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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F |
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管理番号 | 1355583 |
審判番号 | 不服2018-3531 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-12 |
確定日 | 2019-10-02 |
事件の表示 | 特願2016-505439「鼻中隔穿孔プロテーゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日国際公開,WO2014/158148,平成28年 5月23日国内公表,特表2016-514542〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2013年(平成25年)3月27日を国際出願日とする特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。 平成27年11月24日:翻訳文提出 平成29年 1月 5日:拒絶理由通知 平成29年 7月13日:意見書,手続補正書の提出 平成29年11月 8日:拒絶査定 平成30年 3月12日:審判請求書,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出 平成30年 4月16日:手続補正書(審判請求書)の提出 第2 本件補正について 1 本件補正の内容 (1)平成29年7月13日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし15は,以下のとおりである。 「 【請求項1】 二つのフランジを備える鼻中隔穿孔を閉塞するためのプロテーゼであって, 前記二つのフランジには,それぞれ隆起領域が設けられ, 各前記隆起領域には,それぞれ磁石が設けられ, 前記二つのフランジの各前記磁石は,各前記フランジが適切に配向されたときに互いに吸着するように配向され, 各前記隆起領域は,組み立てられた前記プロテーゼと協働して前記穿孔に留まる幹部を提供し, 各前記磁石は,約0.2重量ポンド(約0.89N)を超え,約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の吸引力を提供する,プロテーゼ。 【請求項2】 前記隆起領域は,そのそれぞれのフランジの幾何学的中心に対して略対称である,請求項1に記載のプロテーゼ。 【請求項3】 前記二つのフランジは,デュロメータ硬さが30から80の範囲のシリコーンで形成される,請求項1に記載のプロテーゼ。 【請求項4】 前記磁石を覆う防護カバーが更に設けられる,請求項1に記載のプロテーゼ。 【請求項5】 二つのフランジを形成するために低デュロメータシリコーンを成形することと, 各フランジの対向面となりうる面上に隆起領域を成形することと, 磁石を各隆起領域内に成形することと を備える,鼻中隔穿孔を閉塞するためのプロテーゼを作成する方法であって, 各前記磁石は,前記二つのフランジが適切に配向されたときに互いに吸着するように配向され, 前記磁石を各隆起領域内に成形することは,各前記磁石間に約0.2重量ポンド(約0.89N)を超え,約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の吸引力を与えることを備える,方法。 【請求項6】 各フランジの対向面となりうる面上に隆起領域を成形することは,隆起領域の軸を横断する断面構成が円形及び楕円形のいずれかである隆起領域を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項7】 前記隆起領域は,そのそれぞれのフランジの幾何学的中心に対して略対称である,請求項6に記載の方法。 【請求項8】 前記隆起領域は,そのそれぞれのフランジの幾何学的中心に対して略対称である,請求項5に記載の方法。 【請求項9】 磁石を各隆起領域内に成形することは,各隆起領域内で逆磁極の対向面を有するリング形状に各磁石を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項10】 各フランジの対向面となりうる面上に隆起領域を成形することは,前記隆起領域の軸を横断する断面構成が円形である隆起領域を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項11】 隆起領域を成形することは,外径が約1mm単位で約3mm以上,かつ約19mm以下であり,前記組み立てられたプロテーゼにおける各前記フランジの前記間隔が約2mmと約3mmとからなる群から選択されるような高さである隆起領域を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項12】 各フランジの対向面となりうる面上に隆起領域を成形することは,前記隆起領域の軸を横断する断面構成が楕円形である隆起領域を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項13】 隆起領域を成形することは,長軸×短軸寸法がそれぞれ約1mm単位で約7mm×約4mm以上,約20mm×約15mm以下であり,前記組み立てられたプロテーゼ内の各前記フランジの前記間隔が約2mm及び約3mmからなる群から選択されるような高さを有する隆起領域を成形することを備える,請求項5に記載の方法。 【請求項14】 前記磁石を覆う防護カバーを形成することを更に備える,請求項5に記載の方法。 【請求項15】 前記低デュロメータシリコーンは,デュロメータ硬さが30から80の範囲である,請求項5に記載の方法。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)は,以下のとおりである。 「 【請求項1】 二つのフランジを備える鼻中隔穿孔を閉塞するためのプロテーゼであって, 前記二つのフランジには,それぞれ隆起領域が設けられ, 各前記隆起領域には,それぞれ磁石が設けられ, 前記二つのフランジの各前記磁石は,各前記フランジが適切に配向されたときに互いに吸着するように配向され, 各前記隆起領域は,組み立てられた前記プロテーゼと協働して前記穿孔に留まる幹部を提供し, 各前記磁石は,約0.2重量ポンド(約0.89N)を超え,約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の吸引力を提供する,プロテーゼ。」 2 補正の適否について 本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前の請求項2ないし15を削除して,本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1にしたものであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項1号に掲げる,同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。 したがって,本件補正は適法になされたものである 。 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1.独国特許出願公開第102005021239号明細書 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 (1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,独国特許出願公開第102005021239号明細書(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。なお、仮訳は当審において訳したものである。 「 」 (仮訳:[0001]本発明は,鼻中隔の穿孔を封止するための鼻中隔ボタンに関する。) 「 」 (仮訳:[0003]本発明の目的は,例えば掃除するために鼻から容易に取り外し可能で再使用可能な鼻中隔ボタンを提供することである。) 「 」 (仮訳:[0004]本発明は,2つの部分からなる鼻中隔ボタンであって,それらは少なくとも一つの磁石によって接続可能である。各部分は鼻孔に挿入され,穿孔の領域で互いに接続される。この目的のために,2つの部分の内少なくとも一方は,鼻中隔の穿孔を通って突出する,より小さな直径からなる肩部を備えている。) 「 」 (仮訳:[0011]腐食を回避するために,図3に示す実施形態が提供される。この実施形態では,磁石2はシリコーン1内に埋め込まれている。磁力はシリコーンを介して作用し,鼻中隔の穿孔を介して鼻中隔ボタンの第2の部分に引き寄せられる。この実施形態には,磁石2が埋め込まれたシリコーン部分のシリコーンを切断することによって,穿孔の個々の形状に合わせることができるという更なる利点がある。) 「図2 」 「図3 」 (2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 引用文献1に記載された技術は,鼻中隔の穿孔を封止するための鼻中隔ボタンに関するものであり([0001]),掃除するために鼻から容易に取り外し可能で再使用可能な鼻中隔ボタンを提供することを目的としたものである([0003])。 イ 「本発明は,2つの部分からなる鼻中隔ボタンであって,それらは少なくとも一つの磁石によって接続可能である。」([0004])という記載から,引用文献1に記載された鼻中隔ボタンは,2つの部分から成り,それぞれが磁石によって接続される。 ウ 図2,図3,「2つの部分の内少なくとも一方は,鼻中隔の穿孔を通って突出する,より小さな直径からなる肩部を備えている。」([0004])という記載,および「腐食を回避するために,図3に示す実施形態が提供される。この実施形態では,磁石2はシリコーン1内に埋め込まれている。」([0011])という記載から,引用文献1に記載された鼻中隔ボタンの2つのそれぞれの部分は,シリコンから成る平板部(図3の平板状の部分)を備え,平板部には磁石が埋め込まれる肩部(図3の突出部)が設けられている。 エ 「2つの部分の内少なくとも一方は,鼻中隔の穿孔を通って突出する,より小さな直径からなる肩部を備えている。」([0004])という記載,および「磁力はシリコーンを介して作用し,鼻中隔の穿孔を介して鼻中隔ボタンの第2の部分に引き寄せられる。この実施形態には,磁石2が埋め込まれたシリコーン部分のシリコーンを切断することによって,穿孔の個々の形状に合わせることができるという更なる利点がある。」([0011])という記載から,2つの平板部の各前記磁石は,各前記平板部が向き合った場合に互いに引き寄せられ,各前記肩部は,組み立てられた鼻中隔ボタンとして穿孔を通って突出する。 (3)上記(1),(2)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「2つの平板部を備える鼻中隔の穿孔を封止するための鼻中隔ボタンであって, 前記2つの平板部には,それぞれ肩部が設けられ, 前記肩部には,それぞれ磁石が埋め込まれ, 前記2つの平板部の各前記磁石は,各前記平板部が向き合った場合に互いに引き寄せられ, 各前記肩部は,組み立てられた鼻中隔ボタンとして穿孔を通って突出する,鼻中隔ボタン。」 第5 対比 1 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明は,鼻中隔の穿孔を封止するための鼻中隔ボタン,特に掃除するために鼻から容易に取り外し可能で再使用可能な鼻中隔ボタンに関するものであり,本件補正発明と,技術分野及び課題が共通する。 (2)引用発明の「平板部」は,図3における平板部と突出部との関係から,本件補正発明の「フランジ」に相当する。 (3)上記(2)から引用発明の「2つの平板部を備える鼻中隔の穿孔を封止するための鼻中隔ボタン」は,本件補正発明の「二つのフランジを備える鼻中隔穿孔を閉塞するためのプロテーゼ」に相当する。 (4)引用発明の「前記2つの平板部には,それぞれ肩部が設けられ」は,「肩部」が「隆起領域」に相当するので,本件補正発明の「前記二つのフランジには,それぞれ隆起領域が設けられ」に相当する。 (5)引用発明の「前記肩部には,それぞれ磁石が埋め込まれ」は,本件補正発明の「各前記隆起領域には,それぞれ磁石が設けられ」に相当する。 (6)引用発明の「前記2つの平板部の各前記磁石は,各前記平板部が向き合った場合に互いに引き寄せられ」は,引用発明においても2つの平板部が適切に向き合った場合に吸着されるように磁石が設けられているのは当然であるから,本件補正発明の「前記二つのフランジの各前記磁石は,各前記フランジが適切に配向されたときに互いに吸着するように配向され」に相当する。 (7)引用発明の「各前記肩部は,組み立てられた鼻中隔ボタンとして穿孔を通って突出」は,引用発明の鼻中隔ボタンにおいても,2つの肩部が磁石によって吸着することで穿孔を通って突出する部分(本件補正発明の「幹部」に相当する。)を形成するのであるから,本件補正発明の「各前記隆起領域は,組み立てられた前記プロテーゼと協働して前記穿孔に留まる幹部を提供」に相当する。 2 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「二つのフランジを備える鼻中隔穿孔を閉塞するためのプロテーゼであって, 前記二つのフランジには,それぞれ隆起領域が設けられ, 各前記隆起領域には,それぞれ磁石が設けられ, 前記二つのフランジの各前記磁石は,各前記フランジが適切に配向されたときに互いに吸着するように配向され, 各前記隆起領域は,組み立てられた前記プロテーゼと協働して前記穿孔に留まる幹部を提供する,プロテーゼ。」 【相違点】 「磁石」について,本件補正発明は,「0.2重量ポンド(約0.89N)を超え,約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の吸引力を提供する」のに対し,引用発明は,当該構成について特定されていない点。 第6 判断 1 相違点について 審判請求人は,平成30年4月16日提出の手続補正書(審判請求書)の「3.(3)」において,「請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明と比べると、「各前記磁石は、約0.2重量ポンド(約0.89N)を超え、約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の吸引力を提供する」点で相違しています。請求項1に係る発明は、上記相違点に係る構成を有することによって、(1)くしゃみや鼻をかむことによってプロテーゼ、或いはその片割れが鼻から出てしまうことを十分に防止し、洗浄などのメンテナンスのためにプロテーゼを比較的真っ直ぐに除去でき、そのようなメンテナンスが行われた後で比較的真っ直ぐに元の位置に戻すことができること、及び(2)手作業でのプロテーゼの除去・交換を妨げるほど強力ではないために、メンテナンスが容易になるといった優れた効果を奏します。ここで、上記(1)及び(2)を同時に満たすことが可能な磁石の吸引力の範囲が存在することを見出したことは、当業者が容易に想到し得たものではありません。」と主張している。 しかし,引用発明の鼻中隔ボタンの磁石においても,引用文献1の[0003]に「本発明の目的は,例えば掃除するために鼻から容易に取り外し可能で再使用可能な鼻中隔ボタンを提供することである。」と記載されているとおり,メンテナンスを想定した取り外し可能な吸引力とすることを課題としており,また,明示されていないが,日常生活においては簡単に外れない吸引力とすることは,鼻中隔ボタンとして機能させる以上は自明な課題であるので,請求人が主張する上記本件補正発明の課題は,引用発明の課題と共通するといえる。 このように両者の課題が共通し,数値限定のみが両者の相違点である場合において,本件補正発明に進歩性が認められるには,数値限定による有利な効果の顕著性,いわゆる数値限定の臨界的意義が求められるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,数値限定の臨界的意義(数値限定の内と外のそれぞれの効果について,量的に顕著な差異があること)について記載がないばかりか,【0031】に「約0.2重量ポンド(約0.89N)を超えつつ、メンテナンスのための手作業でのプロテーゼの除去・交換を妨げるほど強力ではない吸引力を提供する磁石が有用である。一般に、このような磁石は、約3重量ポンド(約13.35N)程度未満の範囲内であるが、より大きいものでもよい。」(下線は当審が付与。)と記載され,数値限定の範囲外でも許容する旨の記載があるので,本件補正発明の数値限定には臨界的意義は認められない。 したがって,上記相違点に係る数値限定は,引用発明の課題に基づいて,数値範囲を最適化又は好適化したものに過ぎず,当業者の通常の創作能力の発揮であり,当業者が容易にできたことである。 2 効果について そして,上記相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記1で述べたとおり,引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 3 請求人の主張について 上記1で述べたとおり,請求人の主張は採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-04-23 |
結審通知日 | 2019-05-07 |
審決日 | 2019-05-20 |
出願番号 | 特願2016-505439(P2016-505439) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 寺澤 忠司 |
特許庁審判長 |
芦原 康裕 |
特許庁審判官 |
林 茂樹 寺川 ゆりか |
発明の名称 | 鼻中隔穿孔プロテーゼ |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |