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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
異議2018701011 審決 特許
異議2021700592 審決 特許
無効2018800122 審決 特許
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1355979
異議申立番号 異議2019-700557  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-16 
確定日 2019-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6453897号発明「遅消化性持続型エネルギー補給剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6453897号の請求項1ないし5、7ないし11、13ないし21に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6453897号の請求項1ないし21に係る特許についての出願は、2015年9月18日を国際出願日とするものであって、平成30年12月21日に特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日にその特許公報が発行され、その後、令和1年7月16日に、特許異議申立人 篠崎(原文では、「さき」の右上の「大」の部分が「立」の一部) 哲也(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?5、7?11、13?21に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1?5、7?11、13?21に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」、「本件特許発明7」?「本件特許発明11」、「本件特許発明13」?「本件特許発明21」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
下記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)を満たす糖質組成物を含んでなる、遅消化性持続型エネルギー補給剤:
(A)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上である、
(B)重合度1および2の糖質の全糖質に対する含有量が9質量%以下である、
(C)重合度3?30の糖質の全糖質に対する含有量が41質量%以上である、
(D)重合度31以上の糖質の全糖質に対する含有量が40質量%以下であるおよび
(E)重合度10?30の糖質の全糖質に対する含有量が20質量%以上である。
【請求項2】
糖質組成物が重合度3?9の糖質を全糖質に対して3質量%以上含有する、請求項1に記載のエネルギー補給剤。
【請求項3】
糖質組成物がデキストラン分解物またはその分画処理物である、請求項1または2に記載のエネルギー補給剤。
【請求項4】
(A)において、(A-1)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が90%以上である、請求項1?3のいずれか一項に記載のエネルギー補給剤。
【請求項5】
糖質組成物がデキストラン生成酵素反応産物またはその分画処理物である、請求項1または2に記載のエネルギー補給剤。
【請求項6】
(A)において、(A-2)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60?99%であり、かつ、α-1,6結合以外のグリコシド結合に対するα-1,4結合の比率が80%以上である、請求項1、2および5のいずれか一項に記載のエネルギー補給剤。
【請求項7】
血中グルコース値の変化を緩徐にしつつエネルギー補給するための、請求項1?6のいずれか一項に記載のエネルギー補給剤。
【請求項8】
炭水化物由来のエネルギーを必要とするが、該エネルギー摂取による血中グルコース値の変化を緩徐にする必要がある者に摂取させるための、請求項1?7のいずれか一項に記載のエネルギー補給剤。
【請求項9】
下記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)を満たす糖質組成物:
(A)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上である、
(B)重合度1および2の糖質の全糖質に対する含有量が9質量%以下である、
(C)重合度3?30の糖質の全糖質に対する含有量が41質量%以上である、
(D)重合度31以上の糖質の全糖質に対する含有量が40質量%以下であるおよび
(E)重合度10?30の糖質の全糖質に対する含有量が20質量%以上である。
【請求項10】
糖質組成物が重合度3?9の糖質を全糖質に対して3質量%以上含有する、請求項9に記載の糖質組成物。
【請求項11】
(A)において、(A-1)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が90%以上である、請求項9または10に記載の糖質組成物。
【請求項12】
(A)において、(A-2)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60?99%であり、かつ、α-1,6結合以外のグリコシド結合に対するα-1,4結合の比率が80%以上である、請求項9または10に記載の糖質組成物。
【請求項13】
請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物を含んでなる、飲食品。
【請求項14】
飲食品100キロカロリーあたり請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物を6?25g含有する、請求項13に記載の飲食品。
【請求項15】
遅消化性持続型エネルギー補給用の、請求項13または14の飲食品。
【請求項16】
請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物を有効成分として含んでなる、血中グルコース値の変化を緩徐にすることがその治療または予防に有効である疾患または症状の治療および予防剤。
【請求項17】
請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物または請求項13?15のいずれか一項に記載の飲食品を哺乳動物に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、エネルギー補給方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項18】
請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物または請求項13?15のいずれか一項に記載の飲食品を哺乳動物に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、血中グルコース値の変化を緩徐にすることがその治療または予防に有効である疾患または症状の治療および/または予防方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項19】
遅消化性持続型エネルギー補給剤または遅消化性持続型エネルギー補給用飲食品としての請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物の使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項20】
遅消化性持続型エネルギー補給剤または遅消化性持続型エネルギー補給用飲食品の製造のための請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物の使用。
【請求項21】
血中グルコース値の変化を緩徐にすることにより治療および/または予防できる疾患の治療および/または予防用医薬の製造のための、請求項9?12のいずれか一項に記載の糖質組成物の使用。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要は以下のとおりである。

(1)請求項9?11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)請求項1?5,7,8?11,13?21に係る発明の特許は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証に記載された技術的事項により、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 文献の記載
(1)甲第1号証
(1a)「1 緒言
デキストランはグルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有している,・・・デキストランのように分子量が大きな物質でその生理作用や特性が分子量に大きく依存する場合には,分子量及び分子量評価が重要な問題となる.分子量測定法には,末端基定量や浸透圧など数平均分子量(M_(n))を求めるものと,光散乱や沈降平均などの重量平均分子量(M_(w))を求めるものがあり,これらは絶対分子量測定法である.そのほかに相対的な方法として,粘度測定法やサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)がある.・・・又,SECではM_(w)が既知の一連の試料についてM_(w)と溶出容量の関係から,較正曲線を求めておかなくてはならない.分子量測定法は特殊な装置と高度の熟練を要するものが多いが,SECはHPLCの一種であるための装置,操作の一般性と,クロマトグラムから容易に分子量分布に関する情報を得ることができるという利点から,最も採用されやすい方法と言える.・・・
現在の各薬局方におけるデキストランの分子量評価法をまとめてみると,従来デキストランのモノグラフが収載されていた英国薬局方(BP),日本薬局方(JP)では極限粘度で分子量規格を設定しており,JPは現在も粘度規格を採用している.最近デキストランの分子量測定に関して,1991年にアメリカ薬局方(USP)フォーラムで,1992年にPharmaeuropaでSECの導入が相次いで提案され,その後,BPでは1996年のAddendumでAppendix C.SECの中にデキストランの分子量分布という項目が入れられ^(2)),ヨーロッパ薬局方(EP)では1997年に2.2.39.デキストランの分子量分布,という独立した項が設けられた^(3)).」(979頁左欄下から8行?980頁左欄25行)

(1b)「2 実験
2・1 試薬
デキストランとしてJP注射用デキストラン40及び注射用デキストラン70,市販デキストラン製剤としてデキストラン40注射液,ブドウ糖含有デキストラン40注射液,デキストラン70注射液,ブドウ糖含有デキストラン70注射液を用いた.EP法における分子量標準品として,ファルマシア製校正用デキストラン標準品のデキストラン4,10,40,70及び250,ファルマシア製デキストラン T2000,ブドウ糖を用いた.通常のSEC法における分子量標準品として,昭和電工製プルラン標準品P-82を用いた.」(980頁右欄3?14行)

(1c)「

図1 デキストラン標準品の溶出曲線とEP法に従って計算された較正曲線ピーク:1,デキストラン250(M_(w),238.2×10^(3));2,デキストラン70(M_(w),70.3×10^(3));3,デキストラン40(M_(w),40.9×10^(3));4,デキストラン10(M_(w),10.5×10^(3));5,デキストラン4(M_(w),3.8×10^(3));6,グルコース」(981頁図1)

(1d)「3 結果及び考察
3・1 EP法によるSEC校正
・・・
デキストラン標準品のSECによるM_(w)が光散乱によるM_(w)と5%以内の差で計算されるようにb_(1)-b_(5)の最適値を近似して分子量較正曲線を求めた。
EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線をFig.1に示した.Fig.1中のプロットはそれぞれのピークトップ位置を示しており,分子量が大きな標準品ほど近似により得られた較正曲線から上側にずれている.」(981頁左欄図下1?22行)

(1e)「
表1 EP法に従って光散乱とSECによって得られたデキストラン校正標準品の分子量の比較

ファルマシア(株)によって提案された値
」(981頁右欄Table 1)

(1f)「Fig.1を用いて,デキストラン標準品の重量分子量M_(w)を求め,ファルマシア社により求められている光散乱法でのM_(w)との差%,数平均分子量との比M_(w)/M_(n)値をあわせてTable 1にまとめた.絶対測定法によるM_(w)値との差は最大3.9%で,5%以下という許容範囲内にあり,近似が十分行われたことを意味している.」(981頁右欄下から8?2行)

(2)甲第2号証
(2a)「デキストラン[dextran]=α-1,6-グルカン. 乳酸菌に属するLeuconostoc mesenteroides などによってスクロースから生成するα1→6結合を主体とする粘質性のグルカン.・・・デキストランの部分加水分解物(分子量約75,000)が血漿増量剤として有効なことが見いだされて(クリニカルデキストラン,clinical dextran),工業規模で生産されるようになった.スクロース中のグルコース残基がデキストランスクラーゼ(dextran sucrase)の作用でプライマーにα1→6結合して転移されることによって合成される.・・・これまで数十種のデキストラン生成菌が見いだされており,菌株によりα1→6結合の含量が変動するが,一般には65%以上のα1→6結合を有するグルカンをデキストランとよぶ.他の結合としてはα1→3,α1→2結合が含まれているが,多くの場合分岐点として存在している.」(928頁右欄下から11行?929頁左欄16行)

(2b)「

」(928頁右欄「デキストラン」の項目の図)

(3)甲第3号証
訳文にて示す。
(3a)「食品及び飲料組成物用のゆっくりと消化される炭水化物材料」(1頁1?2行)

(3b)「本発明は、食品及び飲料組成物への特定の炭水化物材料の使用と、前記特定の炭水化物材料を含む食品及び飲料組成物に関する。」(1頁3?5行)

(3c)「上記特定の炭水化物材料は、マルトースと比較して、小腸通過時のグルコースの放出が遅く、したがって体内へのグルコースの吸収が遅い炭水化物材料であると定義される。」(1頁22?24行)

(3d)「上記特定の炭水化物材料の用途はたくさんある。すなわち、それら特定の炭水化物材料は、血清グルコースレベルの有意な上昇を伴うことなく、糖尿病患者に十分な炭水化物を届けるために使用することができる。また、耐糖能の低下に直面している高齢者の食事に上記特定の炭水化物材料を追加すると有益な効果が得られると考えられる。」(2頁1?5行)

(3e)「上記炭水化物材料は、運動中のスポーツ選手に対し、安定してコンスタントに炭水化物を供給することができる。また、成長期の子供のための食品及び/又はサプリメント、そしていわゆる「エネルギー飲料」にも使用できる。」(2頁7?10行)

(3f)「本発明は、一定量のα-1,6-D-グルコピラノシド結合が前記特定の炭水化物材料として使用できるという発見に基づいている。本発明によれば、上記特定の炭水化物材料は、少なくともその5%がα-1,6-D-グルコピラノシド結合からなるグルコシド主鎖を含む。好ましくは、上記特定の炭水化物材料のグルコシド主鎖の少なくとも10%はα-1,6-D-グルコピラノシド結合からなっている。より好ましい実施形態では、上記特定の炭水化物材料のグルコシド主鎖の少なくとも30%はα-1,6-D-グルコピラノシド結合からなっている。」(2頁11?18行)

(3g)「第1の態様によれば、本発明は、少なくとも5%がα-1,6-D-グルコピラノシド結合からなるグルコシド主鎖を含む炭水化物材料の食品及び/又は飲料の成分としての用途を提供する。前記成分は腸内酵素の存在下で加水分解を受けた場合、同じ条件下でのマルトースの加水分解速度の0.8倍を超えない速度で加水分解され、その結果、低レベルのグルコースが長時間にわたって放出される。」(2頁19?24行)

(3h)「より好ましくは、上記特定の炭水化物材料は、腸内酵素の存在下で、6時間を超えない時間、加水分解を受けると、同じ条件下でのマルトースの加水分解速度の0.1?0.6倍の範囲内の速度で加水分解される。」(2頁25行?3頁2行)

(3i)「本発明の好ましい実施形態によれば、上記特定の炭水化物材料は、イソマントース、デキストラン、プルラン、アルテルナンおよびこれらのうちの2つ以上の混合物から選択される。」(3頁12?14行)

(3j)「上記特定の炭水化物材料は、スポーツ飲料またはエネルギー飲料の成分として有利に使用することができる。」(4頁22?23行)

(3k)「飲食品組成物中に上記特定の炭水化物材料が存在することで、前述したとおり、グルコースの放出がより遅くなり、したがって体内へのグルコースの吸収がよりゆっくりとなる。これは低血糖インデックスと相関している。」(4頁25?27行)

(3l)「実施例2:ラット腸管アセトン粉末によるデキストランのインビトロ加水分解
2.5%ラット腸管アセトン粉末溶液を10%ラット腸管アセトン粉末溶液で置き換えたことを除いて、実施例1と同じ実験手順に従った。異なる分子量のデキストランを基質として使用した。Mwが約1000、約5000、約12000、約25000、約50000、約80000、約150000および約270000のデキストランは、Fluka製であった。デキストランT-500(Mw約500000)およびT-2000(Mw約2000000)はAmersham Pharmacia Biotech から入手した。結果を表2に示す。」(6頁本文下から1?8行)

(3m)「

」(6頁表2)

(3n)「この実施例は異なる重合度を有する一連のデキストランポリマーの加水分解速度を示す。この実施例はマルトースに比べてグルコースの放出が遅いことを示している。」(7頁1?3行)

(3o)「実施例4:スポーツ用またはアイソトニック用の飲料組成物
飲料1リットルの成分:
炭水化物材料^(*) 30g
スクロース 40g
塩化ナトリウム 1.27g
クエン酸 1g
オレンジフレーバー 2g
安息香酸ナトリウム(10%w/v) 1.5ml
水 加えて1リットルとする
・・・
* 少なくとも5%がα-1,6-D-グルコピラノシド結合を含むグルコシド主鎖を含む炭水化物材料」(8頁1?11行)

第4 当審の判断
当審は、請求項1?5、7?11、13?21に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲第1号証に記載された発明の認定
(1)甲第1号証の摘記(1a)には、デキストランがグルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有していること、ヨーロッパ薬局方(EP)では1997年にデキストランの分子量分布という独立した項が設けられたことが記載されている。
そして、摘記(1b)?(1d)には、EP法における分子量標準品として、校正用デキストラン標準品の一つとしてデキストラン4を用いたことが示され、EP法に従って計算された較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線を示したFig.1中に、曲線の一つとしてデキストラン4(M_(w),3.8×10^(3))の溶出曲線が示されている。

(2) したがって、甲第1号証には、デキストランの分子構造の記載とデキストラン4に関する測定結果の記載から以下の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)

「グルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有しているデキストランであって、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線により示された校正用デキストラン標準品であるデキストラン4」

2 本件特許発明1と甲1発明との対比
(1)甲1発明の「EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線により示された校正用デキストラン標準品であるデキストラン4」は、摘記(1c)の縦軸分子量の対数、横軸溶出時間の図1の溶出曲線からみて、一定の分子量分布を有するデキストランの組成物であり、「デキストラン」は、グルコースからなる糖質であるから、本件特許発明1の「糖質組成物」に相当する。
また、甲1発明の「グルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有している」「デキストラン4」は、本件特許発明1の「(A)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上である、」「糖質組成物」と、グルコースの主としてα-1,6結合からなる糖質組成物である限りにおいて共通している。

(2)従って、本件特許発明1と甲1発明とは、「グルコースの主としてα-1,6結合からなる糖質組成物」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1が、糖質組成物を含んでなる、遅消化性持続型エネルギー補給剤と特定されているのに対して、甲1発明においては、校正用デキストラン標準品であるデキストラン4である点

相違点2:糖質組成物のα-1,6結合の比率に関して、本件特許発明1が、全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上であると特定されているのに対して、甲1発明においては、グルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有していると特定されている点

相違点3:糖質の重合度の各範囲の割合について、本件特許発明1では、「下記」「(B)、(C)、(D)および(E)を満たす」
「(B)重合度1および2の糖質の全糖質に対する含有量が9質量%以下である、
(C)重合度3?30の糖質の全糖質に対する含有量が41質量%以上である、
(D)重合度31以上の糖質の全糖質に対する含有量が40質量%以下であるおよび
(E)重合度10?30の糖質の全糖質に対する含有量が20質量%以上である」と特定されているのに対して、甲1発明においては、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線により示された校正用デキストラン標準品であるデキストラン4の糖質の重合度割合が不明である点

3 相違点の判断
(1)相違点1について
甲第1号証は、「注射用デキストランのサイズ排除クロマトグラフィーによる分子量測定と分子量標準品に関する検討」と題する報文であって、甲第1号証には、糖質組成物を含んでなる、遅消化性持続型エネルギー補給剤に関する記載も示唆もなされていない。
また、甲第2号証の辞典の用語の記載を見てもデキストランを遅消化性持続型エネルギー補給剤に用いることを示す記載も示唆もない(摘記(2a))。
そして、甲第3号証は、食品及び飲料組成物用のゆっくりと消化される炭水化物材料に関する文献ではあって(摘記(3a))、実施例において、異なる重合度を有するデキストランポリマーの加水分解速度がマルトースとの比較において、グルコースの放出が遅いことは示されているものの(摘記(3l)?(3n))、甲1発明である校正用デキストラン標準品であるデキストラン4が、遅消化性持続型エネルギー補給剤であることは示されていない。
また、注射用デキストランのサイズ排除クロマトグラフィーによる分子量測定と分子量標準品に関する検討において、一つの標準品として使用されているにすぎない甲1発明のデキストラン4において、それを含んでなる遅消化性持続型エネルギー補給剤という用途特定をすることに動機付けがあるとはいえない。

(2)相違点2について
甲第1号証には、主としてα-1,6結合からなることは示されているものの、全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上であることは記載されていない。 また、甲第2号証の辞典を参酌しても、「デキストラン・・・スクロースから生成するα1→6結合を主体とする粘質性のグルカン.・・・デキストランの部分加水分解物(分子量75,000)が血漿増量剤として有効なことが見いだされて(クリニカルデキストラン,clinical dextran),工業規模で生産されるようになった.スクロース中のグルコース残基がデキストランスクラーゼ(dextran sucrase)の作用でプライマーにα1→6結合して転移されることによって合成される.・・・これまで数十種のデキストラン生成菌が見いだされており,菌株によりα1→6結合の含量が変動するが,一般には65%以上のα1→6結合を有するグルカンをデキストランとよぶ.他の結合としてはα1→3,α1→2結合が含まれているが,多くの場合分岐点として存在している.」(摘記(2a))(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載されており、デキストラン生成菌の菌株によりα1→6結合の含量が変動することや、「一般には65%以上のα1→6結合を有するグルカンをデキストランとよぶ」との記載や「代表的なデキストランの構造」(摘記(2b))との記載では、分子量分布も構造も異なる甲1発明のデキストラン4の正確な全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上であるとはいえない。
また、甲第3号証摘記(3f)(3g)からみても、炭水化物材料に関して、α-1,6結合の比率を少なくとも5%、10%、30%と特定しているに過ぎないにもかかわらず、甲1発明のデキストラン4の全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率を、敢えて60%以上にすることに動機付けがあるともいえない。

(3)相違点3について
ア 甲第1号証には、校正用デキストラン標準品の一つであるデキストラン4に関して、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線が示されているだけで、デキストラン標準品であるデキストラン4の糖質の重合度の各範囲の割合について、本件特許発明1で特定されるような「(B)重合度1および2の糖質の全糖質に対する含有量が9質量%以下である、
(C)重合度3?30の糖質の全糖質に対する含有量が41質量%以上である、
(D)重合度31以上の糖質の全糖質に対する含有量が40質量%以下であるおよび
(E)重合度10?30の糖質の全糖質に対する含有量が20質量%以上である」ことについては、直接の記載がなく、(B)?(E)の特定事項が記載されているに等しいともいえない。
また、甲第1号証には、上述のとおり、甲1発明である校正用デキストラン標準品の一つとしてデキストラン4のEP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線が示されているだけであるから、重合度を特定の範囲で区切る思想やその区切った特定の範囲で各範囲の全糖質に対する含有量をさらに特定しようとする技術思想は何ら示されていない。
さらに、甲第2号証、甲第3号証の記載を参酌しても、上記の点は何ら記載されていないから、上記相違点3は、甲第1号証に記載されているに等しいともいえないし、甲第1?3号証に記載された技術的事項から容易に想起できるものともいえない。

イ 異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書16?18頁において、「「デキストラン4」の重合度分布の求め方」と題する令和1年7月16日付け資料1を提出し、甲第1号証981頁のFig.1中のデキストラン4の溶出曲線から求めた重合度分布を示し、甲第1号証に記載された発明として、「a:下記(b)、(c)、(d)および(e)を満たすデキストラン組成物:
(b)重合度1および2のデキストランの全デキストランに対する含有量が0.3質量%である、
(c)重合度3?30のデキストランの全デキストランに対する含有量が75.5質量%である、
(d)重合度31以上のデキストランの全デキストランに対する含有量が24.2質量%である、および
(e)重合度10?30のデキストラン質の全デキストランに対する含有量が54.3質量%である。」が認定できる旨主張している。

しかしながら、異議申立人の主張する発明は、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線を示すためのFig.1に標準品の一つとして示されたデキストラン4の溶出曲線から、縦軸「log M」と横軸「時間/分」の数値を画像データとして読み取り、該データを拡大して縦軸の数値を決定し、さらに計算によって算出した重合度分布に基づく発明である。
上述のとおり、甲第1号証は、「注射用デキストランのサイズ排除クロマトグラフィーによる分子量測定と分子量標準品に関する検討」と題する報文であって、Fig.1も、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線を他の溶出曲線と比較して示すためのものであるから、重合度を特定の範囲で区切る思想やその区切った特定の範囲で各範囲の全糖質に対する含有量をさらに特定しようとする技術思想は何ら示されていないし、拡大しなければ数値が決定できないように、そもそもそこまでの算出をするための曲線であるともいえない。
したがって、デキストラン4の溶出曲線から、縦軸「log M」と横軸「時間/分」の数値を画像データとして読み取り、画像拡大や計算によって算出した重合度分布が仮に本件特許発明の(B)?(E)の条件を形式的に満たしたからといって、上記異議申立人の主張する発明は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(4)効果について
本件特許発明1は、【0069】?【0099】及び【図1】?【図12】に示されるように、(A)?(E)の特定を満たす糖質組成物が遅消化性でかつ持続的消化性の糖質として極めて有用で血中グルコース値を大きく変動させないという効果を示しているものであり、そのような本件特許発明1の効果は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項から当業者が予測できる範囲を超える顕著なものであるといえる。

(5)小括
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

4 本件特許発明2?5,7?8と甲1発明との対比
(1)本件特許発明2は、本件特許発明1において、「糖質組成物が重合度3?9の糖質を全糖質に対して3質量%以上含有する」こと、本件特許発明3は、本件特許発明1?2において、「糖質組成物がデキストラン分解物またはその分画処理物である」こと、本件特許発明4は、本件特許発明1?3において、「(A)において、(A-1)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が90%以上である」ことを、本件特許発明5は、本件特許発明1?2において、「糖質組成物がデキストラン生成酵素反応産物またはその分画処理物である」ことをそれぞれさらに技術的に限定したものであるが、上記3の本件特許発明1と甲1発明との対比で検討したのと同様に、本件特許発明2?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件特許発明7は、本件特許発明1?6において、「血中グルコース値の変化を緩徐にしつつエネルギー補給するための」ものであること、本件特許発明8は、本件特許発明1?7において、「炭水化物由来のエネルギーを必要とするが、該エネルギー摂取による血中グルコース値の変化を緩徐にする必要がある者に摂取させるための」のものであることをそれぞれさらに技術的に限定したものである。
そして、甲第3号証には、摘記(3d)に、特定の炭水化物材料は、血清グルコースレベルの有意な上昇を伴うことなく、糖尿病患者に十分な炭水化物を届けるために使用することができ、耐糖能の低下に直面している高齢者の食事に上記特定の炭水化物材料を追加すると有益な効果が得られると考えられることに関して記載はあるものの、上記3の本件特許発明1と甲1発明との対比で検討したのと同様に、本件特許発明7,8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

5 本件特許発明9?11と甲1発明との対比
(1)本件特許発明9と甲1発明との対比
甲1発明の「EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線により示された校正用デキストラン標準品であるデキストラン4」は、摘記(1c)の縦軸分子量の対数、横軸溶出時間の図1の溶出曲線からみて、一定の分子量分布を有するデキストランの組成物であり、「デキストラン」は、グルコースからなる糖質であるから、本件特許発明9の「糖質組成物」に相当する。
また、甲1発明の「グルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有している」「デキストラン4」は、本件特許発明9の「(A)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上である、」「糖質組成物」と、グルコースの主としてα-1,6結合からなる糖質組成物である限りにおいて共通している。

(2)従って、本件特許発明9と甲1発明とは、「グルコースの主としてα-1,6結合からなる糖質組成物」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-9:糖質組成物のα-1,6結合の比率に関して、本件特許発明9が、全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が60%以上であると特定されているのに対して、甲1発明においては、グルコースの主としてα-1,6結合からなるポリマーで,α-1,3あるいはα-1,4結合による分子構造を有していると特定されている点

相違点2-9:糖質の重合度の各範囲の割合について、本件特許発明9では、「下記」「(B)、(C)、(D)および(E)を満たす」
「(B)重合度1および2の糖質の全糖質に対する含有量が9質量%以下である、
(C)重合度3?30の糖質の全糖質に対する含有量が41質量%以上である、
(D)重合度31以上の糖質の全糖質に対する含有量が40質量%以下であるおよび
(E)重合度10?30の糖質の全糖質に対する含有量が20質量%以上である」と特定されているのに対して、甲1発明においては、EP法に従って得られたデキストランによる較正曲線及びデキストラン標準品の溶出曲線により示された校正用デキストラン標準品であるデキストラン4の糖質の重合度割合が不明である点

(3)相違点の判断
上記本件特許発明9と甲1発明の相違点1-9,2-9は、本件特許発明1と甲1発明との対比における相違点2,3にそれぞれ対応し、各相違点は実質的相違点であるから、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

また、前記3(2)?(4)で検討したのと同様に、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

(4)本件特許発明10は、本件特許発明9において、「糖質組成物が重合度3?9の糖質を全糖質に対して3質量%以上含有する」こと、本件特許発明11は、本件特許発明9?10において、「(A)において、(A-1)全グリコシド結合に対するα-1,6結合の比率が90%以上である」ことを、それぞれさらに技術的に限定したものであるが、上記(3)の本件特許発明9と甲1発明との対比で検討したのと同様に、本件特許発明10,11は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

6 本件特許発明13?21と甲1発明との対比
(1)本件特許発明13は、本件特許発明9?12において、該「糖質組成物を含んでなる、飲食品」と技術的に限定したもの、本件特許発明14は、「飲食品100キロカロリーあたり」本件特許発明9?12の「糖質組成物を6?25g含有する」本件特許発明13の「飲食品」と技術的に限定したもの、本件特許発明15は、本件特許発明13?14において、「遅消化性持続型エネルギー補給用」と技術的に限定したもの、本件特許発明16は、本件特許発明9?12において、該「糖質組成物を有効成分として含んでなる、血中グルコース値の変化を緩徐にすることがその治療または予防に有効である疾患または症状の治療および予防剤」と技術的に限定したものがそれぞれ記載されている。
甲第3号証には、デキストラン等の炭水化物を食品及び飲用組成物に含有させることに関しての記載や、特定の炭水化物材料が、血清グルコースレベルの有意な上昇を伴うことなく、糖尿病患者に十分な炭水化物を届けるために使用することができ、耐糖能の低下に直面している高齢者の食事に上記特定の炭水化物材料を追加すると有益な効果が得られると考えられることに関して記載はあるものの、上記5の本件特許発明9と甲1発明との対比で検討したのと同様に、本件特許発明13?16は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件特許発明17は、本件特許発明9?12の糖質組成物または本件特許発明13?15の飲食品を「哺乳動物に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、エネルギー補給方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)」として限定した発明が、本件特許発明18は、本件特許発明9?12の糖質組成物または本件特許発明13?15の飲食品を「哺乳動物に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、血中グルコース値の変化を緩徐にすることがその治療または予防に有効である疾患または症状の治療および/または予防方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)」として特定した発明が、本件特許発明19は、「遅消化性持続型エネルギー補給剤または遅消化性持続型エネルギー補給用飲食品としての」本件特許発明9?12の糖質組成物の「使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)」として特定した発明が、本件特許発明20は、「遅消化性持続型エネルギー補給剤または遅消化性持続型エネルギー補給用飲食品の製造のための」本件特許発明9?12の糖質組成物の「使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)」として特定した発明が、本件特許発明21は、「血中グルコース値の変化を緩徐にすることにより治療および/または予防できる疾患の治療および/または予防用医薬の製造のための」本件特許発明9?12の糖質組成物の「使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)」として特定した発明が記載されている。
甲第3号証には、デキストラン等の炭水化物がマルトースと比較してグルコースの放出が遅く、グルコースの吸収が遅い炭水化物であることに関して記載はあるものの、上記5の本件特許発明9と甲1発明との対比で検討したのと同様に、本件特許発明17?21は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?5,7?11,13?21に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?5,7?11,13?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-26 
出願番号 特願2016-550315(P2016-550315)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A23L)
P 1 652・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 耕一郎  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 瀬良 聡機
天野 宏樹
登録日 2018-12-21 
登録番号 特許第6453897号(P6453897)
権利者 日本食品化工株式会社 森永乳業株式会社
発明の名称 遅消化性持続型エネルギー補給剤  
代理人 榎 保孝  
代理人 榎 保孝  
代理人 大森 未知子  
代理人 横田 修孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 大森 未知子  
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