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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F
管理番号 1355356
審判番号 不服2018-1633  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-06 
確定日 2019-09-19 
事件の表示 特願2013-212862「同調型吸振器の制振効果向上装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月20日出願公開、特開2015-75199〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月10日の出願であって、平成29年2月20日付け(発送日:同年3月14日)で拒絶理由が通知され、同年5月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月30日付け(発送日:同年11月7日)で拒絶査定がされ、これに対して平成30年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、平成31年3月26日付け(発送日:同年4月2日)で当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の令和元年5月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和元年5月31日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたものと認めるところ、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項2】
建物の床上に配置される制振対象である主系に設置されている同調型吸振器の錘に付加されて前記同調型吸振器の制振効果を向上させる同調型吸振器の制振効果向上装置であって、
前記主系の振動を検出するセンサと、
前記主系の振動方向が水平方向の場合で、かつ、同調型吸振器の錘の上面にスペースが無い場合に、前記同調型吸振器における錘の前面、後面の双方、或いは錘の両側面の一方又は双方に前記同調型吸振器の錘にこの錐に密着させた支持部を介して制振力を作用させるアクチュエータと、
制振方向を水平方向として配置されるとともに、前記アクチュエータから前記支持部を介して前記錘に作用させる制振力の反力を支持する前記同調型吸振器の錘の質量の1/10程度の質量を具備する小型軽量の錘体と、
前記センサの検出信号に基づき、前記主系の水平方向の振動を低減させるように前記アクチュエータの動作制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする同調型吸振器の制振効果向上装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

1(進歩性)本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
請求項1に対して:引用文献等1、3及び4
請求項2に対して:引用文献等2、3、5ないし7

<引用文献等一覧>
1.特開2013-29137号公報
2.特開2001-132793号公報
3.特開2007-162910号公報
4.特開2004-239323号公報
5.特開2005-308093号公報
6.特開2001-146812号公報
7.特開2003-343645号公報

●理由2(明確性)について
請求項1に「同調型吸振器の錘の上面にスペースが無い場合に、前記同調型吸振器における錘の両側面の双方に、又は、下面に、・・・配置される・・・錘体」との記載があるが、同調型吸振器の錘の上面にスペースが有る場合については、錘体の配置位置が記載されていないため、錘体の配置位置が特定できず、「同調型吸振器の制振効果向上装置」という物の発明において、錘体の配置位置に係る事項が不明確である。
請求項2についても同様のことがいえる。
よって、請求項1及び2に係る発明は明確でない。

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献2
当審拒絶理由で引用された引用文献2(特開2001-132793号公報)には、「建築構造物用の能動型動的吸振器」に関して、図面(特に、図1ないし3を参照。)とともに、次の事項が記載されている(下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(1)「【0001】
【技術分野】本発明は、住宅等の建築構造物に対する副振動系を構成して、主振動系たる建築構造物に対して制振効果を発揮し得る建築構造物用の動的吸振器に係り、特に、マス部材に水平方向の加振力を及ぼす加振手段を設けることによって、能動的な制振効果を発揮するようにした建築構造物用の能動型動的吸振器に関するものである。」

(2)「【0024】先ず、図1及び図2には、本発明の第一の実施形態としての一般住宅用の能動型動的吸振器10の全体概略構成が示されている。かかる動的吸振器10は、それ自体が建築構造物に対する受動型制振器となる受動振動系12と、該受動振動系12に対する能動型制振器となる能動振動系14を含んで構成されている。そして、能動振動系14から受動振動系12に対して、建築構造物において防振すべき振動に対応した加振力を及ぼすことにより、全体として、建築構造物における振動を相殺的乃至は干渉的に抑制するようになっている。
【0025】より詳細には、受動振動系12は、建築構造物としての一般住宅の構造材16に対して、本体マス部材としての本体マス18が、弾性支持部材としての複数のゴムマウント20で弾性支持されることによって構成されている。本体マス18は、鉄系金属等の高比重材で形成されており、本実施形態では矩形ブロック形状を有している。また、ゴムマウント20は、互いに離間して対向配置された両側取付金具22,24が、それらの対向面間に配設されたゴムブロック26によって弾性的に連結された構造とされている。そして、合計四個のゴムマウント20が、構造材16と本体マス18の鉛直方向対向面間に配されて、本体マス18の四隅部分に配設されている。また、各ゴムブロック26は、取付金具22,24の対向方向に延びる弾性中心軸が略鉛直方向に延びる状態で、一方の取付金具22が本体マス18に固着されると共に、他方の取付金具24が構造材16に固着されており、以て、四個のゴムマウント20により、本体マス18が構造材16に対して弾性的に支持されている。
【0026】なお、各ゴムマウント20においては、例えば、ゴムブロック26の中心軸方向に離間して複数枚の補強板を埋設固着することも可能であり、それによって、本体マス18の水平方向の支持ばね剛性の著しい増大を回避しつつ、鉛直方向での本体マス18の支持強度を有利に確保することが出来る。
【0027】また、本実施形態では、ゴムブロック26の質量や、各ゴムマウント20のばね特性を調節することによって、かかる受動振動系12における水平方向の共振周波数が、建築構造物において防振すべき振動の周波数、例えば2?10Hz程度の交通振動等に対応するようにチューニングされている。更にまた、かかる受動振動系12は、鉛直方向に延びる弾性主軸が本体マス18の略重心を通り、且つ水平方向に延びる二つの弾性主軸が、鉛直方向に延びる弾性主軸上で互いに直交するように設定することが望ましく、それによって、安定した振動形態が実現される。
【0028】更にまた、受動振動系12の配設位置は、防振すべき建築構造物の振動モード等を考慮し、有効な制振効果が発揮される位置の構造材16に装着することが望ましい。具体的には、例えば、2?3階建ての一般住宅等の場合には、最上階の天井裏のスペースや、押入れ等のスペースを利用して有利に設置され得る。
【0029】一方、能動振動系14は、図3に示されていように、第一の取付部材としての第一の取付金具28と、第二の取付部材としての第二の取付金具30が、中心軸方向で離間して対向配置されていると共に、それらの間に配設された弾性連結部材としての本体ゴム弾性体32によって弾性的に連結された構造とされている。そして、第一の取付金具28と第二の取付金具30の間に組み込まれたアクチュエータとしての電磁式アクチュエータにより、両取付金具28,30に対して、それら両取付金具28,30を相互に接近/離隔せしめる方向の相対変位力(加振力)を及ぼすようになっている。
【0030】そこにおいて、第一の取付金具28は、それぞれ円板形状を有する第一の板金具34と第二の板金具36が重ね合わされて、固定ボルト38で相互に固定されることによって形成されている。また、第二の板金具36の中央部分には、第一の板金具34との重ね合わせ面に開口する収容凹所40が形成されており、この収容凹所40に頭部が収容されて軸方向外方に向かって脚部が突出せしめられた支持ボルト42によって、ガイドロッド44が固定されている。このガイドロッド44は、金属等の硬質材で形成されて、略一定断面形状で直線的に延びており、第一の取付金具28の中心軸上で軸方向外方に向かって突設されていると共に、その突出先端部には、軸直角方向に広がるストッパ部46が一体形成されている。
【0031】また、第二の板金具36の外面中央には、軸方向外方に向かってスカート状に広がるボビン48が重ね合わされており、支持ボルト42で固定されたガイドロッド44によって、第二の板金具36に固定されている。このボビン48は、合成樹脂等の電気絶縁材で形成されており、軸方向の突出先端部に設けられた円筒状部には、コイル50が巻回固着されている。
【0032】さらに、かかる第一の取付金具28を構成する第一の板金具34には、中央部分を軸方向に延びるボルト孔52が形成されており、例えば、前記受動振動系12を構成する本体マス18に植設されたスタッドボルト54を、このボルト孔52に螺着することにより、第一の取付金具28を本体マス18の外周面に対して固定することが出来ようになっている。
【0033】一方、第二の取付金具30は、連結金具56と、付加マス部材としての付加マスブロック58から構成されている。連結金具56は、円環ブロック形状を有しており、第一の取付金具28に対して、径方向外方に離間して同軸上に且つ軸方向に所定量だけ偏倚して配設されている。そして、第一の取付金具28を構成する第二の板金具36と連結金具56が、本体ゴム弾性体32で相互に連結されている。即ち、本体ゴム弾性体32は、全体として円環板形状乃至はテーパ付円筒形状を有しており、その小径側端部の内周面に対して第一の取付金具28の外周面が加硫接着されていると共に、その大径側端部の外周面に対して連結金具56の内周面が加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体32によって連結された第二の板金具36と連結金具56の対向面は、互いに斜め軸方向で対向する傾斜面とされている。
【0034】また、付加マスブロック58は、鉄等の強磁性材で且つ高比重材からなる材質により、大径の円形ブロック形状をもって形成されており、中心軸上には、軸方向に貫通するガイド孔60が形成されていると共に、このガイド孔60には、摺動ブッシュ62が組み込まれている。更にまた、付加マスブロック58には、径方向の中間部分を周方向に連続して延びて軸方向一方の側(図1中の上側)に開口する環状凹溝64が形成されており、この環状凹溝64に永久磁石66が挿入配置されて、環状凹溝64の外周側壁部の内面に固着されている。なお、かかる永久磁石66は、周方向に全周に亘って連続していても、また、不連続であっても良い。そして、この永久磁石66には、内周面側と外周面側とに両磁極が設定されており、それによって、付加マスブロック58において、全体としてドーナツ形状の磁路が形成されていると共に、この磁路上に環状凹溝64が位置せしめられて全体として円筒形状の磁気ギャップが形成されている。なお、本実施形態では、付加マスブロック58の外周面上に、更に、質量調節用の円筒形状の追加マスブロック68が外嵌固定されている。
【0035】そして、かかる付加マスブロック58は、第一の取付金具28に対して同一中心軸上で離間して対向配置されており、その対向面において、連結金具56に重ね合わされて連結ボルト70で固定されることにより、本体ゴム弾性体32を介して、第一の取付金具28に弾性連結されている。即ち、これにより、付加マスブロック58を含む第二の取付金具30と本体ゴム弾性体32によって一つの振動系が構成されているのであり、特に本時実施形態では、第二の取付金具30の質量や、本体ゴム弾性体32のばね特性を調節することによって、かかる能動振動系14における中心軸方向の共振周波数が、建築構造物において防振すべき振動の周波数、例えば2?10Hz程度の交通振動等に対応するようにチューニングされている。また、付加マスブロック58のガイド孔60には、第一の取付金具28に突設されたガイドロッド44が摺動可能に挿通されており、以て、このガイドロッド44による案内作用に基づいて、本体ゴム弾性体32の弾性変形に伴い、付加マスブロック58が、第一の取付金具28に対して、中心軸上で接近/離間方向に安定して相対変位せしめられるようになっている。ここにおいて、上記振動系を構成する連結金具56,付加マスブロック58および追加マスブロック68からなるマス系は、主たる振動系たる建築構造物に対する有効な加振反力を得るために、好適には主たる振動系の5%程度の質量に設定されるが、1?数%の質量であっても、十分な加振反力を得ることが可能であり、具体的には、例えば一般住宅においては、100kg前後?数百kg程度でのマス系質量で十分な効果を得ることが出来、更に複数の動的吸振器10を併せて採用する場合には、一つ当たりのマス系質量をより小さく設定することが出来る。」

(3)「【0039】上述の如き構造とされた動的吸振器10にあっては、能動振動系14においてコイル50に通電して第一の取付金具28と第二の取付金具30の間に加振力を生ぜしめると、その加振反力が、受動振動系12を構成する本体マス18に及ぼされて、受動振動系12が、対応した周波数で加振変位せしめられることとなる。それ故、建築構造物において防振すべき振動が生ぜしめられた際には、受動振動系12が、それ自体でパッシブな動的吸振器として作用して受動的な制振効果を発揮し得ることに加えて、かかる受動振動系12を、能動振動系14により、建築構造物における防振すべき振動に対応した周波数と位相で加振することによって、相殺的乃至は干渉的な能動的防振効果をも発揮し得るのである。
【0040】なお、能動振動系14を加振制御する制御装置80は、防振すべき建築構造物の振動状態を検出した振動センサ82の検出信号に基づいて、その振動に対して有効な制振効果を発揮し得るように、検出信号に対応した駆動電流を各能動振動系14のコイル50に出力するものであって、例えば、予め設定されたデータに基づいて、検出信号の大きさに対応した大きさの駆動電流を、検出信号に対して所定の位相差で給電することによりフィードフォワード的に制御するものや、或いは、検出信号に含まれる建築構造物の振動値を可及的に零にするように駆動電流の大きさ等をフィードバック制御するもの等が好適に採用され得る。
【0041】また、本実施形態では、複数個の能動振動系14が、受動振動系12に対して互いに直交する水平方向で加振力を及ぼす状態で装着されていることから、各方向に加振力を及ぼす能動振動系14を選択的に加振することにより、何れかの能動振動系14の加振方向と同一方向の加振力を受動振動系12に及ぼすことが出来ることに加えて、各方向に加振力を及ぼす能動振動系14を同時に加振することにより、各能動振動系14の加振力の合力方向の加振力を受動振動系12に及ぼすことが可能であり、それによって、建築構造物における任意の水平方向の振動に対して有効な制振効果を得ることが出来るのである。」

(4)「【0059】更にまた、前記第一の実施形態において、能動振動系14を、本体マス18を挟んだ両側面に対向位置して配設することも可能であり、それによって、同一方向に加振力を及ぼす能動振動系14を、より効率的に複数装着することが出来る。」

(5)上記(1)、(2)(特に、段落【0024】を参照。)及び(3)(特に、段落【0039】を参照。)から、能動振動系14は、受動振動系12の制振効果を向上させるものであるといえる。

(6)上記(2)(特に、段落【0029】、【0032】を参照。)及び(4)並びに図1及び図2の図示内容から、能動振動系14の電磁式アクチュエータは、受動振動系12における本体マス18の前面、後面の双方、或いは錘の両側面の一方又は双方に、第一の取付金具28を介して制振力を作用させているといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「構造材16に配設されている受動振動系12の本体マス18に付加されて前記受動振動系12の制振効果を向上させる受動振動系12の能動振動系14であって、
前記構造材16の振動を検出する振動センサ82と、
前記構造材16の振動方向が水平方向の場合に、前記受動振動系12における本体マス18の前面、後面の双方、或いは錘の両側面の一方又は双方に前記受動振動系12の本体マス18に第一の取付金具28を介して制振力を作用させる電磁式アクチュエータと、
制振方向を水平方向として配置されるとともに、前記電磁式アクチュエータから前記第一の取付金具28を介して前記本体マス18に作用させる制振力の反力を支持する付加マスブロック58と、
前記振動センサ82の検出信号に基づき、前記構造材16の水平方向の振動を低減させるように前記電磁式アクチュエータの動作制御を行う制御装置80と、
を有する受動振動系12の能動振動系14。」

2 引用文献6
当審拒絶理由で引用された引用文献6(特開2001-146812号公報)には、次の記載がある。

(1)「【0049】しかし、制振手段27は通常の場合、床パネル1上に設置されている。したがって、クリーンルームという空間を有効利用せねばならない観点からは問題である。そこで、本実施例では、床パネルに制振手段をつり下げる構造を採用している。図18はこの床パネル28を示す。同図に示すように、床パネル28は床パネル1と制振手段27が一体になった制振手段付き床パネルであり、必要に応じて半導体露光装置の周辺に設置される。これによれば、床パネルの下に制振手段27が懸下されているので、床パネル上の装置レイアウトの自由度および作業環境を損なうことがないという利点がある。また、レイアウト変更や、装置の稼働状況等に起因する振動環境の変化に合わせて、制振手段付き床パネル28の取付け場所を変えることができる。つまり、変化する振動環境に柔軟に対応して、低振動環境を実現することができる。」

上記記載事項及び図面(特に、図18を参照。)の図示内容から、引用文献6には、次の事項が記載されている(以下、「引用文献6記載事項」という。)。

「床パネル1上の空間を有効利用するために、制振手段27を床パネル1の下に配置すること。」

3 引用文献7
当審拒絶理由で引用された引用文献7(特開2003-343645号公報)には、次の記載がある。

(1)「【0029】先ず、図1には、本発明に従う構造とされた建築構造物用の制振装置10を、一般の3階建住宅12に装着した状態の概略が示されている。かかる制振装置10は、住宅12における3階の天井を構成する構造部材14に固定された剛性のベース部材16に対して、複数個のバネ部材としてのゴムマウント18でマス金具20を弾性支持せしめた構造とされており、ゴムマウント18とマス金具20によって、主振動系としての住宅12に対する副振動系22が構成されている。なお、本実施形態の制振装置10においては、一体構造とされた剛性のベース部材16に対して、それぞれ一つのマス金具20と複数のゴムマウント18で構成された複数の副振動系22a,22b,22c,22dが、互いに独立して組み付けられており、全体として一つのユニットとして構成されていると共に、それら複数の副振動系22a,22b,22c,22dに対して、互いに異なる周波数チューニングが施されている。」

(2)「【0041】また、マス金具20においては、その下方でベース部材16との間に形成された空間を利用して、補助マスを付加的に固定することが出来るようになっている。これにより、基本となるマス金具20は同一のものを採用しつつ、固定する補助マスの数や大きさ等を適宜に調節してマス金具20の全体質量を調節し、以て、四つの副振動系22a,22b,22c,22dの質量を相互に異ならせて設定することが可能とされている。」

上記記載事項及び図面(特に、図3を参照。)からみて引用文献7には、次の事項が記載されている(以下、「引用文献7記載事項」という。)。

「ベース部材16に対して、複数個のバネ部材としてのゴムマウント18でマス金具20を弾性支持せしめた構造の制振装置10において、マス金具20の下方の空間を利用して、補助マスを付加的に固定すること。」

第5 対比・判断
引用発明と本願発明とを対比すると、引用発明における「構造材16」は、その機能、構成又は技術的意義から本願発明における「制振対象である主系」及び「主系」に相当し、以下同様に、「受動振動系12」は「同調型吸振器」に、「本体マス18」は「錘」に、「能動振動系14」は「制振効果向上装置」に、「振動センサ82」は「センサ」に、「第一の取付金具28」は「支持部」に、「電磁式アクチュエータ」は「アクチュエータ」に、「付加マスブロック58」は「錘体」に、「制御装置80」は「制御手段」に、それぞれ相当する。

よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「制振対象である主系に設置されている同調型吸振器の錘に付加されて前記同調型吸振器の制振効果を向上させる同調型吸振器の制振効果向上装置であって、
前記主系の振動を検出するセンサと、
前記主系の振動方向が水平方向の場合に、前記同調型吸振器における錘の前面、後面の双方、或いは錘の両側面の一方又は双方に前記同調型吸振器の錘に支持部を介して制振力を作用させるアクチュエータと、
制振方向を水平方向として配置されるとともに、前記アクチュエータから前記支持部を介して前記錘に作用させる制振力の反力を支持する錘体と、
前記センサの検出信号に基づき、前記主系の水平方向の振動を低減させるように前記アクチュエータの動作制御を行う制御手段と、
を有する同調型吸振器の制振効果向上装置。」

[相違点1]
「制振対象である主系に設置されている同調型吸振器」に関して、本願発明においては「建物の床上に配置される」制振対象である主系に設置されている同調型吸振器であるのに対して、引用発明においては構造材16に配設されている受動振動系12である点、すなわち、「建物の床上に配置される」ものであるかどうか不明な点。

[相違点2]
本願発明においてはアクチュエータが、「同調型吸振器の錘の上面にスペースが無い場合」、同調型吸振器における錘の前面、後面の双方、或いは錘の両側面の一方又は双方に制振力を作用させるものであるのに対して、引用発明においては電磁式アクチュエータが、受動振動系12における本体マス18の前面、後面の双方、或いは本体マス18の両側面の一方又は双方に制振力を作用させるものであるが、「付加マスブロック58の上面にスペースが無い場合」であるかどうか不明な点。

[相違点3]
本願発明においてはアクチュエータが、同調型吸振器の錐に「この錘に密着させた」支持部を介して制振力を作用させるものであるのに対して、引用発明においては電磁式アクチュエータが、本体マス18に第一の取付金具28を介して制振力を作用させるものである点、すなわち、第一の取付金具28が本体マス18に「密着」しているかどうか不明な点。

[相違点4]
本願発明においては錘体が「錘の質量の1/10程度の質量を具備する小型軽量の」ものであるのに対して、引用発明においては付加マスブロック58に関して、かかる事項が特定されていない点。

上記相違点1について検討する。
引用発明の受動振動系12は、建物(建築構造物)の構造材16に配設されるものである(引用文献2の段落【0025】等を参照。)。そして、同調型吸振器を建物の床上に配置することは、例示するまでもなく本願出願前に周知の技術である(以下、「周知技術1」という。)。
そうすると、引用発明において周知技術1を勘案し、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点2について検討する。
当審拒絶理由において、請求項1及び2の「同調型吸振器の錘の上面にスペースが無い場合に・・・配置される・・・錘体」との記載では、錘体の配置位置に係る事項が不明確である旨指摘した(上記「第3 当審拒絶理由の概要」の「●理由2(明確性)について」を参照。)。
これに対して請求人は、令和元年5月31日の意見書の「[6]拒絶理由について」の「●理由2(明確性)について」において、「今回の補正により、新請求項1、2の発明は、いずれも『建物の床上に配置される制振対象である主系に設置されている同調型吸振器の錘に付加されて前記同調型吸振器の制振効果を向上させる同調型吸振器の制振効果向上装置』と補正したことにより、同調型吸振器の錘と、制振効果向上装置の錘体の配置位置に係る事項は明確なったものと出願人は思料致します。
すなわち、新請求項1、2の発明はいずれも当初明細書には明示しておりませんが同調型吸振器の錘の上面に何らかの障害物が存在する態様を想定したものであります。」と述べている点に鑑み、「同調型吸振器の錘の上面にスペースが無い場合」との事項は、同調型吸振器の錘の上面に何らかの障害物が存在するという前提での発明という理解で検討する。
機械装置の分野において、部材の配置位置を決定するに当たって、配置の障害となるような他の部材との位置関係を考慮して、あるいは、障害物が無い空き空間を利用して当該部材の配置位置を決定することは、当業者が通常行っている事項である。
また、引用文献6記載事項は「床パネル1上の空間を有効利用するために、制振手段27を床パネル1の下に配置すること。」というものであり、引用文献7記載事項は「ベース部材16に対して、複数個のバネ部材としてのゴムマウント18でマス金具20を弾性支持せしめた構造の制振装置10において、マス金具20の下方の空間を利用して、補助マスを付加的に固定すること。」というものであって、これら記載事項によれば、制振装置の分野において、空間に対応して制振手段を配置する部位を決めることは、本願出願前に周知の技術であったといえる(以下、「周知技術2」という。)。
以上を踏まえれば、引用発明において、周知技術2を参酌し、本体マス18の上面にスペースが無い場合に、本体マス18の前面、後面の双方、或いは本体マス18の両側面の一方又は双方に制振力を作用させるように電磁式アクチュエータを設けることにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点3について検討する。
引用文献2の段落【0032】の「第一の取付金具28を構成する第一の板金具34には、中央部分を軸方向に延びるボルト孔52が形成されており、例えば、前記受動振動系12を構成する本体マス18に植設されたスタッドボルト54を、このボルト孔52に螺着することにより、第一の取付金具28を本体マス18の外周面に対して固定することが出来ようになっている。」との記載及び図3の図示内容並びに技術常識から、第一の取付金具28は本体マス18に密着しているといえる。
そうすると、引用発明における第一の取付金具28は本体マス18に密着しているといえるので、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項は引用発明も実質的に有しており、上記相違点3は、実質的な相違点ではない。

上記相違点4について検討する。
引用文献2の段落【0035】の「・・・上記振動系を構成する連結金具56,付加マスブロック58および追加マスブロック68からなるマス系は、主たる振動系たる建築構造物に対する有効な加振反力を得るために、好適には主たる振動系の5%程度の質量に設定されるが、1?数%の質量であっても、十分な加振反力を得ることが可能であり、具体的には、例えば一般住宅においては、100kg前後?数百kg程度でのマス系質量で十分な効果を得ることが出来、更に複数の動的吸振器10を併せて採用する場合には、一つ当たりのマス系質量をより小さく設定することが出来る。」との記載を参酌すれば、引用発明において、付加マスブロック58を小型軽量のものとすることは、当業者が容易に想到できたことであり、また、その質量をどの程度とするかは、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるといえる。
また、本願発明において錘体の質量を、同調型吸振器の錘の質量の1/10程度の質量とした点に、臨界的意義を見出すこともできない。
以上を踏まえれば、引用発明において、錘体を、同調型吸振器の錘の質量の1/10程度の質量を具備する小型軽量のものとして、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、例えば、特開平5-202637号公報(特に、段落【0050】、【0051】及び【0057】並びに図10を参照。)には、第2付加質量体m_(bx)(本願発明における錘体に相当。)の質量を第1付加質量体m_(a)(本願発明における錘に相当。)の質量の1/10とすることが記載されているように、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項に係る構成は、従来から知られている。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2から予測し得ない格別な効果を奏するものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易になし得たものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-12 
結審通知日 2019-07-16 
審決日 2019-07-29 
出願番号 特願2013-212862(P2013-212862)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F16F)
P 1 8・ 121- WZ (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大谷 謙仁村山 禎恒  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 鈴木 充
水野 治彦
発明の名称 同調型吸振器の制振効果向上装置  
代理人 下山 冨士男  
代理人 前田 和男  

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