• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12N
管理番号 1355905
審判番号 不服2018-12916  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-28 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2015-545838「CRISPRに基づくゲノム修飾および制御」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/089290、平成28年 2月 1日国内公表、特表2016-502840、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年12月5日(パリ条約による優先権主張 2012年12月6日 米国、2013年1月30日 米国、2013年2月5日 米国、2013年3月15日 米国)を国際出願日とする特許出願(以下「本願」という。)であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 8月 9日付け:拒絶理由通知書
平成30年 1月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 5月21日付け:拒絶査定
平成30年 9月28日 :審判請求書の提出
平成30年11月14日 :審判請求書を対象とする手続補正書の提出


第2 原査定の概要
平成30年5月21日付け拒絶査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1?21に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1:Science Express, 03 Jan 2013, p.1-7及び
Supplementary materials(doi: 10.1126/science.1231143)
2:Genome Research, Jul 2012, Vol.22, p.1327-1333


第3 本願発明
1 本願発明
(1)本願発明1及び11について
本願請求項1?21に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明21」という。)は、平成30年1月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される発明であって、そのうちの本願発明1及び11は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを含む組成物であって、各々のRNA誘導型ニッカーゼシステムが、(i)1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である、および(ii)二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNA、を含み、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムの標的部位が二本鎖配列の対向する鎖にあり、各々の標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置し、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが共に、二本鎖配列の対向する鎖を独立に切断することにより、二本鎖の切断を導入できるものである、組成物。」

「【請求項11】
真核細胞において二本鎖配列を修飾するための方法(人間を手術、治療または診断する方法を除く)であって、該方法は、
a)真核細胞に、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムまたは該システムをコードする核酸、および任意にドナーポリヌクレオチド、ここで、各々のRNA誘導型ニッカーゼシステムが:
(i)1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である;および
(ii)二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNA、ここで、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムの標的部位が二本鎖配列の対向する鎖にあり、各々の標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置する;
を導入すること、および
b)2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが共に、二本鎖配列の対向する鎖を独立に切断することにより、二本鎖の切断を導入し、DNA修復過程による二本鎖の切断の修復が、二本鎖配列の修飾を導入するように、真核細胞を培養すること、
を含む方法。」

(2)本願発明2?10及び12?21の概略
本願発明2?4は本願発明1を単に減縮した発明であり、本願発明5?8は本願発明1の組成物をコードする複数の核酸に係るものであり、本願発明9及び10は本願発明5?8の複数の核酸を含むベクターに係るものである。また、本願発明12?21は本願発明11を単に減縮した発明である。

2 本願発明1?21の進歩性に関する審査の基準日について
前記1(1)に示したとおり、本願発明1及び11は、何れも「RNA誘導型ニッカーゼシステム」を「2つ」用いることを発明特定事項とするものである。
そして、前記第1のとおり、本願は、米国における2012年12月6日(以下「第1優先日」という。)、2013年1月30日(以下「第2優先日」という。)、2013年2月5日(以下「第3優先日」という。)及び2013年3月15日の出願に基づいて優先権主張をしている。
ここで、第3優先日の優先権主張出願(61/761,046)の出願書類には、「RNA誘導型ニッカーゼシステム」を「2つ」用いることについての記載があるものの、第1優先日及び第2優先日の優先権主張出願(61/734,256及び61/758,624)の出願書類には、当該事項についての記載がなく、かつ、第1優先日又は第2優先日当時の技術常識を考慮しても、当該事項が、明示がなくとも自明な事項であったとまではいえない。そうすると、「RNA誘導型ニッカーゼシステム」を「2つ」用いることについては、第3優先日の優先権主張出願の出願書類において初めて記載されたものといえるから、これを発明特定事項とする本願発明1及び11の進歩性についての審査の基準日は第3優先日である。
また、前記1(2)に示したとおり、本願発明2?10及び12?21も、本願発明1及び11と同様に「RNA誘導型ニッカーゼシステム」を「2つ」用いることを発明特定事項とするものであるから、本願発明2?10及び12?21の進歩性についての審査の基準日も第3優先日である。
なお、以下において特に断りなく「本願優先日」という場合は、第3優先日である2013年2月5日を意味することとする。


第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
原査定で引用された、本願優先日より前に頒布された刊行物である引用文献1は、「CRISPR/CAS系を用いた多重ゲノム工学」と題する学術論文であって、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。

(1-1)「原因となる遺伝的変異及び要素の機能解明には、正確なゲノム編集技術が必要である。原核生物由来のII型CRISPR(…)適応免疫システムは、RNAが誘導する部位特異的DNA切断を促進することが示されている。我々は、2つの異なるII型CRISPR系を設計し、短いRNAにより、Cas9ヌクレアーゼが、ヒト細胞及びマウス細胞の内在性ゲノム遺伝子座で、正確な切断が生じるよう誘導され得ることを実証した。また、Cas9は、最小限の変異原性で相同配列依存的修復を促進する、ニッキング酵素に変換され得る。最後に、哺乳動物ゲノム内の複数の部位を同時編集することを可能とするために、複数のガイド配列を単一のCRISPRアレイにコードすることができ、このことは、CRISPR技術が、容易にプログラム可能で広い用途を有することを示している。」(要旨)

(1-2)「化膿レンサ球菌SF370のII型CRISPR遺伝子座は、Cas9ヌクレアーゼ並びに2つの非コードCRISPR RNA;tracrRNA及び前駆crRNAアレイを含む4つの遺伝子からなっており、前駆crRNA体アレイには、同一のダイレクトリピート(DR)によって隔てられたヌクレアーゼガイド配列(スペーサー)が含まれている(図S1)(…)。…必須のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)であるNGGの前に位置する、ヒトEMX1遺伝子座の30塩基対(bp)の部位(プロトスペーサー)を標的とする初期スペーサーを設計した(図1C及び図S1)(…)。」(1頁左欄2段落?右欄1段落)

(1-3)「…野生型SpCas9は部位特異的DSBを媒介することができ、これはNHEJ又は相同配列依存的修復(HDR)のいずれかを介して修復され得る。我々は、ヌクレアーゼをDNAニッカーゼ(SpCas9n。図4A)に変換するために、SpCas9のRuvCIドメインにおいて、アスパラギン酸のアラニン置換(D10A)を実施した(…)。なぜなら、ニックの入ったゲノムDNAは、シームレスに、又は忠実度の高いHDRを介して、典型的に修復されるからである。…次に、プロトスペーサーの近くに一対の制限部位を導入するために、相同性修復テンプレートを使用して、同じEMX1遺伝子座におけるCas9を介したHDRを試験した(図4C)。SpCas9及びSpCas9nは、同様のレベルでEMX1遺伝子座への修復テンプレートの統合を触媒し(図4D)、これはサンガーシーケンシングによりさらに検証された(図4E)。これらの結果は、標的ゲノムにおける挿入を容易にすることに関して、CRISPRの有用性を示している。野生型SpCas9の14bp(シード配列から12bp及びPAMから2bp)の標的特異性(図3B)を考えると、ニッカーゼの使用によりオフターゲット変異が減少する可能性がある。」(2頁左欄3段落)

(1-4)「最後に、スペーサーが配列されたCRISPR遺伝子座の天然の構造(図S1)は、多重ゲノム工学の可能性を示唆している。EMX1を標的とするスペーサー、及びPVALBを標的とするスペーサーのペアをコードする単一のCRISPRアレイを用いて、我々は、両方の遺伝子座で効率的な切断を検出した(図4F)。さらに、119bp離れたEMX1内の2つの標的に対するスペーサーを用いて、DSBを同時に生成することにより、より大きなゲノム領域における標的の削除を試験したところ、1.6%の削除効率(182アンプリコンのうち3つ、図4G)を観察したので、CRISPR/Casシステムが単一ゲノム内で多重編集を仲介できることが実証された。」(2頁左欄4段落)

(1-5)「

図1 化膿レンサ球菌SF370のII型CRISPR遺伝子座を、標的DNAのDSBを促進するように、哺乳動物細胞で再構成することができる。…(C)標的遺伝子座とEMX1を標的とするcrRNA 間の塩基対の模式図。赤い矢印は、推定切断部位を示す。…」(図1)

(1-6)「

図2 SpCas9は、哺乳動物細胞の複数の遺伝子座を標的とするように再プログラム可能である。…(B)前駆crRNA/tracrRNA複合体の概略図(上)は、前駆crRNA及びtracrRNAのダイレクトリピート(灰色)領域間でのハイブリダイゼーションを示す。キメラRNAデザインの概略図(…)(下)。tracrRNAの配列は赤で、20bpのスペーサー配列は青で示される。…」(図2)

(1-7)「

図4 相同組換え及び多重ゲノムエンジニアリングへのCas9の応用。(A)RuvC Iドメインの変異は、Cas9をニッキング酵素(SpCas9n)に変換する。(B)EMX1を標的とするキメラRNAとSpCas9との共発現はインデルをもたらすものの、SpCas9nはそうではない(N=3)。(C)組換え戦略の概略図。修復テンプレートは、EMX1遺伝子座に制限部位を挿入するように設計されている。修飾領域の増幅に使用されるプライマーは、赤矢印で示される。(D)制限断片長多型ゲル分析。矢印は、HindIII消化によって生成された断片を示す。(E)組換えの成功を示すクロマトグラムの例。(F)SpCas9は、EMX1及びPVALBを標的とする2つのスペーサーを含む1つのcrRNAアレイを使用することにより、多重ゲノム修飾を促進できる。crRNAアレイのデザインを示す概略図(上)。両スペーサーは、効率的なプロトスペーサー切断を仲介する(下)。(G)SpCas9を使用して、正確なゲノム欠失を達成できる。EMX1を標的とする2つのスペーサー(上)は、118bpのゲノム欠失を媒介した(下)。」(図4)

(1-8)「(D)相同組換えを検出するための制限断片長多型分析
HEK293FT及びN2A細胞はプラスミドDNAでトランスフェクとされ、…インキュベートされた。標的ゲノム配列は、相同組換え(HR)テンプレートの相同アームの外側に位置するプライマーを用いてPCR増幅された。PCR産物は、1%アガロースゲルにより分離され、MinElute GelExtractionキットにより抽出された。精製産物は、HindIII(…)により消化され、…分析された。」(Supplementary materialsの4頁2段落)

2 引用文献2
原査定で引用された、本願優先日より前に頒布された刊行物である引用文献2は、「プログラム可能なDNAニッキング酵素による精密ゲノム工学」と題する学術論文であって、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから当審による訳文を記載する。

(2-1)「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)はゲノム工学の強力なツールであるものの、DNA二本鎖切断(DSB)を、エラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)修復、すなわち、オンターゲット部位及びオフターゲット部位の両方においてランダムに発生する、不必要な小さな挿入又は欠失(インデル)を引き起こす修復に依存せざるを得ないことによって制限を受けている。本論文では、DSBの代わりに、変異性のNHEJではなく、エラーのない相同組換え(HR)によって修復される一本鎖切断(SSB)又はニックを生成する、プログラム可能なDNAニック酵素(ニッカーゼ)を提示する。対応するヌクレアーゼとは異なり、ジンクフィンガーニッカーゼは、不必要なインデルの誘導をすることなく、オンターゲット部位でのみ部位特異的なゲノム修飾を可能にする。我々は、プログラム可能なニッカーゼが、研究、医学及びバイオテクノロジーにおいて、あらゆる細胞や生物での正確なゲノム工学を可能にする幅広い有用性があろうことを提案する。」(要旨)

(2-2)「ZFNとTALENは、DNAを切断し、ゲノムに部位特異的なDSBを生成する。DSB…は危険な信号であり、適切に修復しない限り、多くの場合、細胞死と癌につながる。細胞には、競合する2つのDSB修復システム:HR及びNHEJ(…)が装備されている。相同DNAの存在下では、DSBはHRによって修復され得る。HR機構は、テンプレートとして相同DNAを使用する、エラーのないDSB修復システムである。対照的に、DSBの2つの末端は、相同DNAを使用することなくNHEJによって効率的に連結され得る。HRとは異なり、NHEJはエラーが発生しやすく、多くの場合、末端接合部位で小さな挿入及び欠失(インデル)を引き起こす。ヌクレアーゼに誘導された部位特異的DSBの、HR又はNHEJによる修復は標的ゲノムの修飾を引き起こす。
基礎研究、バイオテクノロジー及び医学におけるこれらの酵素の広範な有用性にもかかわらず、プログラム可能なヌクレアーゼによるゲノム工学は、DSBが必然的に生じることと、エラーが発生しやすいNHEJへ依存していることにより、制限を受けている。その結果、プログラム可能なヌクレアーゼは、相同ドナーDNAの存在下であっても、ランダムに生成された不要なインデルを標的部位に誘発することがよくある。なぜなら、高等真核生物の細胞及び生物において、NHEJは、HRを越えた、DSB修復の主要な経路だからである(…)。より悪いことに、これらの酵素は、目的の標的部位と高度に相同な部位にオフターゲット変異を誘発し、オフターゲットDSBを生成する(…)。また、NHEJを介したオフターゲットDSBの修復は、望ましくない染色体再構成を引き起こす可能性がある(…)。さらに、オフターゲットDSBを過剰に誘導するヌクレアーゼは、細胞に対して毒性があり、遺伝子が編集された細胞の単離を、不可能ではないにしても、困難にする(…)。
原理的には、(1)目的の標的部位でのみDSBを誘発するか、(2)標的部位で、DSBを誘発しないものの、部位特異的変異は誘発する酵素を使用することにより、これらの制限を克服できるはずである。本論文では、部位特異的DNAニック酵素(ニッカーゼ)(これはZFNのFokIヌクレアーゼドメインを操作して構築されたものである)が、ゲノムにSSBを誘発することができ、そして、高度に正確なHRを介したその修復によって、標的ゲノムの修飾が引き起こされることを実証する。重要なのは、SSBはエラーが発生しやすいNHEJによって修復されず、それ故に、オンターゲット部位及びオフターゲット部位の何れにおいてもインデルが発生しないことである。このように、SSB誘導ジンクフィンガー(ZF)ニッカーゼは、オフターゲット効果が全く又はほとんどない、非常に特異的な変異原として機能し得るのである。」(1327頁左欄2段落?右欄2段落)

(2-3)「ジンクフィンガーニッカーゼによるゲノム編集
次に、これらのニッカーゼが、HRを介して、内在性の染色体部位で標的ゲノム修飾を誘導できるかどうかを試験した。ニッカーゼプラスミド及び相同染色体領域に存在しないXbaI部位を含む相同ドナーDNAで、ヒトK562細胞をトランスフェクトした(図3A)。この染色体領域のPCRアンプリコンはXbaIによって部分的に消化され、ニッカーゼによるゲノム編集効率が1%?3%であることを示した(図3B)。…
また、PCR産物のクローニングと配列決定により、ゲノム編集頻度を測定した。L_KK/R_ELヌクレアーゼは、ランダムに生成されたインデル(17クローン/合計52クローン、33%)及び相同性に基づくXbaI部位の取り込み(13/52、25%)の両方を誘導することがわかった(図3C;補足図1)。対照的に、L_KK/R_elニッカーゼはインデルを全く誘導しなかった(0/149クローン)ものの、9%(=13/149)の頻度でHRを介した修飾を誘導した。これらの結果は、ZFNよりも効率的ではないものの、ZFニッカーゼが哺乳動物細胞で真正なゲノム修飾を誘発し、また、ニッカーゼによるゲノム編集が不要なインデルを伴わないことを示しており、ニッカーゼのヌクレアーゼに対する重要な利点を立証するしている。」(1328頁右欄2?3段落)

(2-4)「2対のニッカーゼはDSBを生成する。
ニッカーゼがゲノム標的部位でSSBを誘導することを確認するために、ヒト培養細胞に2つのニッカーゼを導入した。2つのSSBが互いに近接して発生する場合、反対側の鎖に1つのSSBを生成する2つのニッカーゼは、DSBを誘発するであろう。この合成DSBは、NHEJによって効率的に修復されるであろう。このアイデアをテストするために、K562細胞に、2つのニッカーゼ:L_KK/R_el及びL_el/R_KKをコードするプラスミドをトランスフェクトした。…ミスマッチ感受性T7エンドヌクレアーゼI(T7E1)を使用して、エラーが発生しやすいNHEJによって誘導されたインデルを検出した(図4 …)。2つのニッカーゼをコードするプラスミドで同時トランスフェクトされた細胞からのPCRアンプリコンは、予想される位置で部分的に切断され、CCR5部位にインデルが存在することが示された。DNA配列分析により、スペーサー領域でのインデルの誘導が確認された(図4B)。…対照的に、各ニッカーゼ単独(L_KK/R_el及びL_el/R_KK)は変異を誘発しなかった(アッセイ感度は?1%)。…」(1328頁右欄最終段落?1329頁左欄1段落)

(2-5)「ニッカーゼ誘導SSBはインデルを生じさせない
また、ハイスループットDNAシーケンスを実行し、ZFニッカーゼが、オンターゲット部位及びオフターゲット部位において、NHEJを介したインデルを誘導しなかったことを確認した。ZFN-224又はL_KK/R_elニッカーゼをコードするプラスミドでトランスフェクトされたK562細胞から単離されたゲノムDNAを分析することにより、CCR5オンターゲット部位、及び最近の研究(…)で明らかにされたいくつかのオフターゲット部位でのインデルの頻度を測定した。予想通り、ZFN-224はこれらの部位で最大20%の頻度でインデルを誘導した(図5;補足表1)。対照的に、ニッカーゼを発現している細胞は、空ベクターのコントロールを含む細胞と比較して、CCR5サイトを含むこれらの部位で、インデル形成の証拠を何ら示さなかった。恐らく、ニッカーゼによって誘導されたSSBは、痕跡を残さない、内在性の塩基除去修復(BER)システムによって忠実に修復された(…)。まとめると、ZFニッカーゼは、ZFNとは異なり、DNA切断を修復するにあたって、エラーを起こしやすいNHEJを誘発しないことを、T7E1アッセイ及びディープシーケンス解析の何れもが示している。」(1329頁左欄2段落?右欄1段落)

(2-6)「プログラム可能なニッカーゼには、ヌクレアーゼよりも多くの利点がある。第一に、ニッカーゼによって生成されたオフターゲットSSBは、非常に正確な塩基除去修復によって効率的かつ忠実に封じられ、オフターゲット部位に痕跡は残らない。対照的に、ヌクレアーゼにより生成されたオフターゲットDSBは、エラーが発生しやすいNHEJによって修復され、望ましくないインデルが発生する。さらに、SSBは自然に発生し、DSBよりもはるかに頻繁にゲノムに存在し、細胞死や癌を引き起こすことが多いDSBよりもはるかに害が少ない。全てではないにしても多くのヌクレアーゼは細胞傷害性であり、遺伝子が編集された細胞のクローン集団の単離を困難にする。SSBを生成するニッカーゼは、細胞へのストレスが少ないと思われる。加えて、ヌクレアーゼは、相同ドナーDNAが存在する場合でも、標的部位に不要なインデルを誘導する。我々のディープシーケンス分析は、ニッカーゼが標的部位にインデルを誘導しないことを示している。…」(1330頁左欄2段落)

(2-7)「結論として、我々は、SSBを生成するプログラム可能なニッカーゼが標的ゲノムの修飾に使用できることを実証した。ZFニッカーゼは、対応するヌクレアーゼとは異なり、標的部位に不要なインデルを誘導することなく効率的なゲノム編集を可能にした。さらに、ニッカーゼを介したオフターゲット変異は、ハイスループットシーケンスでも検出できなかったため、ゲノム編集における前例のない精度が実証された。プログラム可能なニッカーゼは、任意の細胞または生物での標的変異誘発を可能にする、精密ゲノム工学のための新しいツールであることを提案する。」(1331頁左欄最終段落?右欄1段落)

(2-8)「

図4 2対のZFニッカーゼはゲノムにDSBを生成する。(A)T7E1アッセイで検出されたヌクレアーゼまたはニッカーゼにより誘導されたインデル。ニッカーゼ又はヌクレアーゼをコードするプラスミド(4μg/モノマー)でトランスフェクトされた細胞からのゲノムDNAを用いて増幅したPCR産物を、T7E1により消化し、アガロースゲル電気泳動で分析した。(矢印)結果として生じるDNAバンドの予想される位置。(ゲル写真の上の黒い三角形)トランスフェクトされたプラスミドの増加(4、8及び10μg/各モノマー)。(B)CCR5の野生型及び変異体クローンのDNA配列。2つのハーフサイトは太字で示される。マイクロホモロジーには下線が引かれ、挿入された塩基は斜体で示される。ダッシュは削除された塩基を示す。発生番号が括弧内に示されている。X1及びX5は各クローンの番号である。(WT)は野生型を意味する。」(図4)


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1a
ゲノム編集に関する学術論文である引用文献1の要約部分である摘記事項(1-1)には、Cas9が、最小限の変異原性で相同配列依存的修復(以下「HDR」という。)を促進する、ニッキング酵素に変換され得ることが記載されている。
そして、この点について、摘記事項(1-3)には、ヌクレアーゼSpCas9のRuvCIドメインにおけるアスパラギン酸のアラニン置換(D10A)により、ニッカーゼSpCas9nを調製したこと、及び相同性修復テンプレートを使用して、EMX1遺伝子座におけるCas9を介したHDRを試験したところ(図4C)、ニッカーゼSpCas9nは、EMX1遺伝子座への修復テンプレートの統合を触媒したこと(図4D)が記載されている。また、その具体的な実験データとして、摘記事項(1-7)には、図4Aに、キメラRNAと、ニッカーゼSpCas9nとを用いたことが記載されていると認められ、そして、図4Bの説明部分に、キメラRNAがEMX1を標的とするものであることが記載されており、また、図4Cに、HRテンプレートがEMX1遺伝子座にHindIIIの制限部位を挿入するように設計されていることが記載されていると認められ、さらに、図4D及びその説明部分に、ニッカーゼSpCas9nとHRテンプレートとの存在下、HDRが起きたことが、HindIII消化によって生成された断片を確認している制限断片長多型分析により示されたことが記載されていると認められる。また、摘記事項(1-8)には、上記制限断片長多型分析がHEK293FT細胞等を用いて行われたことが記載されている。さらに、摘記事項(1-8)に、HRテンプレートが相同組換えテンプレートを意味することが記載されていることからみて、引用文献1において、「相同性修復テンプレート」、「HRテンプレート」及び「相同組換えテンプレート」は同義であると認められる。
そうすると、引用文献1には、ニッカーゼSpCas9n、EMX1遺伝子座を標的とするキメラRNA、及びEMX1遺伝子座に制限部位を挿入するように設計された相同性修復テンプレートにより、HEK293FT細胞のEMX1遺伝子座において、HDRを起こしたことが記載されていると認められる。
加えて、摘記事項(1-2)には、EMX1遺伝子座の標的部位が、PAMであるNGGの前に位置する、EMX1遺伝子座の部位であることが記載されており、摘記事項(1-5)には、図1Cとして、EMX1遺伝子座の標的部位がPAMの直前に位置することが記載されていると認められる。
以上からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1a」という。)が記載されていると認められる。

「(i)ニッカーゼSpCas9n、(ii)EMX1遺伝子座のPAMの直前に位置する部位を標的とするキメラRNA、及び(iii)EMX1遺伝子座に制限部位を挿入するように設計されている相同性修復テンプレート、を含む組成物。」

(2)対比
引用発明1aの「キメラRNA」は、「EMX1遺伝子座のPAMの直前に位置する部位を標的とする」ものであって、前記(1)に示したとおり、相同性修復テンプレートの存在下、EMX1遺伝子座の標的部位に、ニッカーゼSpCas9nを介したHDRを起こすことができるものであり、その構造は、摘記事項(1-6)の図2B下からみて、5’末端から順に、標的部位に相補的な領域(青色)、ステムループ構造を形成する領域、及びtracrRNAに由来する領域(赤色)を含むものである。そして、このような構造を有するRNAに関する本願優先日当時の技術常識(要すれば、「Science, Aug 2012, Vol.337, p.816-821, Supplementary Materials」の「キメラRNA」、「Science, published online 3 Jan 2013, Vol.339, p.823-826」の「ガイドRNA」、「eLife, 29 Jan 2013, 2:e00471, DOI:10.7554/eLife.00471」の「sgRNA」に関する記載を参照。)も併せ考慮すれば、引用発明1aの「キメラRNA」は、本願発明1の「二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNA」であって、「標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置」するものに相当すると認められる。
また、引用発明1aの「ニッカーゼSpCas9n」は、前記(1)に示したとおり、ヌクレアーゼSpCas9のD10Aアミノ酸置換により調製されたものであるところ、摘記事項(1-2)からみて、ヌクレアーゼSpCas9は、II型CRISPR遺伝子座に由来するものであるから、ニッカーゼSpCas9nはII型に由来するものであるといえる。そうすると、引用発明1aの「ニッカーゼSpCas9n」は、本願発明1の「1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ」であって、「ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である」ものに相当すると認められる。
以上からみて、本願発明1と引用発明1aとの一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

【一致点】
「RNA誘導型ニッカーゼシステムを含む組成物であって、RNA誘導型ニッカーゼシステムが、(i)1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である、および(ii)二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNAであって、その標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置する、組成物。」

【相違点1a】
本願発明1は、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを含むこと、それらの標的部位が二本鎖配列の対向する鎖にあること、及びそれらのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが共に、二本鎖配列の対向する鎖を独立に切断することにより、二本鎖の切断を導入できるものであることが特定されているのに対し、引用発明1aは、1つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを含むにとどまり、二本鎖の切断を導入できるものではない点。

(3)判断
ア 引用文献1のその余の記載について
引用文献1の摘記事項(1-1)には、前記(1)に示した事項に加え、哺乳動物ゲノム内の複数の部位を同時編集することを可能とするために、複数のガイド配列を単一のCRISPRアレイにコードすることができることが記載されている。
この点について、摘記事項(1-4)には、EMX1を標的とするスペーサー、及びPVALBを標的とするスペーサーのペアをコードする単一のCRISPRアレイを用いて、両方の遺伝子座で切断を検出したこと(図4F)、及び119bp離れたEMX1内の2つの標的に対するスペーサーを用いて、DSBを同時に生成することにより、より大きなゲノム領域における標的の削除を観察したこと(図4G)が記載されている。そして、その具体的な実験データとして、摘記事項(1-7)には、図4F及びその説明部分に、EMX1及びPVALBを標的とする2つのスペーサーを含む1つのcrRNAアレイを使用することにより、ヌクレアーゼSpCas9が多重ゲノム修飾を促進したことが記載され、また、図4G及びその説明部分に、ヌクレアーゼSpCas9、EMX1を標的とする2つのスペーサーを用いて、118bpのゲノムの欠失を媒介したことが記載されていると認められる。そうすると、引用文献1には、2つのRNA誘導型ヌクレアーゼシステムを用いて、異なるあるいは同じ標的遺伝子座の2か所に同時に二本鎖切断(DSB)を生成させることが具体的に記載されているとはいえるものの、これはあくまでヌクレアーゼSpCas9を用いるものである。
一方、引用文献1には、RNA誘導ニッカーゼシステムは、HDRによりシームレスかつ高い忠実度で修復されるニック(一本鎖切断)を導入するものとして記載されているに過ぎず(摘記事項(1-3))、それを2つ用いることは記載されておらず、ましてや、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを用いて、二本鎖配列の対向する鎖に存在する標的部位を独立に切断することによりDSBを生成させることまでが記載あるいは示唆されているとはいえない。

イ 引用文献2の記載について
ゲノム編集に関する学術論文である引用文献2には、要約部分である摘記事項(2-1)及び導入部分である摘記事項(2-2)の記載からみて、ゲノム編集に用いるZFNやTALENが、ゲノムの標的部位及びオフターゲット部位においてDSBを生成し、当該DSBがNHEJによって修復されることにより不要な小さな挿入又は欠失(インデル)を引き起こすことの問題点が記載されているとともに、ZFNのFokIヌクレアーゼドメインを操作して構築した部位特異的DNAニック酵素(以下「ZFニッカーゼ」という。)を用いてゲノムに一本鎖切断(以下「SSB」という。)を生成することにより、この問題点を解決できることが記載されているといえる。そして、このZFニッカーゼ及びそれが生成するSSBに関し、より具体的には、摘記事項(2-2)に、SSBはNHEJによっては修復されず、それ故に、オンターゲット部位及びオフターゲット部位の何れにおいてもインデルが発生しないことが、また、摘記事項(2-3)に、ZFニッカーゼによってSSBを誘導することにより、不要なインデルを伴わずに、HRを介した標的ゲノム修飾を誘発し得ることが、さらに、摘記事項(2-5)に、ZFNとは異なり、ZFニッカーゼはDNA切断を修復するにあたってNHEJを誘発しないことが記載されている。また、このZFニッカーゼのZFNに対する他の利点として、摘記事項(2-6)には、ZFニッカーゼによって生成されたオフターゲットSSBは、非常に正確な塩基除去修復によって効率的かつ忠実に封じられること、及びSSBを生成するニッカーゼは、DSBを生成するヌクレアーゼよりも、細胞へのストレスが少ないと思われることが記載されている。さらに、引用文献2の結論部分に該当する摘記事項(2-7)には、ZFニッカーゼが、標的部位に不要なインデルを誘導することなく効率的なゲノム編集を可能にすること、ZFニッカーゼを介したオフターゲット変異はハイスループットシーケンスでも検出できず、ゲノム編集における前例のない精度が実証されたこと、及びプログラム可能なZFニッカーゼは精密ゲノム工学のための新しいツールであることが記載されている。
以上をまとめると、引用文献2には、ZFニッカーゼが、ZFNと同様に、ゲノムの標的部位及びオフターゲット部位においてDNAの切断を生成し得るものの、ZFNが生成するDSBとは異なり、SSBを生成するため、NHEJによる修復とそれによる不要なインデルが起こらないこと、及びZFニッカーゼによってSSBを生成することにより、HRを介した標的ゲノム修飾を誘発し得ること記載されているといえ、また、それらにより、ゲノム編集においてZFNやTALENを用いてDSBを生成させた際に生じる問題点を解決できることが記載されているといえる。
ここで、摘記事項(2-4)及び(2-8)からみて、引用文献2には、2対のZFニッカーゼにより、一方の鎖と他方の鎖に、近接して1つずつSSBを生成させることにより、DSBを生成させる実験が記載されている。しかし、この実験は、摘記事項(2-4)冒頭において、ZFニッカーゼがゲノム標的部位でSSBを誘導することを確認することを目的とすることが記載されており、また、摘記事項(2-4)及び(2-8)からみて、この実験における2対のZFニッカーゼにより生成したDSBはNHEJにより修復される、すなわち、摘記事項(2-1)及び(2-2)からみて、ここで生成されるDSBは引用文献2において不要なインデルが発生しやすいものとして問題視されているNHEJの修復経路により修復されることが記載されていることから、この実験は、2対のZFニッカーゼによりDSBを生成すること自体や、DSBを生成することでゲノム編集を行うことを目的とするものではなく、上記した摘記事項(2-4)冒頭の記載のとおり、ZFニッカーゼがゲノム標的部位でSSBを誘導することを確認することを目的とするものであるといえる。そうすると、摘記事項(2-4)及び(2-8)の記載を考慮しても、引用文献2に、ゲノム編集において、2対のZFニッカーゼによるDSBを生成させることが記載されてはいるとはいえない。
以上のとおりであるから、引用文献2には、ゲノム編集において、2対のZFニッカーゼを使用してDSBを生成させることまでが記載又は示唆されているとはいえない。

ウ 相違点1aについての判断
引用発明1aは、ゲノム編集に用いるためのRNA誘導型ニッカーゼシステムを含む組成物に係る発明であって、前記(1)に示したとおり、摘記事項(1-1)に、ニッキング酵素について、最小限の変異原性でHDRを促進するものであることが記載されていることからみて、引用発明1aは、ゲノム編集において、最小限の変異原性でHDRを促進するための組成物であるといえる。
そして、前記アで検討したとおり、引用文献1には、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを用いて、二本鎖配列の対向する鎖に存在する標的部位を独立に切断することによりDSBを生成させることは記載も示唆もされていない。また、引用文献2には、前記イで検討したとおり、ゲノム編集において、ZFニッカーゼを使用してDSBを生成させることは記載も示唆もされておらず、むしろ、ZFニッカーゼを使用して、DSBではなくSSBを生成することにより、NHEJによる修復とそれによる不要なインデルを回避することができるとともに、SSBを生成することによりHRを介したゲノム編集を行うことができることが記載されているといえる。
そうすると、引用文献2の記載に接した当業者が、ゲノム編集において最小限の変異原性でHDRを促進するための組成物である引用発明1aを、NHEJによる修復とそれによる不要なインデルが起こり得るDSBを形成することに用いるよう動機付けられることはないといえる。
したがって、本願発明1と引用発明1aとの相違点1aは、引用発明1aに、引用文献2に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)小括
以上からみて、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1a並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2?10について
本願発明2?4は本願発明1を単に減縮した発明であって、いずれも本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同一の理由により、当業者であっても、引用発明1a並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
本願発明5?8は本願発明1の組成物をコードする複数の核酸に係るものであって、また、本願発明9及び10は本願発明5?8の複数の核酸を含むベクターに係るものであって、いずれも本願発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1a並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明11について
(1)引用発明1b
引用文献1に前記1(1)に示したとおりの事項が記載されていることから、引用文献1には、以下の発明(以下「引用文献1b」という。)が記載されていると認められる。

「a)HEK293FT細胞に、
(i)ニッカーゼSpCas9n、(ii)EMX1遺伝子座のPAMの直前に位置する部位を標的とするキメラRNA、及び(iii)EMX1遺伝子座に制限部位を挿入するように設計されている相同性修復テンプレート
を導入し、
b)HEK293FT細胞のEMX1遺伝子座において、相同配列依存的修復(HDR)を起こす方法。」

(2)対比
前記1(2)で検討したとおり、引用発明1bのキメラRNAは、本願発明11の「二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNA」であって、「標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置」するものに相当すると認められ、また、引用発明1bの「ニッカーゼSpCas9n」は、本願発明11の「1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ」であって、「ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である」ものに相当すると認められる。
そして、引用発明1bの「HEK293FT細胞」は、本願発明11の「真核細胞」に相当し、また、引用発明1bの「HEK293FT細胞のEMX1遺伝子座において、相同配列依存的修復(HDR)を起こす」ことは、引用発明1bにおいて、ニッカーゼSpCas9nが、標的部位であるEMX1遺伝子座における標的部位にニックを生成することにより、相同配列依存的修復(HDR)が起こることであるから、本願発明11の「真核細胞において二本鎖配列を修飾する」ことに相当するとともに、本願発明11の「RNA誘導型ニッカーゼシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが、二本鎖配列の鎖を切断することにより、鎖の切断を導入し、DNA修復過程による鎖の切断の修復が、二本鎖配列の修飾を導入するように、真核細胞を培養すること」に相当すると認められる。
また、引用文献1bが、人間を手術、治療又は診断する方法でないことは明らかである。
以上からみて、本願発明11と引用発明1bとの一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

【一致点】
「真核細胞において二本鎖配列を修飾するための方法(人間を手術、治療または診断する方法を除く)であって、該方法は、
a)真核細胞に、RNA誘導型ニッカーゼシステムまたは該システムをコードする核酸、および任意にドナーポリヌクレオチド、ここで、RNA誘導型ニッカーゼシステムが:
(i)1つの機能的ヌクレアーゼドメインを有し、二本鎖配列の一本鎖を切断するように修飾されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、ここで、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、II型のクラスタ化調節的散在型短パリンドローム反復配列(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)システムタンパク質に由来し、II型CRISPR/CasシステムがCas9タンパク質である;および
(ii)二本鎖配列の一本鎖中の標的部位と相補性を有する第一の領域およびRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用する第二の領域を含むガイドRNAであって、その標的部位がプロトスペーサー近接モチーフ(PAM)の直前に位置する;
を導入すること、並びに
b)RNA誘導型ニッカーゼシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが、二本鎖配列の鎖を切断することにより、鎖の切断を導入し、DNA修復過程による鎖の切断の修復が、二本鎖配列の修飾を導入するように、真核細胞を培養すること、
を含む方法。」

【相違点1b】
本願発明11は、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを導入すること、それらの標的部位が二本鎖配列の対向する鎖にあること、及びそれらのRNA誘導型エンドヌクレアーゼが共に、二本鎖配列の対向する鎖を独立に切断することにより、二本鎖の切断を導入することが特定されているのに対し、引用発明1bは、1つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを導入するにとどまり、二本鎖の切断を導入するものではない点。

(3)判断
引用発明1bは、RNA誘導型ニッカーゼシステムを用いたゲノム編集の方法に係る発明であって、前記1(1)に示したとおり、摘記事項(1-1)に、ニッキング酵素について、最小限の変異原性でHDRを促進するものであることが記載されていることからみて、引用発明1bは、ゲノム編集において、最小限の変異原性でHDRを促進するための方法であるといえる。
ここで、前記1(3)アで検討したとおり、引用文献1には、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステムを用いて、二本鎖配列の対向する鎖に存在する標的部位を独立に切断することによりDSBを生成させることは記載も示唆もされていない。
また、前記1(3)イで検討したとおり、引用文献2には、ゲノム編集において、ZFニッカーゼを使用してDSBを生成させることは記載も示唆もされておらず、むしろ、ZFニッカーゼを使用して、DSBではなくSSBを生成することにより、NHEJによる修復とそれによる不要なインデルを回避することができるとともに、SSBを生成することによりHRを介したゲノム編集を行うことができることが記載されているといえる。
そうすると、引用文献2の記載に接した当業者が、ゲノム編集において最小限の変異原性でHDRを促進するための方法である引用発明1bを、NHEJによる修復とそれによる不要なインデルが起こり得るDSBを形成することに用いるよう動機付けられることはないといえる。
したがって、本願発明11と引用発明1bとの相違点1bは、引用発明1bに、引用文献2に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)小括
以上からみて、本願発明11は、当業者であっても、引用発明1b並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明12?21について
本願発明12?21は本願発明11を単に減縮した発明であって、いずれも本願発明11と同一の構成を備えるものであるから、本願発明11と同一の理由により、当業者であっても、引用発明1b並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?21は、当業者が、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-15 
出願番号 特願2015-545838(P2015-545838)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安居 拓哉藤井 美穂  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 小暮 道明
田村 聖子
発明の名称 CRISPRに基づくゲノム修飾および制御  
代理人 冨田 憲史  
代理人 稲井 史生  
代理人 山尾 憲人  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ