• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
管理番号 1355432
審判番号 無効2017-800128  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-09-25 
確定日 2019-10-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第5305693号発明「容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る主な手続の経緯を以下に示す。
平成20年 3月 3日 本件特許出願(特願2008-52392号)
平成24年 8月22日付け 拒絶理由通知
平成24年 9月19日 意見書、手続補正書
平成25年 1月11日付け 拒絶査定
平成25年 3月25日 拒絶査定不服審判請求書(甲第1号証)、手続補正書(甲第2号証)
平成25年 7月 5日 設定登録(特許第5305693号)
平成29年 9月25日 本件審判請求
平成29年12月18日 答弁書、証拠説明書
平成30年 1月25日付け 審理事項通知
平成30年 2月15日 請求人口頭審理陳述要領書、証拠説明書
平成30年 3月 8日 被請求人口頭審理陳述要領書
平成30年 3月20日 第1回口頭審理
平成30年 4月 4日 証拠説明書(2)(被請求人)

以下、「審判請求書」を「請求書」と略記し、「口頭審理陳述要領書」を「要領書」と略記する。また、「甲第1号証」、「乙第1号証」等をそれぞれ「甲1」、「乙1」等と略記する。

第2.本件特許に係る発明についての特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1ないし3」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認めるところ、以下のとおり、分説記号AないしLを付して示す。
《本件発明1》
A:熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、被収容物が収容される収容凹部と、
B:該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、
C:前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、
D:しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1?1mmとなり
E:隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され、
F:且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていること
G:を特徴とする容器。
《本件発明2》
H:前記突出部の端縁部に係合される突起部が設けられ、
I:該突起部を前記端縁部に係合させて前記容器本体部に外嵌される蓋体が備えられている蓋付容器である
J:請求項1記載の容器。
《本件発明3》
K:断面形状が波形、鋸歯形、半円形のいずれかの形状を有する線状の突起あるいは溝が、互いに交差された状態、または、交差されていない状態で前記突出部の端縁部に沿って列設されて前記凹凸形状が形成されている
L:請求項1または2記載の容器。

第3.当事者の主張の要旨及び証拠方法
1.請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)請求人の主張の要旨
請求人は、特許第5305693号の請求項1ないし3に係る特許は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。

(2)請求人が主張する無効理由
請求人が主張する無効理由は以下のとおりである。

ア.無効理由1-1(特許法第36条第6項第1号違反)
被請求人は審査経過において、発明特定事項CないしEに基づいて「本願発明の突出部の端縁部は他の部分に比して圧縮薄肉化されることによって第一の強度向上が図られており、更にその上面に凹凸形状が形成されることによって第二の強度向上が図られる」という作用効果(以下「特定作用効果」という。)を主張することにより特許を取得しており、当該特定作用効果を奏しない構成にまで権利が及ぶのは第三者の利益を不当に害することになるから、発明特定事項CないしEは「本願発明の突出部の端縁部は他の部分に比して圧縮薄肉化されることによって第一の強度向上が図られており、更にその上面に凹凸形状が形成されることによって第二の強度向上が図られる」という構成を規定していると解すべきであり、当該特定作用効果は発明特定事項CないしEの構成に対応する発明の詳細な説明の記載だけで実現できないから、本件特許発明の係る構成が発明の詳細な説明に記載されたものでない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

イ.無効理由1-2(特許法第36条第4項第1号違反)
発明特定事項CないしEは「特定作用効果」を奏する構成を規定していると解すべきであるが、かかる構成及びそれを得るための方法は、発明の詳細な説明に記載されているといえないから、発明の詳細な説明は、かかる構成を規定したと解される本件特許発明の特徴的な発明特定事項CないしEについて、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ウ.無効理由1-3(特許法第36条第6項第2号違反)
本件発明は、発明特定事項CないしEに加え、「特定作用効果」を発明特定事項として明記すべきであるが、かかる構成を発明特定事項として備えていない本件発明は、特徴的な発明特定事項CないしEの技術的意味を理解できず、発明特定事項が不足しているから、本件特許発明は不明確である。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

エ.無効理由1-4(特許法第17条の2第3項違反)
本件特許発明の特徴的な発明特定事項CないしEが規定していると解される「特定作用効果」を奏する構成は、出願当初明細書に記載された事項でないから、上記構成を備えることと同義である本件特許発明の特徴的な発明特定事項CないしEが出願当初明細書に記載されているとはいえず、前記特徴的な発明特定事項CないしEを追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

オ.無効理由2-1(特許法第36条第4項第1号違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明特定事項AないしCを備える容器において、その端縁部で指等を裂傷するといった怪我が生じることや発明特定事項D及びEを備えることにより怪我を防止できることについて例証がなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものとはいえず、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

カ.無効理由2-2(特許法第36条第6項第2号違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、発明特定事項Dの「凸形状の高さ」の定義が記載されているが、関連する侵害訴訟での被請求人の主張とは異なっており、二重に解釈され得る発明特定事項Dを含む本件発明1ないし3は明確であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

キ.無効理由2-3(特許法第36条第6項第1号違反)
本件発明1ないし3は、発明特定事項D及びEを備えるものであって、パラメータ発明に該当するところ、パラメータ発明についてのサポート要件を満たしていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明特定事項D及びEを備えることにより怪我を防止できることについて例証がなく、本件発明1ないし3は、怪我を防止するという課題を解決することができないものを含むものである。
さらに、被請求人が関連する侵害訴訟で主張する、発明特定事項Dの「凸形状の高さ」の定義は、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載したものとはいえない。
したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ク.無効理由2-4(特許法第17条の2第3項違反及び同法第36条第6項第1号違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、発明特定事項Dの「凸形状の高さ」の定義が記載されているが、関連する侵害訴訟での被請求人の主張とは異なっており、被請求人が主張する「凸形状の高さ」の定義を前提とする発明特定事項Dを追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、その特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
また、仮にかかる理由がないとしても、前記発明特定事項Dは、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ケ.無効理由3-1(特許法第36条第6項第2号違反)
「・・・下位となるように」と「・・・圧縮されて厚みが薄くなっており」との間に読点「、」が付されている発明特定事項Cは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の「【0019】・・・そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。・・・」との記載とは異なる解釈をなされ得るものであり、本件発明1ないし3は明確であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

コ.無効理由3-2(特許法第17条の2第3項及び同法第36条第6項第1号違反)
「・・・下位となるように」と「・・・圧縮されて厚みが薄くなっており」との間に読点「、」が付されている発明特定事項Cは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の「【0019】・・・そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。・・・」との記載とは異なる解釈をなされ得るものであり、前記発明特定事項Cを追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、その特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
また、仮にかかる理由がないとしても、前記発明特定事項Cは、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)証拠方法
請求人は、請求書に添付して甲1ないし甲4を、請求人要領書に添付して甲5ないし甲7を提出した。
なお、甲1ないし甲7の成立について、当事者間に争いはない。

甲1:特願2008-52392号拒絶査定不服審判に係る審判請求書、株式会社エフピコ、平成25年3月25日
甲2:特願2008-52392号に係る手続補正書、株式会社エフピコ、平成25年3月25日付け
甲3:特願2008-52392号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲、株式会社エフピコ、平成20年3月3日付け
甲4:関連事件(平成28年(ワ)第29320号)の訴状、株式会社エフピコ、平成28年8月31日付け
甲5:「他素材ラップとの性能比較」、[online]、旭化成ホームプロダクツ株式会社、インターネット<http://www.asahi-kasei.co.jp/saran/products/saranwrap/comparing.html>
甲6:特許第5164609号公報
甲7:関連事件(平成28年(ワ)第29320号)の原告第4準備書面、株式会社エフピコ、平成28年12月12日付け

2.被請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)被請求人の主張の要旨
被請求人は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
また、被請求人は以下を主張している。
請求人は、本件特許について、無効理由1-1ないし3-2を主張するが、本件特許に、これらの無効理由は存在しない。
また、本件特許に係る侵害訴訟(東京地裁平成28年(ワ)第29320号)において、東京地裁は、本件特許は無効でない旨の心証を開示している。
(2)証拠方法
被請求人は、答弁書に添付して乙1ないし乙5を、平成30年4月4日付けで乙6を提出した。

乙1:関連事件(平成27年(ヨ)第22095号)の仮処分決定、東京地裁、平成28年6月6日付け
乙2:関連事件(平成28年(モ)第40026号)の保全異議申立て事件決定、東京地裁、平成28年9月2日付け
乙3:新村出編,広辞苑,第6版第1刷,株式会社岩波書店,2008年1月11日,p.2020-2021
乙4:西尾実他,岩波国語辞典,第6版第1刷,株式会社岩波書店,2000年11月17日,p.1242-1243
乙5:新村出編,広辞苑,第6版第1刷,株式会社岩波書店,2008年1月11日,p.2882-2883
乙6:関連事件(平成28年(ワ)第29320号)の判決、東京地裁、平成30年3月29日付け

第4.無効理由についての当審の判断
1.甲各号証の記載事項
(1)甲1(拒絶査定不服審判請求書)の記載事項
甲1には以下の記載がある。
ア.「3.補正の根拠
(1)請求項1の補正は、収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部の形状を更に具体的な形状に限定するものである。即ち、突出部の端縁部において熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて薄肉とされたものであることを明確にしたものである。また、この補正内容との整合を図るべく明細書の段落0010を補正している。

(2)この点は当初明細書の例えば段落0019や図3(b)に記載されている。従って、今回の補正は当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものであって、また所定の目的にも沿うものである。」

イ.「4.本願発明が特許されるべき理由
4-1 本願発明について
(1)本願発明は、熱可塑性樹脂発泡シートの内表面側、即ち、上面側に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートを成形することにより形成された容器であって、その収容凹部の開口縁から外側に形成された突出部の端縁部の構成に主たる特徴を有するものである。

(2)即ち、まず、熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されることによって突出部の端縁部が突出部の他の部分に比して薄肉化されているという特徴を有している。このように突出部の端縁部が圧縮薄肉化されることにより、突出部の端縁部の強度が向上することになり、突出部の端縁部に蓋体を強固に止着させることができる。

(3)しかも、圧縮により薄肉化された端縁部において、その上面には更に所定の寸法関係を有する凹凸形状が形成されているという特徴を有している。従って、この凹凸形状によって更に端縁部の強度が向上して蓋体を強固に止着させることができる。しかも、端縁部の下面は平坦に形成されているので、端縁部の下面が凹凸形状となっているものに比してより一層強固確実に蓋体を止着させることができる。

(4)また更に、端縁部の上面には凹凸形状が形成されていることから、シートのエッジ部分での怪我を防止することができる。上面側には熱可塑性樹脂フィルムが積層されているので、シートの下面側のエッジ部分よりも上面側のエッジ部分において相対的に怪我が発生しやすいが、端縁部の上面に凹凸形状が形成されることでシートの上面側のエッジ部分が凹凸形状となって怪我の発生を防止することができる。
・・・
4-3 本願発明と引用文献1に記載された発明との対比
・・・
(2)即ち、引用文献1記載の発明には「突出部の端縁部の厚みを突出部の他の部分に比して圧縮薄肉化したうえで更にその端縁部の上面に凹凸形状を形成する」という構成がない。

(3)本願発明の突出部の端縁部は他の部分に比して圧縮薄肉化されることによって第一の強度向上が図られており、更にその上面に凹凸形状が形成されることによって第二の強度向上が図られると共に怪我発生防止機能も付与されている。このように本願発明では、突出部の端縁部において二段階の強度向上策が図られているのである。これに対して引用文献1記載の発明では・・・」

(2)甲2(拒絶査定不服審判請求書と同日付け提出の手続補正書)の記載事項
甲2には以下の記載がある。
「【補正の内容】
【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、被収容物が収容される収容凹部と、該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、
前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1?1mmとなり隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され、且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていることを特徴とする容器。」

(3)甲3(特願2008-52392号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲)の記載事項
甲3には以下の記載がある。
ア.「【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、被収容物が収容される収容凹部と、該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、
前記突出部の少なくとも端縁部は、上面側に凹凸形状が形成され且つ下面側が平坦に形成されていることを特徴とする容器。」
イ.「【0017】
前記突出部14は、この側周壁部12の上端縁13(以下「開口縁13」ともいう)から外側に張り出して形成されており、該突出部14は、開口縁13からの突出長さが開口縁13全周において略均一となるように形成されており、その外周縁の形状が角部が丸められた正方形となるとなるように形成されている。
この突出部14の端縁部15には凹凸形状が形成されており、突出部14の端面は、図2にも示されているように上部側の輪郭線が波形となり、下部側の輪郭線が直線となるように形成されている。
すなわち、突出部14の端縁部15の上面側15uには、断面形状が波形となる突起15aが突出部14の端縁に沿って複数列設されて前記凹凸形状が形成されている。」
ウ.「【0019】
前記容器本体部10は、前記突出部14の端縁部15において、前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮された状態となっており、前記波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)が0.1?1mmとなり、隣り合う突起15aの間隔が0.5?5mmとなるように形成されていることが怪我防止の観点から好ましい。
そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。
すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており、この厚みが減少している領域において丸みを帯びた形状が形成されている。
【0020】
このように、突出部14の上面側に前記熱可塑性樹脂フィルムが配され、下面側には熱可塑性樹脂発泡シートが配され、しかも、端縁部15の上面側15uに凹凸形状が形成され且つ下面側15dが平坦に形成されていることから前記蓋体20を外嵌させる際にこの平坦に形成された端縁部15の下面側15dに強固な係合状態を形成させることができる。
しかも、熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを防止できる。」
エ.「【0044】
・・・
また、本実施形態においては、断面形状が波型の突起が突起部の端縁部に沿って列設されている場合を例示しているが、このような突起に代えて、溝を端縁部に沿って列設させて突出部の端縁部の上面側に凹凸形状を形成させても良く、その形状も、波形に限定されるものではない。
・・・
例えば、線状の突起や線状の溝を、容器の中心部から外方に向けた方向に対して傾斜する方向に延在させたり、互いに交差させたりして凹凸形状を形成させることも可能である。」

(4)甲4(関連事件(平成28年(ワ)第29320号)の訴状)の記載事項
甲4には以下の記載がある。
「また、「凸形状の高さ」とは、容器の収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部の端縁部の上面に形成されている部分的に出ばっている箇所の形状の高さ、すなわち、凸形状の頂部から凸形状の底部までの距離(次の図(測定結果報告書(甲6)の図2と同じ)でいえば、「丸C」(審決注:丸内に“C”等のアルファベット文字が記載された記号の代替表記である。)をいうところ、突出部の少なくとも端縁部の上面側において、凸形状の高さが0.1?1mmとなっていることは、甲第6号証ないし甲第9号証の各測定結果報告書中の「丸C」の長さが示すとおりであり、隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成されていることは、甲第6号証ないし甲第9号証の各測定結果報告書中の「丸D」の長さが示すとおりである。よって、被告容器は、構成要件C、D及びEを充足する(甲6ないし甲9:測定結果報告書)。」(7頁14行ないし末行)

(5)甲5(「他素材ラップとの性能比較」)の記載事項
甲5には、サランラップ(登録商標)と他素材ラップとの性能比較(引張弾性率、密着性、酸素ガス透過度、透湿性、耐熱温度)が記載されている。

(6)甲6(特許第5164609号公報)の記載事項
甲6には以下の記載がある。
ア.「【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡シートの少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートを用いて成形することにより、凹状の収容部と該収容部の側壁部から外方に張り出したフランジ部とが形成されてなる容器本体を備えた容器であって、
前記フランジ部の外側端部は、圧縮により前記フランジ部の他の部位よりも薄肉の薄肉部とされてなり、該薄肉部の最大厚みは、前記フランジ部の他の部位に於ける最小厚みに対して、1/15?1/3で、且つ、該薄肉部の熱可塑性樹脂フィルム面には、該熱可塑性樹脂フィルム面の外側輪郭線が凹凸形状を成して屈曲するように凹凸が形成されていることを特徴とする容器。」
イ.「【0005】
しかしながら、上述のごとく、斯かる容器は、トリミング刃等で打ち抜いて製造されるため、熱可塑性樹脂発泡シート層と熱可塑性樹脂フィルム層との硬さの差により、切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルム層が柔らかい熱可塑性発泡シート層より外側に突き出た状態となり、且つ熱可塑性樹脂フィルム層の切断面の形状が鋭利になりやすく、容器に触れた際に、硬いフィルムで指等を裂傷する虞がある。」
ウ.「【0011】
更に、本発明に係る容器に於いては、前記薄肉部の最大厚みが、前記フランジ部の他の部位、即ち、前記フランジ部の薄肉部以外の部位に於ける最小厚みに対して、1/15?1/3である。
薄肉部の肉厚を1/3以下とすることにより、十分にフランジ部の外側端部が圧縮され、フランジ部の外側端部が十分に補強されたものとなる。一方、1/15以上とすることにより、薄くなりすぎて逆に強度が低下する虞も防止される。」
エ.「【0023】
・・・
尚、図示される態様に於いては、フランジ部12端面(外側の切断面)に於ける最も突出高さの高い凸部の頂点と反対面との距離(図2、図3の“h1”)が、最大厚みに相当することとなる。
・・・
【0025】
・・・
なお、一般的な用途の容器に用いる場合には、前記熱可塑性樹脂発泡シートは、その厚みが1?3mmのいずれかの厚みとされることが好ましく、坪量が、80?550g/m^(3)のいずれかとされることが好適であるが、このような範囲を超えたものも適宜採用することが可能である。
【0026】
・・・
なお、前記熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、数μm?数百μmの厚みのものを熱可塑性樹脂発泡シートの片面若しくは両面に積層させて用いることができる。」

(7)甲7(関連事件(平成28年(ワ)第29320号)の原告第4準備書面)の記載事項
甲7には、被請求人が、発明特定事項Cにおける「ように」の直後には読点があるのに対し、「圧縮されて」の直後には読点がないことから、「ように」は「圧縮されて」を修飾していない旨を主張したことが記載されている。

2.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、食品容器等として使用される、熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられてなる容器、詳しくは、該発泡積層シートを用いて成形することにより、収容凹部と該収容凹部から外側に向けて張り出した突出部とが形成されてなる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂発泡シートに、非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを用いて成形された容器は、優れた断熱性及び軽量性を備え且つ低価格であるといった熱可塑性樹脂発泡シート製容器(例えば、スチレン系樹脂発泡シート製容器)の特性の他、熱可塑性樹脂フィルムが積層されていることにより、容器強度が向上し、表面が平滑となり、かつ各種の印刷を施すことが可能となる等の特徴が加味され、弁当、惣菜等の食品容器等に使用されている。
【0003】
そして、この種の発泡積層シートを用いた容器は、通常、シート成形により製造されている。即ち、発泡積層シートを加熱し、これを雄型と雌型との間に送り、該雄型と雌型とで挟み押圧することにより該シートに凹形状(容器形状)を形成させた後、凹形状が形成されている部位の外側をトリミング刃等による打ち抜き等によって切断し、シートから凹部及び該凹部から外側に向けて張り出したフランジ状の突出部を分断するシート成形により製造されている。
【0004】
ところで、上記の如き容器に於いては、フランジ状の突出部の外側に蓋体が外嵌装着されたり、この突出部の外側端部を覆い隠すようにラップフィルムが被せられて使用されたりしており、下記特許文献1には、外側から内側へと凹入させた係合凹所を有する蓋体を容器本体部に止着させることが記載されている。
すなわち、内側に突出する突起部を蓋体に設けて、該突起部をフランジ状の突出部に係合させて蓋体を容器本体部に外嵌させることが下記特許文献1に記載されている。
【0005】
上述のごとく、斯かる容器は、トリミング刃等で打ち抜いて製造されるため、熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差により、切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルムが柔らかい熱可塑性樹脂発泡シートよりも外側に突き出た状態となり、且つ熱可塑性樹脂フィルムの切断面の形状が鋭利になりやすく、容器に触れた際に、硬いフィルムで指等を裂傷する虞がある。
【0006】
・・・
【0007】
また、下記特許文献3には、フィルム端縁で指等を裂傷するという課題を解決するために、突出部の上下面にジグザグとなる凹凸を形成させることが記載されている。
しかし、このように突出部の上下面にジグザグとなる凹凸を形成すると、蓋体を外嵌させる際に突起部が係合される突出部の下面側にも凹凸形状が形成されることとなる。
特に、熱可塑性樹脂フィルムが内表面となるように発泡積層シートを成形した容器本体部の突出部の下面側に凹凸形状を形成させると、蓋体の突起部が、突出部の下面側の発泡シート表面に形成された凸部先端と接触することとなるため、凸部が潰れやすく、強固な係合状態を形成させることが困難となる。
すなわち、従来の容器構成では、発泡積層シートを成形した容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強固に止着させることが困難であるという問題を有している。
また、従来の容器製造方法は、端縁部での怪我が抑制され、蓋体などが強固に止着され得る容器を簡便なる方法で製造することが困難であるという問題を有している。
【0008】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固に止着させうる容器の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための容器にかかる本発明は、熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられ、前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて、被収容物が収容される収容凹部と、該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有する容器であって、前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1?1mmとなり隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され、且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の容器は、熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートが用いられて形成されており、断熱性に優れた容器である。また、前記熱可塑性樹脂フィルムが内表面側となるように前記発泡積層シートが成形加工されて形成されている。
そして、本発明の容器は、前記発泡積層シートが成形加工されて、被収容物が収容される収容凹部と、該収容凹部の開口縁から外側に向けて張り出した突出部とが形成された容器本体部を有している。
さらに、突出部の上面側には前記熱可塑性樹脂フィルムが配され、下面側には熱可塑性樹脂発泡シートが配され、熱可塑性樹脂フィルムが配される端縁部の上面側に凹凸形状を形成させ且つ熱可塑性樹脂発泡シートの配される下面側を平坦に形成させている。
したがって、断熱性に優れ、上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ、下面側が平坦に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる。
すなわち、本発明の容器は、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体などを強固に止着させうる。」
(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について蓋付容器を例示しつつ説明する。
・・・
【0017】
・・・
すなわち、突出部14の端縁部15の上面側15uには、断面形状が波形となる突起15aが突出部14の端縁に沿って複数列設されて前記凹凸形状が形成されている。
そして、この端縁部15の下面側15dは、平坦に形成されている。
・・・
【0019】
前記容器本体部10は、前記突出部14の端縁部15において、前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮された状態となっており、前記波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)が0.1?1mmとなり、隣り合う突起15aの間隔が0.5?5mmとなるように形成されていることが怪我防止の観点から好ましい。
そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。
すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており、この厚みが減少している領域において丸みを帯びた形状が形成されている。
【0020】
このように、突出部14の上面側に前記熱可塑性樹脂フィルムが配され、下面側には熱可塑性樹脂発泡シートが配され、しかも、端縁部15の上面側15uに凹凸形状が形成され且つ下面側15dが平坦に形成されていることから前記蓋体20を外嵌させる際にこの平坦に形成された端縁部15の下面側15dに強固な係合状態を形成させることができる。
しかも、熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを防止できる。
【0021】
この容器本体部10の形成に用いられる発泡積層シートは、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
例えば・・・
なお、一般的な用途の容器に用いる場合には、前記熱可塑性樹脂発泡シートは、その厚みが・・・、坪量が・・・が好適であるが、このような範囲を超えたものも適宜採用することが可能である。
【0022】
この熱可塑性樹脂発泡シートの片面に積層される熱可塑性樹脂フィルムには、例えば、熱可塑性樹脂発泡シートに用いられたスチレン樹脂や共重合体樹脂が用いられてなるフィルムや・・・フィルムをそれぞれ単独で用いることができる。
あるいは、これらのフィルムどうしを複合させたフィルム(複合フィルム)を熱可塑性樹脂フィルムとして用いることができる。
また、要すれば、これらの単独のフィルムあるいは複合フィルムに和紙や金属フィルムなど熱可塑性樹脂以外の素材で形成されたフィルム状物を積層させた積層フィルムも熱可塑性樹脂フィルムとして用いることが可能である。
なお、前記熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、数μm?数百μmの厚みのものを用いることができる。」
(3)「【0023】
次に、蓋体20について説明する。
・・・
さらに、前記蓋体20には、前記垂直壁部25の下端縁から外方に向けて張り出したつば部26と、前記垂直壁部25の一部を他部よりも内側に向けて突出させて形成された突起部27とが設けられている。
・・・
【0027】
この蓋体20は、その素材が特に限定されるものではないが、通常、透明な樹脂フィルムなどを用いて形成しうる。
【0028】
次いで、図4を参照しつつ、蓋体20を容器本体部10に外嵌させる方法について説明する。
前述のように、垂直壁部25は、容器本体部10の突出部14の外周縁と略同形に形成された四角枠形状を有しており、前記突起部27は、この垂直壁部25の一部を他部よりも内側に突出させて形成されている。
したがって、図4a)に示すように蓋体20を容器本体部10に外嵌する前には、前記突起部27の内面が、容器本体部10の突出部14の上面に当接する状態となっている。
・・・
【0030】
さらに押圧を続けることにより、突起部27は、突出部14の丸みを帯びた形状に沿ってその当接箇所が下方に移動され、やがて突起部27が突出部14の端縁部15よりも下方に移動して、図4c)に示すように、垂直壁部25ならびに突出部14の復元力により端縁部15の下面側15dにまわり込んだ状態となる。
このとき、突出部14の上面が蓋体20の面接部24に面接された状態となるとともに、端縁部15の下面側15dが突起部27の上端部に当接された状態となる。
このように、突出部14の端縁部15と突起部27とが係合されることにより、蓋体20を容器本体部10に強固に止着させうる。
なお、本実施形態で例示しているような蓋付容器1ではなく、容器本体部10をラップフィルムなどで覆って収容凹部を密封するような場合においても、端縁部15の下面側15dが平坦に形成されていることで下面側に凹凸が形成されているような場合に比べてその密着性を向上させうる。
したがって、ラップフィルムなどの止着にも優れた効果が発揮されることとなる。」
(4)「【0031】
次いで、容器本体部10を上記のような蓋体20などが強固に止着され得るように形成させて容器を製造する容器製造方法について、図5乃至9を参照しつつ説明する。
・・・
【0033】
まず、雄型100について説明する。
この雄型100には、容器本体部10の形成に用いられる箇所の最も外側部分に位置する箇所に、前記容器本体部10の端縁部15に凹凸形状を形成させるための凹凸形成部102が備えられている。
また、この凹凸形成部102の内側には、端縁部15以外の突出部14を形成するための突出部形成部103が備えられている。
さらに、この突出部形成部103の内側に容器本体部10の側周壁部12と底部11とを形成させるための隆起部104が備えられている。
【0034】
前記凹凸形成部102は、端縁部15の上面側15uに波形の突起15aを形成させるべく、前記容器本体部10の端縁部15に位置する箇所に備えられており、前記波形の突起15aとは逆形状となる凹凸形状が形成されている。
また、凹凸形成部102は、突出部14の端縁部15と同じく、角部の丸められた正方形を形成させた状態で雄型100に設けられており、その凹凸形状を前記基準面101よりも上方に突出させて形成されている。
・・・
【0036】
次いで、雌型200について説明する。
この雌型200には、容器本体部10の形成に用いられる箇所の最も外側部分に位置する箇所に前記容器本体部10の端縁部15の下面側15dを平坦な状態に形成させための平坦面形成部202が備えられている。
また、この平坦面形成部202の内側には、突出部形成部103とともに容器本体部10の突出部14を形成するための突出部形成部203が備えられている。
さらに、雌型200には、前記雄型100の隆起部104とともに、容器本体部10の側周壁部12と底部11とを形成させる掘り込み部204が備えられている。
【0037】
前記平坦面形成部202は、前記容器本体部10の端縁部15に位置する箇所に設けられ、端縁部15の下面側15dを平坦な状態に形成させるべく平坦に形成されており前記基準面201と同一レベルとなるように雌型200に形成されている。
すなわち、平坦面形成部202は、前記基準面201と面一な状態で雌型200に設けられている。
・・・
【0043】
上記に説明したように、前記突出部14の形成に用いられる箇所に凹凸形状が形成されている雄型100と、前記突出部14の形成に用いられる箇所が平坦に形成されている雌型200とを用いて、熱可塑性樹脂発泡シートの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された発泡積層シートSを成型加工し、しかも、雄型100を前記熱可塑性樹脂フィルム側から当接させ、前記雌型200を前記熱可塑性樹脂発泡シート側から当接させて成型加工することにより前記突出部14の端縁部15の上面側15uに凹凸形状が形成された容器本体部を形成させて容器を製造することにより、収容凹部などの形成と同時に裂傷を防止するための構造(凹凸形状)をあわせて端縁部15に形成させることができる。
すなわち、端縁部での怪我が抑制され、蓋体などが強固に止着され得る容器を簡便なる方法で製造しうる。」
(5)「【0044】
なお、本実施形態においては、本発明の効果をより顕著に発揮させ得る点において、蓋付容器を例示して本発明を説明しているが、本発明は、容器を蓋付容器に限定するものではない。
例えば、ラップフィルムなどによって収容凹部の開口部が覆われて用いられるような容器も本発明の意図する範囲である。
また、本実施形態においては、断面形状が波型の突起が突起部の端縁部に沿って列設されている場合を例示しているが、このような突起に代えて、溝を端縁部に沿って列設させて突出部の端縁部の上面側に凹凸形状を形成させても良く、その形状も、波形に限定されるものではない。
ただし、形成する突起や溝の形状が複雑になると製造に要する手間を増大させるおそれがある。
したがって、より簡便に容器を製造させうる点において、形成させる突起や溝の断面形状としては、上記例示の波形の他に、鋸歯形、半円形のいずれかであることが好ましい。
また、これらを組み合わせて用いることも可能である。
さらには、本実施形態においては、線状の突起を外側に向けて延在させている場合を例示しているが、その延在方向も外側方向に限定されるものではない。
例えば、線状の突起や線状の溝を、容器の中心部から外方に向けた方向に対して傾斜する方向に延在させたり、互いに交差させたりして凹凸形状を形成させることも可能である。」

3.無効理由1-1(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)本件発明1の解決すべき課題と解決手段について
上記第4.2.(1)で摘記した本件特許明細書の記載からみて、本件発明1は、熱可塑性樹脂発泡シートに非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを用いて成形された容器の突出部の端縁での指等の裂傷を防止するために、「突出部の上下面に凹凸形状が形成された」従来技術(段落【0002】ないし【0007】を参照)において「蓋体との強固な係合状態の形成が困難であった」こと(段落【0007】を参照)に鑑み、「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固に止着させうる容器を得る」ことを解決すべき課題(段落【0009】を参照)としたものである。
そして、本件発明1は、端縁部の上面に凹凸形状を形成する一方でその下面は平坦とする形状を採用すること、すなわち、発明特定事項D「しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1?1mmとなり」、E「隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され」及びF「且つ該端縁部の下面側が平坦に形成されていること」を含む、発明特定事項A?Gを備えることにより(段落【0010を参照。】)、「断熱性に優れ、上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ、下面側が平坦に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」(段落【0012】を参照)という効果を奏し、上記課題を解決したものである。

(2)本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえるかについて
本件発明1は、上記第4.3.(1)で述べたように、「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固に止着させうる容器を得る」という解決すべき課題を、発明特定事項A?Gを備えることにより解決した発明であることが、本件特許明細書の段落【0001】ないし【0012】に記載されており、さらに、上記第4.2.(2)で摘記した段落【0017】、【0019】及び【0020】にも記載されている。
また、発明特定事項HないしJを備える本件発明2は、上記第4.2.(3)で摘記した段落【0023】、【0028】及び【0030】に記載され、発明特定事項K及びLを備える本件発明3は、上記第4.2.(5)で摘記した段落【0044】に記載されていることが明らかである。
したがって、本件発明1ないし3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(3)請求人の主張について
請求人は、請求書13頁(2-1-2)及び請求人要領書3頁(4-1-1)等において、発明特定事項CないしEは、「特定作用効果」を奏する手段と解すべきこと、すなわち、本件発明1は、「特定作用効果」を発明特定事項とすべきものであることを前提として、そのような本件発明1は、本件特許明細書には記載されていない旨を主張している。
たしかに、「特定作用効果」は、本件特許明細書には記載されていない。
そして、上記第4.3.(1)で述べたように、本件特許明細書には、本件発明1は、発明特定事項AないしGを備えることにより、解決すべき課題を解決したことが説明されている。
してみると、本件発明1において、発明特定事項CないしEにより「特定作用効果」が奏されるか否かということは、本件発明1が解決すべき課題を解決したこととは無関係なことであることが明らかである。
また、甲1には、上記課題の解決に関する、「しかも、端縁部の下面は平坦に形成されているので、端縁部の下面が凹凸形状となっているものに比してより一層強固確実に蓋体を止着させることができる。」旨及び「また更に、端縁部の上面には凹凸形状が形成されていることから、シートのエッジ部分での怪我を防止することができる。」旨と、「特定作用効果」に関する、「このように突出部の端縁部が圧縮薄肉化されることにより、突出部の端縁部の強度が向上することになり、突出部の端縁部に蓋体を強固に止着させることができる。」旨及び「従って、この凹凸形状によって更に端縁部の強度が向上して蓋体を強固に止着させることができる。」旨とは、別個のこととして記載されており(上記第4.1.(1)イ.を参照)、「特定作用効果」を奏することが、本件発明1が解決すべき課題の解決に必要不可欠なことであり、発明特定事項と解すべきものである旨が記載されているわけではない。
したがって、「特定作用効果」を、本件発明1の発明特定事項とすべきものとする理由はないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由1-1により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

4.無効理由1-2(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)本件特許明細書は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるかについて
上記第4.3.(1)で述べたとおり、本件発明1は、「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固に止着させうる容器を得る」ことを解決すべき課題とし、発明特定事項DないしFを含む、発明特定事項AないしGを備えることにより、「断熱性に優れ、上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ、下面側が平坦に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」という効果を奏し、上記課題を解決したものである。
そして、本件特許明細書には、このような本件発明1の実施の形態について、上記第4.2.(2)で摘記した段落【0014】ないし【0022】に、容器の形状、材質等に関する具体的な説明が記載され、さらに、上記第4.2.(4)で摘記した段落【0031】ないし【0043】には、金型を用いた製造方法も記載されている。
また、本件特許明細書には、本件発明2の実施の形態について、上記第4.2.(3)で摘記した段落【0023】ないし【0030】に記載され、本件発明3の実施の形態について、上記第4.2.(5)で摘記した段落【0044】に記載されている。
したがって、本件特許明細書は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書20頁(2-2-1)等において、発明特定事項CないしEは、「特定作用効果」を奏する手段と解すべきこと、すなわち、本件発明1は、「特定作用効果」を発明特定事項とすべきものであることを前提として、本件特許明細書は、そのような本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.3.(3)で述べたとおり、「特定作用効果」を、本件発明1の発明特定事項とすべきものとする理由はないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由1-2により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

5.無効理由1-3(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)本件発明は、明確であるといえるかについて
本件発明1ないし3についての特許請求の範囲の記載は、上記第3.に示したとおりであり、その記載に用いられている用語や各発明特定事項の関係に不明確な点はない。
そして、上記第4.2.(1)ないし(5)で摘記した本件特許明細書の記載を参酌すれば、本件発明1ないし3の各発明特定事項の技術的意味についても不明確な点はない。
したがって、本件発明1ないし3は、明確であるといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書20頁(2-3-1)等において、発明特定事項CないしEは、「特定作用効果」を奏する手段と解すべきこと、すなわち、本件発明1は、「特定作用効果」を発明特定事項とすべきものであることを前提として、「特定作用効果」を発明特定事項としていない本件発明1は、発明特定事項CないしEの技術的意味を当業者が理解できず、不明確である旨を主張している。
しかしながら、上記第4.3.(3)で述べたとおり、「特定作用効果」を、本件発明1の発明特定事項とすべきものとする理由はないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由1-3により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

6.無効理由1-4(特許法第17条の2第3項違反)について
(1)発明特定事項CないしEを追加する補正について
発明特定事項CないしEは、拒絶査定不服審判請求書(甲1)と同時になされた平成25年3月25日付け手続補正書(甲2)による補正で、請求項1の記載に追加された事項である。
そこで、甲3として提出された当初明細書等における発明特定事項CないしEに関する記載を確認する。
ア.発明特定事項Cに関し、当初明細書等の段落【0019】には「前記容器本体部10は、前記突出部14の端縁部15において、前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮された状態となっており」、「そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている」及び「すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており」なる事項が記載されている(上記第4.1.(3)ウ.を参照)から、発明特定事項Cは、当初明細書等に記載された事項である。

イ.発明特定事項D及びEに関し、当初明細書等の段落【0017】には「この突出部14の端縁部15には凹凸形状が形成されており、突出部14の端面は、図2にも示されているように上部側の輪郭線が波形となり、下部側の輪郭線が直線となるように形成されている。すなわち、突出部14の端縁部15の上面側15uには、断面形状が波形となる突起15aが突出部14の端縁に沿って複数列設されて前記凹凸形状が形成されている。」と記載され(上記第4.1.(3)イ.を参照)、【0019】には「前記波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)が0.1?1mmとなり、隣り合う突起15aの間隔が0.5?5mmとなるように形成されていることが怪我防止の観点から好ましい。」と記載されている(上記第4.1.(3)ウ.を参照)。
ここで、発明特定事項D及びEにおける「凸形状」なる語句自体は、当初明細書等に明記はないが、上記段落【0017】の「断面形状が波形となる突起15aが突出部14の端縁に沿って複数列設されて前記凹凸形状が形成されている」との記載(上記第4.1.(3)イ.を参照)及び【0044】の「本実施形態においては、断面形状が波型の突起が突起部の端縁部に沿って列設されている場合を例示しているが、このような突起に代えて、溝を端縁部に沿って列設させて突出部の端縁部の上面側に凹凸形状を形成させても良く」及び「例えば、線状の突起や線状の溝を、容器の中心部から外方に向けた方向に対して傾斜する方向に延在させたり、互いに交差させたりして凹凸形状を形成させることも可能である」との記載(上記第4.1.(3)エ.を参照)における「凹凸形状」とは、凸と凹が組み合わさった形状であると解するのが通常であることを踏まえると、上記「凸形状」は、当初明細書等に記載されていたに等しい事項といえる。
そして、上記段落【0017】及び【0044】の記載からみて、当初明細書等において、「突起15a」及び「突起」は「凹凸形状」を形成するための手段の一形態として説明されていることを踏まえると、発明特定事項D及びEにおける「凸形状の高さが0.1?1mmとなり」、「隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され」ることは、上記段落【0019】の記載に基づくものであるといえる。
ゆえに、発明特定事項D及びEは、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

ウ.発明特定事項Fに関し、当初明細書等の【請求項1】には「前記突出部の少なくとも端縁部は、上面側に凹凸形状が形成され且つ下面側が平坦に形成されている」なる事項が記載され(上記第4.1.(3)ア.を参照)、段落【0020】には「しかも、端縁部15の上面側15uに凹凸形状が形成され且つ下面側15dが平坦に形成されていることから前記蓋体20を外嵌させる際にこの平坦に形成された端縁部15の下面側15dに強固な係合状態を形成させることができる」なる事項が記載されている(上記第4.1.(3)ウ.を参照)から、発明特定事項Fは、当初明細書等に記載された事項である。
エ.以上のとおり、発明特定事項CないしFはいずれも当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、発明特定事項CないしEを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書22頁(2-4-1)等において、発明特定事項CないしEは、「特定作用効果」を奏する手段と解すべきこと、すなわち、本件発明1は、「特定作用効果」を発明特定事項とすべきものであることを前提として、「特定作用効果」は、当初明細書等に記載した事項ではないから、発明特定事項CないしEを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.3.(3)で述べたとおり、「特定作用効果」を、本件発明1の発明特定事項とすべきものとする理由はないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、発明特定事項CないしEを追加する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第1号に該当しないから、無効理由1-4により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

7.無効理由2-1(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより記載された、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるかについて
上記第4.3.(1)、(2)及び4.(1)で述べたように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1が、「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において、端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固に止着させうる容器を得る」ことを解決すべき課題とし、発明特定事項DないしFを含む、発明特定事項AないしGを備えることにより、「断熱性に優れ、上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザグとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ、下面側が平坦に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」という効果を奏し、上記課題を解決したものであることが記載されており、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段等についての技術上の意義を、当業者が理解するために必要な事項が記載されているといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36第4項第1号で委任する特許法施行規則第24条の2で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書23頁(2-5-1)等において、本件特許明細書には、発明特定事項A及びBで規定される容器において、その端縁部で指等を裂傷するといった怪我が生じることや、仮に怪我が生じるとしても、発明特定事項D及びEを満たすものは怪我を防止できることが例証されておらず、発明特定事項D及びEを満たす凸形状の高さが0.1mmで隣り合う凸形状の間隔が5mmのものは、その端縁部の断面が極めて直線に近くなるゆえに怪我を防止できないと考えるのが自然であることを踏まえると、本件特許明細書には課題解決手段が何ら記載されていないといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより記載された、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.2.(1)で摘記したとおり、「熱可塑性樹脂発泡シートに、非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートを用いて成形された容器(段落【0002】を参照)」は、「熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬さの差により、切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルムが柔らかい熱可塑性樹脂発泡シートよりも外側に突き出た状態となり、且つ熱可塑性樹脂フィルムの切断面の形状が鋭利になりやすく、容器に触れた際に、硬いフィルムで指等を裂傷する虞があり(段落【0005】を参照)」、「フィルム端縁で指等を裂傷するという課題を解決するために、突出部の上下面にジグザグとなる凹凸を形成させる(段落【0007】を参照)ことが従来から知られていたことを踏まえると、請求人の主張するような例証がなくとも、当業者は、本件特許明細書の記載により、本件発明が解決すべきとした課題が存在し、その課題を如何に解決したかという課題解決の機序を理解し得たというべきである。
そして、本件特許明細書において、発明特定事項D及びEに規定される数値範囲に関する例証がないことを踏まえると、当該数値範囲は、単に、本件特許に係る容器に適用する際の凹凸形状の大きさの程度を示したものと解するのが自然であり、当該数値範囲に係る例証がないからといって、課題解決の機序が不明であるとまではいえない。
したがって、請求人の上記主張は当を得ておらず、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由2-1により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

8.無効理由2-2(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)本件発明における「凸形状の高さ」の明確性について
本件発明1は、「しかも、該突出部の少なくとも端縁部の上面側には、凸形状の高さが0.1?1mmとなり隣り合う凸形状の間隔が0.5?5mmとなるように凹凸形状が形成され」(発明特定事項D及びE)を発明特定事項としている。
ここで、発明特定事項D及びEは、上記第4.6.(1)で示したように、当初明細書等の段落【0019】の記載を根拠として、補正により追加された事項であり、また、当初明細書等の段落【0017】及び【0044】の記載からみて、当初明細書等において、「突起15a」及び「突起」は「凹凸形状」を形成するための手段の一形態として説明されていることを踏まえると、本件発明における「凸形状の高さ」は、当初明細書等の段落【0019】に記載された「突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」に相当する語句であり、本件特許明細書の段落【0019】に記載された「突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」を意味することが明確である。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書24頁(2-6)等において、本件特許明細書の段落【0019】には、発明特定事項Dの「凸形状の高さ」の定義が「波形の突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」と記載されているが、甲4に示される主張(上記第4.1.(4)を参照)とは異なっており、二重に解釈され得る発明特定事項Dを含む本件発明1ないし3は明確であるとはいえない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.8.(1)で述べたとおり、「凸形状の高さ」は、本件特許明細書の段落【0019】に記載されたとおりに解釈されるから、請求人の「二重に解釈され得る発明特定事項Dを含む」ことを前提とした上記主張は、その前提を欠く主張であるといわざるを得ないから、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由2-2により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

9.無効理由2-3(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえるかについて
上記第4.3.で述べたように、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書27頁(2-7)等において、本件発明はパラメータ発明であり、発明特定事項D及びEに規定される数値範囲について、本件特許明細書に例証がないから、パラメータ発明の要件を満たしておらず、また、課題を解決できないものをも含むものであり、さらに、被請求人が主張する「凸形状の高さ」の定義が、本件特許明細書に記載されていないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえない旨を主張している。
しかしながら、本件発明の発明特定事項D及びEに規定される数値範囲は、上記第4.7.(2)で述べたように、単に、本件特許に係る容器に適用する際の凹凸形状の大きさの程度を示したものと解するのが自然であり、請求人が主張の根拠とする知財高裁平成17年(行ケ)第10042号(平成17年11月11日大合議判決)で判示された発明とは発明特定事項としての数値範囲の位置づけが異なるものである。
また、同じく上記第4.7.(2)で述べたように、本件発明の課題解決の機序が明らかである以上、例証がないことのみを理由に、本件発明は課題を解決できないものをも含むものであるとはいえない。
そして、上記第4.8.(1)で述べたとおり、「凸形状の高さ」は、本件特許明細書の段落【0019】に記載された「突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」を意味することが明確であるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえる。
したがって、請求人の上記主張はいずれも当を得ておらず、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由2-3により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

10.無効理由2-4(特許法第17条の2第3項違反及び同法第36条第6項第1号違反)について
(1)「凸形状の高さ」を含む発明特定事項Dを追加する補正について
上記第4.6.で述べたように、発明特定事項Dを含む、発明特定事項CないしEを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。

(2)発明特定事項Dは、本件特許明細書に記載されているかについて
上記第4.3.で述べたように、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(3)請求人の主張について
請求人は、請求書33頁(2-8)等において、本件特許明細書と当初明細書等とは、段落【0010】を除き記載内容が同じであるところ、被請求人が主張する「凸形状の高さ」の定義は、当初明細書等及び本件特許明細書の双方ともに記載されていないから、被請求人が主張する「凸形状の高さ」の定義を前提とする発明特定事項Dを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、また、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.8.(1)で述べたとおり、本件発明における「凸形状の高さ」は、当初明細書等の段落【0019】に記載された「突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」に相当する語句であり、本件特許明細書の段落【0019】に記載された「突起15aの高さ(図2、図3の“h1”)」を意味することが明確であるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものといえ、また、発明特定事項Dを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、請求人の上記主張は当を得ておらず、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、発明特定事項Dを追加する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第1号に該当せず、また、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由2-4により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

11.無効理由3-1(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)発明特定事項Cの明確性について
「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように、突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており、」という発明特定事項Cには、文言上の不明確な点はなく、当該発明特定事項Cは、「容器」という物の発明である本件発明1が、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように」なっているということと、「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」ということの双方を構成要件としていることを明確に規定するものと理解される。
一方、本件特許明細書には、上記第4.2.(2)で摘記したように、その段落【0019】において「そして、前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。」及び「すなわち、前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており、この厚みが減少している領域において丸みを帯びた形状が形成されている。」という2つの事項が記載されている。
ここで、上記2つの事項は、「すなわち、」という接続詞で接続されていることを踏まえると、「端縁部15が圧縮された状態」が「前記突出部14は、開口縁13近傍から端縁部15にかけて厚みが減少されており」という状態を生み出すこと、すなわち、上記段落【0019】には、「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」という事項が記載されているといえることが明らかである。
そして、上記「前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となるように端縁部15が圧縮された状態となっている。」という事項は、その文脈から、「端縁部15が圧縮され」るという方法により、「前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となる」形状ないし状態が実現することを述べているにすぎず、上記方法により作られた容器は、「前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となる」形状ないし状態と、「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」という形状ないし状態との双方を具備した物といえ、そうした物である「容器」の発明が、上記段落【0019】の記載事項から把握されるといえる。
このように、上記理解は、本件特許明細書の記載とも整合するものであるから、発明特定事項Cが規定する事項及び発明特定事項Cを含む本件発明1ないし3は、明確であるといえる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書34頁(2-9)等において、発明特定事項Cは、本件特許明細書の段落【0019】に記載された「圧縮薄肉化を原因とし、端縁部の上面が、収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比べて下位となる」ものを意味すると解釈されることを前提として、発明特定事項Cの記載は、圧縮薄肉化を原因とせず、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように」なっているものをも含むものであり、二重の解釈がなされ得る不明確な記載である旨を主張している。
しかしながら、上記第4.11.(1)で述べたとおり、本件発明1は、「容器」という物の発明であり、上記段落【0019】の記載事項からは、「物」の発明として、「前記端縁部15の上面は、収容凹部の開口縁13近傍の突出部14の上面に比べて下位となる」形状ないし状態と、「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」という形状ないし状態との双方を具備した「容器」が把握されることを踏まえると、請求人のいう「圧縮薄肉化」は、前記双方を具備した「容器」を実施するための方法の一つと解するのが自然である。
そして,本件特許明細書には,「端縁部の上面が,収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比べて下位となる」ことが、「圧縮肉薄化を原因とし」なければならないことが、本件発明1の解決すべき課題と密接に関連している旨や、このことにより格別な作用効果を奏する旨の記載はない。
してみると、発明特定事項Cは、「圧縮薄肉化を原因とし、端縁部の上面が、収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比べて下位となる」ものを意味すると解釈されるべきものとはいえないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由3-1により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

12.無効理由3-2(特許法第17条の2第3項及び同法第36条第6項第1号違反)について
(1)発明特定事項Cは本件特許明細書に記載されているか及び発明特定事項Cを追加する補正について
上記第4.11.(1)で述べたように、「容器」という物の発明である本件発明1が、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように」なっているということと、「突出部の端縁部において前記熱可塑性樹脂発泡シートが圧縮されて厚みが薄くなっており」ということの双方を構成要件としていることを明確に規定する発明特定事項Cは、本件特許明細書の記載とも整合するものであるから、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
また、段落【0010】を除き記載内容が同じである当初明細書等の記載についても、同様の理由により、発明特定事項Cと整合するものであるといえるから、発明特定事項Cを追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、請求書37頁(2-10)等において、本件特許明細書及び当初明細書等には、「圧縮薄肉化を原因とし、端縁部の上面が、収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比べて下位となる」ものしか記載されていないことを前提として、圧縮薄肉化を原因とせず、「前記突出部の端縁部の上面が収容凹部の開口縁近傍の突出部の上面に比して下位となるように」なっているものをも含む発明特定事項Cは、当初明細書等及び本件特許明細書には記載されていない旨を主張している。
しかしながら、上記第4.12.(1)で述べたように、発明特定事項Cは、本件特許明細書及び当初明細書等の記載とも整合するものであり、請求人の上記主張はその前提を欠くものであるから、採用できない。

(3)小括
以上のとおり、発明特定事項Cを追加する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第1号に該当せず、また、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効理由3-2により本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。

第5.むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1-1ないし3-2によっては、本件発明1ないし3に係る特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-31 
結審通知日 2018-06-07 
審決日 2018-06-20 
出願番号 特願2008-52392(P2008-52392)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (B65D)
P 1 113・ 537- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾形 元  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
西藤 直人
登録日 2013-07-05 
登録番号 特許第5305693号(P5305693)
発明の名称 容器  
代理人 深澤 拓司  
代理人 栗原 弘  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 上野 さやか  
代理人 東崎 賢治  
代理人 近藤 正篤  
代理人 三村 量一  
代理人 ▲高▼梨 義幸  
代理人 面山 結  
代理人 長坂 省  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ