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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
管理番号 1355446
審判番号 不服2018-9933  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-20 
確定日 2019-09-17 
事件の表示 特願2015-518625「バイオマス基剤の処理のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月27日国際公開、WO2013/192572、平成27年 8月27日国内公表、特表2015-524856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年6月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月22日(US)米国、2013年3月15日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月21日手続補正書が提出され、平成29年7月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内に応答が無く、平成30年3月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年7月20日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成30年7月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「 【請求項1】
バイオマスの処理のための方法であって、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む方法。」
を、補正後の特許請求の範囲の請求項1である
「 【請求項1】
バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-2)前記バイオマスは、農業残渣、好ましくは(optionally)トウモロコシ茎葉、麦わら、バガス、もみ殻、もしくは稲わら;木材および森林残渣、好ましくは(optionally)マツ、ポプラ、ダグラスファー、オーク、おがくず、紙/パルプ廃棄物、もしくは木質繊維;藻類;葛;石炭;セルロース、リグニン、草本エネルギー作物、好ましくは(optionally)スイッチグラス、クサヨシ、もしくはススキ;好ましくは(optionally)リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを含むリグノセルロース系バイオマス;植物バイオマス;またはそれらの混合物である、方法;
(1-3)加熱は、電磁(EM)加熱、好ましくは(optionally)電磁スペクトル内の可変周波数、可変周波数加熱、高周波(RF)加熱、またはそれらの組合せの適用を含む第1の段階、および超音波、電磁(EM)、対流、伝導加熱、またはそれらの組み合わせの適用を含む第2の段階の、少なくとも2つの段階を含む、方法;
(1-4)超音波、電磁(EM)、対流加熱、伝導加熱、またはそれらの組み合わせの前記適用は、3?30分、5?30分、または3?4時間行われる、(1-3)に記載の方法;
(1-5)前記高周波は、約1?900MHz、300kHz?3MHz、3?30MHz、30?300MHzの間、13、13.56、27、27.12、40、または40.68MHzの周波数を含む、方法;
(1-6)前記バイオマスは、1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される、方法;
(1-7)処理されたバイオマスを洗浄することをさらに含む、方法;
(1-8)前記洗浄することは、前記バイオマスを、水および前記イオン液体(IL)と混和性であるセルロースに対する液体非溶媒で洗浄することを含む、(1-7)に記載の方法;
(1-9)洗浄に使用される前記液体非溶媒は、水、アルコール、アセトニトリル、または、前記イオン液体(IL)を溶解し、それにより前記バイオマスから前記ILを抽出する溶媒である、(1-8)に記載の方法;
(1-10)前記イオン液体は、活性炭処理、蒸留、膜分離、電気化学的分離技術、固相(sold-phase)抽出 液-液抽出、またはそれらの組み合わせの1つ以上から選択される方法により、前記液体非溶媒から回収される、(1-9)に記載の方法;
(1-11)前記イオン液体は、前記イオン液体を脱水する電磁加熱、好ましくは(optionally)高周波加熱の適用により、前記液体非溶媒から回収される、(1-9)に記載の方法;
(1-12)前記バイオマスは、撹拌を伴うさらなる加熱、超音波加熱、電磁(EM)加熱、対流加熱、伝導加熱、マイクロ波照射、またはそれらの組み合わせに、好ましくは(optionally)加熱中の断続的な撹拌と共に供される、方法;
(1-13)前記イオン液体は、アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム、リチウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピコリニウム、ピロリジニウム、チアゾリウム、トリアゾリウム、オキサゾリウム、またはそれらの組み合わせを含むカチオン構造を含む、方法;
(1-14)前記イオン液体は、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、またはそれらの組み合わせから選択されるカチオンを含む、(1-13)に記載の方法;
(1-15)前記イオン液体(IL)は、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、3-メチル-N-ブチルピリジニウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、またはそれらの組み合わせである、方法;
(1-16)高周波(RF)加熱を受けている前記バイオマスの状態は、センサ、好ましくは(optionally)液体流量センサ、熱電対センサ、温度センサ、塩分センサ、またはそれらの組み合わせを用いて監視される、方法;
(1-17)前記処理されたバイオマスを、生化学試薬、好ましくは(optionally)酵素で処理して、セルロースおよびヘミセルロースを糖、好ましくは(optionally)六炭糖および五炭糖に変換することをさらに含む、方法;
(1-18)前記生化学試薬は、好熱性酵素、好ましくは(optionally)約70℃まで活性である酵素である、(1-17)に記載の方法;
(1-19)酵素を回収することをさらに含む、方法;または
(1-20)前記処理は、タンパク質およびリグニンを含む固体残渣を生成する、方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「バイオマスの処理のための方法」について、補正前の請求項2?20に記載されていた「バイオマスの処理のための方法」を(1-2)?(1-20)の選択肢として限定を付加するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

ア 刊行物
刊行物1:米国特許出願公開第2008/0190013号明細書(原審における引用文献1)
刊行物2:欧州特許出願公開第1860201号明細書(原審における引用文献4)
刊行物3:国際公開第2005/017001号(原審における引用文献3)
刊行物4:社団法人日本化学会編、「第5版実験化学講座26 -高分子化学-」,p.372下から8行?p.373第20行、丸善株式会社発行(平成17年)
刊行物5:Yukinobu Fukaya et al., Green Chem., 2008, 10, pp.44-46(刊行物4及び刊行物5は技術常識を示すための文献である。)

イ 刊行物の記載事項
(ア)刊行物1について
刊行物1には、以下の事項が記載されている。以下当審による訳文で示す。

(1a)「請求の範囲
1.イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成することによって、リグノセルロース材料を前処理し、溶解したリグノセルロース系物質をバイオ燃料又はバイオ燃料の直接調製の反応物に変換する一つ以上の更なる工程を行うことを備えることを特徴とする、リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法。
2.溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。 」

(1b)「本発明は、イオン性液体媒体中の木質材料、リグニン材料、セルロース材料、またはリグノセルロース材料の溶解を含むバイオ燃料の調製における前処理技術を提供する。前処理は、リグノセルロース材料を溶解し、適切な再生溶媒(例えば、水や極性溶媒)を添加することにより溶媒和物を沈殿させることを含む。本発明は、特に、イオン液体中のリグノセルロースの溶媒和が、リグノセルロースを加水分解セルロース分解酵素で迅速に浸透および加水分解し、糖源としてグルコースを放出するグルコースを放出することができるような状態にすることを特徴とする。従って、本発明は、リグノセルロースをバイオ燃料に前処理および転化するための、効率的で経済的で環境に優しい技術を提供する。 」([0013])

(1c)「本発明で使用されるイオン液体は、一般的に、一つ以上のアニオンおよび一つ以上のカチオンを含む。好ましい実施形態において、イオン液体は、1種以上の化合物は、置換基、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルケンオキシ、アルキンオキシ、アリールオキシ、(無置換または置換)フェニル基のような、種々の芳香族化合物(置換または非置換)、ベンジル(置換または非置換)フェノキシ、(置換または非置換)、例えば、ベンゾキシ、および1、2、またはリング部に3個のヘテロ原子を有する複素環式芳香族化合物を含み、前記複素環は、置換された又は置換されてない誘導体化によって作製された有機カチオンを含む。誘導体化された化合物は、限定されないが、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、アザチオゾール、オキソチアゾール、オキサジン、オキサゾリン、オキシアザボロール、ジチオゾール、トリアゾール、デレノゾール、オキサホスホール、ピロール類、カルボライド、フラン、チオフェン、ホスホール、ペンタゾール、インドール、インドリン、オキサゾール、イソキサゾール、イソテトラゾール、テトラゾール、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアジアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、ピラン、アノリン、フタラジン、キナゾリン、グアニジニウム、キノキサリン、コリンベースの類似体、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
・・・
具体的には、本発明による使用のためのイオン液体の非限定的な例としては、1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド("BmimCl");1-アリル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド("AmimCl");
・・・
従って、本発明は、明らかに、式(1)?(15)に示すように、化合物の形成を包含するが、カチオン部分は、ピリジニウムカチオンである。換言すれば、本発明は、特に、ピリジニウムクロリド、ピリジニウムホスフェートを包含する。特定の実施形態では、本発明にかかる有用なイオン液体は、アリル-メチル-ピリジニウムクロリド、ピリジニウムクロリド、ピリジニウムクロリド、ベンジル-メチル-ピリジニウムクロリド、イソプロピ-1-メチル ピリジニウム クロリド、1-m-メトキシベンジル-メチル-ピリジニウム クロリド、1-m-メチルベンジル-メチル-ピリジニウム クロリド、またはベンジル-メチル-ピリジニウムクロリドを包含する。同様に、複数の燐酸ピリジニウムイオン液体は、式(7)?(15)の化合物に基づいて使用してもよいイミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンで置換されていることが明らかである。本開示に基づいて、本発明による使用のためのなおさらなるイオン液体にどのようにも明らかである。例えば、上述のように有用なイオン液体は、イミダゾリウムカチオン又は任意の好適なアニオンと対になったピリジニウムカチオンに基づくことができる。同様に、上述のように有用なイオン液体は、塩化物アニオン、または任意の適切なカチオンと対になるアニオンに基づくことができる。」([0035]?[0039])

(1d)「従って、本発明は、特に、多種多様なセルロースおよびリグノセルロースのバイオマスとして使用することができることを特徴とする。例えば、本発明において使用されるバイオマスは、草質および木質の両方の供給源に由来することができる。本発明による有用な草本系バイオマス源の非限定的な例としては、タバコ、トウモロコシ、トウモロコシ茎葉、とうもろこしかす、トウモロコシ、サトウキビバガス、ヒマ植物、菜種植物、大豆植物、麦わら、穀物加工副産物、竹、竹パルプ、竹材鋸屑、エネルギー草、スイッチグラス、ススキ、クサヨシなど。」([0050])

(1e)「本発明の前処理方法は、イオン液体を用いて溶媒和リグノセルロースを含む。リグノセルロース系材料の溶解は、様々な条件下で実施することができる。例えば、特定の実施形態において、前処理プロセスで使用されるイオン液体は、実質的に水の不存在下で(すなわち、実質的に水を含まない)。他の実施形態では、前処理工程で使用されるイオン液体は、窒素含有塩基(すなわち、任意の窒素含有塩基を実質的に含まない)の実質的な欠如である。
・・・
リグノセルロースは、イオン液体媒体に添加することができ、完全に溶解するまで混合物を適当な反応容器中で撹拌することができる。ある実施形態では、混合物を、超音波浴中、油浴またはマイクロ波照射により行うことができる。イオン液体は、約150℃未満、より好ましくは約100℃未満、より好ましくは約85℃未満の温度で溶解されるような温度は、イオン液体でリグノセルロースを溶解させるのに十分である。好ましくは、イオン液体でリグノセルロース材料の反応混合物を不活性雰囲気下に維持されるように、前処理が行われる。一実施形態では、溶解は、アルゴン雰囲気下で行われる。別の実施形態では、溶解は窒素雰囲気下で実施される。これは、イオン液体内への水の導入を避けるために特に有用である。本発明による反応は、しかしながら、反応容器を大気に開放し得る限り反応容器の周囲の空気中の過剰な水の存在を避けるように相対湿度が低い。」([0056]?[0057])

(1f)「前処理は、リグノセルロースを溶解するのに有用であり、従って、酵素活性などのさらなるアクションを受け易い形態でそれらを提供する。その天然の形態において木材を含むリグノセルロース材料の完全な溶解は、リグノセルロース系材料をイオン液体と単に混合することによって達成することができる。好ましくは、混合は、イオン液体の液体状態を維持するのに適した温度で実施される。特定の実施形態では、混合は約50℃?約150℃の温度で、約60℃?約140℃、約70℃?約130℃、または約80℃?約120℃で実施される。温度が上昇するに従い、全溶解までの時間を短縮させる傾向はあるものの、室温でも全溶解が可能である。例えば、木材鋸屑を乳鉢でAmimClと穏やかに均質化され、続いて試料試験管(アルゴン下)に変換されるとき、混合物は時間が経つと液(完全溶解)になる。温度はまた、イオン液体の組成によって調整することができる。より低い粘度を有するイオン液体は、低温で使用することができ、一方、より高い粘度を有するイオン液体は、高い温度を必要とし得る。」([0058])

(1g)「好ましくは、前処理のための反応パラメータは調整されて完全な溶解を所望の時間内に達成されるようになっている。例えば、特定の実施形態では、完全な溶解は約48時間未満、約36時間未満、約24時間未満、約18時間未満、約12時間未満、約10時間未満、約8時間以下、約6時間以下、約4時間、約2時間、又は約1時間未満の時間で達成されるように前処理が行われる。当然ながら、溶解を完了するための時間は、本発明の様々な実施形態に応じて、イオン液体の性質、イオン液体のリグノセルロース材料の充填、適用される温度、及び材料の減少の程度の様々な要因に関連する。」([0059])

(1h)「溶解は、任意の既知の撹拌手段を用いて機械的撹拌の適用を容易にすることもできる。木材繊維の完全な溶解を達成するAmimClにノルウェートウヒおがくずサンプルの調査は、ホットステージ光学顕微鏡法を用いて実証されている。温度120℃での時間の関数としての木材の光学顕微鏡写真分析は、4時間後に、目に見える繊維材料は、イオン液体によって完全に溶解したことを示した。
リグノセルロース材料の性質に応じて、さらなる考察を行うことが、さらに有用であり得る。例えば、木材の溶解速度は、木材の粒子サイズに依存することができる。なお、リグニン、セルロース、およびヘミセルロース間の木質細胞壁の複雑なかつコンパクトな構造は、本質的に、その内部にイオン液体が拡散するのを防止し、木材チップの部分的な溶解のみに起因すると考えられる。リグノセルロースの溶解度、特にそのネイティブな形態では、木材は、サンプル調製により高めることができる。イオン液体でリグノセルロース材料の可溶化効率が、特定の実施形態では、以下のように定義することができる(減少させる可溶化に基づいて示す) ボールミル粉砕木粉>おがくず>熱化学パルプ繊維>ウッドチップ。例えば、微細な屑のイオン液体中の溶解(ノルウェートウヒは、粒径=0.1-2mm)は数時間以内に起こり、周囲条件下でさえ起こることが示されている」([0060]?[0061])

(1i)「前述した前処理段階から回収された前処理済みリグノセルロース系材料は、バイオ燃料を製造する公知の方法において直接的に用いられることができることが有益である。上述したように、イオン液体から回収した後、前処理したリグノセルロース系材料は、再生された形は、更なる反応を受け易くすることである。例えば、前処理されたリグノセルロース材料は、リグノセルロース材料を糖に変換するためのそのようなプロセスのために通常適用される典型的な条件を用いた酵素的加水分解に供することができる。形成される糖の種類は、酵素経路および加水分解条件に応じて変化させることができる。典型的には、グルコースは、その後エタノールに変換するために形成されている。
・・・
酸加水分解の代わりに、セルロース転換プロセスは、酵素的加水分解を含む処理を用いて開発されてきた。酵素的加水分解によって典型的な処理は、支持体と水とを混合して、セルロースの重量で5%?12%のスラリーとして、その後にセルラーゼ酵素を添加することによって行われる。典型的には、加水分解は、50℃およびpH5で、24?150時間実施される加水分解の終了時に、水溶性の、グルコースが液体中にある基板の変換されないセルロース、リグニン、および他の不溶性部分は浮遊したままである。グルコースシロップは、加水分解スラリーを濾過することによって回収し、繊維固体のいくつかの洗浄を行い、グルコースの収率を増加させる。」([0077]?[0079])

(1j)「このように形成されているグルコース(または他の糖)は、バイオ燃料を製造するために典型的な発酵プロセスにおいて使用することができる。換言すれば、本発明の方法は、形成される糖を生物燃料、糖を所望のバイオ燃料を形成するのに有用な細菌と接触させる工程によるなどに変換する微生物を含むことができる。また、製造された最終的なバイオ燃料は、加水分解工程で製造された糖のタイプに依存して変化させることができる。一実施形態では、細菌はエタノールを形成することができる細菌である。炭水化物の発酵に基づく、様々な従来のエタノールプロセスがある。最も典型的なプロセスにおいて、糖は、酵母によって発酵させてエタノールを生成する。二酸化炭素は、酵母の代謝による炭水化物の過程で生成される。酵母は、一般的に、グルコース以外の糖を利用する能力が限られていた。グルコースは、穀物由来のデンプンの加水分解から生成される主要な糖であるが、一般的には、炭水化物において生成される唯一の糖ではない。加水分解物は、典型的にはグルコースを含むが、キシロースのような他の糖も多量に代謝することができない。研究は、酵母とは対照的に、多くの場合バイオマスの加水分解に由来する糖の大部分を消費して酵母以外の生物体の使用に向けられている。例としては、遺伝的にキシロースを利用するように操作されたザイモモナス(Zymomonas)属細菌および大腸菌細菌が挙げられる。これにより、エタノールに変換可能な基質として可能性の幅が増加している。」([0081])

(イ)刊行物2について
刊行物2には、以下の事項が記載されている。以下当審による訳文で示す。

(2a)「請求の範囲
1.セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合することを含む、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、カチオンおよびアニオンのみからなる化合物であって、150℃以下の温度で液体状態で存在し、水の存在下、25℃で2未満のpKaを有する酸で、得られる溶液を処理することを特徴とする水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法。
・・・
6.酸との反応は、50?200℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。 」

(2b)「グルコースは、特にエタノール及びその他の薬品に発酵のための重要な中間体である;したがって、セルロースの糖化は、バイオ燃料開発において関心のあるものである。化学的触媒、酵素触媒、微生物学的触媒及びマクロ生物学的触媒は、生成物形成に熱力学的に有利に選択された条件下でセルロースの加水分解を促進するために使用することができる。セルロースの化学的及び酵素的加水分解は、「ポリマーサイエンスおよびテクノロジーの百科事典」、第2版、J.I.Kroschwitz(Ed in Chief),Wiley(New York),1985に記載されている。かくして、セルロースは、セルロース分解酵素(セルラーゼ)又はトリコデルマ(Trichoderma)種のような採取された糸状菌類を用いて加水分解することができる。
・・・
これら公知の方法に伴う低収率及び/又は厳しい条件のために、化学的手段によりセルロースを加水分解する改良された方法についての必要性が依然として存在する。具体的には、糖への適切な高度の転化を得るために比較的穏やかな条件下で行うことができる比較的迅速な反応についての必要性が存在する。」([0003]?[0005])

(2c)「従って、本発明は、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、セルロースが少なくともある程度の溶解度を有し、上記イオン液体がカチオンおよびアニオンのみから構成される化合物であると、150℃以下の温度で液体状態で存在するイオン液体とセルロースを混合し;得られた溶液を、水の存在下で、2未満の水中でのpKaを有する前記酸を25℃で処理することを含む方法を提供する。」([0006])

(2d)「加水分解されるセルロースは、セルロース系バイオマス、都市の廃棄物又はその他の供給源から精製するか又は作り出すことができる。それは、液体により湿潤されやすい任意の形態で使用することができる。例えば、セルロースは、木材(特に、木材チップ及び木材パルプ)、綿、レーヨン、酢酸セルロース、紙、リンター、トウモロコシ茎葉またはスイッチグラスなどの草、バガス(サトウキビ残渣)に由来してもよい。」([0007])

(2e)「本発明の方法は、任意の適切な温度で実施することができる。セルロースのイオン液体との混合物は、当然のことながら、イオン液体が事実液体である温度で実施しなければならない。後続の酸との反応は、必要に応じて、加熱により促進することができる;例えば、その反応は、50?200℃、好ましくは70?150℃、例えば90?95℃の温度で行うことができる。加熱は、任意の適切な方法によって、例えば慣用的な加熱方法、マイクロウエーブ加熱又は超音波又は赤外線照射のような他の供給源を使用することができる。好ましくは、反応は大気圧下で行われる。」([0012])

(2f)「本発明の方法に使用されるイオン液体は、カチオンとアニオンとからなり、かつ、150℃以下の温度で液体状態で、好ましくは100℃以下、例えば-100℃から150℃である化合物であり、好ましくは-10?100℃である。セルロースは、イオン液体中で少なくともある程度の溶解性を有することが必要である。好ましくは、イオン液体は、セルロースが容易に溶解するものが選択される。セルロースのイオン液体との混合条件は、実質的に全てのセルロースが溶解して均一な溶液を形成するように選択してもよいし、一部のセルロースが溶解せずに残っていてもよい。後者の場合に、残留固形物質は、必要に応じて、任意の好適な方法によってイオン液体中のセルロースの溶液から除去することができる、あるいは、混合物は、さらに処理することなく使用することができる。適切には、単純な溶解が起こるイオン液体、すなわち、セルロース誘導体化のない溶液が選択される。当然のことながら、イオン液体は、本発明の方法で使用される強酸の存在下で十分に不活性であるべきであり、酸を中和する塩基性基を含有するイオン液体は望ましくない。」([0013])

(2g)「本発明の方法において用いるために好ましいイオン液体は、米国特許第6,284,599号に開示されている。イオン液体のカチオンは、好ましくは環状であり、好ましくは、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、トリアゾリウム、チアゾリウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、キノリニウム及びイソキノリニウムから選択される任意に置換された陽イオンを含む、好ましくは

からなる群より選択される式に構造が対応する。 式中、R^(1)およびR^(2)は、独立して、存在する場合、C_(1)-C_(6)アルキル基またはC_(1)?C_(6)アルコキシアルキル基であり、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)およびR^(9)は、(R^(3)?R^(9))は、ヒドリド、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシアルキル基、またはC_(1)-C_(6)アルコキシ基から独立して選択される。より好ましくは、R^(1)およびR^(2)基は、C_(1)?C_(4)アルキルであるが、一方はメチルであり、R^(3)-R^(9)は、存在する場合には、ヒドリドであることが好ましい。典型的なC_(1)?C_(6)アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、ペンチル、イソ-ペンチル、ヘキシル、2-エチルブチル、2-メチルペンチル等が挙げられる。対応するC_(1)?C_(6)アルコキシ基は、カチオン環にも結合している酸素原子に結合した上記C_(1)?C_(6)アルキル基を含む。アルコキシアルキル基は、アルキル基に結合したエーテル基を含有し、ここで、合計6個までの炭素原子を含有する。2の異性体の1,2,3-トリアゾールであることに留意すべきである。陽イオン形成に必要でないすべてのR基はヒドリドであることが好ましい。
・・・
1,3-ジ-(C_(1)?C_(6)アルキルまたはC_(1)?C_(6)アルコキシアルキル)-置換-イミダゾリウムイオンは、式AのR^(3)-R^(5)が、それぞれヒドリドである特に好ましいカチオンは、イミダゾリウムカチオンであり、R^(1)およびR^(2)は独立してC_(1)?C_(6)-アルキル基またはC_(1)?C_(6)アルコキシアルキル基である。より好ましくはまだ1,3-ジ-C_(1)-C_(6) アルキル基(R^(1)またはR^(2)はメチルである)のうちの1つである。
・・・
1-(C_(1)-C_(6) -アルキル)-3-(メチル)-イミダゾリウム[C_(n)-mim,ここでn=1-6]カチオンは最も好ましく、ハロゲンは好ましいアニオンである。最も好ましい陽イオンは構造式Bに対応する化合物によって図示され、以下である場合、式AのR^(3)?R^(5)は、各々、ヒドリドであり、R^(1)はC_(1)?C_(6)アルキル基またはC_(1)?C_(6)アルコキシアルキル基である。最も好ましいアニオンは塩化物イオンである。」([0014]?[0019])

(2h)「実施例1
繊維セルロース(2.5g、Aldrich)を、オーバー・ヘッド攪拌機及び半月パドルを取り付けた250mLの丸底フラスコの中で、90℃で溶解1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド([C_(2)-mim]Cl)(25g、Fluka)に添加し、100rpmで約2時間攪拌し、溶解されたセルロースの粘稠、均一な溶液を得た。1mlの濃縮。HClは、撹拌してセルロース溶液を、次いで、400rpmで30分間攪拌した。この期間にわたって、長鎖セルロースポリマーの分解は、反応混合物の粘度の減少によって直接観察することができた。反応混合物から試料を採取し、蒸留水でクエンチし、分析した。セルロースの45%は、グルコース末端基を有する水溶性生成物に転化された。」([0027]?[0028])

(ウ)刊行物3について
刊行物3には、以下の事項が記載されている。以下当審による訳文で示す。

(3a)「請求の範囲
1.リグノセルロース材料を溶解する方法であって、リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、マイクロ波照射下および/または加圧下で、水の実質的な不在下で混合してリグノセルロース材料を完全に溶解することを含む、方法。
・・・
4.イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解される、請求項1に記載の方法。 」

(3b)「本発明は、木材、わら及び別の天然のリグノセルロース材料を溶解する方法、及び得られた溶液に、ならびに、リグニン及び抽出物のような、セルロース及び他の有機化合物を分離して得られた溶液のための方法に向けられている。」(第1頁第3行?第5行)

(3c)「植物繊維から得られるパルプは、紙、板紙、繊維板、及び他の同様の工業製品の製造用原料である。その精製された形では、レーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品のセルロース源である。
木材はパルプ用繊維の主要な供給源である。他の供給源としては、藁、草および茎を含む。パルプ繊維は、主として、天然に見出される任意の維管束植物から抽出することができ、また、藁や草、例えば米、エスパルト、麦、サバイのような木材源から、線条部材及びリードは、例えば、バガスまたはサトウキビ;数種の竹の靭皮繊維、例えば、ジュート、亜麻、ケナフ、リネン、ラミー、大麻、葉繊維、例えばマニラ麻、またはマニラ麻及びサイザル麻である。」(第1頁第7行?第16行)

(3d)「マイクロ波
反応の発生に必要なエネルギーを、マイクロ波照射を使用することによってシステムに導入される場合、それは、有機反応の反応時間が顕著に低減されるが、有機合成に関する最近の文献から知られている。反応の発生に必要なエネルギーを、マイクロ波照射を使用することによってシステムに導入される場合、それは、有機反応の反応時間が顕著に低減されるが、有機合成に関する最近の文献から知られている。マイクロ波エネルギー用に一般的に用いられる周波数は、2.45GHzである。」(第5頁第20行?第24行)

(3e)「本発明の一態様において、リグノセルロース材料を完全に溶解させ、マイクロ波照射下でイオン液体溶媒と、及び/又は実質的に水の非存在下でリグノセルロース材料を含むリグノセルロース材料を溶解するための方法が提供される。
・・・
リグノセルロース系材料の溶解は、0℃と250℃の間の温度、好ましくは20℃と200℃の間の温度で、より好ましくは50?170℃の温度、80℃と150℃との間などで行うことができる。加熱は、マイクロ波照射により行うことができる。
・・・
イオン液体は、溶媒が-100℃と200℃の間の温度で、好ましくは170℃未満の温度で、より好ましくは-50℃と120℃の間で溶解する。
・・・
好ましいイオン液体溶媒1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウム クロリド(BMIMCl)の融点は約60℃である。」(第7頁第2行?第10頁第18行)

(3f)「実施例1
合板のおがくずの溶解。
50mgの合板のおがくずは、1%溶液中にイオン液体(BMIMCl、5g、融点60°C)と混合した。得られた混合物を80?150℃の範囲の温度で10分間で有機合成用に設計されてMW反応器内でマイクロ波によって加熱した。部分的な溶解は検出できなかった。実験後に得られた溶液は濁っていた。曇りは、合板に存在する接着剤に起因した。

実施例2
針葉樹の溶解。
フィンランド産軟材の小片112mgをイオン液体(BMIMCl、5g、融点60°C)と混合した。得られた混合物を80?150℃の範囲の温度で10分間で有機合成用に設計されてMW反応器内でマイクロ波によって加熱した。
80℃で10分後、木材の溶解が観察された。木材スティックが透明になると小繊維の外側層は、スティックの表面上に出現した。加熱を100℃で1時間10分で続けた。木材スティックは徐々に溶液に溶解した。サイズ減少されながら、スティックは、その木質の構造を徐々に失われ、溶液中に徐々に溶解する繊維の束状になった。150℃で1時間加熱した後、まだ残っている少量の未溶解物質が完全に溶解し、琥珀色の透明で粘稠な溶液が得られた。

実施例3
藁は、1%溶液の溶解。
50mgの1%溶液中にイオン液体(BMIMCl、5g、融点60°C)と混合した。得られた混合物を170℃で10分間、有機合成のために設計されてMW反応器内でマイクロ波によって加熱した。完全な溶解は検出された暗い琥珀色の透明な粘性溶液を得てもよい。

実施例4
藁は、2%溶液の溶解。
100mgの2%溶液中にイオン液体(BMIMCl、5g、融点60°C)と混合した。得られた混合物を170℃で10分間、有機合成のために設計されてMW反応器内でマイクロ波によって加熱した。完全な溶解を検出することができ、その結果、暗色、透明および粘稠な溶液が得られた。粘度は、実施例3の1%溶液と比較して若干増加した。」(第13頁第2行?第14頁第13行)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「1.イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成することによって、リグノセルロース材料を前処理し、溶解したリグノセルロース系物質をバイオ燃料又はバイオ燃料の直接調製の反応物に変換する一つ以上の更なる工程を行うことを備えることを特徴とする、リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法。
2.溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。」と記載されている(摘記(1a))。
(1c)には、「イオン液体」として、「1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド」等のイミダゾリウムが用いられることが具体的例示を伴って記載されている。
(1d)には、「リグノセルロース材料」として、タバコ、トウモロコシ、トウモロコシ茎葉、とうもろこしかす、トウモロコシ、サトウキビバガス、ヒマ植物、菜種植物、大豆植物、麦わら、穀物加工副産物、竹、竹パルプ、竹材鋸屑、エネルギー草、スイッチグラス、ススキ、クサヨシなどが具体的例示を伴って記載されている。
(1f)には、溶解における温度として、「特定の実施形態では、混合は約50℃?約150℃の温度で、約60℃?約140℃、約70℃?約130℃、または約80℃?約120℃で実施される」ことが具体的例示を伴って記載されている。
(1i)には、「前処理されたリグノセルロース材料は、リグノセルロース材料を糖に変換するためのそのようなプロセスのために通常適用される典型的な条件を用いた酵素的加水分解に供することができる。形成される糖の種類は、酵素経路および加水分解条件に応じて変化させることができる。典型的には、グルコースは、その後エタノールに変換するために形成されている。」と記載され、(1j)には、「このように形成されているグルコース(または他の糖)は、バイオ燃料を製造するために典型的な発酵プロセスにおいて使用することができる。換言すれば、本発明の方法は、形成される糖を生物燃料、糖を所望のバイオ燃料を形成するのに有用な細菌と接触させる工程によるなどに変換する微生物を含むことができる。また、製造された最終的なバイオ燃料は、加水分解工程で製造された糖のタイプに依存して変化させることができる。一実施形態では、細菌はエタノールを形成することができる細菌である」ことが具体的例示を伴って記載されている。
そうすると、刊行物1には、請求項1を引用する請求項2に係る発明として、「イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成することによって、リグノセルロース材料を前処理し、溶解したリグノセルロース系物質をバイオ燃料又はバイオ燃料の直接調製の反応物に変換する一つ以上の更なる工程を行うことを備える、リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法であって、溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合することを含む方法」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

(ア)対比・判断
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
前述のとおり、本願補正発明は、(1-2)?(1-20)の選択肢を有していることから、以下、引用発明1と、本願補正発明の(1-2)、(1-6)、(1-13)?(1-15)、(1-17)を選択した場合をそれぞれ対比する。

a-1 本願補正発明において(1-2)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-2)」という。)

本願補正発明(1-2)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-2)前記バイオマスは、農業残渣、好ましくは(optionally)トウモロコシ茎葉、麦わら、バガス、もみ殻、もしくは稲わら;木材および森林残渣、好ましくは(optionally)マツ、ポプラ、ダグラスファー、オーク、おがくず、紙/パルプ廃棄物、もしくは木質繊維;藻類;葛;石炭;セルロース、リグニン、草本エネルギー作物、好ましくは(optionally)スイッチグラス、クサヨシ、もしくはススキ;好ましくは(optionally)リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを含むリグノセルロース系バイオマス;植物バイオマス;またはそれらの混合物である、方法」

(a)引用発明1の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(1d)の「本発明は、特に、多種多様なセルロースおよびリグノセルロースのバイオマスとして使用することができることを特徴とする」との記載からみて、引用発明1の「リグノセルロース系材料」は、リグノセルロースのバイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明1の「リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法」は、リグノセルロース系材料を燃料に変換して処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明1において、「イオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する」ことは、リグノセルロース系材料とイオン液体と混合していることは明らかであるから、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明1の「イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する・・・前処理し、・・・溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合」することと、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して・・・膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱」することとは、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して加熱する限りにおいて一致している。

以上のことから、本願補正発明(1-2)と引用発明1は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点1-1
加熱手段が、本願補正発明(1-2)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点

相違点1-2
バイオマスが、本願補正発明(1-2)では、「農業残渣、好ましくは(optionally)トウモロコシ茎葉、麦わら、バガス、もみ殻、もしくは稲わら;木材および森林残渣、好ましくは(optionally)マツ、ポプラ、ダグラスファー、オーク、おがくず、紙/パルプ廃棄物、もしくは木質繊維;藻類;葛;石炭;セルロース、リグニン、草本エネルギー作物、好ましくは(optionally)スイッチグラス、クサヨシ、もしくはススキ;好ましくは(optionally)リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを含むリグノセルロース系バイオマス;植物バイオマス;またはそれらの混合物」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点

相違点1-3
本願補正発明(1-2)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明1では、前処理として、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する点

b-1 判断
(a)相違点1-1について
刊行物1には、「リグノセルロースは、イオン液体媒体に添加することができ、完全に溶解するまで混合物を適当な反応容器中で撹拌することができる。ある実施形態では、混合物を、超音波浴中、油浴またはマイクロ波照射により行うことができる。イオン液体は、約150℃未満、より好ましくは約100℃未満、より好ましくは約85℃未満の温度で溶解されるような温度は、イオン液体でリグノセルロースを溶解させるのに十分である」と記載されており(摘記(1e))、加熱手段として、超音波浴、油浴、マイクロ波照射の3つが例示されている。そして、マイクロ波照射は、電磁エネルギーによるものであり、電磁加熱であるといえる。
したがって、引用発明1において、加熱手段として周知なものであり、かつ刊行物1に実施形態として少数例示されているものの一つである、マイクロ波照射、すなわち、電磁加熱を加熱手段として採用することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点1-2について
刊行物1には、バイオマスの具体例として、本願補正発明としてもバイオマスの例示として挙げられており、かつ周知のものであるトウモロコシ茎葉、バガス、スイッチグラス、ススキ、クサヨシなどのバイオマスが記載されている(摘記(1e))。
したがって、引用発明1において、バイオマスとして例示されている、トウモロコシ茎葉、バガス、スイッチグラス、ススキ、クサヨシなどの周知のものを選択し、列挙することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)相違点1-3について
「c.膨潤特性
膨潤実験に用いられる高分子固体の試料として,繊維,架橋ゴム,ゲルなどがある.これらの高分子物質はそれぞれ構造が異なり,膨潤の機構も異なる.架橋構造を持たない高分子では膨潤と同時に溶解が起きるが,繊維では結晶領域が架橋の役割をする.
繊維の膨潤,たとえば,木綿の水による膨潤では繊維の表面や繊維間の細い溝に毛細管引力や表面張力により水が保たれ,大量の水により膨潤されたように見える.しかし,このような水は遠心機で分離できる.水によるセルロースの膨潤ではセルロース分子のヒドロキシ基と水分子との間に水素結合が形成されるため,発熱を伴う.水はセルロールの非結晶領域のみに取り込まれ,結晶領域の構造は変化しない.したがって,結晶度の高いセルロースと比較して,結晶度の低いレーヨンは高い膨潤度を示し,その比は非結晶領域の割合の比とほぼ等しい.
架橋ゴムやゲルはともに架橋構造を有するが,架橋ゴムの架橋が膨潤されていない状態で形成されるのに対し,ゲルは一般に膨潤した状態で架橋が形成される.したがって,ゴムの場合はほぼ均一な架橋構造が形成されると考えられるのに対し,ゲルは均一系で架橋反応が起きるか,不均一系(相分離した状態)で架橋反応が起きるかによって,形成される架橋構造は均一なものであったり,不均一なものであったりする.そのため,ゲルの場合は作製条件を明確にしなければならない.
架橋ゴムの膨潤,たとえば,天然ゴムをベンゼンで膨潤する場合は,セルロース繊維の水による膨潤で見られたような発熱は起きない.これは,ベンゼンと天然ゴムとの間には水素結合のような特殊な相互作用がないからである.ゴムの中に拡散するベンゼンの量が増加すると,網目構造が膨張する.ベンゼン分子がゴム分子と混合し網目構造中に拡散しようとする傾向と,網目が収縮してより小さな体積になろうとする傾向が釣り合うと平衡に達するが,この平衡は外力により変化する.たとえば,ゴムに引張応力をかけた状態で膨潤させると平衡膨潤度が増加する.膨潤圧の場合,加わる応力は静水圧であり,その圧力のすべての所定値に対して,対応する膨潤の平衡値が存在するため,圧力がこの値より減少すれば液体はさらに吸収され,増加すれば排出されることになる.このような効果に対する配慮も必要である.」(社団法人日本化学会編、「第5版実験化学講座26 -高分子化学-」,p.372下から8行?p.373第20行、丸善株式会社発行(平成17年)参照。)との一般的書籍の記載及びセルロースの分子間水素結合に対してイオン液体によって温和な条件で溶解が進行することが知られていること(Yukinobu Fukaya et al., Green Chem., 2008, 10, pp.44-46、特にAbstract(第44頁左欄第1行?第9行))から見て、リグノセルロース系材料といったセルロースについても、極性分子であるイオン液体との混合によって、セルロース繊維の間に何らかの形でイオン液体が保たれ、非晶質領域にイオン液体が取り込まれることにより、膨潤していることは明らかである。
したがって、「バイオマスを膨潤させる」点は、セルロースと液体を混合すれば通常発生する現象を特定したにすぎない。引用発明1において、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶液を形成した場合にイオン液体の進入によって何らかの膨潤が生じていることは明らかであることから、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」と特定することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(d)本願補正発明(1-2)の効果について
本願補正発明(1-2)は、本願明細書の段落【0008】及び【0130】には、コストや収率を改善するとの記載はあるものの、本願明細書全体の記載から理解されるように、高固形投入率での大規模な加水分解に向けてバイオマスを調製し、リアクタのサイズ及び光熱費を最小限にするための、バイオマスを処理する方法を提供するとの課題の記載や、本願明細書における実施例や比較例を参酌しても、本願補正発明の効果については客観的に明らかにされていない。
そして、刊行物1の摘記(1b)にあるように、引用発明1においても、リグノセルロースをバイオ燃料に前処理および転化するための、効率的で経済的で環境に優しい技術を提供することが具体的な裏付けをもって記載されているのであるから、本願補正発明(1-2)が、引用発明1と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-1 小括
したがって、本願補正発明(1-2)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-2 本願補正発明において(1-6)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-6)」という。)

本願補正発明(1-6)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-6)前記バイオマスは、1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される、方法」

(a)引用発明1の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(1d)の「本発明は、特に、多種多様なセルロースおよびリグノセルロースのバイオマスとして使用することができることを特徴とする」との記載からみて、引用発明1の「リグノセルロース系材料」は、リグノセルロースのバイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明1の「リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法」は、リグノセルロース系材料を燃料に変換して処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明1において、「イオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する」ことは、リグノセルロース系材料とイオン液体と混合していることは明らかであるから、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明1の「溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱」することは、本願補正発明の「1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される」することに該当する。

以上のことから、本願補正発明(1-6)と引用発明1は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを約50℃から約150℃の温度で加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点1-4
加熱手段が、本願補正発明(1-6)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点

相違点1-5
本願補正発明(1-6)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明1では、前処理として、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する点

b-2 判断
(a)相違点1-4について
上記b-1(a)に記載した相違点1-1と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点1-5について
上記b-1(c)に記載した相違点1-3と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)本願補正発明(1-6)の効果について
上記b-1(d)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-6)が、引用発明1と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-2 小括
したがって、本願補正発明(1-6)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-3 本願補正発明において(1-15)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-15)」という。)

本願補正発明(1-15)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-15)前記イオン液体(IL)は、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、3-メチル-N-ブチルピリジニウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、またはそれらの組み合わせである、方法」

(a)引用発明1の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(1d)の「本発明は、特に、多種多様なセルロースおよびリグノセルロースのバイオマスとして使用することができることを特徴とする」との記載からみて、引用発明1の「リグノセルロース系材料」は、リグノセルロースのバイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明1の「リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法」は、リグノセルロース系材料を燃料に変換して処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明1において、「イオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する」ことは、リグノセルロース系材料とイオン液体と混合していることは明らかであるから、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明1の「イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する・・・前処理し、・・・溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合」することと、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して・・・膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱」することとは、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して加熱する限りにおいて一致している。

以上のことから、本願補正発明(1-15)と引用発明1は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点1-6
加熱手段が、本願補正発明(1-15)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点

相違点1-7
本願補正発明(1-15)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明1では、前処理として、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する点

相違点1-8
イオン液体が、本願補正発明(1-15)では、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、3-メチル-N-ブチルピリジニウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、またはそれらの組み合わせであるのに対し、引用発明1では特定されていない点

b-3 判断
(a)相違点1-6について
上記b-1(a)に記載した相違点1-1と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点1-7について
上記b-1(c)に記載した相違点1-3と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)相違点1-8について
刊行物1にはイオン液体の例示として、1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウムも用いられることが記載されている(摘記(1c))。
したがって、引用発明1において、イオン液体として刊行物1に例示されている、1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウムを用いることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(d)本願補正発明(1-15)の効果について
上記b-1(d)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-15)が、引用発明1と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-3 小括
したがって、本願補正発明(1-15)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-4 本願補正発明において(1-13)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-13)」という。)

本願補正発明(1-13)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-13)前記イオン液体は、アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム、リチウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピコリニウム、ピロリジニウム、チアゾリウム、トリアゾリウム、オキサゾリウム、またはそれらの組み合わせを含むカチオン構造を含む、方法」

b-4 対比・判断
本願補正発明(1-13)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-13)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

c-4 小括
したがって、本願補正発明(1-13)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-5 本願補正発明において(1-14)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-14)」という。)

本願補正発明(1-14)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-14)前記イオン液体は、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、またはそれらの組み合わせから選択されるカチオンを含む、(1-13)に記載の方法」

b-5 対比・判断
本願補正発明(1-14)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-14)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

c-5 小括
したがって、本願補正発明(1-14)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-6 本願補正発明において(1-17)を選択した場合(以下、「本願補正発明(1-17)」という。)

本願補正発明(1-17)は、特許請求の範囲の記載に基づいて書き直すと以下のとおりである。
「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法であって;
(1-17)前記処理されたバイオマスを、生化学試薬、好ましくは(optionally)酵素で処理して、セルロースおよびヘミセルロースを糖、好ましくは(optionally)六炭糖および五炭糖に変換することをさらに含む、方法」

(a)引用発明1の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(1d)の「本発明は、特に、多種多様なセルロースおよびリグノセルロースのバイオマスとして使用することができることを特徴とする」との記載からみて、引用発明1の「リグノセルロース系材料」は、リグノセルロースのバイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明1の「リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法」は、リグノセルロース系材料を燃料に変換して処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明1において、「イオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する」ことは、リグノセルロース系材料とイオン液体と混合していることは明らかであるから、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明1の「イオン液体に溶解するイオン液体中に溶解されたリグノセルロース系材料の溶液を形成する・・・前処理し、・・・溶解は、約50℃から約150℃の温度で加熱しながら混合」することと、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して・・・膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱」することとは、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して加熱する限りにおいて一致している。

以上のことから本願補正発明(1-17)と引用発明1は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点1-9
加熱手段が、本願補正発明(1-17)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点

相違点1-10
本願補正発明(1-17)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明1では、「バイオマスを膨潤させる」ことは特定されていない点

相違点1-11
本願補正発明(1-17)は、「処理されたバイオマスを、生化学試薬、好ましくは(optionally)酵素で処理して、セルロースおよびヘミセルロースを糖、好ましくは(optionally)六炭糖および五炭糖に変換することをさらに含む」と特定しているのに対し、引用発明1では、「溶解したリグノセルロース系物質をバイオ燃料又はバイオ燃料の直接調製に反応する一つ以上の更なる工程を行うことを備えること」と特定されている点

b-6 判断
(a)相違点1-9について
上記b-1(a)に記載した相違点1-1と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点1-10について
上記b-1(c)に記載した相違点1-3と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)相違点1-11について
刊行物1には、前処理されたリグノセルロース材料は、リグノセルロース材料を糖に変換するためのプロセスのため、酵素的加水分解に供することが記載され、セルロース転換プロセスである酵素的加水分解による処理は、セルラーゼ酵素を添加し、50℃およびpH5で、24?150時間実施されて、グルコースを形成する旨記載されている(摘記(1h)?(1j))。そして、グルコースが六炭糖であることは技術常識である。
したがって、引用発明1において、処理されたバイオマスを酵素で処理し、セルロースを六炭糖のグルコースに変換することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(d)本願補正発明(1-17)の効果について
上記b-1(d)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-17)が、引用発明1と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-6 小括
したがって、本願補正発明(1-17)は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

エ 刊行物2に記載された発明
刊行物2には、請求項1に「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合することを含む、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、カチオンおよびアニオンのみからなる化合物であって、150℃以下の温度で液体状態で存在し、水の存在下、25℃で2未満のpKaを有する酸で、得られる溶液を処理することを特徴とする水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法」が記載され、請求項1を引用した請求項6の記載として、「酸との反応は、50?200℃の範囲の温度で実施されることを・・・、請求項・・・に記載の方法。 」が記載されている(摘記(2a))。
(2g)及び(2h)には、「イオン液体」として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドが実施例で用いられ、1-(C_(1)-C_(6) -アルキル)-3-(メチル)-イミダゾリウム等のイミダゾリウムも用いられることが具体的例示を伴って記載されている。
(2d)には、「セルロース」は、セルロース系バイオマスであることが記載され、セルロースの具体例として、トウモロコシ茎葉、スイッチグラスなどの草、バガスなどのセルロース系バイオマスが記載され、(2h)には、実施例で繊維セルロースを用いたことが具体的に記載されている。
(2e)には、酸との反応が「50?200℃、好ましくは70?150℃、例えば90?95℃の温度で行うことができる」ことが記載され、(2h)には、実施例で90℃で反応させたことが具体的に記載されている。
そうすると、刊行物2には、請求項1を引用する請求項6に係る発明として、「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合することを含む、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、カチオンおよびアニオンのみからなる化合物であって、150℃以下の温度で液体状態で存在し、水の存在下、25℃で2未満のpKaを有する酸で、得られる溶液を50?200℃の範囲の温度で処理する水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

(ア)対比・判断
そこで、本願補正発明と引用発明2とを対比する。
前述のとおり、本願補正発明は、(1-2)?(1-20)の選択肢を有していることから、以下、引用発明2と、本願補正発明の(1-2)、(1-6)、(1-13)?(1-15)を選択した場合をそれぞれ対比する。

a-1 本願補正発明(1-2)との対比
(a)引用発明2の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(2d)の「加水分解されるセルロースは、セルロース系バイオマス」の記載からみて、引用発明2の「セルロース」は、セルロース系バイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明2の「水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法」は、セルロース系バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に相当する。

(d)引用発明2において、「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合すること」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明2の「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合することを含む、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、・・・得られる溶液を50?200℃の範囲の温度で処理」することと、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して・・・膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱」することとは、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して加熱する限りにおいて一致している。

以上のことから、本願補正発明(1-2)と引用発明2は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点2-1
本願補正発明は、「電磁(EM)加熱する」と特定しているのに対し、引用発明2では、加熱手段が特定されていない点

相違点2-2
バイオマスが、本願補正発明(1-2)では、「農業残渣、好ましくは(optionally)トウモロコシ茎葉、麦わら、バガス、もみ殻、もしくは稲わら;木材および森林残渣、好ましくは(optionally)マツ、ポプラ、ダグラスファー、オーク、おがくず、紙/パルプ廃棄物、もしくは木質繊維;藻類;葛;石炭;セルロース、リグニン、草本エネルギー作物、好ましくは(optionally)スイッチグラス、クサヨシ、もしくはススキ;好ましくは(optionally)リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを含むリグノセルロース系バイオマス;植物バイオマス;またはそれらの混合物」であるのに対し、引用発明2では特定されていない点

相違点2-3
本願補正発明(1-2)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明2では、セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合する点

b-1 判断
(a)相違点2-1について
刊行物2には、請求項1に「本発明の方法は、任意の適切な温度で実施することができる。セルロースのイオン液体との混合物は、当然のことながら、イオン液体が事実液体である温度で実施しなければならない。後続の酸との反応は、必要に応じて、加熱により促進することができる;例えば、その反応は、50?200℃、好ましくは70?150℃、例えば90?95℃の温度で行うことができる。加熱は、任意の適切な方法によって、例えば慣用的な加熱方法、マイクロウエーブ加熱又は超音波又は赤外線照射のような他の供給源を使用することができる。」と記載されており(摘記(2e))、加熱手段として、マイクロウエーブ加熱又は超音波又は赤外線照射が例示されている。そして、マイクロウエーブ加熱は、電磁エネルギーによるものであるから、電磁加熱であるといえる。
したがって、引用発明2において、加熱手段として周知なものであり、かつ刊行物2に実施態様として少数例示されているものの一つである、マイクロウエーブ加熱、すなわち、電磁加熱を加熱手段として採用をすることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点2-2について
刊行物2には、セルロース系バイオマスであるセルロースの具体例として、本願補正発明としてもバイオマスの例示として挙げられており、かつ周知のものであるトウモロコシ茎葉、スイッチグラスなどの草、バガスなどのセルロース系バイオマスが記載されている(摘記(2d))。
したがって、引用発明2において、セルロースとして刊行物2に例示されている、トウモロコシ茎葉、スイッチグラス、バガスなどの周知のものを選択し、列挙することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)相違点2-3について
「c.膨潤特性
膨潤実験に用いられる高分子固体の試料として,繊維,架橋ゴム,ゲルなどがある.これらの高分子物質はそれぞれ構造が異なり,膨潤の機構も異なる.架橋構造を持たない高分子では膨潤と同時に溶解が起きるが,繊維では結晶領域が架橋の役割をする.
繊維の膨潤,たとえば,木綿の水による膨潤では繊維の表面や繊維間の細い溝に毛細管引力や表面張力により水が保たれ,大量の水により膨潤されたように見える.しかし,このような水は遠心機で分離できる.水によるセルロースの膨潤ではセルロース分子のヒドロキシ基と水分子との間に水素結合が形成されるため,発熱を伴う.水はセルロールの非結晶領域のみに取り込まれ,結晶領域の構造は変化しない.したがって,結晶度の高いセルロースと比較して,結晶度の低いレーヨンは高い膨潤度を示し,その比は非結晶領域の割合の比とほぼ等しい.
架橋ゴムやゲルはともに架橋構造を有するが,架橋ゴムの架橋が膨潤されていない状態で形成されるのに対し,ゲルは一般に膨潤した状態で架橋が形成される.したがって,ゴムの場合はほぼ均一な架橋構造が形成されると考えられるのに対し,ゲルは均一系で架橋反応が起きるか,不均一系(相分離した状態)で架橋反応が起きるかによって,形成される架橋構造は均一なものであったり,不均一なものであったりする.そのため,ゲルの場合は作製条件を明確にしなければならない.
架橋ゴムの膨潤,たとえば,天然ゴムをベンゼンで膨潤する場合は,セルロース繊維の水による膨潤で見られたような発熱は起きない.これは,ベンゼンと天然ゴムとの間には水素結合のような特殊な相互作用がないからである.ゴムの中に拡散するベンゼンの量が増加すると,網目構造が膨張する.ベンゼン分子がゴム分子と混合し網目構造中に拡散しようとする傾向と,網目が収縮してより小さな体積になろうとする傾向が釣り合うと平衡に達するが,この平衡は外力により変化する.たとえば,ゴムに引張応力をかけた状態で膨潤させると平衡膨潤度が増加する.膨潤圧の場合,加わる応力は静水圧であり,その圧力のすべての所定値に対して,対応する膨潤の平衡値が存在するため,圧力がこの値より減少すれば液体はさらに吸収され,増加すれば排出されることになる.このような効果に対する配慮も必要である.」(社団法人日本化学会編、「第5版実験化学講座26 -高分子化学-」,p.372下から8行?p.373第20行、丸善株式会社発行(平成17年)参照。)との一般的書籍の記載及びセルロースの分子間水素結合に対してイオン液体によって温和な条件で溶解が進行することが知られていること(Yukinobu Fukaya et al., Green Chem., 2008, 10, pp.44-46、特にAbstract(第44頁左欄第1行?第9行)左欄第1行?第9行))から見て、リグノセルロース系材料といったセルロースについても、極性分子であるイオン液体との混合によって、セルロース繊維の間に何らかの形でイオン液体が保たれ、非晶質領域にイオン液体が取り込まれることにより、膨潤していることは明らかである。
したがって、「バイオマスを膨潤させる」点は、セルロースと液体を混合すれば通常発生する現象を特定したにすぎない。引用発明2において、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶液を形成した場合にイオン液体の進入によって何らかの膨潤が生じていることは明らかであることから、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」と特定することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(d)本願補正発明(1-2)の効果について
本願補正発明(1-2)は、本願明細書の段落【0008】及び【0130】には、コストや収率を改善するとの記載はあるものの、本願明細書全体の記載から理解されるように、高固形投入率での大規模な加水分解に向けてバイオマスを調製し、リアクタのサイズ及び光熱費を最小限にするための、バイオマスを処理する方法を提供するとの課題の記載や、本願明細書における実施例や比較例を参酌しても、本願補正発明の効果については客観的に明らかにされていない。
そして、刊行物2の摘記(2b)にあるように、引用発明2においても、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、糖への適切な高度の転化を得るために比較的穏やかな条件下で行うことができる比較的迅速な反応を提供することが具体的な裏付けをもって記載されているのであるから、本願補正発明(1-2)が、引用発明2と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-1 小括
したがって、本願補正発明(1-2)は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-2 本願補正発明(1-6)との対比
(a)引用発明2の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(2d)の「加水分解されるセルロースは、セルロース系バイオマス」の記載からみて、引用発明2の「セルロース」は、セルロース系バイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明2の「水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法」は、セルロース系バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に相当する。

(d)引用発明2において、「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合すること」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明2の「得られる溶液を50?200℃の範囲の温度で処理」することと、本願補正発明の「1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される」することとは、バイオマスを加熱する点で共通する。

以上のことから、本願補正発明(1-6)と引用発明2は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを50?200℃の範囲の温度まで加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点2-4
加熱手段が、本願補正発明(1-6)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明2では特定されていない点

相違点2-5
本願補正発明(1-6)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明2では、セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合する点

b-2 判断
(a)相違点2-4について
上記b-1(a)に記載した相違点2-1と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点2-5について
上記b-1(c)に記載した相違点2-3と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)本願補正発明(1-6)の効果について
上記b-1(d)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-6)が、引用発明2と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-2 小括
したがって、本願補正発明(1-6)は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-3 本願補正発明(1-15)との対比
(a)引用発明2の「イオン液体」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(2d)の「加水分解されるセルロースは、セルロース系バイオマス」の記載からみて、引用発明2の「セルロース」は、セルロース系バイオマスであるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明2の「水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法」は、セルロース系バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に相当する。

(d)引用発明2において、「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合すること」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明2の「セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合することを含む、水溶性セルロース加水分解生成物の製造方法であって、・・・得られる溶液を50?200℃の範囲の温度で処理」することと、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して・・・膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱」することとは、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して加熱する限りにおいて一致している。

以上のことから、本願補正発明(1-15)と引用発明2は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点2-6
加熱手段が、本願補正発明(1-15)では、「電磁(EM)加熱」であるのに対し、引用発明2では特定されていない点

相違点2-7
本願補正発明(1-15)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明2では、セルロースと少なくともいくらかの溶解度を有するイオン液体とを混合する点

相違点2-8
イオン液体が、本願補正発明(1-15)では、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、3-メチル-N-ブチルピリジニウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、またはそれらの組み合わせであるのに対し、引用発明2では特定されていない点

b-3 判断
(a)相違点2-6について
上記b-1(a)に記載した相違点2-1と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点2-7について
上記b-1(c)に記載した相違点2-3と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)相違点2-8について
刊行物2にはイオン液体として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドが実施例で用いられ、1-(C_(1)-C_(6) -アルキル)-3-(メチル)-イミダゾリウム等のイミダゾリウムも用いられることが記載されている(摘記(2g)、(2h))。
したがって、引用発明2において、イオン液体として刊行物2に例示されている、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウムを用いることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(d)本願補正発明(1-15)の効果について
上記b-1(d)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-15)が、引用発明2と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-3 小括
したがって、本願補正発明(1-15)は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-4 本願補正発明(1-13)との対比・判断
本願補正発明(1-13)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-13)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

b-4 小括
したがって、本願補正発明(1-13)は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-5 本願補正発明(1-14)との対比・判断
本願補正発明(1-14)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-14)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

b-5 小括
したがって、本願補正発明(1-14)は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

オ 刊行物3に記載された発明
刊行物3には、請求項1に「リグノセルロース材料を溶解する方法であって、リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、マイクロ波照射下および/または加圧下で、水の実質的な不在下で混合してリグノセルロース材料を完全に溶解することを含む、方法」が記載され、請求項1を引用した請求項4の記載として、「イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解される、請求項1に記載の方法。」が記載されている(摘記(3a))。
(3e)には、「イオン液体溶媒」として、「好ましいイオン液体溶媒1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウム クロリド」等が具体的例示を伴って記載されている。
(3c)には、「リグノセルロース材料」として、バガス等から得られるパルプ等が具体的例示を伴って記載されている。
(3e)には、溶解の温度として、「リグノセルロース系材料の溶解は、0℃と250℃の間の温度、好ましくは20℃と200℃の間の温度で、より好ましくは50?170℃の温度、80℃と150℃との間などで行うことができる」ことが具体的例示を伴って記載されている。
そうすると、刊行物3には、請求項1を引用する請求項4に係る発明として、「リグノセルロース材料を溶解する方法であって、リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、マイクロ波照射下および/または加圧下で、水の実質的な不在下で混合してリグノセルロース材料を完全に溶解することを含む方法であって、イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解される方法」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

(ア)対比・判断
そこで、本願補正発明と引用発明3とを対比する。
前述のとおり、本願補正発明は、(1-2)?(1-20)の選択肢を有していることから、以下、引用発明3と、本願補正発明の(1-2)、(1-6)、(1-13)?(1-15)を選択した場合をそれぞれ対比する。

a-1 本願補正発明(1-2)との対比
(a)引用発明3の「イオン液体溶媒」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(3c)の「植物繊維から得られるパルプは、紙、板紙、繊維板、及び他の同様の工業製品の製造用原料である。その精製された形では、レーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品のセルロース源である」との記載からみて、引用発明3の「リグノセルロース材料」は、セルロース等のバイオマスであるといえるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明3の「リグノセルロース材料を溶解する方法」は、バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明3において、「リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、・・・水の実質的な不在下で混合」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明3の「マイクロ波照射下・・・イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解」することと、本願補正発明の「バイオマスを電磁(EM)加熱」及び「1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される」ことに該当する。

以上のことから、本願補正発明(1-2)と引用発明3は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを200℃未満の温度で電磁加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点3-1
バイオマスが、本願補正発明(1-2)では、「農業残渣、好ましくは(optionally)トウモロコシ茎葉、麦わら、バガス、もみ殻、もしくは稲わら;木材および森林残渣、好ましくは(optionally)マツ、ポプラ、ダグラスファー、オーク、おがくず、紙/パルプ廃棄物、もしくは木質繊維;藻類;葛;石炭;セルロース、リグニン、草本エネルギー作物、好ましくは(optionally)スイッチグラス、クサヨシ、もしくはススキ;好ましくは(optionally)リグニン、セルロース、およびヘミセルロースを含むリグノセルロース系バイオマス;植物バイオマス;またはそれらの混合物」であるのに対し、引用発明3では特定されていない点

相違点3-2
本願補正発明(1-2)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明3では、リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、マイクロ波照射下および/または加圧下で、水の実質的な不在下で混合してリグノセルロース材料を完全に溶解する点

b-1 判断
(a)相違点3-1について
刊行物3には、(3b)の「本発明は、木材、わら及び別の天然のリグノセルロース材料を溶解する方法、及び得られた溶液に、ならびに、リグニン及び抽出物のような、セルロース及び他の有機化合物を分離して得られた溶液のための方法に向けられている」との記載、(3c)の「植物繊維から得られるパルプは、紙、板紙、繊維板、及び他の同様の工業製品の製造用原料である。その精製された形では、レーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品のセルロース源である」ことや、「木材はパルプ用繊維の主要な供給源である。他の供給源としては、藁、草および茎を含む。パルプ繊維は、主として、天然に見出される任意の維管束植物から抽出することができ、また、藁や草、例えば米、エスパルト、麦、サバイのような木材源から、線条部材及びリードは、例えば、バガス・・・」の記載からみて、バガス等のセルロース系バイオマスが記載されているといえる。
したがって、引用発明3において、リグノセルロース材料として例示されている、バガスなどを選択し、列挙することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点3-2について
「c.膨潤特性
膨潤実験に用いられる高分子固体の試料として,繊維,架橋ゴム,ゲルなどがある.これらの高分子物質はそれぞれ構造が異なり,膨潤の機構も異なる.架橋構造を持たない高分子では膨潤と同時に溶解が起きるが,繊維では結晶領域が架橋の役割をする.
繊維の膨潤,たとえば,木綿の水による膨潤では繊維の表面や繊維間の細い溝に毛細管引力や表面張力により水が保たれ,大量の水により膨潤されたように見える.しかし,このような水は遠心機で分離できる.水によるセルロースの膨潤ではセルロース分子のヒドロキシ基と水分子との間に水素結合が形成されるため,発熱を伴う.水はセルロールの非結晶領域のみに取り込まれ,結晶領域の構造は変化しない.したがって,結晶度の高いセルロースと比較して,結晶度の低いレーヨンは高い膨潤度を示し,その比は非結晶領域の割合の比とほぼ等しい.
架橋ゴムやゲルはともに架橋構造を有するが,架橋ゴムの架橋が膨潤されていない状態で形成されるのに対し,ゲルは一般に膨潤した状態で架橋が形成される.したがって,ゴムの場合はほぼ均一な架橋構造が形成されると考えられるのに対し,ゲルは均一系で架橋反応が起きるか,不均一系(相分離した状態)で架橋反応が起きるかによって,形成される架橋構造は均一なものであったり,不均一なものであったりする.そのため,ゲルの場合は作製条件を明確にしなければならない.
架橋ゴムの膨潤,たとえば,天然ゴムをベンゼンで膨潤する場合は,セルロース繊維の水による膨潤で見られたような発熱は起きない.これは,ベンゼンと天然ゴムとの間には水素結合のような特殊な相互作用がないからである.ゴムの中に拡散するベンゼンの量が増加すると,網目構造が膨張する.ベンゼン分子がゴム分子と混合し網目構造中に拡散しようとする傾向と,網目が収縮してより小さな体積になろうとする傾向が釣り合うと平衡に達するが,この平衡は外力により変化する.たとえば,ゴムに引張応力をかけた状態で膨潤させると平衡膨潤度が増加する.膨潤圧の場合,加わる応力は静水圧であり,その圧力のすべての所定値に対して,対応する膨潤の平衡値が存在するため,圧力がこの値より減少すれば液体はさらに吸収され,増加すれば排出されることになる.このような効果に対する配慮も必要である.」(社団法人日本化学会編、「第5版実験化学講座26 -高分子化学-」,p.372下から8行?p.373第20行、丸善株式会社発行(平成17年)参照。)との一般的書籍の記載及びセルロースの分子間水素結合に対してイオン液体によって温和な条件で溶解が進行することが知られていること(Yukinobu Fukaya et al., Green Chem., 2008, 10, pp.44-46、特にAbstract(第44頁左欄第1行?第9行)左欄第1行?第9行))から見て、リグノセルロース系材料といったセルロースについても、極性分子であるイオン液体との混合によって、セルロース繊維の間に何らかの形でイオン液体が保たれ、非晶質領域にイオン液体が取り込まれることにより、膨潤していることは明らかである。
したがって、「バイオマスを膨潤させる」点は、セルロースと液体を混合すれば通常発生する現象を特定したにすぎない。引用発明3において、イオン液体中にリグノセルロース系材料を混合し、溶液を形成した場合にイオン液体の進入によって何らかの膨潤が生じていることは明らかであることから、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」と特定することは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)本願補正発明(1-2)の効果について
本願補正発明(1-2)は、本願明細書の段落【0008】及び【0130】には、コストや収率を改善するとの記載はあるものの、本願明細書全体の記載から理解されるように、高固形投入率での大規模な加水分解に向けてバイオマスを調製し、リアクタのサイズ及び光熱費を最小限にするための、バイオマスを処理する方法を提供するとの課題の記載や、本願明細書における実施例や比較例を参酌しても、本願補正発明の効果については客観的に明らかにされていない。
そして、引用発明3においても、刊行物3の摘記(3b)にあるように、木材、わら及び別の天然のリグノセルロース材料を溶解する方法、及び得られた溶液に、ならびに、リグニン及び抽出物のような、セルロース及び他の有機化合物を分離して得られた溶液のための方法を提供することが具体的な裏付けをもって記載されているのであるから、本願補正発明(1-2)が、引用発明3と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-1 小括
したがって、本願補正発明(1-2)は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-2 本願補正発明(1-6)との対比
(a)引用発明3の「イオン液体溶媒」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)刊行物摘記(3c)の「植物繊維から得られるパルプは、紙、板紙、繊維板、及び他の同様の工業製品の製造用原料である。その精製された形では、レーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品のセルロース源である」ことの記載からみて、引用発明3の「リグノセルロース材料」は、セルロース等のバイオマスであるといえるから、本願補正発明の「バイオマス」に該当する。

(c)引用発明3の「リグノセルロース材料を溶解する方法」は、バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明3において、「リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、・・・水の実質的な不在下で混合」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明3の「マイクロ波照射下・・・イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解」することと、本願補正発明の「バイオマスを電磁(EM)加熱」及び「1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される」ことに相当する。

以上のことから、本願補正発明(1-6)と引用発明3は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを200℃未満の温度で電磁加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点3-3
本願補正発明(1-6)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明3では、「バイオマスを膨潤させる」ことは特定されていない点

b-2 判断
(a)相違点3-3について
上記b-1(b)に記載した相違点3-2と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)本願補正発明(1-6)の効果について
上記b-1(c)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-6)が、引用発明2と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-2 小括
したがって、本願補正発明(1-6)は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-3 本願補正発明(1-15)との対比
(a)引用発明3の「イオン液体溶媒」は、本願補正発明の「イオン液体(IL)」に相当する。

(b)(3c)の「植物繊維から得られるパルプは、紙、板紙、繊維板、及び他の同様の工業製品の製造用原料である。その精製された形では、レーヨン、セルロースエステル、その他のセルロース製品のセルロース源である」との記載からみて、引用発明3の「リグノセルロース材料」は、セルロース等のバイオマスであるといえるから、本願補正発明の「バイオマス」に相当する。

(c)引用発明3の「リグノセルロース材料を溶解する方法」は、バイオマスを処理する方法であるから、上記(b)で検討したことを踏まえると、本願補正発明の「バイオマスの処理のための方法」に該当する。

(d)引用発明3において、「リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、・・・水の実質的な不在下で混合」は、本願補正発明の「バイオマスをイオン液体(IL)と混合」に該当する。

(e)引用発明3の「マイクロ波照射下・・・イオン液体溶媒が200℃未満の温度で溶解」することと、本願補正発明の「バイオマスを電磁(EM)加熱」及び「1?300℃、50℃?100℃、60℃?130℃、80℃?175℃、または100℃?240℃の温度まで加熱される」ことに相当する。

以上のことから、本願補正発明(1-15)と引用発明1は、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して、前記バイオマスを200℃未満の温度で電磁加熱することとを含む、バイオマスの処理のための方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
相違点3-4
本願補正発明(1-15)では、「バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させる」のに対し、引用発明3では、リグノセルロース材料をイオン液体溶媒と、マイクロ波照射下および/または加圧下で、水の実質的な不在下で混合してリグノセルロース材料を完全に溶解する点

相違点3-5
イオン液体が、本願補正発明(1-15)では、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、3-メチル-N-ブチルピリジニウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、またはそれらの組み合わせであるのに対し、引用発明3では特定されていない点

b-3 判断
(a)相違点3-4について
上記b-1(b)に記載した相違点3-2と同じであり、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(b)相違点3-5について
刊行物3にはイオン液体として、実施例等で1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウムも用いられることが記載されている(摘記(3e)、(3f))。
したがって、引用発明3において、イオン液体として刊行物3に例示されている、1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウムを用いることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

(c)本願補正発明(1-15)の効果について
上記b-1(c)で述べた理由と同様に、本願補正発明(1-15)が、引用発明3と比較して格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。

c-3 小括
したがって、本願補正発明(1-15)は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-4 本願補正発明(1-13)との対比・判断
本願補正発明(1-13)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-13)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

b-4 小括
したがって、本願補正発明(1-13)は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

a-5 本願補正発明(1-14)との対比・判断
本願補正発明(1-14)は、本願補正発明(1-15)と比較すると、イオン液体が上位概念で表現されているだけである。
したがって、本願補正発明(1-15)について上記a-3、b-3で対比、判断したように、当業者が容易に発明することができたものであるから、同様に、本願補正発明(1-14)も当業者であれば容易に発明することができたものといえる。

b-5 小括
したがって、本願補正発明(1-14)は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

カ 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求に伴い特許請求の範囲を補正し、補正前の請求項1に請求項2?20の記載を取り入れて発明を特定したと主張する。
そこで、この点について検討する。
上記第2 2(2)ウ?オで示したとおり、補正前の請求項1に請求項2?20の記載を取り入れたとしても、依然として、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者であれば容易に想到し得たものであるといえる。

キ 独立特許要件のまとめ
以上のとおりであるので、本願補正発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、審判請求時の手続補正は、同法159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成30年7月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成28年6月21日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
バイオマスの処理のための方法であって、バイオマスをイオン液体(IL)と混合して前記バイオマスを膨潤させることと、前記膨潤したバイオマスを電磁(EM)加熱することとを含む方法。」(以下「本願発明」という。)

第4 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年7月26日付け拒絶理由通知における理由1及び2であり、そのうちの一つである理由2の概要は、この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1,3,4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、第1で示したとおり、拒絶理由が通知された後は、その指定期間内に意見書や補正書等の応答が無く、拒絶査定がなされたものである。拒絶理由の対象となった請求項1?20は、指定期間内で補正書の提出も無かったことから、拒絶査定の対象となった請求項1?20と対応している。

そして、引用文献1,3,4は、以下のとおりである。

引用文献1.米国特許出願公開第2008/0190013号明細書(上記第2 2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)
引用文献3.国際公開第2005/017001号(上記第2 2(2)アの刊行物3と同じ。以下「刊行物3」という。)
引用文献4.欧州特許出願公開第1860201号明細書(上記第2 2(2)アの刊行物2と同じ。以下「刊行物2」という。)
刊行物4.社団法人日本化学会編、「第5版実験化学講座26 -高分子化学-」,p.372下から8行?p.373第20行、丸善株式会社発行(平成17年)
刊行物5.Yukinobu Fukaya et al., Green Chem., 2008, 10, pp.44-46(刊行物4及び刊行物5は技術常識を示すための文献である。)

第5 当審の判断
1 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3、その記載事項は、上記第2 2(2)ア及びイに記載したとおりである。

2 刊行物に記載された発明
(1)引用発明1
第2 2(2)ウに記載されたとおり引用発明1が記載されている。

(2)引用発明2
第2 2(2)エに記載されたとおり引用発明2が記載されている。

(3)引用発明3
第2 2(2)オに記載されたとおり引用発明3が記載されている。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明と比較すると、バイオマスの処理のための方法において、(1-2)?(1-20)として具体的な方法が特定されていないものであり、その余の点では本願補正発明と同じである。

(1)引用発明1
本願発明と引用発明1との対比、判断については、本願補正発明について前記第2 2(2)ウ(ア)で検討したのと同様に、本願発明は、引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用発明2
本願発明と引用発明2との対比、判断については、本願補正発明について前記第2 2(2)エ(ア)で検討したのと同様に、本願発明は、引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)引用発明3
本願発明と引用発明3との対比、判断については、本願補正発明について前記第2 2(2)オ(ア)で検討したのと同様に、本願発明は、引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-19 
結審通知日 2019-04-22 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2015-518625(P2015-518625)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08B)
P 1 8・ 113- WZ (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福山 則明▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 菅原 洋平
齊藤 真由美
発明の名称 バイオマス基剤の処理のための方法および装置  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  
代理人 中濱 明子  
代理人 山本 修  

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