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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61J
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61J
審判 一部申し立て 1項1号公知  A61J
管理番号 1356000
異議申立番号 異議2019-700566  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-22 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6455664号発明「凍結乾燥製剤製造システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6455664号の請求項1、2及び5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6455664号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年2月26日に出願され、平成30年12月28日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月23日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1、2及び5に対し、令和1年7月22日に特許異議申立人スカン・アクチエンゲゼルシヤフト(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2及び5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件特許の請求項1、2及び5に係る発明」を、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明5」という。)。
「【請求項1】
容器に薬液を充填する充填装置と、容器内の薬液を凍結乾燥する凍結乾燥庫と、凍結乾燥処理された容器を凍結乾燥庫内で密封する密封手段と、充填装置から凍結乾燥庫に容器を搬送する容器搬送装置とを備え、容器に充填した薬液を凍結乾燥して粉末化する凍結乾燥製剤製造システムにおいて、
充填装置を収容し内部が陽圧に維持される陽圧アイソレータと、容器搬送装置を収容する圧力可変アイソレータと、圧力可変アイソレータの内部を陽圧または陰圧に維持する圧力調整手段と、陽圧アイソレータと圧力可変アイソレータを連通または遮断させる開閉手段を備え、
液体を充填した容器を充填装置から凍結乾燥庫に搬送する際は、陽圧アイソレータと圧力可変アイソレータを連通させるとともに、圧力可変アイソレータの内部を陽圧に維持し、
凍結乾燥処理された容器を凍結乾燥庫から容器搬送装置に搬出する際は、陽圧アイソレ一夕と圧力可変アイソレータの連通を遮断するとともに、圧力可変アイソレータの内部を陰圧に維持することを特徴とする凍結乾燥製剤製造システム。
【請求項2】
上記圧力可変アイソレータは、凍結乾燥処理された容器を排出する排出口を備え、この排出口の外側に内部が陰圧に維持される陰圧チャンバを設けたことを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥製剤製造システム。
【請求項5】
上記充填装置は、薬液が充填された容器に半打栓を行う打栓手段を備え、上記容器搬送装置は、液体が充填された半打栓状態の容器を凍結乾燥庫に搬送することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の凍結乾燥製剤製造システム。」

3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証(パンフレット、2019年7月22日、申立人代理人作成。)、甲第2号証(タイムテーブル、2019年7月22日、申立人代理人作成。)、甲第3号証(申立人従業員フランク・レーマン、講演資料「Isolatoren fur aseptisch toxische Produktion」([注]ウムラウトは省略する。以下同様。)、2009年3月17日作成。)、甲第4号証(招待状、2009年2月27日、申立人従業員ハンス・ユルゲン・ベスラー作成。)及び甲第5号証(会場見取図、2009年2月13日、ESN社作成。)を提出し、
理由1:本件発明1、2及び5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明である、
理由2:本件発明1、2及び5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、
理由3:本件発明1、2及び5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである
から、請求項1、2及び5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨主張している。

4 文献の記載
(4-1)甲第1号証
「「LOUNGE CONGRESS PHARMA」というメッセ(コングレス)のパンフレット」とされるもの(特許異議申立書6頁6?7行)であって、次のとおり記載されている(原文に続けて翻訳を括弧書きで記載する。以下同様。)。
(a)「Mehr als 20 Vortrage von Referenten aus der Industrie und seitens der Behorden・・・LOUNGE CONGRESS PHARMA(産業界と公官庁の研究報告者による20を越える講演・・・LOUNGE CONGRESS PHARMA)」(表紙上段)
(b)「17.Marz 2009 Congress-Teil 1・・・PROCESSING・・・Prozesse Technologie Herstellung und Umgang mit HWS(2009年3月17日 コングレス-第1部・・・PROCESSING・・・プロセス&テクノロジー 製造と高生理活性物質の取り扱い)」(表紙中段)
(c)「17.bis 19. Marz 2009 Messe Karlsruhe(2009年3月17日?19日 カールスルーエメッセ)」(表紙下段)
(d)「PROCESSING Prozesse Technologie -Herstellung und Umgang mit HWS 17.Marz 2009・・・Referenten・・・Frank Lehmann(PROCESSING プロセス&テクノロジー-製造と高生理活性物質の取り扱い 2009年3月17日・・・研究報告者・・・フランク・レーマン)」(4頁右欄上段?中段)

(4-2)甲第2号証
「同メッセにおける「Processing(処理)」パートのタイムテーブル」とされるもの(特許異議申立書6頁下から2行?最下行)であって、次のとおり記載されている。
(e)「PROCESSING Prozesse Technologie - Herstellung und Umgang mit HWS 17.Marz 2009・・・Zeitplan・・・13.15 Uhr bis 14.00 Uhr Frank Lehmann Isolatoren fur aseptisch,toxische Produktion http://www.new-lounges.de/downloads/17 LC Vortrag4 Lehmann.pdf(PROCESSING プロセス&テクノロジー-製造と高生理活性物質の取り扱い 2009年3月17日・・・日程・・・13:15?14:00 フランク・レーマン 無菌及び有毒性製品の隔離 http://www.new-lounges.de/downloads/17 LC Vortrag4 Lehmann.pdf)」(1頁左欄上段?中段)

(4-3)甲第3号証
「講演時に使用された講演資料」とされるもの(特許異議申立書7頁最下行)であり、また、ウェブページhttp://www.new-lounges.de/downloads/17 LC Vortrag4 Lehmann.pdfに掲載された資料とされるもの(証拠説明書の標目欄)であって、次のとおり記載されている(頁毎にまとめて記載する。)。
(4-3-1)1頁
(f)表題として「Isolatoren fur aseptisch toxische Produktion(無菌毒性の製造用アイソレーター)」と記載されると共に、最下行に「SKAN AG,Frank Lehmann,2009(SKAN社、フランク・レーマン、2009年)」と記載されている。
(4-3-2)3頁
(g)表題として「Produkteschutz-Personenschutz(製品保護-人員保護)」と記載されると共に、引き続いてその下方に、
「Anforderungen aus Sicht der Produkteschutzes
■Isolator soll im Uberdruck betrieben werden
■Gerichtete Luftstromung (ISO5) in der kritischen Zone
Anforderungen aus Sicht der Personenschutzes
■Isolator soll im Unterdruck betrieben werden
■Gerichtete Luftstromung (ISO5) in der kritischen Zone
・・・
(製品保護の視点からの要件
■アイソレーターは過圧状態で運転するべきである。
■クリティカル・ゾーンでは特定方向の気流を供給する(ISO5)
人員保護の視点からの要件
■アイソレーターは負圧状態で運転するべきである。
■クリティカル・ゾーンでは特定方向の気流を供給する(ISO5)
・・・)」と記載されている。
(4-3-3)5頁
(h)表題として「Isolator fur Produkte- und Personenschutz(製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター)」と記載されると共に、その下方に処理装置が図示されている。
(i)図示された処理装置から次の事項が認められる。
(i-1)「Vialzufuhrung uber Waschmaschine und Tunnel(洗浄装置およびトンネルを経由したアンプル送り装置)」と称される装置部分、「Bufferisolator(バッファ・アイソレーター)」と称される装置部分、「Abfullen und Verschliessen(充填および密封)」と説明される装置部分、「GT-Be- und Entladung(GT装填口および取出口)」と説明される装置部分、「Bordelisolator(クリンプ・アイソレーター)」と称される装置部分及び「Aussenwaschmaschine(外部洗浄装置)」と称される装置部分は、それぞれ、その順序で同一平面上に隣接して配置されていること。
(i-2)「Ruckluftfilter(リターンエアフィルター)」と説明される装置部分は、「Abfullen und Verschliessen(充填および密封)」と説明される装置部分の上方に隣接して配置されていること。
(i-3)空のアンプルが「Vialzufuhrung uber Waschmaschine und Tunnel(洗浄装置およびトンネルを経由したアンプル送り装置)」と称される装置部分に供給されるとともに、充填されたアンプルが「Aussenwaschmaschine(外部洗浄装置)」と称される装置部分から取り出されること。
(j)また、図示された処理装置の下方に、空のアンプルから薬剤が充填され完成されたアンプルに至る処理手順が図示されている。
(k)図示された処理手順から次の事項が認められる。
(k-1)処理手順は、矢印による区切りを単位として、空のアンプルを洗浄する工程、空のアンプルを加熱冷却する工程、空のアンプルに薬液を充填し密封する工程、充填されたアンプルをクリンプし外部洗浄する工程であるとともに、それらの工程はこの順序で行われること。
(k-2)上記「空のアンプルに薬液を充填し密封する工程」は、更に、青枠で囲われた、アンプルに栓を配置した状態の工程を有すること。
(4-3-4)6頁
(l)表題として「Differenzdruck im Isolator -1-(アイソレーターにおける差圧-1-)」と記載されると共に、その右下方に処理装置及び処理手順が図示されている。
(m)図示された処理装置及び処理手順から次の事項が認められる。
(m-1)処理装置及び処理手順の図示内容は、いずれも、5頁に記載された処理装置及び処理手順の図示内容と相違するものでないこと。
(m-2)「Bufferisolator(バッファ・アイソレーター)」と称される装置部分の領域部分に赤色により「++」と当該「++」を囲む楕円とが記入されていること。
(m-3)「Abfullen und Verschliessen(充填および密封)」と説明される装置部分及び「GT-Be- und Entladung(GT装填口および取出口)」と説明される装置部分の領域部分に橙色により「+」と当該「+」を囲む楕円とが記入されていること。
(n)また、表題に引き続いてその左下方に、
「Fullen und Beladen des Gefriertrockners
■Beladen der offenen Vials im Uberdruck
■Schutz der Produktzufuhrung durch weitere Druckzone
■Auslaufmousehole zur Bordelmaschine geschlossen
(充填および冷凍乾燥装置への充填
■開いたアンプルへの過圧下での充填
■それ以降の圧力ゾーンを通る製品送りにおける保護
■クリンプ機へ送るための排出穴は閉じられている)」と記載されている。
(4-3-5)7頁
(o)表題として「Differenzdruck im Isolator -2-(アイソレーターにおける差圧-2-)」と記載されると共に、その右下方に処理装置及び処理手順が図示されている。
(p)図示された処理装置及び処理手順から次の事項が認められる。
(p-1)処理装置及び処理手順の図示内容は、いずれも、5頁に記載された処理装置及び処理手順の図示内容と相違するものでないこと。
(p-2)「Bordelisolator(クリンプ・アイソレーター)」と称される装置部分及び「Aussenwaschmaschine(外部洗浄装置)」と称される装置部分の領域部分に黄色により「--」と当該「--」を囲む楕円とが記入されていること。
(p-3)「Abfullen und Verschliessen(充填および密封)」と説明される装置部分及び「GT-Be- und Entladung(GT装填口および取出口)」と説明される装置部分の領域部分に橙色により「-」と当該「-」を囲む楕円とが記入されていること。
(q)また、表題に引き続いてその左下方に、
「Entladen des Gefriertrockners
■Entladen der geschlossenen Vials im Unterdruck
■Absaugung der kontaminierten Luft in der Bordelmaschine und Aussenwaschmaschine
■Mousehole zur Vialzufuhrung geschlossen
(冷凍乾燥装置からの取り出し
■閉じられたアンプルを負圧下で取り出す
■クリンプ機及び外部洗浄装置の汚染された空気を吸引する
■アンプルを送るための排出穴は閉じられている)」と記載されている。

(4-4)甲第4号証
表題を「Einladung zur Reinraum Lounge 2009 vom 17.bis 19. Marz 2009,Messe Karlsruhe(2009年3月17日より19日までカールスルーエ見本市会場にて開催されますクリーンルーム・ラウンジへのご招待)」とする「招待状」とされるもの(証拠説明書の標目欄)であって、次のとおり記載されている。
(r)「Neu von Skan AG entwickelt,prasentieren wir anlasslich der Reinraum Lounge vom 17.-19.Marz 2009 an der Messe Karlsruhe den
PSI
Pharmazeutischen Sicherheitsisolator
Einen Isolator fur das aseptische Arbeiten mit hochwirksamen Substanzen in der phamazeutischen Industrie.
Die schnelle H_(2)O_(2) Schleuse garantiert das sichere Einschleusen von Material und Proben innerhalb von 20 Minuten mit einer Abreicherung von 10^(6) Keimen.
Die patentierten Filterboxen in der Ruckluft ermoglichen den sicheren, kontaminationsarmen Filterwechsel innerhalb von Minuten.
Gerne begrussen wir Sie anlasslich der Reinraum Lounge in der dm-Arena auf der Messe Karlsruhe an unserem Stand F5.4,wo wir das Gesprach uber die Vorteile des PSI vertiefen werden.
Prasentationen im Rahmen der Fachvortrage von Hans-Jurgen Bassler und Frank Lehmann werden die Informationen abrunden.
(2009年3月17日から19日までカールスルーエ見本市会場にて開催されますクリーンルーム・ラウンジにおいて、弊社は、新たに開発しました以下の製品をご紹介することになりました。
医薬品用無菌安全アイソレーター(PSI)
これは製薬業界において、高い反応性をもつ物質を用いて無菌状態での製造を行うためのアイソレーターです。
短時間に作用する過酸化水素(H_(2)O_(2))の遮断効果により、10^(6)個の細菌を枯渇させ、20分以内で材料や試料を確実に遮断部より内部に装入することができます。
リターンエア系統に特許取得済みのフィルターボックスが複数個設けられており、これにより、数分以内で、安全で汚染の少ないフィルター交換が行えます。
つきましては、カールスルーエ見本市会場のDM-Arenaにて開催されますクリーンルーム・ラウンジにお出かけの際に、弊社のブースF5.4にて貴殿とお目にかかり、PSIの特徴について弊社から詳しくお話しさせていただければ幸いに存じます。
ハンスユルゲン・ベスラーとフランク・レーマンによる講演のなかでのプレゼンテーションはさらに詳しい情報を提供することになるでしょう。)」

(4-5)甲第5号証
「Lounges 2009」の「会場見取図」とされるもの(証拠説明書の標目欄)であって、その図面の中央やや左上の位置に「F5.4 SKAN」と記載されている。

5 当審の判断
(5-1)本件発明1について
(5-1-1)理由1及び2について
(5-1-1-1)甲第3号証に記載された発明について
甲第3号証の記載から、次の事項が認められる。
(あ)「充填および密封」と説明される装置部分が記載されていること(記載事項(i-1))と、空のアンプルに薬液を充填し密封する工程が記載されていること(記載事項(k-1))とを併せてみて、製品保護および人員保護を考慮したアイソレーターは、アンプルに薬液を充填する充填装置を備えるといえる。
(い)「空のアンプルに薬液を充填し密封する工程」は、更に、青枠で囲って示された工程を有することが記載されていること(記載事項(k-2))と、「冷凍乾燥装置への充填」と記載されていること(記載事項(n))とを併せてみて、製品保護および人員保護を考慮したアイソレーターは、アンプル内の薬液を冷凍乾燥する冷凍乾燥装置と、充填装置から冷凍乾燥装置にアンプルを搬送するアンプル搬送装置とを備えるといえる。
(う)「充填および密封」と説明される装置部分が記載されていること(記載事項(i-1))からみて、製品保護および人員保護を考慮したアイソレーターは、冷凍乾燥処理されたアンプルを密封する密封手段を備えるといえる。
(え)(i)「製品保護の視点からの要件・・・アイソレーターは過圧状態で運転するべきである。」と記載され(記載事項(g))、「充填および密封」と説明される装置部分に橙色により「+」と当該「+」を囲む楕円とが記入され(記載事項(m-3))、「充填および冷凍乾燥装置への充填・・・開いたアンプルへの過圧下での充填・・・クリンプ機へ送るための排出穴は閉じられている」と記載されている(記載事項(n))ことと、
(ii)「人員保護の視点からの要件・・・アイソレーターは負圧状態で運転するべきである。」と記載され(記載事項(g))、「充填および密封」と説明される装置部分に橙色により「-」と当該「-」を囲む楕円とが記入され(記載事項(p-3))、「冷凍乾燥装置からの取り出し・・・閉じられたアンプルを負圧下で取り出す・・・アンプルを送るための排出穴は閉じられている」と記載されている(記載事項(q))こととを併せてみて、
製品保護および人員保護を考慮したアイソレーターは、充填装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、充填装置のアイソレータ部分と、アンプル搬送装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、アンプル搬送装置のアイソレータ部分と、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を過圧状態または負圧状態に維持する圧力調整手段とを備え、薬液を充填したアンプルを充填装置から冷凍乾燥装置に搬送する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を過圧状態に維持し、冷凍乾燥処理されたアンプルを冷凍乾燥装置からアンプル搬送装置に搬出する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を負圧に維持するといえる。

以上から、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲第3号証発明」という。)。

「アンプルに薬液を充填する充填装置と、アンプル内の薬液を冷凍乾燥する冷凍乾燥装置と、冷凍乾燥処理されたアンプルを密封する密封手段と、充填装置から冷凍乾燥装置にアンプルを搬送するアンプル搬送装置とを備える製品保護および人員保護を考慮したアイソレーターにおいて、
充填装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、充填装置のアイソレータ部分と、アンプル搬送装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、アンプル搬送装置のアイソレータ部分と、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を過圧状態または負圧状態に維持する圧力調整手段とを備え、
薬液を充填したアンプルを充填装置から冷凍乾燥装置に搬送する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を過圧状態に維持し、
冷凍乾燥処理されたアンプルを冷凍乾燥装置からアンプル搬送装置に搬出する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部とアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部を負圧に維持する製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター。」

(5-1-1-2)対比・判断
本件発明1と甲第3号証発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲第3号証発明の「アンプル」は、本件発明1の「容器」に相当し、以下同様に、「充填装置」は「充填装置」に、「冷凍乾燥」は「凍結乾燥」に、「冷凍乾燥装置」は「凍結乾燥庫」に、「冷凍乾燥処理」は「凍結乾燥処理」に、「密封手段」は「密封手段」に、「アンプル搬送装置」は「容器搬送装置」に、それぞれ相当する。
また、甲第3号証発明の「製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター」は、容器に充填した薬液を凍結乾燥するものであり、一方、薬液を凍結乾燥することにより粉末化したものが得られるから、甲第3号証発明の「製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター」は、本件発明1の「容器に充填した薬液を凍結乾燥して粉末化する凍結乾燥製剤製造システム」に相当する。
したがって、甲第3号証発明は、本件発明1と同様の、容器に充填した薬液を凍結乾燥して粉末化する凍結乾燥製剤製造システムであって、容器に薬液を充填する充填装置と、容器内の薬液を凍結乾燥する凍結乾燥庫と、凍結乾燥処理された容器を密封する密封手段と、充填装置から凍結乾燥庫に容器を搬送する容器搬送装置とを備えるものと認められる。
次に、甲第3号証発明は、本件発明1の「陽圧アイソレータ」を備えるかどうかについて検討する。
甲第3号証発明における充填装置のアイソレータ部分は、充填装置が配置されるものであるから、この点において本件発明1の陽圧アイソレータに対応するものと認められる。
しかしながら、甲第3号証発明は、薬液を充填した容器を充填装置から凍結乾燥庫に搬送する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部を過圧状態に維持し、凍結乾燥処理された容器を凍結乾燥庫から容器搬送装置に搬出する際は、充填装置のアイソレータ部分の内部を負圧に維持するものであるから、充填装置のアイソレータ部分の内部は陽圧に維持されるものではない。
したがって、甲第3号証発明は、本件発明1の「充填装置を収容し内部が陽圧に維持される陽圧アイソレータ」を備えるといえない。
また、甲第3号証発明において、それ以外に本件発明1の陽圧アイソレータに該当するものは認められない。
よって、甲第3号証発明は、本件発明1の陽圧アイソレータを有するものではないから、本件発明1といえない。

申立人は、甲第3号証に記載された「製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター」(5頁)における「Bufferisolator(バッファ・アイソレータ)」が本件発明1の「陽圧アイソレータ」に相当するとし、それを前提として本件発明1は甲第3号証に記載された発明であると主張している(特許異議申立書12頁)。
そこで、甲第3号証の5頁をみると、「製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター」において「バッファ・アイソレータ」と称される装置部分の位置とは別の位置に「充填および密封」と説明される装置部分が記載されているから、充填装置を収容するのは、「バッファ・アイソレータ」と称される装置部分でなく「充填および密封」と説明される装置部分であることは明らかである。
そうすると、本件発明1における陽圧アイソレータは、充填装置を収容し内部が陽圧に維持されるものであるのに対し、甲第3号証に記載の「製品保護および人員保護を考慮したアイソレーター」における「バッファ・アイソレータ」は充填装置を収容するものではないから、本件発明1の「陽圧アイソレータ」に相当するといえない。
したがって、申立人の主張は、その前提において理由がない。

(5-1-1-3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証発明ではない。

(5-1-2)理由3について
(5-1-2-1)対比・判断
上記(5-1-1-2)に記載したとおり、甲第3号証発明は、本件発明1に係る陽圧アイソレータに対応するものを備えるものでなく、この点に関して、両者は、少なくとも次の点で相違する。

(相違点)
本件発明1は、「充填装置を収容し内部が陽圧に維持される陽圧アイソレータ」を備えるものであるのに対し、甲第3号証発明は、「充填装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、充填装置のアイソレータ部分」を備えるものである点。

次に、上記相違点について判断する。
上記(5-1-1-1)(え)欄に記載したとおり、甲第3号証には、冷凍乾燥処理されたアンプルを冷凍乾燥装置からアンプル搬送装置に搬出する際に、充填装置のアイソレータ部分の内部をアンプル搬送装置のアイソレータ部分の内部と共に負圧に維持することが記載されている。
そして、甲第3号証には、「人員保護の視点からの要件・・・アイソレーターは負圧状態で運転するべきである。」(上記記載事項(g)を参照。)との記載が認められる一方で、冷凍乾燥処理されたアンプルを冷凍乾燥装置からアンプル搬送装置に搬出する際に、充填装置のアイソレータ部分の内部を陽圧に維持することについては記載も示唆もない。
したがって、甲第3号証発明において、充填装置のアイソレータ部分の内部が、過圧状態または負圧状態に維持されるものに代えて陽圧に維持されるものとすることは、その動機付けがあるといえないのみならず、阻害要因があると認められる。
一方、本件発明1の陽圧アイソレータの内部は、製造運転中は内部空間を加圧して外部より陽圧に維持される(本件明細書の【0010】段落)ものであるから、外気が流入することはなく無菌性を維持することができるとの効果を奏するものである。
したがって、甲第3号証発明の「充填装置を配置し内部が過圧状態または負圧状態に維持される、充填装置のアイソレータ部分」について、過圧状態または負圧状態に維持されることに代えて陽圧に維持されるものとすることにより、「充填装置を収容し内部が陽圧に維持される陽圧アイソレータ」とすることは当業者が容易になし得る事項ではない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5-1-2-2)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5-2)本件発明2及び5について
本件発明2及び5は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記(5-1)と同様の理由により、甲第3号証発明ではなく、また、甲第3号証発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2及び5は、甲第3号証発明ではなく、また、甲第3号証発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-17 
出願番号 特願2015-36920(P2015-36920)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A61J)
P 1 652・ 121- Y (A61J)
P 1 652・ 111- Y (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村上 勝見  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 倉橋 紀夫
高木 彰
登録日 2018-12-28 
登録番号 特許第6455664号(P6455664)
権利者 澁谷工業株式会社
発明の名称 凍結乾燥製剤製造システム  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 神崎 真  
代理人 神崎 真一郎  
代理人 篠原 淳司  
代理人 中村 真介  

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