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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1355193 |
審判番号 | 不服2017-13730 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-14 |
確定日 | 2019-09-11 |
事件の表示 | 特願2014-545206「関連するアクチノバクテリアの遺伝的形質転換のためのプラスミドとしての、アクチノプラネス属SE50/110由来の新規な放線菌組込み接合エレメント」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日国際公開、WO2013/083566、平成27年 1月19日国内公表、特表2015-501641〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成24年12月4日(パリ条約による優先権主張 平成23年12月8日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月10日付けで拒絶査定がなされ、同年9月14日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成30年7月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成31年2月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成31年2月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたものであり、そのうち請求項1、2に係る発明は次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 配列番号1の配列から成る異種ポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞。 【請求項2】 アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)である、請求項1に記載の宿主細胞。」 第2 当審拒絶理由について 平成30年7月31日付けの当審の拒絶理由通知は、この出願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。 第3 当審の判断 1.本願明細書の記載 本願明細書には、以下の事項が記載されている。 (1)「【技術分野】 【0001】 発明の説明 原核生物アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110は、2型糖尿病の治療において世界中で使用されている、α-グルコシダーゼ阻害剤アカルボースを産生する。2型糖尿病の発生率が世界的に急速に上昇しているという事実に基づいて、アカルボースの需要の増大が、将来的に予測されている。これらの期待に応えるために、株およびその誘導体の遺伝子操作は、アカルボース収量を増大させることを目指して行われなければならない。しかしながら、現在、この株のための遺伝子操作のためのツールは存在しておらず、菌株改良の過程を妨げている。 【0002】 本発明は、放線菌組込み接合エレメント(actinomycete integrative and conjugative element)(AICE)の構造に似た、アクチノプラネス属 SE50/110の完全なゲノム配列内の生来のDNA配列を対象とする。関連するAICEは、過去に他の細菌のための遺伝子操作ツールを確立するために用いられた。本明細書において、我々は、全体として任意の他の既知のAICEとは明らかに異なるが、他種由来の他の特徴づけられたAICEと様々な配列類似性で小部分を共有する、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110で発見された特定のAICEの独自の特徴について記載する。 (2)「【0004】 ・・・シュードテトラサッカライドアカルボースは、現在、野生型微生物アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110に基づく、収率が最適化された株の工業的発酵により生産されている。従来の突然変異誘発による古典的な菌株最適化は、過去、アカルボースの生産を増加させる大成功した方法であったが、この戦略は今では限界に達しているようである。さらに生産効率を高めるために、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110のための機能的形質転換システムを必要とする、標的遺伝子工学的方法が適用されなければならない。以前の実験は、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110およびアクチノプラネス・フリウリエンシス(Actinoplanes friuliensis)(ならびに、おそらく他のほとんどのアクチノプラネス属)が、行われてきた真剣な努力にもかかわらず、エレクトロポレーションまたはPEG媒介形質転換のような標準的な形質転換法を可能にしないことを明らかにした(Heinzelmann et al., 2003)。本文脈において、関連する種について以前に示されているように(Hosted et al., 2005)、この目的のために使用することができる、放線菌組込み接合エレメント(AICE)が、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110ゲノム(GenBank:CP003170)上で同定されている。 【0005】 AICEは、切除/組込み、複製、接合伝達および調節のための機能的モジュールを有する、高度に保存された構造組織を保有する、可動性遺伝因子のクラスである(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。自律的に複製することができ、それらはまた、特定の環境条件下で宿主に選択的優位性を付与する、抵抗および代謝特性などの、機能をコードするさらなるモジュールの取得を媒介すると言われている(Burrus and Waldor, 2004)。pACPLと呼ばれる、新規のAICEが、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110の完全なゲノム配列中で同定された(図1)。その13.6kbの大きさと構造的遺伝子構成は、ミクロモノスポラ・ロザリア(Micromonospora rosario)、サリニスポラ・トロピカ(Salinispora tropica)またはストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)のような近縁種の他の既知のAICEに良く一致する(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。 (3)「【0007】 最も知られているAICEは、それぞれ、ゲノム上に位置する付着部位(attB)およびAICE(attP)内の2つの短い同一の配列(att同一セグメント(att identity segments))の間の部位特異的組換えによるtRNA遺伝子の3’末端への組込みにより、それらの宿主ゲノムにおいて存在する(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。pACPLでは、att同一セグメントは大きさが43ntであり、attBはプロリンtRNA遺伝子の3’末端に重複している。さらにまた、attPにおける同一セグメントは、2つのミスマッチを含有する2つの21ntの繰り返し:GTCACCCAGTTAGT(T/C)AC(C/T)CAGによって隣接されている。これらはストレプトマイセス・アンボファシエンス(Strepomyces ambofaciens)由来のAICE pSAM2で同定されたアーム型部位に高い類似性を示す。pSAM2については、インテグラーゼがこれらの繰り返しに結合し、かつ効率的な組換えのためにそれらが不可欠なことが示された(Raynal et al., 2002)。 【0008】 プロリンtRNAゲノム組込み部位に加えて、pACPLは、平均的なアクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110細胞における染色体外エレメントとして(Schwientek et al., 2012)、少なくとも12コピーで存在することが示された(図2)。pACPLは22個のタンパク質をコードする配列を有する。 【0009】 本発明の放線菌組込み接合エレメントは: a)配列番号1の配列を有するポリヌクレオチド、 b)(a)で特定されるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および c)配列番号1の配列と少なくとも90%同一性を有するポリヌクレオチドからなる群から選択される。」 (4)「【0011】 pACPLの22個のタンパク質をコードする配列の詳細な説明 遺伝子int(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6310)は、388アミノ酸の長さを有するAICEのインテグラーゼをコードする。その配列は、最初の383アミノ酸内で、ストレプトマイセス・グリセオフラブス(Streptomyces griseoflavus) Tu4000のインテグラーゼ(GenBank:EFL40120.1)に74%の類似性を示す。該タンパク質のインテグラーゼドメインは、アミノ酸182-365に位置し、Int/Topo IBシグネチャーモチーフ(保存ドメイン:cd01182)に高い類似性(e値 2.90e-21)を示す。該インテグラーゼは、2つの類似する、染色体上の付着部位attBおよびAICE上のattPの間で生じる、部位特異的組換えによる、tRNA遺伝子内への組込みの原因である(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。 【0012】 遺伝子xis(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6309)は68アミノ酸の長さを有するAICEの除去酵素をコードする。それは、ストレプトスポランギウム・ロセウム(Streptosporangium roseum) DSM 43021由来の推定タンパク質Sros_7036(GenBank:ACZ89735.1)に最も高い類似性を示す。該タンパク質は、アミノ酸9-55の間に中程度に保存された(e値:1.31e-07)ヘリックス-ターン-ヘリックスモチーフ(pfam12728)を含有する。Xisは、増幅および他の宿主への伝達に備えて、染色体からのAICEの削除を媒介するために、Intと組み合わせて必要である(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。 【0013】 遺伝子repSA(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6308)は、598アミノ酸の長さを有するAICEの複製開始タンパク質をコードする。それは、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定プラスミド複製開始タンパク質に最も高い類似性を有する。該タンパク質は、ローリングサイクル複製機構を適用することが見出されたストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)由来の十分に特徴付けられたRepSAタンパク質に似ている。 【0014】 遺伝子aice1(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6307)は、97アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、最初の80アミノ酸において、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5360(GenBank:ADL48866.1)に69%の類似性を示す。 【0015】 遺伝子spdA(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6306)は、107アミノ酸の長さを有するAICEの推定拡散タンパク質(spread protein)をコードする。SpdAはフランキア属(Frankia sp.) CcI3由来の拡散タンパク質 (GenBank:ABD10289.1)に54%の類似性を示す。拡散タンパク質は、ドナー細胞からAICEを獲得する過程に存在する、レシピエント細胞の一時的な増殖遅延を反映する、ポック形成に関与している。それゆえ、拡散タンパク質は菌糸内拡散(intramycelial spread)を補助する(Kataoka et al., 1994; Grohmann et al., 2003; te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。 【0016】 遺伝子spdB(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6305)は、169アミノ酸の長さを有するAICEの推定拡散タンパク質をコードする。SpdBは、アミノ酸40-131の間で、ミクロモノスポラ・ロザリア(Micromonospora rosaria)由来の拡散タンパク質 (GenBank:AAX38998.1)に84%の類似性を示す。拡散タンパク質は、ドナー細胞からAICEを獲得する過程に存在する、レシピエント細胞の一時的な増殖遅延を反映する、ポック形成に関与している。それゆえ、拡散タンパク質は菌糸内拡散(intramycelial spread)を補助する(Kataoka et al., 1994; Grohmann et al., 2003; te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。SpdBについてシグナルペプチドが発見され、その切断部位は位置18と予測される。またさらに、3つの膜貫通ヘリックスが位置i53-70o75-97i109-131oで発見された。 【0017】 遺伝子aice2(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6304)は、96アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、アミノ酸12-89の間で、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5358(GenBank:ADL48864.1)に57%の類似性を示す。 【0018】 遺伝子aice3(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6303)は、61アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、公開データベース中のいずれのタンパク質にも著しい類似性を示さなかった。 【0019】 遺伝子aice4(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6302)は、138アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、最後の113アミノ酸において、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5357(GenBank:ADL48863.1)に69%の類似性を示す。 【0020】 遺伝子aice5(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6301)は、108アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5356(GenBank:ADL48862.1)の完全アミノ酸配列に79%の類似性を示す。このタンパク質は、細胞質外機能 (ECF)を備えるシグマ因子に対する低いpfamヒット(e値 0.0022)を有する。これらのシグマ因子は、特定の遺伝子の転写を刺激するためにRNAポリメラーゼに結合できる。それらは、環境からの刺激を受けて活性化されると考えられ、多くの場合、1以上の負の調節因子と共転写される(Helmann, 2002)。 【0021】 遺伝子aice6(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6300)は、149アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、ベルコシスポラ・マリス(Verrucosispora maris) AB-18-032由来の推定タンパク質VAB18032_01645(GenBank:AEB47413.1)の完全アミノ酸配列に50%の類似性を示す。 【0022】 遺伝子aice7(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6299)は、66アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、公開データベース中のいずれのタンパク質にも類似性を示さなかった。Aice7はアミノ酸9-31の範囲に単一膜貫通ヘリックスを含有する。 【0023】 遺伝子tra(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6298)は、293アミノ酸の長さを有するAICEの主要な伝達タンパク質をコードする。それは、大部分にわたって、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の細胞分裂タンパク質(GenBank:ADL48859.1)に74%の類似性を示す。Traは、アミノ酸29-187の間で、全てのAICEおよびストレプトマイセス属(Streptomyces)トランスフェラーゼ遺伝子において見られる、FtsK/SpoIIIEドメイン(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)に著しい類似性(e値 3.1e-14)を有するドメインを含有する。いくつかの実験は、Traのホモログがレシピエント株への二本鎖DNAの移行(translocation)に関与しているという証拠を提供した。移行は、交配(mating)菌糸体の菌糸先端で生じる(Possoz et al., 2001; Reuther et al., 2006)。 【0024】 遺伝子aice8(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6297)は、124アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、アミノ酸44-116の間で、マイコバクテリウム・コロンビエンス(Mycobacterium colombiense) CECT 3035由来のFadE6タンパク質(GenBank:EGT86701.1)の配列に44%の類似性を示す。完全なFadE6タンパク質は、733アミノ酸を有し、アシル-CoAデヒドロゲナーゼに似ているが、Aice8は、それがFadE6の触媒ドメインを含有せず、長さ124アミノ酸のみであるため、同様の機能を有する可能性は低い。 【0025】 遺伝子aice9(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6296)は、320アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、配列の大部分にわたって、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5352(GenBank:ADL48858.1)に68%の類似性を示す。このタンパク質は位置i32-51o57-79i88-110o115-134iに4つの膜貫通ヘリックスを含有する。 【0026】 遺伝子aice10(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6295)は、69アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、公開データベース中のいずれのタンパク質にも著しい類似性を示さなかった。 【0027】 遺伝子pra(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6294)は、repSA、xisおよびintの活性化因子をコードするようである。それは、105アミノ酸の長さを有し、かつ、完全配列にわたって、ミクロモノスポラ・オーランティアカ(Micromonospora aurantiaca) ATCC27029由来の推定タンパク質Micau_5352(GenBank:ADL48857.1)に90%の類似性を示す。AICEの伝達および複製を調節するPraは、ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)由来のAICE pSAM2において、転写調節因子KorSAによって抑制されると考えられている(Sezonov et al., 2000)。Praを抑制することにより、AICEは染色体上に組み込まれた形で残る。 【0028】 遺伝子reg(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6293)は、444アミノ酸の長さを有するAICEの調節タンパク質をコードする。それは、完全配列にわたって、ストレプトマイセス・カトレヤ(Streptomyces cattleya) NRRL8057由来の推定調節因子(GenBank:CCB75999.1)に50%の類似性を示す。Regはアミノ酸4-72の範囲にヘリックス-ターン-ヘリックスドメインを含有する。RegとpSAM2由来のKorSAとの間の配列類似性は非常に低いが、praとnud遺伝子の間のregの局在は、この遺伝子構成で頻繁に見られ、RegがKorSAに対するホモログに似ていることを表し得る(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。 【0029】 遺伝子nud(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6292)は、アミノ酸29-144の間にNUDIX-ヒドロラーゼを含有するタンパク質をコードする。それは、172アミノ酸の大きさを有し、かつ、配列にわたって、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.) AA4の推定タンパク質(GenBank: EFL09132.1)および近縁種由来の様々なNUDIXヒドロラーゼに72%の類似性を示す。Nudは、アミノ酸21-108の間で、pSAM2のPifタンパク質に42%の類似性を示す。Pifはまた、NUDIX-ヒドロラーゼドメインを含有し、かつ、pSAM2を有する細胞との間の重複した伝達を防止するために、AICEの複製および転写を阻害すると考えられている、細胞間シグナル伝達に関与することが示された(Possoz et al., 2003; te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。それゆえ、pACPLにおけるPra、RegおよびNudは、pSAM2についてPra、KorSAおよびPifが行うような同様の調節メカニズムに似ている可能性が高い。 【0030】 遺伝子mdp(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6291)は、80アミノ酸の長さを有する金属依存性ホスホヒドロラーゼをコードする。それは、その配列にわたって、フランキア属(Frankia sp.) CcI3由来の金属依存性ホスホヒドロラーゼ(GenBank:ABD10513.1)に66%の類似性を示す。Mdpをコードする遺伝子は、pra、regおよびnudホモログを有するクラスター内および他のAICE上で頻繁に見られる(te Poele, Bolhuis, et al., 2008)。金属依存性ホスホヒドロラーゼは、シグナル伝達または核酸代謝に関与し得る(te Poele, Samborskyy, et al., 2008)。 【0031】 遺伝子aice11(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6290)は、256アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、公開データベース中のいずれのタンパク質にも著しい類似性を示さなかった。 【0032】 遺伝子aice12(ゲノム遺伝子座タグ:ACPL_6289)は、93アミノ酸の長さを有する機能未知のタンパク質をコードする。それは、公開データベース中のいずれのタンパク質にも著しい類似性を示さなかった。」 2.特許法第36条6項1号の要件(サポート要件) (1)請求項1に係る発明の解決課題 本願の請求項1に係る発明の解決しようとする課題は、配列番号1から成る異種ポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞の提供であると認められる。 そして、請求項1にいう「異種ポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞」とは、異種ポリヌクレオチドによって形質転換された微生物を包含するものであり、形質転換される微生物が請求項2に記載される「アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)」の微生物である場合に加えて、「アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)」以外の任意の微生物である場合を広く包含するものと認められる。 また、本願明細書の段落【0001】、段落【0004】のアクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)の微生物の形質転換法(遺伝子操作法)は知られていない旨の記載からみて、「形質転換された宿主細胞」とは、宿主細胞であるアクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)などの微生物に異種ポリヌクレオチドが単に導入されているだけでなく、該異種ポリヌクレオチドが当該微生物内で機能することで当該微生物の形質が転換されているもの、すなわち、配列番号1のポリペプチドにコードされる各種のタンパク質が当該微生物内で発現し、機能しているものを意味すると認められる。 (2)サポート要件についての判断 上記2.(1)?(4)の記載から、本願明細書には、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110で新たに発見された放線菌組込み接合エレメント(AICE)である、pACPL(配列番号1のポリヌクレオチド)が記載されていると認められるが、本願明細書に、何らかの微生物に対して配列番号1の異種ポリヌクレオチドが導入されたことや、微生物に導入された該異種ポリヌクレオチドの機能によって微生物の形質が転換されたことが記載されているとは認められない。 すなわち、上記2.(1)?(3)のとおり、本願明細書には、このpACPLについて、「全体として任意の他の既知のAICEとは明らかに異なるが、他種由来の他の特徴づけられたAICEと様々な配列類似性で小部分を共有する」こと、「13.6kbの大きさと構造的遺伝子構成」が「近縁種の他の既知のAICEに良く一致する」ことが記載されている。 また、既知のAICEについて「最も知られているAICEは、それぞれ、ゲノム上に位置する付着部位(attB)およびAICE(attP)内の2つの短い同一の配列(att同一セグメント(att identity segments))の間の部位特異的組換えによるtRNA遺伝子の3’末端への組込みにより、それらの宿主ゲノムにおいて存在する」ことを説明し、これに対してpACPLについて「pACPLでは、att同一セグメントは大きさが43ntであり、attBはプロリンtRNA遺伝子の3’末端に重複している。さらにまた、attPにおける同一セグメントは、2つのミスマッチを含有する2つの21ntの繰り返し:GTCACCCAGTTAGT(T/C)AC(C/T)CAGによって隣接されている。これらはストレプトマイセス・アンボファシエンス(Strepomyces ambofaciens)由来のAICE pSAM2で同定されたアーム型部位に高い類似性を示す。」と、pACPLもattPを有することが記載されている。 さらに、上記2.(4)には、pACPLは22個のタンパク質をコードすることが記載され、22個のタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と既知のタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列との同一性について記載されていると認められる。 したがって、本願明細書の記載から、アクチノプラネス属 SE50/110で新たに発見されたpACPL(配列番号1)は、既知の放線菌組込み接合エレメント(AICE)に構造的に似通っていることが理解される。 しかし、本願明細書には「現在、この株のための遺伝子操作のためのツールは存在しておらず、菌株改良の過程を妨げている。」(上記2.(1))、「以前の実験は、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110およびアクチノプラネス・フリウリエンシス(Actinoplanes friuliensis)(ならびに、おそらく他のほとんどのアクチノプラネス属)が、行われてきた真剣な努力にもかかわらず、エレクトロポレーションまたはPEG媒介形質転換のような標準的な形質転換法を可能にしないことを明らかにした(Heinzelmann et al., 2003)。」(上記2.(2))と記載されており、本願出願前にアクチノプラネス属の微生物を形質転換する方法は知られておらず、アクチノプラネス属の微生物の形質転換は困難であることが記載されていると認められから、アクチノプラネス属の微生物において形質転換ができたことを明らかにするためには、具体的な成功例が必要であるといえる。 また、本願明細書で[te Poele, Bolhuis, et al., 2008]として引用されている文献A(Antonie van Leeuwenhowk (2008) 94:127-143)には、AICEが宿主ゲノム多様性のモジュレーターとして作用し、水平遺伝子伝達による二次代謝物クラスターおよび外来遺伝子の獲得にも関与していることは記載されている(要約)が、ある細胞に由来するAICEを該細胞とは異なる種の細胞に導入できたことが記載されているとは認められない。 そうすると、本願明細書の記載から、上記課題が解決できたこと、すなわち、アクチノプラネス属の微生物を含め、任意の微生物に対して配列番号1の配列を有する異種ポリヌクレオチド導入した、形質転換された宿主細胞が提供できたことを合理的に理解することはできない。 そこで、本願出願日当時の技術常識に基づいて、上記課題が解決できることを当業者が合理的に理解できるかどうかを検討するために、本願出願日当時の技術水準について検討する。 まず、本願出願日前の刊行物である文献1(PLoS ONE,2011年11月,Vol.6,Issue11,e27846)には、AICEを遺伝子操作ツールとすることが示唆されていると認められるものの、実際にAICEで宿主細胞を形質転換できたことは記載されていない。 また、上記したとおり、本願明細書で[te Poele, Bolhuis, et al., 2008]として引用されている文献A(Antonie van Leeuwenhoek (2008) 94:127-143)には、AICEが宿主ゲノム多様性のモジュレーターとして作用し、水平遺伝子伝達による二次代謝物クラスターおよび外来遺伝子の獲得にも関与していることは記載されている(要約)が、この文献には、水平遺伝子伝達ではない、ある細胞に由来するAICEを該細胞とは異なる細胞に導入できたことは記載されていない。むしろ、この文献の末尾には、「・・・・AICEはそのような遺伝的ツールの開発のためのすばらしい要素を提供する。これらの総合的および共役的要素ならびにそれらの生理学的および進化的役割に関するさらなる詳細情報が緊急に必要とされている。」(141頁左欄)と記載され、遺伝的ツールとして用いるためには、さらなる情報が必要であることが述べられている。 文献Aと共通する著者による、本願の優先日後、出願日前の2012年3月1日に頒布された文献B(Mobile Genetic Elements (2012) 2:2,119-124)にも、放線菌が有する組込み接合エレメントであるICEとAICEについて記載されており、ICEとAICEとは、接合伝達メカニズムが根本的に異なることが記載され、該メカニズムについて図示されている(図1)が、文献Bの参照文献4、11等を参酌しても、文献BにAICEの接合伝達メカニズムを利用して、実際に宿主細胞を形質転換できたことが記載されているとは認められない。 さらに、本願明細書で[Burrus and Waldor,2004]として引用されている文献は、放線菌のAICEではなく、ICEに関する文献であり、ICEとAICEとは、接合伝達メカニズムが根本的に異なるから(文献B参照)、この文献にAICEを宿主細胞に形質転換に用いることに関して記載されているとはいえない。 加えて、[Hosted et al.,2005](なお、この文献について、審判請求人は審判請求書において「関連する別種に関するHosted et al.,2005を参照することで、この新規なAICEがアクチノプラネス属を形質転換し、アカルボースの産生を増加し得ることを明示している。」と主張している。)に該当すると認められる文献C、Plasmid,15 Jul 2005,54(3):249-258)をみると、M.carbonaceaのrpsLプロモーターと、Micromonospora rosaria のpMR2(AICE、11.41kb)のatt/int-OPT領域を含むpSPRX740(5.57kb)を Micromonospora halophytica var. nigra に導入したことが記載されている(図3)と認められるが、pSPRX740はpMR2の一部を含むものに過ぎず、pMR2全体を導入したことは記載されていない。したがって、文献Cに記載されるpSPRX740が導入できたことをもって、pMR2全体が導入できるとすることはできない。さらに、pSPRX740 が導入されたのは、pMR2が由来するMicromonospora rosaria と同じMicromonospora 科に属する菌であるから、Micromonospora halophytica var. nigra の結果から、広く様々な菌に導入できるとすることはできない。 なお、文献CにおけるpSPRX740の導入は、文献Cの参照文献[Alexander et.al.2003]の記載を参酌すると、化学的な導入またはエレクトロポレーションであると認められるが、本願明細書の記載(段落【0004】)からみて、宿主細胞がアクチノプラネス属の場合、化学的な導入やエレクトロポレーションは成功しないと考えられる。 また、文献CはAICE特有の接合伝達メカニズムを利用した形質転換を記載するものとは認められないから、請求項1に係る発明の形質転換がAICE特有の接合伝達メカニズムによる形質転換である場合には、文献Cはそのような形質転換が可能であることを示す文献とはいえない。 以上のとおりであるから、本願出願日当時、AICEをアクチノプラネス属微生物に形質転換できることが技術常識であったとは認められない。 なお、本願に対応する論文と認められる、本願出願後の文献D(BMC Genomics (2012)13:112)には、本願明細書と同様の事項が記載されていると認められるが、文献Dにも、配列番号1のAICEを用いて実際に宿主細胞を形質転換したことや、アカルボースの産生を増大できたことなどは記載されていない。 したがって、本願出願日当時の技術常識を考慮しても、本願明細書の記載から、上記課題が解決できたこと、すなわち、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.)の微生物のみならず任意の微生物に対して、配列番号1の配列から成る異種ポリヌクレオチドを導入して形質転換した宿主細胞が提供できたことを合理的に理解することはできない。 よって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとはいえず、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3.特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件) 上記2.に記載した理由と同様の理由から、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 4.審判請求人の主張について 審判請求人は平成31年2月6日付け意見書において、 「当業者は、放線菌の形質転換に例えばUS5393665(1995年2月28日登録)に要約される方法やその後に公表されたいずれかの方法を用いることができます。 US5393665には、様々なベクターを用いたStreptomycesその他の放線菌や大腸菌の形質転換、融合又は形質導入を介した一本鎖DNA仲介遺伝子伝達系の方法が記載されています。例えば、プロトプラストのポリエチレングリコール(PEG)誘導プラスミド形質転換によって、Streptomyces及びその関連属の数種類に対する遺伝子クローニング手順の開発が可能となりました。」と主張している。 しかし、US5393665に記載されているのはストレプトマイセス属の微生物の形質転換であって、アクチノプラネス属の微生物については記載されていない。 アクチノプラネス属の微生物は、文献1(PLoS ONE,2011年11月,Vol.6,Issue11,e27846)の図3Bにおいて「Micromonosporineae」に分類されると認められ、ストレプトマイセス属が属する「Streptomycineae」に分類されるものではない。本願明細書の記載からアクチノプラネス属の微生物の形質転換は困難であると認められるところ、アクチノプラネス属とストレプトマイセス属とが類似しているとはいえないから、ストレプトマイセス属の微生物の形質転換手法をアクチノプラネス属の微生物に直ちに適用できるとは認められない。なお、意見書の2.(C)には「最も関連性が高い11のActinomyces株」と記載されているが、アクチノプラネス属の微生物が分類されるのは「Actinomycineae」ではなく「Micromonosporineae」であると認められる。 また、本願明細書には「以前の実験は、アクチノプラネス属(Actinoplanes sp.) SE50/110およびアクチノプラネス・フリウリエンシス(Actinoplanes friuliensis)(ならびに、おそらく他のほとんどのアクチノプラネス属)が、行われてきた真剣な努力にもかかわらず、エレクトロポレーションまたはPEG媒介形質転換のような標準的な形質転換法を可能にしないことを明らかにした(Heinzelmann et al., 2003)。」(上記(2)イ)と記載されており、審判請求人が利用可能としている「プロトプラストのポリエチレングリコール(PEG)誘導プラスミド形質転換」とは、ここに記載される「PEG媒介形質転換」に該当するものと認められるから、アクチノプラネス属の微生物をこの方法で形質転換できるとの主張は本願明細書の記載と矛盾する。 したがって、審判請求人の主張は採用することができない。 第4 むすび 以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-04-08 |
結審通知日 | 2019-04-09 |
審決日 | 2019-04-22 |
出願番号 | 特願2014-545206(P2014-545206) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 大宅 郁治 |
発明の名称 | 関連するアクチノバクテリアの遺伝的形質転換のためのプラスミドとしての、アクチノプラネス属SE50/110由来の新規な放線菌組込み接合エレメント |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 青木 孝博 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 金山 賢教 |