• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1355202
審判番号 不服2018-4518  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-04 
確定日 2019-09-11 
事件の表示 特願2015-514547「頭痛予防用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月5日国際公開、WO2013/178880、平成27年6月25日国内公表、特表2015-518038〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月28日(パリ条約による優先権主張 2012年5月28日 フィンランド(FI))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 5月25日 :手続補正書
平成29年 2月24日付け:拒絶理由通知書
同年 7月20日 :意見書、手続補正書
同年11月29日付け:拒絶査定
平成30年 4月 4日 :審判請求書、手続補正書
同年 5月16日 :手続補正書(方式)
同年 5月17日 :手続補足書
同年 7月 9日付け:前置報告書
同年12月 3日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月26日 :意見書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年4月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
重度の頭痛を予防するかまたはその発生を減少させるための経口投与用の非毒性固体医薬組成物であって、
L-システインを第一の活性物質として含み、
さらに、口の条件で唾液中に少なくとも5分間にわたり、または胃の条件で胃内に少なくとも15分間にわたり第一の活性物質の制御放出をもたらす1またはそれ以上の非毒性担体を含む1またはそれ以上の医薬的添加物を含み、
重度の頭痛が、片頭痛または群発性頭痛であることを特徴とする、組成物。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
平成30年12月3日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

1 技術分野
「【0001】
本発明は、重度の頭痛、具体的には片頭痛または群発性頭痛を予防するかまたはその発生を減少させ、または少なくとも軽減するための非毒性経口医薬組成物に関する。さらに、本発明は、そのような重度の頭痛を予防するかまたはその発生を減少させる方法に関する。 」

2 背景技術
「【0002】
群発性頭痛は、その最も顕著な特徴として、極度の激しい強烈な単側性頭痛を伴う神経疾患である。「群発性」は、自然寛解により中断される活動期を有する定期的に発生するこの頭痛の傾向を表す。該疾患の原因は現在のところまだ解っていない。該疾患には人口の約0.1%が罹患している。

【0005】
一般発作の持続時間は、わずか15分間から3時間またはそれ以上である。処置しなければ、発作頻度は48時間に1?16回である。該頭痛は、以下の自律神経症状の1またはそれ以上を伴うことがある:眼瞼下垂症(drooping eyelid)、縮瞳(pupil constriction)、結膜充血(redness of the conjunctiva)、流涙(tearing)、鼻漏(runny nose)、および一般的ではないが、顔面紅潮、腫脹、または発汗(すべて痛みと同じ頭の側にみられる)。
【0006】
発作の発症は急であり、ほとんど片頭痛に特徴的な予兆を伴わないことが多い。
【0007】
群発性頭痛は、患者を眠りから覚めさせることができ、そのタイミングが規則的であり、個々の発作と群発性自体は、ともにメトロノームのように規則正しく、典型的には毎朝または毎晩正確な時間に発作が起き、一週間後の同じ時に正確に起きることさえあるので、「目覚まし時計頭痛」ということがある。群発性は、夏時間変更に従い、春分および秋分により頻繁に生じる傾向がある。これは、研究者が脳の「体内時計」または概日リズムの関与を推測するのを促した。
【0008】
一時的群発性頭痛において、該発作は、毎日1回またはそれ以上、しばしば各日の同じ時間に、数週間、または数ヶ月間起き、次いで数週間、数ヶ月間、または数年間頭痛の無い期間が続く。この症状の発現は、同じ季節、例えば秋または春の間中生じることが多い。
【0009】
しかしながら、群発性頭痛患者の約10?15%が慢性であり、数年間にわたり毎日多発性の頭痛を経験しうる。一時的群発性頭痛の約10%がやがてある時点で慢性型に変化する。
【0010】
群発性頭痛は血管性頭痛に分類されることがある。激しい痛みは、三叉神経の圧迫をもたらす血管の拡張と関連することが示唆されている。このプロセスは、痛みの直接原因とみられるが、病因は完全には解っていない。
【0011】
症状の発現は、以下の要因によって引き起こされることが解っている:例えば、アルコール摂取、睡眠習慣の変化、過剰な肉体的緊張、怒りの爆発、および気圧変動(例えば飛行または登山中)。これらの症状の発現と喫煙との関連も示唆されている。
【0012】
最後に記載した問題は、重度の喫煙依存症の患者にみられることが多い。受動喫煙が群発性頭痛を引き起こすことが示された症例もある。
【0013】
群発性発作時にアルコールに対する感受性も生じる。アルコールに感受性の患者では適量のアルコール(通常、カクテル一杯またはワインをグラスに一杯以下)を摂取後5?45分以内に発作が起きることに留意する。アルコールは、暴露した70?80%に発作を引き起こす。
【0014】
ニトログリセリンまたはヒスタミンの投与により発作中のほとんどすべての患者に実験的に発作を引き起こすことができる。おそらくヒスタミンは炎症反応を引き起こすことにより機能する。
【0015】
多くの組織中のヒスタミンの主な貯蔵場所である肥満細胞は、群発性頭痛患者の痛む側頭部の皮膚で数が増加することがわかっている。この効果は片頭痛の患者でもみられる。
【0016】
群発性頭痛は良性であるが、それにもかかわらず、それらに関連した極度の消耗性痛および自殺の危険性があるため、重度の発作は救急疾患として治療される。該病状が相対的に希であり、症状が曖昧であるため、患者によっては救急室で治療を受けないことがあり、人々は薬物探索行動を示すと誤解されることもある。
【0017】
群発性頭痛と誤解されることがある、慢性発作性片頭痛(CPH)および発作性頭痛などの他のタイプの頭痛がある。
【0018】
群発性頭痛を治療するための医薬は、阻止薬(abortive)(例えば、コルチゾン、片頭痛薬、酒石酸エルゴタミン、ナラトリプタン、フロバトリプタン、または後頭神経に対する局所麻酔薬)、または予防薬(preventatives、例えばベラパミル、リチウム、ナトリウムバルプロエート、トピラメート、バクロフェン、メラトニン、メチセルギド、インドメタシン、またはカプサイシン)として分類される。さらに、予防的処置を導入し、調整しながら、短期的一時的医薬(例えばステロイド)を用いることができる。
【0019】
ヨーロッパのガイドラインは、カルシウムチャンネルブロッカーのベラパミルの使用を示唆する。プレドニゾロン/プレドニゾンなどのステロイドも用いられる。メチセルギド、リチウム、および抗痙攣薬トピラメートも代替処置として推奨される。
【0020】
市販の鎮痛薬(例えば、アスピリン、パラセタモール、およびイブプロフェン)は、典型的には、群発性頭痛由来の疼痛に効果がない。該処置は、一般的には種々の医薬をテストした後に個々の経験に基づいて選択される。利用可能な信頼できる試験結果はない。
【0021】
しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、ヒト対象の体内に運ばれるかまたは形成されるアセトアルデヒドの量を減少させる医薬組成物は、これら重度の頭痛、具体的には群発性頭痛を緩和および予防し、これら頭痛と該アルコール摂取および喫煙には関連があることをみいだした。
【0022】
アルコールの第1代謝物はアセトアルデヒドである。該アルコールは、臓器の液相に均等に分布する。…
【0023】
したがって、生物においてアセトアルデヒドは肝臓代謝の結果としておよび局所的に消化管中で微生物アルコール脱水素酵素を介してアルコールから形成される(Salaspuro et al、(1996) Ann Med 28:195-200)。…
【0028】
従来技術は、血液および/または細胞内部のアセトアルデヒドと有効物質の反応に基づく効果によりアセトアルデヒドと結合する化合物を含む医薬組成物を開示する(例えば、US 5 202 354、US 4 496 548、US 4 528 295、US 5 922 346)。

【0031】
WO 02/36098(この内容は本明細書の一部を構成する)は、唾液、胃、または大腸由来のアセトアルデヒドの局所的な長期結合のための遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む化合物の使用を示唆する。該化合物を、口、胃、または大腸条件下で少なくとも30分間放出させることができる物質と混合した。この場合はその効果は消化管に限定される。
【0032】
WO 2006/037848(この内容は本明細書の一部を構成する)は、喫煙中の唾液のアルデヒド含有量を減少または除去するための1またはそれ以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む化合物を含む組成物を示唆する。この効果も局所的のみである。
【0033】
しかしながら、従来技術はいずれも、あらゆるタイプの頭痛を軽減または予防するためのシステインまたはシスチンまたは他の同様の化合物の使用を示唆しない。さらに、併用製品も開発されていない。
【0034】
本発明者らの最近の研究では、アセトアルデヒドは、重度の頭痛、具体的には群発性頭痛、および片頭痛を引き起こす一部を演じる。これら病状はまだ有効に予防することができず、すべての既存の予防薬は重度の副作用があるので、これら重度の頭痛に苦しむ対象の該症状を少なくとも軽減するか、または該症状の発現数を減少させる代わりとなる副作用が軽度の方法を見いだす必要がある。」

3 発明が解決しようとする課題
「【0035】
本発明の目的は、重度の頭痛、例えば、群発性頭痛、片頭痛、発作性頭痛、または慢性発作性片頭痛の症状発現の発生を予防または少なくとも減少させるために用いることができる新規組成物を提供することである。
【0036】
また、本発明の目的は、群発性頭痛または片頭痛に罹患していると診断された人々を治療するための新規方法および用途を提供する。」

4 課題を解決するための手段
「【0041】
本発明の組成物は、群発性頭痛(CHA)、規則的な片頭痛、もしくはその両方、または発作性頭痛もしくは慢性発作性片頭痛を予防するために用いることができる。
【0042】
したがって、本発明は、L-システイン、D-システイン、およびN-アセチルシステインの群から選ばれる1またはそれ以上の物質を、シスチン、グルタチオン、およびメチオニンから選ばれる1またはそれ以上の物質と組み合わせて含む経口投与用の非毒性固体医薬組成物に関する。」

5 発明を実施するための形態
「【0052】
(発明の好ましい態様の詳細な説明)
本発明は、活性成分としてL-システイン、D-システイン、およびN-アセチルシステインからなる群から選ばれる1またはそれ以上のシステイン化合物を、1またはそれ以上のさらなる活性物質であって、少なくともその1がシスチン、グルタチオン、およびメチオニンから選ばれる活性物質と組み合わせて含む、重度の頭痛を予防するかまたはその発生を減少させるための経口投与用の非毒性固体医薬組成物に関する。
【0053】
用語「システイン化合物」は、システイン、例えばL-またはD-システインまたはその誘導体もしくは塩、具体的にはN-アセチルシステインを意味することを意図する。この主活性物質の機能は、消化管におけるこのシステイン化合物の反応を介して得られる局所作用に基づく。
【0054】
シスチン、グルタチオン、およびメチオニンから選ばれる記載したさらなる活性物質の機能は、システインに変換され、全身的ではあるがシステインと同様の効果をもたらす該物質の能力に基づく。
【0055】
一部局所的で一部全身的な効果は、消化管におけるこれらの群の活性物質の種々の反応性による可能性がある。主なシステイン化合物は、具体的には胃中でアセトアルデヒドと反応し、シスチン、グルタチオン、およびメチオニンから選ばれるさらなる活性物質は、反応前に、主として小腸を介して血流中に移動する。

【0059】
システインまたはN-アセチル-システインの機能は、喫煙中、またはアルコール、もしくは摂取前または直後にアルコールまたはアセトアルデヒドを形成することができる物質(例えば、ある種の細菌、酵母、または炭水化物)を含む食品および飲料を含むアルコールまたはアセトアルデヒド含有食品または飲料の摂取中に形成されるアセトアルデヒドの中和に基づく。

【0061】
同様に、シスチン、グルタチオン、またはメチオニンの機能は、消化管におけるその低い反応性に基づき、これによりそれらは原形のままで直接小腸に伝わり、最初にシステインに変換されて胃を通過して保持されるあらゆる残存アセトアルデヒドと反応し、次いで血流、さらに器官(具体的には肝臓)に運ばれ、これらの器官で形成されたあらゆるアセトアルデヒドを除去する。

【0082】
本明細書において制御放出は、システイン化合物を、口の条件下で少なくとも5分間、好ましくは5?15分間、または胃の条件下で少なくとも30分間、好ましくは0.5?8時間局所放出することを意味するが、シスチン、またはグルタチオン、またはメチオニンは直接小腸に伝わって血中に放出される。
【0083】
本発明では、アセトアルデヒドと該活性物質との結合により得られる生成物は生物に対して安全で無毒性である。

【0092】
口の中に放出されることを意図した該組成物は、例えば、頬または唇の間に置くことができる錠剤または他の製剤、およびガムまたは口でなめるか噛む製剤に製剤化することができる。

【0101】
すべてのタイプの製剤は、好ましくは2?50mg/単位用量の量のシステイン、および2?50mg/単位用量の量のシスチン、グルタチオン、またはメチオニン、またはそれらの組み合わせを含む。

【0103】
システインの作用が局所領域であること(システインはいかなる程度にも希釈されない)、および同時に種々の経路により対象の頭痛を軽減し、頭痛の発生を減少させるシステインおよびシスチンの両方、またはグルタチオンまたはメチオニンとの該活性物質の相乗効果により少量/用量しか必要でない。これは驚くべき強い効果をもたらす。

【0146】
例えば、重度の頭痛の発生は、以下の工程を含む治療方法を用いて減少させることができる:
a) 少なくとも時々重度の頭痛に罹るヒト対象に、アルコール飲料または食品、またはアセトアルデヒド含有飲料または食品の摂取に際して、または喫煙に際して投与するシステインおよびシスチン、またはグルタチオン、またはメチオニンを含む組成物を提供し、
b) 該対象が該組成物を自己投与し、および
c) 該対象に食べさせ、飲ませ、または喫煙させ、システインおよびシスチン、またはグルタチオンまたはメチオニンが、飲料または食品の摂取に際して体内に生じるかまたは運ばれたアセトアルデヒドと結合する、
d) 所望により、工程a)?c)を必要と感じる回数反復する。」

6 実施例
「【0162】
実施例1.なめる錠剤の製造
なめる錠剤(1タイプは以下のものを含む)を製造した。
L-システイン 20mg
シスチン 20mg
マンニトール(または等価な糖または糖アルコール) 750mg
香味料 q.s.
ステアリン酸マグネシウム 10mg
さらなる組成物はシステイン含有量が1.25mg、2.5mg、5mg、および10mgシステインと変化した。
粉末を混合し、それをなめる錠剤に圧縮して該組成物を製造した。
【0163】
実施例2.チューインガムの製造
以下を含むチューインガムを製造した。
システイン 20mg
シスチン 20mg
Pharmagum S、M、またはC 1000mg
香味料 q.s.
ステアリン酸マグネシウム 20mg
粉末を混合し、それをチューインガムに圧縮して該組成物を製造した。
500mgのPharmagum SまたはM、および20mgのステアリン酸マグネシウムを含む別の組成物を製造した。
【0164】
実施例3.バッカル錠の製造
以下を含むバッカル錠を製造した。
システイン 20mg
シスチン 20mg
Methocel 25mg
Carbopol 7mg
香味料 q.s.
ステアリン酸マグネシウム 2mg
粉末を混合し、それをバッカル錠に圧縮して該組成物を製造した。
【0165】
実施例4.舌下錠の製造
以下を含む舌下錠を製造した。
システイン 10mg
シスチン 10mg
マンニトール 250mg
香味料 q.s.
ステアリン酸マグネシウム 5mg
粉末を混合し、それを舌下錠に圧縮して該組成物を製造した。
【0166】
実施例5.該組成物のアセトアルデヒドレベルに対する効果
5人の喫煙者(年齢29±2.8)が試験に参加し、3本のシガレットを吸った(間に浄化期間を設けた)。各シガレット(5分間)を喫煙中に、ボランティアは、それぞれプラセボ、または1.25mg、2.5mg、5mg、10mg、または20mgのL-システインを含む錠剤を盲検的になめた。唾液試料中のアセトアルデヒドを、喫煙開始から0、5、10、20分間後にガスクロマトグラフィにより分析した。
【0167】
L-システイン錠(5mg、10、および20mg)は、たばこ由来のアセトアルデヒドをすべて唾液から除去した(図1参照)。喫煙直後の平均唾液アセトアルデヒド含有量は、プラセボ、および5mg、10mg、および20mgのL-システイン錠でそれぞれ191.2±48.5μM、0μM、0μM、0μMであった。
該試験は、溶解する錠剤で送達すると5mgのL-システインでも喫煙中の唾液中の発癌性アセトアルデヒドを完全に不活化することを示した。1.25mgのL-システイン錠は、アセトアルデヒドの量をプラセボに比べて約3分の2減少させた。
【0168】
実施例6.喫煙および飲酒後の唾液のアセトアルデヒド濃度の増加
たばこの煙は喫煙中に唾液に溶解するアセトアルデヒドを含む(図2参照)。この試験において、喫煙者と非喫煙者は共に、最初に少量のアルコールを摂取し、次いで喫煙者は約5分間毎に6本シガレットを吸った。喫煙中の唾液のアセトアルデヒドは発癌レベルを著しく超える。
アルコールまたは喫煙由来の唾液のアセトアルデヒドは、飲み込むと口腔内から咽頭、食道、および胃に分散する。したがって、発癌作用は口に限定されない。
【0169】
アセトアルデヒドの局所発癌作用の最大の証拠は、長期アセトアルデヒド暴露の例外的ヒト「ノックアウトモデル」を形成するALDH2欠損アジア人による研究がもたらす。
ALDH2欠損対象(フラッシャー)においてさらなる唾液のアセトアルデヒドは唾液腺由来と思われた。
アジア諸国での種々の疫学的研究は、ALDH2欠損が上部消化器癌の10倍以上のリスクと関連があることを一様に示した。該関連は、大量飲酒者で最も大きいが、さらに通常のアルコール消費者でも顕著である。したがって、喫煙者も明らかにリスクが高い。
結論として、たばこ由来のアセトアルデヒドは、用量依存性および相乗的に上部消化管で局所的発癌物質として作用すると思われる。
【0170】
実施例7.システインを用いるアセトアルデヒドの除去
システインは硫黄を含むアミノ酸である。その平均摂取量は約1g/日である。システインは反応性および発癌性アセトアルデヒドと縮合し、2-メチル-チアゾリジン-4-カルボン酸(MTCA)を形成することによりそれを不活化する。
例えば、わずか5mgのL-またはD-システインを含むトローチ剤は、喫煙中の唾液からアセトアルデヒドを完全に除去する(図3)。
反応性アセトアルデヒドの有害作用は、それがシステインと結合することにより防ぐことができる。この準必須アミノ酸は、非酵素的結合によってより安定な化合物の2-メチルチアゾリジン-4-カルボン酸を形成することにより不活化する。例えば、L-システインを含む錠剤およびチューインガムが喫煙中のアセトアルデヒドへの暴露を排除するために開発された(図4)。」

第5 判断
1 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そこで、上記の観点に立って、以下検討する。

2 本願出願当時の技術常識
以下の(ア)?(キ)の記載によれば、本願出願当時、「アルコール飲酒や喫煙により生じるアセトアルデヒドは、頭痛等の不快な症状をもたらすこと」((ア)?(ウ))、「群発性頭痛は、飲酒や喫煙との関連が報告され、アルコールが誘発因子の一つであること」((オ)、(カ))及び「片頭痛は、赤ワイン等のアルコール飲料が引き金になり、赤ワインに含まれるアルコール以外の成分が片頭痛発作を活性化する場合があること」((エ)、(カ)、(キ))は、それぞれ技術常識であったと認められる。
しかしながら、喫煙により生じるアセトアルデヒドが、特定の頭痛である群発性頭痛又は片頭痛の原因であることを示す証拠はない。
また、アルコール飲料が身体に及ぼす影響は、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドにより生じるものの他に、代謝されなかったアルコールや、アルコール以外の成分により直接生じるものも想定されることから、アルコール飲酒により生じる頭痛(いわゆる「二日酔いの頭痛」)の原因がアセトアルデヒドであるからといって、必ずしも、アルコール飲酒により誘発される群発性頭痛又は片頭痛の原因もアセトアルデヒドであるとはいえない。
したがって、本願出願当時、群発性頭痛又は片頭痛の原因の一つが、アセトアルデヒドであるとの技術常識があったことを認めるに足りる証拠はない。

(ア)特表2009-522376号公報
「【0006】
過剰のアルコールの消費は、二日酔いをも引き起こし、これはしばしば、頭痛、嫌悪、・・・という全体的な感覚、…を含む様々な症状を伴う。アルコール消費の負の効果は、大部分はアセトアルデヒドの毒性効果に起因する。…大部分のアルコールは、主に肝臓で酸化される。肝臓は、アルコールデヒドロゲナーゼにより、エタノールをアセトアルデヒドに変換する。」

(イ)特表2007-522254号公報
「【0035】
上記物質を摂ることにより、アルコール飲酒後のアセトアルデヒドのレベルは著しく低減され、フラッシング(紅潮)の症候が少なくとも弱められる。頭痛及び二日酔いのようなアセトアルデヒドのその他の既知の副作用は同様になくなることが予測される。」

(ウ)特開2006-130488号公報
「【0002】
…日常的に嗜好されている飲酒・喫煙によるアセトアルデヒド等は二日酔いの元凶であるように毒性が強く、頭痛・吐き気・顔面紅潮・動悸・発汗等不快な症状をもたらし、我々の体に少なくないダメージを与えている。」

(エ)Peatfield R.,Headache,Springer,1986年,p.44-47
「About two-fifths of the alcohol patients attending the Princess Margaret Migraine Clinic spontaneously mentioned red wine; port and sherry are also likely to induce migrainous headaches, but some subjects appear to be sensitive to all alcoholic drinks.」
(訳:プリンセスマーガレット片頭痛クリニックにおけるアルコール患者の約5分の2が、赤ワイン;ポートワイン及びシェリー酒が、片頭痛を誘導するようであると自発的に発言しているが、何人かの患者は、全てのアルコール飲料に対して感受性を有するようである。」(44頁12?15行)

(オ)脳神経外科ジャーナル(脳外誌)、17巻3号、2008年3月、234?240頁
「群発頭痛は片頭痛、緊張型頭痛と並ぶ一次性頭痛であり、…。頭痛は非常に激烈で流涙や顔面・結膜の充血、鼻閉、Horner徴候を伴うこともある。男女比は5?7:1で男性に多いとされている。飲酒や喫煙との関連が報告されており、アルコール、ニトログリセリン、ヒスタミンなどが誘発、憎悪因子として挙げられている。」(234頁左欄2行?右欄5行)

(カ)日本内科学会雑誌、第82巻第3号、平成5年3月10日、372(52)?376(56)頁
「(2)片頭痛の急性発作の治療
片頭痛の本態は不明であるが、頭部内外の血管が何らかの誘因、原因により、過敏に反応して収縮、ついで拡張する病態であり、これにより頭痛がおこるとされ、治療は頭部血管の異常反応の抑制を主眼とした手段がとられる。発作の初期に、血管収縮作用を有する酒石酸エルゴタミンを第一として投与する。…
(3)片頭痛の予防
まず片頭痛発作の引き金となる要因があれば、それを除去する。具体的には、食物(チーズ、チョコレート、ワイン、ナッツ、酢漬けのにしん、コーヒーなど)、低血糖状態、経口避妊薬の中止、過度のストレスと疲労あるいは過度の光、とくに蛍光などが片頭痛の引き金となることが報告されているので、これらの制限や調節を行う。…
2)群発頭痛(cluster headache)
片頭痛と異なり、患者の約90%は、20?30歳の男性に多く、遺伝性も少ない。…
群発発作の発症機構は不明であるが、誘因としてアルコール飲用、ヒスタミン注射、ニトログリセリンの投与があげられているので注意を要する。発作の軽減には、酸素吸入、エルゴタミンなどが有効である。」(374(54)頁左欄下から5行?375(55)頁右欄19行)

(キ)特表2007-501856号公報
「【0026】
…赤ワインなどのフェノール性フラボノイドに富む化合物の中には、実際に片頭痛発作を活性化する物質であるとみなされているものもある^(13、14、15、33)。」

3 本願発明の課題
本願明細書の【0035】及び【0036】の記載によれば、本願発明の課題は、重度の頭痛である群発性頭痛又は片頭痛の症状の発生を予防又は減少させるために用いることができる新規組成物を提供するというものである。

4 本願発明のサポート要件適合性について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、L-システインを含む製剤例(実施例1?4)、及び、L-システインを含む製剤(なめる錠剤やチューインガム等)が、喫煙中の唾液からアセトアルデヒドを減少又は不活化させたこと(実施例5?7)が記載されているものの、L-システインが群発性頭痛又は片頭痛の症状の発生を予防又は減少させることができたことを示す薬理データは、一つも記載されていない。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、驚くべきことに、ヒト対象の体内に運ばれるかまたは形成されるアセトアルデヒドの量を減少させる医薬組成物は、これら重度の頭痛、具体的には群発性頭痛を緩和および予防し、これら頭痛と該アルコール摂取および喫煙には関連があることをみいだした。」(【0021】)、「本発明者らの最近の研究では、アセトアルデヒドは、重度の頭痛、具体的には群発性頭痛、および片頭痛を引き起こす一部を演じる。」(【0034】)との記載があるものの、これらの記載が、具体的な根拠に基づくものであることは何ら示されておらず、L-システインが、群発性頭痛又は片頭痛の症状の発生を予防又は減少させる作用を示すに至る機序について、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(3)加えて、上記2のとおり、本願出願当時、群発性頭痛又は片頭痛の原因の一つが、アセトアルデヒドであるとの技術常識があったことを認めるに足りる証拠はないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に加えて本願出願当時の技術常識を考慮しても、喫煙中の唾液からアセトアルデヒドを減少又は不活化できるL-システインが、群発性頭痛又は片頭痛の症状の発生を予防又は減少させる作用を有すると、当業者は認識することはできない。

(4)したがって、本願出願当時の技術常識に照らし、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本願発明に係るL-システインを含む組成物が、群発性頭痛又は片頭痛の症状の発生を予防又は減少させることができ、本願発明の課題を解決できると認識することはできない。

5 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成31年2月26日提出の意見書において、「本願明細書の[発明を実施するための形態]及び[実施例]の欄には、L-システインが、アルコール飲料の摂取や喫煙によって生じる発癌性のアセトアルデヒドと結合し無毒化(不活化)することが実験結果と共に記載されております。そして、平成30年5月16日提出の手続補正書にて提出いたしました参考資料1及び2は、本願発明のL-システイン組成物が片頭痛発作に対して非常に有効であることを実証しており、群発性頭痛および片頭痛を予防するか、または減少させるためのL-システインの有効性を証明するための証拠となりうるものです。」と主張する。

しかしながら、L-システインが、アルコール飲料の摂取や喫煙によって生じる発癌性のアセトアルデヒドと結合し無毒化(不活化)することは、本願明細書の【0031】【0032】に従来技術として記載されたWO 02/36098 及びWO 2006/037848に開示された内容に過ぎず、当該内容を実験結果とともに本願明細書に記載したからといって、アセトアルデヒドとの因果関係が不明な群発性頭痛又は片頭痛に対して、L-システインが有効であることを示したことにはならない。
また、上記意見書によれば、審判請求人が提出した参考資料1は、審判請求人により進行中の「Research Project」の片頭痛研究プロトコールを記載したものであり、また、参考資料2は、同じく審判請求人により進行中の、より大きな研究に関連する「Acetium」の広告であるところ、いずれも、その発行日は不明であり、本願出願当時の技術の内容を示すものとは認められない以上、本願発明のサポート要件の判断において、参考資料1及び2を参酌することはできない。
仮に、参酌したとしても、参考資料1及び2には、片頭痛患者からの、アセチウム(登録商標;L-システイン含有)投与により片頭痛(又は群発性頭痛)の発作が消失した旨の自発的な証言に基づいて、L-システインが片頭痛に有効である旨の「研究仮説」を立て、その研究仮説を証明するための無作為臨床試験のプロトコール等が記載されているだけであって、実際に、L-システインが群発性頭痛又は片頭痛を予防するか、又はその発生を減少できることを示す薬理データが記載されているものでもないから、参考資料1及び2は、群発性頭痛又は片頭痛を予防するか、又はその発生を減少させるためのL-システインの有効性を証明するものとはいえない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-05 
結審通知日 2019-04-09 
審決日 2019-04-26 
出願番号 特願2015-514547(P2015-514547)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 淺野 美奈
藤原 浩子
発明の名称 頭痛予防用組成物  
代理人 新田 昌宏  
代理人 呉 英燦  
代理人 鮫島 睦  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ