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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1355514
審判番号 不服2018-12631  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-21 
確定日 2019-09-18 
事件の表示 特願2015-561599「タバコからルテインを生成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月12日国際公開、WO2014/138223、平成28年 6月 2日国内公表、特表2016-516015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2014年3月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月7日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月5日に手続補正書が提出され、平成29年10月3日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月25日に意見書および手続補正書が提出され、同年5月14日付けで拒絶査定がされ、同年9月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月18日に手続補正書(方式)が提出され、同年10月19日に物件提出書が提出され、平成31年2月22日に上申書が提出されたものである。

第2 平成30年9月21日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年9月21日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成30年9月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成30年1月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1である
「【請求項1】
ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その方法は、
(a)その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、
(b)ある量の破壊バイオマスをグリシン、リン酸塩、亜硫酸水素塩含有混合物、メタ亜硫酸水素塩含有化合物、I族またはII族のハロゲン化物塩、またはその組み合わせを任意で含む水性混合物と接触させ、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)第二の着色スラリーを濾過またはさもなければ固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、
ここで、少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含む、
(i)ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
ここで、前記の量の着色混合物の分画は、濾過および/または沈降を含む、
(j)ある量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離し、それによって前記量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程、
ここで、前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または対向流を含む、前記方法。」

「【請求項1】
ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その方法は、
(a)その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、
(b)ある量の破壊バイオマスをグリシン、リン酸塩、亜硫酸水素塩含有混合物、メタ亜硫酸水素塩含有化合物、I族またはII族のハロゲン化物塩、またはその組み合わせを任意で含む水性混合物と接触させ、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)第二の着色スラリーを濾過または固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、
ここで、少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含む、
(i)ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
ここで、前記の量の着色混合物の分画は、濾過および/または沈降を含む、
(j)ある量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離し、それによって前記量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程、
ここで、前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離を含む、前記方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否について
上記補正は、本件補正前の請求項1の(g)工程の「またはさもなければ」との記載を「または」と補正して重複する意味の記載を削除して明確にしたものであり、該補正は、特許法第17条の2第5項第4号に規定された明りようでない記載の釈明を目的としたものである。
また、上記補正は、発明を特定する事項である本件補正前の請求項1の(j)工程の「前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、」「含む」選択肢として「濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または対向流を含む」とされていたものを、「濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離を含む」と「対向流」の場合を削除したもので、補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

(2)独立特許要件について
特許法第36条第6項第1号について
ア 特許請求の範囲の記載
請求項1には、「ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法」であって、
「周囲温度で実行され」ること、
「その方法は、
(a)その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、
(b)ある量の破壊バイオマスをグリシン、リン酸塩、亜硫酸水素塩含有混合物、メタ亜硫酸水素塩含有化合物、I族またはII族のハロゲン化物塩、またはその組み合わせを任意で含む水性混合物と接触させ、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)第二の着色スラリーを濾過または固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、
ここで、少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含む、
(i)ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
ここで、前記の量の着色混合物の分画は、濾過および/または沈降を含む、
(j)ある量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離し、それによって前記量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程、
ここで、前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離を含む」ものであることが、特定された方法の発明が記載されている。

イ 発明の詳細な説明の記載
請求項1に係るタバコバイオマスからルテインを単離する方法に対応した記載として、本願明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
・・・
【0002】
本明細書において様々な実施態様の記載のような方法は、タバコから製造された、若しくは、由来の、または、より一般的にはニコチアナ(Nicotiana)属の、若しくは、そうでなければタバコを組み込む、一つ以上の種から由来のいずれかのバイオマスから製造された、若しくは、由来のルテイン(lutein)を含む製品に関する。ニコチアナ(Nicotiana)種からの植物または植物の部分から得られた、または、由来のルテインを含む製品に特に関心がある。
【背景技術】
【0003】
シガレットのような一般向けの喫煙品目は、実質的に円筒形のロッドに成形された構造を有しており、包装紙によって包囲された刻みタバコ(例えば、カットフィラーの形状)などの喫煙できる材料の巻いたもの、または、円柱である装填物を含み、それによって、いわゆる「タバコロッド」を形成する。シガレットは、本来、タバコロッドと端と端を接した関係で整列する円筒形のフィルタ要素を有する。通常は、フィルタ要素は「プラグラップ」として公知の紙材料が外接した可塑化酢酸セルローストウを含む。シガレットには多数のセグメントを備えるものがあり、それらのセグメントの一つは、活性炭粒子を含むことができる。通常は、フィルタ要素は「チッピング紙」として公知の外接する包装材料を使用してタバコロッドの一方の端部に取り付けられる。また、引き出された主流煙の周囲空気での希釈を提供するためには、チッピング材料およびプラグラップに穴をあけることが望ましくなった。シガレットは喫煙者によってその片方に火をつけ、タバコロッドを燃やすことによって使用される。喫煙者は、そのとき、シガレットの反対側の端部(例えば、フィルタ端部)をくわえることによって彼/彼女の口内に主流煙を受ける。
【0004】
シガレット製造で使用されるタバコは、通常、ブレンドされた形状で使用される。例えば、一般に「アメリカンブレンド」と称される人気のあるタバコブレンドは、煙道硬化タバコ、バーレー種タバコおよびオリエンタルタバコ、および、多くの場合、いくつかの再構成タバコおよび加工タバコステムの混合物から成る。特定のシガレットのブランドの製造に使用されるタバコブレンド内の各種タバコの正確な量は、ブランドによって異なる。しかし、多くのタバコブレンドでは、煙道硬化タバコがブレンドの比較的大きな割合を占めており、一方、オリエンタルタバコはブレンドの比較的小さい割合を占める。
・・・
【0005】
長年の間、タバコ製品に使用されるタバコ材料の全体の特徴または性質を変化させるために様々な処理方法および添加物が提案されてきた。例えば、タバコ材料の化学的または官能属性を変更するために、または、喫煙可能なタバコ材料の場合、タバコ材料を含む喫煙品によって生成する主流煙の化学的または官能属性を変更するために、添加物または処理方法が利用されてきた。シガレットの煙の官能属性はシガレットの様々な成分にフレーバ材料を含ませることによって高められる。典型的なフレーバ添加物には、メントール(menthol)、および、ピラジン(pyrazine)、アミノ糖およびアマドリ(Amadori)化合物のようなメイラード(Maillard)反応生成物が含まれる。
・・・
【0009】
タバコの多くの成分の中にルテイン(CAS 127-40-2)がある。例えば、Tso、Physiology and Biochemistry of Tabacco Plants、p209、212(1972)(非特許文献5)を参照のこと。ルテインは、分子量が約568.87であり、例えば、キサントフィルとして公知であり、または、(3R,3’R,6R)‐4,5‐ジデヒドロ-5,6-ジヒドロ‐β,β‐カロテン‐3,3’‐ジオールである。ルテインはタバコ製品配合で多数の機能のいずれかに役立つが、当業者には酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤として働くことが公知である。通常の室温では、ルテインの色は黄色っぽく、顕微鏡像はプリズムであることがある。ルテインは、基本的に水に不溶性であり、融点は200℃未満である。
【0010】
ルテインの製造方法は当業者には公知である。Khachikによる米国特許第6262284号(特許文献51)には、pHを12に維持するための水酸化カリウムまたはナトリウムの添加とともにテトラヒドロフランおよびアルコールを含有する溶液での抽出を備える植物源からのルテインエステルの抽出および鹸化方法が記載されている。Hoffmanらによる米国特許第7253294号(特許文献52)には、とりわけ浸軟したアルファルファ緑色植物から由来するシロップを加熱して、シロップから固体画分を分離して、次に抽出し、鹸化し、さらに固体画分を抽出することによるルテインの単離が記載されている。Xuらによる米国特許第7271298号(特許文献53)には、40?85°でのアルコールによる植物含油樹脂の鹸化およびその結果生成する混合物のpHのpH1?7への調節から成るルテインなどのキサントフィルの調製方法が記載されている。Ornelas-Craviotoらによる米国特許第7351424号(特許文献54)には、とりわけキサントフィルが少なくとも94重量%のトランスルテインエステルから成る、キサントフィルエステルを少なくとも85重量%含む組成物が記載されている。Swaminathanらによる米国特許第7622599号(特許文献55)には、マリーゴールドの花弁を嫌気的に貯蔵し、そこから由来する粉末のヘキサン抽出および抽出物の湯洗いによるルテインに富むカルテオノイドの製造が記載されている。Penaによる米国特許第7629007号(特許文献56)には、とりわけ植物由来含油樹脂を調製および鹸化し、鹸化された含油樹脂を塩溶液で、樹脂のpHが約6.5?9になるまで洗浄し、樹脂を無極性溶媒および極性増加溶媒で洗浄することによるルテインなどのキサントフィルの単離が記載されている。Cheryanらによる米国特許第8236929号(特許文献57)には、温かいエタノールでトウモロコシを抽出することによるルテインなどのキサントフィルを得ることが記載されている。Lossoらによる米国特許第7671242号(特許文献58)には、とりわけ地上植物源をアセトンで処理することによるアフラトキシンを含まないルテインの単離が記載されている。Mortonらによる米国特許出願公開第2012/0141648号(特許文献59)には、抽出溶媒の存在下で植物材料を均質化し、植物液体が所定の範囲のpHで提供されるような植物液体成分および植物パルプ成分の組み合わせを形成し、植物パルプ成分から植物液体成分を引き出し、および、液体植物成分を固体画分および可溶性画分に分離することが記載されている。Byrdらによる米国特許出願公開第2012/0272976号(特許文献60)には、植物材料から溶媒にルテインを抽出するのに十分な時間および条件下でタバコ材料を溶媒に接触させ、ルテインを含む溶媒を抽出したタバコ材料から分離し、および、ルテインを含む溶媒を精製し、ルテインを少なくとも約75重量%含む単離物を提供することから成るタバコ材料からのルテインの抽出および単離方法が記載されている。前記の各々は、参照により本明細書に組み込む。
【0011】
ルテインの製造方法は従来技術で公知であるが、極端な温度またはpHを使用しない、タバコからのルテインの容易な製造方法は知られていない。単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造される、タバコなどの農業特性が良好に特徴づけられ、好ましい植物源からのルテイン製造法には長年にわたる切実な要求がある。より一般的には、環境的に好ましいルテインなどのそのような価値のある構成要素の調製方法には長年にわたる要求がある。」(下線は当審にて追加。以下同様)。

(イ)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記の説明から明らかなように、ルテインは様々なタバコ製品の構成要素としてだけでなく、酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤として有用であるので、したがって、タバコから、すなわち、とりわけ、様々なタバコ製品またはタバコ加工で使用されるタバコ組成、またはより一般的には酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および/または、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤を含むことがある組成で使用される、特にニコチアナ種からの、タバコからのルテインの製造方法を提供することが望ましいのが明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法は、喫煙品及び無煙タバコ製品のような様々なタバコ製品に使用されるタバコ組成、またはより一般的には酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および/または、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤を含むことがある組成に取り込むのに有効なニコチアナ種の植物から単離した成分を含むニコチアナ種からの材料を(例えば、タバコ由来材料)を提供する。本出願で様々な実施態様に記載するような方法は、また、ニコチアナ種(例えばタバコ材料)から成分を単離する方法、並びにそれらの成分およびそれらの成分を含むタバコ材料を加工する方法を提供する。例えば、タバコ由来材料は、通常はタバコ材料の所望の成分を単離するための多数の連続した抽出行程を含むことがある分離方法にタバコ植物の少なくとも一部分(例えば、葉、茎、根または柄)を置くことによって製造できる。例えば、タバコ由来材料は、通常はタバコ材料の所望の成分を単離するための多数の連続した抽出行程を含むことがある分離方法にタバコ植物の少なくとも一部分(例えば、葉、茎、根または柄)を置くことによって製造できる。」

(ウ)「【0016】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法に関連して使用するとき、「バイオマス」という用語は、植物の一つ以上の部分を示し、および、特に植物の地下部分または全部を任意で含む、植物の地上部分のほぼ全体を示す。したがって、「バイオマス」という用語は、葉、種子、または、他のいずれかの植物の地上部分、または、任意で植物の地下部分のいくつかまたは全部を含むその組み合わせのいずれかを意味する。したがって、「バイオマス」という用語及び「バイオマター」および「植物源」などの関連用語は、抽出、単離、またはそこから重要な成分を単離させるように加工される収穫植物のいずれか一つ以上の部分を意味すると適切に理解されるであろう。
・・・
【0018】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法に関連して使用するとき、「アルカリ金属水酸化物」とは化学式MOH(前記式において、MはLi、Na、K、Rb、CsまたはFrである)を有する一つ以上の化合物を意味する。
【0019】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法に関連して使用するとき、「鉱酸」とは無機酸を意味し、したがって、例えば、下記の、硫酸、リン酸、硝酸、塩素酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、クロム酸、亜硫酸、亜リン酸、亜硝酸、ハロゲンスルホン酸HSO_(3)X(前記式において、Xはハロゲンである)、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸、硫化水素、次亜リン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸のいずれか一つまたは複数を示すことができる。
【0020】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法によって製造したニコチアナ由来(例えば、タバコ由来)材料によって、実質的に、または、まさに完全にニコチアナ材料から由来する喫煙品用のタバコ組成または無煙タバコ組成の調製が可能である。例えば、タバコ組成はタバコ、または、ニコチアナ種から単離された成分を含む、ある形態のタバコ由来材料を抱合することができ、その結果、そのタバコ組成の少なくとも約80重量%、より一般的には少なくとも約90重量%、または、まさに少なくとも約95重量%がタバコ由来材料から成る。
【0021】
タバコから、および、特にニコチアナ種からの植物または植物の部分からの材料または物質をより完全に利用する必要性があることが長らく認められていた。ニコチアナ種からの植物または植物の部分からの容易に入手できる出発原料または材料(インプット)タバコからの材料または物質がより完全に利用される方法で、出発原料または材料として特に封入に有用なそのような出発原料または材料は、とりわけタバコバイオマスを含む。タバコバイオマスは全部が収穫されていたタバコ植物の物質全体を含むことが可能である。タバコバイオマスは、例えば、タバコ植物の地上部分のほとんど全部を含むことができ、および、任意でタバコ植物の地下部分のあるものまたは全部を含むことができる。タバコバイオマスは、例えば全体が収穫されたタバコ植物の固体部分、または、タバコ植物の地上部分のほとんど全部の固体部分を含むことが可能であり、それから、いわゆる「青汁」が例えば、ねじプレスの作用を介して放出されていた。タバコバイオマスは、少なくとも水の一部分が乾燥によって除去されたそのような固体部分を含むことが可能である。
【0022】
タバコから、および、特にニコチアナ種からの植物または植物の部分をより完全に利用できる方法としては、ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受けることのできる様々な物理的および/または化学変換がある。そのような物理および/または化学変換は一つ以上の所望のまたは好ましい特性を有する生産物または製品において生じることがある。そのような生産物または製品はそれ自体さらに有用な方法での出発原料または材料として有用であることがある。ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受ける物理的変換としては、ある量のタバコバイオマスに対するねじプレスの作用から生じる途絶のような、タバコバイオマスの物理的完全性の途絶がある。ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受けることがある物理的変換としては、例えば、粒径、相対密度、沈降速度、または一定のマトリックスの親和性による分別がある。ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受けることがある化学変換としては、例えば、酸性触媒加水分解および塩基触媒加水分解を含む加水分解がある。エステルの酸性触媒加水分解およびエステルの塩基触媒加水分解は当業者には公知である。加水分解されるエステルは、トリアセチルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはモノアシルグリセロールのsn-1、sn-2またはsn-3位に見られるエステルを含み、例えば、特に、タバコバイオマスを含むタバコ植物またはそのいずれかの部分内に存在する、または、それから由来するトリアセチルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはモノアシルグリセロール、または、例えば、タバコバイオマスを含むタバコ植物またはそのいずれかの部分内に存在するルテインエステルなどである。
【0023】
エステルの酸性触媒加水分解およびエステルの塩基触媒加水分解を含むエステルの加水分解の様々な実施態様は当業者には公知である。トリアセチルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはモノアシルグリセロール内のエステルなどの、エステルの酸性触媒加水分解に適した酸は鉱酸であることがある。トリアセチルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはモノアシルグリセロール内のエステルなどの、エステルの塩基触媒加水分解に適した塩基は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのようなI族アルカリ金属一価陽イオンの水酸化物である。
【0024】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法は、ある量のタバコ植物材料からルテインを単離する方法を提供する。タバコ植物材料はタバコバイオマスを含むことがある。
【0025】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法によると、ある量のタバコバイオマス、および、タバコバイオマスの複数の粒子が形成される浸軟および/または一つ以上の他の力の適用によって特に物理的変換を受け、それによって、バイオマスの物理的完全性が途絶したある量のタバコバイオマスを、水性混合物対植物バイオマスの質量比が0.1:1?1:1の質量比でのような、水性混合物と接触させ、それによって、着色スラリーを形成する。水性混合物は、例えば、グリシンおよびリン酸塩、亜硫酸水素塩含有化合物、メタ重亜硫酸塩含有化合物、I族およびII族ハロゲン化物塩およびその組み合わせからなる群から選択された一つ以上の化合物を含む溶液を含むことがある。着色スラリーに圧力をかけ、そこで、圧搾された固体を形成し、シロップを放出する。放出されたシロップに、例えば、遠心分離を含む力を加えることによって分画し、そこで、放出されたシロップを沈降速度が遅い成分および沈降速度が速い成分に分割することができる。ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出されたシロップ成分と接触させることがあり、そこで、例えば、pHが約5.9の酸性化放出シロップ成分が生成する。ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させることがあり、そこで第二の着色スラリーが生成する。第二の着色スラリーを濾過し、または、そうでなければ分割し、そこで、大部分は固体の第二の着色スラリー成分および大部分は液体の着色スラリー成分が生成する。沈降速度がより速い放出シロップ成分および大部分が固体の第二の着色スラリー成分からなるセットの少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させることがあり、そこで着色混合物が生成する。ある量の着色混合物を濾過し、または、そうでなければ、分画し、そこでルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富ではない画分が形成される。ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインを、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分において少なくとも一つの溶媒から分離し、そこでルテインを単離する。」

(エ)「【発明の効果】
【0026】
したがって、一つの特徴では、本出願で様々な実施態様に記載するような方法は、タバコからルテインを製造する方法を提供する。そのようなルテインは、タバコ材料およびニコチアナ種から由来する成分を含む喫煙品または無煙タバコ組成内、上または周辺での使用に適しており、但し、その成分はニコチアナ種から由来する。そのようなルテインは、酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および/または、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤として有用である。」

(オ)「【0033】
本出願で様々な実施態様に記載したような方法によると、タバコ製品はある形状のバイオマスまたは少なくとも一つのニコチアナ種の植物から得られるまたは由来する一つ以上の解剖学的部分に組み合わせたタバコを取り込むことができる。すなわち、本出願で様々な実施態様に記載したような方法によるタバコ製品の部分は、バイオマスの部分または片、または一つ以上の解剖学的部分の部分、または加工バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分またはその構成要素を含む加工材料のなどの、ある形状のバイオマスまたはニコチアナ種の一つ以上の解剖学的部分から成る。タバコ製品の少なくとも一部分は、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から取り出した成分(例えば抽出、蒸留または他の種類の加工方法によって)などのバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の成分から成ることがある。タバコ製品の少なくとも一部分は、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分を化学反応させた後に回収される成分またはバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から回収した成分を化学反応させた後に回収される成分(例えば、酸/塩基反応条件または酵素処理)などの、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から由来する成分から成る。
【0034】
ニコチアナ種は、それが生成するバイオマスまたは解剖学的部分の型で選択できる。例えば、植物は、それらの植物が豊富なバイオマスまたは種子を生成するか、比較的高レベルの特定の所望の成分を生成するかなどに基づいて、選択できる。
【0035】
植物のニコチアナ種は、農業条件下で成長して、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の発達を促進する。タバコ植物は温室、栽培箱、田畑の屋外で成長または水耕で成長できる。
【0036】
本出願で様々な実施態様に記載したような方法によると、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は植物のニコチアナ種から収穫される。バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分を収穫する方法は様々に変更できる。一般的に、ほとんど全部のバイオマスまたは解剖学的部分が収穫され、そのようなものとして利用される。
【0037】
植物のライフサイクル中の収穫の時間は変更することができる。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は未熟なときに収穫することができる。代替的に、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は植物が成熟に到達した時点で収穫できる。
【0038】
バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の収穫後処理は変更することができる。収穫後、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分、またはその部分は収穫された形態で使用できる(例えば、バイオマスはいかなる乾燥および/または熟成処理も受けずに使用できる。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は重要な貯蔵、処理、加工状態にされずに収穫できる。ある状況では、新鮮なバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は事実上収穫直後に使用できるのが好ましい。代替的に、例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は後使用のために冷蔵または冷凍、凍結乾燥、照射、黄色化、乾燥、硬化、またはそうでなければ後使用のため貯蔵または処理される。
【0039】
収穫されたバイオマスは物理的に加工できる。バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分、またはその一つ以上の部品はさらに片または部品にさらに分割される(たとえば、バイオマスを粉末状にし、粉砕し、挽いて、粉にして、粒子または微粉として特徴づけられる片または部品にすることができる)。バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分、またはその一つ以上の部分に外力または圧力をかける(例えば、プレスするかロール処理する)。そのような加工条件を実施するとき、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分はその自然の水分含量(例えば収穫直後の水分含量)に近い水分含量であることがあり、水分含量はバイオマスに水分またはバイオマスの乾燥から生じた水分含量を添加することによって達成される。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の粉末化、微粉化、粉砕または挽かれた片が示す水分含量は、約25重量%未満、しばしば、約20重量%未満、および頻繁に15重量%未満である。バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の部分または片は、それ以上加工せずにタバコ製品の成分として使用でき、または、別の方法では、微粒子バイオマスまたは解剖学的部分材料をタバコ製品に混入する前にさらに加工することができる。
【0040】
収穫したバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分、またはその成分は他の型の処理条件を受けることができる。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の成分は互いに分離されるか、または、そうでなければ、化学的分類または個々の化合物の混合物に分画される。本出願で使用する「単離バイオマス成分」、「一つ以上の解剖学的部分の単離成分」、「バイオマス単離物」または「一つ以上の解剖学的部分の単離物」は、ニコチアナ種の植物のバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から分離された化合物または化合物の複合混合物である。単離バイオマス成分または一つ以上の解剖学的部分の単離成分は単一化合物、同様な化合物の同種混合物(例えば、風味または芳香化合物の異性体)、または似ていない化合物の異種混合物(例えば、好ましくは所望の官能属性を有する異なる種類の様々な化合物の複合混合物)であることがある。
【0041】
バイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分の単離物の存在することができる成分の種類の例としては、様々な脂肪酸および様々なトリグリセリドがある。脂肪酸の例としては、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、カプリル酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルメトレイン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタデセン酸、エライジン酸、γ‐レノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、11-エイコセン酸、8,11,14‐エイコサトリエン酸、11,14,17‐エイコサトリエン酸、5,8,11,14、17-エイコサペンタエン酸、ヘニコセン酸、リグノセリン酸、4,7,10,15,19‐ドコサヘキサエン酸、およびステアリン酸がある。トリグリセリドの例としては、トリリノレン、パルミト‐ジ‐リノレン、ジ‐パルミト‐リノレン、トリパルミチン、トリステアリンおよびトリオレインがある。バイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分の単離物の成分の例としては、また、アミノ酸および様々なポリフェノールなどの風味または芳香特性を有する各種の他の化合物がある。
【0042】
典型的な分離方法は、溶媒抽出(例えば、極性溶媒、非極性有機溶媒または超臨界流体を使用する)、クロマトグラフィ、蒸留、濾過、冷間プレスまたは他の圧力に基づく技術、再結晶、および/または溶媒/溶媒分割などの一つ以上の方法工程を含む。抽出および分離溶媒またはキャリアの例として、水、アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)、炭化水素(例えば、へプタンおよびヘキサン)、ジエチルエーテルメチレンクロライド、および超臨界二酸化炭素がある。
・・・
【0043】
タバコからバイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分単離物を生成する他の方法を利用することができる。例えば、そのような方法はタバコバイオマスまたは解剖学的部分源から脂質含有単離物を生成することができる。
・・・
【0044】
バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の成分は、それらの成分(バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の部分として、または単離成分の形態のどちらか)が化学変換を受けるようにする条件下に置くことができる。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から分離されたバイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分の単離物は化学変換を引き起こすように処理されるか、または他の成分と混合される。そのような化学変換または改良は、そのようなバイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分のある化学的および物理的特性(例えば、そのような単離物の官能属性)の変化をもたらす。典型的な化学改良方法は酸/塩基反応、加水分解、加熱および酵素処理(例えば、ハイドロリアーゼ、グリコシダーゼまたはグルコシダーゼを使用する)によって実施することができ、および、そのように単離物成分はエステル化、トランスエステル化、異性体変換、アセタール生成、アセタール分解などを受けることができる。そのうえ、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分の様々な単離された脂質成分は、それらの成分の飽和度を変更し、したがって、それらの成分の物理的な形態または挙動を変更するために水素添加を受けることができる。
【0045】
一形態において、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分を冷間プレスして、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分から脂質を絞り出すことができ、それらの脂質成分は回収され、単離される。また、代替的に、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分は溶媒(例えば、極性溶媒または非極性有機溶媒)を使用して溶媒抽出をされることがあり、生成した抽出物は回収され、抽出された成分が単離される。それから、様々なバイオマス成分または一つ以上の解剖学的部分成分を酵素処理し、酵素的に処理された材料を生成する。それから、酵素的に処理された材料を溶媒抽出し、バイオマス単離物または一つ以上の解剖学的部分の単離物を形成する。」

(カ)「【0052】
バイオマスまたは解剖学的部分に分離方法をおこない(例えば、冷間プレスまたは溶媒抽出)、バイオマスまたは解剖学的部分のある部分を除去した後、残るバイオマスまたは解剖学的部分の残留物をまたバイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分、またはそれらの単離物に関して本明細書に記載したタバコ製品のいずれかを含む、タバコ製品に組み込むことができる。例えば、バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分を冷間プレスし、脂質成分を除去した後に残る残留物はタバコ組成成分(例えば、再構成タバコ材料の部分)として使用でき、喫煙品または無煙タバコ組成に組み込むことができる。バイオマスまたは解剖学的部分材料の溶媒可溶部分の溶媒抽出後に残る不溶性パルプ残留物は、同様にタバコ組成の成分として使用できる。
【0053】
バイオマスまたは一つ以上の解剖学的部分のトリグリセリド含有単離物などのある特定の単離物は、喫煙品または無煙タバコ組成に使用されるカプセル成分として使用することができる。特に、トリグリセリド含有単離物は、風味剤と組み合わせて、ある特定の破壊可能なカプセルの内部ペイロード内で希釈剤または担体として使用することができる。典型的に、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によるそのようなカプセルは、外壁および内部液体、固体またはゲルペイロードを有する。カプセル壁が破損するとき、ペイロードが放出される。・・・
【0054】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法の特徴は、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法をその様々な特徴のあるものにおいて説明するために記載されているが、下記のような実施例によってより完全に説明されるであろうが、それを限定するものとして解釈すべきではない。
【0055】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法に関連して、ルテインはニコチアナ種からの物理的におよび/または化学的に変換されていない、または、変換されたバイオマスの加工から簡単に由来することが分かった。
【0056】
一実施態様では、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、任意でグリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成する工程、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。
【0057】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ある量のタバコバイオマスは、その質量がフェムトグラムまたはそれ以下からメートルトンまたそれ以上の範囲にあるタバコバイオマスから成る。
【0058】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、周囲温度は部屋で、または実験室で、または収穫と同時またはそれに続く時点で野外で、または、別の環境で習慣的に得られる温度である。限定ではないが、周囲温度は約5℃から約40℃の温度である。周囲温度は、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によって方法で部分および/またはステップから別の部分および/またはステップまでに変化することがある。
【0059】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ある量のタバコバイオマスの物理的完全性の破壊はタバコバイオマスの少なくとも一部分に物理的な力の適用および/または電磁照射の方向によって、および/または、より一般的には、限定ではないが、細かく刻む,挽く、浸軟、粉末状にする、圧延する、引き裂く、すりつぶす、スライスする、刈る、粉砕する、レンジ加熱、凍結乾燥および/または凍結融解を含む、その量のタバコバイオマスに実行するいかなる方法を介してでも実施することができる。
【0060】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ある量の破壊バイオマスと接触するための水性混合物は、緩衝液、特にグリシンから成る緩衝液、および/または、特に塩化ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよび/またはホウ酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩から成る緩衝液を含む。
【0061】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、第一の着色スラリーは当業者には「青汁」として公知のものを含むことがある。
【0062】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、第一の着色スラリーの加圧はねじプレスによって第一の着色スラリーに力をかけることによって実施できる。
【0063】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ある量の放出シロップの分画は力をかけること、および、特にデカンタ遠心分離による遠心分離力を加えることによって実施される。
【0064】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ほとんど固体の第二の着色スラリー成分は適切なフィルタによって保持され、ほとんど液体の第二の着色スラリー成分はその適切なフィルタを通過する。
【0065】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ルテインが可溶性の少なくとも一つの溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレビン油および/または炭化水素および/またはより一般的に疎水性物質である。
【0066】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ある量の着色混合物の分画は、それに限定されるわけではないが、濾過および/または沈降を含むそのような分画に適した、当業者には公知のいずれかの手段によって実施できる。
【0067】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画における、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画内のルテインの少なくとも1つの溶媒からの分離は濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または逆流および/またはより一般的には溶質から溶媒を分離するための当業者には公知のいずれかの適切な方法によって実施される。本明細書において様々な実施態様に記載したような方法に関する条件および/または手順はルテインの化学的完全性および生物学的活性の保存のために好都合であることが当業者に注目される。当業者は、そのような条件および/または手順作用のため極端な温度またはpHを要求せず、さもなければ廃棄流とみなされる材料を利用して、資源の好ましい処分を可能にすることが認識するであろう。
・・・
【0072】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、また、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、グリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成し、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。
・・・
【0074】
本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、さらに、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は約5℃から約40℃の温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、グリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成する工程、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。」

ウ 判断
(ア)本願補正発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
また、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人が証明責任を負うのが相当であるし、発明の詳細な説明に当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。
以下、上記の前提で検討する。

(イ)本願補正発明の課題
本願明細書の摘記イ(ア)の【背景技術】の【0011】の「ルテインの製造方法は従来技術で公知であるが、極端な温度またはpHを使用しない、タバコからのルテインの容易な製造方法は知られていない。単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造される、タバコなどの農業特性が良好に特徴づけられ、好ましい植物源からのルテイン製造法には長年にわたる切実な要求がある。より一般的には、環境的に好ましいルテインなどのそのような価値のある構成要素の調製方法には長年にわたる要求がある。」との記載、摘記イ(イ)の【発明が解決しようとする課題】の【0014】の「ルテインは様々なタバコ製品の構成要素としてだけでなく、酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤として有用であるので、したがって、タバコから、すなわち、とりわけ、様々なタバコ製品またはタバコ加工で使用されるタバコ組成、またはより一般的には酸化防止剤、抗炎症剤、加齢による黄斑変性症の予防および/または改善薬、および/または、一つ以上のチトクロームP450モノオキシゲナーゼによって活性化されるいくつかの多環芳香族炭化水素の有害効果の中和剤を含むことがある組成で使用される、特にニコチアナ種からの、タバコからのルテインの製造方法を提供することが望ましいのが明らかである。」との記載及び明細書全体の記載を参酌して、本願補正発明の課題は、単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法の提供にあると認める。

(ウ)対比判断
a 前記1に記載したとおり、特許請求の範囲の請求項1には、
「周囲温度で実行され」る「ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法」として、具体的工程として、
(a)として特定された、タバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、破壊バイオマスを形成する工程、
(b)として特定された、破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)として特定された、第一の着色スラリーを圧搾し、圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)として特定された、放出シロップを力により分画し、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)として特定された、酸をより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)として特定された、酸性化放出シロップ成分を珪藻土と接触させ、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)として特定された、第二の着色スラリーを濾過または固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)として特定された、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成を、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含むルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、着色混合物を形成する工程、
(i)として特定された、着色混合物を、濾過および/または沈降を含む分画により、ルテインおよびルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよびルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
(j)として特定された、第一画分中のルテインを、前記第一画分中のルテイン可溶性溶媒から濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離を含む分離により、タバコバイオマスからルテインを単離する工程が特定された方法の発明が記載されているといえる。

b 一方、発明の詳細な説明には、請求項1に係るタバコバイオマスからルテインを単離する方法に関して、前記イ(イ)には、「【0015】
・・・
本出願で様々な実施態様に記載するような方法は、また、ニコチアナ種(例えばタバコ材料)から成分を単離する方法、並びにそれらの成分およびそれらの成分を含むタバコ材料を加工する方法を提供する。例えば、タバコ由来材料は、通常はタバコ材料の所望の成分を単離するための多数の連続した抽出行程を含むことがある分離方法にタバコ植物の少なくとも一部分(例えば、葉、茎、根または柄)を置くことによって製造できる。例えば、タバコ由来材料は、通常はタバコ材料の所望の成分を単離するための多数の連続した抽出行程を含むことがある分離方法にタバコ植物の少なくとも一部分(例えば、葉、茎、根または柄)を置くことによって製造できる。」とのタバコ材料からの単離に関する一般的記載がある。
また、前記イ(ウ)には、「【0022】
タバコから、および、特にニコチアナ種からの植物または植物の部分をより完全に利用できる方法としては、ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受けることのできる様々な物理的および/または化学変換がある。そのような物理および/または化学変換は一つ以上の所望のまたは好ましい特性を有する生産物または製品において生じることがある。そのような生産物または製品はそれ自体さらに有用な方法での出発原料または材料として有用であることがある。ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受ける物理的変換としては、ある量のタバコバイオマスに対するねじプレスの作用から生じる途絶のような、タバコバイオマスの物理的完全性の途絶がある。ニコチアナ種からの植物または植物の部分が受けることがある物理的変換としては、例えば、粒径、相対密度、沈降速度、または一定のマトリックスの親和性による分別がある。・・・」との(a)工程に対応したタバコバイオマスの物理的完全性の破壊(途絶)に関する一般的記載がある。
さらに、前記イ(ウ)には、「【0025】
本出願で様々な実施態様に記載するような方法によると、ある量のタバコバイオマス、および、タバコバイオマスの複数の粒子が形成される浸軟および/または一つ以上の他の力の適用によって特に物理的変換を受け、それによって、バイオマスの物理的完全性が途絶したある量のタバコバイオマスを、水性混合物対植物バイオマスの質量比が0.1:1?1:1の質量比でのような、水性混合物と接触させ、それによって、着色スラリーを形成する。水性混合物は、例えば、グリシンおよびリン酸塩、亜硫酸水素塩含有化合物、メタ重亜硫酸塩含有化合物、I族およびII族ハロゲン化物塩およびその組み合わせからなる群から選択された一つ以上の化合物を含む溶液を含むことがある。着色スラリーに圧力をかけ、そこで、圧搾された固体を形成し、シロップを放出する。放出されたシロップに、例えば、遠心分離を含む力を加えることによって分画し、そこで、放出されたシロップを沈降速度が遅い成分および沈降速度が速い成分に分割することができる。ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出されたシロップ成分と接触させることがあり、そこで、例えば、pHが約5.9の酸性化放出シロップ成分が生成する。ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させることがあり、そこで第二の着色スラリーが生成する。第二の着色スラリーを濾過し、または、そうでなければ分割し、そこで、大部分は固体の第二の着色スラリー成分および大部分は液体の着色スラリー成分が生成する。沈降速度がより速い放出シロップ成分および大部分が固体の第二の着色スラリー成分からなるセットの少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させることがあり、そこで着色混合物が生成する。ある量の着色混合物を濾過し、または、そうでなければ、分画し、そこでルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富ではない画分が形成される。ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインを、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分において少なくとも一つの溶媒から分離し、そこでルテインを単離する。」との記載があり、水性混合物対植物バイオマスの質量比の数値範囲を例示していること、酸性化放出シロップ成分を生成するときのpHの例示をしていることを除いて、実質的に請求項1の実質的繰り返し記載が存在する。
また、前記イ(エ)には、【発明の効果】として、【0026】に本出願で様々な実施態様に記載するような方法がタバコからルテインを製造する方法を提供することや、ルテインの有用性に関して一般的記載がある。
さらに、前記イ(オ)には、【0033】において、本出願で様々な実施態様に記載したような方法によると、タバコ製品はある形状のバイオマスまたは少なくとも一つのニコチアナ種の植物から得られること、【0034】において、ニコチアナ種は、それが生成するバイオマスで選択でき、植物は、それらの植物が豊富なバイオマスまたは種子を生成するか、比較的高レベルの特定の所望の成分を生成するかなどに基づいて選択できること、【0040】には、収穫したバイオマスは、互いに分離または化学的分類または個々の化合物の混合物に分画されること、【0042】には、典型的な分離方法は、溶媒抽出(例えば、極性溶媒、非極性有機溶媒または超臨界流体を使用する)、クロマトグラフィ、蒸留、濾過、冷間プレスまたは他の圧力に基づく技術、再結晶、および/または溶媒/溶媒分割などの一つ以上の方法工程を含むこと、抽出および分離溶媒またはキャリアの例として、水、アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)、炭化水素(例えば、へプタンおよびヘキサン)、ジエチルエーテルメチレンクロライド、および超臨界二酸化炭素があること、【0044】には、バイオマスから分離されたバイオマス単離物は化学変換を引き起こすように処理されるか、または他の成分と混合されること、【0045】には、バイオマスは溶媒(例えば、極性溶媒または非極性有機溶媒)を使用して溶媒抽出をされることがあり、生成した抽出物は回収され、抽出された成分が単離されることのそれぞれ一般的記載がある。
そして、前記イ(カ)には、【0055】に、ルテインはニコチアナ種からの物理的におよび/または化学的に変換されていない、または、変換されたバイオマスの加工から簡単に由来することが分かったこと、【0056】には、「一実施態様では、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、任意でグリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成する工程、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。」との記載があり、水性混合物のpHの例示をしていること、酸性化放出シロップ成分を生成するときのpHの例示をしていることを除いて、実質的に請求項1の実質的繰り返し記載が存在する。
また、【0058】には、周囲温度の温度範囲に関する一般的記載があり、【0059】には、ある量のタバコバイオマスの物理的完全性の破壊の方法の例示が、【0060】には、ある量の破壊バイオマスと接触するための水性混合物の含有成分の記載が、【0061】には、第一の着色スラリーは当業者には「青汁」として公知のものを含むことがあること、【0062】には、第一の着色スラリーの加圧はねじプレスによって第一の着色スラリーに力をかけることによって実施できること、【0063】には、ある量の放出シロップの分画は力をかけること、および、特にデカンタ遠心分離による遠心分離力を加えることによって実施されること、【0064】には、ほとんど固体の第二の着色スラリー成分は適切なフィルタによって保持され、ほとんど液体の第二の着色スラリー成分はその適切なフィルタを通過すること、【0065】には、ルテインが可溶性の少なくとも一つの溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレビン油および/または炭化水素および/またはより一般的に疎水性物質であること、【0066】には、ある量の着色混合物の分画は、それに限定されるわけではないが、濾過および/または沈降を含むそのような分画に適した、当業者には公知のいずれかの手段によって実施できること、【0067】には、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画における、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画内のルテインの少なくとも1つの溶媒からの分離は濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または逆流および/またはより一般的には溶質から溶媒を分離するための当業者には公知のいずれかの適切な方法によって実施されること、本明細書において様々な実施態様に記載したような方法に関する条件および/または手順はルテインの化学的完全性および生物学的活性の保存のために好都合であることが当業者に注目され、当業者は、そのような条件および/または手順作用のため極端な温度またはpHを要求せず、さもなければ廃棄流とみなされる材料を利用して、資源の好ましい処分を可能にすることが認識するであろうことが、それぞれ一般的記載として示されている。
そして、【0072】には、「本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、また、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、グリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成し、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。」との記載があり、【0056】と同様、水性混合物のpHの例示をしていること、酸性化放出シロップ成分を生成するときのpHの例示をしていることを除いて、実質的に請求項1の実質的繰り返し記載が存在する。
さらに、【0074】には、「本明細書において様々な実施態様に記載したような方法は、さらに、ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は約5℃から約40℃の温度で実行され、その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、ある量の破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、水性混合物のpHは約8.5であり、グリシンおよびアルカリ金属塩を含み、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成し、前記酸性化放出シロップ成分のpHが約5.9である工程、ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、第二の着色スラリーを濾過またはそうでなければほとんど固体の第二の着色スラリー成分およびほとんど液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分およびほとんど固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つの溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分およびルテインおよび少なくとも一つの溶媒があまり豊富ではない画分を形成する工程、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中のルテインをルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な画分中の少なくとも一つの溶媒から分離する工程、それによってその量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程から成る方法を提供する。」との記載があり、水性混合物のpHの例示をしていること、酸性化放出シロップ成分を生成するときのpHの例示をしていること、【0058】に記載した周囲温度の温度範囲を特定していることを除いて、実質的に請求項1の実質的繰り返し記載が存在する。

c したがって、請求項1に係る特許を受けようとする発明のタバコバイオマスからルテインを単離する方法に関しては、【0025】、【0056】、【0072】、【0074】に、上記のとおり特許請求の範囲の実質的に繰り返しとなる記載があり、【0022】、【0042】、【0059】?【0067】に、各単位操作や各工程に関して、例示又は一般的な記載があり、【0067】には、「本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画における、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画内のルテインの少なくとも1つの溶媒からの分離は・・・公知のいずれかの適切な方法によって実施される。・・・当業者は、そのような条件および/または手順作用のため極端な温度またはpHを要求せず、さもなければ廃棄流とみなされる材料を利用して、資源の好ましい処分を可能にすることが認識するであろう。」との明細書の実施態様で本願補正発明の課題が解決できることの結論の一般的記載があるだけで、実態を伴った裏付けとなる理論の記載や具体例の記載は存在しない。

そして、裏付けとなる理論や結果を伴った具体例の記載が全く存在しない状態では、請求項1に係る(a)から(j)の各工程を、周囲温度としてどのような具体的温度で実施し、どのような具体的pHで行って、結果としてタバコバイオマスからルテインを単離することができたのか明示した記載がないのであるから、当業者といえども特許請求の範囲の方法によって、タバコバイオマスをどの程度有効に利用でき、ルテインをどの程度単離できたのか等を含めどのような結果となるかは理解できるとはいえず、単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法の提供という本願補正発明の課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない。

そして、上述したような、特許請求の範囲の実質的に繰り返しとなる記載や各単位操作や各工程の一般的記載は、本願補正発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されていることの根拠とすることはできないのは明らかである。

また、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が、単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法が提供でき、本願補正発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もないので、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

d 請求人のサポート要件に関する主張の検討
(a)請求人は、平成30年1月25日付け意見書3頁「2.理由2(サポート要件)について」において、本願明細書【0054】?【0058】に本願発明にかかるタバコバイオマスからのルテインを単離する方法について明確に記載され、温度について【0058】、pHについて【0056】に記載されている旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、【0054】?【0058】には、【0058】の周囲温度の一般的記載があるだけであるし、【0056】は実質的な特許請求の範囲の繰り返し記載にすぎず、pHに関しても、当初明細書の請求項1に記載されていたものにすぎず、これらの記載をもって、本願補正発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されていることの根拠とすることはできないのは明らかであり、裏付けとなる理論や結果を伴った具体例の記載が全く存在しない状態では、当業者が上記本願補正発明の課題が解決できると認識できるとはいえない。
また、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が上記本願補正発明の課題を解決できると認識できないのであるから、上記請求人の主張は採用できない。

(b)また、請求人は、平成30年9月21日付け審判請求書の同年10月18日付け手続補正書(方式)の2?3頁において、平成30年10月18日付けの物件提出書に添付した内部報告書である資料1と2を提出して、サポート要件に関する以下のような主張をしているので検討する。
つまり、請求人の主張は、資料1の図1、資料2の図2の「KBP Process 13」のフローチャートが本願発明の方法の各工程に相当し、資料2の表4の上5列の5つのサンプルのうち、「Filter Cake Sample」又は「Cake Sample」が本願発明の方法の「固体の第二の着色スラリー成分」に相当し、プロセス中で得られた他の4つのサンプルと比較して著しく高い濃度のルテインを含有することが示されており、この結果からみれば本願補正発明の課題が解決できることは明らかであるというものである。
しかしながら、上記(a)で述べたとおり、明細書に記載されているのは、実質的な特許請求の範囲の繰り返し記載や一般的記載だけであり、技術常識を参酌しても、当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できないことはすでに述べたとおりである。

(c)また、請求人は、本願補正発明に対応したプロセスが上記「KBP Process 13」であることを前提に、フローチャートの一部の対応関係を説明しているが、資料自体が大量の黒塗りを含んでおり、記載全体としてどのような前提をもって記載された内容であるのか開示されている部分だけでは正確に把握できない。
さらに、本願補正発明の(a)?(j)の各工程を一連の方法として、対応させた記載がない上に、審判請求書の中でも(h)(i)(j)の各工程については、そもそも資料1,2において本願補正発明との対応関係を正確に説明しておらず、結果として一連の(a)?(j)の工程として理解すべき本願補正発明との対応関係は不明であるといわざるを得ない。
さらに、仮に「Filter Cake Sample」又は「Cake Sample」が本願発明の方法の「固体の第二の着色スラリー成分」に相当しているとしても、明細書の記載を前提として、その該Cake Sampleが表4の他の4つのサンプルよりルテイン濃度が高いことが、単一の生育期の間に多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法の提供という本願補正発明の課題を解決しているのかどうか不明であるといわざるを得ない。
したがって、本願補正発明に対応したプロセスであると主張する上記「KBP Process 13」に関する資料2の表4の結果に基づいて、本願補正発明の課題が解決できると当業者が認識できることの根拠とすることはできず、本願補正発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

そもそも、発明の詳細な説明には、実際には、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載があるだけであるにもかかわらず、出願後に、実際には公知になったものとはいえず、また出願前に作成されたのかも不明である内部報告書を資料として提出し、関連の結果であるとして追加して、それらの追加実験の記載を前提にサポート要件を満たすことを主張することは、発明の詳細な説明の記載の範囲を超える記載に関するものである。
したがって、一応上記内部報告書である資料1と2を参照検討しても、発明の詳細な説明の記載の裏付けの根拠として採用することはできない。

(d)さらに、請求人は、平成31年2月22日付け上申書を提出し、工程(j)の分離手段を限定する補正案に関して述べているが、この案は、実際の特許請求の範囲の記載と異なるものであり、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるし、また、念のため、仮にそれらの補正案を検討したとしても、前述のとおり、本願補正発明の課題が解決できると当業者が認識できないことに変わりなく、当該補正案によって上記判断は影響を受けるものでもない。

(e)以上のとおり、請求人の主張を検討しても、本願の発明の詳細な説明の記載がサポート要件を満たしていることの主張としては採用することはできない。

e 小括
したがって、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項に適合するものではない。

エ 独立特許要件についてのまとめ
したがって、その余の理由を検討するまでもなく、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成30年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりであるところ、その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法であり、その方法は周囲温度で実行され、その方法は、
(a)その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、
(b)ある量の破壊バイオマスをグリシン、リン酸塩、亜硫酸水素塩含有混合物、メタ亜硫酸水素塩含有化合物、I族またはII族のハロゲン化物塩、またはその組み合わせを任意で含む水性混合物と接触させ、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)第二の着色スラリーを濾過またはさもなければ固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、
ここで、少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含む、
(i)ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
ここで、前記の量の着色混合物の分画は、濾過および/または沈降を含む、
(j)ある量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離し、それによって前記量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程、
ここで、前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または対向流を含む、前記方法。」

なお、前記拒絶査定の対象となった上記請求項1に記載された特許を受けようとする発明(本願発明)は、平成29年10月3日付け拒絶理由の対象となった、平成27年11月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明に対応するものである。

第4 原査定の拒絶の理由
平成29年10月3日付けで審査官が通知した拒絶の理由(以下「原審の拒絶理由」という)の一つは概略以下のとおりである。

理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
当審は、原審の拒絶理由のとおり、請求項1の特許を受けようとする発明については、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 本願発明の課題
前記 第2 2(2)ウ(イ)に検討したのと同様に、本願発明の課題も単一の生育期の間に、多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法の提供にあると認められる。

2 特許請求の範囲の記載
請求項1には、「ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法」であって、
「周囲温度で実行され」ること、
「その方法は、
(a)その量のタバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、それによって破壊バイオマスを形成する工程、
(b)ある量の破壊バイオマスをグリシン、リン酸塩、亜硫酸水素塩含有混合物、メタ亜硫酸水素塩含有化合物、I族またはII族のハロゲン化物塩、またはその組み合わせを任意で含む水性混合物と接触させ、それによって第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)ある量の第一の着色スラリーを圧搾し、それによって圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)放出シロップを力により分画し、それによって、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)ある量の酸をある量のより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、それによって、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)ある量の酸性化放出シロップ成分をある量の珪藻土と接触させ、それによって、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)第二の着色スラリーを濾過またはさもなければ固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)ある量の、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成をルテインが可溶である少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、それによって着色混合物を形成する工程、
ここで、少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒は、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含む、
(i)ある量の着色混合物を分画し、それによってルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよび少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
ここで、前記の量の着色混合物の分画は、濾過および/または沈降を含む、
(j)ある量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離し、それによって前記量のタバコバイオマスからルテインを単離する工程、
ここで、前記量の第一画分中のルテインを、前記第一画分中の少なくとも一つのルテイン可溶性溶媒から分離する工程が、濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または対向流を含む」ものであることが、特定された方法の発明が記載されている。

3 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、第2 2(2)イに示したとおりの記載がある。

4 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
前記第2 2(2)ウ(ア)の前提で検討する。

(2)対比判断
ア 前記1に記載したとおり、特許請求の範囲の請求項1には、「周囲温度で実行され」る「ある量のタバコバイオマスからルテインを単離する方法」として、具体的工程として、
(a)として特定された、タバコバイオマスの物理的完全性を破壊し、破壊バイオマスを形成する工程、
(b)として特定された、破壊バイオマスを水性混合物と接触させ、第一の着色スラリーを形成する工程、
(c)として特定された、第一の着色スラリーを圧搾し、圧搾固体および放出シロップを形成する工程、
(d)として特定された、放出シロップを力により分画し、より遅い沈降速度を有する放出シロップ成分およびより速い沈降速度を有する放出シロップ成分を形成する工程、
(e)として特定された、酸をより遅い沈降速度を有する放出シロップ成分と接触させ、酸性化放出シロップ成分を形成する工程、
(f)として特定された、酸性化放出シロップ成分を珪藻土と接触させ、第二の着色スラリーを形成する工程、
(g)として特定された、第二の着色スラリーを濾過または固体の第二の着色スラリー成分および液体の第二の着色スラリー成分に分離する工程、
(h)として特定された、より速い沈降速度を有する放出シロップ成分および固体の第二の着色スラリー成分からなる組の少なくとも一つのメンバーを含む組成を、油および/または脂肪および/またはテレピンおよび/または炭化水素を含むルテイン可溶性溶媒を含む組成と接触させ、着色混合物を形成する工程、
(i)として特定された、着色混合物を、濾過および/または沈降を含む分画により、ルテインおよびルテイン可溶性溶媒が豊富な第一画分、ならびにルテインおよびルテイン可溶性溶媒が第一画分と比較して豊富ではない第二画分を形成する工程、
(j)として特定された、第一画分中のルテインを、前記第一画分中のルテイン可溶性溶媒から濾過および/または沈澱および/またはクロマトグラフィ分離および/または対向流を含む分離により、タバコバイオマスからルテインを単離する工程が特定された方法の発明が記載されているといえる。

一方、発明の詳細な説明には、前記第2 2(2)ウ(ウ)b及びcで検討したのと同様に、本願発明のタバコバイオマスからルテインを単離する方法に関しては、【0025】、【0056】、【0072】、【0074】に、上記のとおり特許請求の範囲の実質的に繰り返しとなる記載があり、【0022】、【0042】、【0059】?【0067】に、各単位操作や各工程に関して、例示又は一般的な記載があり、【0067】には、「本明細書において様々な実施態様に記載したような方法によると、ルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画における、ある量のルテインおよび少なくとも一つの溶媒が豊富な分画内のルテインの少なくとも1つの溶媒からの分離は・・・公知のいずれかの適切な方法によって実施される。・・・当業者は、そのような条件および/または手順作用のため極端な温度またはpHを要求せず、さもなければ廃棄流とみなされる材料を利用して、資源の好ましい処分を可能にすることが認識するであろう。」との明細書の実施態様で本願発明の課題が解決できることの結論の一般的記載があるだけで、実態を伴った裏付けとなる理論の記載や具体例の記載は存在しない。

そして、裏付けとなる理論や結果を伴った具体例の記載が全く存在しない状態では、請求項1に係る(a)から(j)の各工程を、周囲温度としてどのような具体的温度で実施し、どのような具体的pHで行って、結果としてタバコバイオマスからルテインを単離することができたのか明示した記載がないのであるから、当業者といえども特許請求の範囲の方法によって、タバコバイオマスをどの程度有効に利用でき、ルテインをどの程度単離できたのか等を含めどのような結果となるかは理解できるとはいえず、単一の生育期の間に、多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法の提供という本願発明の課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない。

そして、上述したような、特許請求の範囲の実質的に繰り返しとなる記載や各単位操作や各工程の一般的記載は、本願発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されていることの根拠とすることはできないのは明らかである。

また、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が、単一の生育期の間に、多量の植物由来バイオマスが製造されるタバコバイオマスからの、極端な温度またはpHを使用しない、環境的に好ましいルテインの容易な製造方法が提供でき、本願発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もないので、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

イ 請求人のサポート要件に関する主張の検討
請求人は、前記第2 2(2)ウ(ウ)dに記載したように、平成30年1月25日付け意見書3頁「2.理由2(サポート要件)について」において、本願明細書【0054】?【0058】に本願発明にかかるタバコバイオマスからのルテインを単離する方法について明確に記載され、温度について【0058】、pHについて【0056】に記載されている旨主張している。
しかしながら、前記第2 2(2)ウ(ウ)dで検討したとおり、【0054】?【0058】には、【0058】の周囲温度の一般的記載があるだけであるし、【0056】は実質的な特許請求の範囲の繰り返し記載にすぎず、pHに関しても、当初明細書の請求項1に記載されていたものにすぎず、これらの記載をもって、本願発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されていることの根拠とすることはできないのは明らかであり、裏付けとなる理論や結果を伴った具体例の記載が全く存在しない状態では、当業者が上記本願発明の課題が解決できると認識できるとはいえないし、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が上記本願発明の課題を解決できると認識できないのであるから、上記請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおり、請求項1記載の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-09 
結審通知日 2019-04-16 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2015-561599(P2015-561599)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 537- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 関 美祝
瀬良 聡機
発明の名称 タバコからルテインを生成する方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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