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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B09C
管理番号 1355554
審判番号 不服2018-10559  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-02 
確定日 2019-10-23 
事件の表示 特願2014-177330「汚染領域の浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月11日出願公開、特開2016- 49510、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月1日の出願であって、平成30年2月19日付けで拒絶理由が通知され、同年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月14日付けで拒絶査定がされ、同年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
平成30年5月14日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は、次のとおりである。

1(引用文献2のみを引用文献とする進歩性)
この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2(引用文献3を主引用文献とし、引用文献2、4及び5を副引用文献とする進歩性)
この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
2.特開2012-138466号公報
3.国際公開第2011/136095号
4.特開2004-058011号公報
5.J.C.L. Meeussen, et al.,Transport of complexed cyanide in soil,Geoderma,1995年,Vol.67,p.73-85

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本願発明1」のようにいう。)は、平成30年8月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を含む汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法であって、
前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液を接触させる工程(X)を有し、
前記アルカリ剤は、アルカリ金属の水酸化物であり、前記酸化剤は、アルカリ金属の過硫酸塩であり、
前記工程(X)は、前記汚染領域をpH11以上にすることを特徴とする汚染領域の浄化方法。
【請求項2】
前記工程(X)は、混練工法により、前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に前記処理液を接触させることを特徴とする、請求項1に記載の汚染領域の浄化方法。
【請求項3】
前記工程(X)は、注入工法により、前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に前記処理液を接触させることを特徴とする、請求項1に記載の汚染領域の浄化方法。
【請求項4】
前記工程(X)は、前記汚染領域の土壌及び/又は地下水の100質量部に対して前記酸化剤が0.1質量部以上となるように、前記汚染領域に前記処理液を供給することを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の汚染領域の浄化方法。
【請求項5】
前記工程(X)の後、前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、新たに酸化剤を接触させる工程(Y)を有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の汚染領域の浄化方法。」

第4 引用文献に記載された事項
1 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、「汚染領域の浄化方法」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)がある。なお、下線は他の文献を含め当審で付したものである。

・「【請求項1】
銅シアン錯体で汚染された土壌および/または地下水を含む汚染領域を浄化する方法において、
汚染領域のpHが7.0を超える条件下で、当該汚染領域の汚染土壌および/または汚染地下水100質量部に対して、0.1質量部以上の過硫酸塩を添加して汚染領域を浄化することを特徴とする汚染領域の浄化方法。」

・「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シアン化水素ガスの発生を抑制しつつ、銅シアン錯体で汚染された汚染領域を浄化できる方法を提供できる。」

・「【0013】
この浄化のメカニズムは、汚染物質である銅シアン錯体の解離定数が、他の金属シアン錯体(例えば鉄シアン錯体など)の解離定数に比べて大きいことを利用したものである。解離定数が小さいと錯体は解離しやすい、すなわち分解しやすいので、銅シアン錯体は他の金属シアン錯体に比べて、pH7.0を超える条件下において過硫酸塩によって分解されやすい。加えて、分解により発生した銅イオンが触媒の役割を果たすので、シアン化物イオンの酸化分解が促進され、また、pH7.0を超える条件下であるためシアン化水素ガスの発生が抑制される。
従って、本発明の浄化方法は、シアン化水素ガスの発生を抑制でき、作業環境を配慮した方法である。
【0014】
過硫酸塩としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのペルオキソ二硫酸塩が挙げられる。中でも、溶解度が高く土壌間隙水に溶け、土の粒子に接触する効果が期待される点から、過硫酸ナトリウムが好ましい。ここで、「土壌間隙水」とは、地下水によって飽和している飽和帯(帯水層)の上に位置する不飽和帯中の水のことである。
過硫酸塩は、そのまま直接、汚染領域に添加してもよいし、水に溶解し、溶液の状態で添加してもよい。」

・「【0017】
汚染領域のpHが7.0以下となる場合は、当該汚染領域に塩基類を添加して、pHが7.0を超えるように調整すればよい。塩基類としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられ、具体的には水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。塩基類は、直接汚染土壌に添加してもよいが、汚染土壌のpHを均一にできる点で、水溶液の状態で添加するのが好ましい。
【0018】
なお、上述した過硫酸塩の水溶液は弱酸性から中性を示すため、過硫酸塩を汚染領域に添加した後でも、土壌自身が持つpHの緩衝効果から浄化中の汚染土壌のpHは影響を受けにくい。ただし、過硫酸塩の添加前の汚染領域のpHが7.0を超えていても、過硫酸塩を添加することでpHが7.0以下になる懸念がある場合は、良好な作業環境を確保するために、以下のようにすることが好ましい。
すなわち、汚染領域を浄化する前に、汚染土壌や汚染地下水を少量採取して過硫酸塩の添加によるpHの変化を確認し、pHが7.0以下になる場合は、汚染領域に塩基類を添加して浄化中の汚染領域のpHが7.0を超えるように調整する。
【0019】
汚染領域に添加する過硫酸塩の添加量は、土壌が銅シアン錯体で汚染されている場合は、汚染土壌100質量部に対して、0.1質量部以上である。一方、地下水が銅シアン錯体で汚染されている場合は、汚染地下水100質量部に対して、0.1質量部以上である。なお、土壌および地下水が銅シアン錯体で汚染されている場合は、汚染土壌および汚染地下水のそれぞれ100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましい。
【0020】
過硫酸塩の添加量が0.1質量部以上であれば、過硫酸塩が汚染領域中に行渡るので、ムラなく浄化できる。過硫酸塩の添加量は多くなるほど、特に1.0質量部以上であれば、過硫酸塩が汚染領域中に均一に行渡りやすくなるので、浄化効率が向上する。ただし、添加量が多すぎると過硫酸塩によって酸化分解されたシアン化物イオンの分解物がシアン化物イオンに再合成される場合があり、分解率が低下することがある。従って、添加量の上限値は10質量部以下が好ましい。
【0021】
汚染領域への過硫酸塩の添加方法としては、例えば以下に示す方法(1)?(3)などが挙げられる。
(1)図1に示すように、土壌混練機10を用いて、汚染領域Xに過硫酸塩を添加し、汚染領域Xの汚染土壌と過硫酸塩とを混合する方法。
(2)図2に示すように、掘削した汚染土壌Aと過硫酸塩Bとを、回転式粉砕混合機20に投入し、汚染土壌を粉砕しながら過硫酸塩と混合して、混合物Cを埋め戻す方法。
(3)図3に示すように、汚染領域Xに達する注入井戸30を設け、ブロワ31から注入井戸30へ過硫酸塩溶液を供給し、該注入井戸30を介して汚染領域Xに過硫酸塩溶液を注入する方法。
なお、図1、3中、符号「Y」は不飽和帯、「Z」は飽和帯(帯水層)である。
【0022】
方法(1)であれば、汚染土壌を掘削したり、搬出したりする手間がかからず、汚染領域の原位置浄化が可能であり、コストも削減できる。
方法(2)であれば、汚染土壌と過硫酸塩とを均一に混合できるので、浄化効率が向上する。
方法(3)であれば、汚染領域の原位置浄化が可能であると共に、図3に示すように、例えば地下水によって飽和している飽和帯Zに汚染領域Xがある場合、方法(1)、(2)に比べてより簡便かつ低コストで汚染領域Xを浄化できる。なお、注入井戸30としては、汚染領域Xに埋まっている部分がスクリーン加工されたスクリーン井戸が好ましい。また、注入井戸30は、地下水の流れを考慮し、汚染領域Xに対して地下水の流れの上流側に設けられるのが好ましい。
【0023】
以上説明したように、本発明の浄化方法によれば、汚染領域のpHが7.0を超える条件下で、特定量の過硫酸塩を添加して汚染領域の浄化を行うので、汚染物質である銅シアン錯体が過硫酸塩によって分解され、汚染領域が浄化される。さらに、銅イオン錯体の分解によって生成する銅イオンが、シアン化物イオンと過硫酸塩との酸化反応の触媒となるため、シアン化物イオンの酸化分解が促進される。従って、本発明の浄化方法によれば、シアン化水素ガスの発生を抑制できる。」

・「【0031】
[実施例1-1]
評価用原土(1)100質量部に対して、1質量部の過硫酸ナトリウムを添加し、ハンドミキサーで5分間混合した後、乾燥質量として50g採取し、採取した試料を密閉したガラス瓶中で24時間静置し、浄化処理を行った。
・・・(略)・・・
【0037】
【表1】



・「



2 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、「過硫酸塩および銀錯体を含む化学物質分解用処理剤及びそれを用いた化学物質の分解方法」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献3に記載された事項」という。)がある。

・「[請求項1] 化学物質の分解に用いる処理剤であって、過硫酸塩および銀錯体を含むことを特徴とする化学物質分解用処理剤。
[請求項2] 前記銀錯体が、ピリジン環を有する化合物、ピリミジン環を有する化合物、エチレンジアミン構造を有する化合物、ヒドロキシカルボン酸類、アミノ酸類及びジアミノプロパンからなる群から選択される少なくとも一種を錯化剤として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の処理剤。
[請求項3] 前記銀錯体が、2,2’-ビピリジン、2-ピコリルアミン、ターピリジン、ピコリン酸、2-ピリジンエタノール、3-アミノピリジン、2-アミノピリミジン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、乳酸、グリコール酸、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも一種を錯化剤として形成されていることを特徴とする請求項2に記載の処理剤。
[請求項4] 化学物質の分解に用いる処理剤であって、過硫酸塩、銀化合物および錯化剤を含むことを特徴とする化学物質分解用処理剤。
[請求項5] 前記錯化剤が、2,2’-ビピリジン、2-ピコリルアミン、ターピリジン、ピコリン酸、2-ピリジンエタノール、3-アミノピリジン、2-アミノピリミジン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、乳酸、グリコール酸、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項4に記載の処理剤。
[請求項6] 前記銀化合物が、硝酸銀、硫酸銀、亜硝酸銀、亜硫酸銀、炭酸銀、リン酸銀、ホウ酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀、クエン酸銀及び酸化銀からなる群より選択される少なくとも一つである請求項4または5に記載の処理剤。
[請求項7] 前記過硫酸塩がペルオキソ二硫酸塩である請求項1?6のいずれかに記載の処理剤。
[請求項8] さらに硫酸塩を含む請求項1?7のいずれか一項に記載の処理剤。
[請求項9] 前記化学物質がシアン化物及び/又は金属シアノ錯体である請求項1?8のいずれかに記載の処理剤。
[請求項10] 請求項1?8のいずれか一項に記載の処理剤と、揮発性有機化合物、原油由来物、シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む化学物質とを接触させることを特徴とする化学物質の分解方法。
[請求項11] 処理中の前記化学物質のpHを4?11に保つことを特徴とする請求項10に記載の分解方法。
[請求項12] さらにpH調整剤を添加することを特徴とする請求項10又は11に記載の分解方法。
[請求項13] 前記pH調整剤が酢酸系緩衝剤である請求項12に記載の分解方法。
[請求項14] 前記酢酸系緩衝剤が酢酸および/または酢酸ナトリウムである請求項13に記載の分解方法。
[請求項15] 処理中の前記化学物質の温度を高くとも70℃とすることを特徴とする請求項10?14のいずれか一項に記載の分解方法。
[請求項16] 前記化学物質が土壌、地下水、排水及び廃棄物からなる群から選択される一種又は二種以上の組み合わせである請求項10?15のいずれか一項に記載の分解方法。
[請求項17] 前記化学物質がシアン化物及び/又は金属シアノ錯体を含む場合に、前記化学物質中のシアン化合物1.0mgCNあたり少なくとも0.1gの過硫酸塩を含有する処理剤を用いることを特徴とする請求項10?16のいずれか一項に記載の分解方法。
[請求項18] 前記処理剤と前記化学物質とを攪拌混合することを特徴とする請求項10?17のいずれか一項に記載の分解方法。」

・「[0013] 本発明の目的は、上述した様な従来技術の各種問題点の少なくとも一つを解決することであり、化学物質を安全且つ効率よく分解し、さらに経済的に有利な化学物質分解用処理剤、及びそれを用いた化学物質の分解方法を提供することにある。」

・「[0014] 本発明者らは、上述した問題点を解決するために鋭意研究を行った結果、過硫酸塩および銀錯体を含む処理剤を用いることで、難分解性の化学物質を容易に分解可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。」

・「[0016] 本発明の好ましい態様の化学物質分解用処理剤、及びそれを用いた化学物質の分解方法によれば、以下の効果を有する。
(1)極めて高い酸化力を有し、酸化分解が困難なシアン化物、金属シアノ錯体、ジクロロメタンなどの化学物質を安全に、かつ効果的に分解することができる。
(2)対象物である化学物質のpHを中性付近に保ちつつシアンを分解するため、シアン化水素を発生させることなく、かつ重金属成分を溶出させることなく、シアン化物や金属シアノ錯体を分解することができる。
(3)対象物である化学物質がシアン化物、金属シアノ錯体などで汚染された土壌および/または地下水の場合は、原位置で酸化分解することが可能である。
したがって、本発明によれば、汚染原因となるシアン化物、金属シアノ錯体などの化学物質を安全に、かつ効果的に分解することが可能である。」

・「[0018] 本発明における化学物質は、土壌、地下水、排水及び廃棄物などの汚染原因となる化学物質であり、揮発性有機化合物、シアン化物、金属シアノ錯体などの土壌汚染対策法で規制されている物質や、油膜・油臭としてガイドラインが定められている原油由来物である。本発明におけるシアン化物は、解離によってシアン化物イオンを有する化合物をいう。シアン化物としては、例えば、シアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等が挙げられる。金属シアノ錯体は、解離によってシアン化物イオン、シアン化物、またはシアン化水素を発生しうる錯体および錯体の塩をいう。例えば、ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン、ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン、ペンタシアノニトロシル鉄(II)酸イオン等の鉄シアノ錯体、銅シアノ錯体、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、銀シアノ錯体、コバルトシアノ錯体、金シアノ錯体等が挙げられる。本発明における揮発性有機化合物としては、例えば、1,1-ジクロロエチレン、cis-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、四塩化炭素、ベンゼン等が挙げられる。本発明の原油由来物としては、例えば軽油、灯油、ガソリン、重油等が挙げられる。」

・「[0020] 本発明の処理剤における過硫酸塩には特に制限はなく、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が使用できる。水への溶解度の大きさから、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムが好ましく、アンモニア性窒素による二次汚染の恐れがないことから、過硫酸ナトリウムがより好ましい。」

・「[0025] 本発明の処理剤は過硫酸塩と銀錯体とを含有するか、過硫酸塩と銀化合物と錯化剤とを含有するものであるが、過硫酸塩と銀錯体(あるいは銀化合物と錯化剤)は予め混合しておいても良いし、使用直前に混合しても良い。また、それぞれを単独で含む水溶液を使用直前に混合することも可能である。」

・「[0027] 本発明においては、上記処理剤と化学物質を含む対象物とを接触させることで対象物中の化学物質を分解することができる。上記処理剤と対象物とを効率よく接触させて分解を促進するために、処理剤と対象物とを強制的に攪拌混合することも効果的である。また、対象物の化学物質濃度が高い場合は、上記処理剤を対象物に繰り返し添加し処理することも可能である。
[0028] 対象物中のシアン化物及び/又は金属シアノ錯体の分解においては、処理中の対象物のpHを4?11に保つことが好ましい。対象物のpHが低い状態でシアン化物及び/又は金属シアノ錯体を分解すると、シアン化水素が発生する恐れがあり、pHが高い状態では不溶性の酸化銀沈殿が生成し、シアンの分解が不全となる恐れがある。さらに環境保護の観点からいえばpH4?9で実施することが好ましい。
[0029] 薬剤の添加や分解の進行とともに対象物のpHが変動する場合には、対象物のpHを4?11に保つために、pH調整剤を用いることができる。本発明では過硫酸塩を含有する処理剤を用いることから分解の進行と共に対象物のpHが低下することがあるため、pH調整剤の添加は好適である。pH調整剤には特に制限はないが、アルカリ性化合物および/またはアルカリ性化合物と酸性化合物の組合せが使用でき、好ましくはpH緩衝剤と称される化合物群が使用できる。pH緩衝剤としては、クエン酸系、リン酸系、ホウ酸系、炭酸系、酢酸系緩衝剤などが挙げられ、このうち酢酸系緩衝剤が好ましい。酢酸系緩衝剤としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が使用できる。このうち、経済性の観点から酢酸ナトリウムおよび/または酢酸を使用することが好ましい。酢酸ナトリウムは、三水和物、無水物のいずれもが使用できる。」

・「[0031] 本発明の化学物質の分解方法は、土壌および/または地下水の原位置での浄化に好適に使用できる。土壌および/または地下水への上記処理剤、及びpH調整剤の添加方法には特に制限はなく、注入、圧入、噴射、攪拌、自然拡散、浸透、揚水注入システムへの添加などが使用可能である。また、添加位置と異なる位置で吸引や減圧を行うことによって、添加の速度や方向を制御することもできる。」

・「[0033]実施例1
純水にヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム(小宗化学薬品(株)製特級試薬)を溶解させて、濃度が10mgCN/Lの模擬汚染水を調製した。錯化剤として2,2’-ビピリジン(和光純薬工業(株)製特級試薬)を硫酸水溶液に溶解し、0.16重量%硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を調製した。銀化合物として硝酸銀(小宗化学薬品(株)製特級試薬)を純水に溶解し硝酸銀水溶液を調製し、上記硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を混合し、銀錯体として銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を調製した。ガラス製サンプル管に模擬汚染水50.0gを入れ、pH調整剤として酢酸ナトリウム三水和物(小宗化学薬品(株)製特級試薬)1.36gおよび過硫酸塩として過硫酸ナトリウム(小宗化学薬品(株)製ペルオキソ二硫酸ナトリウム、一級試薬)を溶解させたのちに、上記銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を混合して、室温下、暗所にて6日間静置した。静置前後の過硫酸塩濃度および全シアン濃度を下記方法により測定した。結果を表1に示す。」

・「[0039]



・「[0044]実施例5?7
pH調整剤として酢酸ナトリウム三水和物の代わりに、クエン酸三ナトリウム二水和物(小宗化学薬品(株)製特級試薬)、リン酸二ナトリウム二水和物、または炭酸水素ナトリウム(小宗化学薬品(株)製特級試薬)を用い、静置時間を2日、6日、または4日としたほかは、実施例1と同様に実験を行った。結果を表3に示す。
[0045]



・「[0060]実施例19
純水にジクロロメタン(小宗化学薬品(株)製特級試薬)を溶解させて、濃度が19mg/Lの模擬汚染水を調製した。錯化剤として2,2’-ビピリジン(和光純薬工業(株)製特級試薬)を硫酸水溶液に溶解し、0.16重量%硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を調製した。銀化合物として硝酸銀(小宗化学薬品(株)製特級試薬)を純水に溶解し硝酸銀水溶液を調製し、上記硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を混合し、銀錯体として銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を調製した。
ガラス製耐圧ネジ口瓶(攪拌子を除く容積:131mL)に、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム(小宗化学薬品(株)製特級試薬)水溶液を0.1Mとなるように加え、過硫酸塩として過硫酸ナトリウム(小宗化学薬品(株)製ペルオキソ二硫酸ナトリウム、一級試薬)を溶解させたのちに、模擬汚染水を100mL入れ、上記銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を混合して、さらに純水を瓶の口いっぱいまで入れ密栓し、室温下、2日間攪拌した。静置前後の過硫酸塩濃度およびジクロロメタン濃度を測定した。ジクロロメタン濃度はヘッドスペース・ガスクロマトグラフ法により測定した。結果を表8に示す。なお、各濃度は全系(131mL)中で所定濃度となるように調整した。」

・「[0068]実施例34
純水にヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを溶解させて、濃度が20mgCN/Lの模擬汚染水を調製した。錯化剤として2,2’-ビピリジンを硫酸水溶液に溶解し、0.16重量%硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を調製した。銀化合物として硝酸銀を純水に溶解し硝酸銀水溶液を調製し、上記硫酸酸性2,2’-ビピリジン水溶液を混合し、銀錯体として銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を調製した。ガラス製サンプル管に模擬汚染水25.0gを入れ、pH調整剤として酢酸ナトリウム三水和物(小宗化学薬品(株)製特級試薬)1.36gを溶解させた。過硫酸塩として過硫酸ナトリウム(小宗化学薬品(株)製ペルオキソ二硫酸ナトリウム、一級試薬)を純水25.0gに溶解させた過硫酸ナトリウム水溶液に上記銀-2,2’-ビピリジン錯体水溶液を混合したのち、全量を速やかに酢酸ナトリウム三水和物を溶解させた模擬汚染水に混合した。室温下、暗所にて2日間静置した。静置前後の過硫酸塩濃度および全シアン濃度を上記方法により測定した。結果を表9に示す。」

3 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、「シアン汚染土壌の浄化処理方法」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献4に記載された事項」という。)がある。

・「【請求項1】
遊離シアン、錯シアン及び難溶性シアン化合物を含む土壌のスラリー液をアルカリでpH10?13とし、30分以上加熱攪拌後、次亜塩素酸塩を前記スラリー液に分割添加して前記pH範囲及び80?100℃の温度範囲で、前記遊離シアン、前記錯シアン及び前記難溶性シアン化合物と反応させることを特徴とするシアン汚染土壌の浄化処理方法。」

・「【0007】
B. 反応条件(当審注:この箇所の下線は予め付されたものである。)
土壌中のシアンを後述する酸化処理する前提として土壌と薬剤の反応を完全に行せしめるために、本発明においては次の手段1)?3)を講じた。
【0008】
1)土壌を水で分散してスラリー化する。スラリー化することにより、土壌から溶出したシアンイオンや土壌表面と薬剤との接触がし易くなる。スラリー濃度は、特に限定するものではなく、攪拌が可能でかつ土壌と水が均一に分散していればよい。
2)土壌表面に湿潤作用や親水性を付与することにより土壌と薬剤の反応を完全にする。その薬剤としては、炭酸塩好ましくは炭酸ナトリウムや珪酸塩が選択される。炭酸ナトリウムは本発明の処理がアルカリ性で行われるのでpHを高くするにはふさわしく、珪酸塩は土壌中に珪素が多く混在しているので、修復後の土壌利用に有利である。
3)更に、スラリー液を加熱する。加熱手段として水蒸気をスラリーに直接投入すると、ヒーター加熱に比較して土壌の湿潤性は更に増し、表面と薬剤の接触を高めることができる。この場合は水酸化ナトリウムでアルカリ性にしても薬剤との反応性は低下しない。」

・「【0017】
(ホ)紺青の場合
2Fe_(4)[Fe(CN)_(6)]_(3)+3NaClO+3H_(2)O→2Fe_(3)[Fe(CN)_(6)]_(3)+2Fe(OH)_(3)+3NaCl (15)
Fe[Fe(CN)_(6)]+6NaClO+6NaOH→6NaCNO+2Fe(OH)_(3)+6NaCl (16)
紺青の場合は次亜塩素酸により(15)式に示すようにフェロシアンがフェリシアンに酸化され、更に(16)式に示すようにシアン酸に酸化される。以下(12)式によりシアン酸は炭酸ガスと窒素に分解される。」

・「【0041】
【発明の効果】
シアン汚染土壌を従来法で浄化処理し、その後の溶出試験を行いシアン濃度規制値1mg/L以下を達成することはできる。しかしながら、長時間放置後シアンが再度溶出してくる可能性が高い。この意味において、シアン汚染土壌のシアンを完全に除去するか分解する必要がある。
土壌を対象とすると、固液分離による除去を行っても固体に汚染物が残存するので、分解が主流となる。シアンの酸化分解や加熱分解のうち、酸化分解は、シアン化合物に制限があり、湿式酸化を含めた加熱処理分解はこの制限がないが、イニシャルコストが高価になったり、アンモニアや蟻酸等の副生成物を生じたりする欠点を有する。これに対して、本発明のシアン汚染土壌の浄化処理法はイニシャルコストが安価であり、処理対象物に制限がない。ランニングコストは概ねシアン濃度に比例する。
【0042】
本発明法は、比較的シアンが安定な鉄シアノ錯体や紺青、亜鉛白等の難溶性シアン化合物の処理に最も有効である。本発明法によると、シアンは炭酸ガスと窒素ガスに分解することができ、シアンと化合している金属類は安定な金属酸化物となり、溶出試験で簡単に溶解するものではない。また、土壌中にアンモニア態窒素が存在していればそれも同時に処理することができる。」

4 引用文献5に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、「Transport of complexed cyanide in soil」に関して、おおむね次の記載(原文の摘記は省略し、当審の訳文を示す。以下、「引用文献5に記載された事項」という。)がある。

・「4.結論
・・・(略)・・・
-プルシアンブルーは、安定してなく、アルカリ性の土壌において結局は溶解する。この場合、プルシアンブルーの溶解率及び結果として生じた溶解した鉄のシアン化物の濃度は浸透溶液のアルカリ度に大きく左右される。
-改善を目的として、汚染された土壌から鉄のシアン化物を注出するためには、高いアルカリ度の溶液が必要である。
・・・(略)・・・」(第84ページの「4.Conclusion」の欄))

第5 理由1(引用文献2のみを引用文献とする進歩性)について
1 引用発明2
引用文献2に記載された事項を、請求項1、【0014】、【0021】、【0022】及び【0031】に関して整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「銅シアン錯体で汚染された土壌および/または地下水を含む汚染領域を浄化する方法において、
汚染領域のpHが7.0を超える条件下で、当該汚染領域の汚染土壌および/または汚染地下水100質量部に対して、原位置で、0.1質量部以上の過硫酸ナトリウムの水溶液を添加して汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法。」

2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2における「銅シアン錯体」は、本願発明1における「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化物」と、「金属シアノ錯体を含むシアン化物」という限りにおいて一致する。
引用発明2における「土壌および/または地下水を含む汚染領域」は、本願発明1における「土壌及び/又は地下水を含む汚染領域」に相当する。
引用発明2における「過硫酸ナトリウム」はアルカリ金属の過硫酸塩であるから、本願発明1における「酸化剤」に相当する。
引用発明2における「水溶液」は、本願発明1における「処理液」に相当する。
引用発明2における「当該汚染領域の汚染土壌および/または汚染地下水100質量部に対して、原位置で、0.1質量部以上の過硫酸ナトリウムの水溶液を添加して汚染領域を浄化する」は、本願発明1における「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液を接触させる工程(X)を有し」と、「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、酸化剤を有する処理液を接触させる工程を有し」という限りにおいて一致する。
本願発明1は、汚染領域をpH11以上の状態で浄化処理を行うために、工程(X)において、汚染領域をpH11以上という条件下にするものであるから、引用発明2における「汚染領域のpHが7.0を超える条件下で」「汚染領域を浄化する」は、本願発明1における「前記工程(X)は、前記汚染領域をpH11以上にする」と、「前記工程は、前記汚染領域を所定のpHを越える条件下にする」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「金属シアノ錯体を含むシアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を含む汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法であって、
前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、酸化剤を有する処理液を接触させる工程を有し、
前記酸化剤は、アルカリ金属の過硫酸塩であり、
前記工程は、前記汚染領域を所定のpHを越える条件下にする汚染領域の浄化方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「金属シアノ錯体を含むシアン化物」に関して、本願発明1においては「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化物」であるのに対し、引用発明2においては「銅シアン錯体」である点。

<相違点2>
「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、酸化剤を有する処理液を接触させる工程を有し」に関して、本願発明1においては「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液を接触させる工程(X)を有し」であるのに対し、引用発明2においては「当該汚染領域の汚染土壌および/または汚染地下水100質量部に対して、原位置で、0.1質量部以上の過硫酸ナトリウムの水溶液を添加して汚染領域を浄化する」である点。

<相違点3>
「前記工程は、前記汚染領域を所定のpHを越える条件下にする」ことに関して、本願発明1においては「前記工程(X)は、前記汚染領域をpH11以上にする」であるのに対し、引用発明2においては「汚染領域のpHが7.0を超える条件下で」「汚染領域を浄化する」である点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献2の【0013】に「この浄化のメカニズムは、汚染物質である銅シアン錯体の解離定数が、他の金属シアン錯体(例えば鉄シアン錯体など)の解離定数に比べて大きいことを利用したものである。」と記載されているように、引用発明2は、「銅シアン錯体」で汚染された土壌を対象とするものであって、「銅シアン錯体」以外の「他の金属シアン錯体(例えば鉄シアン錯体など)」で汚染された土壌を対象とするものではない。
したがって、引用発明2において、「銅シアン錯体」に代えて、「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化物」を採用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)相違点2について
引用文献2の【0017】に「汚染領域のpHが7.0以下となる場合は、当該汚染領域に塩基類を添加して、pHが7.0を超えるように調整すればよい。塩基類としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などが挙げられ、具体的には水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。」及び【0018】に「汚染領域を浄化する前に、汚染土壌や汚染地下水を少量採取して過硫酸塩の添加によるpHの変化を確認し、pHが7.0以下になる場合は、汚染領域に塩基類を添加して浄化中の汚染領域のpHが7.0を超えるように調整する」と記載されているように、引用文献2には、汚染領域のpHが7.0を超えるようにアルカリ金属の水酸化物を添加することが記載されているものの、その添加は、汚染領域のpHが7.0以下となる場合に、汚染領域を浄化する前に行われるものであって、過硫酸ナトリウムの添加と同時に行うこと、すなわち「アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液」を用いることは記載されていないし、示唆されているともいえない。
したがって、引用発明2において、「過硫酸ナトリウムの水溶液を添加して汚染領域を浄化する」ことに代えて、「アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液を接触させる」ようにして、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)相違点3について
上記(イ)で検討したように、引用文献2には、汚染領域のpHが7.0を超えるようにアルカリ金属の水酸化物を添加することが記載され、また、【0037】には、pHが12.4の原土の浄化を行う例が記載されている。
しかし、引用文献2には、最初から、pHが7.0を越えているものを、さらに、アルカリ金属の水酸化物を添加して、pHを11以上にすることは記載されていないし、示唆されているともいえない。
したがって、引用発明2において、「汚染領域を浄化する」際に、「汚染領域のpHが7.0を超える条件下で」浄化することに代えて、「汚染領域をpH11以上に」してから浄化するようにして、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(エ)効果について
そして、本願発明1は、相違点1ないし3に係る本願発明1の発明特定事項を有することにより、難分解性の不溶性シアン化合物である鉄-鉄シアノ錯体を分解することができる及び汚染領域が処理液が供給される前のpH付近に経時で戻っていくという引用発明2(引用文献2の【0008】参照。)からみて当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものである。

(オ)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明2、すなわち引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本願発明2ないし5は、本願発明1をさらに限定したものといえる。
したがって、本願発明2ないし5は、本願発明1と同様に、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 理由2(引用文献3を主引用文献とし、引用文献2、4及び5を副引用文献とする進歩性)について
1 引用発明3
引用文献3に記載された事項を、請求項1、10ないし12及び16並びに[0017]、[0020]、[0031]及び[0033]に関して整理すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤と、シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質とを、原位置で、接触させ、pH調整剤を添加して処理中の前記化学物質のpHを4?11に保つシアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質の分解方法。」

2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明3を対比する。

引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質」は、本願発明1における「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水」と、「シアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水」という限りにおいて一致する。
これを踏まえると、引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質の分解方法」は、本願発明1における「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を含む汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法」と、「シアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を含む汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法」という限りにおいて一致する。
引用発明3における「過硫酸ナトリウム」はアルカリ金属の過硫酸塩であるから、本願発明における「酸化剤」に相当する。
引用発明3における「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤」は、引用文献3の[0025]及び[0033]によると、水溶液である。
これらを踏まえると、引用発明3における「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤」は、本願発明1における「アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液」と、「酸化剤を有する処理液」という限りにおいて一致する。
引用発明3における「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤と、シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質とを、原位置で、接触させ」ることは、本願発明1における「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液を接触させる工程(X)」と、「前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、酸化剤を有する処理液を接触させる工程」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「シアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を含む汚染領域を浄化する汚染領域の浄化方法であって、
前記汚染領域の汚染された土壌及び/又は地下水に、原位置で、酸化剤を有する処理液を接触させる工程を有し、
前記酸化剤は、アルカリ金属の過硫酸塩である汚染領域の浄化方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4>
「シアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水」に関して、本願発明1においては、「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水」であるのに対して、引用発明3においては、「シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水から選択される化学物質」である点。

<相違点5>
「酸化剤を有する処理液」に関して、本願発明1においては「アルカリ剤と酸化剤とを併有する処理液」であって、「前記アルカリ剤は、アルカリ金属の水酸化物であり、前記酸化物は、アルカリ金属の過硫酸塩」であるのに対して、引用発明3においては「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤」である点。

<相違点6>
本願発明1においては、「前記工程(X)は、前記汚染領域をpH11以上にする」と特定されているのに対して、引用発明3においては「pH調整剤を添加して処理中の前記化学物質のpHを4?11に保つ」と特定されている点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
(ア)相違点4について
引用文献3の[0018]に、シアン化物及び金属シアノ錯体に関して、「本発明におけるシアン化物は、解離によってシアン化物イオンを有する化合物をいう。シアン化物としては、例えば、シアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等が挙げられる。金属シアノ錯体は、解離によってシアン化物イオン、シアン化物、またはシアン化水素を発生しうる錯体および錯体の塩をいう。例えば、ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン、ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン、ペンタシアノニトロシル鉄(II)酸イオン等の鉄シアノ錯体、銅シアノ錯体、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、銀シアノ錯体、コバルトシアノ錯体、金シアノ錯体等が挙げられる」と記載されているが、この中に「鉄-鉄シアノ錯体」は記載されていない。
また、引用文献3の[0033]及び[0068]に記載された実施例では、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを鉄シアノ錯体として使用している。
したがって、引用文献3には、引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体」として「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物」は記載されているとはいえないし、示唆されているともいえない。
さらに、引用文献2には、「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物」について何ら記載されておらず、当然、引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体」として「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物」を採用することを示唆する記載はない。
引用文献4には、「鉄-鉄シアノ錯体」である「紺青(Fe_(4)[Fe(CN)_(6)]_(3))」を次亜塩素酸によりシアン酸に酸化することが記載されているが、それにとどまり、引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体」として「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物」を採用することを示唆する記載はない。
引用文献5には、「鉄-鉄シアノ錯体」である「プルシアンブルー」で汚染された土壌から、鉄のシアン化物を抽出するためには、高いアルカリ度の水溶液が必要であることが記載されているが、それにとどまり、引用発明3における「シアン化物又は金属シアノ錯体」として「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化合物」を採用することを示唆する記載はない。
よって、引用発明3において、「シアン化物又は金属シアノ錯体の少なくとも一種を含む土壌、地下水」に代えて、「鉄-鉄シアノ錯体を含むシアン化物で汚染された土壌及び/又は地下水」を採用して、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、引用文献2、4及び5に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)相違点5について
引用文献3の[0012]に「pH調整剤を添加する」及び[0029]に「薬剤の添加や分解の進行とともに対象物のpHが変動する場合には、対象物のpHを4?11に保つために、pH調整剤を用いることができる。・・・(略)・・・pH調整剤には特に制限はないが、アルカリ性化合物および/またはアルカリ性化合物と酸性化合物の組合せが使用でき、好ましくはpH緩衝剤と称される化合物群が使用できる。pH緩衝剤としては、クエン酸系、リン酸系、ホウ酸系、炭酸系、酢酸系緩衝剤などが挙げられ、このうち酢酸系緩衝剤が好ましい。」と記載され、アルカリ性化合物、すなわち「アルカリ剤」を用いることが記載されている。
しかし、引用文献3には、アルカリ性化合物(アルカリ剤)としては、「pH緩衝剤と称される化合物群」である「クエン酸系、リン酸系、ホウ酸系、炭酸系、酢酸系緩衝剤」が記載されるにとどまり、「アルカリ金属の水酸化物」を用いることは記載されていない。むしろ、pHを変化しにくくする「pH緩衝剤」を用いることが好ましい旨記載されていることからみて、引用発明3において、pHを大きく変化させかねない「アルカリ金属の水酸化物」を用いることには阻害要因がある。
また、引用発明3は、「銀錯体」を必須成分とするものであり、「銀錯体」を構成する銀イオンは、「アルカリ金属の水酸化物」と反応して酸化銀沈殿を生成し、シアンの分解が不完全となる恐れがあることから、この点からも引用発明3において、「アルカリ金属の水酸化物」を用いることには阻害要因がある。
したがって、引用文献2及び4に、「アルカリ金属の水酸化物」を用いることが記載されているとしても(なお、引用文献5には、「アルカリ金属の水酸化物」を用いることは何ら記載されていない。)、引用発明3における「過硫酸ナトリウムおよび銀錯体を含む化学物質分解用処理剤」に「アルカリ金属の水酸化物」を加えるようにして、相違点5に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)相違点6について
引用発明3は、「pH調整剤を添加して処理中の前記化学物質のpHを4?11に保つ」ことを発明特定事項とするものであるが、引用文献3の[0028]、[0029]、[表1]及び[表2]に記載されているように、実際には、pH6?9のほぼ中性に保つためにpH調整剤を添加するものであり、引用文献3には、「pH11以上」にすることが記載されているとはいえないし、示唆されているともいえない。
また、引用文献2には、上記第5 2(1)イ(ウ)のとおり、pHが7.0を越えているものを、さらに、アルカリ金属の水酸化物を添加して、pHを11以上にすることは記載されていないし、示唆されているともいえない。
さらに、引用文献4及び5にも、「pH11以上」にすることは記載されていないし、示唆されているともいえない。
したがって、引用発明3において、「pH調整剤を添加して処理中の前記化学物質のpHを4?11に保つ」ことに代えて、「汚染領域をpH11以上に」してから浄化するようにして、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、引用文献2、4及び5に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(エ)効果について
そして、本願発明1は、相違点4ないし6に係る本願発明1の発明特定事項を有することにより、難分解性の不溶性シアン化合物である鉄-鉄シアノ錯体を分解することができる及び汚染領域が処理液が供給される前のpH付近に経時で戻っていくという引用発明3並びに引用文献2、4及び5に記載された事項(引用文献3の[0016]、引用文献2の【0008】、引用文献4の【0041】及び【0042】並びに引用文献5の第84ページの「4.Conclusion」参照。)からみて当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものである。

(オ)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明3、すなわち引用文献3に記載された発明並びに引用文献2、4及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本願発明2ないし5は、本願発明1をさらに限定したものといえる。
したがって、本願発明2ないし5は、本願発明1と同様に、引用文献3に記載された発明並びに引用文献2、4及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
原査定の拒絶の理由は概略、上記第2のとおりであり、その理由に理由がないのは、上記第3ないし6で検討のとおりである。
したがって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第8 むすび
したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-09 
出願番号 特願2014-177330(P2014-177330)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B09C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大島 彰公五十棲 毅  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
発明の名称 汚染領域の浄化方法  
代理人 山口 洋  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 寺本 光生  

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