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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1355605
審判番号 不服2018-13319  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-04 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2014-560666「発光モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日国際公開,WO2014/122888〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年1月17日(優先権主張2013年2月6日)を国際出願日とする出願であって,以降の手続は次のとおりである。

平成29年 9月 4日 拒絶理由通知(同年同月12日発送)
同年11月13日 手続補正・意見書提出
平成30年 2月 1日 拒絶理由通知(同年同月6日発送)
同年 5月31日 手続補正・意見書提出
同年 7月 3日 補正の却下の決定(同年同月10日発送)
同日 拒絶査定(同年同月10日謄本送達)
同年10月 4日 審判請求・手続補正

第2 補正の却下の決定
平成30年10月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,平成30年5月31日にされた手続補正は同年7月3日付けで却下されているので,本件補正の前後で特許請求の範囲は以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項1】
第1の色の光を発する半導体発光素子と,
前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層と,
前記第1の色の光および前記第2の色の光の少なくとも一方の光を拡散する拡散層と,
を備え,
前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,
前記波長変換層は,波長変換物質を含み,
前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であり,
前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,
前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高いことを特徴とする発光モジュール。
【請求項2】
前記拡散層と前記波長変換層とを接着する接着層を更に備え,
前記接着層は,厚みが1.0[μm]以下である,
ことを特徴とする請求項1に記載の発光モジュール。
【請求項3】
前記半導体発光素子は,青色の光を発し,
前記青色の光のピーク波長をλp[μm]とすると,前記接着層の厚みt[μm]は,(1/8)λp<t<(3/8)λpを満たすことを特徴とする請求項2に記載の発光モジュール。
【請求項4】
前記波長変換層は,賦活成分を有する板状のYAGセラミックであり,
前記マトリックスは,板状のYAGセラミックであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光モジュール。
【請求項5】
前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光モジュール。
【請求項6】
前記半導体発光素子は,
搭載基板に対してバンプを介してフリップチップ実装されており,
透明な基板の上に形成されている発光層と,
前記バンプと電気的に接続され,前記発光層を貫通するように形成されている電極と,
を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光モジュール。」

〈補正後〉
「【請求項1】
第1の色の光を発する半導体発光素子と,
前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層と,
前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する拡散層と,を備え,
前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており,
前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,
前記波長変換層は,波長変換物質を含み,
前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であり,
前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,
前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高いことを特徴とする発光モジュール。
【請求項2】
前記拡散層と前記波長変換層とを接着する接着層を更に備え,
前記接着層は,厚みが1.0[μm]以下である,
ことを特徴とする請求項1に記載の発光モジュール。
【請求項3】
前記半導体発光素子は,青色の光を発し,
前記青色の光のピーク波長をλp[μm]とすると,前記接着層の厚みt[μm]は,(1/8)λp<t<(3/8)λpを満たすことを特徴とする請求項2に記載の発光モジュール。
【請求項4】
前記波長変換層は,賦活成分を有する板状のYAGセラミックであり,
前記マトリックスは,板状のYAGセラミックであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光モジュール。
【請求項5】
前記半導体発光素子は,
搭載基板に対してバンプを介してフリップチップ実装されており,
透明な基板の上に形成されている発光層と,
前記バンプと電気的に接続され,前記発光層を貫通するように形成されている電極と,
を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光モジュール。」

2 補正事項の整理
本件補正の,請求項1についての補正事項は以下のとおりである。
〈補正事項1〉
補正前の請求項1の「前記第1の色の光および前記第2の色の光の少なくとも一方の光を拡散する拡散層」を,補正後の請求項1の「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する拡散層」に補正する。
〈補正事項2〉
補正後の請求項1に「前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており,」を加入する。
〈補正事項3〉
補正前の請求項5を削除する。
〈補正事項4〉
補正前の請求項6を,補正後の請求項5とするとともに,補正前の請求項6の「請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光モジュール」を,補正後の請求項5の「請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光モジュール」と補正する。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正の目的について
補正事項1は,「拡散層」について,その拡散する光を,補正前の「前記第1の色の光および前記第2の色の光の少なくとも一方の光」から,補正後の「前記第1の色の光および前記第2の色の光」として,技術的に限定するものである。
補正事項2は,「波長変換層」について,その位置について,「前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており,」として,技術的に限定するものである。
よって,補正事項1及び2は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項3は,補正前の請求項5を削除するものであるから,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
補正事項4は,補正事項3に伴う請求項番号の整合を目的とするものであるから,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無について
「拡散層」が「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する」こと,及び,「波長変換層」が,「前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されて」いることは,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0013】及び【0032】等に記載されている。
よって,前記補正事項1及び2は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また,補正事項3及び4が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(3)小括
上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下においては,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかについて検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである(再掲。以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】
第1の色の光を発する半導体発光素子と,
前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層と,
前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する拡散層と,を備え,
前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており,
前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,
前記波長変換層は,波長変換物質を含み,
前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であり,
前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,
前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高いことを特徴とする発光モジュール。」

(2)刊行物等に記載された発明
ア 引用例1: 特開2012-28666号公報
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2012-28666号公報(以下「引用例1」という。)には,図とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様。)

a「【0001】
本発明は,発光装置用部品,発光装置およびその製造方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0007】
そこで,本発明の目的は,発光装置の製造工程の簡略化を図ることができる発光装置用部品,および,その発光装置用部品が用いられる発光装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため,本発明の発光装置用部品は,発光ダイオードを封止できる封止樹脂層と,前記封止樹脂層の表面に形成され,蛍光を発光できる蛍光層と,前記封止樹脂層の裏面において,前記封止樹脂層が前記発光ダイオードを封止する領域を避けるように設けられる,光を反射できる反射層とを備えることを特徴としている。
【0009】
また,本発明の発光装置用部品では,前記反射層が,前記封止樹脂層が前記発光ダイオードを封止する領域を除く領域の全面に,パターン形成されていることが好適である。
【0010】
また,本発明の発光装置は,上記の発光装置用部品を備えることを特徴としている。」

b「【0016】
図1は,本発明の発光装置用部品の第1実施形態の裏面図,図2は,図1に示す発光装置用部品のA-A断面図である。
【0017】
・・・(中略)・・・
【0032】
蛍光層3は,蛍光を発光できるとともに,光を透過できる層であって,封止樹脂層2よりもわずかに大きい平面視略矩形の平板形状に形成されている。このような蛍光層3は,発光装置11(後述)において,発光ダイオード13(後述)から生じる光を吸収して,蛍光を発光するために,封止樹脂層2の表面に設けられている。
【0033】
蛍光層3は,励起光として,波長350?480nmの光の一部または全部を吸収して励起され,励起光よりも長波長,例えば,500?650nmの蛍光を発光する蛍光体を含有しており,より具体的には,例えば,蛍光体を含有する樹脂,例えば,蛍光体のセラミックス(蛍光体セラミックプレート)などが挙げられる。
【0034】
・・・(中略)・・・
【0038】
蛍光層3として,放熱性の観点から,好ましくは,蛍光体セラミックス(蛍光体セラミックプレート)が挙げられる。
【0039】
すなわち,蛍光層3は,例えば,発光体の発熱などにより温度上昇し,その発光効率を低下させる場合があるが,蛍光体セラミックス(蛍光体セラミックプレート)は,放熱性に優れるため,その蛍光体セラミックス(蛍光体セラミックプレート)を用いれば,蛍光層3の温度上昇を抑制し,優れた発光効率を確保することができる。
【0040】
また,蛍光層3(蛍光体セラミックス)としては,発光ダイオード13(後述)や蛍光体から生じる光が散乱によって損失することを抑制する観点から,好ましくは,透明かつ無散乱な(光を散乱しない)セラミックス(透光性セラミックス)が挙げられる。
【0041】
透光性セラミックスは,特に制限されないが,例えば,蛍光体セラミックス中のボイド(空隙)や不純物など,各種の光散乱源が除去され,透光性が高められることにより,形成される。
【0042】
また,YAGなどの等方性結晶材料においては,結晶方位による屈折率差がないため,多結晶性セラミックスであっても,単結晶同様に,透明かつ無散乱なセラミックス(透光性セラミックス)を得ることができる。
【0043】
また,蛍光層3(蛍光体セラミックス)としては,蛍光の取り出し効率の向上や,蛍光の放射パターンの均一化を図る観点から,完全に透明化することなく,ある程度の光拡散性を備えることもできる。
【0044】
光拡散性を備えるには,蛍光体セラミックス内にボイド(空隙)や不純物などを形成するなど,公知の方法が採用される。また,例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)を添加し,異相を形成することなどにより,光拡散性を制御することもできる。
【0045】
このような蛍光層3(蛍光体セラミックス)の全光線透過率(光拡散性)は,光学設計に応じて,適宜制御されるが,具体的には,全光線透過率(拡散透過率)が,例えば,40%以上,好ましくは50%以上,通常,90%以下である。
【0046】
なお,蛍光層3の全光線透過率(拡散透過率)は,積分球などを用いて,公知の方法により,測定できる。ただし,蛍光体は,特定波長の光を吸収するため,その波長以外,すなわち,蛍光体が実質的に吸収を示さない励起波長以外の可視光波長域(例えば,YAG:Ceであれば,550?800nm)での光透過率を測定する。
【0047】
また,このような蛍光層3は,単層構造として形成することができ,さらには,図示しないが,複数(2つ以上)の層を積層した多層構造として形成することもできる。」

c「【0147】
発光装置11では,例えば,発光ダイオード13として近紫外発光ダイオードや青色発光ダイオードなどを用いるとともに,その光を励起光として,蛍光を生じる蛍光層3を用いることにより,それらの光を混色し,例えば,白色光を生じる発光装置11(白色発光ダイオード)とすることができる。
【0148】
なお,発光装置11において,発光ダイオード13および蛍光層3の組み合わせ(混色の組み合わせ)は,上記に限定されず,必要および用途に応じて,適宜選択することができる。」

(イ)以上を総合すると,引用例1には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。
「製造工程の簡略化を図ることができる発光装置用部品1を用いた発光装置11であって,
発光装置用部品1は,発光ダイオード13を封止できる封止樹脂層2と,封止樹脂層2の表面に形成され,蛍光を発光できる蛍光層3と,封止樹脂層2の裏面において,封止樹脂層2が発光ダイオード13を封止する領域を避けるように設けられる,光を反射できる反射層4とを備え,
蛍光層3は,蛍光を発光できるとともに,光を透過できる層であって,封止樹脂層2よりもわずかに大きい平面視略矩形の平板形状に形成され,発光装置11において,発光ダイオード13から生じる光を吸収して,蛍光を発光するために,封止樹脂層2の表面に設けられている蛍光体のセラミックス(蛍光体セラミックプレート)であり,
蛍光層3(蛍光体セラミックス)としては,蛍光の取り出し効率の向上や,蛍光の放射パターンの均一化を図る観点から,完全に透明化することなく,ある程度の光拡散性を備えることができ,光拡散性を備えるには,蛍光体セラミックス内にボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)を添加し,異相を形成することなどにより,光拡散性を制御することもできるものであり,
このような蛍光層3は,単層構造として形成することができ,複数(2つ以上)の層を積層した多層構造として形成することもできるものであり,
発光ダイオード13として近紫外発光ダイオードや青色発光ダイオードなどを用いるとともに,その光を励起光として,蛍光を生じる蛍光層3を用いることにより,それらの光を混色し,例えば,白色光を生じるものとすることができる,
発光装置11。」

イ 引用例2:特開2007-335798号公報
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-335798号公報(以下「引用例2」という。)には,図とともに,以下の記載がある。
a「【請求項1】
発光素子を収容し,該発光素子から発せられる光を取り出すための開口が形成されるケースと,
前記発光素子と前記開口の間に介在し,該発光素子から発せられる光を受けると波長変換光を発する蛍光体を含有した板状部材と,
前記発光素子と前記板状部材を離隔して配置する離隔部材と,
前記板状部材から前記開口へ向かって進む光を拡散させる拡散板と,を備えたことを特徴とする発光装置。」

b「【0023】
図2は,発光装置の模式断面図である。
図2に示すように,ケース4の傾斜部41は,基板7に対する傾斜角度が45°?60°となるよう形成される。傾斜部41の内側は,透明な樹脂材10が充填され,この樹脂材10によりLEDチップ2が封止されている。本実施形態においては,樹脂材10として屈折率が1.5のシリコーン系の樹脂が用いられる。
【0024】
また,板状部材載置部42及び板状部材位置決め部43と,拡散板載置部44及び拡散板位置決め部45が,それぞれケース4の径方向内側で段状をなしている。板状部材6及び拡散板5はそれぞれ円板状に形成され,ケース4の段状部分に取り付けられる。尚,図2においては板状部材6,拡散板5及びケース4が互いに密着したものを図示しているが,これらは必ずしも密着させる必要はない。例えば,板状部材6,拡散板5及びケース4の間に遊びを持たせ,板状部材6,拡散板5とほぼ同じ屈折率の透明樹脂を用いて互いの空隙が満たされるようにしてもよい。
【0025】
板状部材6は,厚さが均一であり,黄色蛍光体が含まれるシリコーン系の光透過性樹脂である。本実施形態においては,蛍光体6として屈折率が1.45のシリコーン系の樹脂が用いられる。黄色蛍光体としては,例えば,YAG(Yttrium Aluminum Garnet)系,BOS(Barium ortho-Silicate)系等の蛍光体が用いられる。黄色蛍光体は,LEDチップ2から発せられた青色光を受けて励起されると,黄色の波長変換光を発する。
【0026】
拡散板5は,厚さが均一であり,有機材中に分散された無機材を含む光透過性の有機・無機のハイブリッド材である。具体的に,拡散板5は,金属アルコキシドを原材料とし,これを水を加えてゾルゲル法により加水分解・縮重合反応をさせて形成される。本実施形態においては,拡散板5の屈折率は1.4である。
【0027】
基板7は,アルミナからなり,実装面の反射率が比較的高いものとなっている。尚,基板の材質としては,アルミナの他にシリコン(Si)や窒化アルミニウム(AlN)等を用いてもよいし,白色の樹脂を用いてもよい。基板7の表面に形成された上面配線部71,72は,ツェナーダイオード8の各電極81,82を介してLEDチップ2の各電極21,22と電気的に接続される。基板7の裏面には,LEDチップ2に対して電源電圧を供給するための下面配線部73,74が形成されている。そして,上面配線部71,72と下面配線部73,74とは,基板7を上下に貫通する導電性のビア75,76により電気的に接続されている。
【0028】
上面配線部71,72及び下面配線部73,74は,例えばタングステン(W),モリブデン(Mo)等の高融点金属によりビア75,76と一体的に形成されている。尚,上面配線部71,72及び下面配線部73,74の表面には,ニッケル(Ni),アルミニウム(Al),白金(Pt),チタン(Ti),金(Au),銀(Ag),銅(Cu)等の金属層が必要に応じて形成される。
【0029】
図3はLEDチップの模式断面図である。
・・・(中略)・・・
【0031】
以上のように構成された発光装置1では,LEDチップ2のp電極21とn電極22の間に所定の電圧を印加すると,p電極21からp-GaN層27を介して発光層26に通電され,さらに,n-GaN層25を経てn電極22に電流が流れることにより発光層26が発光する。発光層26で生じた光は,n-GaN層25,AlNバッファ層24及びサファイア基板23を通じてケース4内に出射される。そして,LEDチップ2から出射された光は,樹脂材10,板状部材6及び拡散板5を通じてケース4から外部へ出射する。
【0032】
ここで,LEDチップ2と板状部材6とが離隔しており,図4に示すように,LEDチップ2から発せられた光は,板状部材6へ向かって所定距離だけ進んでから板状部材6へ入射する。ここで,図4は,LEDチップから発せられた光の進路を示す説明図である。これにより,板状部材6とLEDチップ2が隣接する従来のもののように蛍光体にて反射した光が直接的にLEDチップ2へ入射することはなく,板状部材6にて反射する光のLEDチップ2への入射量を減じることができる。
【0033】
また,LEDチップ2と板状部材6とが離隔していることから,LEDチップ2から発せられる光の板状部材6への入射角の差が小さくなる。これにより,板状部材6へ入射してから出射するまでの行路差が小さくなり,板状部材6を透過する光の行路差による色むらが小さくなる。
【0034】
また,樹脂材10の屈折率が1.5,板状部材6の屈折率が1.45,拡散板5の屈折率が1.4であり,LEDチップ2側からケース4の開口3へ向かって屈折率が小さくなっていく。これにより,樹脂材10と板状部材6の界面と,板状部材6と拡散板5の界面におけるLEDチップ2から出射した光の臨界角を大きくとることができる。
【0035】
さらに,LEDチップ2内においても,半導体部分の屈折率が2.4,サファイア基板23の屈折率が1.77であり,発光層26から外部へ向かって屈折率が小さくなっていくことから,半導体部分とサファイア基板23の界面における発光層26にて生じた光の臨界角を大きくとることができる。
また,サファイア基板23の屈折率が1.77で,樹脂材10の屈折率が1.5であることから,LEDチップ2と樹脂材10の界面における光の臨界角もまた大きくとることができる。
【0036】
このように,本実施形態の発光装置1によれば,板状部材6にて反射する光のLEDチップ2への入射量が減じられるので,LEDチップ2内で吸収される光が減り,光取り出し効率を向上させることができる。また,LEDチップ2内にて発光層26から外部へ向かって屈折率が小さくするとともに,LEDチップ2側からケース4の開口3へ向かって屈折率を小さくしたことから,これによっても光取り出し効率を向上させることができる。
【0037】
また,板状部材6を透過する光の色むらが小さくなることから,ケース4から取り出される光の色むらを低減することができる。また,板状部材6を透過した光を拡散させる拡散板5を設けたことから,板状部材6を透過した光が混ざり合い,これによってもケース4から取り出される光の色むらを低減することができる。」

(イ)以上から,引用例2には次の技術事項が記載されていると認められる。
「LEDチップ2と開口の間に介在し,LEDチップ2から発せられる光を受けると波長変換光を発する蛍光体を含有した板状部材6と,
LEDチップ2と板状部材6を離隔して配置する樹脂材10と,
板状部材6から前記開口へ向かって進む光を拡散させる拡散板5と,を備えたことを特徴とする発光装置において,
板状部材6は,厚さが均一であり,黄色蛍光体が含まれるシリコーン系の光透過性樹脂であり,
拡散板5は,厚さが均一であり,有機材中に分散された無機材を含む光透過性の有機・無機のハイブリッド材であって,
LEDチップ2から出射された光は,樹脂材10,板状部材6及び拡散板5を通じてケース4から外部へ出射する,発光装置1。」

ウ 引用例3:特表2012-533175号公報
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特表2012-533175号公報(以下「引用例3」という。)には,図とともに,以下の記載がある。
a「【0036】
図2A及び図2Bは,半導体発光装置(LED)207(例えば,発光ダイオード及び/又はレーザダイオード)上の封入材料の1つ又はそれよりも多くの層内に配分された非発光蛍光体ホスト拡散粒子211(非発光YAG拡散粒子のような)及び蛍光体粒子215を有する発光構造体200a及び200bを示している。図2Aに示すように,封入材料209は,そこに非発光蛍光体ホスト拡散粒子211と蛍光体粒子215とを含むことができ,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211と蛍光体粒子215とは異なる組成を有する。より詳細には,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211は,実質的に非発光のYAG拡散粒子とすることができ,蛍光体粒子215は発光セリウムドープ・イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)蛍光体粒子とすることができる。例えば,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211は,実質的に非ドープのYAG拡散粒子とすることができる。換言すれば,セリウムドープ・イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)蛍光体粒子215中のセリウムの濃度は,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211として使用されるYAG拡散粒子中のセリウムの濃度よりも有意に高濃度とすることができる。
【0037】
非発光蛍光体ホスト拡散粒子211は,約50μm(マイクロメートル)未満の幅又は直径を有する実質的に球状のYAG拡散粒子とすることができる。より詳細には,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211の各粒子は,約2μm(マイクロメートル)から約25μm(マイクロメートル)の範囲の幅又は直径を有するYAG拡散粒子とすることができる。更に,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211は,少なくとも約1.8,より詳細には,1.83の屈折率を有することができる。
【0038】
封入材料209は,液体状態で分注することができ,次に,硬化/固化することができる材料とすることができる。例えば,封入材料209は,エポキシ,樹脂,シリコーン,プラスチック,及び/又は他の透明又は半透明材料とすることができ,約1.6よりも大きくない屈折率を有することができる。更に,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211と蛍光体粒子215とは,封入材料209が液体状態にある間に封入材料109と混合することができ,次に,発光装置207上に液体封入材料209と共に分注される。発光装置207への分注の後,封入材料209は,その中に混合された非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及び蛍光体粒子215と共に硬化及び/又は固化することができる。図2Aの実施形態では,封入材料209は,複数のLED207を含む半導体ウェーハ上に分注することができ(例えば,スピン分注作業を用いて),複数のLED207の分割(例えば,ダイスカット又はソーイングによる)の前に硬化/固化することができる。その結果,LED207の側壁と封入材料209の側壁とは,図2Aに示すように整列することができる。
【0039】
図1Aで更に示すように,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及び/又は蛍光体粒子215は,封入材料209全体を通して分布させることができる。本発明の他の実施形態により,半導体発光装置207に隣接する非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及び/又は蛍光体粒子215の第1の濃度は,半導体発光装置207からより離れた非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及び/又は蛍光体粒子215の第2の濃度よりも高濃度とすることができる。例えば,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及び/又は蛍光体粒子215は,封入材料209を硬化する前に発光装置207の近くに沈殿させる(意図的又は無意図的に)ことができる。
【0040】
本発明の一部の実施形態により,LED207は,封入材料209(非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及びセリウムドープYAG蛍光体粒子215を含む)を透過する実質的に青色の光を発生することができる。セリウムドープYAG蛍光体粒子215と相互作用する青色光の一部分は,黄色光に変換することができる。非発光蛍光体ホスト拡散粒子211(YAG拡散粒子のような)は,青色光及び黄色光を更に拡散することができ,より良好な色均一性を有する白色光を提供する。非発光蛍光体ホスト拡散粒子211は,周囲の封入材料209と比較して比較的高い屈折率を有する実質的に球状の拡散粒子として設けることができるので,LED207に向う後方散乱の低減により光拡散を改善することができる。更に,不純物濃度の低いYAG拡散粒子を用いて比較的高品質の非発光蛍光体ホスト拡散粒子211を提供することができ,より高価かつより高損失の材料である従来型の拡散粒子(例えば,TiO2)に比べて損失が低減される。
【0041】
図2Bの照明構造体200bは,蛍光体粒子215と非発光蛍光体ホスト拡散粒子211とが,封入材料の個別の層209a及び209bに設けられることを除いては,照明構造体200aと同じものである。図2Aに関して既に説明した図2Bの要素の更なる説明は,簡潔にするために省略される。代わりに,図2Bに関する説明は,図2Bと異なるその要素に集中することになる。
【0042】
図2Bに示すように,封入材料の層209aは,蛍光体粒子215を含むことができ,封入材料の層209bは,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211を含むことができる。更に,封入材料の層209aは,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211を実質的に含まない場合があり,封入材料の層209bは,蛍光体粒子215を実質的に含まない場合がある。従って,蛍光体粒子215が混合された液体封入材料をLED207上に分注し,次に,硬化/固化することができ,封入材料の層209aが形成される。次に,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211が混合された液体封入材料を層209a上に分注し,次に,硬化/固化することができ,封入材料の層209bが形成される。図2Aの封入材料209に関して上述したように,封入材料の層209a及び209bは,LED分割の前に複数のLED207を含むウェーハ上に分注されて硬化/固化することができる。」

b ここで,図2Bは以下のものである。


(イ)以上から,引用例3には次の技術事項が記載されていると認められる。
「半導体発光装置(LED)207(例えば,発光ダイオード及び/又はレーザダイオード)上の封入材料209の1つよりも多くの層内に配分された非発光蛍光体ホスト拡散粒子211(非発光YAG拡散粒子のような)及び蛍光体粒子215を有する発光構造体であって,
封入材料209は,エポキシ,樹脂,シリコーン,プラスチック,及び/又は他の透明又は半透明材料とすることができ
蛍光体粒子215と非発光蛍光体ホスト拡散粒子211とが,封入材料の個別の層209a及び209bに設けられ,
封入材料の層209aは,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211を実質的に含まない場合があり,封入材料の層209bは,蛍光体粒子215を実質的に含まない場合があり,
LED207が,封入材料209(非発光蛍光体ホスト拡散粒子211及びセリウムドープYAG蛍光体粒子215を含む)を透過する実質的に青色の光を発生することができ,セリウムドープYAG蛍光体粒子215と相互作用する青色光の一部分は,黄色光に変換することができ,非発光蛍光体ホスト拡散粒子211(YAG拡散粒子のような)は,青色光及び黄色光を更に拡散することができ,より良好な色均一性を有する白色光を提供する。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。
ア 引用発明においては,「発光ダイオード13として」「青色発光ダイオードなどを用いる」ことが含まれるから,当該「発光ダイオード13」は,本願補正発明の「第1の色の光を発する半導体発光素子」に相当する。

イ 引用発明においては,「蛍光層3は,蛍光を発光できるとともに,光を透過できる層であって,・・・,発光装置11において,発光ダイオード13から生じる光を吸収して,蛍光を発光する」ものであり,「発光ダイオード13として近紫外発光ダイオードや青色発光ダイオードなどを用いるとともに,その光を励起光として,蛍光を生じる蛍光層3を用いることにより,それらの光を混色し,例えば,白色光を生じるもの」であるから,「発光ダイオード13」「の光」と「蛍光体層3」の光とは異なる色であることは明らかである。よって,当該「蛍光体層3」は,本願補正発明の「前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層」に相当する。

ウ 引用発明の,「蛍光層3(蛍光体セラミックス)としては,蛍光の取り出し効率の向上や,蛍光の放射パターンの均一化を図る観点から,完全に透明化することなく,ある程度の光拡散性を備えることができ,光拡散性を備えるには,蛍光体セラミックス内にボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)を添加し,異相を形成することなどにより,光拡散性を制御することもできるもの」において,「ボイド(空隙)や不純物」,及び「例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)」は,光拡散のためのものであることは明らかである。また,上記イのとおり,引用発明においては,「青色発光ダイオードなどを用いるとともに,その光を励起光として,蛍光を生じる蛍光層3を用いることにより,それらの光を混色し,例えば,白色光を生じるもの」であるところ,当該「青色発光ダイオードなど」からの光も,前記「光拡散性を制御することもできるもの」により光拡散性が制御されることは明らかである。
よって,引用発明の上記構成と,本願補正発明の「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する拡散層」であって,「前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有」することとは,「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する機能を有する層が,層内に分散されている拡散材を有」する点で一致する。

エ 引用発明において,「蛍光層3は,・・・蛍光体のセラミックス(蛍光体セラミックプレート)であ」ることは,本願補正発明の「前記波長変換層は,波長変換物質を含」むことに相当する。

オ 引用発明の「発光装置11」は,本願補正発明の「発光モジュール」に相当する。

カ したがって,引用発明と本願補正発明とは,次の点で一致する。
「 第1の色の光を発する半導体発光素子と,
前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層と,を備え,
前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する機能を有する層が,層内に分散されている拡散材を有し,
前記波長変換層は,波長変換物質を含む,
発光モジュール。」

キ 一方,両者は,以下《相違点1》?《相違点3》の点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明は,「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する拡散層と,を備え,前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており」との構成を備えるのに対し,引用発明は,「前記第1の色の光および前記第2の色の光を拡散する機能を有する層」を備えるものの,当該層は「蛍光層3」でもあり,個別に設けられた「拡散層」ではなく,本願補正発明に係る「前記波長変換層は,前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており」との構成も備えない点。

《相違点2》
本願補正発明は,「前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,」「前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高い」との構成を備えるが,引用発明は「光拡散性を備えるには,蛍光体セラミックス内にボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)を添加し,異相を形成する」との構成は備えるものの,本願補正発明に係る前記構成は備えない点。

《相違点3》
本願補正発明は,「前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であ」るとの構成を備えるが,引用発明は「蛍光層3」とは別個に設けられた「拡散層」を備えないことから,本願補正発明に係る前記構成も備えない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明は,「蛍光層3は,蛍光を発光できるとともに,光を透過できる層であって,封止樹脂層2よりもわずかに大きい平面視略矩形の平板形状に形成され,発光装置11において,発光ダイオード13から生じる光を吸収して,蛍光を発光するために,封止樹脂層2の表面に設けられている蛍光体のセラミックス(蛍光体セラミックプレート)であり,」「蛍光層3(蛍光体セラミックス)としては,蛍光の取り出し効率の向上や,蛍光の放射パターンの均一化を図る観点から,完全に透明化することなく,ある程度の光拡散性を備えることができ,光拡散性を備えるには,蛍光体セラミックス内にボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,例えば,蛍光体がYAG:Ceである場合などには,これとは屈折率が異なる材料(例えば,アルミナなど)を添加し,異相を形成することなどにより,光拡散性を制御することもできるものであ」る。
一方,引用例2及び3について,それぞれ前記4(2)イ及びウで摘示したとおり,波長変換材料を含む層と,当該層上の光を拡散する層との2層構造により波長変換とともに光拡散を行うことは,従来より周知の技術である。
そして,引用発明が「蛍光層3は,単層構造として形成することができ,複数(2つ以上)の層を積層した多層構造として形成することもできるものであ」ることも考慮すると,引用発明において,上記周知技術を適用して,セラミックからなる蛍光体層3について,蛍光体としての機能を有する層,すなわち,波長変換を行う層についてはCeで賦活されたYAGからなる蛍光体セラミックからなる層と,当該波長変換を行う層上の拡散層としての作用を有する層,すなわち,波長変換することがない,賦活されていないYAGから成るセラミックであって,ボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,YAGとは屈折率が異なるアルミナなどを添加した光拡散性を備える層,との2層構造からなるものとすることは当業者が適宜になし得たことである。
なお,Ceで賦活されたYAGからなる蛍光体セラミックからなる層と,賦活されていないYAGから成る2層構造は,以下の参考文献にも示されているものであって,なんら格別なものではない。
よって,引用発明において相違点1に係る構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。

参考文献:国際公開2011/97137号
本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である国際公開2011/97137号には,図とともに,以下の記載がある。なお,日本語訳は,ファミリ文献である特表2013-518797号公報を参考に作成した。
「[0060] In one embodiment, as shown in Fig. 5, a light-emitting device 21 comprises a semiconductor light-emitting source 26 comprising a light-emitting layer disposed between an n-type region and a p-type region, and a laminated wavelength- converting ceramic composite 20 disposed adjacent to the light-emitting source 26 in a path of light 28 emitted by the light-emitting source 26; and the laminated wavelength-converting ceramic composite 20 comprises a wavelength-converting ceramic layer 22 of an emissive material (the composite laminate, comprising a wavelength-converting ceramic layer, having a wavelength conversion efficiency of at least about 0.650) and a non-emissive layer 24 of a substantially transparent material, wherein the non-emissive transparent layer has a thickness greater than the wavelength-converting ceramic layer, and the wavelength-converting ceramic layer and non-emissive layers are in the form of sintered ceramic tape cast layers. In this embodiment, the wavelength-converting ceramic layer 22 is disposed adjacent to the semiconductor light emitting source 26, e.g., below the non-emissive layer 24 and above the semiconductor light emitting source 26. 」
(日本語訳:
[0060] 一実施形態では,図5に示すように,発光素子21は,n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体発光源26と,発光源26によって照射された光28の経路に発光源26に隣接して配置された積層波長変換セラミック複合体20とを含み,積層波長変換セラミック複合体20は,発光材料(少なくとも約0.650の波長変換効率を有する波長変換セラミック層を含む複合積層体)の波長変換セラミック層22と,実質的に透明な材料の非発光層24とを含み,ここで,非発光透明層は,波長変換セラミック層より大きい厚みを有し,波長変換セラミック層および非発光層は,焼結セラミックテープキャスト層の形態である。この実施形態では,波長変換セラミック層22は,半導体発光源26に隣接して,例えば,非発光層24下で半導体発光源26上に配置されている。)

イ 相違点2について
上記アのとおり,引用発明において,セラミックからなる蛍光体層3について,蛍光体としての機能を有する層,すなわち,波長変換を行う層についてはCeで賦活されたYAGからなる蛍光体セラミックからなる層と,当該波長変換を行う層上の拡散層としての作用を有する層,すなわち,波長変換することがない,賦活されていないYAGから成るセラミックであって,ボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,YAGとは屈折率が異なるアルミナなどを添加した光拡散性を備える層,との2層構造からなるものとすることは当業者が適宜になし得たことである。
ここで,波長変換することがない,賦活されていないYAGから成るセラミックが,本願補正発明における,「拡散層」が有する「マトリックス」に相当するものとなる。
上記2層構造中の,拡散層としての作用を有する層においては,拡散剤として,ボイド(空隙)が形成されるか,アルミナなどが添加されるところ,これらはいずれも,YAGよりも屈折率が0.05以上低いことは明らかであるから,上記2層構造においては,相違点2に係る,「前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,」「前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高い」との構成を備えるものとなる。
よって,引用発明において相違点2に係る構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。

ウ 相違点3について
前記ア,イのとおり,引用発明において,セラミックからなる蛍光体層3について,蛍光体としての機能を有する層,すなわち,波長変換を行う層についてはCeで賦活されたYAGからなる蛍光体セラミックからなる層と,当該波長変換を行う層上の拡散層としての作用を有する層,すなわち,波長変換することがない,賦活されていないYAGから成るセラミック(本願補正発明における「マトリックス」)であって,ボイド(空隙)や不純物などを形成し,また,YAGとは屈折率が異なるアルミナなどを添加した光拡散性を備える層,との2層構造からなるものとすることは当業者が適宜になし得たことである。
ここで,波長変換を行う層を構成する,Ceで賦活されたYAGと,拡散層としての作用を有する層を構成する,賦活されていないYAGとは,Ceによる賦活の有無の差はあるものの,それらの間の屈折率の差はごく少ないものであって,相違点3に係る「前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であ」るとの構成を備えるものといえる。
よって,引用発明において相違点3に係る構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。

(5)小括
よって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月4日にされた手続補正は,上記のとおり却下され,同年5月31日にされた手続補正は既に却下されているので,本願の請求項1に係る発明は,平成29年11月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】
第1の色の光を発する半導体発光素子と,
前記第1の色の光の少なくとも一部を波長変換して,第2の色の光を発する波長変換層と,
前記第1の色の光および前記第2の色の光の少なくとも一方の光を拡散する拡散層と,
を備え,
前記拡散層は,マトリックスと該マトリックスに分散されている拡散材とを有し,
前記波長変換層は,波長変換物質を含み,
前記波長変換層の屈折率と前記マトリックスの屈折率との差が0.3以下であり,
前記マトリックスの屈折率と前記拡散材の屈折率との差が0.05以上であり,
前記マトリックスの屈折率は,前記拡散材の屈折率よりも高いことを特徴とする発光モジュール。」

2 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,引用例1?3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用発明
引用発明は,前記第2の4「(2)刊行物等に記載された発明」に記載したとおりのものである。

4 対比・判断
前記第2「1 本件補正の内容」?第2「3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において記したように,本願補正発明は,本件補正前の請求項1の「拡散層」について,その拡散する光を,補正前の「前記第1の色の光および前記第2の色の光の少なくとも一方の光」から,補正後の「前記第1の色の光および前記第2の色の光」として,技術的に限定し,また,本件補正前の請求項1の「波長変換層」について,その位置について,「前記半導体発光素子と前記拡散層との間に配置されており,」として,技術的に限定するものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から上記限定事項を除いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2 4「(3)対比」?第2 4「(5)小括」において検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-31 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2014-560666(P2014-560666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
近藤 幸浩
発明の名称 発光モジュール  
代理人 三木 友由  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  

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