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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F17C
管理番号 1355988
異議申立番号 異議2019-700144  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-22 
確定日 2019-10-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6389440号発明「ガス供給システムおよびそれを備えた水素ステーション、蓄圧器の寿命判定方法、並びにガス供給システムの使用方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6389440号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6389440号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は,平成27年3月13日に出願され,平成30年8月24日にその特許権の設定登録がされ,平成30年9月12日に特許掲載公報が発行された。その後,その請求項1に係る特許に対し,平成31年2月22日に特許異議申立人山田英一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,令和元年5月21日付けで取消理由が通知され,令和元年7月2日に特許権者による意見書の提出がされ,令和元年7月9日に意見書を補正する手続補正書(方式)が提出され,令和元年8月27日に申立人による上申書の提出がされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システムであって、
少なくとも1個の蓄圧器を有し、ガスを貯留する蓄圧器ユニットと、
ガスを前記蓄圧器ユニットに送出するガス送出部と、
前記蓄圧器ユニットと前記ガス送出部との間を連通する導入流路を開閉する第1弁部材と、
前記蓄圧器ユニットと前記充填設備との間を連通する導出流路を開閉する第2弁部材と、
前記第1弁部材が閉じ且つ前記第2弁部材が開いた状態のときに前記蓄圧器に作用する応力と前記第1弁部材が開き且つ前記第2弁部材が閉じた状態のときに前記蓄圧器に作用する応力との間の応力振幅を繰り返し取得する取得部と、
前記応力振幅を複数のグループに分類する分類部と、
各グループ毎の応力振幅の取得数と当該グループを代表する応力振幅に対応する破壊繰り返し数とから得られる値をグループ毎に合計して得られる疲労度合いに基づいて、前記蓄圧器の寿命を判定する判定部と
を備えているガス供給システム。」

第3 取消理由通知に記載した取消理由
当審が令和元年5月21日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

本件発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて,本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2013-2635号公報
引用文献2:特開昭58-211625号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開2005-3554号公報
引用文献4:実願昭62-115157号(実開昭64-21226号)のマイクロフィルム

引用文献2は,特許異議申立書に添付された甲第2号証である。また,引用文献1,3及び4は,当審の職権調査で発見した文献である。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
申立人が特許異議申立書において主張した特許異議申立理由であって,取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

本件発明1は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2013-24287号公報
甲第2号証:特開昭58-211625号公報(引用文献2)
甲第3号証:機械材料およびその機械的性質と試験法,社団法人日本材料学会,平成元年3月31日,第9版,p.116-117
甲第4号証:2013 ASME Boiler and Pressure Vessel Code AN INTERNATIONAL CODE III Rules for Constructuion of Nuclear Facility Components Division 1 - Subsection NB Class 1 Components, The American Society of Mechanical Engineers, 2013, p. 36-61
甲第5号証:鵜戸口英善,圧力容器・高圧配管の構造設計に関する技術水準とその問題点,圧力技術,社団法人日本高圧力技術協会,1972年,第10巻,第2号,p.2639-2651

第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)引用発明
引用文献1の段落【0023】,【0024】,【0031】?【0035】,【0167】,【図1】等の記載を総合すると,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)であって,それぞれが単一のガス貯蔵容器又は単一の組み合わされたガス貯蔵容積空間として集合的に機能する複数のガス貯蔵容器を含む圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)と,
3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)の入口とマニホールド(9)及びそれぞれの入口流量弁(11,13,15)を介して接続されたコンプレッサ(7)と,
3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)の出口とそれぞれの流量制御弁(17,19,21)を介して接続された分給マニホールド(23)と,
制御装置(39)と,を備えた
圧縮ガス貯蔵分給システムであって,
分給マニホールド(23)は,分給導管(29),分給制御弁(31)及び熱交換器(33)を介して継手(35)に接続され,継手(35)は車両の燃料タンクである受入容器(R)に接続させるのに適合したものであり,
制御装置(39)は,それぞれの温度範囲で行われた昇圧サイクルの数に関するシステムの状況の定期的な出力を提供し,これらの数が許容最大値に近づいたときに警告を発するとともに,最大のサイクル数に達したならばその後の充填工程を阻止するものである,
圧縮ガス貯蔵分給システム。」

(2)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「車両」,「燃料タンクである受入容器(R)」は,それぞれ本件発明1の「タンク搭載装置」,「タンク」に相当する。また,引用発明の「分給導管(29)」,「分給制御弁(31)」,「熱交換器(33)」及び「継手(35)」は,受入容器(R)に圧縮ガスを充填するための設備であるといえるから,本件発明1の「充填設備」に相当する。そうすると,引用発明の「圧縮ガス貯蔵分給システム」は,受入容器(R)に圧縮ガスを充填するための設備に圧縮ガスを供給するものであるから,本件発明1の「ガス供給システム」に相当する。

イ 引用発明の「ガス貯蔵容器」,「3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)」は,それぞれ本件発明1の「蓄圧器」,「蓄圧器ユニット」に相当する。

ウ 引用発明の「コンプレッサ(7)」,「入口流量弁(11,13,15)」,「流量制御弁(17,19,21)」は,それぞれ本件発明1の「ガス送出部」,「第1弁部材」,「第2弁部材」に相当する。また,引用発明の「入口流量弁(11,13,15)」が,3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)の入口とコンプレッサ(7)との間の流路を開閉するものであることは明らかであり,この流路は,本件発明1の「導入流路」に相当する。さらに,引用発明の「流量制御弁(17,19,21)」が,3つの圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)の出口と受入容器(R)に圧縮ガスを充填するための設備(上記ア参照)との間を連通する流路を開閉するものであることは明らかであり,この流路は,本件発明1の「導出流路」に相当する。

エ 以上を踏まえると,本件発明1と引用発明は,以下の<一致点1>で一致し,<相違点1>で相違する。
<一致点1>
「タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システムであって,
少なくとも1個の蓄圧器を有し,ガスを貯留する蓄圧器ユニットと,
ガスを前記蓄圧器ユニットに送出するガス送出部と,
前記蓄圧器ユニットと前記ガス送出部との間を連通する導入流路を開閉する第1弁部材と,
前記蓄圧器ユニットと前記充填設備との間を連通する導出流路を開閉する第2弁部材と,
を備えているガス供給システム。」

<相違点1>
本件発明1は,第1弁部材が閉じ且つ第2弁部材が開いた状態のときに蓄圧器に作用する応力と第1弁部材が開き且つ第2弁部材が閉じた状態のときに蓄圧器に作用する応力との間の応力振幅を繰り返し取得する取得部と,応力振幅を複数のグループに分類する分類部と,各グループ毎の応力振幅の取得数と当該グループを代表する応力振幅に対応する破壊繰り返し数とから得られる値をグループ毎に合計して得られる疲労度合いに基づいて,蓄圧器の寿命を判定する判定部とを備えているのに対し,引用発明は,そのような取得部,分類部及び判定部を備えていない点。

(3)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用文献1の段落【0168】の「長期の経過時間にわたるガス貯蔵容器のサイクル式の運転においては、各容器が多数回の昇圧-減圧サイクルにさらされ、その結果容器の壁とヘッドが長期の経過時間にわたり周期的な応力にさらされる。」との記載等からみて,引用発明の圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)のガス貯蔵容器は,入口流量弁(11,13,15)が閉じ且つ流量制御弁(17,19,21)が開いた減圧状態のときに作用する応力と,入口流量弁(11,13,15)が開き且つ流量制御弁(17,19,21)が閉じた昇圧状態のときに作用する応力との間の応力振幅を有する周期的な応力にさらされ得るものであるといえる。

イ 引用文献1の段落【0044】?【0063】,図2には,圧縮ガス貯蔵容積空間(A)の圧力プロファイルが例示されており,この例示された圧力プロファイルは,25MPa(=88MPa-63MPa)の圧力増加を伴う経路203に沿った圧力増加部分と,30MPa(=90MPa-60MPa)の圧力増加を伴う経路204に沿った圧力増加部分とを有している。この25MPaの圧力増加を伴う経路203に沿った圧力増加部分と,30MPaの圧力増加を伴う経路204に沿った圧力増加部分との間で,圧縮ガス貯蔵容積空間(A)のガス貯蔵容器に作用する応力の応力振幅が異なることは明らかである。

ウ 引用文献1の段落【0124】?【0126】には,二次的制御命令を使用して,圧縮ガス貯蔵容積空間がP_(LOWER)の7.5MPa以内でないとしても,圧縮ガス貯蔵容積空間に圧縮ガスを導入することも記載されており,引用発明において,二次的制御命令を使用しない通常の制御時の応力振幅と,二次的制御命令を使用した場合の応力振幅が異なり得ることも明らかである。

エ 上記ア?ウから,引用発明は,圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)のガス貯蔵容器に作用する応力の応力振幅が複数の異なるグループに分類され得るものであるといえる。

オ そして,一般に,機器に対する応力振幅を繰り返し取得する取得部と,応力振幅を複数のグループに分類する分類部と,各グループ毎の応力振幅の取得数と当該グループを代表する応力振幅に対応する破壊繰り返し数とから得られる値をグループ毎に合計して得られる疲労度合いに基づいて,機器の寿命を判定する判定部とを設けて,機器の寿命をいわゆるマイナー則によって判定することは,例えば引用文献2(特に,第2頁左上欄第8?12行,第3頁右上欄第20行?同左下欄第9行,第4頁左下欄第3行?第5頁左上欄第7行を参照のこと。),引用文献3(特に,段落【0016】?【0020】,【0025】を参照のこと。)及び引用文献4(特に,第6頁第5行?第9頁第1行を参照のこと。)に記載されているように当業者にとっての周知技術である。

カ しかしながら,引用発明が,上記エのとおり,圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)のガス貯蔵容器に作用する応力の応力振幅が複数の異なるグループに分類され得るものであり,また,上記オのとおり,機器の寿命をマイナー則によって判定することが周知技術であるとしても,引用発明において,上記周知技術を適用する積極的な動機付けがあるとまではいえず,当業者といえども,上記相違点1に係る構成に容易に想到し得るとはいえない。その理由は以下の(ア)?(カ)のとおりである。

(ア)引用発明は,それぞれの温度範囲で行われた昇圧サイクルの数に関するシステムの状況の定期的な出力を提供し,これらの数が許容最大値に近づいたときに警告を発するとともに,最大のサイクル数に達したならばその後の充填工程を阻止する制御装置(39)を備えたものであって,昇圧サイクル数に基づいて,圧縮ガス貯蔵容積空間(A,B,C)のガス貯蔵容器の寿命を判定するものであるといえるから,このように既に寿命を判定することができるものである引用発明において,別の手法によって寿命を判定できるようにする積極的な動機付けは見いだせない。

(イ)また,上記オのとおり,一般に,機器の寿命をマイナー則によって判定することが周知技術であるとしても,「タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システム」の「蓄圧器」の寿命をマイナー則によって判定することが周知技術であるとまではいえないことから,引用発明において,「蓄圧器」に相当する「ガス貯蔵容器」に対して,機器の寿命をマイナー則によって判定するという一般的な周知技術を適用することが積極的に動機付けられるともいえない。

(ウ)特許権者による令和元年7月2日付け意見書10頁12?18行の「以上に説明したように、引用発明1は応力振幅を分類しないで蓄圧器の寿命を判定するのであってそもそも応力振幅を分類するという発想がなく、引用発明1と本件特許とは寿命判定のための技術的思想が全く異なる。したがって、このような応力振幅を分類することなく蓄圧器の寿命判定を行う引用発明1を、蓄圧器の寿命を判定することを想定していない引用文献2?4に開示される技術とを組み合わせる動機付けがなく、よって引用発明1と引用文献2?4に開示される技術とを組み合わせることが容易ではないことは明らかである。」旨の主張も,上記(ア)及び(イ)と概ね同趣旨のものと理解できる。

(エ)さらに,引用文献1の段落【0005】,【0038】?【0043】,【0169】,【0170】の記載等からみて,引用発明は,圧縮ガス貯蔵分給システムにおけるガス貯蔵容器の運転寿命を最大にすることを目的として,主制御命令によって,圧力減少部分の間に圧力はP_(UPPER)の7.5MPa以内からP_(LOWER)の7.5MPa以内へ移り,圧力増加部分の間に圧力はP_(LOWER)の7.5MPa以内からP_(UPPER)の7.5MPa以内へ移り,圧縮ガス貯蔵容積空間の各々における圧力が圧力サイクルの圧力減少部分の間はいつの時点でも増加せず,かつ,圧縮ガス貯蔵容積空間の各々における圧力が圧力サイクルの圧力増加部分の間はいつの時点でも減少しないように,通常は制御されるものであると解されるところ,このような主制御命令による通常の制御時にも,上記イで示したとおり,異なる応力振幅が生じるとはいえ,この主制御命令のもとでは応力振幅の違いがあまり大きくなることはないから,主制御命令のもとで生じる異なる応力振幅について,マイナー則によって寿命を判定する上記周知技術を適用することが直ちに動機付けられるとはいえない。

(オ)加えて,上記ウで示したとおり,引用発明において,通常の制御時の応力振幅と,二次的制御命令を使用した場合の応力振幅は異なり得るものであり,この二次的制御命令を使用した場合の応力振幅が,通常の制御時の応力振幅と大きく異なり得ることは明らかであるものの,技術常識を考慮すると,二次的制御命令によるサイクルの数は,主制御命令によるサイクルの数に比べて,かなり少ないものであると解するのが自然であり,主制御命令と二次的制御命令との切り換えによって異なり得る応力振幅について,マイナー則によって寿命を判定する上記周知技術を適用することが直ちに動機付けられるともいえない。

(カ)そして,本件発明1は,ほかでもない「タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システム」の「蓄圧器」の寿命の判定のために,上記相違点1に係る構成を適用した点によって特徴付けられるものであり,それにより,「蓄圧器」の運用状況によって例えば圧力変動が小さい状態が続くようなことがあっても,「蓄圧器」の寿命を適切に管理することができるという有利な効果(本件特許明細書の【0004】?【0008】,【0035】等を参照のこと)を奏するものであると解されるところ,上記(ア)?(オ)の点を考慮すると,この有利な効果について,引用発明及び周知技術から予測し得る程度のものであるとまではいえない。

(4)申立人の主張について
申立人は,令和元年8月27日付け上申書の5頁13?23行(同上申書の1枚目を1頁目とし,空白行は除いて数える。以下同じ。)において,「以上より、機械・構造物全般(機械要素全般)に関し、振幅荷重が繰り返し作用するような場合に、機械要素に作用する応力振幅を複数のグループに分類し、各グループ毎の応力振幅の取得数(使用繰り返し数)と、当該グループを代表する応力振幅に対応する破壊繰り返し数(許容繰り返し数)とから得られる値をグループ毎に合計して得られる疲労度合いに基づいて機械要素の寿命を判定するといった技術内容(マイナー則)は、周知な手法であり、ガス分給システムの容器(蓄圧器)を設計等する当業者であれば当然に知っているものであるということができ、“蓄圧器の寿命判定を行う引用発明1と、蓄圧器の寿命を判定することを想定していない引用文献2?4に開示される技術とを組み合わせる動機付けがない。”とする特許権者の意見は全くの誤りであるといえます。」旨主張している。しかしながら,マイナー則によって機械要素の寿命を判定することが周知の手法であるとしても,それだけでは,上記(3)カの(ア),(イ),(エ)及び(オ)で示したのと同様の理由により,引用発明のガス貯蔵容器に対して,その周知の手法を適用する積極的な動機付けがあるとまではいえないから,申立人の上記主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,引用発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲1発明
甲第1号証の段落【0025】?【0043】,【図1】等の記載を総合すると,甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「水素ガスを圧縮する圧縮器14と,
圧縮器14により圧縮された水素ガスを貯蔵する蓄圧器28-1,28-2,28-3と,
燃料電池搭載車両11の車載用水素貯蔵タンク57へガスを供給するディスペンサー54と,
圧縮機14と接続され,導入ライン18Aと,導出ライン18Bとに分岐される圧縮水素ガス導入及び導出ライン18と,
分岐直後に配置されたバルブ21,蓄圧器28-1の近傍に配置されたバルブ24及びバルブ21とバルブ24との間に配置されたバルブ25を介して,蓄圧器28-1と接続されている導入ライン18Aと,
分岐直後にバルブ22が設けられ,バルブ24とバルブ25との間に位置する導入ライン18Aと接続され,導入ライン18Aとの接続位置の近傍にバルブ26が設けられ,バルブ22とバルブ26との間でディスペンサー54と接続されている導出ライン18Bと,
導入ライン18Aから分岐して,蓄圧器28-2と接続されている分岐ライン32であって,蓄圧器28-2の近傍にバルブ33が設けられ,導入ライン18Aの近傍にバルブ34が設けられている分岐ライン32と,
導入ライン18Aから分岐して,蓄圧器28-3と接続されている分岐ライン36であって,蓄圧器28-3の近傍にバルブ37が設けられ,導入ライン18Aの近傍にバルブ38が設けられている分岐ライン36と,
導出ライン18Bから分岐され,バルブ33とバルブ34との間に位置する分岐ライン32と接続され,バルブ42が設けられている分岐ライン41と,
導出ライン18Bから分岐され,バルブ37とバルブ38との間に位置する分岐ライン36と接続され,バルブ45が設けられている分岐ライン44と,
を備えた水素ガス充填装置10。」

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「燃料電池搭載車両11」,「車載用水素貯蔵タンク57」,「ディスペンサー54」は,それぞれ本件発明1の「タンク搭載装置」,「タンク」,「充填設備」に相当する。また,甲1発明の「水素ガス充填装置10」のうち,「ディスペンサー54」より水素ガスの流れにおいて上流側の部分は,この「ディスペンサー54」に「ガスを供給するガス供給システム」であるといえる。

イ 甲1発明の「蓄圧器28-1,28-2,28-3」のそれぞれは,本件発明1の「蓄圧器」に相当し,「蓄圧器28-1,28-2,28-3」をまとめて,蓄圧器ユニットを構成するものであるということができる。

ウ 甲1発明の「圧縮器14」,「バルブ25,34,38」,「バルブ26,42,45」は,それぞれ本件発明1の「ガス送出部」,「第1弁部材」,「第2弁部材」に相当する。

エ 以上を踏まえると,本件発明1と甲1発明は,以下の<一致点2>で一致し,<相違点2>で相違する。
<一致点2>
「タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システムであって,
少なくとも1個の蓄圧器を有し,ガスを貯留する蓄圧器ユニットと,
ガスを前記蓄圧器ユニットに送出するガス送出部と,
前記蓄圧器ユニットと前記ガス送出部との間を連通する導入流路を開閉する第1弁部材と,
前記蓄圧器ユニットと前記充填設備との間を連通する導出流路を開閉する第2弁部材と,
を備えているガス供給システム。」

<相違点2>
本件発明1は,第1弁部材が閉じ且つ第2弁部材が開いた状態のときに蓄圧器に作用する応力と第1弁部材が開き且つ第2弁部材が閉じた状態のときに蓄圧器に作用する応力との間の応力振幅を繰り返し取得する取得部と,応力振幅を複数のグループに分類する分類部と,各グループ毎の応力振幅の取得数と当該グループを代表する応力振幅に対応する破壊繰り返し数とから得られる値をグループ毎に合計して得られる疲労度合いに基づいて,蓄圧器の寿命を判定する判定部とを備えているのに対し,甲1発明は,そのような取得部,分類部及び判定部を備えていない点。

(3)相違点2についての判断
上記相違点2について検討する。
甲第1号証には,蓄圧器28-1,28-2,28-3の寿命を判定するという課題の記載や示唆はなく,技術常識に照らしても,甲1発明の蓄圧器28-1,28-2,28-3の寿命を判定することが,当業者にとって自明な課題であるとまではいえない。
また,甲第1号証には,蓄圧器28-1,28-2,28-3の圧力変動や応力振幅についての記載も示唆もない。
さらに,甲第2?5号証には,いわゆるマイナー則についての記載があるものの,いずれも「タンク搭載装置のタンクへガスを充填する充填設備にガスを供給するガス供給システム」の「蓄圧器」を対象としたものではない。そもそも甲第3?5号証には,マイナー則によって寿命を判定するための取得部,分類部及び判定部の記載もない。
そうすると,甲1発明において,蓄圧器28-1,28-2,28-3に対して,甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けはない。また,甲1発明において,甲第3号証?第5号証に記載された事項を適用する動機付けもなく,仮に,甲第3号証?第5号証に記載された事項を適用しても,上記相違点2に係る構成に想到し得ることもない。

(4)令和元年8月27日付け上申書で主張された取消理由について
なお,申立人は,令和元年8月27日付け上申書の3頁25?36行において,「これら甲第4号証(ASME規則)や甲第5号証(ASME規則について言及)に開示されている累積損傷の程度を評価する手法は、応力振幅を分類して容器(蓄圧器)の寿命判定を行う手法であり、米国機械学会(ASME)の圧力容器規格に基づいてその設計・運転を行うことが例示されている引用文献1に係るガス分給システムの容器(蓄圧器)の寿命判定手法として、“昇圧-減圧のサイクル数に基づいて行う手法”に替えて、ASME規則である甲第4号証やASME規則に言及している甲第5号証に開示されている“応力振幅を分類して容器(蓄圧器)の寿命判定を行う手法”に置き換えることに特段の困難性は無く、本特許権(特許第6389440号)に係る請求項1の発明は、進歩性を有さず、取り消されるべきものであると考えられます。」旨主張している。この主張は“本件発明1は,引用発明並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである”という取消理由を主張するものと解されるところ,上記「取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由」に含まれるものであるが,念のため,この取消理由についても検討しておく。
上記2(3)で示したように,甲第4号証及び甲第5号証には,いわゆるマイナー則についての記載はあるものの,マイナー則によって寿命を判定するための取得部,分類部及び判定部の記載はないから,引用発明に,甲第4号証及び第5号証に記載された事項を適用したとしても,上記相違点1に係る構成に想到し得ることはない。
よって,本件発明1は,引用発明並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては,請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に,請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-30 
出願番号 特願2015-50744(P2015-50744)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (F17C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 千壽 哲郎
白川 敬寛
登録日 2018-08-24 
登録番号 特許第6389440号(P6389440)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 ガス供給システムおよびそれを備えた水素ステーション、蓄圧器の寿命判定方法、並びにガス供給システムの使用方法  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 玉串 幸久  
代理人 植田 吉伸  

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