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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25J
管理番号 1355251
審判番号 不服2018-16832  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-18 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2014-142529「産業用ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成28年2月1日出願公開、特開2016-16498、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月10日の出願であって、平成30年7月6日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年9月3日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年10月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年12月18日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成30年10月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
同様に、本願請求項2に係る発明は以下の引用文献1-3に基づき、本願請求項3-7に係る発明は以下の引用文献1-4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平10-163296号公報
2.特開昭60-16378号公報
3.実願昭62-65029号(実開昭63-173193号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
4.米国特許第6155768号明細書(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年9月3日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
搬送対象物が搭載される第1ハンドおよび第2ハンドと、前記第1ハンドが先端側に回動可能に連結される第1アームと、前記第2ハンドが先端側に回動可能に連結される第2アームと、前記第1アームの基端側および前記第2アームの基端側が回動可能に連結される共通アームと、前記共通アームが回動可能に連結される本体部とを備え、前記搬送対象物を搬送する水平多関節型の産業用ロボットにおいて、
前記共通アームは、前記本体部に連結されるベース部と、前記第1アームの基端側が連結される第1アーム連結部と、前記第2アームの基端側が連結される第2アーム連結部とを備え、
前記ベース部と前記第1アーム連結部と前記第2アーム連結部とは、別体で形成され、
前記第1アーム連結部および前記第2アーム連結部は、前記ベース部に着脱可能に固定されていることを特徴とする産業用ロボット。」

また、本願発明2-7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部分は、当審合議体が付した。以下、同様。)

ア 「モーターにより回転される立設した支軸上面に平面視でく字状に形成した第1アームを取付け、且つ該第1アームの両端部に対し前記モータとは別設モーターで駆動されるものとなした第2アーム支軸を配設すると共に、各第2アーム支軸には初めの待期状態でく字状の第1アームと対称形状をなす長さ寸法になした第2アーム及び第3アームの片端を取付けるほか、各アーム他端には第2アーム支軸から一定比率で回動される第3アーム支軸を相互が衝突しないよう一定の段差を上下間に持たせて重なり合う状態に取付けしめ、該各軸に対して基板把持部を配設したことを特徴とする基板搬送装置。」([請求項1])

イ 「【発明の属する技術分野】本発明は半導体ウエハや液晶ガラス基板、或はプラズマディスプレイ基板等の基板搬送装置に関する。」(段落[0001])

ウ 「そこで、本発明の課題はアーム構造のコンパクト化と軽量化を図って伸縮動作時の横ゆれや、アームだれに対する性能向上と、旋回時の旋回半径を小さくして旋回動作占有面積を小さく、しかも伸縮動作時の基板搬送距離を大きくすると共に、真空中での使用に於いては長寿命と価格低減に寄与できる基板搬送装置を提供することにある。」(段落[0008])

エ 「34は本発明装置の駆動箱であって、フランジ35を介して基台36に取付けられる。31は駆動箱内の底板に固定された支持台で減速機32とモーター33を支承してなる。」(段落[0011])

オ 「15は第1アーム支軸であって前記モーター33の回転を減速機32を介して回転させ、その上端に取付けた第1アーム11を回動可能ならしめる。」(段落[0012])

カ 「第2アーム6aの回動は棚板24に取付けられた減速機22をモーター23により回転させ、減速機22の出力軸21に接続させたプーリー20を回転させ、その回転をタイミングベルト19、プーリー18により同心円状に構成した支軸16を回転させる。」(段落[0013])

キ 「第3アーム3aの回動は第1アーム11に接続された支持筒10aとそれに固定されたプーリー8aにタイミングベルト7aを介しプーリー5aを回転させ、それに接続させた第3アーム支軸4aを介して回動させる。」(段落[0015])

ク 「第3アーム3bの回動は棚板24に取付けられた減速機29をモーター30により回転させ、減速機29の出力軸28に接続させたプーリー27を回転させ、その回転をタイミングベルト26、プーリー25により同心円状に構成した支軸17を回転させる。」(段落[0016])

ケ 「しかして、支軸17の上端に接続されたプーリー14bはタイミングベルト13b、プーリー12bを回転させると共に、プーリー12bに接続された第2アーム支軸9bを回転させ、且つ該軸に固定した第2アーム6bを回動せしめる。」(段落[0017])

コ 図1、4から、第3アーム3a、3bは、基板が搭載される基板把持部2a、2bを備えることが看取される。

サ 図1、3から、基板搬送装置が水平多関節型のロボットであることが看取される。

シ 図1から、第1アーム11は、中央部において、駆動箱34に連結され、両端部において、第2アーム6a、6bの基端側が連結されることが看取される。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「基板が搭載される基板把持部2a、2bを備える第3アーム3bおよび第3アーム3aと、前記第3アーム3bが先端側に回動可能に連結される第2アーム6bと、前記第3アーム3aが先端側に回動可能に連結される第2アーム6aと、前記第2アーム6bの基端側および前記第2アーム6aの基端側が回動可能に連結される第1アーム11と、前記第1アーム11が回動可能に連結される駆動箱34とを備え、前記基板を搬送する基板搬送装置において、
前記第1アーム11は、中央部において、前記駆動箱34に連結され、両端部において、前記第2アーム6bの基端側及び前記第2アーム6aの基端側が連結される、基板搬送装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「本発明は、一般的には、遠隔的に制御される機械の分野にかゝわり、更に特定するに、本発明は高い放射線の隔室内において遠隔操作および保守作業を実行するよう設計されたすべてが電気的に作動されるマスター・スレーブ・マニピユレータ・システムにかゝわる。」(第4ページ左上欄第3-8行)

イ 「従つて、他のマスター・スレーブ型マニピユレータの欠陥からして、本発明の1つの目的は、スレーブ部分の各アーム又はその主コンポーネントが、保守および/又は修理に際して、容易に除去されてそして修理されるマニピユレータを提供するにある。」(第5ページ左上欄第15-20行)

ウ 「スレーブの中央部分は胴体10であつて、それは幾つかの形態が取れる支持部材12に取付けられている。」(第5ページ右下欄第1-4行)

エ 「胴体10は、後で記述される手段によつて、矢印14にて示されているように支持部材12の軸の周囲で動くように適合されている。」(第5ページ右下欄第6-9行)

オ 「胴体10は1対のアーム24,26を示されているように支持している。」(第5ページ右下欄第15-17行)

カ 「それらアームは共に同じであるので、こゝでは1つのアームのみの特長を記述する。胴体10から半径状に延びるのは肩エレメント28である。」(第6ページ左上欄第4-7行)

キ 「肩28に回転可能に取付けられているのは矢印34によつて示されているような回転運動を持つ上部アーム32である。」(第6ページ左上欄第8-11行)

ク 「第4図には、本発明による典型的な肩ユニツトの部分的破断断面図が例示されている。垂直に方位付けられている板92は胴体10に対して釈放可能に取付けられている。この支持板には、アーム構造を胴体から除去する際に使用するための取つ手ユニツト94が接続されている胴体に対する接続は胴体の頂面に設けられている割出しピン(示されていない)と一諸に1対の(1つしか示されていない)係留ボルト96を使用することにより実施される(第1図には、両ボルト96,96’およびピン97が案内耳99,99’と一諸に示されている。)。」(第7ページ左上欄第12行-右上欄第3行)

ケ 「マニピユレータのスレーブ・ユニツトの主要部分の各々は、交換および/又は保守のために、その隔室内で容易に除去される。マニピユレータの個々のアームにおいて利用できる運動は各種動作を他のアーム上で行わせ、それにより、保守用としての別なマニピユレータに対する必要性を減少させている。左右のアームは同一であるために、もしも一方が故障しても、それらは交換して使用できる。それは又、在庫されなければならない交換部品の数を少なくしている。」(第11ページ左下欄第20行-右下欄第10行)

コ 第1図から、マニピユレータのスレーブ・ユニツトは、双腕の多関節型のロボットであることが看取される。

したがって、上記引用文献2には、双腕の多関節型のロボットにおいて、「胴体10とアーム24、26とは各々交換可能な別エレメントであり、胴体10とアーム24、26の肩エレメント28とは、別体で形成され、前記アーム24、26の肩エレメント28は、前記胴体10に釈放可能に固定されている」という技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「基板」は、本願発明1における「搬送対象物」に相当し、以下同様に、その機能や配置に照らすと、「第3アーム3b」は「第1ハンド」に、「第2アーム6b」は「第1アーム」に、「第3アーム3a」は「第2ハンド」に、「第2アーム6a」は「第2アーム」に、「第1アーム11」は「共通アーム」に、「駆動箱34」は「本体部」に、「基板搬送装置」は「水平多関節型の産業用ロボット」又は「産業用ロボット」に、それぞれ相当する。
また、部分同士が一体であるか別体であるかについては、相違点で挙げるとしても、その機能や配置に照らせば、引用発明における「中央部において、前記駆動箱34に連結され」る部分は、本願発明1における「ベース部」に相当し、同様に、「両端部において、前記第2アーム6bの基端側及び前記第2アーム6aの基端側が連結され」る部分は「前記第1アームの基端側が連結される第1アーム連結部と、前記第2アームの基端側が連結される第2アーム連結部」に、相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「搬送対象物が搭載される第1ハンドおよび第2ハンドと、前記第1ハンドが先端側に回動可能に連結される第1アームと、前記第2ハンドが先端側に回動可能に連結される第2アームと、前記第1アームの基端側および前記第2アームの基端側が回動可能に連結される共通アームと、前記共通アームが回動可能に連結される本体部とを備え、前記搬送対象物を搬送する水平多関節型の産業用ロボットにおいて、
前記共通アームは、前記本体部に連結されるベース部と、前記第1アームの基端側が連結される第1アーム連結部と、前記第2アームの基端側が連結される第2アーム連結部とを備える、産業用ロボット。」

(相違点)
本願発明1は、ベース部と第1アーム連結部と第2アーム連結部とを備える「共通アーム」について、「前記ベース部と前記第1アーム連結部と前記第2アーム連結部とは、別体で形成され、前記第1アーム連結部および前記第2アーム連結部は、前記ベース部に着脱可能に固定されている」のに対し、引用発明では、共通アームに相当する第1アーム11が、中央部において、駆動箱34に連結され、両端部において、第2アーム6a、6bの基端側が連結されるものの、全体が一体のものであって、それらの部分を別体で形成することは記載されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討すると、「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、「胴体10とアーム24、26とは各々交換可能な別エレメントであり、胴体10とアーム24、26の肩エレメント28とは、別体で形成され、前記アーム24、26の肩エレメント28は、前記胴体10に釈放可能に固定されている」という技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されている。
そして、その機能や配置に照らせば、引用文献2の技術的事項における「胴体10」は、本願発明1の「ベース部」に相当し、同様に、語義に照らせば、「釈放可能」は「着脱可能」に相当するといい得る。
しかしながら、引用文献2の技術的事項における「肩エレメント28」は、アーム24、26の一部分をなすものであって、胴体10の一部分をなすものではない。したがって、引用文献2の技術的事項における「アーム24、26の肩エレメント28」が、本願発明1の「第1アーム連結部」と「第2アーム連結部」とに相当するとはいえず、その結果、引用文献2に上記相違点に係る本願発明1の構成が記載されているとはいえない。

さらには、引用発明と引用文献2の技術的事項とは、2つのアームを有する多関節型のロボットである点で共通しているものの、引用発明は、伸縮動作時の横ゆれやアームだれに対する性能向上等を解決すべき課題(上記「1.引用文献1について」ウを参照)としているものであり、保守や修理に際して容易に除去されてそして修理されるために胴体とアームとを別体とすることが記載されている引用文献2に当業者が接したとしても、引用発明に引用文献2の技術的事項を適用する動機付けがない。
そうすると、引用発明に引用文献2の技術的事項を適用することはできないし、仮に適用したとしても、上記のとおり引用文献2には相違点に係る本願発明1の構成は記載されていないのであるから、本願発明1には至らない。

そして、本願発明1は、相違点に係る構成を備えることによって、産業用ロボットの組立後であっても、容易に、水平方向に対する第1アームの傾きと水平方向に対する第2アームの傾きとを個別に調整することが可能になる(段落[0010])との、引用発明及び引用文献2の技術的事項からは予測し得ない効果を有するものと認められる。

よって、当業者といえども、引用発明及び引用文献2の技術的事項から、相違点に係る本願発明1を容易に想到することはできない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-7について
本願発明2-7も、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものであり、本願発明1の相違点と同じ相違点を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-7は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-19 
出願番号 特願2014-142529(P2014-142529)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲垣 浩司  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 見目 省二
大山 健
発明の名称 産業用ロボット  
代理人 小平 晋  

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