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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J |
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管理番号 | 1355491 |
審判番号 | 不服2017-14312 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-27 |
確定日 | 2019-09-18 |
事件の表示 | 特願2016-504459「プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法、基地局、ユーザ装置およびコンピュータ可読記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日国際公開、WO2014/166291、平成28年 7月14日国内公表、特表2016-521026〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)4月10日、中国)を国際出願日とする特願2016-504459号であって、平成29年6月6日付けで拒絶査定がされ、平成29年9月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、平成30年8月13日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成30年11月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年12月10日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成31年3月6日に意見書が提出されたものである。 第2 本願の特許請求の範囲 平成30年11月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12には、次のとおり記載されている。 「【請求項1】 プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって、 基地局は、前記基地局からのユーザ装置(UE)へのデータ送信に、周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用するかどうかを前記UEに通知し、且つ前記基地局が対応する周波数領域で連続するまたは不連続であるプリコーディングモードに従って前記UEへデータを送信することを含み、 前記基地局が周波数領域で連続するプリコーディングモードに従ってUEへデータを送信することは、 前記基地局が前記UEにより占有された各リソースブロック(RB)のプリコーディングウェイトを取得し、 前記基地局が前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし、 前記基地局が最適化処理後のプリコーディングウェイトに基づいて前記UEに送信されたデータに対してプリコーディングおよびフォーミングを行うことを含む、前記プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項2】 前記通知は、明示的であって、セル固有のシグナリング通知、またはUE固有のシグナリング通知を含むことを特徴とする 請求項1に記載のプリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項3】 前記セル固有のシグナリングはシステム情報ブロック(SIB)メッセージシグナリングであり、前記UE固有のシグナリングは無線リソース制御(RRC)メッセージシグナリングまたは下りリンク制御情報(DCI)メッセージシグナリングであることを特徴とする 請求項2に記載のプリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項4】 前記通知は、暗黙的であって、特定の伝送モードまたは特定の下りリンク制御情報(DCI)タイプとバンドルすることを含むことを特徴とする 請求項1に記載のプリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項5】 前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行うことは、 物理的に連続する各セクションのRBに、RBを単位とする連続するプリコーディングウェイトを使用するモード、 特定のRB粒度内で連続するプリコーディングウェイトを使用し、前記RB粒度間にあるプリコーディングウェイトが連続するまたは不連続であり、前記RB粒度は前記基地局によってUEに通知され、または前記基地局と前記UEによって予め約束されるモードのうちの一つを使用し、 前記RB粒度は、プリコーディングリソースブロックグループ(PRG)またはリソースブロックグループ(RBG)であり、 前記基地局によって使用される最適化処理モードは、前記基地局と前記UEによって予め約束され、または前記基地局によって前記UEに通知され、 前記通知モードは、基地局が周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用するかどうかの通知モードとバンドルし、または基地局が周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用するかどうかのプリコーディングモードと異なる通知モードを使用することを特徴とする 請求項1に記載のプリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項6】 プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって、 ユーザ装置(UE)が基地局からの通知に基づいて、前記基地局からの前記UEへのデータ送信に、周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用することを確定した場合、前記UEは、自体の処理能力範囲内で最適化されたチャネル推定を実施し、復調を行うことを含み、 前記最適化されたチャネル推定は、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した時間領域フィルタリングノイズ低減、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した周波数領域フィルタリングノイズ低減、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した周波数領域の補間、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した時間領域の補間のうちの一つを少なくとも含む、前記プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法。 【請求項7】 基地局であって、 前記基地局からのユーザ装置(UE)へのデータ送信に、周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用するかどうかを前記UEに通知するように構成されるシグナリング指示モジュールと、 対応する周波数領域で連続するまたは不連続であるプリコーディングモードに従って前記UEへデータを送信するように構成されるプリコーディングモジュールとを含み、 前記プリコーディングモジュールは、さらに、 前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトを取得し、 前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし、 最適化処理後のプリコーディングウェイトに基づいて前記UEに送信されたデータに対してプリコーディングおよびフォーミングを行うように構成される、前記基地局。 【請求項8】 前記通知は、明示的であって、セル固有のシグナリング通知、またはUE固有のシグナリング通知を含むことを特徴とする 請求項7に記載の基地局。 【請求項9】 前記セル固有のシグナリングは、システム情報ブロック(SIB)メッセージシグナリングであり、前記UE固有のシグナリングが無線リソース制御(RRC)メッセージシグナリングまたは下りリンク制御情報(DCI)メッセージシグナリングであることを特徴とする 請求項8に記載の基地局。 【請求項10】 前記通知は、暗黙的であって、特定の伝送モードまたは特定のDCIタイプとバンドルすることを含むことを特徴とする 請求項7に記載の基地局。 【請求項11】 前記プリコーディングモジュールは、さらに、 物理的に連続する各セクションのRBに、RBを単位とする連続するプリコーディングウェイトを使用するモードと、 特定のRB粒度内で連続するプリコーディングウェイトを使用し、前記RB粒度間にあるプリコーディングウェイトが連続するまたは不連続であり、前記RB粒度が前記基地局によってUEに通知され、または前記基地局と前記UEによって予め約束されるモードのうちの一つを使用してUEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行うように構成されることを特徴とする 請求項7に記載の基地局。 【請求項12】 ユーザ装置(UE)であって、 基地局からの通知を受信するように構成されるシグナリング受信モジュールと、 前記基地局からの前記UEへのデータ送信に、周波数領域で連続するプリコーディングモードを使用することを確定した場合、前記UEが自体の処理能力範囲内で最適化されたチャネル推定を実施し、復調を行うように構成されるチャネル推定および復調モジュールとを含み、 前記最適化されたチャネル推定は、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した時間領域フィルタリングノイズ低減、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した周波数領域フィルタリングノイズ低減、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した周波数領域の補間、 複数の連続するRBにおけるパイロットを結合した時間領域の補間のうちの一つを少なくとも含む、前記UE。」(以下、請求項1ないし12を、順に「本件請求項1」ないし「本件請求項12」という。) 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。 「1.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ●理由1(明確性)について ・請求項 1-12 [1]本願における「連続」とは、どのような意味であるのか理解できない。 請求項1の記載によれば、本願における「連続」は、「チャネル」に対して「連続性」があること、「プリコーディングウェイトが連続する」ことの2つに関係している。 まず、「プリコーディングウェイトが連続する」ことについて、「プリコーディング」とは、本願の【0002】に記載されるように、ビームフォーミングを行うにあたって行う処理であって、「プリコーディングウェイト」はプリコーディング処理に用いる各チャネルに対する「重み」であると理解され、「重み」とは、おおむねデジタル値であると解され、該デジタル値は連続するとの概念を有しないから、「プリコーディングウェイトが連続する」という意味を理解できない。 次に、「チャネルの連続性」とは、「チャネルA」と「チャネルB」が「連続」していることを意味していると解されるが、「チャネルが連続している」とは、どのような状態であるのか理解できないから、「チャネルの連続性」が、どのような意味であるのか不明である。 特に、本願においては、「最適化処理後のプリコーディングウェイト」に基づいた、すなわち「連続」している「プリコーディングウェイト」を用いた「プリコーディング」の後において「チャネルの連続性」が保証されるものである。 「プリコーディング」とは、本願の【0002】に記載されるように、ビームフォーミングを行うにあたって行う処理であるから、各送信アンテナ(例えばアンテナT1とアンテナT2)から出力される「チャネル」が「連続」していると解されるが、「チャネルが連続している」が、どのような状態を意味しているのか理解できない。 上記のとおり、「プリコーディングウェイトが連続する」という意味を理解できず、該「連続」している「プリコーディングウェイト」を用いたプリコーディングによって「チャネルが連続している」のが、どのような状態を意味しているのか不明である。 [2]「プリコーディングウェイト」の「最適化処理」が、どのような処理であるのか理解できない。 本願における「最適化処理」とは、「プリコーディングウェイトが連続するように」する処理であると解されるが、上記[1]に記載したとおり、「プリコーディングウェイトが連続する」が、どのような状態であるのか理解できないから、「最適化」した最終的な状態が理解できない。 一方、「最適化」の具体的な内容についても記載されていないから、「最適化」の具体的な処理内容についても理解できない。 上記によれば「最適化処理」は、その処理内容についても、最終的な処理結果についても理解できないから、「最適化処理」が、どのような処理であるのか理解できない。 平成30年11月9日に提出した意見書も参照して検討する。 請求項1には、「連続」との用語は、「周波数領域で連続するプリコーディングモード」、「物理的に連続するRB」、「プリコーディングウェイトが連続する」に各々用いられている。 そのうち、「物理的に連続するRB」は、上記意見書の「(5)明確性[5]について、」の「B、」や「(1)理由2の[1]について」で請求人が主張するところによれば、周波数領域において隣接するRBであると解される。 上記意見書の「(2)明確性[2]について」で、【0024】を挙げて、「請求項1における「周波数領域で連続するプリコーディングモード」の意味は、周波数方向に隣り合っている各リソースブロックRBのプリコーディングモードが同じという意味ではなく、物理的に連続する異なるプリコーディングウェイトに対して位相と振幅の最適化を行い、周波数領域における連続性を保証させるとの意味です」と主張している。上記したとおり、「プリコーディングウェイト」は、数値(デジタルの値)に過ぎず、位相や振幅の成分が含まれていたとしても、上記「位相」と上記「振幅」が、どのような意味で「連続」であるということなのか不明である。 さらに、具体例を挙げてさらに詳述する。 例として、周波数方向にRB1,RB2,RB3,・・・が隣り合っており、あるUEによりRB1,RB2が占有されているとする。 まず、請求項1記載の「周波数領域で連続する」とは、RB1とRB2との関係が隣り合っているから、RB1とRB2とが連続すると解される。 請求項1には、「前記基地局が前記UEにより占有された各リソースブロック(RB)のプリコーディングウェイトを取得」すると記載されているから、【0024】を参酌すれば、RB1の、プリコーディングウェイトX1が取得され、RB2の、該プリコーディングウェイトX1と異なるプリコーディングウェイトX2が取得されるとする。 そして、請求項1には、「前記基地局が前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」すると記載されていて、【0055】、【0060】を参酌すれば、該「最適化処理」は、上記異なるプリコーディングウェイトX1,X2の位相と幅が連続するように行う処理であるから、該最適化処理を行うことで、最適化処理後のプリコーディングウェイトX1’,X2’が生成され、該プリコーディングウェイトX1’,X2’は連続していることになる。 ここで、上記したとおり、プリコーディングウェイトが「連続する」とは、どのような状態であるのか不明であって、具体的な最適化処理の処理内容又は最終的な処理結果が、明細書又は図面に説明されていないから、最適化処理後のプリコーディングウェイトX1’,X2’が連続であるという関係を具体的に特定できない。 ここで、上記意見書の「(5)明確性[5]について」を参照すると、【0024】を挙げて、「プリコーディングウェイトを最適化する意味は、物理的に連続する異なるプリコーディングウェイトに対して位相と振幅の最適化を行い、周波数領域における連続性を保証させるとの意味である」と主張している。しかしながら、上記したとおり、「プリコーディングウェイト」は、数値(デジタルの値)に過ぎず、位相や振幅の成分が含まれていたとしても、上記「位相」と上記「振幅」が、どのような意味で「連続」であるということなのか不明であるから、「最適化処理」を特定できない。 請求項6,12記載の「周波数領域で連続するプリコーディングモード」については、上記したことと同じことが指摘される。 請求項6にも、「プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって」、請求項7,12にも、「前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし」との記載があるから、上記したことと同じことが指摘される。 また、請求項1,7を引用する請求項2-5,8-11にも同様の点が指摘される。 よって、請求項1-12に係る発明は明確でない。 ●理由2(実施可能要件)について ・請求項 1-12 [1]請求項1記載の「チャネルの連続性」や、「最適化処理」や、該「最適化処理」による「物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することが、発明の詳細な説明に具体的に記載されていない。 「チャネルの連続性」について、図1とその説明には、プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法の基地局側の実現プロセスが、図2とその説明には、プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法のUE側の実現プロセスが、記載されているが、何が、どのような状態であることなのか特定できない。 「最適化処理」や、該「最適化処理」による「物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することについて、【0055】、【0060】を参酌しても、上記理由1[1]で指摘したとおり、最適化処理の具体的な処理内容は記載されておらず、プリコーディングウェイトは、数値(デジタルの値)であるから、「連続」することが、どのようなことを示しているのか特定できず、「プリコーディングウェイトが」、どのような状態であることが、「連続する」ことなのか特定できない。 明細書又は図面全体についてみたが、「チャネルの連続性」や、「最適化処理」や、該「最適化処理」による「物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することが特定できない。 請求項6,12記載の「周波数領域で連続するプリコーディングモード」については、上記したことと同じことが指摘される。 請求項6にも、「プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって」、請求項7,12にも、「前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし」との記載があるから、上記したことと同じことが指摘される。 また、請求項1,7を引用する請求項2-5,8-11にも同様の点が指摘される。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 第4 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0055】 ステップ2において、基地局は、周波数領域で連続するプリコーディング送信モードに従って、UEにデータを送信する。当該プロセスは、 基地局が前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトを取得することと、 基地局がUEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし、当該連続が位相および幅の連続を含むことと、 基地局が最適化処理後のプリコーディングウェイトに基づいてUEに送信されたデータに対してプリコーディングおよびフォーミングを行うこととを含む。」 「【0060】 ステップ2において、基地局は、周波数領域で連続するプリコーディング送信モードで、UEにデータを送信する。当該プロセスは、 基地局が前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトを取得することと、 基地局がUEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続することになり、当該連続が位相と幅の連続を含むことと、 基地局が最適化処理後のプリコーディングウェイトに基づいてUEに送信されたデータに対してプリコーディングおよびフォーミングを行うこととを含む。」 第5 判断 1 当審拒絶理由の理由1(明確性) (1)当審拒絶理由の理由1[1]について ア 当審拒絶理由の理由1[1]で指摘したとおり、本件請求項1に記載されている「連続」は、「チャネル」に対して「連続性」があること、「プリコーディングウェイトが連続する」ことの2つに関係している。 そして、請求人は、当審拒絶理由の応答期間に手続補正を行わず、下記イのとおり主張するものの、下記ウのとおり、上記「プリコーディングウェイトが連続する」こと、「チャネルの連続性」について、どのような意味であるのか依然として不明である。 イ 請求人の主張 請求人は、平成31年3月6日に提出された意見書(以下、「意見書」という。)で、 「(1)明確性[1]について A.「プリコーディングウェイトが連続する」ことについて チャネルは、時間と周波数において相関性を有します。このような相関性があるからこそ、櫛形パイロットにおいて、補間によって隣接の周波数領域のサブ搬送波/RBか、それとも隣接の時間におけるシンボルのチャネル特性を推定することができます。ウェイトの設計によって、受信側から見えるチャネルの連続性が破壊されないことを保証することができるように、送信側でプリコーディングウェイトを行えば、このようなウェイトは連続性のあるプリコーディングウェイトそのものです。本願の背景技術の段落[0006]の第二のモードに記載されているように、一つの通常のやり方として、一定の粒度内で、同じプリコーディングウェイトを採用する方法がありますが、プリコーディングによる性能利得が減少します。本願発明では、上記にいわゆる「連続性」を有するプリコーディングウェイトを生成して、UEから見えるチャネルの連続性を保証しながら、最もよいプリコーディングによる性能利得を得ることができます。 上記のプリコーディングウェイトに関する釈明は、本分野の公知技術であり、当業者にとって、疑う余地もなく、明確に把握できることです。 B.チャネルの連続性について 本願発明におけるチャネルの連続性は位相および幅の連続性を指しています(本願の明細書の段落[0055]、[0060]をご参照ください)。」と主張する。 ウ 請求人の主張に対する判断 所定周波数間隔と所定時間間隔でパイロット信号を送信してチャネル特性を推定し、パイロット信号を送信していない周波数と時刻については補間処理によってチャネル特性を推定すること、自体は周知であるが、該推定は「電磁波の位相と振幅は連続しており、チャネル特性も、周波数と時間の連続的な変化に伴って、連続的に変化する」という物理現象を前提とした推定である。 上記の理解を前提とするならば、「チャネルの連続性」は、物理現象により、そもそも「保証されている」から、「チャネルの連続性を保証する方法」に技術的意味はなく、ウェイトを「設計」するまでもない。 チャネルが位相と幅において連続しているという主張についても、該「幅」が「振幅」の意味であるとして、電磁波の位相と振幅が連続しているという意味であれば、物理現象として、そもそも「連続している」ものであって、「連続するように制御」するものではない。 さらに、本件請求項1によれば、本願は「連続するまたは不連続であるプリコーディングモードに従って」UEへデータを送信することを含むものである。 つまり、「連続」が上記のような「物理現象」そのものを意味しているとは解されないし、その他にどのように解するべきか理解できない。 以上のように、チャネルの連続性が理解できないから、「受信側から見えるチャネルの連続性が破壊されないことを保証することができる」ような「連続性のあるプリコーディングウェイト」が、どのようなウェイトであるのか理解できず、「プリコーディングウェイトが連続する」ことが、どのような状態であるのか理解できない。 (2)当審拒絶理由の理由1[2]について ア 本件請求項1によれば、「最適化処理」とは、「プリコーディングウェイトが連続するように」する処理であると解されるが、上記1(1)で指摘したとおり、「プリコーディングウェイトが連続する」ことが、どのような状態であるのか理解できないから、「最適化」した最終的な状態が理解できず、最適化処理の具体的な処理内容も理解できない。 上記「最適化処理」について、請求人は、当審拒絶理由の応答期間に手続補正を行わず、下記イのとおり主張するものの、下記ウのとおり、依然として当業者であっても上記「最適化処理」を理解できない。 イ 請求人の主張 請求人は、意見書で、 「仮に、プリコーディングウェイトをWとし、チャネルHとした場合、UE側から見える等価チャネルがW*Hであり、受信された有効の信号強度が||W*H||です。Wの位相がEB単位(N個のRB単位)の間で変わるのであれば、UEの等価チャネル強度に影響しませんが、チャネル推定に影響し、UEはEB単位(N個のRB単位)でしかチャネル推定を行えません。Wの幅がEB単位(N個のRB単位)の間で不連続である場合も、UE側のチャネル推定に影響し、UEはEB単位(N個のRB単位)でしかチャネル推定を行えません。本願発明では、Wに対して位相および幅を最適化し、すべてのRBにおいて連続するように保証させ、チャネルの性能を向上させます。」と主張する。 ウ 請求人の主張に対する判断 本件請求項1によれば、「最適化処理」を行った結果としてプリコーディングウェイトが「連続」することが、「周波数領域で連続するプリコーディングモードに従ってUEへデータを送信すること」において行われていると解されるものの、「連続」が上記したとおり理解できないから、「最適化処理」の結果を理解することができない。 また、「最適化処理」の内容について、具体的手法は記載されていないから、処理の内容についても理解できない。 つまり、「最適化処理」については、その処理の結果も、処理の内容も理解できないから、「最適化処理」がどのような処理なのか理解できない。 (3)小括 上記1(1)?(2)では、本件請求項1について検討したが、本件請求項6,12記載の「周波数領域で連続するプリコーディングモード」については、上記したことと同じことが指摘される。さらに、本件請求項6にも、「プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって」、本件請求項7,12にも、「前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし」との記載があるから、上記したことと同じことが指摘される。 また、本件請求項1,7を引用する本件請求項2-5,8-11にも同様の点が指摘される。 よって、本件請求項1-12に係る発明は明確でない。 2 当審拒絶理由の理由2(実施可能要件) (1)当審拒絶理由の理由2[1]について ア 請求人は、当審拒絶理由の応答期間に手続補正を行わず、下記イのとおり主張するものの、下記ウのとおり、依然として本件請求項1記載の「チャネルの連続性」や、「最適化処理」や、該「最適化処理」による「物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することが不明である。 したがって、発明の詳細な説明には、上記「チャネルの連続性を保証する方法」において、「最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することを当業者が実施できる程度に記載されていない。 イ 請求人の主張 請求人は、意見書で、 「上記の拒絶理由1に関する釈明から分かるように、「チャネルの連続性」、「プリコーディングウェイト」の「最適化処理」、「プリコーディングウェイトの連続性」の意味は明確なものであり、いずれも当業者にとって疑う余地もなく、明確に把握できるものです。」と主張している。 ウ 請求人の主張に対する判断 上記1(1)?(3)で指摘したとおり、「チャネルの連続性」、「プリコーディングウェイト」の「最適化処理」、「プリコーディングウェイトの連続性」を理解できないから、当審拒絶理由の理由2[1]で指摘したとおり、本件請求項1記載の「チャネルの連続性」や、「最適化処理」や、該「最適化処理」による「物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するように」することが、発明の詳細な説明に具体的に記載されておらず、依然として当業者が実施できる程度に記載されていない。 (2)小括 上記2(1)では、本件請求項1について検討したが、本件請求項6,12記載の「周波数領域で連続するプリコーディングモード」については、上記したことと同じことが指摘される。さらに、本件請求項6にも、「プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法であって」、本件請求項7,12にも、「前記UEにより占有された各RBのプリコーディングウェイトに対して最適化処理を行い、物理的に連続するRBのプリコーディングウェイトが連続するようにし」との記載があるから、上記したことと同じことが指摘される。 また、本件請求項1,7を引用する本件請求項2-5,8-11にも同様の点が指摘される。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1-12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第6 むすび 以上のことから、本件請求項1-12に係る発明は不明確であり、そして、発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1-12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-03-28 |
結審通知日 | 2019-04-02 |
審決日 | 2019-05-07 |
出願番号 | 特願2016-504459(P2016-504459) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(H04J)
P 1 8・ 537- WZ (H04J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉江 一明 |
特許庁審判長 |
吉田 隆之 |
特許庁審判官 |
北岡 浩 富澤 哲生 |
発明の名称 | プリコーディング後のチャネルの連続性を保証する方法、基地局、ユーザ装置およびコンピュータ可読記憶媒体 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |