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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特174条1項  B65D
管理番号 1355928
異議申立番号 異議2018-700520  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-27 
確定日 2019-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6255212号発明「缶体の製造方法、印刷装置、および、飲料用缶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6255212号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]、[5-7]、8、[9-11]、12、13について訂正することを認める。 特許第6255212号の請求項1、2、4?13に係る特許を維持する。 特許第6255212号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6255212号の請求項1?13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月25日に特許出願され、平成29年12月8日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成29年12月27日)がされた。
その後、請求項1?13に係る特許について、平成30年6月27日に特許異議申立人山▲崎▲浩一郎(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、平成30年10月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年12月10日に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成30年12月18日付けで申立人に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である平成31年1月16日に申立人より意見書が提出され、平成31年3月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和1年5月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、令和1年6月7日付けで申立人に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である令和1年7月9日に申立人より意見書が提出されたものである。
なお、平成30年12月10日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正の適否についての判断
(1)請求項1?4に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項1?4に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に「前記金属の地を覆う層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、画像を形成し、
前記金属の地を覆う層は、前記缶体の前記外周面の一部に形成され、
前記金属の地を覆う層が形成される部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない部分とが、前記缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成されることを特徴とする缶体の製造方法」とあるのを、
「前記金属の地を覆う層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記金属の地を覆う層は、前記缶体の前記外周面の一部に形成され、
前記金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、前記缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする缶体の製造方法」に訂正する。
(イ)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求による請求項1?4に係る訂正は、当該一群の請求項1?4に対し請求されたものである。

(イ)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1において、「画像」について、a)「インクジェット印刷方式を用いて」形成されるものであること、及び、b)「缶体の周方向において互いに隣り合うように」「形成される」とされていた「金属の地を覆う層」の「部分」と「当該金属の地を覆う層が形成されない部分」とを、各々、「層形成部分」、「非形成部分」と称した上で、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする」ものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1-1に関し、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】に「また、第2白色用ヘッド252の下流側には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する4つのカラー用インクジェットヘッド(以下、「カラー用ヘッド」と称する)242Y,242M,242C,242Kが設けられている。ここで、画像形成手段として機能するこの4つのカラー用ヘッド242Y,242M,242C,242Kは、紫外線硬化型のインクを用いて缶体10への画像形成を行う。」と記載され、段落【0044】には「本実施形態の印刷装置200では、6種類の層構成(階調)を得ることができる。具体的には、次の(1)?(6)の層構成を得ることができる。
層構成(1):アルミ地のみ(金属地のみ)
層構成(2):アルミ地 + カラーインク層91
層構成(3):アルミ地 + 一層の白色層90
層構成(4):アルミ地 + 二層の白色層90
層構成(5):アルミ地 + 一層の白色層90 + カラーインク層91
層構成(6):アルミ地 + 二層の白色層90 + カラーインク層91」と記載され、段落【0046】に「層構成(1)(符号2Aで示す部分)では、缶体10の地金が見えている状態となり、層構成(1)の部分では、その外観が、金属光沢を有する状態(メタリック調)となる。付言すると、銀色且つ光沢を有する状態となる。また、層構成(2)(符号2Bで示す部分)では、缶体10の地金が着色された状態となり、層構成(2)の部分は、色を有し、さらに、金属光沢を有する状態(有色メタリック調)となっている。」と記載されていることを踏まえると、訂正事項1-1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項1-1による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項1及び同請求項1を引用する請求項2?4に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項1-2について
訂正事項1-2による訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)請求項5?7に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項5?7に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「前記層形成手段による層の形成後、前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記金属の地を覆う層を、前記缶体の前記外周面の一部に形成するとともに、当該金属の地を覆う層が形成される部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない部分とが、当該缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層を形成する印刷装置」とあるのを、
「前記層形成手段による層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式による前記画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記金属の地を覆う層を、前記缶体の前記外周面の一部に形成するとともに、当該金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、当該缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記画像形成手段は、前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする印刷装置」に訂正する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
訂正前の請求項5及び請求項5を引用する請求項6、7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求による、請求項5?7に係る訂正は当該一群の請求項5?7に対し請求されたものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項5において、a)「画像」が、「インクジェット印刷方式を用いて」形成されるものであること、及び、b)「缶体の周方向において互いに隣り合うように」「形成される」とされていた「金属の地を覆う層」の「部分」と「当該金属の地を覆う層が形成されない部分」とを、各々、「層形成部分」、「非形成部分」と称した上で、「画像形成手段」が、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする」ものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】、【0044】及び【0046】の記載を踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項2による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項5及び同請求項5を引用する請求項6及び7に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)請求項8に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項8に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「前記缶本体部の外周面に形成された画像層と、
を有し、
前記金属の地を覆う層が形成されている部分と、当該金属の地を覆う層が形成されていない部分とが、前記缶本体部の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成されていることを特徴とする飲料用缶」とあるのを、
「前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記金属の地を覆う層が形成されている層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されていない非形成部分とが、前記缶本体部の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成され、当該非形成部分が有色のメタリック調となっている飲料用缶」に訂正する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
本件は、特許異議の申立てが請求項ごとになされたものであるところ、本件訂正請求による、請求項8に係る訂正は、請求項ごとになされたものであるから、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。

(イ)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項8において、a)「画像層」が、「インクジェット画像層」であること、及び、b)「缶本体部の周方向において互いに隣り合うように」「形成される」とされていた「金属の地を覆う層」の「部分」と「当該金属の地を覆う層が形成されない部分」とを、各々、「層形成部分」、「非形成部分」と称した上で、前記「画像層」が、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に」「形成され当該非形成部分が有色のメタリック調となっている」ものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】、【0044】及び【0046】の記載を踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項3による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項8に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)請求項9?11に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項9?11に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に「前記覆い層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、画像を形成し、
前記覆い層として、第1の覆い層と、当該第1の覆い層とは層厚が異なる第2の覆い層とを少なくとも形成する缶体の製造方法」とあるのを、
「前記覆い層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成する缶体の製造方法」に訂正する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
訂正前の請求項9及び請求項9を引用する請求項10、11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求による、請求項9?11に係る訂正は当該一群の請求項9?11に対し請求されたものである。

(イ)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項9において、a)「画像」が、「インクジェット印刷方式を用いて」形成されるものであること、b)「第1の覆い層」が「金属の地に起因する光沢感を減じる」ものであり、「第2の覆い層」が「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものであること、及び、c)前記「画像」が、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」形成されるものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】、【0044】の記載、及び【0047】の「また、層構成(3)(符号2Cで示す部分)では、缶体10の地金が白色の層によって覆われた状態となり、この白色の層によって、缶体10の地金に起因する光沢感が減じられている。また、層構成(4)(符号2Dで示す部分)では、層構成(3)よりも、白色層90の厚みが大きくなっており、層構成(3)の部分よりも、光沢感がさらに減じられている。ここで、このように白色層90の厚みが異なる二つの層構成を設ける場合、同じ白色であるが濃淡に互いに異なる二つの領域を形成できるようになる。」との記載を踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項4による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項9及び同請求項9を引用する請求項10、11に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)請求項12に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項12に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12に「前記層形成手段による覆い層の形成後、前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記覆い層として、層厚が互いに異なる第1の覆い層と第2の覆い層とを少なくとも形成する印刷装置」とあるのを、
「前記層形成手段による覆い層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
前記画像形成手段は、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する印刷装置」に訂正する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
本件は、特許異議の申立てが請求項ごとになされたものであるところ、本件訂正請求による、請求項12に係る訂正は、請求項ごとになされたものであるから、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。

(イ)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項12において、a)「画像」が、「インクジェット印刷方式を用いて」形成されるものであること、b)「第1の覆い層」が「金属の地に起因する光沢感を減じる」ものであり、「第2の覆い層」が「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものであること、及び、c)「画像形成手段」が、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」、前記「インクジェット方式を用いて画像を形成」するものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】、【0044】及び【0047】の記載を踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項5による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項12に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(6)請求項13に係る訂正について
ア.訂正の内容
本件訂正請求による、請求項13に係る訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(ア)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13に「前記缶本体部の外周面に形成された画像層と、
を有し、
前記覆い層として、層厚が互いに異なる第1の覆い層と第2の覆い層とが少なくとも形成されている」とあるのを、
「前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とが少なくとも形成され、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成されている」に訂正する。

イ.訂正請求の単位、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正請求の単位
本件は、特許異議の申立てが請求項ごとになされたものであるところ、本件訂正請求による、請求項13に係る訂正は、請求項ごとになされたものであるから、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。

(イ)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項13において、a)「画像層」が、「インクジェット画像層」であること、b)「第1の覆い層」が「金属の地に起因する光沢感を減じる」ものであり、「第2の覆い層」が「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものであること、及び、c)前記「画像」が、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」形成されるものであること、を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0021】、【0044】及び【0047】の記載を踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項6による訂正は、上記したとおり、訂正前の請求項13に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第3項、4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-4]、[5-7]、8、[9-11]、12、13について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1?13に係る発明(以下、「本件発明1?13」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記金属の地を覆う層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記金属の地を覆う層は、前記缶体の前記外周面の一部に形成され、
前記金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、前記缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする缶体の製造方法。
【請求項2】
前記金属の地を覆う層の形成は、複数のインク吐出口を有し、インクを吐出するか否かの制御を当該インク吐出口毎に行うことが可能なインクジェットヘッドによって行われることを特徴とする請求項1に記載の缶体の製造方法。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
前記金属の地を覆う層が形成された後、当該金属の地を覆う層の上に、当該金属の地を覆う層と同じ色のインクをさらに付着させ、
前記インクの前記付着は、前記金属の地を覆う層の少なくとも表面が硬化した後に行われることを特徴とする請求項1に記載の缶体の製造方法。
【請求項5】
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記金属の地を覆う層を、前記缶体の前記外周面の一部に形成するとともに、当該金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、当該缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記画像形成手段は、前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする印刷装置。
【請求項6】
前記層形成手段は、紫外線硬化型のインクを用いて前記金属の地を覆う層を形成することを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記金属の地を覆う層はインクジェットヘッドにより形成されるとともに、当該金属の地を覆う層を形成する当該インクジェットヘッドは、複数設けられていることを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項8】
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面の一部に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記金属の地を覆う層が形成されている層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されていない非形成部分とが、前記缶本体部の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成され、当該非形成部分が有色のメタリック調となっている飲料用缶。
【請求項9】
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う覆い層を形成し、
前記覆い層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成する缶体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の覆い層および前記第2の覆い層は、同色であることを特徴とする請求項9に記載の缶体の製造方法。
【請求項11】
前記缶体の周方向における前記第1の覆い層の位置と、当該周方向における前記第2の覆い層の位置とが互いに異なるように、当該第1の覆い層および当該第2の覆い層を形成する請求項9に記載の缶体の製造方法。
【請求項12】
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う覆い層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による覆い層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
前記画像形成手段は、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する印刷装置。
【請求項13】
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う覆い層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とが少なくとも形成され、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成されている飲料用缶。

(2)取消理由の概要
取消理由通知書(決定の予告)に記載した本件発明1、2、4?13に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。
《理由》
本件発明1、2、4?13は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

《刊行物一覧》
甲1.特開2012-86870号公報
甲3.特開2003-19792号公報
甲5.特開2012-232771号公報

(3)判断
ア.甲1、3及び5の記載事項
(ア)甲1記載事項
a.「【請求項1】
シームレス缶外面の少なくとも胴部に、少なくとも印刷層及び仕上げニス層が形成されてなる印刷シームレス缶において、
前記印刷層が、版式印刷による画像及びインクジェット印刷による画像から成り且つ仕上げニス層によって被覆されていることを特徴とする印刷シームレス缶。
・・・
【請求項7】
シームレス缶外面の少なくとも胴部に、版式印刷及びインクジェット印刷を行うことにより印刷層を形成し、次いで仕上げニスを施すことにより印刷層上に仕上げニス層を形成することを特徴とする印刷シームレス缶の製造方法。
【請求項8】
前記インクジェット印刷による画像の硬化が、インクジェットによる各色のインクの供給毎の仮硬化と共に、全色供給後の本硬化によって行われる請求項7記載の印刷シームレス缶の製造方法。
【請求項9】
前記仮硬化が、各色のインクの供給と同時、或いは各色のインクの供給の直後且つ次の色のインクの供給の前にそれぞれ行われる請求項8記載の印刷シームレス缶の製造方法。」

b.「【技術分野】
【0001】
本発明は印刷シームレス缶及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、版式印刷及びインクジェット印刷による印刷画像を有するシームレス缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミやスチール等の金属からなるシームレス缶は、耐衝撃性が高く、しかも酸素等のガスを透過しないことから、プラスチック容器に比して内容物の保存性が格段に優れており、更に、ガラス瓶に比して軽量である等の利点を有しており、炭酸飲料、アルコール性飲料、その他の飲料や各種食品用の容器として広く使用されている。

c.「【0014】
図1及び図2は、独立した版式印刷装置(A)及びインクジェット印刷装置(B)を用いて行う印刷方法を説明する図であり、図1においては、版式印刷装置(A)で版式印刷を行った後、版式印刷の画像を有するシームレス缶はインクジェット印刷装置(B)に搬送されて、インクジェット印刷及び仕上げニス塗装が行われる。また、図2においては、インクジェット印刷を行った後、版式印刷及び仕上げニス塗装が行われる。
また図3及び図4は、版式印刷及びインクジェット印刷が同一装置内で行われるハイブリッド装置による印刷方法を説明する図であり、図3においては、マンドレルに装着されたシームレス缶はまず版式印刷に付され、次いでインクジェット印刷及び仕上げニス塗装に付される。また図4においては、マンドレルに装着されたシームレス缶はまずインクジェット印刷に付され、次いで版式印刷及び仕上げニス塗装に付される。
尚、図1乃至4の何れの場合においても、図中に記載されている通り、後述する仮焼付けや位置決めが採用されている。」

d.「【0018】
インクジェット印刷においては、版式印刷による画像及び仕上げニスの加熱硬化と同時に行われる本硬化を行う前に、仮焼付けによりインクを仮硬化させておくことが好ましく、これにより、シームレス缶のようなインクの吸収のない被印刷物であっても、インクが広がって滲んだりすることがなく、シャープな画像を形成することが可能となる。
図5乃至図8は、インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングを説明するための図であり、仮焼付けのタイミングは、所期の画像やインクジェット印刷に用いるインクの種類等によって好適なタイミングがあり、図5乃至図8に示すように、(i)全ての色のインクの供給後(図5)、(ii)各インクの供給の直後(図6)、(iii)各インクの供給後、次のインクの供給前の間(図7)、或いは(iv)白色インクの供給直後及び全色供給後の2回(図8)、に仮硬化することが好ましい。尚、図5乃至図8は、いずれも版式印刷が先に行われ、版式印刷の画像の仮硬化を行った後に、インクジェット印刷が行われる態様になっているが、インクジェット印刷の仮硬化のタイミング自体は、インクジェット印刷が先に行われる場合でも、図5乃至図8に示す場合と同様である。
すなわち、インクジェット印刷用のインクを用いる場合には、上述した(i)?(iv)の何れのタイミングで仮焼付けを行ってもよいが、経済性の点から、上記(i)のタイミングで行うことが好ましい。
更に後述するようにシームレス缶にホワイトコート層が形成されていない場合には、インクジェット画像を鮮明にするために、白色のインクジェット印刷によって、白色ベタ層を形成しておくことが好ましく、このため最初に供給される白色インクを仮焼付けし、次いで各色のインクを該白色インク上に供給し、仕上げニスの塗装前に再度仮焼付けを行う、上記(iv)のタイミングで仮焼付けを行うことが好ましい。
尚、図5乃至図8に示したインクジェット印刷の仮焼付けのタイミングは、前述した図1乃至図4に示した装置のインクジェット印刷にいずれも適用できる。
【0019】
本発明において、インクジェット印刷に用いる印刷インクとしては、従来シームレス缶へのインクジェット印刷に用いられていた、熱乾燥型インク、熱硬化型インク、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク等を使用できるが、特に焼付に関わる設備コストが安価である点から、熱乾燥型インクを好適に使用できる。
熱乾燥型インクには水性タイプ、油性タイプ、溶剤タイプなどがあるが、硬化に要する時間が短いことから溶剤タイプが好適である。
またインクジェット印刷に使用するヘッドの方式としては、静電方式、ピエゾ方式、バブルジェット方式などが知られているが、本発明においては制限なく使用できる。」

e.「【0021】
【シームレス缶】
本発明の印刷シームレス缶の製造方法において、印刷が施されるシームレス缶としては、これに限定されないが、ティンフリースチール(TFS)などの各種表面処理鋼板やすずめっき等の各種メッキ鋼板、アルミニウム等の軽金属板、或いはこれらの金属板にポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂から成る被覆が形成された樹脂被覆金属板を、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工、軽金属板のインパクト加工等の従来公知の手段に付すことによって製造されたシームレス缶を用いることができる。
【0022】
またシームレス缶の外面には、ホワイトコート層を形成しておくことが、金属板の地色を隠蔽し、印刷画像を鮮明に形成できるので好ましい。
更に、上記ホワイトコート層の上、或いはホワイトコート層が形成されない場合は、シームレス缶外面上にアンカーコート層を形成しておくことが望ましい。このアンカーコート層を形成することにより、インクジェット印刷による画像が強固に保持固定され、印刷画像の密着性が向上される。またアンカーコート層を設けることによりインクジェットインクの滲みを軽減することができる。
アンカーコート層は、従来公知の方法により形成することができ、熱硬化性、紫外線硬化性又は電子線硬化性の透明な、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を所定の溶剤に分散乃至溶解した塗布液を塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射、電子線照射等により硬化することにより形成できる。これらの中でも樹脂の選択範囲が広いことから熱硬化性樹脂を加熱硬化する方法が好適である。
またホワイトコート層は、上記アンカーコート層の形成に用いられる樹脂として例示した樹脂から成る塗布液に二酸化チタン等の白色顔料を含有させることにより、同様に形成することができるが、好適には熱硬化性樹脂を溶剤に分散又は溶解して成る塗布液を加熱硬化する方法が好適である。
ホワイトコート層の厚みは、地色の隠蔽という点から、0.1乃至10μm、特に0.5乃至5μmの範囲あることが好ましく、またアンカーコート層の厚みは、0.1乃至5μm、特に0.1乃至2μmの範囲あることが好ましい。
尚、ホワイトコート層の代わりに、樹脂被覆金属板の樹脂被覆中に白色顔料を含有させた白色樹脂被覆を形成することによっても同様の効果が得られる。
【0023】
(印刷シームレス缶)
本発明の印刷シームレス缶は、上述した種々のシームレス缶の外面の少なくとも胴部に、版式印刷による画像及びインクジェット印刷による画像が形成されていると共に、これらの画像が仕上げニス層によって被覆されていることが重要な特徴である。
・・・
また図10に示す、本発明の印刷シームレス缶の胴部の断面構造の他の一例においては、ホワイトコート層が形成されておらず、缶胴20の外表面にアンカーコート層22が形成され、仕上げニス層25が版式印刷によるインク23及びインクジェット印刷によるインク24の両方を完全に覆うように形成されている点では、図9に示した場合と同様である。図10においては、ホワイトコート層が形成されていないため、前述した通り、インクジェット印刷の画像を鮮明に形成するために、インクジェット印刷による白色インク26eでのベタ印刷の上に、他の色のインキ24a,24b,24c,24dが施されている。尚、白色インク26eはベタ印刷でなく網点印刷であってもよい。
また図11に示す、本発明の印刷シームレス缶の胴部の断面構造の他の一例においては、缶胴20の外表面上にホワイトコート層21、ホワイトコート層21の上にアンカーコート層22が形成され、アンカーコート層22上には、版式印刷により転写されたインク23a,23b,23cが形成されていると共に、インクジェット印刷により着弾されたインク24a,24b,24c,24dが形成され、版式印刷によるインク23及びインクジェット印刷によるインク24の両方を完全に覆うように仕上げニス層25が形成されている点で、図9に示した場合と同様であるが、版式印刷によるインク23dの上にインクジェット印刷によるインク24a,24b,24c,24dが施されており、版式印刷による画像とインクジェット印刷による画像の重なり部を有している。
【0024】
図12及び図13は、本発明の印刷シームレス缶胴部に施された印刷画像の一例を示す図であり、図12に示す例では、一部に印刷が施されない窓部分30を有する版式印刷による画像31が缶胴のほぼ全面に施され、印刷が施されていない窓部分30にインクジェット印刷による画像32を形成する。この態様においては、印刷が施されていない窓部分30を有する版式印刷による画像31を固定デザインとし、この非印刷部分である窓部分30中にインクジェット印刷により可変デザイン32を施すことにより、種々のデザインの印刷シームレス缶を提供することが可能になる。
また図13に示す例は、版式印刷による画像上にインクジェット印刷による画像が形成された重なり部分を有する例であり、すなわち、版式印刷による画像30をシームレス缶の胴部の全面に施し、版式印刷による画像31の上にインクジェット印刷による画像32を形成する。この態様においても、インクジェット印刷による画像32を変更することにより、種々のデザインの印刷シームレス缶を提供することができる。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
板厚0.30mmのアルミニウムJIS3004合金板を常法に従ってブランキングし、絞りカップを作製し、再絞りしごき加工を行い、開口部をトリミングし、ウオッシャーで内外面を酸性溶液で洗浄し工業用水と脱イオン水で水洗し乾燥させて、シームレス缶を作製した。作製したシームレス缶の外面にエポキシ系のアンカーコートを塗布後焼き付けした。
図3に示すハイブリッド印刷装置のマンドレルにシームレス缶を挿入しマンドレル内部からのバキュームで固定した。図3に示す装置の間欠回転に伴って版式印刷(オフセット印刷)、位置決め、インクジェット印刷、仮焼付、仕上げニス塗装を行い、オーブンでの加熱焼付を行った。インクジェット印刷における仮焼付けのタイミングは図8に示す仕様で行った。デザインは図12に示したデザイン(1)とした。版式印刷後の仮焼付は行わなかった。その後、シームレス缶に内面塗装と焼付をし、開口部側にネッキング、フランジングをして缶胴呼称211径、開口部206径の350ml用印刷シームレス缶を作製した。印刷関係については以下に詳細に述べる。
【0026】
印刷画面は、図12に示したデザイン(1)であり、オフセットベタ印刷画面とインクジェット印刷網点画面が重ならないデザインである。ハイブリッド印刷装置は図3に示した仕様である。版式印刷では溶剤タイプの熱乾燥型インクを樹脂凸版からブランケットを介して缶胴外面にベタ印刷をした。このとき開口部側に高さ3mm、幅10mmの位置決め用の合わせマークを黒色で印刷した。この部分は内容物充填後の蓋二重巻締め部にほとんど隠れる部位である。
版式印刷後カメラで位置決め用の合わせマークを検出しマンドレルを回転させて版式印刷画面とインクジェット印刷画面とを合わせた。
インクジェット印刷用画面にまずインクジェットインクでホワイト(W色)ベタ印刷し100℃の温風で仮焼付した。次いで、イエロー(Y色)、マゼンタ(M色)、シアン(C色)、ブラック(K色)の順にインクジェットの網点印刷をし、その後一括して100℃の温風で焼付し、仕上げニスを塗布したのちオーブンで200℃1分の焼付けを行った。インクジェットインクは溶剤タイプの熱乾燥型インクを用いた。
インクジェット印刷のインクジェットヘッドはピエゾ方式の1ヘッドタイプであり、シームレス缶側壁の缶高さ全体に亘って印刷できるものである。シームレス缶はマンドレルに挿入固定されY色、M色、C色、K色の印刷の位相が合うようにした。印刷画面はY色、M色、C色、K色に色分解してインクジェット印刷の網点で再現できるようコンピュータにプログラミングされている。
外面仕様の明細と評価結果を、表1及び表2にそれぞれ示す。
・・・
【0028】
<実施例3>
シームレス缶側壁外面にアンカーコートをしない以外は実施例1と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。」

f.「【0030】
<比較例1>
仕上げニスの塗布焼付をしない以外は実施例4と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。」

g.「【0040】
<実施例14>
インクジェット印刷のインクタイプが紫外線硬化型インクでありその焼付手段が紫外線照射であること以外は実施例12と同様にして印刷シームレス缶を作製した。外面仕様の明細と評価結果を表1及び表2にそれぞれ示す。」

h.「【表1】




i.「【図10】




j.「【図11】




k.「【図12】




(イ)甲3記載事項
a.「【請求項1】 複数組のノズルが形成された印刷ヘッドと、主走査方向のタイミング信号に同期して、入力された画像データに応じて、前記各組のノズルに対応して設けられたノズルチャネルの容積を変化させることにより前記各組のノズル毎に順次インク滴を吐出するように制御する制御手段を備えたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御手段は、前記タイミング信号の周期及び前記印刷ヘッド内インクの振動周波数に基づいて定めたタイミングで、前記各組のノズル毎に順次インク滴を吐出するように制御することを特徴とするインクジェットプリンタ。」

b.「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷ヘッドからインク滴を吐出することにより、文字や図形等の画像を印刷するインクジェットプリンタに関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、複数組のノズルが形成された印刷ヘッドと、タイミング信号に同期して、入力された画像データに応じて、前記各組のノズルに対応するノズルチャネルの容積を変化させることによって前記各組のノズル毎に順次インク滴を吐出するように制御することによって印刷を行うインクジェットプリンタが開発されている。」

(ウ)甲5記載事項
a.「【0014】
図2にその概略を示す、本発明のインクジェット印刷装置においては、上述した従来のインクジェット印刷装置と基本的な構造は同一であるが、各印刷ステーションに複数個のインクジェットヘッドが設けられていることが重要な特徴である。これにより、前述したように、従来のインクジェット印刷装置に比して優れた作用効果が得られている。
すなわち、本発明のインクジェット印刷装置においては、ホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各インクに対応する各印刷ステーションにおいて、インクジェットヘッド3a?3eがそれぞれ2つ設置されていることから、インクジェットヘッドが一つのものに比して印刷速度が速いと共に、網点密度を高くして解像度を上げることができ、網点を精度よく重ね塗りすることによりインクの厚みが増し、濃度感の高い印刷画像を得ることが可能になる。上記のように各ステーションにおける複数のインクジェットヘッドには、同色インクを設けることで大きな効果を得ることができるが、複数のインクジェットヘッドに異なった色のインクを設けることもできる。その場合、少ないステーション数で印刷が可能であり、インジェクションヘッドのメンテナンス性などを向上することができる。」

b.「【0025】
図5は、本発明のインクジェット印刷装置(A)と独立した版式印刷装置(B)を組み合わせて行う印刷方法を説明する図であり、図5においては、版式印刷装置(B)で版式印刷を行った後、版式印刷の画像を有するシームレス缶はインクジェット印刷装置(A)に搬送されて、版式印刷の画像を仮焼付けした後、位置決めされ、インクジェット印刷、仮硬化(仮焼付)、及び仕上げニス塗装が行われる。
また図6は、インクジェット印刷及び版式印刷が同一装置内で行われるハイブリッド装置による印刷方法を説明する図であり、図6においては、マンドレルに装着されたシームレス缶はまず版式印刷に付され、版式印刷の画像が仮焼付けされた後、位置決めされ、次いでインクジェット印刷、仮硬化(仮焼付)、及び仕上げニス塗装に付されている。
【0026】
上記何れの態様においても、インクジェット印刷及び版式印刷の何れを先に行ってもよいが、位置決めの容易性や、インクジェット印刷による重ね塗り等のデザイン性の点から版式印刷を先に行うことが特に好ましい。
またこの場合、先にシームレス缶上に形成された画像を仮硬化させてインクの広がりを抑制しておくことが好ましく、これにより、画像の重なる部分のインクの滲みが防止され、鮮明な画像を得ることが可能になる。
・・・」

c.「【0034】
(比較形態2)
比較形態2は、図12に示すように、各印刷ステーションにインクジェットヘッドが1個ずつある仕様で、ステーション数は8個、クリーニング装置は8個(各インクジェットヘッドに1個ずつ)である。各印刷ステーションはマンドレルホイールの公転軌道の横方向に動く位置に設置され、インクジェットヘッドはマンドレル(シームレス缶)の上部に下向きに配設される。マンドレルホイールの公転に従って、Y色、M色、C色、K色の順にそれぞれが2ステーションで印刷できるよう配置されている。
比較形態2では、印刷ステーション数が多いため、印刷画像の位置合わせが難しく、画像ずれ性及び装置サイズに劣っている。」

d.「【図12】」




イ.本件発明1について
(ア)甲1-1-1発明
上記ア.a.?e.に示した甲1記載事項のうち、<実施例3>に関する記載に着目する。
上記ア.h.の【表1】から、実施例3は、「ホワイトコート」及び「アンカーコート」が無い例であることが明らかであるから、上記<実施例3>の胴部の断面構造は、【図10】に示されたものから、アンカーコート層を除いたものであり、同【図10】におけるインクジェット印刷によるインク24a?24d及び26eが施されている部分が、【図12】における「画像32」であり、版式印刷によるインク23a?23cが施されている部分が、「画像31」であると解される。
そして、上記<実施例3>では、缶胴20の外表面における「インク26eが施されている部分」及び「インク23a?23cが施されている部分」を除いた部分は、「金属の地が現れている部分」であり、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インク26eが施されている部分」と、前記「金属の地が現れている部分」とが、缶胴20の周方向において互いに隣り合うように、前記「版式印刷によるインク23a?23cが施されている部分」及び「インク26eが施されている部分」が形成されているものと解される。
以上を踏まえると、甲1には以下の甲1-1-1発明が記載されている。
《甲1-1-1発明》
飲料用のシームレス缶の製造方法であって、
アルミやスチール等の金属からなるシームレス缶の胴部の外表面に、「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」を形成し、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」を形成後、前記「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成し、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」とが、缶胴20外表面の周方向において互いに隣り合うように、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」が形成されている、飲料用のシームレス缶の製造方法。

(イ)対比、一致点、相違点
甲1-1-1発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」、「金属の地が現れている部分」は、各々、本件発明1の「飲料缶に用いられる缶体」、「外周面」、「金属の地を覆う層が形成される層形成部分」、「画像」、「金属の地を覆う層が形成されない非形成部分」に相当する。
また、甲1-1-1発明の「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明1と甲1-1-1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記金属の地を覆う層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記金属の地を覆う層は、前記缶体の前記外周面の一部に形成され、
前記金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、前記缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成される缶体の製造方法。

《相違点A》
インクジェット印刷方式を用いて形成される画像を、本件発明1では、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする」のに対し、甲1-1-1発明では、「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し「形成」する点。

(ウ)相違点の判断
缶体の製造方法において、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成して前記非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とすることは、甲1、甲3、甲5は疎か、申立人が提出した異議申立書に添付された甲第2-1号証(”「角ハイボール缶」リニューアル新発売”,[Online],2012年(平成24年)2月21日,サントリーホールディングス株式会社(旧サントリー酒類株式会社),[平成30年6月26日検索],インターネット<URL:https://www.suntory.co.jp/news/2012/11326.html>、以下、「甲2-1」という。)、甲第2-2号証(サントリースピリッツ株式会社(旧サントリー酒類株式会社、),角ハイボール缶の写真,撮影日不明、以下、「甲2-2」という。)、甲第4号証(特開2010-47308号公報、以下、「甲4」という。)、甲第6号証(特開2013-177571号公報、以下、「甲6」という。)、甲第7号証(”キリンビバレッジ株式会社とレッドブル・ジャパン株式会社「レッドブル・エナジードリンク」「レッドブル・シュガーフリー」自動販売機での販売ライセンスに関する契約を締結?2013年5月上旬よりキリンビバレッジ株式会社にて販売開始”,[Online],平成25年3月19日,キリンビバレッジ株式会社,[平成30年6月26日検索],インターネット<URL:http://www.kirin.co.jp/company/news/2013/news2013031901.html>、以下、「甲7」という。)、甲第8号証(特開2006-39013号公報、以下、「甲8」という。)には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
特に、甲2-1には、上記異議申立書に添付された検第1号証(サントリースピリッツ株式会社「角ハイボール缶」の現物。以下、「検1」という。)と同じものを撮影したものと解される甲2-2の写真に示される缶の製造方法や当該缶の製造に用いられた印刷装置についての説明がされておらず、また、前記缶が、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成して前記非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とされたものであることについて、説明はない。
また、甲4の段落【0012】には、「・・・ベタ印刷層14は、装飾模様15や発泡インキ層(第2柄印刷模様)17を鮮やかに見せる効果がある。ベタ印刷層14としては、装飾模様15や発泡インキ層(第2柄印刷模様)17のデザインにあわせて、白インキ層、金色インキ層、銀色インキ層などの色調を配設することができる。それらのなかでも、装飾模様15や発泡インキ層(第2柄印刷模様)17のデザインを鮮やかにする効果の大きい下地としては、白インキ層が好ましい。・・・また、デザインによってはベタ印刷層14を設けずに、缶胴の金属色をデザインとして利用することもできる。」との記載があるものの、ベタ印刷層14を設けない部分に、装飾模様15や発泡インキ層(第2柄印刷模様)17を形成して、前記ベタ印刷層14を設けない部分を着色し、同部分を有色のメタリック調とすることまでは記載されていない。
ゆえに、甲1-1-1発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び/又は「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」との双方に対して、「画像32」を形成して前記「金属の地が現れている部分」を有色のメタリック調とすることが容易であったとはいえない。
そして、本件発明1は、上記《相違点A》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された「金属の地を覆う層が形成される缶体に施されるデザインのバリエーションを増やす」という課題を解決し、段落【0054】に記載された「金属地に直接カラーのインクを載せた層構成と、白色の層を介在させてカラーインクを載せた層構成とを併存させることができるようになる。この場合、上記従来の処理を行う場合に比べ、缶体10のデザインのバリエーションを増やせるようになる。・・・例えば、同じ色の画像を形成する場合であっても、光沢を有する画像(メタリック調の画像)と、光沢が有しない画像(発色性が高い画像)の二種類の画像を、一つの缶体10に対して形成できるようになる。」といった格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1-1-1発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明2及び4について
本件発明2及び4は、本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているところ、上記イ.(ウ)で示した理由と同様の理由により、甲1-1-1発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ.本件発明5について
(ア)甲1-1-2発明
上記ア.(ア)に示した甲1記載事項(特に、段落【0019】、【0031】、【0040】のインクジェット印刷に紫外線硬化型インクを用いる旨の記載を参照)からみて、甲1には、さらに、以下の甲1-1-2発明が記載されている。
《甲1-1-2発明》
飲料用のシームレス缶への印刷を行う印刷装置であって、
アルミやスチール等の金属からなるシームレス缶の胴部の外表面に、「インク23a?23cが施されている部分」を形成する版式印刷手段及び「インク26eが施されている部分」を形成する紫外線硬化型インクを用いるインクジェット印刷手段と、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インク26eが施されている部分」を形成後、前記「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し、「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成する、紫外線硬化型インクを用いるインクジェット手段とを備え、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」とが、缶胴20外表面の周方向において互いに隣り合うように、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インク26eが施されている部分」を形成する、印刷装置。

甲1-1-2発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成する、紫外線硬化型インクを用いるインクジェット手段」、「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」、「金属の地が現れている部分」は、各々、本件発明1の「飲料缶に用いられる缶体」、「外周面」、「インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段」、「金属の地を覆う層が形成される層形成部分」、「画像」、「金属の地を覆う層が形成されない非形成部分」に相当する。
また、甲1-1-2発明の「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明5と甲1-1-2発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記金属の地を覆う層を、前記缶体の前記外周面の一部に形成するとともに、当該金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、当該缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層を形成する、印刷装置。

《相違点B》
インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段が、本件発明5では、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする」のに対し、甲1-1-2発明では、「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し、「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成する」点。

(ウ)相違点の判断
缶体への印刷を行う印刷装置において、画像形成手段が、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成して前記非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とすることは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
ゆえに、甲1-1-2発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、「「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成する、紫外線硬化型インクを用いるインクジェット手段」が、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び/又は「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」との双方に対して、「画像32」を形成して前記「金属の地が現れている部分」を有色のメタリック調とすることが容易であったとはいえない。
そして、本件発明5は、上記《相違点B》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された課題を解決し、段落【0054】に記載された格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明5は、甲1-1-2発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ.本件発明6及び7について
本件発明6及び7は、本件発明5の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているところ、上記エ.(ウ)で示した理由と同様の理由により、甲1-1-2発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ.本件発明8について
(ア)甲1-1-3発明
上記ア.(ア)に示した甲1記載事項からみて、甲1には、さらに、以下の甲1-1-3発明が記載されている。
《甲1-1-3発明》
アルミやスチール等の金属からなる飲料用のシームレス缶であって、
前記シームレス缶の胴部の外表面に、「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」が形成され、
前記「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成され、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」とが、缶胴20外表面の周方向において互いに隣り合うように、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」が形成されている、飲料用のシームレス缶。

(イ)対比、一致点、相違点
本件発明8と甲1-1-3発明とを対比すると、甲1-1-3発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「インク23a?23cが施されている部分」及び「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」、「金属の地が現れている部分」は、各々、本件発明8の「飲料用缶」、「外周面」、「金属の地を覆う層が形成される層形成部分」、「インクジェット画像層」、「金属の地を覆う層が形成されない非形成部分」に相当する。
また、甲1-1-3発明の「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明8と甲1-1-3発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面の一部に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記金属の地を覆う層が形成されている層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されていない非形成部分とが、前記缶本体部の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成される、飲料用缶。

《相違点C》
インクジェット画像層が、本件発明8では、「前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に」、「形成され、当該非形成部分が有色のメタリック調となっている」のに対し、甲1-1-3発明では、「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」に対し「形成され」る点。

(ウ)相違点の判断
飲料用缶において、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成され、前記非形成部分が有色のメタリック調となっていることは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
ゆえに、甲1-1-3発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、前記「インク23a?23cが施されている部分」及び/又は「インクジェット印刷によるインク26eが施されている部分」と、「金属の地が現れている部分」との双方に対して、「画像32」が形成され、前記「金属の地が現れている部分」が有色のメタリック調となっているものが容易であったとはいえない。
そして、本件発明8は、上記《相違点C》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された課題を解決し、段落【0054】に記載された格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明8は、甲1-1-3発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ.本件発明9について
(ア)甲1-2-1発明
上記ア.(ア)に示した甲1記載事項(特に、段落【0023】及び【図11】を参照)からみて、甲1には、さらに、以下の甲1-2-1発明が記載されている。
《甲1-2-1発明》
飲料用のシームレス缶の製造方法であって、
アルミやスチール等の金属からなるシームレス缶の胴部の外表面に、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」を順次形成し、さらに、前記「アンカーコート層22」の上に「インク23a?23cが施されている部分」及び、「シームレス缶の胴部の周方向において形成される位置が、前記「インク23a?23cが施されている部分」とは異なる、インク23dが施されている部分」を形成し、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「インク23dが施されている部分」を形成後、前記「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し、「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成する、飲料用のシームレス缶の製造方法。

(イ)対比、一致点、相違点
本件発明9と甲1-2-1発明とを対比すると、甲1-2-1発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」は、各々、本件発明9の「飲料缶に用いられる缶体」、「外周面」、「画像」に相当する。
ここで、本件発明9は、「前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成」するものであるから、前記「第1の覆い層」と「第2の覆い層」はともに、金属の地に起因する光沢感があるのを前提とし、その光沢感の程度に差があるものと解するのが相当であるが、本件発明9は、「第1の覆い層」及び「第2の覆い層」が多層構造の層であることを何ら排除していない。
ゆえに、甲1-2-1発明の「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分は、「第1覆い層」という限りにおいて、本件発明9の「前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層」に相当し、また、甲1-2-1発明の「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」は、「当該第1覆い層とは層厚が異なる第2覆い層」という限りにおいて、本件発明9の「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層」に相当する。
そして、甲1-2-1発明の「インク23dが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明9と甲1-2-1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う覆い層を形成し、
前記覆い層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記覆い層として、第1覆い層と、当該第1覆い層とは層厚が異なる第2覆い層とを少なくとも形成する、缶体の製造方法。

《相違点D》
第1覆い層と、第2覆い層とが、本件発明9では「前記金属の地に起因する光沢感を減じる」ものと、「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものとであるのに対し、甲1-2-1発明では「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」とであって、これらの部分が光沢感を減じるものであるとは特定されておらず、また、インクジェット印刷方式を用いて形成される画像が、本件発明9では、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」、「形成され」るのに対し、甲1-2-1発明では、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し「形成され」る点。

(ウ)相違点の判断
缶体の製造方法において、覆い層として、金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを形成し、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による前記画像を形成することは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
ゆえに、甲1-2-1発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、甲1-2-1発明において、まず、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分を、金属の地に起因する光沢感を減じるものとし、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」を、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分よりもさらに前記光沢感を減じるものとした上で、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、前記「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」との双方に対して、「画像32」を形成することが容易であったとはいえない。
そして、本件発明9は、上記《相違点D》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された「金属の地を覆う層が形成される缶体に施されるデザインのバリエーションを増やす」という課題を解決し、段落【0054】に記載された「金属地に直接カラーのインクを載せた層構成と、白色の層を介在させてカラーインクを載せた層構成とを併存させることができるようになる。この場合、上記従来の処理を行う場合に比べ、缶体10のデザインのバリエーションを増やせるようになる。・・・」といった格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明9は、甲1-2-1発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク.本件発明10及び11について
本件発明10及び11は、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としているところ、上記ケ.(ウ)で示した理由と同様の理由により、甲1-2-1発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ケ.本件発明12について
(ア)甲1-2-2発明
上記ア.(ア)に示した甲1記載事項(特に、段落【0023】及び【図11】を参照)からみて、甲1には、さらに、以下の甲1-2-2発明が記載されている。
《甲1-2-2発明》
飲料用のシームレス缶への印刷を行う印刷装置であって、
アルミやスチール等の金属からなるシームレス缶の胴部の外表面に、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」を順次形成する手段、前記「アンカーコート層22」の上に「インク23a?23cが施されている部分」を形成する版式印刷手段及び「シームレス缶の胴部の周方向において形成される位置が、前記「インク23a?23cが施されている部分」とは異なる、インク23dが施されている部分」を形成する版式印刷手段と、
前記「インク23a?23cが施されている部分」及び「シームレス缶の胴部の周方向において形成される位置が、前記「インク23a?23cが施されている部分」とは異なる、インク23dが施されている部分」を形成後、前記「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し、「インク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」を形成するインクジェット印刷手段とを備える、印刷装置。

(イ)対比、一致点、相違点
本件発明12と甲1-2-2発明とを対比すると、甲1-2-2発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」は、各々、本件発明12の「飲料缶に用いられる缶体」、「外周面」、「画像」に相当する。
ここで、本件発明12は、「前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成」するものであるから、前記「第1の覆い層」と「第2の覆い層」はともに、金属の地に起因する光沢感があるのを前提とし、その光沢感の程度に差があるものと解するのが相当であるが、本件発明12は、「第1の覆い層」及び「第2の覆い層」が多層構造の層であることを何ら排除していない。
ゆえに、甲1-2-2発明の「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分は、「第1覆い層」という限りにおいて、本件発明12の「前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層」に相当し、また、甲1-2-1発明の「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」は、「当該第1覆い層とは層厚が異なる第2覆い層」という限りにおいて、本件発明12の「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層」に相当する。
そして、甲1-2-2発明の「インク23dが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明12と甲1-2-2発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う覆い層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による覆い層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記覆い層として、層厚が互いに異なる第1覆い層と第2覆い層とを少なくとも形成する、印刷装置。

《相違点E》
第1覆い層と、第2覆い層とが、本件発明12では「前記金属の地に起因する光沢感を減じる」ものと、「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものとであるのに対し、甲1-2-2発明では「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」とであって、これらの部分が光沢感を減じるものであるとは特定されておらず、また、インクジェット印刷方式を用いて形成される画像が、本件発明12では、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」、「形成され」るのに対し、甲1-2-2発明では、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し「形成され」る点。

(ウ)相違点の判断
缶体への印刷を行う印刷装置において、層形成手段が、覆い層として、金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを形成し、画像形成手段が、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による前記画像を形成することは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
ゆえに、甲1-2-2発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、甲1-2-2発明において、まず、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分を、金属の地に起因する光沢感を減じるものとし、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」を、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分よりもさらに前記光沢感を減じるものとした上で、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、前記「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」との双方に対して、「画像32」を形成することが容易であったとはいえない。
そして、本件発明12は、上記《相違点E》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された課題を解決し、段落【0054】に記載された格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明12は、甲1-2-2発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ.本件発明13について
(ア)甲1-2-3発明
上記ア.(ア)に示した甲1記載事項(特に、段落【0023】及び【図11】を参照)からみて、甲1には、さらに、以下の甲1-2-3発明が記載されている。
《甲1-2-3発明》
アルミやスチール等の金属からなる飲料用のシームレス缶であって、
前記シームレス缶の胴部の外表面に、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」が順次形成され、さらに、前記「アンカーコート層22」の上に「インク23a?23cが施されている部分」及び「シームレス缶の胴部の周方向において形成される位置が、前記「インク23a?23cが施されている部分」とは異なる、インク23dが施されている部分」が形成され、
「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し、「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成されている、飲料用のシームレス缶。

(イ)対比、一致点、相違点
本件発明13と甲1-2-3発明とを対比すると、甲1-2-3発明の「飲料用のシームレス缶」、「外表面」、「インクジェット印刷による24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」は、各々、本件発明13の「飲料用缶」、「外周面」、「インクジェット画像層」に相当する。
ここで、本件発明13は、「前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成され」るものであるから、前記「第1の覆い層」と「第2の覆い層」はともに、金属の地に起因する光沢感があるのを前提とし、その光沢感の程度に差があるものと解するのが相当であるが、本件発明13は、「第1の覆い層」及び「第2の覆い層」が多層構造の層であることを何ら排除していない。
ゆえに、甲1-2-3発明の「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分は、「第1覆い層」という限りにおいて、本件発明13の「前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層」に相当し、また、甲1-2-3発明の「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」は、「当該第1覆い層とは層厚が異なる第2覆い層」という限りにおいて、本件発明13の「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層」に相当する。
そして、甲1-2-3発明の「インク23dが施されている部分」は、「飲料用のシームレス缶」の「外表面」であることが明らかである。
してみると、本件発明13と甲1-2-3発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う覆い層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記覆い層として、層厚が互いに異なる第1覆い層と第2覆い層とが少なくとも形成されている、飲料用缶。

《相違点F》
第1覆い層と、第2覆い層とが、本件発明13では「前記金属の地に起因する光沢感を減じる」ものと、「当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる」ものとであるのに対し、甲1-2-3発明では「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」とであって、これらの部分が光沢感を減じるものであるとは特定されておらず、また、インクジェット画像層が、本件発明13では、「層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に」、「形成され」るのに対し、甲1-2-3発明では、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」に対し「形成され」る点。

(ウ)相違点の判断
飲料用缶において、覆い層として、金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを形成され、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、インクジェット画像層を形成することは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8には、記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
ゆえに、甲1-2-3発明における「インクジェット印刷によるインク24a?24dが施されている部分」を含む「画像32」が形成される部分の選択自体は、当該「画像32」を含む缶体の表面に施されるべきデザインに応じて、当業者が適宜決定し得たとしても、甲1-2-3発明において、まず、「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分を、金属の地に起因する光沢感を減じるものとし、「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」を、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分よりもさらに前記光沢感を減じるものとした上で、前記「ホワイトコート層21」及び「アンカーコート層22」のみからなる層部分と、前記「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23a?23cが施されている部分」並びに「ホワイトコート層21」、「アンカーコート層22」及び「インク23dが施されている部分」との双方に対して、「画像32」が形成されるものとすることが容易であったとはいえない。
そして、本件発明13は、上記《相違点F》 に係る事項を発明特定事項とすることにより、明細書の段落【0004】に記載された課題を解決し、段落【0054】に記載された格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明13は、甲1-2-3発明、甲1?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、2、4?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由及び申立人の主張について
(1)特許法第29条第1項第3号に該当するとの異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書の19頁21行?21頁12行、26頁1?9行、45頁10行?46頁13行で、甲2-1、甲2-2及び検1に開示の飲料缶は、技術常識に鑑みれば、本件発明1、本件発明3及び本件発明8と同じ発明を開示しているから、本件発明1、本件発明3及び本件発明8は、特許法第29条第1項第3号に該当する旨を主張(以下、「主張1」という。)している。
しかしながら、上記3.(3)イ.(ウ)で示したように、甲2-1には、検1と同じものを撮影したものと解される甲2-2の写真に示される缶の製造方法や当該缶の製造に用いられた印刷装置についての説明がされておらず、また、前記缶が、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成して前記非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とされたものであることについて、説明はなく、特許異議申立書においてもそのような技術常識について説明もない。
したがって、本件発明1、本件発明3及び本件発明8は、甲2-1、甲2-2及び検1に開示の発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、上記主張1は、当を得ておらず、採用できない。
さらに、申立人は、特許異議申立書の46頁14行?59頁10行で、甲6は、本件発明9?本件発明13と同じ発明を開示しているから、本件発明9?本件発明13は、特許法第29条第1項第3号に該当する旨、及び特許異議申立書の59頁11行?62頁末行で、甲8は、本件発明13と同じ発明を開示しているから、本件発明13は、特許法第29条第1項第3号に該当する旨(以下、「主張2」という。)している。
しかしながら、上記3.(3)のキ.(ウ)、ケ.(ウ)及びコ.(ウ)で示したように、甲6及び甲8には、金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを形成し、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による前記画像を形成することが記載されておらず、また、これを示唆する記載もない。
したがって、本件発明9?本件発明13は、甲6に開示の発明であるとはいえず、また、本件発明13は、甲8に開示の発明であるともいえないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、上記主張2も、当を得ておらず、採用できない。

(2)特許法第17条の2第3項違反及び同法第36条第6項第1号違反の異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書の63頁1行?66頁7行で、本件発明11、すなわち、「前記缶体の周方向における前記第1の覆い層の位置と、当該周方向における前記第2の覆い層の位置とが互いに異なるように、当該第1の覆い層および当該第2の覆い層を形成する請求項9に記載の缶体の製造方法。」は、平成29年9月12日になされた手続補正により追加されたものであるところ、缶体の周方向における第1の覆い層の位置と、当該周方向における第2の覆い層の位置とが互いに異なることは、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されておらず、同願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にも記載されておらず、自明な事項でもないから、上記手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであり、また、本件発明11に係る特許は、同法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである旨を主張(以下、「主張3」という。)している。
上記主張3について検討する。
本件特許の願書に最初に添付した明細書には以下の記載事項Aがある。
《記載事項A》
「【0031】
第1白色用ヘッド251に缶体10が達すると、回転部材210の回転が一旦停止される。次いで、第1白色用ヘッド251から、下方に位置し予め定められた速度で回転(自転)している缶体10に向けて白色のインクが吐出され、缶体10の外周面に、白色の層が形成される。その後、本実施形態では、回転部材210の回転が再開され、缶体10が、第1照射ランプ261の下方に達する。これにより、缶体10の外周面に対し紫外線が照射され、第1白色用ヘッド251によって形成された白色の層が硬化する。
【0032】
・・・
【0033】
なお、下流側に位置するインクジェットヘッドへ缶体10を順次移動させていくにあたり、支持筒232の回転を一旦停止させてもよいし、支持筒232の回転数を低下させるようにしてもよい。また、支持筒232を回転させたまま(支持筒232の回転数を維持したまま)、缶体10を移動させるようにしてもよい。
【0034】
第1照射ランプ261による紫外線の照射が終了した後、本実施形態では、第2白色用ヘッド252の下方にて、缶体10が一旦停止され、第2白色用ヘッド252から缶体10の外周面に向けて、白色のインクが吐出される。付言すると、本実施形態では、第1白色用ヘッド251によって缶体10の外周面上に形成された白色の層に対して、白色のインクが再び供給される。これにより、第1白色用ヘッド251のみによって白色の層が形成される場合に比べ、白色の層の厚みが増す。」
「【0042】
図2は、画像形成システム100にて実施される処理の一例を示した図である。
本実施形態では、上記のとおり、また、図2(A)に示すように、まず、第1白色用ヘッド251によって、缶体10(缶本体部)の表面に、白色層90が形成される。次いで、同図(B)に示すように、第1照射ランプ261による紫外線の照射が行われ、白色層90が硬化される。次に、缶体10が、第2白色用ヘッド252に達し、同図(C)に示すように、第1白色用ヘッド251によって形成された白色層90の一部の上に、白色のインクが更に載せられる。これにより、白色層90の一部は、その厚みが増すようになる。
【0043】
・・・
【0044】
ここで、図2(E)を参照し、缶体10の表面の状態を詳細に説明する。本実施形態の印刷装置200では、6種類の層構成(階調)を得ることができる。具体的には、次の(1)?(6)の層構成を得ることができる。
層構成(1):アルミ地のみ(金属地のみ)
層構成(2):アルミ地 + カラーインク層91
層構成(3):アルミ地 + 一層の白色層90
層構成(4):アルミ地 + 二層の白色層90
層構成(5):アルミ地 + 一層の白色層90 + カラーインク層91
層構成(6):アルミ地 + 二層の白色層90 + カラーインク層91
【0045】
ここで、図2(E)において、上記層構成(1)は、符号2Aで示す部分に形成されている。また、層構成(2)は、符号2Bで示す部分に形成されている。さらに、層構成(3)は、符号2Cで示す部分に形成されている。また、層構成(4)は、符号2Dで示す部分に形成されている。また、層構成(5)は、符号2Eで示す部分に形成されている。さらに、層構成(6)は、符号2Fで示す部分に形成されている。
【0046】
・・・
【0047】
また、層構成(3)(符号2Cで示す部分)では、缶体10の地金が白色の層によって覆われた状態となり、この白色の層によって、缶体10の地金に起因する光沢感が減じられている。また、層構成(4)(符号2Dで示す部分)では、層構成(3)よりも、白色層90の厚みが大きくなっており、層構成(3)の部分よりも、光沢感がさらに減じられている。ここで、このように白色層90の厚みが異なる二つの層構成を設ける場合、同じ白色であるが濃淡に互いに異なる二つの領域を形成できるようになる。
【0048】
また、層構成(5)(符号2Eで示す部分)では、カラーインク層91が形成されているために、色を有した状態で形成されている。なお、層構成(5)では、カラーインク層91の下に、缶体10の地金を覆う白色層90が形成されているため、鮮やかな発色が行われる。また、層構成(6)(符号2Fで示す部分)でも、カラーインク層91が形成されているために、色を有した状態で形成されている。なお、この層構成(6)では、白色層90が二層となっており、層構成(5)よりも、より鮮やかな発色が行われる。
【0049】
なお、本実施形態では、白色のインクを用いて缶体10の地金を覆ったが、缶体10の地金を覆うインクの色は白色に限られず、他の色のインクを用いてもよい。・・・」

また、同願書に最初に添付した図面の【図2】の記載は以下のとおりである。
「【図2】


ここで、上記記載事項A及び上記【図2】の記載を併せみると、符号2C及び2Eで示された「層構成(3)」及び「層構成(5)」の部分における白色層90の層厚よりも、符号2D及び符号2Fで示された「層構成(4)」及び「層構成(6)」の部分における白色層90の層厚の方が大きいこと、及び、符号2C及び2Eで示された「層構成(3)」及び「層構成(5)」の部分と、符号2D及び符号2Fで示された「層構成(4)」及び「層構成(6)」の部分とは、缶体10の表面における周方向の異なる位置に設けられていることが把握される。
そして、本件発明11は、本件発明9を引用するものであり、本件発明11における「第2の覆い層」は、「第1の覆い層の層厚よりも層厚が大き」いものであり、「金属の地に起因する光沢感を減じる」前記「第1の覆い層」よりも「当該光沢感をさらに減じる」ものであるところ、上記符号2C及び2Eで示された「層構成(3)」及び「層構成(5)」の部分における白色層90が「第1の覆い層」に該当し、上記符号2D及び2Fで示された「層構成(4)」及び「層構成(6)」の部分における白色層90が「第2の覆い層」に該当することが明らかである。
ゆえに、上記手続補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面にも、上記記載事項A及び上記【図2】が記載されているから、本件発明11は、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって、上記主張3は、当を得ておらず採用できない。

(3)本件発明1、2、4?8に関する主張について
申立人は、令和1年7月9日に提出された意見書(特に、2頁1行?3頁9行、8頁6?18行、11頁7?18行を参照)で、非形成部分を有色のメタリック調とすることは、層形成部分および非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成した結果得られる作用効果にすぎないということを前提にして、本件発明1、2、4?8は、平成31年3月27日付け取消理由(決定の予告)により、取り消されるべきである旨を主張(以下、「主張4」という。)している。
しかしながら、上記3.(3)のイ.(ウ)、エ.(ウ)及びカ.(ウ)でも示したように、金属の地を覆う層が形成される部分、すなわち、層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成される部分と隣り合い、前記金属の地を覆う層が形成されない部分、すなわち、非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成して前記非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とすることは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8にも記載されておらず、また、これを示唆する記載もないこと、そして、層形成部分および非形成部分の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成すれば、自ずと、非形成部分が有色のメタリック調となることを裏付ける証拠が何ら示されていないことを踏まえると、上記主張4は、上記前提において誤っており、当を得たものとはいえないから、採用できない。

(4)本件発明9?13に関する主張について
申立人は、同意見書(特に、12頁28行?13頁21行、18頁26行?19頁7行、21頁1?14行を参照)で、第1の覆い層が金属の地に起因する光沢感を減じる層であり、第2の覆い層が金属の地に起因する光沢感をさらに減じる層であることは、層厚が互いに異なる第1の覆い層及び第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成した結果得られる作用効果にすぎないということを前提にして、本件発明9?13は、平成31年3月27日付け取消理由(決定の予告)により、取り消されるべきである旨を主張(以下、「主張5」という。)している。
しかしながら、上記3.(3)のキ.(ウ)、ケ.(ウ)及びコ.(ウ)でも示したように、金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを形成し、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による前記画像を形成することは、甲1、甲3、甲5は疎か、甲2-1、甲2-2、甲4、甲6、甲7、甲8にも記載されておらず、また、これを示唆する記載もないこと、そして、層厚が互いに異なる第1の覆い層及び第2の覆い層の両者の上に、インクジェット印刷方式による画像を形成すれば、自ずと、第1の覆い層が金属の地に起因する光沢感を減じる層となり、第2の覆い層が金属の地に起因する光沢感をさらに減じる層となることを裏付ける証拠が何ら示されていないことを踏まえると、上記主張5も、上記前提において誤っており、当を得たものとはいえないから、採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4?13に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立の理由によっては、取り消されるべきものとすることはできない。
そして、本件特許の請求項3は、本件訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記金属の地を覆う層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記金属の地を覆う層は、前記缶体の前記外周面の一部に形成され、
前記金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、前記缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする缶体の製造方法。
【請求項2】
前記金属の地を覆う層の形成は、複数のインク吐出口を有し、インクを吐出するか否かの制御を当該インク吐出口毎に行うことが可能なインクジェットヘッドによって行われることを特徴とする請求項1に記載の缶体の製造方法。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
前記金属の地を覆う層が形成された後、当該金属の地を覆う層の上に、当該金属の地を覆う層と同じ色のインクをさらに付着させ、
前記インクの前記付着は、前記金属の地を覆う層の少なくとも表面が硬化した後に行われることを特徴とする請求項1に記載の缶体の製造方法。
【請求項5】
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記金属の地を覆う層を、前記缶体の前記外周面の一部に形成するとともに、当該金属の地を覆う層が形成される層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されない非形成部分とが、当該缶体の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層を形成し、
前記画像形成手段は、前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成して当該非形成部分を着色し、当該非形成部分を有色のメタリック調とする印刷装置。
【請求項6】
前記層形成手段は、紫外線硬化型のインクを用いて前記金属の地を覆う層を形成することを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記金属の地を覆う層はインクジェットヘッドにより形成されるとともに、当該金属の地を覆う層を形成する当該インクジェットヘッドは、複数設けられていることを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項8】
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面の一部に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記金属の地を覆う層が形成されている層形成部分と、当該金属の地を覆う層が形成されていない非形成部分とが、前記缶本体部の周方向において互いに隣り合うように、当該金属の地を覆う層が形成され、
前記層形成部分および前記非形成部分の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成され、当該非形成部分が有色のメタリック調となっている飲料用缶。
【請求項9】
飲料缶に用いられる缶体の製造方法であって、
筒状に形成され且つ金属材料により形成され外周面に金属の地が現れている前記缶体の当該外周面に対し、当該金属の地を覆う覆い層を形成し、
前記覆い層を形成後、前記缶体の前記外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式による前記画像を形成する缶体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の覆い層および前記第2の覆い層は、同色であることを特徴とする請求項9に記載の缶体の製造方法。
【請求項11】
前記缶体の周方向における前記第1の覆い層の位置と、当該周方向における前記第2の覆い層の位置とが互いに異なるように、当該第1の覆い層および当該第2の覆い層を形成する請求項9に記載の缶体の製造方法。
【請求項12】
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって、
前記缶体の外周面に対し、当該外周面に現れている金属の地を覆う覆い層を形成する層形成手段と、
前記層形成手段による覆い層の形成後、前記缶体の外周面に対し、インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する画像形成手段と、
を備え、
前記層形成手段は、前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とを少なくとも形成し、
前記画像形成手段は、層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット印刷方式を用いて画像を形成する印刷装置。
【請求項13】
筒状に形成され且つ金属材料により形成された缶本体部と、
前記缶本体部の外周面に形成され、当該缶本体部の外周面に現れている金属の地を覆う覆い層と、
前記缶本体部の外周面に形成されたインクジェット画像層と、
を有し、
前記覆い層として、前記金属の地に起因する光沢感を減じる第1の覆い層と、当該第1の覆い層の層厚よりも層厚が大きく当該光沢感をさらに減じる第2の覆い層とが少なくとも形成され、
層厚が互いに異なる前記第1の覆い層および前記第2の覆い層の両者の上に、前記インクジェット画像層が形成されている飲料用缶。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-06 
出願番号 特願2013-222134(P2013-222134)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 裕一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 佐々木 正章
渡邊 豊英
登録日 2017-12-08 
登録番号 特許第6255212号(P6255212)
権利者 昭和アルミニウム缶株式会社
発明の名称 缶体の製造方法、印刷装置、および、飲料用缶  
代理人 古部 次郎  
代理人 水戸 洋介  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  
代理人 尾形 文雄  
代理人 水戸 洋介  

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