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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1355976
異議申立番号 異議2019-700184  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-05 
確定日 2019-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6389359号発明「ボトルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6389359号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6389359号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年10月31日の出願であって、平成30年8月24日にその特許権の設定登録がされ、同年9月12日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、平成31年3月5日に特許異議申立人 滝沢純平(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年5月27日付けで取消理由が通知され、同年7月24日に特許権者 株式会社吉野工業所より意見書の提出がなされたものである。


第2 本件発明

請求項1?4に係る発明は、設定登録時の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
有底筒状に形成され、底壁部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する多段有頂筒状の変形筒部と、が備えられ、
前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え、
前記可動壁部が、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設されたボトルを、金型を用いたブロー成形により形成するボトルの製造方法であって、
前記金型のキャビティ内で成形された前記ボトルから、前記金型のうち、前記底壁部を形成する底型を離型させる離型工程の際、前記変形筒部の外表面と、前記底型のキャビティ面と、の間の境界部を、前記底型に設けられた接続孔を通して前記金型の外部に接続しておき、
前記キャビティ内で前記ボトルを成形するブロー成形工程の際、前記キャビティ内が前記接続孔を通して前記金型の外部に開放されていて、
前記離型工程の際、前記境界部のうち、前記立ち上がり周壁部よりもボトル径方向の内側に位置する部分であって前記可動壁部が位置する部分を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続することを特徴とするボトルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のボトルの製造方法であって、
前記離型工程の際、前記境界部のうち、ボトル周方向に間隔をあけた複数箇所を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続することを特徴とするボトルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のボトルの製造方法であって、
前記離型工程の際、前記境界部のうち、ボトル径方向に間隔をあけた複数箇所を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続することを特徴とするボトルの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のボトルの製造方法であって、
前記変形筒部は、前記可動壁部のボトル径方向の内端部から上方に向けて延びる陥没周壁部を備え、
前記離型工程の際、前記境界部のうち、前記可動壁部および前記陥没周壁部が位置する各部分の少なくとも一箇所ずつを、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続することを特徴とするボトルの製造方法。」


第3 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

請求項1?4に係る特許に対して、当審が令和1年5月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。



・対象となる請求項:請求項1?4(以下「本件発明1」?「本件発明4」という。)
・引用文献等
引用文献1:特開2012-91818号公報
引用文献2:特開昭53-78267号公報(甲第7号証)
引用文献3:特開平5-345350号公報(甲第2号証)
引用文献4:特開2006-264035号公報(甲第4号証)
引用文献5:特開昭53-125470号公報(甲第8号証)

(なお、引用文献1は、本件特許公報に記載されている参考文献であって、取消理由は、当該引用文献1を主引用例とする、当審において発見したものである。また、本件発明1については、引用文献1を主引用例1とし、引用文献2を副引用例とするものであり、引用文献3?5については、請求項1の従属項である本件発明2?4について、さらに引用したものである。)

2 取消理由についての検討

上記の取消理由について検討する。

(1) 引用文献の記載事項

ア 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明について

引用文献1には次の事項が記載されている。

「【請求項1】
ブロー成形により合成樹脂材料で有底筒状に形成されたボトルであって、
底部は、
上端開口部が胴部の下端開口部に接続されたヒール部と、
該ヒール部の下端開口部を閉塞し、かつ外周縁部が接地部とされた底壁部と、を備え、
該底壁部は、
前記接地部にボトル径方向の内側から連なり上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、
該立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、
該可動壁部のボトル径方向の内端部から上方に向けて延びる陥没周壁部と、を備え、
前記可動壁部は、前記陥没周壁部を上方に向けて移動させるように、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に回動自在に配設され、
前記ヒール部または前記立ち上がり周壁部にパーティングラインが形成されていることを特徴とするボトル。
【請求項2】
請求項1記載のボトルであって、
前記パーティングラインは、前記立ち上がり周壁部に形成されていることを特徴とするボトル。」

「【0014】
以下、前記共通軸をボトル軸Oといい、ボトル軸O方向に沿って前記口部側を上側、底部14側を下側といい、また、ボトル軸Oに直交する方向をボトル径方向といい、ボトル軸Oを中心に周回する方向をボトル周方向という。
なお、ボトル1は、射出成形により有底筒状に形成されたプリフォームが、ブロー成形されて形成され、合成樹脂材料で一体に形成されている。また、口部11には、雄ねじ部11aが形成されており、図示されないキャップが螺着される。さらに、口部11、肩部12、胴部13および底部14はそれぞれ、ボトル軸Oに直交する横断面視形状が円形状となっている。
【0015】
肩部12と胴部13との接続部分には、第1環状凹溝16が全周に亘って連続して形成されている。
胴部13は筒状に形成され、ボトル軸O方向の両端部同士の間は、これら両端部より小径に形成されている。胴部13には、ボトル軸O方向に間隔をあけて複数の第2環状凹溝15が全周に亘って連続して形成されている。
【0016】
胴部13と底部14との接続部分には、第3環状凹溝20が全周に亘って連続して形成されている。
底部14は、上端開口部が胴部13の下端開口部に接続されたヒール部17と、ヒール部17の下端開口部を閉塞し、かつ外周縁部が接地部18とされた底壁部19と、を備えるカップ状に形成されている。
【0017】
ヒール部17のうち、接地部18にボトル径方向の外側から連なるヒール下端部27は、該ヒール下端部27に上方から連なる上ヒール部28より小径に形成されており、ヒール下端部27と上ヒール部28との連結部分29は、上方から下方に向かうに従い漸次縮径されている。上ヒール部28は、胴部13のボトル軸O方向の両端部とともに、ボトル1の最大外径部となっており、この上ヒール部28には、第3環状凹溝20と同じ深さの第4環状凹溝31が全周に亘って連続して形成されている。
【0018】
底壁部19は、図3に示されるように、接地部18にボトル径方向の内側から連なり上方に向けて延びる立ち上がり周壁部21と、立ち上がり周壁部21の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部22と、可動壁部22のボトル径方向の内端部から上方に向けて延びる陥没周壁部23と、陥没周壁部23の上端開口部を閉塞する閉塞壁部24と、を備えている。
【0019】
立ち上がり周壁部21は、下方から上方に向かうに従い漸次縮径している。
可動壁部22は、下方に向けて突の曲面状に形成されるとともに、ボトル径方向の外側から内側に向かうに従い漸次下方に向けて延在している。この可動壁部22と立ち上がり周壁部21とは上方に向けて突の曲面部25を介して連結されている。そして、可動壁部22は、陥没周壁部23を上方に向けて移動させるように、曲面部(立ち上がり周壁部21との接続部分)25を中心に回動自在となっている。
【0020】
陥没周壁部23は、ボトル軸Oと同軸に配設され、上方から下方に向かうに従い漸次、拡径するとともに多段に形成されている。この陥没周壁部23は、可動壁部22のボトル径方向の内端部から上方に向かうに従い漸次、縮径された下筒部23aと、閉塞壁部24の外周縁部から下方に向かうに従い漸次、拡径されるとともに下方に向けて突の曲面状に形成された上筒部23bと、これらの両筒部23a、23bを連結する段部23cと、を備えており、2段筒状に形成されている。
下筒部23aは、可動壁部22のボトル径方向の内端部に、下方に向けて突の曲面部26を介して連結されている。また下筒部23aは、横断面視円形状に形成されている。
【0021】
上筒部23bには、ボトル径方向の内側に向けて張り出す張出部23dが形成されている。張出部23dは、上筒部23bの上端部を除くボトル軸O方向のほぼ全長にわたって形成されており、図2に示されるように、ボトル周方向に複数連ねられて形成されている。なお図示の例では、ボトル周方向に隣り合う張出部23d同士は、ボトル周方向に間隔をあけて配置されている。
【0022】
そして、上筒部23bの横断面視形状は、張出部23dが形成されることにより、下方から上方に向かうに従い、多角形状(図示の例では略正三角形状)から円形状に変形していて、上筒部23bの上端部における横断面視形状は、円形状となっている。上筒部23bのうち、横断面視形状が多角形状とされた部分では、張出部23dが多角形状の辺部とされ、ボトル周方向で隣り合う張出部23d同士の間に位置する間部分23eが、多角形状の角部となっている。
【0023】
また図3に示されるように、閉塞壁部24は、ボトル軸Oと同軸に配置されるとともに円板状に形成され、陥没周壁部23および閉塞壁部24は全体で有頂筒状をなしている。
そして本実施形態では、立ち上がり周壁部21の下端部21aに、全周に亘って延在するパーティングラインPLが形成されている。ここで言うパーティングラインPLとは、後述する胴型と底型との合わせ目として周状に形成されるものを指す。」

「【0024】
次に、ボトル1の製造方法について説明する。
このボトル1は、間にキャビティが形成された複数の型部材を備える図示されない金型を用いて、前記プリフォームをブロー成形することで形成される。前記金型の型部材として、下方に向けて開口するキャビティ用の空間が設けられた図示されない胴型(例えば、左右一対の割型)と、前記空間を下方から閉塞する図示されない底型と、を備えている。
【0025】
前記金型のうち、図3に示されるようなボトル1の前記底壁部19において接地部18より内側に位置する部分を成形する凸成形部は、前記胴型の下端部と前記底型とにより構成されている。そして、これらの胴型と底型との分割面は、前記凸成形部のうち、立ち上がり周壁部21の下端部21aを成形する部分に位置している。
【0026】
この金型を用いてボトル1を製造する一例としては、まず、前記胴型における前記空間の下端開口部に前記底型を待機させた状態で、前記空間内で前記プリフォームを延伸させる。そして、延伸されたプリフォーム若しくは延伸中のプリフォームにおける底部のうち、前記接地部18よりもボトル径方向の内側に位置する部分を前記底型全体の上昇移動により上方に押し込む。これにより、立ち上がり周壁部21の下端部21aにパーティングラインPLが形成されたボトル1が成形される。
なお、この製造方法は一例に過ぎず、前記底型を部分的や段階的に上昇する構造とし、該底型の一部が上昇することによって前記押し込みが行われてもよい。」

「【0029】
例えば、図4および図5に示すボトル40のように、可動壁部22に、複数のリブ41がボトル軸Oを中心に放射状に配設されていても良い。なおリブ41は、上方に向けて曲面状に窪んだ複数の凹部41aがボトル径方向に沿って断続的に配設されてなる。
さらに前記ボトル40のように、立ち上がり周壁部21に凹凸部42が全周に亘って形成されていても良い。なお凹凸部42は、ボトル径方向の内側に向けて突の曲面状に形成された複数の突部42aが、ボトル周方向に間隔をあけて配設されてなる。この突部42aは、立ち上がり周壁部21において下端部21aよりも上側に位置する部分に配置されている。」

「【図3】



「【図4】



「【図5】



これらの記載から見て、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「有底筒状に形成され、底壁部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する多段有頂筒状の変形筒部と、が備えられ、
前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え、
前記可動壁部が、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設されたボトルを、金型を用いたブロー成形により形成するボトルの製造方法。」

イ 引用文献2の記載事項

「1.熱可塑性合成樹脂製有底パリソンを加熱し,割金型内に供給して,該割金型を閉じ延伸吹込成形を行う延伸吹込成形法において,有底中空体を成形したのち,割金型を開ける以前に該割金型内を減圧となし,有底中空成形品を金型に密着させ加熱工程における成形品の収縮変形を抑え,加熱気体を成形品内部に吹込むことにより,有底中空成形品を緊張下で熱処理することを特徴とする延伸吹込成形品の熱固定法。」(特許請求の範囲第1項)

「図により本発明をさらに詳細に説明するならば,加熱された熱可塑性合成樹脂製有底パリソンを割金型(1)に供給し,該割金型(1)を閉じ,延伸棒(2)および常温圧縮気体(A)にて同時または逐次法により延伸吹込成形を行い中空成形品(4)を得る。この場合,電気的,機械的に制御されたバルブ(6)は開,バルブ(7,8,9,10)は閉となっている。バルブ(11)は閉の状態でもよいが,成形品と金型間に残留する空気を取り除くためにバルブ(11)を開にしておくと良好な吹込成形品を得ることができる。次にバルブ(7)を開,バルブ(8,6,9,10)を閉として吹込気体を排気(B)する。こののち,割金型(1)を開けずにバルブ(10)を開,バルブ(11,6,7)を閉として金型(1)と成形品(4)の間を減圧として成形品(4)を金型に密着させ,熱処理時に成形品(4)が変形を起こさないように保ちながら,バルブ(8,9)を開として加熱気体(C)を吹込み,該加熱気体は成形品(4)内を通り,延伸棒(2)を通して排気(D)される。一定時間の熱処理が終了したら,バルブ(8,9,10)を閉とし,バルブ(11)を開にしてリークを行い,割金型(1)を開いて成形品(4)を成形品取り出し工程に移動させる。このとき,より効果的な熱処理を望むならば,バルブ(11)によりリークを行う時に同時にバルブ(6)を開とし常温圧縮気体(A)を吹込み成形品を冷却するとよい。」(第2頁右上欄第20行-同頁右下欄第4行)



」(図)

(2) 対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「有底筒状に形成され、底壁部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する多段有頂筒状の変形筒部と、が備えられ、
前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え、
前記可動壁部が、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設されたボトルを、金型を用いたブロー成形により形成するボトルの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本件発明1の製造方法では、「前記金型のキャビティ内で成形された前記ボトルから、前記金型のうち、前記底壁部を形成する底型を離型させる離型工程の際、前記変形筒部の外表面と、前記底型のキャビティ面と、の間の境界部を、前記底型に設けられた接続孔を通して前記金型の外部に接続しておき、
前記キャビティ内で前記ボトルを成形するブロー成形工程の際、前記キャビティ内が前記接続孔を通して前記金型の外部に開放されていて、
前記離型工程の際、前記境界部のうち、前記立ち上がり周壁部よりもボトル径方向の内側に位置する部分であって前記可動壁部が位置する部分を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続する」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点。

上記相違点について検討する。

引用文献2の第2頁右上欄第20行-同頁右下欄第4行(特に第2頁左下欄第6行-同欄第9行、同頁同欄第17行-同頁右下欄第1行)及び図面には、有底中空体(本件発明1の「ボトル」に相当)を成形するにあたり、延伸吹込成形時及び成形品取り出し工程(離型)時に、バルブ11を開にすることでリークを行うこと、つまり、有底中空体の底部と型の間の空間と型の外部空間を連通させるという技術事項が記載されている。
しかしながら、引用文献2は、その特許請求の範囲第1項に記載されているように、「有底中空体を成形したのち,割金型を開ける以前に該割金型内を減圧となし,有底中空成形品を金型に密着させ加熱工程における成形品の収縮変形を抑え,加熱気体を成形品内部に吹込むことにより,有底中空成形品を緊張下で熱処理する」延伸吹込成形品の熱固定法であり、割金型を開ける前の加熱工程において、減圧工程を必須とするものである。
してみると、そもそも減圧工程を有するものではない引用発明において、減圧工程を必須とする引用文献2に記載の技術事項を組み合わせることは、当業者であったとしても容易になし得たこととはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を有することで、本件特許明細書の段落【0008】に記載するように、離型工程の際、変形筒部の外表面を底型のキャビティ面から解放して変形筒部が底型に張り付くのを抑えることが可能になり、ボトルを高精度に形成することができる、との効果を奏するものであり、このような効果についても、引用文献1、2の何れの記載からも、当業者が予測し得たものとは認められない。

してみれば、本件発明1は、引用発明および引用文献2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?4について

本件発明2?4は、それぞれ、請求項1を引用し、接続孔の配置や、変形筒部の形状についてさらに特定するものである。
上記アのとおり、本件発明1は、引用発明および引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2?4もまた、引用発明および引用文献2の記載事項並びに引用文献3?5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第4 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について

以下、取消理由通知で採用しなかった、特許異議申立書における申立理由について、順次検討する。

1 特許法第29条第2項(進歩性)について

(1)特許異議申立人の主張の概略

特許異議申立人の主張の概略は次のとおりである。

本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証?甲第9号証の記載事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開2010/061758号
甲第2号証:特開平5-345350号公報
甲第3号証:特表2009-502561号公報
甲第4号証:特開2006-264035号公報
甲第5号証:特開平4-131220号公報
甲第6号証:特開平7-323471号公報
甲第7号証:特開昭53-78267号公報
甲第8号証:特開昭53-125470号公報
甲第9号証:特開2010-264723号公報

(2)検討

ア 甲第1号証に記載された事項等

甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

「[請求項1] 2軸延伸ブロー成形された合成樹脂製壜体であって、底部(5)の底面に、周縁部(12)に周設した接地部(12g)の内周端を基端として、減圧時における壜体内部方向への陥没変形が可能に底面壁を壜体の内部方向に陥没させて形成した陥没部(17)を有し、前記陥没部(17)は、周縁部に前記接地部(12g)の内周端直近から起立状に周設される陥没周壁部(15)と、中央部にドーム状に陥没形成される陥没凹部(16)と、前記陥没周壁部(15)の上端部と陥没凹部(16)の基端部を連結し、反転変形可能に形成される平板リング状の反転壁部(13)を有し、さらに前記陥没周壁部(15)の上端部と反転壁部(13)の連結部に、周リブとしての機能を発揮する周リブ壁部(14)を配設する構成とした合成樹脂製壜体。」

「[0045] 以下、本発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による合成樹脂製壜体の第1実施例を示すものであり、(a)は正面図、(b)は底面図である。この壜体1は口筒部2、肩部3、円筒状の胴部4、底部5を有し、容量が350mlのPET樹脂製の2軸延伸ブロー成形品である。
[0046] 胴部4には3ケの周溝リブ7を形成して面剛性を高くして、高い形状保形性を有するものとなっている。この胴部4の下端には湾曲筒状に成形されたヒール壁部11を介して底部5が連設されているが、この底部5の底面には周縁部12に接地部12gが周設されている。
[0047] また、底部5の底面には接地部12gの内周端を基端として底面壁を壜体1内部方向に陥没させて陥没部17を形成している。この陥没部17は壜体1内部が減圧状態となった際にさらに壜体1の内部方向に陥没変形して減圧吸収機能を発揮する。
[0048] 上記陥没部17の詳細な構成は次のようである。
すなわち、この陥没部17は、周縁部に接地部12gの内周端直近から起立状に周設される陥没周壁部15と、中央部にドーム状に陥没形成される陥没凹部16と、陥没周壁部15の上端部と陥没凹部16の基端部を連結する平板リング状の反転壁部13から形成され、
さらに、陥没周壁部15の上端部と反転壁部13の連結部に周リブとしての機能を発揮する周リブ壁部14の一実施形態である平坦でリング状のリング状平坦部14aを形成するようにしている。
ここで、反転壁部13は壜体の内部方向に反転変形可能に、壜体の外部方向に向かって緩やかな凸状に形成されている。
[0049] 図2は図1の壜体1に内容液を高温充填し、キャップ21で密閉し、壜体内部が減圧状態となった際における陥没部17の陥没変形の様子を見たもので、(a)は正面図、(b)は底面図である。
図2(a)中、2点鎖線で示す図1の状態から、反転壁部13が壜体1の内部方向に反転変形し、その結果、矢印で示されるように陥没部17が壜体1の内部方向に陥没変形し、減圧吸収機能を発揮する。
なおこの際、陥没部17の陥没変形に伴なって液面Lfが口筒部2の下端直下の高さ位置にまで上昇している。」

「[図2]



以上の記載、特に、段落[0044]?[0048]及び[図2]の記載に着目しつつ、総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「有底筒状に形成され、底部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する陥没部と、が備えられ、
前記陥没部は、前記接地部の内周端を基端として底面壁を壜体内部方向に陥没させて形成したものであって、周縁部に接地部の内周端直近から起立状に周設される陥没周壁部と、中央部にドーム状に陥没形成される陥没凹部と、陥没周壁部の上端部と陥没凹部の基端部を連結する平板リング状の反転壁部から形成され、反転壁部は壜体の内部方向に反転変形可能に、壜体の外部方向に向かって緩やかな凸状に形成されている合成樹脂製壜体の製造方法であって、
2軸延伸ブロー成形により製造する、合成樹脂製壜体の製造方法。」

なお、特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明は、「多段有頂筒状の変形筒部」を有するものである旨主張としているが、甲第1号証からは、陥没部(変形筒部)が多段の筒状であることまでは認められるものの、「多段有頂筒部」であることを導き出すことはできない。

イ 対比・判断

(ア)本件発明1について

甲1発明の「陥没部」、「陥没周壁部」、「合成樹脂製壜体」はそれぞれ、本件発明1の「変形筒部」、「立ち上がり周壁部」、「ボトル」に相当する。また、甲1発明の「陥没周壁部」は、接地部の内周端直近から起立状に周設されるものであるから、本件発明1の「立ち上がり周壁部」が、接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる構造と同じであるといえる。
さらに、甲1発明の陥没部における、「反転壁部」は壜体の内部方向に反転変形可能に、壜体の外部方向に向かって緩やかな凸状に形成されているものであって、中央部にドーム状に陥没形成される陥没凹部と、陥没周壁部の上端部と陥没凹部の基端部を連結するものであるから、本件発明1の立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設され、変形筒部における、立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の「可動壁部」に相当するものといえる。

そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「有底筒状に形成され、底壁部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する変形筒部と、が備えられ、
前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え、
前記可動壁部が、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設されたボトルを、金型を用いたブロー成形により形成するボトルの製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
変形筒部について、本件発明1は「多段有頂筒状」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。

(相違点2)
ボトルの製造方法に関して、本件発明1は、「前記金型のキャビティ内で成形された前記ボトルから、前記金型のうち、前記底壁部を形成する底型を離型させる離型工程の際、前記変形筒部の外表面と、前記底型のキャビティ面と、の間の境界部を、前記底型に設けられた接続孔を通して前記金型の外部に接続しておき、前記キャビティ内で前記ボトルを成形するブロー成形工程の際、前記キャビティ内が前記接続孔を通して前記金型の外部に開放されていて、前記離型工程の際、前記境界部のうち、前記立ち上がり周壁部よりもボトル径方向の内側に位置する部分であって前記可動壁部が位置する部分を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続する」ものであるのに対して、甲1発明には具体的な製造方法について特定されない点。

先ず相違点1について検討する。

甲1発明の合成樹脂製壜体は、
「有底筒状に形成され、底部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する陥没部と、が備えられ、
前記陥没部は、前記接地部の内周端を基端として底面壁を壜体内部方向に陥没させて形成したものであって、周縁部に接地部の内周端直近から起立状に周設される陥没周壁部と、中央部にドーム状に陥没形成される陥没凹部と、陥没周壁部の上端部と陥没凹部の基端部を連結する平板リング状の反転壁部から形成され、反転壁部は壜体の内部方向に反転変形可能に、壜体の外部方向に向かって緩やかな凸状に形成されている」
ものであり、甲第1号証の図2、あるいは他の図面も含めて見ても、多段の筒状であることは見て取れるものの、「多段有頂筒状」とすることについては、甲第1号証全体の記載を通じてみても、示唆する記載はない。
また、甲第2号証?甲第9号証の何れにおいても、容器底部に「多段有底筒状の変形筒部」を設けることについて示唆する記載はなく、また、容器底部に「多段有底筒状の変形筒部」を設けることが本件特許出願時において、当該技術分野において周知のものであったともいえない。

してみれば、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明および甲第2号証ないし甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?4について

本件発明2?4は、それぞれ、請求項1を引用し、離型工程の際における金型と外部の接続方法を特定するものである。
上記(ア)のとおり、本件発明1は、甲1発明および甲第2号証ないし甲第9号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2?4もまた、甲1発明および甲第2号証ないし甲第9号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、同条同項第2号(明確性)について

(1)特許異議申立人の主張の概略

特許異議申立人の主張の概略(申立書第27頁第1行ないし第29頁第8行)は次のとおりである。

ア 本件発明1では、製造対象とするボトルの底壁部に、「多段有頂筒状の変形筒部」を備えるとしているが、「前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え」と規定するだけであり、「可動壁部」のボトル径方向の内側が、どのような形態を備えているかが特定されていない。
したがって、「可動壁部」のボトル径方向の内側に、例えば、平板状(円板状)に形成され、筒状に形成されていない形態を備えたものまでも包含されると解しうる。
そして、本件明細書の段落【0005】、【0008】、【0025】、【0026】、【0056】などの記載を参酌すると、「可動壁部」のボトル径方向の内側に、例えば、平板状(円板状)に形成され、筒状に形成されていない形態を備えたものまでも包含されると解しうる本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

イ さらに、「可動壁部」のボトル径方向の内側の形態について特定されていないことにより、上記のように解しうる本件発明1は、「多段有頂筒状」の解釈に疑義が生じるため発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ウ 本件発明1を引用する本件発明2及び3は、「可動壁部」のボトル径方向の内側の形態について特定していないから、本件発明1と同様である。

(2)検討

(1)の主張のア?ウの順に対応して、以下、ア?ウで順次検討する。

ア 本件発明1は、「ボトルを高精度に形成することができるボトルの製造方法を提供すること」(段落【0006】)を課題とし、その解決手段として、「有底筒状に形成され、底壁部に、外周縁部に位置する接地部と、前記接地部に立設され前記接地部の内側を閉塞する多段有頂筒状の変形筒部と、が備えられ、前記変形筒部は、前記接地部にボトル径方向の内側から連なり、ボトル軸方向の内側である上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、前記立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、を備え、前記可動壁部が、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に上方に向けて移動自在に配設されたボトルを、金型を用いたブロー成形により形成するボトルの製造方法」であって、「前記金型のキャビティ内で成形された前記ボトルから、前記金型のうち、前記底壁部を形成する底型を離型させる離型工程の際、前記変形筒部の外表面と、前記底型のキャビティ面と、の間の境界部を、前記底型に設けられた接続孔を通して前記金型の外部に接続しておき、前記キャビティ内で前記ボトルを成形するブロー成形工程の際、前記キャビティ内が前記接続孔を通して前記金型の外部に開放されていて、前記離型工程の際、前記境界部のうち、前記立ち上がり周壁部よりもボトル径方向の内側に位置する部分であって前記可動壁部が位置する部分を、前記接続孔を通して前記金型の外部に接続すること」により、「離型工程の際、前記境界部を、接続孔を通して金型の外部に接続しておくので、ボトルから底型を離型するときに、金型の外部から接続孔を通して境界部に空気を供給することができる。これにより、変形筒部の外表面を底型のキャビティ面から解放して変形筒部が底型に張り付くのを抑えることが可能になり、ボトルを高精度に形成することができる」(段落【0007】?【0008】)ものである。してみると、「立ち上がり周壁部」の具体的形状に関わりなく、底型の「立ち上がり周壁部」よりもボトル径方向の内側に位置する部分に「接続孔」を設け、ブロー成型工程及び離型工程の際、金型の内部と外部を接続することで、上記課題を解決するものであることは、当業者であれば当然理解できる。
したがって、当業者は、本件発明1のボトルの製造方法によって、本件発明1の上記課題を解決できると認識できるので、特許異議申立人の上記主張(1)アは失当である。

イ 「多段有頂筒部」は、頂きを有する形状である以上、環状の尾根ではなく、図2のような山が個別に並んだものであると解釈するべきであり、その点で明確であるから、特許異議申立人の上記主張(1)イは失当である。

ウ 本件発明1を引用する本件発明2、3においても、上記ア、イで検討したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張(1)ウの主張は失当である。

(3)判断
上記(2)ア?ウの検討のとおりであるから、本件発明1?3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたもの、つまり、本件発明1?3に係る特許出願は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものといえる。また、本件発明1?3は、明確であるから、本件発明1?3に係る特許出願は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものといえる。


第5 結論

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-27 
出願番号 特願2013-226997(P2013-226997)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
植前 充司
登録日 2018-08-24 
登録番号 特許第6389359号(P6389359)
権利者 株式会社吉野工業所
発明の名称 ボトルの製造方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 仁内 宏紀  
代理人 鈴木 三義  

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