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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K |
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管理番号 | 1355803 |
審判番号 | 不服2018-9797 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-18 |
確定日 | 2019-10-09 |
事件の表示 | 特願2015-550132「クロロメタンの共沸又は共沸様組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/102478、平成28年 3月24日国内公表、特表2016-509089〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年12月26日、仏国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。 平成29年 9月28日付け:拒絶理由通知書 平成30年 3月 5日 :意見書・手続補正書 平成30年 3月13日付け:拒絶査定 平成30年 7月18日 :審判請求書 第2 本願発明 本願の請求項1?15に係る発明は、平成30年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一若しくは複数種の化合物とを含み、 少なくともフッ化水素を含むこと、及び -40℃から70℃の沸点、及び1から15barの圧力を有すること を特徴とする、 共沸又は共沸様組成物。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由である、平成29年9月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由4は、概略、次のとおりのものである。 本願発明の課題は、多くの利用分野にて有用であるクロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一又は複数種の化合物とを含む共沸又は共沸様組成物を提供することにあると認められるところ、本願発明の詳細な説明において、実際に共沸性または共沸様の性質を示すことが実証されているのは、段落0033、表1で示されている特定の点に限られる。 ここで、特定成分の混合物がいかなる割合で混合されれば、共沸または共沸様の性質を示すかは、実際に製造して試験してみなければわからないというのが出願時の技術常識であるから、実際に製造して共沸または共沸様の性質を有することが確認されている上記表1に示されている以外の混合物については、共沸または共沸様の性質であるか否かは不明であり、ましてさらにフッ化水素を含む混合物においても共沸または共沸様の性質を示すか否かは不明である。 そうすると、実際に製造され性質が確認されている上記表1の組成から、本願発明全体にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。 第4 サポート要件についての当審の判断 1.サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が優先日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。 このような観点に立って、以下検討する。 2.特許請求の範囲の記載 本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2のとおりである。 3.発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明はクロロメタンを含む共沸又は共沸様組成物に関する。」 (2)「【0002】 ハロゲン化炭素系流体は、特に伝熱流体、噴射剤、発泡剤、膨張剤、ガス誘電体、モノマー又は重合媒体、支持流体、研磨剤、乾燥剤、及びエネルギー生成装置用流体として、様々な産業分野で多くの用途が見出されている。 【0003】 特に重視されているのが、環境に与える影響が少ない流体である。 【0004】 共沸又は共沸様流体を使用することの利点は、共沸又は共沸様流体が蒸発プロセス中に分別せず、(ほとんど)純物質として作用することである。しかし、共沸は予測され得ないため、これらの特性を満たす新規の流体を同定することは困難である。」 (3)「【発明の概要】 【0005】 従って、本発明は、クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一又は複数種の化合物とを含む共沸若しくは共沸様組成物に関する。」 (4)「【発明を実施するための形態】 【0009】 一実施態様によれば、本発明による組成物は、0.5-70モル%のクロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエタン、3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンから選択される99.5-30モル%の少なくとも一種の化合物、或いは55-95モル%のクロロメタンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロ-プロペンから選択される45-5モル%の少なくとも一種の化合物とを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0010】 好ましい一実施態様によれば、本発明による組成物は、好ましくは10-50モル%のクロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、好ましくは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される好ましくは50-90モル%の少なくとも一種の化合物とを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0011】 特に好ましい一実施態様によれば、本発明による組成物は、10-45モル%のクロロメタン、及び90-55モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0012】 一実施態様において、本発明による組成物は、0.5-50モル%のクロロメタン、及び95.5-50モル%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0013】 別の実施態様において、本発明による組成物は、35-65モル%のクロロメタン、及び65-35モル%の3,3,3-トリフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0014】 一実施態様によれば、本発明による組成物は、60-90モル%のクロロメタン、及び40-10モル%の1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0015】 別の実施態様によれば、本発明による組成物は、55-85モル%のクロロメタン、及び45-15モル%のE/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0016】 本発明で提示される一つの可能性によれば、本発明による組成物は、60-90モル%のクロロメタン、及び40-10モル%のE/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0017】 一実施態様において、本発明による組成物は、5-70モル%、好ましくは10-60モル%のクロロメタン、及び95-30モル%、好ましくは40-90モル%の1,1-ジフルオロエタンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0018】 別の実施態様において、本発明による組成物は、65-95モル%のクロロメタン、及び35-5モル%のE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0019】 本発明で提示される一つの可能性によれば、前記組成物は、フッ化水素を含んでもよい。 【0020】 本発明で提示される特に好ましい一つの可能性によれば、本発明による組成物は、20-45モル%のHF、5-20モル%のクロロメタン、及び35-70モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0021】 一実施態様によれば、本発明による組成物は、15-45モル%のHF、35-60モル%のクロロメタン、及び15-30モル%の1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0022】 別の実施態様によれば、本発明による組成物は、15-45モル%のHF、1-30モル%のクロロメタン、及び30-85モル%の1,1-ジフルオロエタンを含むか、好ましくはこれらから本質的になることを特徴とする。 【0023】 一実施態様によれば、本発明による組成物は、15-40モル%のHF、40-70モル%のクロロメタン、及び10-30モル%のE/Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。 【0024】 別の実施態様によれば、本発明による組成物は、1から15barの圧力で-40℃から70℃の沸点を有する。」 (5)「【0032】 下記では、以下の化合物を次のように表す: - クロロメタン: HCC-40、又はF40 - 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン: HFO-1234yf、又はF1234yf - 3,3,3-トリフルオロプロペン: HFO-1243zf、又はF1243zf - 1,1,1,2-テトラフルオロエタン: HFC-134a、又はF134a - 1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン: HFC-245cb、又はF245cb - E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン: HFO-1225zc、又はF1225zc - E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン: HFO-1225ye、又はF1225ye - 1,1-ジフルオロエタン: HFC-152a、又はF152a - E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン: HFO-1234ze-E、又はF1234ze-E 【0033】 様々な温度及び圧力での、本発明の典型的な共沸組成物を、非限定的に以下の表1に示す 」 4.本願発明の解決すべき課題について 発明の詳細な説明の段落0004において 「共沸又は共沸様流体を使用することの利点は、共沸又は共沸様流体が蒸発プロセス中に分別せず、(ほとんど)純物質として作用することである。しかし、共沸は予測され得ないため、これらの特性を満たす新規の流体を同定することは困難である。」 と記載され、また、同段落0005において 「従って、本発明は、クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一又は複数種の化合物とを含む共沸若しくは共沸様組成物に関する。」 と記載されていることから、本願発明の課題は、「クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一又は複数種の化合物とを含む共沸若しくは共沸様組成物を提供すること」(以下、「本願発明の課題」という。)にあると認められる。 5.サポート要件に適合するか否かの検討 本願の発明の詳細な説明には、上記3.(5)のとおり、具体物な共沸又は共沸様組成物として、表1に記載された共沸組成物、すなわち、クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一種の化合物とからなる、特定組成の2成分系共沸組成物が記載されている。しかしながら、フッ化水素を含む、3以上の成分系の共沸又は共沸様組成物の具体例は何ら記載されていない。 また、発明の詳細な説明には、「本発明で提示される特に好ましい一つの可能性によれば、本発明による組成物は、20-45モル%のHF、5-20モル%のクロロメタン、及び35-70モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる」等の記載があるものの(上記3.(4))、該組成ならば共沸又は共沸様組成物となることが具体的に把握できるような記載は存在しないし、「共沸は予測され得ないため、これらの特性を満たす新規の流体を同定することは困難である」(上記3.(2))、すなわち、組成物が実際に共沸又は共沸様組成物となるか否かは、実際に試験してみなければ分からないと説明されている。さらに、フッ化水素を含む組成物としてどのような組成物ならば共沸又は共沸様組成物となるかといった作用機序も記載されていない。 そして、「クロロメタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-プロペン、E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエタン及びE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される少なくとも一若しくは複数種の化合物とを含み、少なくともフッ化水素を含む」組成物が「共沸又は共沸様組成物」であるといえる、本願優先日当時の技術常識もない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明に接した当業者が、フッ化水素を含む3以上の成分系の組成物である本願発明が、本願発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきであるし、また、本願優先日当時の技術常識を参酌しても本願発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきである。よって、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するということはできない。 6.請求人の主張の検討 請求人は、平成30年3月5日に提出した意見書において 「旧請求項17に基づき、旧請求項1を補正しました。補正後の本願発明は発明の詳細な説明に実質的に記載されされたものです。したがって、補正後の本願発明は当該拒絶理由に該当しません。」 と主張し、平成30年7月18日に提出した審判請求書において 「平成29年9月28日付の拒絶理由通知書に対して提出した平成30年3月5日付けの手続補正書で、本願発明の共沸又は共沸様組成物の沸点及び圧力を具体的な数値範囲で限定しています。当業者であれば、本願発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであることを容易に理解できます。したがって、本願発明は当該拒絶理由に該当しません。」 と主張する。 しかし、共沸又は共沸様組成物の沸点及び圧力の範囲が特定されても、本願発明の組成物が発明の詳細な説明において具体的に裏付けられていないことに変わりはない。そうすると、上記5.に記載したように、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、本願発明が、本願発明の課題を解決できると認識することはできない。 よって、出願人の主張は採用できない。 7.まとめ 以上検討のとおり、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-05-07 |
結審通知日 | 2019-05-14 |
審決日 | 2019-05-27 |
出願番号 | 特願2015-550132(P2015-550132) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C09K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 恵理 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
牟田 博一 日比野 隆治 |
発明の名称 | クロロメタンの共沸又は共沸様組成物 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |