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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1355488
審判番号 不服2017-6734  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-10 
確定日 2019-09-18 
事件の表示 特願2015-156949「窒化物半導体構造及び半導体発光デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日出願公開、特開2015-222834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月4日に出願した特願2013-183282号(パリ条約による優先権主張2012年11月19日、台湾)の一部を平成27年8月7日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成27年 8月19日:出願審査請求書の提出
平成28年 5月25日:拒絶理由通知(5月31日発送)
同年 8月31日:手続補正書・意見書の提出
同年12月21日:拒絶査定(平成29年1月10日送達)
平成29年 5月10日:審判請求書の提出
平成30年 5月31日:拒絶理由通知(6月5日発送)
同年11月 5日:手続補正書・意見書の提出
同年11月21日:拒絶理由通知(11月27日発送)
平成31年 3月27日:意見書の提出

第2 本願発明
平成30年11月5日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
窒化物半導体構造であって、
n型半導体層と、
多重量子井戸(MQW)構造を有する発光層と、
アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層と、
前記発光層と前記アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層との間に配置され、p型ドーパントおよび炭素が比較的高い濃度でドーピングされている、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層であって、該インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層にドーピングされている炭素の濃度は10^(17)cm^(-3)?10^(20)cm^(-3)の範囲(但し、「10^(17)cm^(-3)」を除く)にある、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層と、
を備え、前記発光層は、前記インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層と前記n型半導体層との間に配置されており、前記インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層はInGaN系p型半導体層であることを特徴とする窒化物半導体構造。」(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)

第3 拒絶の理由
平成30年11月21日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、次のとおりのものである。

本願発明1ないし本願発明9は、その優先日(2012年11月19日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:特開2000-196143号公報
(2000年7月14日公開)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献の記載
引用文献には、図面とともに、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 n型GaN系クラッド層と、In_(a)Ga_(1-a)N量子井戸層(0.15≦a≦1)からなる活性層と、p型GaN系コンタクト層と含む窒化ガリウム系半導体発光素子において、活性層はIn_(x)Ga_(1-x)N-n側緩衝層(0.03≦x≦a-0.1)とIn_(y)Ga_(1-y)N-p側緩衝層(0.03≦y≦a-0.15)の両方に接するように挟まれて形成されており、In_(x)Ga_(1-x)N-n側緩衝層とIn_(y)Ga_(1-y)N-p側緩衝層の層厚はそれぞれ3nm以上25nm以下であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
……
【請求項6】 上記n側緩衝層にはn型不純物が濃度5×10^(16)cm^(-3)以上1×10^(20)cm^(-3)以下の範囲綯内にドーピングされ、かつ上記p側緩衝層にはp型不純物が濃度1×10^(17)cm^(-3)以上5×10^(21)cm^(-3)以下の範囲内にドーピングされていることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。」(当審注:「範囲綯内」は、「範囲内」の誤記と認定した。)

(2)「【0017】
【発明の実施の形態】本発明を実施した素子について説明する。
【0018】(実施例1)図1に本発明を実施したInGaAlN系半導体発光素子(LED)の断面構造図を示す。101はn型SiC基板、102は50nm厚のSiドープのn型AlGaN低温バッファ層、103は3μm厚のSiドープのn型GaNクラッド層、104は25nm厚のSiドープのn型In_(0.2)Ga_(0.8)N-n側緩衝層、105は活性層で、この実施例ではは2nm厚のアンドープのIn_(0.35)Ga_(0.65)N単一量子井戸活性層としている。106は7nm厚のMgドープのp型In_(0.2)Ga_(0.8)N-p側緩衝層、107は30nm厚のMgドープのp型GaAlN保護層、108は0.3μm厚のMgドープのp型GaNコンタクト層、109はp型半透明電極、110はp型パッド電極、111はn型電極である。
【0019】次に本実施形態素子の作製方法について説明する。まず通常の有機金属気相成長(MOCVD)法により、(0001)面n型SiC基板101上に、基板温度550℃で50nm厚のSiドープのn型AlGaN低温バッファ層102を成長させた後、基板温度を1100℃に昇温し、Siドープのn型GaNクラッド層103を成長させる。次に、基板温度を760℃まで降温させた後、Siドープのn型In_(0.2)Ga_(0.8)N-n側緩衝層104、In_(0.35)Ga_(0.65)N単一量子井戸の活性層105、Mgドープのp型のp側緩衝層106、を成長させる。続いて、基板温度を1050℃に上昇させ、Mgドープのp型GaAlN保護層107、p型GaNコンタクト層108を形成した。最後に、n型SiC基板101の裏面を研削し基板厚さを120μmにまで薄くした後、通常の蒸着法によりウェハーの成長表面側にNiからなるp型半透明電極109と、その上のチップ中央部に100μm直径のAuからなるp型パッド電極110、n型SiC基板101の裏面にn型電極111を形成し、250μm角の大きさにスクライブによりチップを切り出し、LEDを作製した。」

(3)「【0042】(実施例3)本実施例では多重量子井戸構造活性層をLEDに適用した例を説明する。本構造はn側緩衝層104を1×10^(18)cm^(-3)の濃度のSiをドーピングした厚さ10nmのIn_(0.05)Ga_(0.95)N層としたこと、活性層105を厚さ2.0nmのIn_(0.55)Ga_(0.45)N量子井戸層3層と該量子井戸層間に挿入されたIn_(0.05)Ga_(0.95)Nバリア層2層から構成される多重量子井戸活性層としたこと、p側緩衝層106をMgが7×10^(19)cm^(-3)の濃度でドーピングされた厚さ5nmのIn_(0.05)Ga_(0.95)N層としたこと以外は実施例1と同じ構造である。本実施例LEDの光出力と発光スペクトルの半値全幅は、n側緩衝層、p側緩衝層を使用しないLEDに比べて、それぞれ、3倍および80%と発光強度・単色性とも改善が確認できた。」

(4)図1(LED)は、以下のものである。


2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(1)の記載からして、引用文献には、
「n型GaN系クラッド層と、
In_(a)Ga_(1-a)N量子井戸層(0.15≦a≦1)からなる活性層と、
p型GaN系コンタクト層と含む窒化ガリウム系半導体発光素子において、
活性層はIn_(x)Ga_(1-x)N-n側緩衝層(0.03≦x≦a-0.1)とIn_(y)Ga_(1-y)N-p側緩衝層(0.03≦y≦a-0.15)の両方に接するように挟まれて形成されており、
上記n側緩衝層と上記p側緩衝層の層厚はそれぞれ3nm以上25nm以下であり、
上記n側緩衝層にはn型不純物が濃度5×10^(16)cm^(-3)以上1×10^(20)cm^(-3)以下の範囲内にドーピングされ、かつ上記p側緩衝層にはp型不純物が濃度1×10^(17)cm^(-3)以上5×10^(21)cm^(-3)以下の範囲内にドーピングされている、半導体発光素子。」が記載されているものと認められる。

(2)上記1(2)の記載を踏まえて、実施例1に関する図1を見ると、
上記「窒化ガリウム系半導体発光素子」は、具体的には、
下から順に、
n型電極(111)と、
n型SiC基板(101)と、
Siドープのn型AlGaN低温バッファ層(102)と、
Siドープのn型GaNクラッド層(103)と、
Siドープのn型In_(0.2)Ga_(0.8)N-n側緩衝層(104)と、
アンドープのIn_(0.35)Ga_(0.65)N単一量子井戸活性層(105)と、
Mgドープのp型In_(0.2)Ga_(0.8)N-p側緩衝層(106)と、
Mgドープのp型GaAlN保護層(107)と、
Mgドープのp型GaNコンタクト層(108)と、
p型半透明電極(109)と、
p型パッド電極(110)と、
を含むものであってもよいものと認められる。

(3)次に、実施例3に関する上記1(3)の記載によれば、
実施例3は、実施例1に関する図1に示された
「Siドープのn型In_(0.2)Ga_(0.8)N-n側緩衝層(104)、
アンドープのIn_(0.35)Ga_(0.65)N単一量子井戸活性層(105)、
Mgドープのp型In_(0.2)Ga_(0.8)N-p側緩衝層(106)」を
「Siドープのn型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-n側緩衝層(104)、
In_(0.55)Ga_(0.45)N量子井戸層3層と該量子井戸層間に挿入されたIn_(0.05)Ga_(0.95)Nバリア層2層から構成される多重量子井戸活性層(105)、
Mgが7×10^(19)cm^(-3)の濃度でドーピングされたp型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」に変更したものであることが理解できる。

(4)以上のことから、引用文献には、実施例3に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「n型電極(111)と、
n型SiC基板(101)と、
Siドープのn型AlGaN低温バッファ層(102)と、
Siドープのn型GaNクラッド層(103)と、
Siドープのn型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-n側緩衝層(104)、
In_(0.55)Ga_(0.45)N量子井戸層3層と該量子井戸層間に挿入されたIn_(0.05)Ga_(0.95)Nバリア層2層から構成される多重量子井戸活性層(105)、
Mgが7×10^(19)cm^(-3)の濃度でドーピングされたp型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)と、
Mgドープのp型GaAlN保護層(107)と、
Mgドープのp型GaNコンタクト層(108)と、
p型半透明電極(109)と、
p型パッド電極(110)と、
を含む窒化ガリウム系半導体発光素子において、
上記n側緩衝層と上記p側緩衝層の層厚はそれぞれ3nm以上25nm以下である、窒化ガリウム系半導体発光素子。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1)引用発明の「Siドープのn型GaNクラッド層(103)」は、本願発明の「n型半導体層」に相当する。
以下、同様に、
「In_(0.55)Ga_(0.45)N量子井戸層3層と該量子井戸層間に挿入されたIn_(0.05)Ga_(0.95)Nバリア層2層から構成される多重量子井戸活性層(105)」は、「多重量子井戸(MQW)構造を有する発光層」に、
「Mgドープのp型GaAlN保護層(107)」は、「アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層」に、それぞれ、相当する。

(2)ア 本願明細書の【0008】に「前記電荷ホール供給層には、濃度が10^(18)cm^(-3)より大きなp型ドーパントがドーピングされることが好ましい。」と記載されていることから、本願発明の「p型ドーパントおよび炭素が比較的高い濃度でドーピングされている」における「(p型ドーパントが)比較的高い濃度」とは、10^(18)cm^(-3)より大きな濃度であると解される。

イ 一方、引用発明の「Mgが7×10^(19)cm^(-3)の濃度でドーピングされたp型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」は、「発光層とアルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層」との間に配置され、p型ドーパントであるMgが「10^(18)cm^(-3)より大きな濃度」でドーピングされているから、「p型ドーパントが比較的高い濃度でドーピングされている」といえる。

ウ してみると、本願発明と引用発明とは、「発光層とアルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層との間に配置され、p型ドーパントが比較的高い濃度でドーピングされている、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層を備える」点で一致する。

(3)ア 本願発明の「窒化物半導体構造」について、本願明細書には、以下の記載がある。

「【0013】
図1を参照する。図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体構造を示す断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体構造は、n型半導体層2及びp型半導体層3を含む。
n型半導体層2とp型半導体層3との間には、発光層(active layer)4が形成される。発光層4とp型半導体層3との間には、電荷ホール供給層5が形成される。…本実施形態においてn型半導体層2はn型GaN系半導体層であり、p型半導体層3はp型GaN半導体層である。」

イ 上記記載からして、「窒化物半導体構造」とは、
n型GaN系半導体層、発光層、電荷ホール供給層及びp型GaN半導体層を含む構造であると解される。

ウ そうすると、引用発明の「窒化ガリウム系半導体発光素子」は、
「Siドープのn型GaNクラッド層(103)」、「多重量子井戸活性層(105)」及び「p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」を含むことから、「窒化物半導体構造」を備えたものであるといえる。

(4)上記(1)ないし(3)を整理すると、
本願発明と引用発明とは、
「窒化物半導体構造であって、
n型半導体層と、
多重量子井戸(MQW)構造を有する発光層と、
アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層と、
前記発光層と前記アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層との間に配置され、p型ドーパントが比較的高い濃度でドーピングされている、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層と、を備える」点で一致する。

(5)また、引用発明の「多重量子井戸活性層(105)」は、「p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」と「Siドープのn型GaNクラッド層(103)」との間に配置されているから、
本願発明と引用発明とは、
「発光層は、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層とn型半導体層との間に配置されており、前記インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層はInGaN系p型半導体層である」点で一致する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「窒化物半導体構造であって、
n型半導体層と、
多重量子井戸(MQW)構造を有する発光層と、
アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層と、
前記発光層と前記アルミニウムを含むGaN系p型キャリア阻止層との間に配置され、p型ドーパントが比較的高い濃度でドーピングされている、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層と、
を備え、
前記発光層は、前記インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層と前記n型半導体層との間に配置されており、前記インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層はInGaN系p型半導体層である、窒化物半導体構造。」

3 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
GaN系電荷ホール供給層に関して、
本願発明は、「p型ドーパントおよび炭素が比較的高い濃度でドーピングされ」ており、「ドーピングされている炭素の濃度は10^(17)cm^(-3)?10^(20)cm^(-3)の範囲(但し、「10^(17)cm^(-3)」を除く)」であるのに対して、
引用発明は、Mg(p型ドーパント)は比較的高い濃度でドーピンクされているものの、炭素が比較的高い濃度でドーピングされているのか否か不明であり、ドーピングされているとしても、その具体的数値は不明である。

第6 判断
1 上記<相違点>について検討する。
(1)まず、上記<相違点>に係る本願発明の発明特定事項の技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

ア 本願明細書には、以下の記載がある。
「【0017】
上述した本実施形態の窒化物半導体構造を実際に使用する際、電荷ホール供給層5は、濃度10^(17)?10^(20)cm^(-3)のIV族元素をドーピングし、IV族元素により5価窒素元素を代替し、これにより正に帯電した電荷ホールを1つ増やして電荷ホール供給層の電荷ホール密度を高める。
上述のIV族元素は、C、Si、Ge、Sn、Pbなどでもよいが、Cであることが好ましい。上述のIV族元素がCであることが好ましい理由とは、エピタキシャル工程においてCは、アンモニアガスから分解されて放出された水素と反応して安定した化合物CH_(4)が形成されて窒化物半導体から分離される。このため、Hの含有量が減り、Mg-Hボンドが発生する状況が減り、Mgをイオン形態で活性化させるため、電荷ホール供給層5の電荷密度が高くなり、これにより多くの電荷ホールが発光層4へ入って電子・正孔の結合率が向上する。」

イ 上記記載からして、
IV族元素である「炭素」を採用する技術的意義は、
窒化物半導を構成する「5価窒素元素」を代替して電荷ホールを一つ増やすとともに、アンモニアが分解することで放出された水素をメタンとして分離することにあるものと認められる。

(2)ところで、引用文献の【0019】における「次に本実施形態素子の作製方法について説明する。まず通常の有機金属気相成長(MOCVD)法により、(0001)面n型SiC基板101上に、…Mgドープのp型のp側緩衝層106、を成長させる。続いて、…p型GaNコンタクト層108を形成した。」との記載によれば、引用発明の「(Mgがドープされた)p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」は、有機金属気相成長(MOCVD)法により形成されたものである。

(3)そして、当審拒絶理由において指摘したように、「Mgドープp型のp側緩衝層(106)」を、このような有機金属気相成長(MOCVD)法による形成において、窒素源(N)としてアンモニアガス(NH_(3))を利用すると、マグネシウムが水素原子と結合して活性化率が低下するという現象が生じるという問題があること、当該問題に対処するために(つまり、活性化率を上げるために)、アニールにより水素原子を脱離させる方法以外にも、例えば、水素原子をメタンガス(CH_(4))等として排出させるなど様々な処理があることは、当業者によく知られていることである(以下「周知技術」という。)。

必要ならば、下記の文献を参照。
特開2010-263140号公報(【0005】、【0013】、
【0032】から 【0035】
及び図5を参照。)
特開2009-16452号公報(【0005】、【0020】から
【0026】を参照。)
特開2009-152448号公報(【0004】、【0028】ないし
【0041】及び図3を参照。)
特開2001-15437号公報(【0021】及び図1を参照。)
特開平10-135575号公報(【0027】から【0030】を
参照。)
特開平9-326508号公報(【0006】から【0007】を
参照。)
国際公開第2007/013257号(請求の範囲及び[0099]を
参照。)

ちなみに、
ア 上記特開2010-263140号公報の【0013】には「(V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いて形成された)p型GaN層14の炭素濃度は5×10^(16)cm^(-3)以上1×10^(18)cm^(-3)以下である。」と記載されている。

イ 上記特開2009-16452号公報の【0020】には「p-GaN層を形成する時にV族原料としてアンモニア(NH_(3))ガスのみを使用すると、NH_(3)から生成されるHラジカルがp-GaNの結晶中に取り込まれ、Hラジカルとp型不純物とが反応し、Hパッシベーション(p型不純物の活性化率低下)が発生する。」と記載されている。

ウ 上記特開2009-152448号公報の【0036】には「炭素添加による活性化率の向上を効果的にあげるには、6×10^(18)?1×10^(20)cm^(-3)であるのがより好ましい。」と記載されている。

エ 上記特開2001-15437号公報の【0021】には「本発明の第三の目的は、NH_(3)の分解により生じる活性な水素を有効に除去することにある。分子中に炭素と炭素の二重結合もしくは三重結合を含むアルケンを成長時に添加すると、NH_(3)の分解により生じる活性な水素と反応し結晶中への水素の混入を抑制すること効果がある。」と記載されている。

オ 上記特開平10-135575号公報の【0029】には「炭素や酸素による表面の高抵抗化は、成長層最表面の酸素、炭素が多い場合に限らず、成長層最表面の酸素、炭素が少なすぎる(1×10^(16)cm^(-3)以下)場合でも生じる。これは、成長層最表面の酸素、炭素が1×10^(16)cm^(-3)以下の場合、酸素や炭素による窒素空格子点(窒素空孔)を埋める効果が減少されるため、窒素空孔がアクセプタを補償し、素子が高抵抗化するからである。」と記載されている。

カ 上記特開平9-326508号公報の【0008】には「このような問題は、電流供給領域をGaN層で構成する場合のみならず、GaInN層で構成する場合でも同様に生じる。」と記載されている。

キ 上記国際公開第2007/013257号の[0099]には「p型クラッド層を活性化するために、熱処理や電子線照射処理、プラズマ照射などが必要であるが、炭素ドーピングを行わない場合に比べ、炭素ドーピングを施したp型クラッド層では、Mgと水素の結合エネルギーが小さく、通常よりも低いパワーで活性化させることが可能である。」と記載されている。

(4)そして、引用発明の「(Mgがドープされた)p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」と上記周知技術とは、「(Mgがドープされた)p型窒化物半導体層」という点で共通し、引用発明の「(Mgがドープされた)p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」においても、上記(3)において指摘したのと同様の現象(問題)が生じるものと解されることから、引用発明において、上記周知技術に基いて活性化率を上げるための処理を行う必要のあることは、当業者が当然に想起し得ることである。

(5)そうすると、引用発明の「(Mgがドープされた)p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」を成長させる際に、活性化率を上げるために、例えば、水素原子をメタンガス等として排出させるなどの処理を行い、その結果として、p型窒化物半導体層にドーピングされている炭素の濃度(つまり、p型窒化物半導体層に不純物として取り込まれている炭素の濃度)を、10^(18)cm^(-3)程度とすることは、当業者が上記周知技術に基いて容易になし得ることである。

(6)また、本願明細書の記載を見ても、【課題を解決するための手段】の欄には、「上記課題を解決するために、…記電荷ホール供給層はIn_(x)Ga_(1-x)Nであり、ここでxの範囲は0<x<1であり、前記電荷ホール供給層には、濃度10^(17)?10^(20)cm^(-3)のIV族元素がドーピングされることを特徴とする窒化物半導体構造が提供される。」と記載されているだけで、「濃度10^(17)?10^(20)cm^(-3)」に臨界的な技術的意義があることは読みとれない。

(7)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基いて容易になし得たことである。

(8)また、本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果及び上記周知技術から予測し得る範囲内のものである。

2 平成31年3月27日提出の意見書における主張について
(1)請求人は、意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

ア 「(i)機能について
引用文献1においては、p型電荷ホール供給層は、発光層とp型キャリア阻止層との間に配置されている。これに対して、引用文献2においては、キャリア阻止層は、発光層と電荷ホール供給層との間に配置されている。このように、引用文献1と引用文献2とでは、電荷ホール供給層の配置関係が異なっている。
従って、引用文献1と引用文献2とでは、半導体構造の点で組み合わせる阻害要因が存在し、引用文献1と引用文献2とを組み合わせて、本願発明1の構造とすることはできない。」(第2頁後段)
当審注:上記引用文献2は、特開2010-263140号公報である。

請求人は、両者の「キャリア阻止層」の位置が異なることを理由に、その組合わせに阻害要因のある旨主張するが、そもそも、周知技術として指摘しているのは、「(Mgがドープされた)p型窒化物半導体層」を成長させる際に、マグネシウムが水素原子と結合して、その活性化率が低下するということ、及び当該問題に対処するために(つまり、活性化率を上げるために)、アニール以外にも様々な方法があるということであって、その現象は、キャリア阻止層の位置とは無関係である。

イ 「また、引用文献2は、p型半導体における炭素濃度は、可能な限り低減できることを主張している。また、引用文献2は、p型半導体において、10^(18)cm^(-3)を超えるべきではないことを主張している。よって、引用文献2と引用文献1とを組み合わせて本願発明1とする阻害要因が存在する。」(第3頁上段)

(ア)引用文献2には、以下の記載がある。
「【0005】
窒化物系半導体層を有機金属気相成長(MOCVD)する際に、p型ドーパントとして例えばMgをドーピングした場合、窒素原料のアンモニアが分解して生じる水素が結晶中に取り込まれてMgの隣のサイトに入ることで、Mgの活性化が妨げられる。」
「【0032】
また、本実施の形態では、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてp型GaN層14を形成する。ヒドラジン誘導体からHラジカルと同時にCH_(3)ラジカルが生成される。このCH_(3)ラジカルがHラジカルと反応してCH_(4)として排出されるため、Hラジカルが結晶中に取り込まれるのを防ぐことができる。」
「【0035】
図5は、p型GaN層の抵抗率の炭素濃度依存性を示す図である。1×10^(16)cm^(-3)が炭素の検出限界である。この結果から分かるように、p型GaN層14は、炭素濃度が1×10^(18)cm^(-3)以下であるため、抵抗率がデバイスとして使用できる程度に十分に低い。」

上記記載からして、
V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてMgの活性化を妨げる水素原子をメタンガスとして排出した際に、炭素濃度を1×10^(18)cm^(-3)以下にできることが理解される。

(イ)そうすると、引用発明において、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてMgの活性化を妨げる水素原子をメタンガスとして排出するとともに、炭素濃度を1×10^(18)cm^(-3)以下にすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)そして、本願発明は、炭素濃度として「10^(17)?10^(18)cm^(-3)(但し、「10^(17)cm^(-3)」を除く)」の範囲を含むものである。

(2)よって、請求人の主張は、上記「1」の判断を左右するものではない。

3 平成30年11月5日提出の意見書における主張について
請求人は、意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

「また、引用文献7には、インジウムを含むGaN系電荷ホール供給層に炭素をドープした場合にもp型ドーパントの活性化率が向上することは記載も示唆もされていない。」(第7頁中段)
当審注:上記引用文献7は、審決において周知技術であることを示すために引用した「国際公開第2007/013257号」である。

しかしながら、引用文献7の[0099]には「p型クラッド層を活性化するために、熱処理や電子線照射処理、プラズマ照射などが必要であるが、炭素ドーピングを行わない場合に比べ、炭素ドーピングを施したp型クラッド層では、Mgと水素の結合エネルギーが小さく、通常よりも低いパワーで活性化させることが可能である。」と記載されており、従来から、水素原子を脱離させるために熱処理(アニール)がなされていることを考えれば、引用発明の「(Mgがドープされた)p型In_(0.05)Ga_(0.95)N層-p側緩衝層(106)」を成長させる際に炭素ドーピングを施せば、より低いパワーで活性化できることは、容易に予想し得ることである。
よって、上記主張は、上記「1」の判断を左右するものではない。

4 判断のまとめ
本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-16 
結審通知日 2019-04-23 
審決日 2019-05-09 
出願番号 特願2015-156949(P2015-156949)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
星野 浩一
発明の名称 窒化物半導体構造及び半導体発光デバイス  
代理人 福井 敏夫  
代理人 杉村 憲司  
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