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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
審判 全部申し立て 発明同一  C25D
管理番号 1355986
異議申立番号 異議2019-700504  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-25 
確定日 2019-10-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6442722号発明「電気メッキ式の突起電極形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6442722号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6442722号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年10月8日に出願され、平成30年12月7日に特許権の設定登録がされ、同年12月26日に特許掲載公報が発行され、その後、令和元年6月25日付けで、請求項1?3(全請求項)に対し、特許異議申立人である中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
電気メッキ浴を用いて基材上のビアに電気メッキを施し、当該ビア内に電着物を充填して突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法において、
上記電気メッキ浴がスズ又はスズ合金メッキ浴であり、
当該スズ又はスズ合金メッキ浴が、
(A)第一スズ塩と、第一スズ塩及び銀、銅、ビスマス、ニッケル、インジウム、金から選ばれた金属の塩の混合物とのいずれかよりなる可溶性塩と、
(B)酸又はその塩と、
(C)不飽和カルボン酸類と芳香族及び脂肪族アルデヒドのいずれかとの混合物、不飽和カルボン酸類と芳香族及び脂肪族ケトンのいずれかとの混合物、或いは不飽和カルボン酸類と芳香族カルボン酸類との混合物よりなる群から選ばれ、且つ、上記不飽和カルボン酸類と芳香族アルデヒドとの混合物がクロトン酸とベンズアルデヒド、クロトン酸と1-ナフトアルデヒド、メタクリル酸とベンズアルデヒドの組み合わせである充填用有機化合物と、
(D)ノニオン系界面活性剤
とを含有する突起電極形成用の電気スズ又はスズ合金メッキ浴であって、
上記ビア(10)が、基板(5)の導電パターン(1)上に順次上向きに積層した絶縁層(2)及びマスク層(4)に亘り連通状に形成した開口部であり、マスク層(4)の開口部(4b)の開口長(4a)は絶縁層(2)の開口部(2b)のマスク層(4)に臨む側の開口長(2a)より大きく、この大きい方のマスク層開口部(4b)から小さい方の絶縁層開口部(2b)に向けて縦断面視で段差のある逆凸形状を構成し、
絶縁層開口部(2b)のアスペクト比が0.05?0.8であるとともに、絶縁層開口部(2b)の開口長(2a)とマスク層開口部(4b)の開口長(4a)との比率が2a:4a=1:1.2?1:3.0であることを特徴とする電気メッキ式の突起電極形成方法。
【請求項2】
ビア(10)の絶縁層(2)の高さが3?35μm、絶縁層開口部(2b)の開口長(2a)が10?100μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気メッキ式の突起電極形成方法。
【請求項3】
充填用有機化合物(C)を構成する不飽和カルボン酸類、芳香族アルデヒド、脂肪族アルデヒド、芳香族ケトン、脂肪族ケトン、芳香族カルボン酸類が、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、trans-p-クマル酸、クロトンアルデヒド、マレインアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、2-ナフトアルデヒド、ベンズアルデヒド、グルタルアルデヒド、アセトアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、3-ピリジンカルボキシアルデヒド、p-トルアルデヒド、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、イソブチルベンズアルデヒド、p-アニスアルデヒド、バニリン、アリチルアルデヒド、テレ(イソ)フタルアルデヒド、ベンザルアセトン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1-アセトナフトン、2-アセトナフトン、アセトフェノン、アセチルビフェニル、ベンゾフェノン、アセチルフルオレン、ベンジルフェニルケトン、インダノン、p-トルキノン、3-デセン-2-オン、4-メチル-3-ペンテン、ベンジリデンマロン酸ジエチル、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、安息香酸、サリチル酸、或いはその塩 よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気メッキ式の突起電極形成方法。」

第3 申立理由の概要

申立人の主張する申立理由の概要は以下のとおりである。

1 申立理由1(進歩性欠如)

本件発明1?3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?3に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 申立理由2(拡大先願)

本件発明1?3は、本件発明1?3に係る出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第4号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明1?3に係る出願の発明者が、上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件発明1?3に係る出願の時において、その出願人が、上記特許出願の出願人と同一でもない。
したがって、請求項1?3に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2013-72133号公報
甲第2号証:特開2001-89894号公報
甲第3号証:特表2012-506628号公報
甲第4号証:特開2015-7276号公報(特願2013-133292号の公開公報)
(以下、甲第1号証?甲第4号証を、順に「甲1」?「甲4」という。)

第4 当審の判断

1 申立理由1(進歩性欠如)について

(1)甲1の記載事項

ア 甲1には、以下の記載がある。なお「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【0001】
本発明は、スズ系めっき用酸性水系組成物に関する。
本発明において、「スズ系めっき」なる用語は、スズからなるめっきおよびスズ合金からなるめっきの総称として用いられる。
・・・
【0002】
スズ系めっきは、半導体チップ部品、水晶発振子、コンデンサ、コネクタピン、リードフレーム、プリント回路基板などの電気・電子部品における接点部やはんだ接続部に広く使用されている。スズ系めっきのうち、光沢めっきは、無光沢めっきに比べて、疵がつきにくい、はんだ濡れ性に優れるといった利点を有しているため、上記用途に本来適している。
【0003】
しかしながら、電気・電子部品は、その製造の過程でリフロー処理などの加熱処理を経る場合があるところ、従来技術に係る光沢めっきはこのような加熱処理を経るとめっきに「ヨリ」が発生しやすいという問題点を有する。ここで、「ヨリ」とは、加熱処理を受けることによってスズ系めっきの厚さが局所的に変動する現象であり、その変動によって生じためっきの凹凸は波状や木目状の模様の外観をもたらすことがある。・・・」
「【0010】
本発明は、このような技術背景を鑑み、コストに与える影響を抑制しつつ、得られためっきにおける「ヨリ」の発生を抑制することが可能な、スズ系めっき用酸性水系組成物を提供することを課題とする。
・・・
【0011】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)水溶性第一スズ含有物質と、非イオン性界面活性剤およびポリオキシアルキレン基を有するイオン性界面活性剤からなる群から選ばれる一種または二種以上の界面活性剤と、芳香族カルボニル化合物からなる光沢成分と、2位および4位の少なくとも一つが電子求引性基により置換されたピリジン誘導体からなる光沢補助剤とを含有することを特徴とするスズ系めっき用酸性水系組成物。」
「【0021】
(1)水溶性第一スズ含有物質
・・・「水溶性第一スズ含有物質」とは、スズの二価の陽イオン(Sn^(2+))およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上からなる物質をいう。」
「【0024】
(2)界面活性剤
本実施形態に係るめっき液は、非イオン性界面活性剤およびポリオキシアルキレン基を有するイオン性界面活性剤からなる群から選ばれる一種または二種以上の界面活性剤を含む。」
「【0030】
(3)光沢成分
本実施形態に係るめっき液は芳香族カルボニル化合物からなる光沢成分を含有する。
芳香族カルボニル化合物としては、芳香族アルデヒド、芳香族ケトンなどが例示される。」
「【0033】
(4)光沢補助剤
本実施形態に係るめっき液は、2位および4位の少なくとも一つが電子求引性基により置換されたピリジン誘導体からなる光沢補助剤を含有する。・・・」
「【実施例】
【0049】
(実施例1)
(1)めっき液の調製
表1に示されるめっき液1?7を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
(2)めっき処理
得られためっき液1?7のそれぞれを用いて、下記のめっき条件にてめっきを行った。なお、めっきの基板は、Cu1020からなる配線上に電気ニッケルめっき(スルファミン酸浴、1μm)が形成されたオープンフレームのプリント基板であって、公知の方法で洗浄・活性化を行ったものとした。
電流密度:5、10、15A/dm^(2)
めっき温度:25℃ (管理幅:±1℃)
積算電流量:300A・sec/dm^(2)
その他のめっき条件:攪拌あり(攪拌子にて500rpmで回転)、揺動あり(カソードロッカにて5m/分)
【0052】
(3)リフロー試験
上記のめっき処理により得られたスズ系めっきが形成されたプリント基板を、260℃に保持されたホットプレート上に1分間静置して、リフローさせた。
【0053】
(4)評価
めっき後のプリント基板の任意の位置におけるめっき面の表面粗さRaを測定した。測定長さは1354μmであり、3箇所の測定結果の平均値を求めた。・・・
また、リフロー後のプリント基板を観察し、ヨリが発生している場合には、ヨリが発生している領域が可能な限り測定範囲内に含まれるようにして、めっきが施された部分における表面粗さRaを測定した。・・・
得られたリフロー後の表面粗さRaについて、全ての電流密度においてRaが0.6μm以下の場合には良好(光沢あり)と判定し、表面粗さRaが0.6μm超となる結果を少なくとも一つ含む場合には不良(光沢なし)と判定した。・・・
【0054】
(5)結果
評価結果を表2に示す。
【表2】

【0055】
表2に示されるように、めっき液1から3については、少なくともリフロー後の表面粗さRaは電流密度にかかわらず0.6μm以下の光沢となり、ヨリが発生しなかった。・・・
一方、めっき液4から6については、リフロー後の表面粗さRaは0.6μmを超える場合があり、ヨリが発生した。」

イ 前記アによれば、甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲1に記載された発明は、スズ系めっき用酸性水系組成物に関する。ここで、「スズ系めっき」とは、スズからなるめっき及びスズ合金からなるめっきの総称である(【0001】)。

(イ)スズ系めっきのうち、光沢めっきは、無光沢めっきに比べて、疵がつきにくい、はんだ濡れ性に優れるといった利点を有しているため、電気・電子部品における接点部やはんだ接続部に広く使用されているが(【0002】)、電気・電子部品は、製造過程でリフロー処理等の加熱処理を経る場合があり、従来技術に係る光沢めっきは、このような加熱処理を経ると、めっきに「ヨリ」が発生しやすいという問題点を有していた(【0003】)。
ここで、「ヨリ」とは、加熱処理を受けることによってスズ系めっきの厚さが局所的に変動する現象であり、その変動によって生じためっきの凹凸は波状や木目状の模様の外観をもたらすことがある(【0003】)。

(ウ)甲1に記載された発明は、このような技術背景に鑑み、コストに与える影響を抑制しつつ、得られためっきにおける「ヨリ」の発生を抑制することが可能なスズ系めっき用酸性水系組成物を提供することを課題とする(【0010】)。

(エ)上記課題を解決するために提供されるスズ系めっき用酸性水系組成物は、水溶性第一スズ含有物質(スズの二価の陽イオン(Sn^(2+))及びこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上からなる物質)と、非イオン性界面活性剤及びポリオキシアルキレン基を有するイオン性界面活性剤からなる群から選ばれる一種または二種以上の界面活性剤と、芳香族アルデヒド、芳香族ケトン等の芳香族カルボニル化合物からなる光沢成分と、2位および4位の少なくとも一つが電子求引性基により置換されたピリジン誘導体からなる光沢補助剤とを含有することを特徴とするスズ系めっき用酸性水系組成物である(【0011】、【0021】、【0024】、【0030】【0033】)。

(オ)実施例においては、表1に示されるめっき液1?7を調製した後、めっき液1?7のそれぞれを用いて、以下のめっき条件にて電気めっきを行った。
また、めっきの基板は、Cu1020からなる配線上に電気ニッケルめっき(スルファミン酸浴、1μm)が形成されたオープンフレームのプリント基板であって、公知の方法で洗浄・活性化を行ったものを用いた。
・電流密度 :5、10、15A/dm^(2)
・めっき温度:25℃ (管理幅:±1℃)
・積算電流量:300A・sec/dm^(2)
・その他のめっき条件:攪拌あり(攪拌子にて500rpmで回転)、揺動あり(カソードロッカにて5m/分)(【0049】?【0051】)。
ここで、めっき液6は、「芳香族ケトン」の「ベンジリデンアセトン」及び「不飽和カルボン酸」の「メタクリル酸」を成分として含有しており、めっき液6が含有する「ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン」及び「ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル」は、いずれもノニオン系の界面活性剤である。

(カ)前記(オ)のめっき処理により得られたスズ系めっきが形成されたプリント基板を、260℃に保持されたホットプレート上に1分間静置してリフローさせた後、めっき面の表面粗さRaを、ヨリが発生している場合にはヨリが発生している領域が可能な限り測定範囲内に含まれるようにして、測定した。測定長さは1354μmであり、3箇所の測定結果の平均値を求めた。
全ての電流密度においてRaが0.6μm以下の場合には良好(光沢あり)と判定し、表面粗さRaが0.6μm超となる結果を少なくとも一つ含む場合には不良(光沢なし)と判定した(【0052】、【0053】)。

(キ)表2に示された評価結果によれば、めっき液1?3については、少なくともリフロー後の表面粗さRaは電流密度にかかわらず0.6μm以下の光沢となり、ヨリが発生しなかったが、めっき液4?6については、リフロー後の表面粗さRaは0.6μmを超える場合があり、ヨリが発生した(【0054】、【0055】)。

ウ 前記イによれば、甲1には、「めっき液6」を用いた「実施例1」に着目することにより、以下の「甲1発明」が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
メタンスルホン酸スズ:45g/L(スズ換算)、
メタンスルホン酸:1.2mol/L、
ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン:2g/L、
ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル:5g/L、
ベンジリデンアセトン:50ppm、
1,10-フェナントロリン:1ppm、
ナフトアルデヒド:50ppm、及び
メタクリル酸:100ppm
からなる組成のスズ系めっき液を用いて、Cu1020からなる配線上に電気ニッケルめっきが形成されたオープンフレームのプリント基板に、電気めっきによりスズ系めっきを形成する方法。

(2)甲2の記載事項

ア 甲2には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はスズ合金メッキによる表面被覆材料・・・に関し、スズ合金メッキ皮膜中のβ-スズの組織を制御することにより、皮膜の硬度を高めて耐摩耗性を向上し、或は光沢性や機械的特性などを改善できるものを提供する。
【0002】
【従来の技術】半導体素子、IC、抵抗、コンデンサ、コネクタ等の電子部品のリード、或は電極などは、ハンダ付け性の向上などを主目的に、スズ或はスズ合金の電着皮膜で表面被覆されるが、これらの電子部品の製造過程において・・・曲げ加工などの後加工を施すと、メッキ皮膜の摩耗によって加工部分から皮膜の削れ屑が発生してしまい、従来では、これを防止する有効な手段がないというのが実情であった。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・スズ合金の皮膜組織を制御して、第一には、鉛を含まないスズ合金皮膜の物性を向上して加工時の皮膜の削れ屑や剥離を抑制したり、機構部品などの長期作動性を良好に保全し、第二には、スズ-鉛合金を含むスズ合金皮膜の光沢性や機械的特性を改善することを技術的課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは・・・第一に、スズ-銀合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銅合金などのスズ合金皮膜にあっても、皮膜中のβ-スズの結晶格子におけるミラー指数の<001>方向が素地表面に対して特定条件を満たすと、皮膜硬度が向上することを見い出した。また、第二に、鉛を含んでも良いスズ合金皮膜においては・・・当該皮膜をアモルファス状に形成することで皮膜の光沢性、機械的特性、耐久性などが改善されることを見い出し、本発明を完成した。」
「【0020】・・・メッキ浴の組成の因子としては、スズ及びスズと合金を生成する他の金属の可溶性塩の種類と組成比、酸の濃度と種類、pHの調整、界面活性剤、光沢剤、光沢助剤、半光沢剤、平滑剤、錯化剤、緩衝剤などの各種添加剤の濃度と種類などが挙げられる。・・・上記界面活性剤は、ノニオン系、両性、カチオン系、アニオン系などの各種の活性剤が使用できる。・・・」
「【0027】
【実施例】以下、各種のスズ合金メッキ浴及び当該浴を用いた電気メッキの実施例を述べるとともに、得られた各種のスズ合金の電着皮膜の硬度、光沢性などの各種試験例を説明する。・・・」
「【0036】《実施例8A》下記の組成でスズ-銅合金メッキ浴を建浴した。
硫酸第一スズ(Sn^(2+)として) 50g/L
硫酸第二銅(Cu^(2+)として) 0.5g/L
硫酸 150g/L
ベンジルトリブチルアンモニウムヒドロキシド 2g/L
α-ナフトールポリエトキシレート(EO10) 10g/L
ベンザルアセトン 0.5g/L
メタクリル酸 3g/L
ヒドロキノン 0.5g/L」
「【0048】《実施例2B》下記の組成でスズ-鉛合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸第一スズ(Sn^(2+)として) 60g/L
メタンスルホン酸鉛(Pb^(2+)として) 5.5g/L
メタンスルホン酸 150g/L
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO15) 10g/L
1-ナフトアルデヒド 0.15g/L
ベンザルアセトン 0.36g/L
アクリル酸 0.5g/L
メタクリル酸 1.3g/L
ヒドロキノン 0.5g/L」
「【0051】《実施例5B》下記の組成でスズ-銅合金メッキ浴を建浴した。
硫酸第一スズ(Sn^(2+)として) 30g/L
硫酸銅(Cu^(2+)として) 0.42g/L
硫酸 150g/L
ラウリルアミンポリエトキシレート(EO10)
-ポリプロポキシレート(PO3) 10g/L
ベンザルアセトン 0.3g/L
1-ナフトアルデヒド 0.08g/L
o-クロルアニリン 0.1g/L
アニスアルデヒド 0.1g/L
メタクリル酸 2g/L」
「【0056】・・・先ず、上記Aグループの実施例1A?9A・・・の・・・各スズ合金メッキ浴を使用して、25×25×0.2mmの大きさで42合金を材質とする素地金属表面上に、陰極電流密度、浴温、撹拌速度及びメッキ時間を・・・設定して電気メッキを施した。
・・・」
「【0064】次いで、前記Bグループの実施例1B?5B・・・の・・・各スズ合金メッキ浴を使用して、25×25×0.2mmの大きさで42合金を材質とする素地金属表面上に、陰極電流密度、浴温、撹拌速度及びメッキ時間を・・・設定して電気メッキを施した。
・・・」

イ 前記アによれば、甲2には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲2に記載された発明は、スズ合金メッキによる表面被覆材料に関し、スズ合金メッキ皮膜中のβ-スズの組織を制御することにより、皮膜の硬度を高めて耐摩耗性を向上し、又は光沢性や機械的特性等を改善するものである(【0001】)。

(イ)電子部品のリード、電極等は、ハンダ付け性の向上等を主目的に、スズ又はスズ合金の電着皮膜で表面被覆されるが、これら電子部品の製造過程において曲げ加工等の後加工を施すと、メッキ皮膜の摩耗によって加工部分から皮膜の削れ屑が発生してしまい、従来では、これを防止する有効な手段がなかったところ(【0002】)、甲2に記載された発明は、スズ合金の皮膜組織を制御して、第一には、鉛を含まないスズ合金皮膜の物性を向上して加工時の皮膜の削れ屑や剥離を抑制したり、機構部品などの長期作動性を良好に保全し、第二には、スズ-鉛合金を含むスズ合金皮膜の光沢性や機械的特性を改善することを技術的課題とする(【0006】)。

(ウ)甲2に記載された発明は、第一に、スズ-銀合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銅合金等のスズ合金皮膜にあっても、皮膜中のβ-スズの結晶格子におけるミラー指数の<001>方向が、素地表面に対して特定条件を満たすと、皮膜硬度が向上するという知見、第二に、鉛を含んでも良いスズ合金皮膜においては、当該皮膜をアモルファス状に形成することで皮膜の光沢性、機械的特性、耐久性等が改善されるという知見に基づくものである(【0007】)。

(エ)メッキ浴の組成の因子としては、スズ及びスズと合金を生成する他の金属の可溶性塩の種類と組成比、酸の濃度と種類、pHの調整、界面活性剤、光沢剤、光沢助剤、半光沢剤、平滑剤、錯化剤、緩衝剤などの各種添加剤の濃度と種類などが挙げられ、上記界面活性剤は、ノニオン系、両性、カチオン系、アニオン系などの各種の活性剤が使用できる(【0020】)。

(オ)実施例においては、「実施例8A」、「実施例2B」及び「実施例5B」のメッキ浴は、いずれも「芳香族ケトン」に属する「ベンザルアセトン」及び「不飽和カルボン酸」に属する「メタクリル酸」を含有している。
また、それぞれのメッキ浴が含有する「α-ナフトールポリエトキシレート(EO10)」、「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO15)」及び「ラウリルアミンポリエトキシレート(EO10)-ポリプロポキシレート(PO3)」は、いずれもノニオン系の界面活性剤である(【0027】、【0036】、【0048】、【0051】)。
そして、いずれのメッキ浴を使用した電気メッキについても、25×25×0.2mmの大きさで42合金を材質とする金属表面を素地とした(【0056】、【0064】)。

(3)甲3の記載事項

ア 甲3には、以下の記載がある。

「【0009】
・・・本発明の対象は、スズ及びスズ合金の電気めっき法をはんだ堆積物の均一な層を基板上に生成するために採り入れることである。そのような浴は、ボイド又はディンプルを残すことなく、高アスペクト比を有するリセス構造を充填するのに適しているべきである。」
「【0016】
・・・
【図7】リフロープロセスにかけられる、個別の高さの電気めっきされたはんだ材料層を有するブラインドミクロバイア(BMV)を有するはんだマスク定義パッドを得る方法を示す。」
「【0018】
・・・コンタクト領域の具体例としてコンタクトパッド104を表面上に有する非導電性基板105が準備される。非導電性基板105は・・・回路板であることができる。
【0019】
・・・バリヤー層102は、コンタクトパッド104上に形成され・・・る。・・・はんだマスク層103は前記非導電性基板105の表面上に最終的に堆積されて、前記回路構成を保護し、かつ絶縁を提供する。
【0020】
スズ又はスズ合金を含有するはんだ堆積物を、電気めっきにより非導電性表面上に製作するために、非導電性表面上に形成される導電性シード層・・・101は・・・例えば・・・無電解堆積により形成され・・・る。
【0021】
本発明によれば、前記導電性シード層は、コンタクトパッド領域104及びはんだマスク領域103を含む非導電性基板105の表面全体に堆積される。」
「【0037】
次に・・・スズ又はスズ合金を含有するはんだ材料層100は、ついで導電性シード層101上に形成される。」
「【0039】
スズ及びスズ合金めっき浴は、当工業界において知られている。よく使用されるスズ又はスズ合金めっき浴組成及びめっきのためのプロセスパラメーターは、以下に記載される。
【0040】
前記浴の他の成分の中には、Sn^(2+)イオンの源、酸化防止剤及び界面活性剤が添加されていてよい。
【0041】
Sn^(2+)イオンの源は、可溶性スズを含有するアノードであってよいか、又は、不溶性アノードが使用される場合には、可溶性Sn^(2+)イオン源であってよい。スズメタンスルホン酸、Sn(MSA)_(2)は、その高い溶解度のためにSn^(2+)イオンの好ましい源である。・・・」
「【0044】
界面活性剤は、前記基板の濡れを促進するために添加されてよい。前記界面活性剤は、三次元成長を抑制することができる温和な堆積防止剤として、それにより前記フィルムのモルホロジー及びトポグラフィーを改善する範囲で役立つように思われる。前記界面活性剤は粒度をより微細にする(refine)のを助けることもでき、このことはより均一なバンプを生じさせる。例示的なアニオン界面活性剤は・・・を含む。
【0045】
本発明の電解めっき浴は好ましくは・・・酸性pHを有する。それに応じて、浴pHは好ましくは約0?約3である。・・・
【0046】
本発明の電解浴はさらに、以下のものに限定されるものではないが・・・芳香族のアルデヒド及びケトンを含む少なくとも1つのレベリング剤を含有する。芳香族カルボニル化合物という用語は、ここでは芳香族アルデヒド及び芳香族ケトン化合物の同義語として使用され、かつα/β-不飽和カルボン酸を含まない。・・・
【0047】
他の実施態様において、前記電解質はさらに、芳香族カルボニル化合物である少なくとも1つのレベリング剤に加えて、α/β-不飽和カルボン酸又はその誘導体である別のタイプの少なくとも1つのレベリング剤を含有する。・・・」
「【0058】
図1?8による構造中の開口部は、SRO(はんだレジスト開口部)で表され、かつ好ましくは約5?1,000μm、好ましくは約10?500μm及びよりいっそう好ましくは20?100μmの寸法を有する。
【0059】
SROの高さは、5?250μm、好ましくは約10?50μmにわたる。・・・」
「【0067】
このプロセス順序は図1による基板について詳細に記載されているけれども、そのようなものに限定されるものではなく、かつ全ての種類の基板に適用されることができる。それに応じて処理されることができる本発明の幾つかの付加的な好ましい実施態様は、図2?9に示されている。」
「【0071】
・・・エッチレジスト106は・・・少なくとも1つのコンタクトパッド104の上にある少なくとも表面領域上ではんだ堆積物層100上へ塗布される。はんだ堆積物層100並びに導電性層101は、前記はんだ堆積物層と前記導電性層の双方ともをはんだマスク層103から除去するのに十分な量でエッチ除去され・・・その後、前記エッチレジストは除去されている。・・・」
「【図7】



イ 前記アによれば、甲3には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲3に記載された発明は、スズ及びスズ合金の電気めっき法をはんだ堆積物の均一な層を基板上に生成するために採り入れることを対象としており、めっき浴は、ボイド又はディンプルを残すことなく、高アスペクト比を有するリセス構造を充填するのに適している(【0009】)。

(イ)図7は、リフロープロセスにかけられる、個別の高さの電気めっきされたはんだ材料層を有するブラインドミクロバイア(BMV)を有するはんだマスク定義パッドを得る実施態様の方法が記載されたものであり(【0016】)、構造中の開口部は、SRO(はんだレジスト開口部)で表され、好ましくは約5?1,000μm、より好ましくは約10?500μm、よりいっそう好ましくは20?100μmの寸法を有し(【0058】)、SROの高さは、5?250μm、好ましくは約10?50μmの寸法を有する(【0059】)。

(ウ)図7のプロセス順序は、図1の基板と同様であり(【0067】)、
a コンタクトパッド104を表面上に有し、回路板として機能する非導電性基板105が準備され(【0018】)、バリヤー層102が、コンタクトパッド104上に形成され、はんだマスク層103が、前記非導電性基板105の表面上に最終的に堆積されて上記回路を保護し、かつ絶縁を提供し(【0019】)、
b 導電性シード層101がコンタクトパッド104及びはんだマスク層103を含む非導電性基板105の表面全体に堆積され(【0020】、【0021】)、
c スズ又はスズ合金を含有するはんだ堆積物層100が、電解めっきにより、導電性シード層101上に形成され(【0039】)、
d エッチレジスト106が、少なくとも1つのコンタクトパッド104の上にある少なくとも表面領域上ではんだ堆積物層100上へ塗布され(【0071】)、
e エッチレジスト106をマスクとして、はんだ堆積物層100及び導電性シード層101が、エッチング除去され、その後、エッチレジスト106は除去され(【0071】)、
f リフロープロセスにかけられる(【0016】)。

(エ)前記(ウ)cのスズ又はスズ合金を含有するはんだ堆積物層100を形成する際に用いる電解めっき浴は、Sn^(2+)イオンの源、酸化防止剤及び界面活性剤が添加されていてよく(【0039】、【0040】)、Sn(MSA)_(2)(スズメタンスルホン酸)は、Sn^(2+)イオンの好ましい源であり(【0041】)、界面活性剤には、例示的にアニオン界面活性剤が含まれ(【0044】)、電解めっき浴は、好ましくは約0?3の酸性pHを有する(【0045】)。
さらに、限定されないが、電解めっき浴は、芳香族カルボニル化合物である少なくとも1つのレベリング剤に加えて、α/β-不飽和カルボン酸又はその誘導体である別のタイプの少なくとも1つのレベリング剤を含有する(【0046】【0047】)。

(4)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1発明との対比

(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「スズ系めっき液を用いて」「電気めっきによりスズ系めっきを形成する方法」と、本件発明1の「電気メッキ浴を用いて」「突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」とは、「電気メッキ浴を用い」た「電気メッキ式の」「形成方法」である点で一致する。

(イ)本件発明1の「スズ又はスズ合金メッキ浴」の成分と、甲1発明の「スズ系めっき液」の成分とを対比する。
a 甲1発明の「メタンスルホン酸スズ」は、本件発明1の「(A)第一スズ塩」「よりなる可溶性塩」に相当する。
b 甲1発明の「メタンスルホン酸」は、本件発明1の「(B)酸」に相当する。
c 甲1発明の「ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン」及び「ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル」は、いずれもノニオン系(非イオン)の界面活性剤であるから、本件発明1の「(D)ノニオン系界面活性剤」に相当する。
d 甲1発明の「ベンジリデンアセトン」は「芳香族ケトン」に属し、「メタクリル酸」は「不飽和カルボン酸」に属するから、甲1発明の「ベンジリデンアセトン」及び「メタクリル酸」は、本件発明1の「(C)」「不飽和カルボン酸類と芳香族」「ケトン」「との混合物」「から選ばれ」た「充填用有機化合物」に相当する。
e したがって、甲1発明の「スズ系めっき液」は、本件発明1の「スズ」「メッキ浴」に相当する。

(ウ)以上によれば、本件発明1と甲1発明との「一致点」及び「相違点1」は以下のとおりである。

(一致点)
電気メッキ浴を用いた電気メッキ式の形成方法において、
上記電気メッキ浴がスズメッキ浴であり、
当該スズメッキ浴が、
(A)第一スズ塩よりなる可溶性塩と、
(B)酸と、
(C)不飽和カルボン酸類と芳香族ケトンとの混合物である充填用有機化合物と、
(D)ノニオン系界面活性剤
とを含有する電気スズメッキ浴である
電気メッキ式の形成方法である点。

(相違点1)
本件発明1は、「電気メッキ浴を用いて基材上のビアに電気メッキを施し、当該ビア内に電着物を充填して突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」であって、「上記ビア(10)が、基板(5)の導電パターン(1)上に順次上向きに積層した絶縁層(2)及びマスク層(4)に亘り連通状に形成した開口部であり、マスク層(4)の開口部(4b)の開口長(4a)は絶縁層(2)の開口部(2b)のマスク層(4)に臨む側の開口長(2a)より大きく、この大きい方のマスク層開口部(4b)から小さい方の絶縁層開口部(2b)に向けて縦断面視で段差のある逆凸形状を構成し、 絶縁層開口部(2b)のアスペクト比が0.05?0.8であるとともに、絶縁層開口部(2b)の開口長(2a)とマスク層開口部(4b)の開口長(4a)との比率が2a:4a=1:1.2?1:3.0である」のに対して、
甲1発明は、「Cu1020からなる配線上に電気ニッケルめっきが形成されたオープンフレームのプリント基板に、電気めっきによりスズ系めっきを形成する方法」である点。

イ 相違点1について

(ア)甲1には、甲1発明のスズ系めっき液を用いて、縦断面視で段差のある逆凸形状のビアにスズを充填することは記載も示唆もされていない。

(イ)また、甲2には、「実施例8A」、「実施例2B」及び「実施例5B」のメッキ浴が、いずれも「芳香族ケトン」に属する「ベンザルアセトン」及び「不飽和カルボン酸」に属する「メタクリル酸」を含有し、上記メッキ浴が、それぞれ、ノニオン系界面活性剤の「α-ナフトールポリエトキシレート(EO10)」、「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO15)」及び「ラウリルアミンポリエトキシレート(EO10)-ポリプロポキシレート(PO3)」を含有することが記載されており(前記(2)イ(オ)参照)、これらのメッキ浴は、甲1発明のスズ系めっき液と同等の成分組成を有しているものと認められる。
しかし、いずれのメッキ浴を使用した電気メッキも、25×25×0.2mmの大きさで42合金を材質とする金属表面を素地としており(前記(2)イ(オ)参照)、甲2には、これらのメッキ浴を用いて、縦断面視で段差のある逆凸形状のビアにスズを充填することは記載も示唆もされていない。

(ウ)さらに、甲3には、縦断面視で段差のある逆凸形状のブラインドミクロバイア(BMV)をスズ又はスズ合金の電気めっきにより、ボイド又はディンプルを残すことなく充填することが記載されている(前記(3)イ(ア)?(ウ)参照)。
しかし、上記ブラインドミクロバイア(BMV)の各部の具体的な寸法は不明であり、しかも、めっき浴の成分組成について、不飽和カルボン酸類と芳香族ケトンとの混合物とノニオン系界面活性剤とを同時に用いることが特定されておらず(前記(3)イ(エ)参照)、甲1発明のスズ系めっき液の成分組成とは異なるから、甲3の記載に接した当業者であっても、甲1発明のスズ系めっき液を用いた電気めっきを行った場合に、縦断面視で段差のある逆凸形状のビアにスズをボイド等を生じることなく充填できるか否かは不明である。
したがって、甲3の記載は、甲1発明において、本件発明1の相違点1に係る事項を採用することの動機付けとなるものではない。
仮に、甲1発明において、甲3に記載された事項を適用する動機付けがあったとしても、上記のとおり、甲3には、相違点1に係る本願発明1のビア各部の寸法に相当する事項は何ら記載されておらず、さらに、甲3に記載されためっき浴の成分組成は甲1発明のスズ系めっき液の成分組成とは異なるから、当業者であっても、本願発明1で特定される形状と寸法を有するビア内部にスズをボイド等を生じることなく充填できるという効果を予測することはできない。

(エ)したがって、本件発明1は、甲1?甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2、3について

本件発明2、3は、引用により本件発明1の発明特定事項を全て有するから、本件発明1と同様の理由により、甲1?甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)小括

以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(拡大先願)について

(1)甲4に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明

ア 甲4に係る特許出願(特願2013-133292号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲4当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
なお、上記甲4に係る特許出願については、公開日までの間に手続補正がされていないため、甲4の公開公報と甲4当初明細書等の記載事項は同一である。
「【0001】
本発明は、スズまたはスズ合金用電気メッキ液ならびにこれを用いたブラインドビアまたはスルーホールの充填方法・・・に関する。」
「【0006】
・・・従来報告されているスズやスズ合金メッキ用メッキ液で、ブラインドビアやスルーホールを充填しようとすると、実際には充填自体が上手くできなかったり、充填自体はできたとしても充填時間が極端に長いという問題があった。
・・・
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、従来公知のスズやスズ合金メッキ用メッキ液に特定の化合物を特定の濃度で含有させることにより、ブラインドビアやスルーホールを信頼性高く短時間で充填することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明はスズまたはスズ合金用電気メッキ液であって、以下の成分(a)および(b)
(a)カルボキシル基含有化合物
(b)カルボニル基含有化合物
を含有し、成分(a)が1.3g/L以上および成分(b)が0.3g/L以上であることを特徴とするスズまたはスズ合金用電気メッキ液である。」
「【0011】
本発明のスズまたはスズ合金用電気メッキ液は、ブラインドビアまたはスルーホールを有する被メッキ物に電気メッキすることにより、ブラインドビアまたはスルーホールを信頼性高く短時間で充填することができる。」
「【0013】
・・・
【図4】実施例6における電気メッキ後の基板の断面写真である(図中、(a)?(c)は実施品2の電気メッキ液を用い、1.5A/dm^(2)で電気メッキを行い、15分後、25分および35分後のものである)。」
「【0020】
また、本発明メッキ液には、従来公知のスズまたはスズ合金用電気メッキ液に、更に公知のノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤、カテコール、レゾルシノール、カテコールスルホン酸等の酸化防止剤等を添加させてもよい。」
「【0038】
実 施 例 5
スズ用電気メッキ液の調製:
下記組成のスズ用電気メッキ液を、成分1?5、7を混合した後、成分6を混合することにより調製した。
【0039】
【表2】

【0040】
実 施 例 6
スズ電気メッキによるビアの充填:
アスペクト比0.57(70φx40D)のブラインドビアを有するプリント配線板に40℃で1分間、アルカリ脱脂処理をした後、室温で10秒間、酸活性処理により前処理を行った。この前処理を行った基板を、実施例5で調製したスズ用電気メッキ液(実施品2)に浸漬し、1.5A/dm^(2)の電流密度で所定時間(15分、25分または35分)電気メッキを行った。電気メッキ後の基板の断面からビアの充填具合を観察した(図4)。
【0041】
メッキ開始からビアの底部からの析出が確認され、25分でビア内がほぼ充填され、35分でビアの完全充填および表面への析出も確認された。また、ビア充填後の表面の析出膜厚は任意に制御できることも確認された。
【0042】
実 施 例 7
スズ用電気メッキ液の調製:
下記組成のスズ用電気メッキ液を、成分1?5、8を混合した後、成分6または7を混合することにより調製した。
【0043】
【表3】

【0044】
実 施 例 8
スズ電気メッキによるビアの充填:
アスペクト比5(20φx100D)のブラインドビアを有するシリコンウエハ基板に前処理を行った後、実施例7で調製したスズ用電気メッキ液(実施品3または実施品4)に浸漬し、0.2A/dm^(2)の電流密度でブラインドビアが充填されるまで電気メッキを行った。
【0045】
実施品3の電気メッキ液を用いて電気メッキした場合には100分でビアが完全に充填され、実施品4の電気メッキ液を用いて電気メッキした場合には110分でビアが完全に充填された。」
「【図4】



イ 前記アによれば、甲4当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲4当初明細書等に記載された発明は、スズ又はスズ合金用電気メッキ液及びこれを用いたブラインドビア又はスルーホールの充填方法に関する(【0001】)。

(イ)従来報告されているスズやスズ合金メッキ用メッキ液で、ブラインドビアやスルーホールを充填しようとすると、充填自体が上手くできなかったり、充填自体はできたとしても充填時間が極端に長いという問題があったところ(【0006】)、上記問題に鑑み、甲4当初明細書等に記載された発明は、従来公知のスズやスズ合金メッキ用メッキ液に特定の化合物を特定の濃度で含有させることにより、ブラインドビアやスルーホールを信頼性高く短時間で充填することができるという新たな知見に基づいて完成されたものである(【0007】)。

(ウ)甲4当初明細書等に記載された発明のスズ又はスズ合金用電気メッキ液は、成分として、
(a)カルボキシル基含有化合物
(b)カルボニル基含有化合物
を含有し、成分(a)が1.3g/L以上及び成分(b)が0.3g/L以上であることを特徴とし(【0008】)、この電気メッキ液を用いることによって、ブラインドビア又はスルーホールを信頼性高く短時間で充填することができる(【0011】)。
また、上記電気メッキ液には、さらに、公知のノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤、カテコール、レゾルシノール、カテコールスルホン酸等の酸化防止剤等を添加させてもよい(【0020】)。

(エ)実施例においては、表2の「実施品2」の組成のスズ用電気メッキ液を調製し(実施例5)(【0038】、【0039】)、
前処理を行ったアスペクト比0.57(70φ×40D)のブラインドビアを有するプリント配線板を上記スズ用電気メッキ液に浸漬し、1.5A/dm2の電流密度で所定時間(15分、25分又は35分)電気メッキを行ったところ(実施例6)(【0040】)、
電気メッキ開始からブラインドビア底部からの析出が確認され、25分でブラインドビア内がほぼ充填され、35分でブラインドビアの完全充填及び表面への析出も確認され、ブラインドビア充填後の表面の析出膜厚は任意に制御できることも確認された(【0041】、図4)。

(オ)さらに、表3の「実施品3」及び「実施品4」の組成のスズ用電気メッキ液をそれぞれ調製し(実施例7)(【0042】、【0043】)、
前処理を行ったアスペクト比5(20φ×100D)のブラインドビアを有するシリコンウエハ基板を上記スズ用電気メッキ液に浸漬し、0.2A/dm2の電流密度で電気メッキを行ったところ(実施例8)(【0044】)、「実施品3」の電気メッキ液を用いて電気メッキした場合には100分でブラインドビアが完全に充填され、「実施品4」の電気メッキ液を用いて電気メッキした場合には110分でビアが完全に充填された(【0045】)。

ウ 前記イによれば、甲4当初明細書等には、「実施例5、6」に着目することにより、以下の「甲4発明A」が記載されているものと認められ、「実施品4を用いた実施例7、8」に着目することにより、以下の「甲4発明B」が記載されているものと認められる。

(甲4発明A)
スルホン酸スズ(スズ量:100g/L)、
メタンスルホン酸:100g/L、
ポリオキシエチレンラウリルアミン:4g/L、
カテコール:1g/L、
メタクリル酸:2.0g/L、
1-ナフトアルデヒド:0.5g/L、及び
メタノール:8.4g/L
からなる組成のスズ用電気メッキ液を用いて、アスペクト比0.57(70φ×40D)のブラインドビアを有するプリント基板に電気メッキを行い、上記ブラインドビアを完全に充填するとともに表面への析出を行う方法。

(甲4発明B)
スルホン酸スズ(スズ量:100g/L)、
メタンスルホン酸:17g/L、
ポリオキシエチレンラウリルアミン:4g/L、
カテコール:1g/L、
メタクリル酸:1.5g/L、
ベンザルアセトン:1.0g/L、及び
メタノール:16.8g/L
からなる組成のスズ用電気メッキ液を用いて、アスペクト比5(20φ×100D)のブラインドビアを有するシリコンウエハ基板に電気メッキを行い、前記ブラインドビアを完全に充填する方法。

(2)本件発明1について

ア 本件発明1と甲4発明1との対比

(ア)本件発明1と甲4発明Aとを対比すると、甲4発明Aの「スズ用電気メッキ液を用いて」「電気メッキを」「行う方法」と、本件発明1の「電気メッキ浴を用いて」「突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」とは、「電気メッキ浴を用い」た「電気メッキ式の」「形成方法」である点で一致する。

(イ)本件発明1の「スズ又はスズ合金メッキ浴」の成分と、甲4発明Aの「スズ用電気メッキ液」の成分とを対比する。
a 甲4発明Aの「スルホン酸スズ」は、本件発明1の「(A)第一スズ塩」「よりなる可溶性塩」に相当する。
b 甲4発明Aの「メタンスルホン酸」は、本件発明1の「(B)酸」に相当する。
c 甲4発明Aの「ポリオキシエチレンラウリルアミン」は、ノニオン系(非イオン)の界面活性剤であるから、本件発明1の「(D)ノニオン系界面活性剤」に相当する。

(ウ)以上によれば、本件発明1と甲4発明Aとの「一致点」並びに「相違点2」及び「相違点3」は以下のとおりである。

(一致点)
電気メッキ浴を用いた電気メッキ式の形成方法において、
上記電気メッキ浴が
(A)第一スズ塩よりなる可溶性塩と、
(B)酸と、
(D)ノニオン系界面活性剤
とを含有する電気メッキ式の形成方法である点。

(相違点2)
本件発明1の「電気メッキ浴」は、「(C)」「不飽和カルボン酸類と芳香族」「アルデヒド」「との混合物」「から選ばれ、且つ、上記不飽和カルボン酸類と芳香族アルデヒドとの混合物がクロトン酸とベンズアルデヒド、クロトン酸と1-ナフトアルデヒド、メタクリル酸とベンズアルデヒドの組み合わせである充填用有機化合物」を含有するのに対して、
甲4発明Aの「スズ用電気メッキ液」は、「不飽和カルボン酸」に属する「メタクリル酸」と、「芳香族アルデヒド」に属する「1-ナフトアルデヒド」とを含有するものの、両者の組合せが、本件発明1で特定される「クロトン酸とベンズアルデヒド、クロトン酸と1-ナフトアルデヒド、メタクリル酸とベンズアルデヒド」のいずれにも該当しない点。

(相違点3)
本件発明1は、「電気メッキ浴を用いて基材上のビアに電気メッキを施し、当該ビア内に電着物を充填して突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」であって、「上記ビア(10)が、基板(5)の導電パターン(1)上に順次上向きに積層した絶縁層(2)及びマスク層(4)に亘り連通状に形成した開口部であり、マスク層(4)の開口部(4b)の開口長(4a)は絶縁層(2)の開口部(2b)のマスク層(4)に臨む側の開口長(2a)より大きく、この大きい方のマスク層開口部(4b)から小さい方の絶縁層開口部(2b)に向けて縦断面視で段差のある逆凸形状を構成し、 絶縁層開口部(2b)のアスペクト比が0.05?0.8であるとともに、絶縁層開口部(2b)の開口長(2a)とマスク層開口部(4b)の開口長(4a)との比率が2a:4a=1:1.2?1:3.0である」のに対して、
甲4発明Aは、「スズ用電気メッキ液を用いて、アスペクト比0.57(70φ×40D)のブラインドビアを有するプリント基板に電気メッキを行い、上記ブラインドビアを完全に充填するとともに表面への析出を行う方法」である点。

そして、上記相違点2が実質的なものであることは明らかであるから、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1と甲4発明Aが同一であるとはいえない。

イ 本件発明1と甲4発明Bとの対比

(ア)本件発明1と甲4発明Bとを対比すると、甲4発明Bの「スズ用電気メッキ液を用いて」「電気メッキを行」う「方法」と、本件発明1の「電気メッキ浴を用いて」「突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」とは、「電気メッキ浴を用い」た「電気メッキ式の」「形成方法」である点で一致する。

(イ)本件発明1の「スズ又はスズ合金メッキ浴」の成分と、甲4発明Bの「スズ用電気メッキ液」の成分とを対比する。
a 甲4発明Bの「スルホン酸スズ」は、本件発明1の「(A)第一スズ塩」「よりなる可溶性塩」に相当する。
b 甲4発明Bの「メタンスルホン酸」は、本件発明1の「(B)酸」に相当する。
c 甲4発明Bの「ポリオキシエチレンラウリルアミン」は、ノニオン系(非イオン)の界面活性剤であるから、本件発明1の「(D)ノニオン系界面活性剤」に相当する。
d 甲4発明Bの「メタクリル酸」は「不飽和カルボン酸」に属し、「ベンザルアセトン」は「芳香族ケトン」に属するから、甲4発明Bの「メタクリル酸」及び「ベンザルアセトン」は、本件発明1の「(C)」「不飽和カルボン酸類と芳香族」「ケトン」「との混合物」「から選ばれ」た「充填用有機化合物」に相当する。
e したがって、甲4発明Bの「スズ用電気メッキ液」は、本件発明1の「スズ」「メッキ浴」に相当する。

(ウ)以上によれば、本件発明1と甲4発明1との「一致点」及び「相違点4」は以下のとおりである。

(一致点)
電気メッキ浴を用いた電気メッキ式の形成方法において、
上記電気メッキ浴がスズメッキ浴であり、
当該スズメッキ浴が、
(A)第一スズ塩よりなる可溶性塩と、
(B)酸と、
(C)不飽和カルボン酸類と芳香族ケトンとの混合物から選ばれた充填用有機化合物と、
(D)ノニオン系界面活性剤
とを含有する電気スズメッキ浴である
電気メッキ式の形成方法である点。

(相違点4)
本件発明1は、「電気メッキ浴を用いて基材上のビアに電気メッキを施し、当該ビア内に電着物を充填して突起電極を形成する電気メッキ式の突起電極形成方法」であって、「上記ビア(10)が、基板(5)の導電パターン(1)上に順次上向きに積層した絶縁層(2)及びマスク層(4)に亘り連通状に形成した開口部であり、マスク層(4)の開口部(4b)の開口長(4a)は絶縁層(2)の開口部(2b)のマスク層(4)に臨む側の開口長(2a)より大きく、この大きい方のマスク層開口部(4b)から小さい方の絶縁層開口部(2b)に向けて縦断面視で段差のある逆凸形状を構成し、 絶縁層開口部(2b)のアスペクト比が0.05?0.8であるとともに、絶縁層開口部(2b)の開口長(2a)とマスク層開口部(4b)の開口長(4a)との比率が2a:4a=1:1.2?1:3.0である」のに対して、
甲4発明Bは、「スズ用電気メッキ液を用いて、アスペクト比5(20φ×100D)のブラインドビアを有するシリコンウエハ基板に電気メッキを行い、前記ブラインドビアを完全に充填する方法」である点。

そして、上記相違点4に関し、本件発明1の「ビア」が「縦断面視で段差のある逆凸形状を構成」する一方で、甲4発明Bの「ブラインドビア」は「アスペクト比5(20φ×100D)」であって、縦断面視で段差がないことは明らかであるから、上記相違点4は実質的なものであって、本件発明1と甲4発明Bが同一であるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(3)本件発明2、3について

本件発明2、3は、引用により本件発明1の発明特定事項を全て有するから、本件発明1と同様の理由により、甲4当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(4)小括

以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

第5 結び

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-03 
出願番号 特願2014-207488(P2014-207488)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C25D)
P 1 651・ 161- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 印出 亮太國方 康伸  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
亀ヶ谷 明久
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6442722号(P6442722)
権利者 石原ケミカル株式会社
発明の名称 電気メッキ式の突起電極形成方法  
代理人 豊永 博隆  

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