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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1355647
審判番号 不服2018-1913  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-13 
確定日 2019-10-23 
事件の表示 特願2014- 65457「ハードコートフィルム、偏光板及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月25日出願公開、特開2014-240955、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年3月27日(優先権主張 平成25年5月13日)の出願であって、平成29年9月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同月8日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し平成30年2月13日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成31年3月7日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月8日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、さらに、同年6月4日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同月11日に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


2 本件発明
本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明3」という。)である。

「 【請求項1】
透明フィルムと、該透明フィルム上に設けられたハードコート層と、該ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合された前面板と、を有するハードコートフィルムであって、
前記層間充填剤が活性エネルギー線硬化性樹脂であり、その表面自由エネルギーが45.2mN/m以下であり、
前記ハードコート層の表面自由エネルギーが30mN/m以上であり、
前記ハードコートフィルムが、前記透明フィルムの成分と前記ハードコート層の成分が混在している混在領域を有し、
前記ハードコートフィルムが、前記ハードコート層におけるハードコート層の成分からなる領域と前記混在領域との間に界面を有さず、
前記混在領域の屈折率がハードコートフィルムの厚み方向に向かって連続的に変化しており、
式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm^(-1))が0.003≦a≦0.018を満たす、ハードコートフィルム:
a=|n_(A)-n_(B)|/L・・・(1)
式(1)中、n_(A)は前記ハードコート層固有の屈折率、n_(B)は前記透明フィルム固有の屈折率、Lは前記混在領域の厚み(μm)を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のハードコートフィルムを有する偏光板。
【請求項3】
請求項1に記載のハードコートフィルムを有する画像表示装置。」


3 原査定の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の平成29年11月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?5は、以下のとおりであり、原査定の拒絶理由は、引用文献1に記載された発明を主引用発明とするものである。

引用文献1:特開2011-225846号公報
引用文献2:特開2011-237789号公報
引用文献3:特開平11-7251号公報
引用文献4:特開2006-106714号公報
引用文献5:特開平11-103192号公報


4 当審拒絶理由等の概要
平成31年3月7日付けで通知した拒絶理由及び当審拒絶理由の概要は、いずれも、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。


5 引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成23年11月10日に頒布された刊行物である、特開2011-225846号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層形成用組成物、光学フィルム、光学フィルムの製造方法、偏光板、及び画像表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、フルオロ脂肪族基含有モノマーに由来する繰り返し単位を有するポリマーを用いたハードコート層とその上に積層した反射防止膜との密着性(耐擦傷性)が向上することが記載されているが、近年要求されるより厳しいレベルの密着性に対しては不十分であり、良好な面状とハードコート層とその上に積層した反射防止膜との密着性の両立についてはさらに改良が求められている。また、良好な面状と、透明基材とハードコート層との密着性の両立についてもさらなる改善が求められる。
【0007】
本発明の目的は、先行技術に対して、更に面状ムラの観点で優れるハードコート層形成用組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、透明基材とハードコート層との密着性、及びハードコート層と該ハードコート層上に設けられた他の層との密着性に優れる光学フィルムを提供することである。
本発明の更なる別の目的は、該光学フィルムの製造方法、該光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板、及び該光学フィルム又は偏光板を有する画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、下記手段により、前記課題を解決し目的を達成しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
1.
下記(a)、(b)、(c)、及び(d)を含有するハードコート層形成用組成物。
(a)下記含フッ素ポリマー(1)及び含フッ素ポリマー(2)から選ばれる少なくともいずれかのレベリング剤
含フッ素ポリマー(1):下記一般式[1]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーに由来する重合単位を全重合単位に対して50質量%より多く含有するポリマー
【0010】
【化1】

【0011】
(上記一般式[1]において、R^(0)は水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を表し、Lは2価の連結基を表し、nは1以上18以下の整数を表す。)
含フッ素ポリマー(2):下記一般式[2]で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーに由来する重合単位と、ポリ(オキシアルキレン)アクリレート及びポリ(オキシアルキレン)メタクリレートから選ばれる少なくともいずれかに由来する重合単位とを含むポリマー
【0012】
【化2】

【0013】
(上記一般式[2]において、R^(1)は水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子、イオウ原子又は-N(R^(2))-を表し、mは1以上6以下の整数、nは1?3の整数を表す。R^(2)は水素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す。)
(b)炭酸エステル溶剤
(c)不飽和二重結合を有する化合物
(d)光重合開始剤

(中略)

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、面状ムラの観点で優れるハードコート層形成用組成物を提供することができる。また、透明基材とハードコート層との密着性、及びハードコート層と該ハードコート層上に設けられた他の層との密着性に優れる光学フィルムを提供することができる。
また、該光学フィルムの製造方法、該光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板、及び該光学フィルム又は偏光板を有する画像表示装置を提供することができる。」

イ 「【0167】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、透明基材上に前記ハードコート層形成用組成物を用いて形成されたハードコート層を有する。
本発明の光学フィルムは、透明基材上にハードコート層を有し、更に目的に応じて、必要な機能層を単独又は複数層設けてもよい。例えば、反射防止層(低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層など屈折率を調整した層)、防眩層などを設けることができる。
【0168】
本発明の光学フィルムのより具体的な層構成の例を下記に示す。
透明基材/ハードコート層
透明基材/ハードコート層/低屈折率層
透明基材/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
透明基材/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
透明基材/ハードコート層/防眩層
【0169】
本発明の光学フィルムは、透明基材上に、ハードコート層形成用組成物から形成されたハードコート層を有し、ハードコート層中、(a)レベリング剤は該ハードコート層の表面側(透明基材と反対側の界面側)に偏在して存在する。(a)レベリング剤がハードコート層の表面側に存在することで、ハードコート層の面状を改良することができる。また、該ハードコート層上にその他の層を積層した場合、ハードコート層の表面側に存在する(a)レベリング剤は速やかに該その他の層に抽出されて、ハードコート層/その他の層界面に残りにくいため、ハードコート層とその他の層との密着性を向上させることもできる。」

ウ 「【0172】
[透明基材]
本発明の光学フィルムにおいては、透明基材(支持体)として種々用いることができるが、セルロース系ポリマーを含む基材が好ましく、セルロースアシレートフィルムを用いることがより好ましい。
セルロースアシレートフィルムとしては、特に限定されないが、ディスプレイに設置する場合は、セルローストリアセテートフィルムを偏光板の偏光層を保護する保護フィルムとしてそのまま用いることができるため、生産性やコストの点でセルローストリアセテートフィルムが特に好ましい。
セルロースアシレートフィルムの厚さは、通常、25μm?1000μm程度であるが、取り扱い性が良好で、かつ必要な基材強度が得られる40μm?200μmが好ましい。」

エ 「【0185】
本発明の光学フィルムとして、特に好ましい態様は、セルロースアシレートフィルム基材上に、ハードコート層、及び反射防止層を有する光学フィルムであって、該セルロースアシレートフィルム基材のハードコート層の界面には、基材成分とハードコート層成分が混在した領域が存在し、かつ該反射防止層が前記含フッ素ポリマー(1)であるレベリング剤を含有し、該レベリング剤がハードコート層と反射防止層との界面に存在しない光学フィルムである。
ここで、ハードコート層とは、ハードコート層成分が含まれている部分全体を指し、基材とは、ハードコート層成分を含まない部分を示すこととする。
本発明の光学フィルムでは、基材成分とハードコート層成分が混在した領域が存在している。このように各成分が混じり合うことにより、基材とハードコート層の密着性が向上する。基材成分とハードコート層成分が混在した領域の厚さは、ハードコート層全体の厚さに対して5%以上99%以下であることが好ましく、15%以上98%以下であることが更に好ましく、30%以上95%以下であることが最も好ましい。混在した領域が5%未満であると基材とハードコート層との密着性が不十分になり、また100%であるとハードコート層の最表面に基材成分が露出するため、反射防止層との密着性を阻害する。
また、混在した領域は、フィルムをミクロトームで切削し、断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で分析した時に、基材成分とハードコート層成分が共に検出される部分として測定することができ、この領域の膜厚も同様にTOF-SIMSの断面情報から測定することができる。」

オ 「【実施例】
【0231】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによって限定して解釈されるものではない。なお、特別の断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0232】
〔反射防止フィルムの作製〕
下記に示す通りに、各層形成用の塗布液を調製し、各層を形成して、反射防止フィルム試料1?27を作製した。
【0233】
(ハードコート層用塗布液の調製)
(フルオロ脂肪族基含有ポリマーP-77の合成)
本文記載のフルオロ脂肪族基含有ポリマー(P-77)を次のように合成した。
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器に、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルアクリレート31.98質量部、ブレンマーAP-400(日本油脂(株)製)7.95質量部、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート1.1質量部、2-ブタノン30質量部を加え窒素雰囲気下で6時間78℃に加熱して反応を完結させた。質量平均分子量は34000であった。
【0234】
類似の方法で、本文記載のフルオロ脂肪族基含有ポリマー(P-74)、(P-75)、(P-191)、(P-194)、(P-62)、及び(P-62)の質量平均分子量をそれぞれ1500、3100、5500、83000に変えたものを合成した。なお、分子量の調整は反応時間と温度の調整により行った。
【0235】
(ハードコート層用塗布液A-1の調製)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌してハードコート層塗布液A-1とした。
酢酸エチル300質量部に対して、メチルイソブチルケトン700質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートの混合物(PET30、日本化薬(株)製)970質量部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)30質量部、フルオロ脂肪族基含有ポリマーP-75(分子量9000)0.5質量部を添加して攪拌した。孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層用の塗布液A-1を調製した。
【0236】
ハードコート層用塗布液A-1と類似の方法で、各成分を下記表1のように混合して溶剤に溶解して表1記載の比率になるように調整し、固形分濃度50質量%のハードコート層用塗布液A-2?A-26を作製した。
【0237】
【表1】


(中略)

【0240】
(低屈折率層用塗布液の調製)
(パーフルオロオレフィン共重合体(1)の合成)
【0241】
【化60】

【0242】
上記構造式中、50:50はモル比を表す。
【0243】
内容量100mlのステンレス製撹拌機付オートクレーブに酢酸エチル40ml、ヒドロキシエチルビニルエーテル14.7g及び過酸化ジラウロイル0.55gを仕込み、系内を脱気して窒素ガスで置換した。更にヘキサフルオロプロピレン(HFP)25gをオートクレーブ中に導入して65℃まで昇温した。オートクレーブ内の温度が65℃に達した時点の圧力は、0.53MPa(5.4kg/cm^(2))であった。該温度を保持し8時間反応を続け、圧力が0.31MPa(3.2kg/cm^(2))に達した時点で加熱をやめ放冷した。室温まで内温が下がった時点で未反応のモノマーを追い出し、オートクレーブを開放して反応液を取り出した。得られた反応液を大過剰のヘキサンに投入し、デカンテーションにより溶剤を除去することにより沈殿したポリマーを取り出した。更にこのポリマーを少量の酢酸エチルに溶解してヘキサンから2回再沈殿を行うことによって残存モノマーを完全に除去した。乾燥後ポリマー28gを得た。次に該ポリマーの20gをN,N-ジメチルアセトアミド100mlに溶解、氷冷下アクリル酸クロライド11.4gを滴下した後、室温で10時間攪拌した。反応液に酢酸エチルを加え水洗、有機層を抽出後濃縮し、得られたポリマーをヘキサンで再沈殿させることによりパーフルオロオレフィン共重合体(1)を19g得た。得られたポリマーの屈折率は1.422、質量平均分子量は50000であった。
【0244】
(中空シリカ粒子分散液Aの調製)
中空シリカ粒子微粒子ゾル(イソプロピルアルコールシリカゾル、触媒化成工業(株)製CS60-IPA、平均粒子径60nm、シェル厚み10nm、シリカ濃度20質量%、シリカ粒子の屈折率1.31)500質量部に、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン30質量部、及びジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート1.51質量部加え混合した後に、イオン交換水9質量部を加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8質量部を添加し、分散液を得た。その後、シリカの含率がほぼ一定になるようにシクロヘキサノンを添加しながら、圧力30Torrで減圧蒸留による溶媒置換を行い、最後に濃度調整により固形分濃度18.2質量%の分散液Aを得た。得られた分散液AのIPA残存量をガスクロマトグラフィーで分析したところ0.5質量%以下であった。
【0245】
(低屈折率層用塗布液Aの調製)
パーフルオロオレフィン共重合体(1)の21.0質量部、反応性シリコーン(X22-164C、信越化学(株)製)2.5質量部、イルガキュア127(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)1.5質量部、中空シリカ粒子分散液A137.4質量部をメチルエチルケトンに添加して1000質量部とし、攪拌の後、孔径5μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、低屈折率層用塗布液Aを調製した。
【0246】
(ハードコート層A-1の作製)
層厚80μmの透明支持体としてのトリアセチルセルロースフィルム(TD80UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)上に、前記ハードコート層用塗布液A-1をグラビアコーターを用いて塗布した。100℃で乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量150mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ12μmのハードコート層A-1を形成した。
【0247】
(低屈折率層の作製)
ハードコート層A-1の上に、低屈折率層用塗布液Aをグラビアコーターを用いて塗布し、厚さ94nmの低屈折率層を形成し、これを反射防止フィルム試料No.1とした。低屈折率層の乾燥条件は90℃、30秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600mW/cm^(2)、照射量600mJ/cm^(2)の照射量とした。
【0248】
同様の方法でハードコート層用塗布液A-2?26を用いてハードコート層A-2?26を、ハードコート層用塗布液B-1を用いてハードコート層B-1をそれぞれ作製し、その上に低屈折率層Aを厚さ94nmになるように形成して反射防止フィルム試料No.2?27を作製した。なお、ハードコート層及び低屈折率層の屈折率の測定は、各層の塗布液を約4μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて測定した。「DR-M2,M4用干渉フィルター546(e)nm 部品番号:RE-3523」のフィルターを使用して測定した屈折率を波長550nmにおける屈折率として採用した。屈折率は、ハードコート層A-1?A-26、及びB-1はいずれも1.52、低屈折率層Aは1.35であった。

(中略)

【0250】
(ハードコート層の表面自由エネルギーの算出)
各試料の低屈折率層を積層する前段階のハードコート層表面の表面自由エネルギーは水とヨウ化メチレンの接触角を測定し、本文記載のオーウェンスの式より算出した。

(中略)

【0252】
【表2】


(中略)

【0254】
(反射防止フィルムの評価)
以下の方法により反射防止フィルムの諸特性の評価を行った。結果を表3に示す。

(中略)

【0256】
(2)基材とハードコート層界面の観察
フィルムをミクロトームで切削し、断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で分析し、界面の状態を観察した。基材成分とハードコート層成分が共に検出される部分を基材とハードコート層成分が混在した領域とし、この領域の膜厚も同じTOF-SIMSの断面情報から測定し、ハードコート層全体の厚さに対する基材成分とハードコート層成分が混在した領域の厚さの割合を算出した。
【0257】
(3)塗布面状ムラ
塗布面側を上にして、裏面側から蛍光灯を照射して光を透過させ、目視による面検にてハジキ、ブツ等の点欠陥、塗布ムラ、乾燥ムラ等の面状ムラの発生頻度について、10m^(2)だけ検査し、その値を10で割って1m^(2)当たりの面状ムラの数を算出し、以下の基準で判定した。
◎ ・・面状ムラが0個
○ ・・面状ムラが1個以上3個未満で、僅かにあるが認識されない
○△・・面状ムラが3個以上5個未満で、僅かにあるがほとんど認識されない
△ ・・面状ムラが5個以上10個未満で、面状ムラが目立ってしまう
× ・・面状ムラが10個以上で、面状ムラが非常に目立つ

(中略)

【0258】
(5)スチールウール耐傷性評価
反射防止フィルムの低屈折率層表面をラビングテスターを用いて、以下の条件でこすりテストを行うことで、耐擦傷性の指標とした。
評価環境条件:25℃、60%RH
こすり材:スチールウール(日本スチールウール(株)製、ゲレードNo.0000)
試料と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に巻いて、バンド固定
移動距離(片道):13cm、
こすり速度:13cm/秒、
荷重:500g/cm^(2)、1kg/cm^(2)いずれか
先端部接触面積:1cm×1cm、
こすり回数:10往復
こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、反射光で目視観察して、こすり部分の傷を評価した。
A :非常に注意深く見ても、全く傷が見えない。
B :非常に注意深く見ると弱い傷が見えるが僅かであり問題にならない。
C :注意深く見ると弱い傷が見えるが、問題にならない
D :中程度の傷が見え、傷が目立ってしまう。
E :一目見ただけで分かる傷があり、非常に目立つ

(中略)

【0261】
【表3】

【0262】
表3に示すように、本発明のハードコート形形成用組成物を使用すると、面状ムラを改善してかつ、密着性、スチールウール耐擦傷性も両立した反射防止フィルムを得ることができた。特に、炭酸エステル溶媒を用いた試料No.2,3では、炭酸エステル以外の溶媒を用いた試料No.4?8と比べて500g荷重におけるスチールウール耐性に優れていることがわかる。さらに1kg荷重で試験した場合には、試料No.4?8では500g荷重と比べて顕著に傷つきが悪化しているのに対し、試料2,3では500gと同等の傷つき方で悪化がみられず、良好な耐擦傷性レベルを維持できることがわかった。試料No.21,24ではやや強いハジキ状の故障がみられたが、密着性、スチールウール耐擦傷性は優れていた。その他の試料では同様のハジキは見られなかった。また、試料No.2はlogSRが14.0であったのに対して試料No.27は9.4と低下してごみ付き性もAランクになり、上記に加えて良好なごみ付き防止性も付与することができた。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項オの表2には、ハードコード層試料No.2の表面自由エネルギーが、30mN/mであることが記載されており、段落【0250】の記載によれば、表2の表面自由エネルギーは、試料の低屈折率層を積層する前段階のハードコート層表面の表面自由エネルギーである。また、表3には、試料No.2の混在領域の割合が50%であることが記載されており、段落【0256】の記載によれば、混在領域は、フィルムの断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で分析したときに、基材成分とハードコート層成分が共に検出される部分を基材とハードコート層成分が混在した領域であり、表3の混在領域の割合は、ハードコート層全体の厚さに対する基材成分とハードコート層成分が混在した領域の厚さの割合である。
そうすると、上記記載事項オに基づけば、引用文献1には、試料No.2として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「層厚80μmの透明支持体としてのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.48)上に、ハードコート層用塗布液A-2をグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥した後、窒素パージしながら紫外線を照射して塗布層を硬化させて、厚さ12μm、屈折率1.52のハードコート層A-2を形成し、その上に低屈折率層用塗布液Aを塗布し、低屈折率層Aを厚さ94nmになるように形成して作製した反射防止フィルム試料No.2であって、
試料の低屈折率層を積層する前段階のハードコート層表面の表面自由エネルギーが30mN/mであり、フィルムの断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で分析したときに、基材成分とハードコート層成分が共に検出される部分を混在領域とし、ハードコート層全体の厚さに対する混在領域の厚さの割合が50%である、反射防止フィルム試料No.2。」

(3)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成11年1月12日に頒布された刊行物である、特開平11-7251号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
【0002】本発明は、前面板に関する。
【0003】
【従来の技術】近年、表示面積が大きく、しかも平坦なディスプレイとしてプラズマディスプレイが注目されている。しかし、プラズマディスプレイにはその画面などから発生する電磁波や近赤外線を遮蔽するための前面板が必要である。かかる前面板は通常、周囲の景色の映り込みによって視認性が低下することを防ぐために、その一方の面または両面に反射防止処理が施されて用いられている。かかる反射防止処理としては、例えば蒸着などによって反射防止層を前面板の表面に形成させる処理などが知られているが(特公平7-89597号公報など)、大型のプラズマディスプレイにあわせた前面板を製造するには大型の真空設備が必要であるなど、容易に処理できるものではなかった。そこで、簡便に反射防止処理を施すために、予め反射防止層などが形成されたフィルムを透明基板に積層することにより、反射防止処理を施す方法が提案されている。また、プラズマディスプレイから発生する近赤外線を遮蔽するために、近赤外線フィルムを積層する方法が提案されている。さらに、前面板表面の傷付きを防止するたの保護フィルムが積層されて用いられる場合もある。
【0004】しかしながら、プラズマディスプレイは比較的高温になるため、かかるフィルムが積層された前面板をプラズマディスプレイに用いた場合、長期間の使用によってフィルムが透明基板から剥離し易くなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者らは、高温下における長期間の使用においても積層されたフィルムが透明基板から容易には剥がれにくい前面板を開発するべく鋭意検討した結果、透明基板にハードコート層を設けることによって、積層されたフィルムは容易には剥離しないことを見出し、本発明に至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、ハードコート層が形成された透明基板の該ハードコート層の上にフィルムが積層されてなることを特徴とする前面板を提供するものである。」

イ 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の前面板における透明基板は、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体などの合成樹脂などからなるものであり、目的とする大きさに容易に加工できる点および本発明の効果が顕著である点ででアクリル樹脂が好ましい。また、かかる透明基板の厚みは通常0.01?10mm、好ましくは0.5?10mm程度であり、板状のもののみならず、フィルム状またはシート状のものも含まれる。その面積は目的とするディスプレイの画面サイズに応じて適宜選択される。かかる透明基板は、実用上透明であればよく、染料、顔料などによって着色されていてもよい。通常、波長400?600nmにおける光線透過率は50%以上、好ましくは60%以上である。

(中略)

【0009】かかる透明基板には、フィルムが積層される側の表面に予めハードコート層が形成されている。透明基板の一方の面にフィルムが積層される場合には、少なくとも該一方の面にハードコート層を形成させておけばよく、両面にフィルムが積層される場合には、透明基板の両面にハードコート層を形成させておけばよい。

(中略)

【0016】かくして透明基板の表面に形成されるハードコート層の厚みは特に限定されるものではないが好ましくは1?20μm程度である。厚みが1μm以下であるとハードコート層に起因する干渉縞が発生し易くなり、20μmを越えるとハードコート層にひびが入り易くなる傾向にある。なお、透明基板とハードコート層との密着性を向上させるために、透明基板とハードコート層の間に接着層が設けられていてもよい。
【0017】本発明の前面板において、フィルムはかかるハードコート層の上に積層されている。フィルムとしては、特に限定されるものではなく、例えば反射防止フィルム、保護フィルム、近赤外線遮蔽フィルムなどの機能性フィルム、およびこれら機能性フィルムの複数が積層された積層フィルムなどが挙げられる。

(中略)

【0023】かかるフィルムと透明基板を積層するには、例えば粘着剤を用いて積層すればよい。粘着剤としては、例えばアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤などが挙げられる。積層は、例えばフィルムの一方の面に粘着剤を塗布したのち、該フィルムと透明基板とをロール貼合機、枚葉貼合機などを用いて圧着すればよい。なお、フィルムに反射防止層などの層が形成される場合、粘着剤は通常、該層が形成された面とは反対側のフィルム面に塗布される。また、透明基板に粘着剤を塗布した後にフィルムを積層してもよい。
【0024】かくして本発明の前面板が得られるが、かかる前面板に積層されたフィルムの上には、その用途に応じて、さらに他のフィルム、例えば反射防止フィルム、導電性フィルム、近赤外線遮蔽フィルム、保護フィルムなどが積層されてもよい。」

ウ 「【0025】
【発明の効果】本発明の前面板は、高温下での長期間の使用においても、積層されたフィルムが透明基板から容易には剥がれにくいので、プラズマディスプレイ用前面板として優れている。」

(4)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成11年4月13日に頒布された刊行物である、特開平11-103192号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラズマディスプレイ装置の前面に設置して、プラズマディスプレイから発生する電磁波を有効に遮蔽するプラズマディスプレイ用前面板に関する。
【0002】

(中略)

【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らはかかる事情に鑑み、電磁波遮蔽性能を有する前面板について鋭意検討した結果、透明樹脂板に導電性メッシュを積層してなる前面板であって、該導電性メッシュの一部を前面板の面上の周辺部の少なくとも一辺において、面状に露出させたプラズマディスプレイ用前面板は、アースの接続が確実になり、安定して高い電磁波遮蔽性能を発揮でき、画面も十分見やすいものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、まず第一に、少なくとも1枚の透明樹脂板と、該透明樹脂板に積層された導電性メッシュを有してなる前面板であって、該導電性メッシュの一部が前面板の面上の周辺部の少なくとも一辺において、面状に露出しているプラズマディスプレイ用前面板を提供する。
【0009】本発明は、第二に、前面板の少なくとも一方の表面に凹凸が形成されている、上記第一のプラズマディスプレイ用前面板を提供する。
【0010】本発明は、第三に、該導電性メッシュと該透明樹脂板の間に積層された中間合成樹脂板を含み、さらに該中間合成樹脂板と該透明樹脂板の間に設けられた装飾部を有する、上記第一のプラズマディスプレイ用前面板を提供する。
【0011】本発明は、第四に、さらに導電膜を有し、該導電膜が、前面板の面上の周辺部の少なくとも一辺において面状に、該導電性メッシュと接触した状態にある、上記第一のプラズマディスプレイ用前面板を提供する。
【0012】本発明は、第五に、該透明樹脂板が近赤外線遮蔽性能を有する、上記第一のプラズマディスプレイ用前面板を提供する。」

イ 「【0014】本発明の前面板は、透明樹脂板に導電性メッシュを積層してなる前面板であって、該導電性メッシュの一部が前面板の面上の周辺部の少なくとも一辺において面状に露出しているプラズマディスプレイ用前面板である。かかる前面板は、CRT、ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等のディスプレイ装置の前面に設置して用いられる。特に好ましくは、PDP用の前面板として用いられる。前面板の大きさは、ディスプレイ装置の画面サイズに合わせ任意に選択することができ、特に限定されない。また、その厚みも任意に選択できる。」

ウ 「【0047】本発明の前面板は、例えば、透明樹脂板、導電性メッシュ及びもう1枚の透明樹脂板とをこの順番に重ね合せ、これらを加熱・加圧する方法などによって容易に製造することができる。加熱温度は通常110?180℃程度、加圧圧力は通常10?60kg/cm^(2)程度である。
【0048】透明樹脂板と導電性メッシュとの間や、透明樹脂板とさらに積層される他の透明樹脂板との間などには、それらの間の接着性を向上させるために、又、加熱プレスして一体化する際に電磁波遮蔽性能の低下の原因となるメッシュの劣化やメッシュ目の広がり等変形を防ぐために、それらの間に軟質透明熱可塑性フィルムを接着用フィルムとして重ね合せて加熱、加圧してもよい。透明樹脂板と導電性メッシュとの間の接着性を向上させる効果を得るためには、透明樹脂板、導電性メッシュ及び接着用フィルムをこの順で重ね合せて加工するようにしてもよいし、透明樹脂板、接着用フィルム及び導電性メッシュをこの順で重ね合せて加工するようにしてもよいし、又、透明樹脂板、接着用フィルム、導電性メッシュ及び接着用フィルムをこの順で重ね合せて加工するようにしてもよい。該軟質透明熱可塑性フィルム(接着用フィルム)としては、高透明低軟化点樹脂フィルムが用いられ、フィルムの軟化点がJIS K7206に記載の方法で測定したビカット軟化点が、通常約40?100℃、好ましくは約50?80℃のものである。具体的には、例えば、アクリルフィルム、塩化ビニルフィルムなどが挙げられる。フィルム厚さは、通常約10?200μm、好ましくは約20?100μmである。
【0049】本発明のプラズマディスプレイ用前面板は、透明樹脂板に導電性メッシュを積層してなるものであるが、必要に応じて、反射防止層、汚染防止層、ハードコート層等が、適宜設けられる。かかる反射防止層、汚染防止層、ハードコート層は、本発明のプラズマディスプレイ用前面板において、任意の位置に設けることができる。

(中略)

【0054】ハードコート層は、前面板の硬度を高める目的で設けられるが、該ハードコート層としては、公知のものを用いてもよく、例えば、多官能性単量体を主成分とするコート剤を重合、硬化させることによって得られる硬化膜等を用いることができる。具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等のアクリロイル基、メタクリロイル基を2個以上含んだ多官能重合性化合物を紫外線、電子線等の活性化エネルギー線によって重合硬化させた層;またはシリコン系、メラミン系、エポキシ系の架橋性樹脂原料を熱によって架橋硬化させた層などを挙げることができる。なかでも、耐久性や取り扱い性の容易さの点で、ウレタンアクリレート系の多官能重合性化合物を重合硬化させた層、シリコン系の架橋性樹脂原料を架橋硬化させた層が好ましい。
【0055】ハードコート層を形成させる方法としては、例えば、上記の化合物からなるコート剤を、通常のコーティング作業で用いられる方法、すなわちスピン塗装法、浸漬塗装法、ロールコート塗装法、グラビアコート塗装法、カーテンフロー塗装法、バーコート塗装法等によって塗布しそれを硬化させる方法を挙げることができる。この際、塗布をしやすくするために、又、塗布した膜の膜厚を調整するために、該コート剤を種々の溶剤により希釈してから塗布するようにしてもよい。塗布したコート剤を硬化させるには、加熱昇温する熱重合、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射によって光重合させる方法で行うことができる。

(中略)

【0057】なお、透明樹脂板等とハードコート層との密着性を向上させるために、透明樹脂板等とハードコート層の間に、前述の接着用フィルムを設けても差し支えない。
【0058】該ハードコート層は、透明樹脂板上に直接形成してもよいし、表面にハードコート層を形成させた透明フィルム等を透明樹脂板上に積層する又は貼合せる等により形成してもよい。又、該ハードコート層は、本発明における前面板の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。」

エ 「【0091】
【発明の効果】本発明のプラズマディスプレイ用前面板は、アース取りが確実になり、従来のものより安定して電磁波遮蔽性能を発揮できる。さらに本発明は、その表面に凹凸を設け、又、反射防止性能、耐擦傷性、防汚性を付与する等によって、視認性に優れたプラズマディスプレイ用前面板を提供する。又、近赤外線遮蔽性能を有する透明樹脂板を用いることにより、近赤外線を有効に遮蔽する前面板を提供する。
【0092】更に本発明においては、反りが小さく、ニュートンリングの発生が少ないプラズマディスプレイ用前面板、装飾部の色の鮮明さを確保したプラズマディスプレイ用前面板、アースの耐久性、安定性に優れたプラズマディスプレイ用前面板を得ることができる。」

6 原査定についての判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)ハードコートフィルム
引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、その作製手順からみて、「透明支持体」の上に「ハードコート層A-2」を有している。そうすると、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、本件発明1の「ハードコートフィルム」に相当するといえる。
また、引用発明の「透明支持体」及び「ハードコート層A-2」は、技術的にみて、それぞれ、本件発明1の「透明フィルム」及び「ハードコート層」に相当する。そして、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、本件発明1の「ハードコートフィルム」における、「透明フィルムと、該透明フィルム上に設けられたハードコート層と」、「を有する」とする要件を満たしている。

(イ)表面自由エネルギー
引用発明の「ハードコート層表面の表面自由エネルギー」は、「30mN/m」である。そうすると、引用発明は、本件発明1の「前記ハードコート層の表面自由エネルギーが30mN/m以上」とする要件を満たしている。

(ウ)混在領域
引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、「フィルムの断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で分析したときに、基材成分とハードコート層成分が共に検出される部分を混在領域」としたときの「ハードコート層全体の厚さに対する混在領域の厚さの割合が50%」である。そうすると、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、本件発明1の「ハードコートフィルム」における、「前記透明フィルムの成分と前記ハードコート層の成分が混在している混在領域を有し」とする要件を満たしている。
また、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」における「混在領域」は、その作製手順からみて、「透明支持体」の「基材成分」と「ハードコート層用塗布液A-2」の「ハードコート層成分」とが、低屈折率層用塗布液Aを塗布した後に互いに浸透して形成されるものといえる。そうすると、引用発明は、本件発明1の「混在領域」の、「前記混在領域の屈折率がハードコートフィルムの厚み方向に向かって連続的に変化」しているという要件を満たしているといえる。そして、本願の段落【0046】の「本発明のハードコートフィルム1は、混在領域31において屈折率が厚み方向に連続的に変化し且つ混在領域31中に界面を有しない構造であることが好ましい。この場合、干渉縞の発生をより確実に抑制できる。」との記載を参照すれば、引用発明も、「前記ハードコート層におけるハードコート層の成分からなる領域と前記混在領域との間に界面を有さず」とする要件を満たしているといえる。
さらに、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」における「屈折率変化傾斜a(μm^(-1))」について検討すると、以下のとおりである。
ハードコート層固有の屈折率n_(A):1.52
透明フィルム固有の屈折率n_(B):1.48
混在領域の厚みL:6μm=12μm×50/100
屈折率変化傾斜a:0.00667(μm^(-1))≒|1.52-1.48|/6μm
したがって、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、本件発明1の「式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm^(-1))が0.003≦a≦0.018」を満たしている。

(エ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「透明フィルムと、該透明フィルム上に設けられたハードコート層と、を有するハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層の表面自由エネルギーが30mN/m以上であり、
前記ハードコートフィルムが、前記透明フィルムの成分と前記ハードコート層の成分が混在している混在領域を有し、
前記ハードコートフィルムが、前記ハードコート層におけるハードコート層の成分からなる領域と前記混在領域との間に界面を有さず、
前記混在領域の屈折率がハードコートフィルムの厚み方向に向かって連続的に変化しており、
式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm^(-1))が0.003≦a≦0.018を満たす、ハードコートフィルム:
a=|n_(A)-n_(B)|/L・・・(1)
式(1)中、n_(A)は前記ハードコート層固有の屈折率、n_(B)は前記透明フィルム固有の屈折率、Lは前記混在領域の厚み(μm)を表す。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本件発明1は、ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合された前面板を有し、前記層間充填剤が活性エネルギー線硬化性樹脂であり、その表面自由エネルギーが45.2mN/m以下であるのに対し、引用発明は、ハードコート層の表面上に低屈折率層Aを有し、層間充填剤及び前面板を有さない点。

イ 判断
上記[相違点]について検討する。

(ア)引用文献1には、記載事項イに「本発明の光学フィルムは、透明基材上にハードコート層を有し、更に目的に応じて、必要な機能層を単独又は複数層設けてもよい。例えば、反射防止層(低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層など屈折率を調整した層)、防眩層などを設けることができる。」(段落【0167】)と記載されている。
上記記載に基づけば、引用文献1には、ハードコート層上に、必要な機能層を設けることが示唆されているといえる。しかしながら、必要とされる機能層については、反射防止層及び防眩層が例示されるにとどまり、ハードコート層の表面上に「層間充填剤」を介して貼合された「前面板」を設けることについては、記載も示唆もされていない。

(イ)引用文献1の記載事項アにおける「該光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板、及び該光学フィルム又は偏光板を有する画像表示装置を提供する」(段落【0016】)との記載に基づけば、引用発明の「反射防止フィルム試料No.2」は、偏光板や画像表示装置に用いられるところ、偏光板や画像表示装置において、透明フィルム上にハードコート層を設け、さらに、そのハードコート層の表面上に「層間充填剤」を介して貼合された「前面板」を設けることが知られていたかについて検討する。
引用文献3には、記載事項アに「ハードコート層が形成された透明基板の該ハードコート層の上にフィルムが積層されてなることを特徴とする前面板」(段落【0006】)が記載されているものの、当該前面板は、ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合されたものではなく、当該前面板自体がハードコート層を有するというものである。そして、引用文献3の記載事項イには、「なお、透明基板とハードコート層との密着性を向上させるために、透明基板とハードコート層の間に接着層が設けられていてもよい。」(段落【0016】)と記載されているものの、ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して前面板を貼合することは記載されていない。また、引用文献5の記載事項イには「本発明の前面板は、透明樹脂板に導電性メッシュを積層してなる前面板であって、該導電性メッシュの一部が前面板の面上の周辺部の少なくとも一辺において面状に露出しているプラズマディスプレイ用前面板である。」(段落【0014】)と記載されており、記載事項ウには「本発明のプラズマディスプレイ用前面板は、透明樹脂板に導電性メッシュを積層してなるものであるが、必要に応じて、反射防止層、汚染防止層、ハードコート層等が、適宜設けられる。かかる反射防止層、汚染防止層、ハードコート層は、本発明のプラズマディスプレイ用前面板において、任意の位置に設けることができる。」(段落【0049】)、「透明樹脂板等とハードコート層との密着性を向上させるために、透明樹脂板等とハードコート層の間に、前述の接着用フィルムを設けても差し支えない。」(段落【0057】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用文献5には、プラズマディスプレイ用の前面板が記載されているものの、当該前面板も、ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合されたものではなく、当該前面板自体がハードコート層を有するというものである。
そして、上記のいずれの文献にも、透明フィルム上にハードコート層を設け、さらに、そのハードコート層の表面上に「層間充填剤」を介して「前面板」を設けることについて、何ら記載されていない。また、他に、透明フィルム上にハードコート層を設け、さらに、そのハードコート層の表面上に「層間充填剤」を介して貼合された板状の部材を設けることを示唆した文献を見いだすことができない。
そうすると、本願の優先権主張の日前において、偏光板や画像表示装置において、透明フィルム上にハードコート層を設け、さらに、そのハードコート層の表面上に「層間充填剤」を介して貼合された「前面板」を設けることが、当業者に知られていたということはできない。

(ウ)そうすると、ハードコート層の表面上に「層間充填剤」を塗布することが知られていない以上、層間充填剤がハードコート層表面ではじかれてしまわないようにするという課題は見いだせず、当業者であっても、ハードコート層及び層間充填剤それぞれの表面自由エネルギーを、特定の範囲とする動機が存在するとはいえない。

(エ)また、引用文献1の記載事項アには「本発明の目的は、先行技術に対して、更に面状ムラの観点で優れるハードコート層形成用組成物を提供すること」、「本発明の別の目的は、透明基材とハードコート層との密着性、及びハードコート層と該ハードコート層上に設けられた他の層との密着性に優れる光学フィルムを提供することである。」(段落【0007】)、「本発明によれば、面状ムラの観点で優れるハードコート層形成用組成物を提供することができる。また、透明基材とハードコート層との密着性、及びハードコート層と該ハードコート層上に設けられた他の層との密着性に優れる光学フィルムを提供することができる。」(段落【0016】)との記載がある。上記記載に基づけば、引用発明は、ハードコート層上に設けられた他の層にあたる「低屈折率層A」について、「ハードコート層A-2」との密着性に優れる光学フィルムを提供することを、発明が解決しようとする課題としているといえる。そうすると、当業者であっても、引用発明において、ハードコート層上に直接設けられた「低屈折率層A」を、層間充填剤を介して貼合される「前面板」に置き換えることを考慮するとは考え難く、引用発明における「低屈折率層A」を、層間充填剤を介して貼合される「前面板」とする動機付けがあるとはいえない。

(オ)以上のとおりであるから、当業者であっても、引用発明において、本件発明1の上記[相違点]に係る構成とすることは、容易になし得たこととはいえない。

ウ むすび
したがって、本件発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、引用発明の代わりに、引用文献1の記載事項オの表3における、試料No.10又は試料No.13を、引用発明としても、同様である。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1と同じ、「ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合された前面板を有し」、「前記層間充填剤が活性エネルギー線硬化性樹脂であり、その表面自由エネルギーが45.2mN/m以下」であるとする構成を備えるものである。そうすると、本件発明2及び本件発明3も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1?3は、当業者が、引用発明に基づいて容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。したがって、原査定の拒絶理由を維持することはできない。


7 当審拒絶理由についての判断
当審拒絶理由は、本件補正によって解消された。


8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-07 
出願番号 特願2014-65457(P2014-65457)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
宮澤 浩
発明の名称 ハードコートフィルム、偏光板及び画像表示装置  
代理人 籾井 孝文  

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