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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1355698
審判番号 不服2018-12748  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-25 
確定日 2019-11-05 
事件の表示 特願2018-521134「負極用リード材および負極用リード材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月5日国際公開、WO2018/123865、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2017年(平成29年)12月22日(優先権主張 平成28年12月27日)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年7月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され(以下、同年7月2日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正1」という。)、同年7月12日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月25日付けで拒絶査定不服審判の請求とともに手続補正書が提出され(以下、同年9月25日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正2」という。)、同年11月5日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定及び前置報告の概要

1 原査定の概要

(1)本願の手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1、2、4?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献3、4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)本願の手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項3、7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献3?6に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献3:特開2004-63133号公報
引用文献4:特開2004-285371号公報
引用文献5:特開2013-143314号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2006-287148号公報(周知技術を示す文献)

2 前置報告の概要

手続補正2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含む。
しかし、本願の手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献3、4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、手続補正2は、同法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するものであり、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして、本願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

引用文献3:特開2004-63133号公報
引用文献4:特開2004-285371号公報

第3 手続補正2について

審判請求時の補正である手続補正2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むから、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、順に「本願発明1」?「本願発明7」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、同法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないところ、以下の「第5 当審の判断」で説示するとおり、本願発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

第4 本願発明

本願発明1?7は、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
負極に溶接されるNi層を有する負極用リード材であって、
CuまたはCu合金からなるCu層と、NiまたはNi合金からなる前記Ni層と、を備えるクラッド材から構成され、
前記Ni層は、前記Cu層の両面にそれぞれ接合され、
前記Ni層の前記Cu層に接合されない面は、3.2nm以上8.0nm以下の厚みの酸化被膜を有する、負極用リード材。
【請求項2】
前記クラッド材の曲げ応力は、500MPa以下である、請求項1に記載の負極用リード材。
【請求項3】
前記Cu層の前記Ni層が接合されない面は、前記Cu層の酸化を抑制する化成被膜を有する、請求項1に記載の負極用リード材。
【請求項4】
負極に溶接されるNi層を有する負極用リード材の製造方法であって、
CuまたはCu合金からなるCu板の両面に、NiまたはNi合金からなるNi板を配置した状態で、圧延接合を行うことによって、CuまたはCu合金からなるCu層の両面に、それぞれ、NiまたはNi合金からなる前記Ni層が接合されるクラッド材の構成とし、
構成した前記クラッド材に対して、非酸化雰囲気で焼鈍を行い、前記Ni層の前記Cu層に接合されない面に3.2nm以上8.0nm以下の厚みの酸化被膜を有する前記クラッド材を作製する、負極用リード材の製造方法。
【請求項5】
露点温度を-20℃以下に設定した焼鈍炉内において、非酸化雰囲気で焼鈍を行う、請求項4に記載の負極用リード材の製造方法。
【請求項6】
前記クラッド材を厚さ方向に切断し、切断した前記クラッド材に対して非酸化雰囲気で焼鈍を行う、請求項4に記載の負極用リード材の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍を行った後に、前記クラッド材の幅方向の両端面に、前記Cu層の酸化を抑制する化成被膜を形成する、請求項4に記載の負極用リード材の製造方法。」

第5 当審の判断

1 引用文献3の記載事項

(1)原査定で引用された引用文献3には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラミネートフィルム等から成る外装材で発電要素を封止した構造を有する薄型二次電池に・・・関する。」
「【0015】
本発明は・・・電池外部での短絡時においても、外部リード端子からの発熱による電池の発火や破裂を防止でき安全性を高めることが可能であるとともに、電池の落下衝撃時においても、外部リード端子の破断を防止でき信頼性を高めることが可能であり、かつ電池パック実装時における外部リード端子の折り曲げ加工で発生するスプリングバックを抑制でき、繰り返し曲げ加工を実施しても破断し難く、加工性が良好な薄型二次電池を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る薄型二次電池は、熱融着性フィルムを含む外装材と、この外装材に挿入される正極および負極と、これら正負極間に介在されたセパレータ或いは電解質層とからなる発電要素と、前記正極および負極のそれぞれに一端が電気的に接続され、他端が前記外装材の周辺部を通して外部に延出された外部リード端子とを具備し、上記外装材の周辺部を熱融着することで封口される薄型二次電池において、少なくとも負極用の外部リード端子が、純銅または銅合金から成る中間層と、この中間層の両面に一体に接合された純ニッケルまたはニッケル合金から成る外層との積層体で構成されていることを特徴とする。」
「【0019】
本発明に係る二次電池で使用する外部リード端子は、芯材となる中間層を高い電気伝導性を持つ銅または銅合金で形成する一方、この中間層の両面に配置される合せ材としての外層を耐食性に優れたニッケルまたはニッケル合金で形成した3層構造の積層体とした。従って、外部リード端子全体の化学的特性が良好で、大電流を通した場合でも電気抵抗による発熱が少なく、エネルギーロスも効果的に防止することができる。」
「【0035】
また上記薄型二次電池において、外部リード端子を構成する積層体を変態点温度以上に加熱した後に徐冷して完全焼鈍材とすることが好ましい。すなわち、リード端子材のように薄板や箔への圧延加工等により組成歪みを生じた結晶組織を、歪みのない組織に再結晶させるように加熱、保持、徐冷することにより得られる、残留応力が除去された軟質材とすることが好ましい。そして、三層構造に形成した積層体について上記焼きなまし処理等を実施することによって完全焼鈍材とすることにより、外部リード端子の金属組織を軟化させ割れにくく、内部応力が除去された軟質材とすることができる上に、被削性や冷間加工性を改善することが可能になる。
【0036】
さらに上記薄型二次電池において、上記外部リード端子を構成する積層体の引張り強度が350N/mm^(2)以下であることが好ましい。この外部リード端子を構成する積層体の引張り強度が350N/mm^(2)を超える場合には、外部リード端子の硬度が大きくなり、折り曲げ加工時に破断しやすく、組立て加工時の電池の製造歩留りが低下しやすくなる。」
「【0041】
(実施例1)
・・・」
「【0043】
<負極の作製>
活物質としてメソフェーズピッチ系炭素繊維を粉砕した後に熱処理した粉末と、結着材とを混合しペースト状活物質を調製した。次に・・・外形寸法が50.5mm×570mm×厚さ15μmの銅箔からなる負極集電体12b上に、片側のエッジ部分が55mmの未塗工部分12cと、他方の未塗工部(図示せず)とを残して両面に上記ペースト状活物質を塗布し、さらに乾燥,加圧プレスした。
【0044】
しかる後に、上記未塗工部分12cに厚さ0.1mm×幅4mm×長さ56mmの寸法を有する三層構造の積層体を負極外部リード端子15として溶接により取り付けた。この負極外部リード端子15は・・・外層としてのニッケル層15a,15cの間に中間層としての純銅層15bを配置した三層構造を有する。具体的には、この負極外部リード端子15としては、厚さ0.1mm×幅4mm×長さ60mmの寸法を有し、純ニッケル25:純銅50:純ニッケル25の構成比率(%)となるように、圧延ロールを使用したクラッド法により形成された完全焼鈍材(調質:O)を使用した。この負極外部リード端子15の引張り強度を測定したところ、300N/mm^(2)であり、平均体積比抵抗率を測定したところ、3.1×10^(-8)Ω・mであった。」
「【0065】
上記のよう(当審注:原文ママ)調製した各実施例および比較例に係る各ラミネート外装薄型リチウムイオン二次電池について、以下の項目について比較を行なった。
【0066】
<外部短絡時の発熱挙動比較>
・・・」
「【0068】
<端子折り曲げ加工時のスプリングバック量比較>
・・・」
「【0071】
<端子折り曲げ回数限界(破断耐力)比較>
・・・」
「【0073】
<落下耐力比較試験>
・・・
【0074】
上記各種の比較評価試験結果を下記表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
上記表2に示す結果から明らかなように・・・各実施例に係る薄型二次電池においては・・・短絡等で過大な電流が流れた場合においても、発熱、引火、発火の恐れが少なく、電池の安全性を高めることができる。
【0077】
また外部リード端子の加工性が優れ、曲げ加工によるスプリングバック量が小さいため、再加工による端子の破断が少なく、二次電池を安定した形状で量産することができる。
【0078】
さらに、外部リード端子の加工性が優れ、折り曲げ回数限界が大きいため、繰り返して曲げ加工を実施した場合においても、破断し難く、加工性が良好な薄型二次電池が得られる。
【0079】
また、外部リード端子の耐衝撃性が優れているため、落下試験を100サイクル以上実施しても、全試料において破断は発生せず、電池の落下衝撃時における外部リード端子の破断が効果的に防止されるため、電池の信頼性を高めることができる。」

(2)前記(1)の記載によれば、引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ア 引用文献3に記載された発明は、ラミネートフィルム等から成る外装材で発電要素を封止した構造を有する薄型二次電池に関するものであり(【0001】)、その目的は、電池外部での短絡時においても、外部リード端子からの発熱による電池の発火や破裂を防止でき安全性を高めることが可能であるとともに、電池の落下衝撃時においても、外部リード端子の破断を防止でき信頼性を高めることが可能であり、かつ電池パック実装時における外部リード端子の折り曲げ加工で発生するスプリングバックを抑制でき、繰り返し曲げ加工を実施しても破断し難く、加工性が良好な薄型二次電池を提供することである(【0015】)。

イ 前記アの目的を達成するため、引用文献3に記載された発明に係る薄型二次電池は、熱融着性フィルムを含む外装材と、この外装材に挿入される正極および負極と、これら正負極間に介在されたセパレータ或いは電解質層とからなる発電要素と、前記正極および負極のそれぞれに一端が電気的に接続され、他端が前記外装材の周辺部を通して外部に延出された外部リード端子とを具備し、上記外装材の周辺部を熱融着することで封口される薄型二次電池において、少なくとも負極用の外部リード端子が、純銅または銅合金から成る中間層と、この中間層の両面に一体に接合された純ニッケルまたはニッケル合金から成る外層との積層体で構成されていることを特徴とする(【0016】)。

ウ 引用文献3に記載された発明では、外部リード端子について、芯材となる中間層を高い電気伝導性を持つ銅または銅合金で形成する一方、この中間層の両面に配置される合せ材としての外層を耐食性に優れたニッケルまたはニッケル合金で形成した3層構造の積層体としたため、外部リード端子全体の化学的特性(耐食性)が良好で、大電流を通した場合でも電気抵抗による発熱が少なく、エネルギーロスも効果的に防止することができる(【0019】)。

エ また、外部リード端子を構成する三層構造の積層体を変態点温度以上に加熱した後に徐冷して、残留応力が除去された軟質材である完全焼鈍材とすることが好ましく、このようにすることで、外部リード端子が割れにくくなり、被削性や冷間加工性を改善することが可能になる(【0035】)。

オ さらに、外部リード端子を構成する三層構造の積層体の引張り強度を350N/mm^(2)以下にすることが好ましく、このようにすることで、外部リード端子の折り曲げ加工時の破断や組立て加工時の電池の製造歩留り低下を防止できる(【0036】)。

カ 実施例1においては、銅箔からなる負極集電体の未塗工部分を除く両面にペースト状活物質を塗布・乾燥・加圧プレスして負極を形成し、次いで、上記未塗工部分に三層構造の積層体である負極外部リード端子を溶接により取り付けた。
上記負極リード端子は、外層としてのニッケル層の間に中間層としての純銅層を配置した三層構造を有し、純ニッケル25:純銅50:純ニッケル25の構成比率(%)となるように圧延ロールを使用したクラッド法により形成された完全焼鈍材(調質:O)であって、引張り強度は、300N/mm^(2)であり、平均体積比抵抗率は、3.1×10^(-8)Ω・mであった(【0041】、【0043】、【0044】)。

キ そして、実施例1に係るラミネート外装薄型リチウムイオン二次電池について、外部短絡時の発熱挙動(【0066】)、端子折り曲げ加工時のスプリングバック量(【0068】)、端子折り曲げ回数限界(破断耐力)(【0071】)、及び落下耐力(【0073】)を評価したところ(【0074】、【0075】【表2】)、短絡等で過大な電流が流れた場合においても、発熱、引火、発火の恐れが少なく(【0076】)、外部リード端子曲げ加工によるスプリングバック量が小さく(【0077】)、外部リード端子の折り曲げ回数限界が大きく(【0078】)、落下試験を100サイクル以上実施しても外部リード端子に破断は発生しなかった(【0079】)。

(3)前記(2)によれば、引用文献3には、「実施例1」に基いて認定した以下の「引用発明3A」及び「引用発明3B」が記載されている。

(引用発明3A)
銅箔からなる負極集電体の未塗工部分を除く両面にペースト状活物質を塗布・乾燥・加圧プレスして形成された負極の上記未塗工部分に溶接により取り付けられた負極外部リード端子であって、
上記負極外部リード端子は、外層としてのニッケル層の間に中間層としての純銅層を配置した三層構造を有する完全焼鈍材(調質:O)であり、引張り強度は300N/mm^(2)であり、平均体積比抵抗率が3.1×10^(-8)Ω・mである、負極外部リード端子。

(引用発明3B)
引用発明3Aの負極外部リード端子を圧延ロールを使用したクラッド法により形成する方法。

2 引用文献4の記載事項

(1)原査定で引用された引用文献4には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は・・・ニッケル材料帯の製造方法に関するものである。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
・・・Liイオン二次電池のリードにニッケル材料が使用される場合、ニッケル材料帯はプレスによる打抜き加工や、曲げ加工が施されるが、Liイオン二次電池のリードに使用可能なニッケル材料帯の製造方法については、何ら検討がなされていないのが現状である。
本発明の目的は、Liイオン二次電池のリードにも適用可能なニッケル材料帯の製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
・・・本発明は、質量%で99%以上がニッケルからなるニッケル材料帯の製造方法であって、最後の冷間圧延後に非酸化性雰囲気中で焼鈍を行うか、或いは非酸化性雰囲気中で焼鈍を行った後に最後の冷間圧延を行って、前記ニッケル材料帯の硬さをHv80?190とするニッケル材料帯の製造方法である。」
「【0009】
なお、このニッケル材料帯の硬さをHv80?190の範囲から外れる場合、ハンドリングが困難(Hv80未満の場合)になったり、打抜き性や曲げ加工性が阻害される(Hv190を超える場合)ことになり、例えばリードの用途に不向きになる。そのため、本発明ではニッケル材料帯の硬さをHv80?190の範囲としている。
【0010】
・・・最終段階の工程で行う焼鈍を非酸化性雰囲気とした理由は、ここで適用する焼鈍は過度に酸化する雰囲気とした場合、材料表面に硬質な酸化被膜が厚く形成され、プレスによる打抜き性や曲げ加工性が阻害されるため、非酸化性雰囲気とする必要があるためである。・・・」

(2)前記(1)の記載によれば、引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア 引用文献4に記載された発明は、ニッケル材料帯の製造方法に関するものであり(【0001】)、その目的は、打抜き加工性や曲げ加工性が求められるLiイオン二次電池のリードにも適用可能なニッケル材料帯の製造方法を提供することである(【0004】)。

イ 引用文献4に記載された発明は、質量%で99%以上がニッケルからなるニッケル材料帯の製造に際して、最後の冷間圧延後に非酸化性雰囲気中で焼鈍を行うか、又は非酸化性雰囲気中で焼鈍を行った後に最後の冷間圧延を行うことにより、前記ニッケル材料帯の硬さをHv80?190とするニッケル材料帯の製造方法である(【0005】)。

ウ ニッケル材料帯の硬さをHv80?190とした理由は、Hv80未満の場合にはハンドリングが困難になり、Hv190を超える場合には打抜き性や曲げ加工性が阻害されるためであり(【0009】)、最終段階の工程で行う焼鈍を非酸化性雰囲気とした理由は、過度に酸化する焼鈍雰囲気とした場合、材料表面に硬質な酸化被膜が厚く形成され、プレスによる打抜き性や曲げ加工性が阻害されるためである(【0010】)。

3 引用文献5、6の記載事項

(1)原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献5には、以下の記載がある。

「【請求項1】
鋼シートの両面に銅被覆層を有し、それらの銅被覆層の表面上に防錆剤層を有する防錆金属シート・・・であるリチウムイオン二次電池の負極活物質担持用防錆金属シート。」
「【0029】
防錆剤層8は、冷間圧延後の銅系素材の表面に酸化皮膜が形成される現象を抑制する作用を有する防錆剤の皮膜である。従来から銅系素材の防錆に使用されている各種防錆剤が適用できる。・・・具体的にはベンゾトリアゾール(BTA)またはその化合物を配合するものが代表例として挙げられる。・・・」
「【0047】
〔防錆処理〕
・・・防錆処理の方法は一般的な帯状銅系素材の防錆処理と同様の手法が適用できる。すなわち、防錆剤を含有する処理液中に材料を浸漬したのち引き上げる方法、ロールやスプレーにより防錆剤を塗布する方法などがある。・・・」

(2)また、原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献6には、以下の記載がある。

「【0034】
・・・本実施形態では、基材2には例えばガラスエポキシ基板の両面に導電層としての銅はく3を貼り付けてなる銅張り積層板1を使用している・・・。」
「【0055】
次に・・・アルカリエッチング液により不要な銅はくを除去して所定のパターン5を形成する・・・。・・・
【0056】
最後に、仕上げ処理として、パターン5の側面の銅露出部分を防錆することを目的として、水溶性耐熱プリフラックス20により処理する・・・。この水溶性耐熱プリフラックス20はアルキルベンズイミダゾール誘導体を主成分とするもので、防錆成分が銅表面にのみ化学吸着するもので、金めっき部やソルダレジストには吸着および反応しない。」

(3)以上によれば、銅からなる層の露出部分に酸化皮膜が形成されることを抑制するために、上記露出部分に、ベンゾトリアゾール(BTA)やアルキルベンズイミダゾール誘導体等の防錆剤を塗布して防錆剤層を形成することは、本願の出願前における当業者の周知技術であったものと認められる。

4 対比・判断

(1)本願発明1について

ア 本願発明1と引用発明3Aの一致点・相違点

(ア)本願発明1と引用発明3Aとを対比すると、引用発明3Aの「負極」「に溶接により取り付けられた負極外部リード端子」と、本願発明1の「負極に溶接される」「負極用リード材」とは、「負極に溶接される負極用リード材」である点で一致する。

(イ)引用発明3Aの「外層としてのニッケル層の間に中間層としての純銅層を配置した三層構造を有する」「負極外部リード端子」と、
本願発明1の「CuまたはCu合金からなるCu層と、NiまたはNi合金からなる前記Ni層と、を備えるクラッド材から構成され、前記Ni層は、前記Cu層の両面にそれぞれ接合され」る「Ni層を有する負極用リード材」とは、
「CuまたはCu合金からなるCu層と、NiまたはNi合金からなる前記Ni層と、を備えるクラッド材から構成され、前記Ni層は、前記Cu層の両面にそれぞれ接合されるNi層を有する負極用リード材」である点で一致する。

(ウ)以上によれば、本願発明1と引用発明3Aの一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
負極に溶接されるNi層を有する負極用リード材であって、
CuまたはCu合金からなるCu層と、NiまたはNi合金からなる前記Ni層と、を備えるクラッド材から構成され、
前記Ni層は、前記Cu層の両面にそれぞれ接合される、負極用リード材である点。

(相違点1)
本願発明1では、「前記Ni層の前記Cu層に接合されない面は、3.2nm以上8.0nm以下の厚みの酸化被膜を有する」のに対して、
引用発明3Aでは、「外層としてのニッケル層」の表面に酸化皮膜を有しているか否かが不明であり、有しているとしても、その厚みが3.2nm以上8.0nm以下であるか否かが不明である点。

イ 相違点1についての判断

(ア)引用文献3には、圧延ロールを使用したクラッド法により負極外部リード端子を形成する際における焼鈍処理の雰囲気条件については、記載も示唆もされていない。

(イ)そこで、引用文献4の記載事項を参照すると(前記2(2))、引用文献4には、打抜き加工性や曲げ加工性が求められるLiイオン二次電池のリード用のニッケル材料帯を製造するために、最後の冷間圧延後に非酸化性雰囲気中で焼鈍を行うか、又は非酸化性雰囲気中で焼鈍を行った後に最後の冷間圧延を行うことにより、前記ニッケル材料帯の硬さをHv80?190とすることが記載されており、最終段階の工程で行う焼鈍を非酸化性雰囲気とした理由は、過度に酸化する焼鈍雰囲気とした場合、材料表面に硬質な酸化被膜が厚く形成され、プレスによる打抜き性や曲げ加工性が阻害されるためであることも記載されている。

(ウ)しかし、引用発明3Aの負極外部リード端子は、引張り強度が300N/mm^(2)である完全焼鈍材(調質:O)で形成されており、その加工性については、外部リード端子曲げ加工によるスプリングバック量が小さく、外部リード端子の折り曲げ回数限界が大きいことが確認されていることを踏まえれば(前記1(2)キ)、引用発明3Aでは「外層としてのニッケル層」の表面に酸化皮膜が形成されているか否かにかかわらず、必要とされる加工性は既に達成されているといえるから、引用文献4の記載は、引用発明3Aの負極外部リード端子を圧延ロールを使用したクラッド法により形成する際に、非酸化性の雰囲気中で焼鈍を行うことの動機付けとなるものではない。

(エ)仮に、引用文献4の記載が、引用発明3Aの負極外部リード端子を圧延ロールを使用したクラッド法により形成する際に、非酸化性の雰囲気中で焼鈍を行うことの動機付けになり得たとしても、その上で、引用発明3Aの負極外部リード端子の加工性をさらに改善するための指標として何を採用し、その指標をいかなる程度にまで改善するのかについて、引用文献4には何ら指針となる記載もないから、引用文献4に記載された加工性改善の観点から、引用発明3Aの「外層としてのニッケル層」の表面の酸化皮膜の厚みを3.2nm以上8.0nm以下の範囲にすることは、当業者であっても、容易になし得たことであるとはいえない。

(オ)したがって、引用発明3Aにおいて、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

(カ)以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本願発明2、3について

ア 本願発明2は、引用により本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願発明3は、引用により本願発明1の発明特定事項を全て備えており、また、引用文献5、6は、本願の出願前における当業者の周知技術を示すための文献(前記3(3))であって、相違点1についての判断を左右するものではないから、本願発明3は、本願発明1と同様の理由により、引用文献3?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本願発明4について

ア 本願発明4と引用発明3Bの一致点・相違点

(ア)本願発明1と引用発明3Aとの対比(前記(1)ア(ア)(イ))も踏まえて、本願発明4と引用発明3Bとを対比すると、
引用発明3Bの「引用発明3Aの負極外部リード端子を圧延ロールを使用したクラッド法により形成する」ことと、
本願発明4の「CuまたはCu合金からなるCu板の両面に、NiまたはNi合金からなるNi板を配置した状態で、圧延接合を行うことによって、CuまたはCu合金からなるCu層の両面に、それぞれ、NiまたはNi合金からなる前記Ni層が接合されるクラッド材の構成と」することとは、
「CuまたはCu合金からなるCu板の両面に、NiまたはNi合金からなるNi板を配置した状態で、圧延接合を行うことによって、CuまたはCu合金からなるCu層の両面に、それぞれ、NiまたはNi合金からなる前記Ni層が接合されるクラッド材の構成とする」点で一致する。

(イ)以上によれば、本願発明4と引用発明3Bの一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
負極に溶接されるNi層を有する負極用リード材の製造方法であって、
CuまたはCu合金からなるCu板の両面に、NiまたはNi合金からなるNi板を配置した状態で、圧延接合を行うことによって、CuまたはCu合金からなるCu層の両面に、それぞれ、NiまたはNi合金からなる前記Ni層が接合されるクラッド材の構成とする、負極用リード材の製造方法である点。

(相違点2)
本願発明4では、「構成した前記クラッド材に対して、非酸化雰囲気で焼鈍を行い、前記Ni層の前記Cu層に接合されない面に3.2nm以上8.0nm以下の厚みの酸化被膜を」作製しているのに対して、
引用発明3Bでは、負極外部リード端子を圧延ロールを使用したクラッド法により形成する際に、非酸化性の焼鈍を行っているか否かは不明であり、「外層としてのニッケル層」の表面に3.2nm以上8.0nm以下の厚みの酸化被膜が形成されているか否かも不明である点。

イ 相違点2についての判断

(ア)相違点2の内容は、相違点1の内容と実質的に同一であるから、相違点1について検討したとおりの理由により、引用発明3Bにおいて、相違点2に係る本願発明4の発明特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

(イ)したがって、本願発明4は、引用文献3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本願発明5?7について

ア 本願発明5、6は、引用により本願発明4の発明特定事項を全て備えているから、本願発明4と同様の理由により、引用文献3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願発明7は、引用により本願発明4の発明特定事項を全て備えており、また、引用文献5、6は、本願の出願前における当業者の周知技術を示すための文献(前記3(3))であって、相違点2についての判断を左右するものではないから、本願発明7は、本願発明4と同様の理由により、引用文献3?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-21 
出願番号 特願2018-521134(P2018-521134)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山内 達人  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 長谷山 健
亀ヶ谷 明久
発明の名称 負極用リード材および負極用リード材の製造方法  
代理人 宮園 博一  

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