物とリネボール9とのエステル化反応により,どのような種類のフタル酸ジエステルがどの程度の量だけ得られるかは,その反応条件等により変わると考えられるから,引用発明における塩化ビニル樹脂100重量部に対するフタル酸ジノニルの含有量は,不明というほかない。
この点,引用発明においては,塩化ビニル樹脂100重量部にフタル酸ジエステル50重量部を加えていることから,仮に,リネボール9に約70%以上含まれるn-ノナノールの全てが,フタル酸二無水物とのエステル化反応によりフタル酸ジノニルになるとすれば,その含有量は35重量部以上となるが,実際には,フタル酸ジノニル以外の各種のフタル酸ジエステルも得られるため,塩化ビニル樹脂100重量部に対するフタル酸ジノニルの含有量が35重量部以上となるかどうかは,不明である。
また,引用文献2のほか,引用文献3にも,エステル化反応により得られる各種のフタル酸ジエステルの中で,特にフタル酸ジノニルが,柔軟性,耐寒性,耐熱性の点で優れていることは記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。
以上によれば,引用発明において,塩化ビニル樹脂100質量部に対するフタル酸ジノニルの含有量を一定程度以上に増量し,「35?60質量部」とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,重合度1050の塩化ビニル樹脂を含有するとともに,フタル酸ジノニルを含有する引用発明において,塩化ビニル樹脂100質量部に対するフタル酸ジノニルの含有量を「35?60質量部」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。そして,そうである以上,引用発明において,本願発明1における上記の各特性が満たされるということもできない。

エ 小括
したがって,本願発明1は,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願発明2?4について
本願発明2?4は,本願発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本願発明1が,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2?4についても同様に,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本願発明1?4は,いずれも,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,本願について,理由1(進歩性)によって拒絶すべきものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-17 
出願番号 特願2016-101068(P2016-101068)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長岡 真  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
武貞 亜弓
発明の名称 樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線  
代理人 三好 秀和  

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